「築地は守る、そして豊洲を生かすことを、基本方針の一つとさせていただきます」──。かんかんがくがくの議論が交わされる築地市場移転問題。小池百合子・東京都知事は6月20日に記者会見し、中央卸売市場を東京・豊洲に移転し、築地を再開発して何らかの市場機能を持つ「食のテーマパーク」とする案を明らかにした。

 すでに完成した豊洲市場の建物を活用しつつ「築地ブランド」の維持発展も模索するという、一見、築地と豊洲の両方のメリットを生かした妙案に思える。

 だが築地市場で商売をする取引業者の間では、ただただ困惑だけが広がっている。

 というのも、豊洲は中央卸売市場の機能を優先すると口頭で言いつつ、築地は5年後をめどに再開発した上で「仲卸の目利きを活かしたセリ・市場内取引を確保・発展」させると、会見で配布された文書に書かれているのだ。

 だが、そもそも卸売市場は、全国の産地から集められた商品を仲卸が買い取って卸に、卸が飲食店や小売店に販売するという一連のプロセスを1カ所で行える場所でなければ意味がない。市場機能が豊洲と築地に分散することは、取引業者にとって、豊洲移転への賛否を問わず、到底受け入れられるものではない。

 小池知事は築地の再開発後に一部の取引業者が豊洲から戻ることも想定しているようだが、とりわけ日々の品質管理をまさに職人技で行う仲卸業者にとって、度重なる引っ越しの負担は耐え難いものであり、「再び築地に戻るのは最悪のアイデア」と、ある市場関係者は吐き捨てるように言う。
政局優先のたまもの

 そもそもなぜ、こんな現場の実態を無視した提案がなされたのか。

 6月23日には都政最大の政治決戦である都議会議員選挙の火ぶたが切られる。小池知事は従来、天敵である自民党東京都連から「決められない知事」と批判され、早期の決断を迫られていた。その上豊洲移転は、小池知事と連携する都議会公明党が強く主張してきたものであり、その意向をくんだものなのだ。

 一方で、小池知事自ら「築地ブランド」を見捨てるかのような言動を取れば、従来の支持者の反発は避けられない。都幹部を中心とした検討ではちょうど、築地市場の跡地を貸し出せば安定した地代収入を得られるとの試算が出されたため、これに乗っかったのであろう。

 かくして小池知事は、政局や選挙をにらんで、この八方美人的な奇策を示すに至ったようだ。だが現場の実態に合わない以上、取引業者の反発は目に見えている。都議選で自ら率いる都民ファーストの会が躍進しても、市場移転をめぐる議論が行き詰まれば、小池知事は結局、自らの首を絞めることになる。

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