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 昨年12月に終了した特別国会で、野党の質問時間が削られ、与党に上乗せされた。衆院選で大勝した自民党が野党に削減を迫ったのだ。質問のバランスが変わったことで、国会論戦にどんな影響が出たのか。もうすぐ始まる通常国会は、どうなるのだろう。毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』に掲載された、朝日新聞論説委員・内田晃さんの解説を紹介しよう。

■質問時間の与党<野党には理由がある

 自民党は昨年10月下旬の衆議院議員選挙(衆院選)後、野党に多くの質問時間が割り振られていた慣例を改め、議席数に応じて配分するよう野党に求めた。野党は「現状維持」を主張したが、与党は拒否。テレビで生中継される衆議院(衆院)予算委員会では、「与党2対野党8」の割合だった質問時間が、「与党5対野党9」に変更された。加計学園の獣医学部新設をめぐる衆院文部科学委員会では「1対2」になった。

 なぜ、自民党は見直しに動いたのか。

 安倍晋三首相は衆院選後、自民党幹部に「これだけの民意をいただいた。われわれの発言内容にも国民が注目している」と指示した。また自民党幹部は、野党に多く割り振ってきた質問時間について「あまりにもいびつだった。是正することが大事だ」と話した。選挙で勝ったのだから、与党が多く質問するのは当然だ─。首相らの言葉には、そんな考え方がうかがえる。

 しかし、野党が国会で多く質問してきたことには理由がある。

 政府が国会に出す法案や予算案に問題はないのか。誤った行政運営がされてはいないか。三権分立の原則のもと、質問を通じて政府をチェックすることは、国会の重要な役割だ。

 一方、政府が国会に法案などを提出する際は、事前に与党に説明して了承を受ける。与党の意見はその過程で政府案に反映されるため、国会での与党質問は、政府を後押しする内容がほとんどだ。

 このため政府に注文をつけたり批判したりするのは、事実上、野党の役回りになっているのだ。それは今だけのことではない。かつての民主党政権でも、野党だった自民党に質問時間が長く割り振られていた。

■野党の質問時間が減り続ければ国会が骨抜きになる可能性も

 今回の自民党の削減要求に、野党は「行政を監視する国会の機能が弱まる」「どんな党が与党でも、野党が多く質問するのは当たり前」などと反発している。

 野党が追及を続ける「森友学園」や「加計学園」の問題では、安倍首相本人や妻の昭恵氏の関与の有無が問われている。昨年前半の通常国会でも、これらの問題に野党の質問が集中し、内閣支持率が下落した。野党からは「安倍首相は国会で野党が質問する機会を少しでも削りたいのだろう」との声も上がる。

 では実際に、特別国会で、与党の質問時間が増え野党が減ったことで、どんな影響があったのだろうか。

 2日間あった衆院予算委員会の初日は、従来は午前中で終わる与党の質問が夕方まで続いた。与党は森友学園への国有地売却問題も取り上げたが、「今後どうするのか」という政府の対応を引き出すことを重視。「いったい何があったのか」という、政府の責任を問うような問題には踏み込まなかった。

 一方で質問時間が減った野党も、質問が細切れになったり、質問者ごとにテーマが拡散したりして、十分な追及ができたとは言いがたかった。

 なぜ値引きが行われたのか。野党は関係者を国会に呼んで説明するよう求めたが、与党は拒んだ。いくつもの疑問が積み残され、行政が公平・公正に行われたのかという問題の核心に迫ることはできなかった。

 与党は「安倍一強」ともいわれる内閣の下請け機関になっている─。いまの与党には、そんな評価もつきまとう。

 昨年3月の参議院(参院)予算委員会では、自民党議員が、安倍首相が答弁に立つたびに、必ずスーツのボタンをかけていることを礼儀正しいとほめ、ネット上などで「ヨイショ質問の最たる例」として話題になった。一昨年の衆院内閣委員会では、別の自民党議員が余った質問時間で般若心経を唱え、批判を浴びた。

 行政権を担う内閣を監視し、緊張感のある政治をつくるのは、国会の使命だ。もうすぐ始まる通常国会でも与党が野党の質問時間を削ろうとすれば、国会が骨抜きになりかねない。

(略)