籠池夫妻逮捕 「神風」の真相に迫れ
東京新聞:2017年8月2日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017080202000163.html

 「教育勅語」の奉唱など復古調の教育方針を掲げる学校法人を舞台に、どんな「神風」が吹いたのか。
検察が前理事長夫妻の逮捕に踏み切った。
疑惑の全容を解明すべく、捜査を尽くしてほしい。

 大阪市の学校法人「森友学園」前理事長の籠池泰典(やすのり)容疑者と妻諄子(じゅんこ)容疑者が詐欺の疑いで大阪地検特捜部に逮捕された。

 小学校建設に関して金額の異なる三通の契約書を作り、最も高額の契約書を国に提出して補助金をだまし取った、とされる。

 事は厳正であるべき公金の支出である。
なぜ、行政のチェックが利かなかったのか。
学園側と行政の間で重ねられた具体的なやりとりを解明する必要がある。

 森友学園の小学校計画をめぐっては、いくつもの「特別扱い」が明らかになっている。
その最たるものが国有地の格安売却だ。

 建設用地として、財務省は鑑定価格九億五千六百万円の国有地を一億三千四百万円で学園に払い下げた。
国は、ごみ撤去費八億円余を差し引いたと説明するが、その経緯ははっきりしていない。

 財務省の佐川宣寿・前理財局長(現国税庁長官)は学園との交渉について、国会答弁などで「記録は既に破棄した」などとし、説明を拒み続けてきた。

 一方で、関係者の話から、近畿財務局が学園側との交渉で買い取り可能な金額を尋ね、双方が具体的な数字を出して協議していた疑いも新たに浮上。
八億円値引きをめぐる疑惑は深まる一方だ。

 多くの国民が注目するのは、小学校の名誉校長を務めていた安倍晋三首相の妻昭恵氏の存在であろう。
国有地の交渉に際し、昭恵氏付きの政府職員が財務省に問い合わせていたことも発覚している。
契約の成立に向け、官僚が政権の意向を忖度(そんたく)したのか、否か。

 逮捕容疑となった補助金問題ばかりでなく、特捜部は、国有地問題についても背任容疑の告発状を受理している。
背任の立件には、職員が自己または第三者の利益を図る故意の立証が必要となり、ハードルは高いとされる。
だが、不可解な特別扱いをうやむやにしておくことは許されまい。

 財務省との交渉進展について、泰典容疑者は三月、国会の証人喚問で「神風が吹いた」と証言している。
それで国民の財産たる国有地が格安で売却されてしまうのであれば、とても納税者は納得できまい。
検察には、捜査を尽くして「神風」の真相に迫り、疑惑の全容を解明してもらいたい。