52年ぶりに獣医学部を新設する規制改革に、不適切な行政手続きがあったのかどうか。政府は、より具体的に説明し、疑念を払拭ふっしょくすべきだ。

 衆参両院が、国家戦略特区を活用した加計学園の獣医学部新設を巡って、閉会中審査を行った。

 参考人として出席した前川喜平・前文部科学次官は、学部新設について「背景に首相官邸の動きがあったと思っている」と語った。和泉洋人首相補佐官から、手続きを急ぐよう直接の働きかけを受けたとも改めて証言した。

 山本地方創生相は「安倍首相が規制改革の陣頭指揮をするのは当然だが、個別に指示することは制度上あり得ない」と反論した。

 加計学園理事長が首相の友人だから、特例で特区に指定されたとすれば、極めて問題だ。だが、前川氏の指摘は自らの印象に基づく部分も多く、和泉氏らの働きかけが不当だとする根拠は弱い。

 前川氏は、「初めから加計学園に決まるよう、プロセスを進めてきたように見える」とも語った。「広域的に獣医師養成系大学の存在しない地域」「1校に限る」などの新設条件が、競合した京都産業大を排除したとの主張だ。

 参考人の特区ワーキンググループ委員、原英史氏は条件について「反対する人と合意しやすくする観点で入れた。何もやらないより、1校限定でも進める判断をした」と「加計ありき」を否定した。

 獣医師会などの理解を得やすい条件を付して規制改革の突破口を開くのは一つの考え方だろう。

 疑問なのは、加計学園の学部新設に関して、「獣医師の新たな具体的需要がある」など4条件に反するという前川氏の見立てだ。

 山本氏は、需要について、データがなくても「定性的な傾向があれば十分だ」と指摘した。参考人の加戸守行・前愛媛県知事も、四国では公務員の獣医師などが不足している実態を訴えた。

 2014年の特区基本方針は、規制改革が困難と判断する場合は、その規制を所管する省庁が理由を説明すると定めている。

 前川氏が「挙証責任は政府部内の話」と言うのは、規制を守りたい文科省の説明責任を免れるための議論のすり替えではないか。

 特区に指定された自治体の首長らは、「規制は不要という立証を自治体などに求められたら、規制改革は進まない」とする文書を発表している。当然の懸念だ。

 獣医学部の新設認可を門前払いする現行の規制が適切か、根本から議論することが必要だろう。

読売新聞2017年7月11日06時00分
https://news.infoseek.co.jp/article/20170710_yol_oyt1t50129/