http://mainichi.jp/articles/20171015/ddm/005/070/004000c

 新聞週間がきょうから始まる。

 昨年以来、メディアをにぎわせてきたのは、残念ながら「フェイク(偽)ニュース」という病理現象だ。

 米国大統領選では、クリントン氏の陣営が「児童の人身売買に関与」などと中傷された。

 今年5月のフランス大統領選で、マクロン氏は「租税回避地に隠し口座がある」と偽情報を流された。

 フェイクニュースは、フェイスブックやツイッターなど「交流型」のソーシャルメディアを通じて主に拡散する。政治的な意図や、アクセス増による広告収入目的で、でっち上げられ流布される情報だ。

 フェイクニュースがもたらす害悪は、大きく分けて二つある。

 一つは偽情報が紛れ込むことによって、社会で基本的な事実認識が共有しづらくなることだ。デマを信じる人と議論し、合意を求めても、理解を得るのは難しい。

 もう一つは、権力者が自分に都合の悪い報道を「フェイク」と決めつけることで、メディアの監視から逃れようとすることだ。この手法を多用している典型例がトランプ米大統領であり、米国の既存メディアの信頼度を低下させている。

 これらの風潮が広がると、まっとうな報道は成り立たず、事実でない「ニュース」が関心を持たれる悪循環に陥ってしまう。

 フェイクニュースは民主主義社会をむしばむ病原体だ。決して野放しにしてはならない。

 日本では幸いに大きな政治問題に至っていない。だが今後、フェイク現象が広がる可能性は否定できない。デマの対象は政治だけでなく、医療・健康、食品、企業情報など多岐にわたる。

 報道機関には社会の土台となる正確な情報を提供する責務がある。正しい情報が共有されて初めて、民主主義的な議論が成立する。

 総務省情報通信政策研究所の最新の調査によると、メディアの中で最も信頼度が高かったのは依然、新聞(70・1%)だ。インターネット(33・8%)とは開きがある。

 読者から信頼されるために、私たちはプロフェッショナルであることを自覚し、丹念に真偽を判別し、正しい情報を伝え続けたい。事実の重みは今、いっそう増している。