歩夢 「水筒の中から侑ちゃんの声がする」
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「ふぁぁあっ、あぁっ」
あらわになった胸元を、猫じゃらしがなぞった。線を、丸を、文字を描くように、肌の上でかすみさんが猫じゃらしを滑らせる。しかし、いちばん敏感な場所へは一向に到達しない。そのもどかしさに、下半身が疼いた。
あぁ、何をしているんだろう。私は抵抗するつもりじゃなかったのか。
いつの間にか、足に添えていた手のひらはかすみさんの背中に回され、彼女の行動を全て受け容れるが如く腰を浮かせ、されるがままにカラダをくねらせていた。
「あっ……」
かすみさんの指が、ブラジャーのカップ上部にかけられる。既に膨らみきった桃色の頂が、徐々に姿を見せようとする。 とうとう肩紐さえも肘まで落ちそうになったその時、かすみさんの瞳がチカチカと瞬き、そして色を失っていった。
「ぇ……」
そのままぐらりと、体が大きく傾いた。私にもたれかかったかすみさんは、息苦しそうな呼吸を小刻みに繰り返した。
「か、かすみさんっ」
いけない、極度の脱水症状だ。
しかし事態がいくら深刻になろうとも、密室である状況は変わらない。かく言う私も、意識が朦朧としてきた。
興奮で火照り切った体の暑さを突然意識させられて、その落差に体が悲鳴を上げた。 ガタン。
大きな音とともに、冷たいくらいの風が吹き込んでくる。
「二人とも、大丈夫!?」
ロッカーの扉を開けた璃奈さんが、手に持っていたドリンクを私たちの口に流し込んだ。
助かった。
その安堵感に支配された体は、わずかに残った力さえも途端に失い、視界を黒に染めた。
※ ※ ※ ※
「あともうちょっとだったんだけどなぁ」 下校道。りな子と一緒に歩きながら、空に向かって悔いを放つ。
「かすみちゃんの生体反応が危険信号を出してた。あそこで助けに行かなきゃ、取り返しのつかないことになってた」
「それはそうだけど」
しず子を押し込んだロッカー。あれはりな子がオートロック式の扉に改造したものだ。唯一開けられるのは、りな子の持っている端末を使用したときだけ。
今回の隠れんぼに乗じて、しず子と一緒に密室に入り、今度こそかすみんが主導権を握ろうと思ったんだけど。
「やっぱり敵わなかったなぁ」
ずっと持ち続けていた猫じゃらしを見つめる。しず子の肌をなぞったその先端は、まだ微かに湿っていた。
その味を確かめるように、先端に唇を添えた。 【次回のランダム単語】
1.アンドロイド
2.赤い液体
3.サンドバッグ 官能表現って難しい
本日もお付き合いありがとうございました 校舎裏にいるアンドロイドが、人を殴った。
その噂を耳にした天王寺璃奈は、冷や汗が全身を伝うのを感じた。
校舎裏に住まうアンドロイドを製作したのは、他でもない璃奈だったからだ。璃奈は慌てて、校舎裏へ駆けつけた。そこで目にしたのは、まるで血涙のように、瞳から赤い液体を流し続ける、人型アンドロイドの姿だった。
「どうして、こんなことに」
そもそも、このアンドロイドを製作するにあたって、涙を流すようなプログラミングは施していないし、それ以前に赤い液体など使用した覚えはない。だが現実問題、そのあり得ない事象が起きてしまっている。璃奈は気味が悪くなり、そのアンドロイドを処分することに決めた。シャットダウンボタンを押そうとした時、静止していたアンドロイドが突然顔を上げ、璃奈に視線を向ける。赤い液体の流出は止まり、その代わりに瞳のパーツに埋め込んだ赤色のLEDが眩く発光する。 「うわわっ」
これもまたあり得ない行動だった。このアンドロイドが、人に対して何かしらのアクションを起こすはずなどなかった。
「やめてっ、痛い……!」
とてつもない腕力で押し倒され、芝生に背中を打ちつけられる。
部活を始めたことである程度鍛えられ始めたが、なおも未だ貧弱で小さな体が悲鳴をあげる。抑えられた肩の骨が軋むような音が、体内を伝って直接耳に届く。
「どうしてっ、どうして……!」
ピチョン、と頬に滴が垂れてくる。アンドロイドは再び赤い液体を流して、それを璃奈の顔に落としていた。 自分の製作者を押さえつけ、見つめるその瞳は一体何を考えているのだろう。アクションどころか、何かを思考するはずさえないアンドロイドに、一体何が芽生えたというのだろう。
「あなたは……どうしたかったの?」
その問いかけに、うめき声のようなものをあげながらアンドロイドは拳を振り上げる。璃奈は覚悟して、目をキュッと瞑る。
暗くなった視界で、璃奈はアンドロイドを製作した時のことを思い出していた。
※ ※ ※ ※
「……できた。アンドロイド型サンドバッグ」
璃奈はとある生徒からの依頼で、アンドロイドの製作をしていた。その日、それがついに完成した。 自立型サンドバッグ式アンドロイド。名前は特にない。機能としては、壊れたり外れたりした部品の事故修復、ただそれだけ。
サンドバッグとある通り、このアンドロイドの仕事は人から殴られることだけだ。
「それじゃ、これを人目につかないところに配置しなきゃ」
使用目的は至って単純、いじめ撲滅が目的だ。つまりは人をいじめる代わりに、感情も、反撃する意志もないアンドロイドをサンドバッグにして憂さ晴らしをすれば、いじめの撲滅につながると依頼者は考えたのだ。
「校舎裏、ここでいいかな」 しかし、いくらアンドロイド相手とはいえ、公衆の面前で危害を加えることができないのが人間のなんとも卑しい部分だ。アンドロイドには、人目につかないところで人々の憎悪を一身に受けてもらうことになった。
しばらく様子を見たが、周りからの反応は良好だった。良好と言っても、暴力を振るっているわけだが。
だがアンドロイドは傷つかない。傷つく心はそもそも持ち合わせていないし、壊れた体もたちまち事故修復してしまう。
校内のいじめも減少傾向にあるらしい。
発明は大成功だった。
大成功な、はずだった。
※ ※ ※ ※ 振り上げられた拳が、璃奈に届くことはなかった。その拳は、颯爽と現れた宮下愛に掴まれていた。そしてそのまま、首の後ろにあるシャットダウンボタンを押す。アンドロイドは、璃奈に覆いかぶさるように力を失って崩れた。
「あ、愛さん」
「大丈夫? りなりー」
愛に差し伸べられた手を掴み、璃奈はアンドロイドの下から体を抜く。
音沙汰なくなったアンドロイドは、自己修復の機能も同時に失い、ポロポロとパーツを本体から崩していく。既にその体は限界を迎えていたらしい。なんとかその自己修復機能で、その姿を首の皮一枚という状態で保っていたに過ぎなかったのだ。
数分も経たないうちに、校舎裏にはスクラップのような残骸だけが残された。
「こんなに傷ついてたんだね、この子」 愛は残された残骸に向けて手を合わせ、パーツを拾い上げていく。
「穴も掘って、埋めてあげないとね。ちゃんと弔わないと」
「弔う?」
「うん。アンドロイドだって、生きてたんだから」
璃奈も、愛に習ってパーツを拾い集め始める。
一部のパーツは、アンドロイドの流していた赤い液体で濡れていた。
結局最後まで、アンドロイドが赤い液体を流した理由も、人を襲い始めた理由もわからなかった。
ただ、その赤い液体はまるでオイルのように、そして血液のように。少し、粘着質だった。 【次回のランダム単語】
1.独身
2.アメリカンドッグ
3.ラーメン屋 3月に頒布予定のあいりな小説執筆追い込み時期になるため、少し投稿頻度が落ちるかと思います
息抜きで短編はしっかり更新しますので、よろしくお願いします なんかちょっと悲しい結末でしたね。
でもこういう雰囲気も好き。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています