【SS】はじまりのつばさ
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地の文ありです、吐き出す場所に困ったので供養させてください 重力が疎ましかった。
鳥はあんなに自由に飛べるのに、
私は跳んでもすぐに地面に引き戻される。
この重さは、私の人生に似ている。
14歳の頃、そう思った。 地方の農家で産まれた私は、知ることを知らずに育った。
家から駅までは車でちょっと。
その電車も1日に朝夕合わせて8本。
……まぁよくある辺鄙な田舎だ。
たまに行く大きなショッピングモールの、なんて楽しみだったことか。
親からの愛情を受け、自然に囲まれた毎日。
夜9時に寝て朝の5時に起きる。
家の手伝いをして、全校合わせて50人に満たない学校へ向かう。
クラブ活動は全学年共同、私はレクリエーションクラブで毎日鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたり。
帰ったら何度も見たアニメがまたやっている。
気が付けば夕ご飯、お風呂に入って、また明日。 持たずとも、何不自由ない、私の人生
それでも知る時は突然やってくる。 12歳の秋、流行り風邪にかかった私は、少し背徳感を覚えながら昼間のテレビを見ていた。
適当にザッピング、目に付いたアニメはあまり好きではなかった。
別世界へ旅した主人公が、常識の違いにあたふたして、ひたすら恥をかく。
見てるこっちまで恥ずかしくなってきそうで、えいっ、とチャンネルを変えた。 そのすぐに、音
そして光。
画面に映っていたのは、私とさほど歳の変わらぬ女の子。
スクール、アイドル…?
心がざわめきだす。 かわいい…キレイ…美しい…
そのどれもが当てはまりそうで、当てはまらない。
ただ、画面の彼女がとても楽しそうで。
風邪の熱で火照った身体が、更に熱くなるのを感じた。
…凄い、すごい、スゴい!
こんなことを、する人がいるんだ!!こんなことができるんだ!!してもいいんだ!!!
才能、お金、努力、頭の中に瞬間巡る懸念なんてのは全部すぐにどっかに吹き飛んで!
「私もこんな風に、なってみたい!!!」
それが出会い、産声を上げた、私の始まり。 日は変わって病み上がり。この前の事を思い返す、軽く口ずさんでみる。
胸を打たれたのは熱のせいだけではなさそうだ、自分がああなりたいという、その想いも。
となれば。
まずは現状の確認と、目標に向かって何をすべきかを考えよう。
スクールアイドル、学校に通いながら、アイドル活動をする女の子達。
私の学校で知ってる子はいなかった、どうやら最近都会の方で流行り始めたものっぽい。
ご飯の時に、両親にも話してみる。
翔子は可愛いからなれるかもね、と言ってくれたけれど、本気にはしてなさそう…私はこんなにもなりたいのに。 土曜日の昼下がり、外に出てみた。
テレビで見たたーかいビルやキラキラしたステージはどこにもなくて、
山と、田んぼと、田んぼと、畑と、田んぼ。
……あまりにも違いすぎる!!
産まれて初めて、自分の生まれを悔いた日。 それでも諦めたくなかったので、走ってみた。
家の手伝いや日頃のレクで、小柄だけど体力には自信がある。
走って、走って、変わらない景色を通り過ぎて
すっかりもうクタクタ、近くの川で顔を洗って、川辺に寝転ぶ。
目を閉じれば、少し肌寒い風と、川の水音。
でも脳裏に浮かぶのは、あのキラキラした景色。
この村は好きだ、いや、最近なんか町になったんだっけ。
どうでもいいじゃんそんなの、と自嘲する。
……はぁ、と溜息。
好きでも、大切でも、ここにいてはあの景色には届かない。
目を開けたら、遠くに鳥が飛んでいた。 絶対足りないのでちょっとスレ落ち回避だけします…いくつでしたっけ? ある日の事。
見たいかなと思って、と母親がスクールアイドルの特集をビデオに録画してくれていた。
私も昔はアイドルになりたいな、なんて思ったものよ、でもこんな田舎じゃねぇ?
だって。やっぱりそうだよね……。
でも私がなりたいのはスクールアイドルで、アイドルじゃないの。
だったら私にだって、チャンスはあるはずでしょう? 聞いてすぐに再生、この前見た子だった。
というか…内容も同じだ、田舎バンザイ!
見様見真似で踊りを真似してみる。
歌も歌ってみる。
……できない!!
四苦八苦してたら、ロボットみたいと母親に笑われた。
この子はテレビに出れるほどの努力をした子で、私はまだまだ夢見始めなんだから!
また一歩遠のいた気はした。 その日から、ビデオを参考に練習をしてみた。
踊って、歌って、踊って、歌って。
後ろから聞こえる笑い声なんて気にしない!
歌って、踊って、歌って、踊って…
だいたい2週間が過ぎた頃。
自分では上手くなったかも?と思ってた矢先、お父さんがビデオカメラで撮った私の様子を見せてくれた。
なにこれ……
ビデオとは似ても似つかぬ動きをした私がいた。
歌も音程は合ってきてるかもしれないけど、なんか、滑らかさが無い。
これは笑うよね… 落ち込む私の姿を見たお父さんが、悪いと思ったのか車で本屋に連れて行ってくれた。
車の中でお父さんが、たぶん基礎から勉強するものなんだよ、と教えてくれた。
上手な絵を見て真似しても上手く描けないのは当たり前だろう?と付け加える。
それもそうだ。
落ち込んだ私は既にどこかへ飛んでいた。
本屋でダンス、歌、あとアイドルの心得みたいな本も買って帰った。
お父さんが本の袋を受け取ったけど、なんとなく嫌な気持ちがして、自分で持つと言ってみた。
今にして思えば、自分の夢が詰まったものだからかもしれない。
思ったよりも重たくて、読みきれるかなと心配になったけども。 帰ってからの私は、もう意気揚々だった。
ただ走って、物真似をしていた私とはもう違う。
これからは本格的に、スクールアイドルになるための道のりを歩むんだ!
まずは柔軟、
そこそこできたけど痛い。特に背中が固すぎる、頑張ろう。
次に肺活量、
ペットボトルを口に咥える。意気込みすぎてむせたら飛んでっちゃった。終わったら苦しい。
そして笑顔、
笑顔の練習とはなんか変な感じだけどやってみる。腕立てをしながら…笑う!
あ、これ……無理。
最初に対して満身創痍。アイドルって、こんなに辛いんだ……と思った。 明日(今日)も仕事なのですいません、一旦寝ます…
ひた隠しにするものでもないですが、なんとなく気を使ってくれると幸いです
また明日 べっこん、べっこん。
年も明けて春。
中学生になっても、通う学校は変わらない。
特訓にも慣れてきたし、順調だ。
友達と帰る途中でも、その意識は続けている。
自動販売機で買って飲み切ったジュースのペットボトルを今だってベコベコさせているのだから。
べっこん、べっこん。
傍から見たら滑稽でも、私は至って真剣である。
偉いぞ、私! 周りにスクールアイドルの事を話すようになって知ったこと。
どうやら自分は割とかわいい方らしく、周りの友達からも翔子ちゃんならなれるよ!なんて言ってくれる。素直に嬉しい。
家の鏡で見る自分の顔は…確かに悪くないとは思う?
……いや、私はアイドルになるのだからそんなことを言っていちゃダメなのかもしれない。
もっと自信を持って、胸を張って、生きていかなきゃいけないんだろう。
テレビのあの子は、不安や臆病さなんて微塵も感じさせなかったのだから。
そう考えて、むん、と胸を張ったら、横の友達に何してるのと笑われてしまった。 「でもさ、翔子ちゃん」
「スクールアイドルって、どうすればなれるの?」
「……わかんない」
「なりたいのに、わからないの?」
「たぶん、都会に出なきゃ難しいんじゃない?」
「え!都会に行っちゃうの!?」
「まだ決まったわけじゃないよ、でも…この街にいても難しいかなって思ってるの」
「そっかぁ…」
実際、できる努力はしてみても何をしたらいいのかわからないのは変わらない。
基本的に情報が少ないんだ、私には。
お父さんのパソコンは触らせてもらえないし、携帯電話なんてのも持ってない。
漠然とした不安を自覚して、その日は家に帰った。 スクールアイドル。
学校でアイドル活動をする女の子達。
近頃はもっと人気が出てきたようで、ティーン系雑誌にも特集が組まれていた。
どうやらスクールアイドル達は、歌や踊りを練習した成果を学園祭で披露したりするのが主な活動で
そこからプロ入りを目指す子なんかは動画にしてアイドル事務所に送っているらしい。
甲子園とかと違って、大きな大会なども無いのだからそういう手段になるのは当たり前か。
テレビに出ていたあの子の特集もあった。
学園祭で披露したものが動画投稿サイトにアップロードされて、オリジナルの歌、オリジナルの振り付け、オリジナルの衣装、それら全てのクオリティの高さが話題を呼び動画は100万再生、ブームの火付け役となった……と。
将来はプロ入りも約束されるだろう、なんて文言すらある。夢のある話だ。 スクールアイドルになる方法を期待して買ったのに、あの子が遠い存在なのをさらに自覚させられたようでげんなりとした時、1つの項目が目に入る。
【スクールアイドル動画募集!】
特集の一環で、どうやら読者投稿形式の大会を開くらしい。
ルールは1つだけ。
中学・高校に在籍している女子生徒であること。
衣装や歌がオリジナルかどうかは問われていなかった。
ひと目見て、静寂。
……これだ、これ!!
