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■ 金正恩も批判

 食生活に限らず、あらゆる面で不自由を強いられたのは言うまでもない。

「住居も勝手に決められ、私たち家族は実際にフェンスに囲われているエリアで暮らしていたのです。もちろん、自由にどこかへ行けるはずもなく、
仮に脱走など試みようものならすぐさま殺されると分かっていたので、逃げるという発想すら持てないまま時間だけが過ぎていきました。
『彼ら』は、常に私たちを監視していた。
一度、住んでいる家の壁に盗聴器が埋め込まれているのに気付いた時は、あまりに腹が立ったので叩き壊してやったこともありました」

 一連の拉致事件を振り返り、改めて言うのだ。

「あの国は日本人だけでなく、タイ人や韓国人もさらってきました。
本当に愚かな行為で、私は一度も会ったことがない妻の母(註・曽我さんと一緒に拉致されたミヨシさん)は、何をしているのか一切分からないままです」

 インタビューの前年、2011年に金正日が死去。12月に金正恩が後継者として「朝鮮人民軍最高司令官」に就任した。

「体制が金正恩に移行しても、彼に国をよくすることが出来るとは到底思えない。父親の真似をしているだけで、全く実権を持っていないはずです。
昔から父親に仕えてきた年寄りの側近たちが言うことを、まだ若く世間のことを何も理解していない彼が、ただ聞いているに過ぎない。要するにパペット(操り人形)なのです」

 そして2年後、14年に再び「週刊新潮」の記者が佐渡を訪れると、ジェンキンスさんは開口一番、「彼らを信じるんじゃない!」と警告を発した。
彼らとは、もちろん北朝鮮を指す。当時、拉致の再調査が行われている真っ最中だった。