漢字研究の泰斗、白川静博士によると、「政(まつりごと)」という字は〈敵を力で征服し、木の枝の鞭で叩いて徴税する〉の意味であり、「民」の字は〈征服されて瞳を突き刺され、ものが見えなくされた人〉を表わしている。力で民の目を塞ぎ、物事の理非曲直をわからなくして収奪するのが古代国家の為政者の政治だった。

 その「民」が「政」に対抗する力を得た時、世界の歴史に民主主義が生まれた。翻って現在の日本の政治はどうか。

「大変厳しい都民の審判が下された。わが党への厳しい叱咤と深刻に受け止め、深く反省しなければならない」

 安倍晋三・首相は東京都議選の大敗を受けて「反省」の言葉を口にした。自民党も「国会の閉会中審査に応じざるを得ない。首相もそのつもりだ」(竹下亘・国対委員長)と森友・加計疑惑の解明に前向きな姿勢に転じたように見えた。

 しかし、いずれも舌先だけで、本心では有権者の声に耳を傾ける気など全くない。その後に取った行動が言葉と正反対なのだ。

 安倍内閣は反省発言の翌日(7月4日)、疑惑隠しの露骨な論功行賞人事を閣議決定した。森友問題で「国有地売却の交渉記録は廃棄した」と言い続けた財務省の佐川宣寿・理財局長を国税庁長官に出世させた一方、文科省文書に加計学園の獣医学部認可は「総理のご意向」と発言したとされる藤原豊・内閣府審議官を出身の経産省の「官房付」という“待機ポスト”にとどめた。

 そのうえで自民党はわざわざ安倍首相が欧州歴訪中の7月10日に前川喜平・前文部科学事務次官の参考人招致(国会閉会中審査)をセットしたのである。

 参考人質疑で役所が首相を守り通せば藤原氏に“出世”の道が拓けるが、下手な答弁をすれば左遷の可能性もある。当の安倍首相は海外に逃げて役人が“忠誠”を尽くすのを高みの見物を決め込む──。

「閉会中審査でガス抜きをした後、内閣改造で稲田朋美・防衛相ら問題閣僚を交代させ、『もり・かけ問題』を幕引きさせる」(官邸筋)

 それが官邸のシナリオだ。国民に「真摯に説明責任を果たす」ことなど露ほども考えていないことがわかる。

※週刊ポスト2017年7月21・28日号

2017年7月10日 7時0分 NEWSポストセブン
http://news.livedoor.com/lite/article_detail/13315120/