私だって小さい学校でも中学生だもの!
何をするか、どうするかなんて後からでいい。
私が、私の学校でスクールアイドルを名乗れば。
それはもうれっきとしたスクールアイドルでしょう? 現実的な目標は、行動を加速させる。
インターネット投稿かVHS,DVDは…後で親に相談するとして。
何を踊るか、何を歌うのか。
私にとっては1つしかない。
あの日見た、あの子の歌と踊り。
何をどうすればいいのかが一番把握しやすいものは、右も左もわからない私にとって武器になるはずだ。
撮影場所は……家はちょっと……
和風の家だし、スクールアイドルの踊る場所としては喜ばしくなさそう。
学校、古いからダメ。
公民館、セットが大変そう…お小遣いも少ないし。
もっと、手間がかからなくて、それでいて見た人が綺麗って思いそうな場所……
「……川原!!」
ちょうど新緑の季節。
柔らかな日差しと、揺れる緑、川のせせらぎ。
せっかく田舎にいるのだから、それすらも武器にしたい、よね! ちょっと区切り悪いですが今日はここまでで…また深夜に来ると思います
落ちないといいな… よく晴れた日の午後、土曜日。
服は目一杯のオシャレ、白のワンピース。
ビデオカメラと三脚、小型のラジカセを持って、川原へ行く。
投稿期限はあと一週間。消印有効。
撮って納得がいかなければ撮り直せるギリギリの日付、だと思う……
ひたすら練習はした。
誰にも見られてないのに、自然の音しか聞こえないのに。
カメラをセットする手が震える。
怖い?
違う。
ワクワクが止まらないんだ。
録画、良し。
足場整え、良し。
再生を押して、30秒。
ちゃんと踊って、ちゃんと歌って。
そして笑顔で!やりきろう!
曲が始まる。私のスクールアイドルへの第一歩も。 三回踊り終わって、深く息を吐く。
一回目は踊りを間違えた。
二回目は音程を間違えた気がした。
あんなに練習したはずなのに、間違えてしまった。
もしこれが、本番だったら?
もう一回、なんてのは許されない。
想像しただけで身体が震えた。
帰って確認。
三回目の踊りは、パッと見ミスらしいミスが無かった。
本物とは比べるまでもないけど、風と踊りにたなびくワンピースは綺麗で、目を引くものがありそうだ。これにしよう。
送る時に、なんとなくポストにお参りのポーズ。
「よろしくお願いします」
応えるようにカコン、と音がなる。
許された時間の中での今の私の精一杯。
少しでも届きますように。 8月。
今日は待ちに待った、結果発表の載っている号が発売される日。
朝からやっぱり落ち着かない。
いただきますを言い忘れたし、お茶はこぼすし。
本屋さんに着いてからも、なんかキョロキョロしちゃったり。
喜怒哀楽が全部ごちゃ混ぜになったような、初めての感覚。
何度も袋を開けそうになるのをぐっと堪えてを、家に着くまで一体何回繰り返しただろう。
正座をして、深呼吸。
ページを開く、手が重かった。 【応募総数87通!ご応募ありがとう!】
まず目に飛び込む見出し。
……思ったよりも少なく感じる。
いち雑誌の、初めての企画だしそんなものか。
視線をゆっくりと下ろす。
最優秀賞は…違う。
優秀賞5人…違う。
佳作10人…違う。
審査員賞……
無い、無い…
どこにも、無い。
……そっか。
自分でも驚くくらい冷静な自分がいた。
期待しながらも、あれじゃダメだと思っていたのか。
涙も出ないほど、頑張ってなかったのか。
そんなはずはない、はずはないのに……
どうして、こんなに悲しくないんだろう……
時計の針の音が聞こえるほど、とても静かな時間だったのを覚えている。 すいません、別で参加してるものの締切が近くて時間が取れてません……
もうちょっと待ってもらうことになると思います…… お待たせして申し訳ありません
明日で所用が一段落しそうなので書きに来ます その日の夕食は、暗い雰囲気が流れていた。
両親も私の顔色を見て察したのだろう、結果について何も聞くことはなく、
今週末は久々に映画でも行こうかとか、
明日の夕ご飯は何がいいかとか。
結果のことよりもその気遣いが申し訳なくて、私には上手く返事ができなかった。 ……部屋に戻る。
何か違う雰囲気を感じたのは、きっと私の感情がそうさせてるんだろう。
改めて、雑誌を読み返してみる。
スクールアイドルが嫌いになったわけじゃない。
スクールアイドルになるのを、諦めたわけでもない。
自分の心に問いかけて、返ってきた答えはそれだった。
なら、次を考えなきゃいけない。
そうだ、次、次を…… 今回の入選ポイントは、オリジナリティを重視!】
……なるほど。
画像で紹介されている上位入賞者の写真に添えられた一言。
それは曲だったり、衣装だったり。
いち"アイドル"としての独自性、その人が、その人でないといけない理由。
……それは確かに私の投稿したものにはない。
歌も踊りも、スクールアイドル界では有名なあの娘の借り物で…強いて言うなら自然の中で踊ったことくらい?
