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 しかし、衆院選では、LGBTは武器にはできなかった。

 「車社会の秋田での街頭演説は、走っている車に向かって一方的にしゃべるようなもの。車中の人に伝わるのは名前くらいで、演説の中身までは聞こえない。『松浦はLGBT』とだけ伝わると、変に解釈されて反発されてしまう。SNSで広めようにも、高齢者は使っていない人が多く、小池代表のOKは出たもののカミングアウトしようにも伝える方法がなかった」という。

 秋田ではLGBTへの理解を得るのは難しいと判断し、希望の党の風に乗ってとにかく議席を得ることを優先したが、同党の失速で果たせなかった。

 19年には時期尚早

 松浦氏は広島県出身。ゲイであることは小学生の頃から自覚していた。「自我の芽生えた頃から、『なよなよしている』といじめにあっていた。女子の友達が多く、球技などスポーツ全般が苦手で、一般の男子とは違うと」。神戸学院大卒業後に秋田放送にアナウンサーとして入社。同社では、LGBT問題を取り上げる番組も制作するなどしてきた。

 19年の参院選で、秋田選挙区から無所属で立候補し、初当選。その後、民主党入りした。当時の小沢一郎・党代表にカミングアウトを打診するが、「地方では時期尚早」との判断で止められたという。

 国会でLGBT問題に取り組み、22年10月の参院決算委員会では、「国勢調査の項目に同性カップルも含めるべきだ」と質問し、当時の片山善博総務相から、「今後検討していきたい」との答弁を引き出した。

 「東日本大震災では、LGBTが『気持ち悪い』といわれて避難所で排除されたり、ホルモン注射を処方してもらえなかったりといった問題が表面化した。秋田市内では、悩んで自殺した人もいる。人口減少に歯止めをかけるためにも、東北地方と秋田をLGBTが住みやすい地域にしたい」。思いは募るが、25年の参院選で民主党、28年の参院選も、民進党の秋田県支部代表で野党統一候補として出馬しながら落選。今回は、希望の党の衆院議員だった若狭勝氏の政治塾に参加し、「ダイバーシティ社会をうたい、LGBTの法的保証に取り組む政策を掲げていて、私の取り組みと合致した」と希望の党からのリベンジを決断。細野豪志衆院議員を介し、小池代表から、秋田1区の公認でLGBTをカミングアウトして出馬する内諾まで得たが、実らなかった。

 都市と地方の“格差”

 LGBTの理解を広げる運動を続ける認定NPO法人「グッド・エイジング・エールズ」(東京)の専任代表、松中権氏は、地方におけるLGBTの「生き辛さ」を指摘する。松中氏は、松浦氏と一緒に米国のIVLPに参加したメンバーだ。

 松中氏は「外国人を含め、多様な人が混在する首都圏では、大手企業によるダイバーシティの取り組みも功を奏し、LGBTが『隣に普通にいる人』として理解度が高まりつつある。しかし、保守層の多い地方ではまだ難しい。選挙戦におけるカミングアウトは、偏見を持たれるリスクと隣り合わせで、首都圏以上に地方の状況は厳しいはず」と説明。その上で、「7月に東京で発足したLGBT自治体議員連盟も、50代の文京区議が当選5回目にして初めてカミングアウトした」と明かす。

 松中氏は、日本では「保守層とリベラル層の対立という以前に、LGBT支援の議論が正に始まったばかり。存在すらないものとされていたLGBTに対し、理解を示す人が保守層へも少しずつ広がり始めている」と、政治の立場を超えた議論の高まりに期待する。

 (秋田支局長 藤沢志穂子、写真も)

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 【LGBT】レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(性同一性障害の人)の頭文字をとった性的少数者を指す言葉。世界的には、同性結婚を認める国も増えており、日本でも、東京都渋谷区で、同性カップルを「結婚に相当する関係」と認める「パートナーシップ証明書」を発行するための条例が、同世田谷区で「世田谷区パートナーシップの宣誓の取り扱いに関する要綱」が制定されるなど、行政や企業で、性的少数者の権利を守る動きが出始めている。