https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171213-00152591-diamond-soci

 「教育無償化」の「2兆円の政策パッケージ」がまとまった。「デフレ脱却」から始まり、「経済最優先」を掲げて、まるで“日替わりメニュー”のように政策が打ち出される。最近では、市場重視の「小さな政府」路線は影をひそめ、政府介入色の強い「大きな政府」路線を歩み始めているように見える。「迷走」するアベノミクスの舞台裏で何が起きているのか。浮かび上がるのは、一人の「首相側近」の存在だ。(ダイヤモンド・オンライン特任編集委員 西井泰之)

● 頭越しに企業拠出金決める 「官邸主導」に自民党反発

 12月8日、安倍首相が「人づくり革命」の目玉として掲げた「教育無償化」の政策パッケージが公表された。だがその柱となった「3〜5歳児の保育・幼稚園料無償化」などの適用対象範囲や支給額は詰め切れず、結局、制度設計は来年夏以降に先送りされた。

 背景には、無償化論議が終始、「官邸主導」で進められてきたことへの反発がある。

 自民党内からは、「無償化は認可外保育所にも認めるべき」「高等教育無償化は低所得世帯に限定しないと、金持ち優遇になる」などの異論が相次いだ。

 そもそも、安倍晋三首相が「消費税の使途変更」による「教育無償化」を突然打ち出したのは、解散・総選挙を直前にした9月25日の記者会見だった。

 その後、選挙公約策定においても党との調整は行わず、無償化の対象範囲も明示しないまま。選挙大勝後は、政策パッケージ作りにおいて、都議選惨敗で鳴りを潜めていた官邸主導が一気に復活した。

 それを象徴するのが、安倍首相が10月末、財源として企業から3000億円の拠出を経団連会長に要請したことだった。

 「党内で全く議論していない。官邸で何でもかんでも決めてしまうのはいかがなものか」と、党内で無償化問題を議論してきた「人生100年時代戦略本部」の小泉進次郎事務局長が苦言を呈したように、自民党内の苛立ちはピークに達した。

(略)

● 「側近頼み」の首相 パッチワーク政策では限界に

 もとはといえば、「官邸主導」によるトップダウンの政策決定は、各省庁に任せた「積み上げ型」では、縦割りや既得権益が壁になって大胆な政策が出せないということで小泉政権時代から本格化し、「経済財政諮問会議」などが政策決定の舞台として活用された。

 確かにこうした運営によって、経営者や学者らの民間委員を含めた“平場”の議論が行われることで、社会全体で問題の所在が共有され、政策に対する認知度、国民の理解も深まった。

 だが、安倍政権では諮問会議は形骸化し、限られた「側近主導」に変質してしまったのだ。

 とはいえ、首相を優秀な側近が支えるといっても限界は明らかだ。

 「経産官僚は、花火のように政策を次から次へと打ち上げるのは得意かもしれないが、財源や他の政策との整合性など、総合的に考えるという点では限界がある」(村上・元行革相)

 アベノミクスの政策に総花的で底の浅さを感じるのも、そういうことが背景にあるのかもしれない。

 「かつてのような成長は難しくなり、多くの先進国が新たな価値観をもとにどうやって豊かに年老いていくか、成熟した社会のありようを模索している。だがいまだ安倍政権は、目先のGDPだけを見て、あらゆる政策を“景気対策”としてしか位置付けていない。本来、考えるべきことは、日本をどういう国にしたいのか、どういう国にするのかという“骨太の将来像”だ」と北村行伸・一橋大教授は言う。

 それは、本来なら政治家の仕事のはず。

 だが、安倍首相自体が秘書官から吹き込まれた“借り物”のビジョンしか語っていないし、政策に一貫性のないことすら気がついていない様子だ。

 側近官僚の発想と視野で帳尻を合わせる「パッチワーク」の政策の限界が、見え始めている。