そこまで読んで、考えて、辿り着く一つのこと。
そんなの、どうしたらいいの? 【作曲家のお父さんに曲を作ってもらった】
【小説家の叔母が作詞をしてくれた】
【演劇部の友人にステージの設営を手伝ってもらった】
どれも自分には無理……。
友達も、両親も、応援はしてくれるけど支援はしてくれない。
言葉だけじゃ足りないの、なんて本当に失礼な話だ。けど本当のように感じる。
贅沢な話なのはわかっていても、それが無いと実現できない夢がある。
それを…私はわかっていたのかもしれない。
だって私の映像は、あの煌びやかなステージと輝く歌には程遠いから。
あの娘になりたいと思ったからこそ、最初から落ち込んでいたんだ。 プロのアイドルだって、ほとんどの場合は楽曲・振り付け・設営を人に任せてる。
それに加えて学生は勉強だってしなきゃいけないんだから、現実的に一人じゃできないじゃない。
……これから、どうしよう?
この狭い場所では望めないのなら、答えは一つしかない。
「……都会の高校に行く、かぁ…」
でもそれは……私にとって、そして私の周りにとっても大きな選択になる。
…正直、怖い。
本当にそれに賭ける決意が私にあるの?
途中で折れるかもしれない、そもそも受け入れられないかもしれない。
その時にかける迷惑だって大きな物になる。
引けない道になっても目指したい場所なのか、それでもなのか、どうなのか……
……今日は、一旦寝よう。
明日の私にバトンパス、という責任転嫁をした。 その日から四か月経った12月。
季節も変わって衣替えも済ませたというのに、
私というものは、変わらず悩んでいた。
本当に都会に行きたいと決意するのか。
本当にこの町ではどうしようもないのか。
本当に、スクールアイドルに私はなりたいのか。
頭が常にそれでぐちゃぐちゃになっていて、心底落ち着かない。
自分の将来なんて考えたことがなかった。 思い返せば、8月のあの日よりずっと前から堂々巡り。
都会に行くかもっていうのも、スクールアイドルになりたいのかも。
でも何も決まってない、決められてない。
そんな自分も嫌になる。
あぁ~~~~~~~~!!!!!
ずっとモヤモヤで叫びそう!叫ばないけど!
何か変なことしたらこの辺はすぐに広まっちゃうんだから! ……冷静、冷静……
悩みのうち、一つはどうせ決まってる。
こんなに悩んでる時点で、スクールアイドルにはなりたいに決まってるんだ。
でも、ならないと決めるのが、諦めるのが一番楽だから。
逃げたい気持ちがそうさせてるんだと…思う。
「はぁ……」
もう一つ。
都会に行くことに関しては、私一人の問題じゃない。
だから両親に最低でも意思は伝えなきゃいけないんだけど……
うかうかしてると準備の時間は短くなるし…
それにまだどんな学校があるのかも調べてないし…
そもそも都会の学校に行ったからってスクールアイドルになれるとは限らないよね?
言い訳だけは無限に出てくる、そう。
全部可能性の話だ。
もしももしも、だからこそ決断しにくい。 ふと。
……とりあえず聞いておかなきゃいけないんじゃ?
反対されたら元も子もないよね?
気が重い…
なんて言われるかな。
家の手伝いもできなくなるし、高校生一人は不安だろうし、私は悩んでばっかでまだ何も調べられてないし…
親から進んで離れたいわけじゃないし、そうなったときは寂しいだろうなと思うし。
仲悪くなったりしちゃうかな、しないといいな。
「……はぁ…」
何回目の溜息も、変わらず冷たかった。 俺が毎日見守ってる女の子が、ストーカー被害にあってるらしい ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています