中国海軍の参加で意味不明となりつつあるリムパック
対中融和派の主導権で、あの“非常識”な部隊をまたもや招待
北村淳:戦争平和社会学者
Jbpress:2017.7.13(木)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50446
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2016年6月30日〜8月4日に開催された「リムパック2016」の様子(出所:米海軍)

 G20首脳会合に付随して行われた米中首脳会談で、習近平国家主席は、アメリカ側から招待されていた2018年夏の「リムパック」(RIMPAC:環太平洋合同演習)に中国海軍が参加することをトランプ大統領に正式に伝えた。
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■中国海軍参加を巡る米海軍内部の対立

 リムパックとは、アメリカ海軍太平洋艦隊が主催し、アメリカ海軍や海兵隊を中心に、アジア太平洋諸国を中心とした多数の国々の海軍や海兵隊(水陸両用戦担当組織)が参加して行われる多国籍合同訓練である。
ホノルルを本拠地としてハワイ周辺海域を中心に2年ごとに実施されている。

 1970年代にはアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドが参加して毎年開催され、1980年からは日本も参加し、2年ごとに開催されるようになった。
その後、参加国(アメリカ政府が決定して招待する)が増大して、前回の「リムパック2016」には26カ国が参加し、まさに「質・量ともに世界最大規模」の多国籍合同海洋軍事訓練とみなされている。

 そのリムパックに、かつてはリムパック参加国にとっては仮想敵の1つであった中国海軍が2014年から参加した
(厳密には、オバマ政権により招待された中国海軍オブザーバーがリムパック2012に参加している。軍艦をはじめとする海軍部隊の参加はリムパック2014からである)。

 リムパック2014に中国海軍を招待するに当たっては、主催者であるアメリカ太平洋艦隊はもとより、アメリカ海軍上層部やペンタゴン、ホワイトハウスや連邦議会、それにシンクタンクなどを幅広く巻き込んで激論が交わされた。

 そもそもアメリカ海軍にとって中国海軍は主たる仮想敵の1つである。
中国海軍そして中国共産党政府に対して強い警戒心を抱く海軍関係者の中の「対中強硬派」が、中国海軍のリムパックへの参加に反対するのは当然であった。

 それに対して、「軍事力を前面に押し出して中国と対決するよりは、中国側との対話交流を質的に進化させ中国を取り込む方が現実的である」とする「関与戦略」に立脚する対中融和派の人々も少なくなかった。
むしろ、「封じ込め戦略」を主張する対中強硬派よりも、対中融和派の勢力のほうが大きかった。

 対中融和派は、「世界最大の多国籍海軍演習に中国海軍を参加させることは、まさに中国側との相互理解を伸展させるための絶好の機会となる」として、中国海軍のリムパックへの参加を強く支持した。
そして、何よりもオバマ大統領が中国に対して「極めて融和的」であったため、中国海軍に対するリムパック2014への招待が決定されたのである。

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これまでの参加国とリムパック2018の参加予定国

リムパック2014──スパイ船派遣事件
 2014年のリムパックに参加した中国海軍は、4隻の軍艦(駆逐艦、フリゲート、補給艦、病院船)を派遣した。

 ちなみに、海上自衛隊は米海軍の空母と強襲揚陸艦に次ぐ巨艦のヘリコプター空母「いせ」を派遣し、その威容は中国海軍を圧倒していた。
だが、初の中国海軍参加ということで、米国メディアの関心は中国海軍の動向に集中した。

 そのような状況の中で、中国海軍のある非常識な行動によってホノルルは大騒ぎになった。
中国海軍の情報収集艦がリムパックを実施している海域に姿を現し、アメリカ空母などにピッタリ寄り添って情報収集活動を実施したのである。

(以下省略)