2017.12.20 07:00 NEWS ポストセブン
http://www.news-postseven.com/archives/20171220_629339.html

2006年に発足した第一次安倍政権。その年、教育基本法が改正され「愛国心」という言葉が盛り込まれた。同じ年、在特会(在日特権を許さない市民の会)が設立されている。そこから現代に至る「日本のリスク」とは──。作家の佐藤優氏と思想史研究家の片山杜秀氏が「平成史」を論じた。

片山:2006年9月には第一次安倍政権が発足しました。安倍晋三がビジョンを持っているとは思えませんが、彼は「美しい国」というある種の到達点を示した。

佐藤:安倍さんは「美しい国」という目標を設定して、その実現を図ろうとした。ストレートな目的論です。ただし「美しい国」というフレーズを唱えたからと言って、理想的な国家ができるわけではありません。2005年に作られた自民党初の新憲法草案に「自衛軍」と明記されましたが、紙の上で自衛隊が「軍」に変わろうが実態は何も変わらない。それと同じです。

片山:そう。他国を侵略するわけではないので「自衛軍」はただのこだわりに過ぎない。その文脈で、安倍政権は12月に教育基本法を改正して「愛国心」という言葉を盛り込んだ。「日本の誇り」や「強い日本」を取り戻すべきだという空気が一気に強まっていきました。そして2007年1月に防衛省を発足させる。

佐藤:2006年のベストセラーである『国家の品格』【※注1】がその風潮を端的にあらわしています。論理よりも情緒を重んじる日本人らしさの大切さを訴えて200万部以上を売り上げた。

【※注1/2005年11月刊行。著者は数学者の藤原正彦氏。いまの日本には、英語よりも国語、民主主義よりも武士道精神が必要だと説いた】

片山:同時に排外主義も台頭してきました。在特会の設立が教育基本法改正と同じ2006年12月だったのも偶然ではないでしょう。

佐藤:在特会の登場まで日本にはやわなナショナリズムしか存在しないと考えられていました。けれど在特会は日本のナショナリズムの毒性が極めて高いことを証明した。彼らは特異な存在ではありません。保守のメインストリームともそれほど離れていないんです。

片山:おっしゃる通りです。日本のナショナリズムの根幹は、万世一系の神話に基づく国家の伝統的構造上、どうしても天皇の血筋に頼らざるをえない。そこから、人種、血統、民族の観念が他国の右翼以上に強固に形成されがちです。多民族を抱擁する伝統もあるはずなのですが、血統の純粋性の理屈が勝ってしまう。“五族協和”より“大和魂”なのです。在特会は、生まれるべくして生まれたとも言えます。

佐藤:私は在特会の暴力をこう考えているんです。戦前はテロリズムがひんぱんに起きたように暴力レベルが高い社会だった。それに比べて現代の暴力のレベルは極めて低い。だから在特会クラスでも十分に脅威になる。

片山:暴力の経験がない人が突然殴られたら驚いて卒倒してしまうのと同じです。でも暴力に自覚を持っているうちはまだいい。本当に怖いのは無自覚です。

佐藤:その意味で怖さを感じたのが、前原誠司さんが民進党代表時に訴えていた「All for All(みんながみんなのために)」【※注2】です。すべての人に例外なく負担を強いるという方法は、ソフトファシズムに繋がる危険性を秘めている。前原さんがその危険を認識していたようには思えない。その後、民進党が瓦解してそれどころではなくなりましたが。

【※注2/前原氏の政策ブレーン、経済学者の井手英策氏が考案した政治スローガン。公的サービスを充実し、格差是正のための増税の必要性を訴える】

(以降ソースにて)