曜「新選組だーー!!」
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千歌「わわ、曜ちゃん、それ何!?」
曜「なんかね、古い日記みたいなものが出てきたんだよね」
千歌「日記……?」
曜「うん、でも昔の言葉遣いで全然読めなくて、梨子ちゃん読めない?」
梨子「私もこれはちょっと……」
果南「私もパス」
ルビィ「んー……花丸ちゃんどう?」
花丸「……んー……あ、これなら読めるかも」
善子「本当、あんた生まれる時代間違えてない?」
花丸「最初は……嘉永ずらね」
鞠莉「嘉永?っていつ?」
ダイヤ「150年以上前の江戸時代の後期ですわね」
千歌「おぉ、幕末!」
梨子「曜ちゃんの家のものなの?」
曜「んー、それがよくわからなくて、でもなんか気になって」
花丸「結構長いけど、読んでみる?」
曜「うん、お願い」
花丸「えーと、……日記というか、なんかメモ書きみたいずら……」 150年以上前、とある村で
曜「あれかー……私たちのお気に入りの場所荒らしてるのは……」
千歌「どうする?懲らしめる?」
果南「二人とも血の気が多いなー」
3人は草むらから木刀を握りしめている
視線の先には数人の悪ガキが我が物顔で遊んでいる
曜「やっちゃおうか、千歌ちゃん」
千歌「よーし、……果南ちゃんもだよ?」
果南「はいはい」 千歌「せーのっ!こらああああ!出ていけー!」
威勢よく飛び出し木刀を振り回す近藤
「な、なんだこいつら、ひっ……」
果南「ん?」
木刀下ろしたまま、無言の威圧をかける井上
曜「どりゃあああ!」
そして、真っ先に切り込み暴れる土方
のちに新選組の中核を担う者達である、そしてもう一人 ーーーーー
ーーー
ー
千歌「いやー、余裕だったねー」
曜「果南ちゃん、またサボってたでしょ」
果南「そんなことないけど?」
3人が試衛館の道場へと戻ってくる
千歌「ん?誰か道場の前にいる」
曜「誰だろ」
梨子「……ここの道場の人ですか?」
果南「お、もしかして入門希望かな」
千歌「あなた、名前は?」
梨子「沖田、総司です」 数年後
梨子「ふぅ……」
梨子は手合わせを終え、それを見ていた果南が話しかける
果南「いやー、相変わらず梨子は神業だね」
梨子「井上さんもたまには誰かと試合をしたらいいのに……」
果南「果南でいいって言ってるでしょ?私は、ほら気が向いたら?」
梨子「いつもそれ……、あの、曜ちゃんは見てませんか?」
果南「曜?また道場破りとかしてるんじゃないの?」
梨子「はあ……まともな人がいない……」 そんな会話をしていると道場の外から何者かが声をかける
ダイヤ「失礼します、天然理心流の道場、試衛館はこちらでしょうか」
果南「ん?そうだけど?」
ダイヤ「こちらに、土方歳三という方は?」
梨子「一応、うちの門下生ですけど……」
ダイヤ「……やはり、ここにいるのですね……手合わせさせていただきますわ!」
梨子「え、ええ……?」
果南「いや、今はいないんだけど、なんでまた?」
ダイヤ「私が留守の間に師範代を務めている道場に来て門下生をズタボロにした挙句、妙な薬を売りつけられたのです!」
果南「あー、そりゃ、曜だ……」
千歌「なになに?なんの騒ぎ?」 ダイヤ「……というわけです」
千歌「あー、うーん、そのご迷惑を……」
ダイヤ「とにかく手合わせを」
千歌「えーっと」
ダイヤ「失礼、私、永倉新八と申します、神道無念流免許です」
千歌「神道無念流!?あの有名な!?すごー……」
ダイヤ「私は別にまだまだ……」
曜「ただいまー!いやー、今日も売れた売れた」
千歌「げ」
ダイヤ「……なるほど、この方ですのね!」
ダイヤは木刀を持ち、声がした方へと向かう
曜「え、なに?新しく入門する人?」
ダイヤ「違います!土方歳三!尋常に勝負ですわ!」
曜「えー?なんかわかんないけど、いいよ?」
千歌「あちゃー……」 曜はすぐに木刀を拾い走り出すとダイヤに飛びかかる
ダイヤ「っ、卑怯ですわよ!」
曜「実戦で卑怯なんて言えないでしょ」
ダイヤ「っ!」
ダイヤもそれを受けて一度距離を取ろうとするが曜はすかさずダイヤの足元を蹴り飛ばす
ダイヤ「なっ!?」
バランスを崩したダイヤの首元に曜は木刀を突きつける
ダイヤ「っ……」
曜「はい、勝ち」
ダイヤ「なんですの!?この流派は!型も何もあったものでは……」
千歌「いや、あの、それは曜ちゃんだけで……」
梨子「い、一応ちゃんとした型もあって……」
曜「型が綺麗でも、最終的に相手を斬れるかどうかでしょ」
ダイヤ「……も、もう一度ですわ!」
ダイヤと曜は何度も手合わせをし、次第にダイヤは試衛館に食客として居座るようになった
千歌「……出来れば門下生としてお金払って欲しいんだけどなぁ……」 それから数日後
鞠莉「シャイニー☆天然理心流の道場ってここかしら?」
梨子「ま、また変な人が……」
道場の入り口に大きな槍を持った人物が立っている
鞠莉「私は、原田左之助、なんだかすごい剣術って聞いたから寄ってみたんだけど、誰か試合しましょうよ、私は槍だけど」
ダイヤ「全く、礼儀もない方ですわ……」
梨子(ええ……あなたがそれを言うの……?)
梨子「ど、どうしよう、今日は千歌ちゃんも曜ちゃんもいないし……」
果南「なら塾頭の梨子でしょ」
梨子「わ、私……?」
鞠莉「この子が塾頭?ちょっとちょっと、嘘でしょ?」
鞠莉は笑いながら梨子を見るもすぐに表情を強張らせる
梨子「私がやると、怪我をさせちゃうかな……」
鞠莉「ちょっと、やばそうね……」
鞠莉が槍を持ち身構える ダイヤ「仕方ありません、私がやりましょう」
果南「え?ダイヤがやるの?」
ダイヤ「どうせ、あなたもやる気はないのでしょう?」
果南「あ、バレた?」
ダイヤ「よろしいですね?一応私も食客として天然理心流を学んでますので」
鞠莉「ええ、いいわよ、勝負!」
*****
***
*
千歌「それで、なんでこうなってるの?」
千歌が帰ると鞠莉はダイヤ達と当然のように食事をしている
鞠莉「それがなんだかウマがあったというか?」
ダイヤ「なかなか見所がある方でしたわ」
果南「ってわけで意気投合して」
鞠莉「私もここで厄介になろうかなって」 梨子「あ、あの、私は止めたんだよ?」
果南「まあ楽しそうだし、いいんじゃない?」
鞠莉「ねー」
鞠莉、ダイヤ、果南は汁物を啜っている
曜「千歌ちゃん、これ以上はお金がやばいんじゃない?」
千歌「だから困ってるんじゃんー……」
千歌「どうしよう、ただでさえ貧乏道場なのに……」
梨子「あ、あの、もっと門下生増えるように頑張るね!」
曜(というか、梨子ちゃんにビビって辞めちゃう人多いんだよなぁ……) そして、また数日後
千歌たちの前に二人が礼儀正しく正座して座っている
千歌「あのー……、一体なんの御用で……」
聖良「試衛館という道場の噂を聞いて参りました」
理亞「各道場で噂になってた」
梨子「曜ちゃん、どれだけ道場破りしてるの……?」
曜「有名になれば、人が集まるかなーって、私の薬も売れるし」
ダイヤ「門下生ではなく、なんだかわからない方々ばかり増えるではないですか」
鞠莉「本当よー、意味ないわねー」
梨子(この人たちはどの立場で言ってるんだろ……)
聖良「申し遅れました、詳しくは言えませんが、とある藩を脱藩しました、山南敬助と申します」
理亞「藤堂平助、私は詳しくは言えないけど、とある藩主の落胤よ」
鞠莉「じゃあ私も殿様の子かしらー」
果南「私は、じゃあ徳川家?」
梨子「果南さんは同心の家の人じゃ……」
理亞「ば、馬鹿にしてるでしょ!?私はともかく姉様まで……!」
曜「あれ?姉様?」
聖良「同じ北辰一刀流ですので、この子が姉のように慕ってくれておりまして」 ダイヤ「それで、本日のご用件は?」
聖良「天然理心流の近藤先生とお手合わせを」
曜「んー、他の人じゃダメなの?」
聖良「はい、次期宗家である方とのお手合わせを」
鞠莉「そう言うなら仕方ないんじゃない?」
果南「そうだね、ほら、千歌準備」
千歌「なんで、皆で話を進めるかな……」
千歌はため息をついて立ち上がると木刀を準備する
曜「わざわざ指名するってことは相当腕は立つのかな?」
理亞「姉様は北辰一刀流の免許皆伝、一流よ」
梨子「そっか、じゃあ大丈夫だね」
理亞「……大丈夫?」
聖良「それではいざ……っ」
聖良が木刀を構え千歌を見ると先程までの様子との違いに顔を強張らせる
千歌「……」
聖良(すごい圧ですね……)
梨子「千歌ちゃん相手でもそんなに怪我はしないで済みそう」 聖良「……っ」
聖良が隙を窺い攻めあぐねていると千歌は真っ直ぐ距離を詰めて木刀を振り下ろす
聖良(受け切れないっ……!)
聖良が避けるも千歌は振り下ろした木刀をすぐさま切り上げ聖良の手を弾く
聖良「っ!」
聖良はそのまま向き合うも攻めることができない
聖良(なんでしょう、隙がないとかではないのに、この気迫……)
聖良「……っ、参りました……」
聖良は木刀を床に落とし頭を下げる
理亞「そんな、姉様が……」
千歌「はー……疲れたー……」
千歌は息を大きく吐くとだらしなく横になる
梨子「あー、もう、千歌ちゃん、だらしない……」
ダイヤ「あれがなければ、非の打ち所がないのですが……」
聖良「一瞬の気迫、まるで……」
曜「化け物みたいだったでしょ?」
聖良「え、ええ……」
曜「武士になるには、まずは気迫からって言っててさー」
聖良「武士?武士に、なりたいのですか?」
曜「そうだよ?千歌ちゃんは武士になるために強くなろうとしてるんだから」
千歌「まあそれは夢であって、私はこの道場を大きくできればいいかなって」
聖良「……」 理亞「姉様!私、しばらくここで鍛錬する、このままじゃ悔しいもの!」
聖良「ええ、私もそのつもりです、天然理心流、奥が深そうです」
果南「いや、単なる田舎剣法だよ?」
千歌「あ、あのー、それは正式に門下に入るとか……」
聖良「脱藩浪人の身ですので、食客としてお世話になります」
理亞「同じく」
千歌「お金が……お金が……」
こうして、試衛館には数人の腕ある食客が集ったのであった そんな光景が当たり前になるほどの時が過ぎた頃
千歌「え、曜ちゃん、そんな遠くまで行くの?」
曜「うん、この辺りの道場は売り込んじゃったし」
理亞「殴り込みの間違いでしょ」
曜「理亞ちゃん?久々に手合わせするかな?」
理亞「……嫌よ、蹴られたり、めちゃくちゃされるし……」
梨子「どこまで今回は行くの?」
曜「ちょっとそうだなー、浦賀とか、その辺りまで行ってくるよ」
果南「お土産よろしくねー」
曜「それじゃ、行ってくるねー」
曜は大きな荷物を抱えて出て行った 鞠莉「ねえ、気になってたんだけど、曜は何を売ってるの?石田散薬とか聞いたけど」
千歌「曜ちゃんの家で伝わってる、薬を曜ちゃんが改良した万能薬だよ」
果南「打ち身、切り傷、骨折、なんでも効くんだよね」
鞠莉「すごいじゃない!」
理亞「絶対嘘よ、それ」
千歌「本当だよ!なんかね、河童に昔教えてもらったらしいよ?」
梨子「千歌ちゃん、それはもっと胡散臭くなりそう……」
わいわいと話している中、聖良だけ難しい顔で考え事をしている
ダイヤ「どうしましたか?聖良さん」
聖良「いえ、浦賀……、噂では今頃……」 *****
***
*
曜「海だー!」
海に着くと曜は荷物を下ろして声を上げる
曜「やっぱり海はいいなー、広いし、大きいし」
曜「……ん?なに、あれ、怪物!?」
曜は沖に大きな黒い物体が浮いているのに気付く
慌てて荷物を持って崖の近くへと駆け出す
曜「……なんだろ、まさか、船……」
侑「うわー!ときめくなー!!」
突然背後から大きな声が聞こえてくる
曜「う、うわあ!?」
侑「あ、ごめんごめん、驚かせちゃった」
曜「あ、あなたもあれを見に?」
侑「うん!黒船、大きいよねー!」
曜「黒船……?」 侑「そうだよ、アメリカって異国から来た船だよ」
曜「や、やっぱり、船……、異国……?アメリカ……?」
侑「そう、この国の何倍、ううん、もっとかもしれない、大きな国だよ」
曜「ま、まさか、そんな……」
侑「私たちの国はすごい小さくて、知らないことばかりなんだよ」
曜「は、はあ……すごいなー……、あれが海を進むんだ……」
侑「あれに乗って、どこまでも遠くに行くのが私の夢なんだー」
曜「どこまでも、遠くに……」
侑「ときめくよねー、きっと知らないものや知らないことばかりなんだよ!」
曜「私も、行けたりするかな……」
侑「もちろん!そのうち誰もが外国に行ける世の中になるよ!」
曜「なんで、そんなにいろんなことを知ってるの?」
侑「ちょっと、ある人のところで教え、あ、まずい!約束してるんだった!!」
侑は急に慌て出し、立ち去ろうとする
曜「あ、ま、待って、名前はー!?」
侑「私!?土佐の、坂本龍馬ぜよ!」 曜「坂本、龍馬……」
侑「またねー!」
曜は一人残されると黒船をじっと見つめている
曜「海の向こうに……」
*****
***
*
曜「それでね、船がね!とんでもなく大きくて!!」
ダイヤ「突然帰ってきたと思ったらなんの騒ぎですか……」
鞠莉「曜が異国の船を見たらしいわよ?」
千歌「お、落ち着いて、曜ちゃん」
曜「アメリアってところから来たらしいよ!」
千歌「え、えーっと、聖良さーん……」
聖良「……ええ、確かに今、欧米と言われる国々が日本へ接触してきています」
曜「すごいね、すごいことだね!」
聖良「しかし、このままでは我が国は異国の食い物になり、異人に好き勝手されてしまうかもしれません」
曜「え……?」
聖良「異国からの敵を打ち払わなければならない、これを攘夷と言いまして……」
千歌「は、はあ」
理亞「姉様は尊王攘夷について詳しいのよ」
曜(敵、なのかな……?) 道場内で議論をしているのを傍目に梨子は一人、外で木刀を振っている
梨子(難しい話はわからない……)
梨子「はっ!はっ!……ん?」
善子「やばっ」
梨子「誰、出てきて!」
梨子は視線に気付き声をかける
善子「……くっくっく、よくぞ気付いたわね」
善子は不思議なポーズで物陰から現れる
梨子「……不審者ね」
善子「ま、待った!違うのよ!」
梨子「じゃあ、何?」
善子「あなたの剣に宿った鬼に、私の剣が反応したのよ」
梨子「よくわからないけど、手合わせしたいってこと?」
善子「やめておいた方がいいわ、私が剣を抜いたらこの世は調和を乱し、っとわ!?」
梨子は善子の話を聞かずに木刀を振り抜く
慌てて善子はそれを木刀で受け止める
善子「危ないわね!」
梨子「……私の一振りを止めた……すごい……」
梨子は楽しそうに突きを繰り出す
善子「ひぐ!?このっ!っ!」 梨子と善子はしばらく打ち合い、善子が先に木刀を落とす
善子「はあはあ……」
梨子「こんなに打ち合えたのは久しぶり……、ねえ、あなたも道場に来ない?」
善子「勝手なこと言わないでよ、道場って、そこのでしょ?そんな名も知れぬ道場には行けないわ」
梨子「そうなの?強い人たくさんいるよ?」
善子「ダメなのものはダメなの、ま、まあ、あんたは強いからたまに手合わせしてあげてもいいわよ?」
梨子「本当?怖がって手合わせしてくれる人少なくて……」
善子(あれだけ強ければそうでしょうね……)
梨子「じゃあ、約束だね、名前は?」
善子「名前?え、えーっと……」 *****
***
*
梨子「それで、善子ちゃんって言うんだけど、すごい強かったの」
果南「んー、そっちの名前言われてもなー……」
ダイヤ「しかし、梨子さんの相手を出来るのは相当ですわね」
聖良「千歌さん」
聖良が千歌に小さな声で尋ねる
聖良「梨子さんはかなりの腕ですが、その、どういう経緯でこちらに?」
千歌「あー、うん、うちの道場の前で一人で立っててね」
千歌「子供たちに化け物だって怖がられて一人ぼっちだって言うから」
聖良「化け物?」
千歌「うん、梨子ちゃんは天才の類で、単なる棒切れ持たせてもすごい強くてね」
聖良「それで……」
千歌「それで、曜ちゃんが梨子ちゃん相手にボコボコにして」
聖良「は!?」 曜『化け物なのに、私より弱いね』
千歌「って」
聖良「なんというか、曜さんらしいですね……」
千歌「今じゃ多分梨子ちゃんの方が強いけどね、剣術をしっかり習ったから」
聖良「つまり剣術など知らぬ前から強かったと」
千歌「うん、でも本能的に剣の使い方を知っているというか、天才って言うんだろうね」
聖良「なるほど……」
千歌「今じゃすっかり楽しそうにしてて安心してるよ、来た時は笑いもしなかったから」
聖良「そうですね」 しばらくして、千歌は天然理心流の宗家に正式に就任した
聖良「おめでとうございます、近藤勇先生」
千歌「や、やめてよー、いつも通りでいいから」
果南「これからは道場の資金繰りもしないとねー」
梨子「食客ばかりで門下生少ないもんね……」
理亞「な、なんで私だけ見るのよ」
ダイヤ「それには私と聖良さんでいい考えがあります」
千歌「考え?」
聖良「はい、講武所はご存知ですよね?」
梨子「講武所?」
鞠莉「幕府が作った旗本御家人に武芸を学ばせるための場所でしょ?」
ダイヤ「そこの指南役に千歌さんになってもらうのです」 千歌「わ、私が!?」
聖良「正式に道場主になったわけですし、実力も十分だと思っていますよ」
千歌「私が、講武所の指南役……」
曜「千歌ちゃんが妄想してる」
果南「確かに、講武所の指南役になればそれだけですごい宣伝になって、門下生もたくさん……」
ダイヤ「はい、ですから、曜さん?」
曜「ん?何?」
ダイヤ「道場破りはほどほどに、悪い噂が流れたら元も子もありませんので」
曜「わ、わかってます……」
梨子(それだけ有名になったら、あの子も試衛館に来てくれるかな)
鞠莉「でも大丈夫なの?そういうところって身分だとかにうるさいんじゃ?」
聖良「講武所は身分問わずと聞きますよ、完全な実力主義とか」
千歌「よ、よーし、頑張るよ!」
千歌は気合を入れて指南役になるべく活動していくことになる それからしばらくして
梨子「千歌ちゃん、大丈夫かな……」
曜「んー、大丈夫だよ、天然理心流ほど強い流派がこのあたりにあるとは思えないし」
梨子「そうなんだけど……」
曜、梨子、果南の3人が江戸の街を歩いている
果南「そろそろ帰ろうか、遅くなるよ?」
曜「うん、そうだね、あれ?」
梨子「あれって、千歌ちゃん……?」
3人は少し離れたところで千歌を見つける
千歌「よろしくお願いします!」
千歌はきっちりした身なりの人物に頭を下げている 曜「千歌ちゃんと、相手は……」
果南「あれは、……老中の……」
梨子「老中って……えーっと、偉い人?」
果南「まあそうだね、多分講武所の件をお願いしてるんじゃないかな?」
曜「なるほど……」
千歌は頭を深く下げていたが、そのうち土下座をし始める
梨子「え、ちょっと……」
曜「何もそんなことしなくても……っ!」
曜はすぐにでも飛び出そうとするも果南に止められる
果南「ダメだよ、我慢しないと……、千歌があそこまでしたのに無駄になる……」
曜を掴む果南の手も震えていた
千歌はなお頭を下げ続けている
果南「……行こう、ダメだよ、見たこと言ったら」
曜「わかってる……」
梨子「……はい」
三人は来た道を引き返して去っていく 数ヶ月後
千歌「……っ」
鞠莉「千歌?ちょっと、どうしたの!?」
千歌は道場へと戻ると奥に引きこもってしまう
聖良「講武所の話が、なくなったようです……」
理亞「どうして?講武所にあれほどの剣客なんていないはずじゃ」
ダイヤ「実力第一主義、あれは嘘だったと言うことですわね」
聖良「当初は、そのはずだったのです、しかし、今は……」
鞠莉「千歌は武士じゃなくて、農民の子だからってわけね、くっだらない」
梨子「そんな、あんな、あんなことまでして……っ」
曜「……」
曜は立ち上がると千歌のいる奥へと向かった 曜「千歌ちゃん」
千歌「……」
千歌は曜の方を見ようとしない
曜「そうやってても何も変わらないよ」
千歌「……わかってるよ……、やっと道場を立て直して、お父さんにも皆にも楽をさせてあげられると思ったのに……」
曜「……」
千歌「武士でもない私は、結局何もできない……、どんなに腕を磨いても、刀を差しても……」
曜「……やめるの?」
千歌「え……」
曜「武士になるって、言ってたのに、夢だって言ってたのに、やめる?」
千歌「……やめないっ、でも、でも……」
千歌「武士になんてなれるわけないっ」
曜「なるんだよ!武士よりも武士らしくっ、私が絶対に千歌ちゃんを武士にする、近藤勇を日本一の武士にする!」
千歌「どうやってさ!」
曜「考え中!!」 奥から聞こえてくる怒鳴り合いを試衛館の面々は心配そうに聞いている
梨子「ふ、二人とも……」
理亞「止めなくていいの……?」
果南「大丈夫大丈夫、あの二人はあれで」
ダイヤ「何かいい手を考えないといけませんわね……」
鞠莉「そうねぇ、曜が講武所の指南役を全員闇討ちする前に」
聖良「い、いくらなんでもそれは……」
果南「いやー、曜はやると思うよ?」 しかし、その後も特に策が思いつくこともなく、月日が過ぎていく
曜「んー、やっぱり私が講武所の指南役を全員倒し回るのがいいと思うんだけど」
ダイヤ「却下」
理亞「ダメでしょ」
曜「えー……」
鞠莉「んー、私は曜に賛成かな」
ダイヤ「鞠莉さんは単に暴れたいだけでしょう……」
理亞「というか、ただでさえ試衛館にいい噂がないのに悪名だけ上がるだけじゃないの」
曜「悪名も上がればいいかなって」
梨子「それで怖い人ばかり来るのは嫌かな……」
ダイヤ(その中でも腕前的にはあなたが一番怖いのですが……、まあそれは言わないでおきましょう) 議論をしていると聖良が慌てて試衛館にやってきます
聖良「ち、千歌さんは!」
曜「奥にいると思うけど」
梨子「千歌ちゃーん、聖良さんが呼んでるよー」
千歌「なーに?」
聖良「千歌さん、吉報です!」
千歌「え、え!?」
*****
***
*
ダイヤ「浪士組、ですか……」
聖良「ええ、目的は上洛される家茂公の護衛」
鞠莉「上洛するからって、そんなのを結成するなんて随分ね?」
理亞「知らないの?今の京は……」
曜「尊王攘夷の過激派浪士がたくさんいて、最悪の治安、なんでしょ」
果南「よく知ってるね?」
曜「外で商売してると噂は色々と入ってくるんだよね」 聖良「そうです、そのために結成されるのが浪士組」
鞠莉「んー、なるほど、適当な浪士なら京で捨て駒にしても特に痛くも痒くもないもんねー」
ダイヤ「言い方はあれですが、そういうことですわね」
千歌「でも、そこで上手く活躍できれば……」
聖良「また、講武所の話も……」
千歌「武士に、なれるかな!?」
聖良「えっ、それは……」
千歌の視線に聖良は目を逸らしてしまう
曜「……なれるよ、きっと」
曜は真っ直ぐに千歌を見る
曜「行こう、千歌ちゃん」
千歌「……うん、行こう!京に!」 *****
***
*
海未「浪士組ですか、行くのですか?」
穂乃果「うん、行くよ、せっかくきた話だし、楽しそうだもん」
ことり「いい話が来て良かったねー」
海未「それでは準備をしなくてはいけませんね、穂乃果」
穂乃果「芹沢鴨」
海未「はい?」
穂乃果「これからそう名乗ることにするよ、よろしくね」 試衛館の面々が京へ向けての準備をしている
ダイヤ「そういえば、私たちはいいとして、お二人は刀は大丈夫ですか?」
千歌「刀?」
曜「んー、これじゃダメかな?」
曜は年季の入ったボロボロの刀を見せる
理亞「な、何それ、斬れるの?」
曜「斬れるよー、ちょっと何度も斬らないといけないけど」
鞠莉「斬られる相手が可哀想ね……」
ダイヤ「千歌さんは?」
千歌「んー、私はこれだけど、ダメかな?」
明らかに安物の刀を手に千歌が首傾げる
聖良「支度金も出ましたし、せっかくですから刀を新しくするのはどうでしょうか」
千歌「え、でも支度金は道場に……」
ダイヤ「……まったく水臭いですわよ」
ダイヤ達は大量の金が入った袋を千歌に渡す
千歌「え、これって……」
理亞「私たちの支度金、ここにはその、世話になったしね」
聖良「ええ、ですので千歌さんと曜さんは新しい刀を」
千歌「み、みんな……ありがとう……!早速買ってくるよ!」
千歌は自分の支度金を持って出かけていく
鞠莉「大丈夫かしら……」
曜「仕方ない、私も刀でも買ってくるよ」 *****
***
*
千歌「これが有名な虎徹!!」
千歌は刀を手にして目を輝かせている
「ええ、たまたま手に入りまして」
商人は笑顔で千歌に刀を勧めている
千歌「確かにこれならなんでも斬れそう……」
「ええ、もう鉄だろうがなんだろうが簡単に斬れ、そして刀に傷などつきませんよ」
千歌「虎徹、すごいなー、でもお高いんでしょう?」
「それが運がいい、お侍様のご予算ぴったり!」
千歌「嘘!?これって奇跡だよ!買う!買います!!」
千歌は即答すると代金を支払う
千歌「これで皆に自慢出来るのだ!」
千歌は嬉しそうに刀を抱えて戻っていく 商人はそんな千歌を見て悪い笑みを浮かべて見送っていると背後から声をかけられる
曜「あれが虎徹ねー」
「ひぃ!?」
曜「流石に悪どい商売しすぎじゃない?」
「いや、あれはその……」
曜「私も商売人だから気持ちはわかるけど、あの人は私の大事な友人なんだよね」
「す、すみませんっ、すぐにお返しを……!」
曜「それだと千歌ちゃん傷ついちゃうしなー、ねえ、私も実は刀探してるんだよね、出来れば名刀」
曜は商人に対して笑顔でそれだけ言うと商人も察したのか奥へ慌てて駆けていき刀を持って戻ってくる
「こ、これを……うちで一番の名刀の兼定ですが……」
曜「……それ、知らない人はまた騙されるでしょ」
曜は刀を受け取って品定めする
曜「会津の刀……、うん、少なくともさっきの虎徹に比べれば全然いいかもね」
曜は刀をそのまま腰に差して店を出ようとする
「あ、あのお代は……」
曜「さっき千歌ちゃんが払ったでしょ?」 *****
***
*
試衛館ではすでに千歌が虎徹を見せびらかせている
千歌「これが、虎徹だー!」
鞠莉「初めて見たわ、すごいじゃない!」
理亞「こんな名刀手に入れるなんてやるわね」
少し離れたところでダイヤと聖良がその様子を見ている
ダイヤ「どう思いますか?」
聖良「……どう見ても虎徹とは思えませんが……」
曜「虎徹だよ」
急に二人の背後から声をかける曜
ダイヤ「で、ですが、あれは……」
曜「虎徹じゃなくても虎徹ってことにすればいいんだよ、千歌ちゃんと私たちで」
聖良「……千歌さんの腕であればある程度の刀であれば問題なく斬れるとは思いますが……」
ダイヤ「偽物を差していては恥をかくのでは……」
曜「言わせないようにすればいい、偽物でも本物以上になれば誰も何も言わないよ」
聖良「……それは刀についての話ですよね?」
曜「……もちろん、そうだよ?」 各々が京へ行く準備をする中でこっそりと準備をしているものが一人
梨子「……これを持って、あとは……」
果南「梨子、何してんのかな?」
梨子「っ!え、えっと、これは……」
果南「旅支度、だね」
梨子「その……」
果南「千歌と曜に残るよう言われてたよね?試衛館を守れって」
梨子「私だけ置いてけぼりは嫌!私は……」
果南「京は危険がいっぱいなんだよ、梨子を無駄に散らせたくないってわかるでしょ?」
梨子「千歌ちゃんに会うまで私はずっと一人だった……」
梨子「また、一人になるなら皆と行って死んだ方がいい!」 果南「梨子」
梨子「……」
果南「……行くなら約束しよう」
梨子「約束?」
果南「敵と戦ったら絶対に勝つこと」
梨子「絶対に……」
果南「相手が誰であっても、それが敵であるなら、斬る」
梨子「誰であっても……」
果南「そう、梨子の腕ならそれが出来るはず、いいね?」
梨子「……うん、わかった、誰であっても敵なら……斬る」
果南「よし、それなら私からも頼んであげるよ」
梨子「果南さん……、ありがとう」
果南(千歌はいいとして、曜は怒るかなー……) *****
***
*
千歌「んー……」
果南「梨子も力になりたいんだよ、行かせてあげようよ」
千歌「でも、梨子ちゃんにはこの道場を出来れば継いで欲しいし……」
梨子「え、私、それは嫌だよ?」
千歌「えぇー……」
梨子「お願い、私は皆と行きたい!」
曜「……」
千歌「曜ちゃん、どうしよう」
曜「……梨子ちゃん、いいんだよね?」
梨子「え?もちろん!」 曜「……はあ……千歌ちゃんがいいならいいよ」
千歌「え、結局私!?んー……わかったよ、一緒に行こう」
梨子「ありがとう千歌ちゃん!」
果南「……曜、いいの?」
果南が小さな声で曜に聞く
曜「梨子ちゃんが試衛館を継いだら、多分人並みの幸せは手に入ると思うんだよね」
果南「え、まあ、そう……か」
曜「だから本当にいいのか聞いたけど……、はあ、仕方ないね」
果南「曜にしては聞き方がずるい気もするけど?」
曜「……梨子ちゃんに幸せになって欲しいのと同じくらい、沖田総司をという武器が欲しいって気持ちがあってね」
果南「なるほどね」
曜「ずるいなー……私は……」
曜は苦笑いして千歌に抱きつく梨子を見ている そして、浪士組出発の当日
鞠莉「すごい人数ね」
聖良「これは予想以上ですね……」
理亞「でも姉様、腕があるとは思えないのもたくさんいる、見た目は物騒なのだらけだけど……」
梨子「なんだか怖い……」
ダイヤ「……気のせいでしょうか、曜さんを見て怯えている人もいるような」
曜「ん?んー、何人かはなんとなく見た顔がいるかも?」
果南「周りからしたら私たちが一番物騒かもね、……あれ?千歌は?」
ダイヤ「先ほどまでそこに……」
ダイヤが辺りを見渡すと千歌が目を輝かせて騒いでいる
千歌「わー、この刀見たことない!」
穂乃果「これはねー、実はとんでもない刀でねー」
果南「いたね」
曜「あー、もう何やってるのかな……、千歌ちゃーん 穂乃果「ん?呼んでるみたいだよ?」
千歌「え?あ、曜ちゃん、すごいよ、この人の刀!」
曜「迷惑だからやめとこうよ、すみません……」
穂乃果「いいよいいよ、気にしないで」
海未「こんなところにいましたか、穂乃果……」
ことり「探したよー」
穂乃果「先に行くよって言ったじゃん」
海未「まったく……、誰かに迷惑かけてませんね?」
穂乃果「もう失礼だなー」
曜(なんだろ、千歌ちゃんと似たような感じなのかな……)
曜「それじゃ私たちこれで……」
穂乃果「うん、またね」
曜は千歌を連れて戻っていく
海未「……あれは、なかなかの腕ですかね」
穂乃果「うん、良かった、面白そうな子がたくさんいて」
ことり「話を持ってきてくれた花陽ちゃんに感謝しないとね」 総勢数百人も集まった浪士組は江戸を出発し、京へと向かう
ダイヤ「しかし、この人数を大して試験を行うことなく全員登用するというのは……」
鞠莉「今の幕府ってそんなにお金あったかしら?」
聖良「いえ、そんなことは……」
理亞「そこまでしてこの人数を集めるって、いくら将軍警護とはいえ……」
花陽「怪しいですよね……」
理亞「っ!?」
ダイヤ「あの、あなたは……」
花陽「浪士組の取締出役の佐々木只三郎です、一応、ご挨拶を最初にしたんですけど……」 鞠莉「周りがうるさくてほとんど聞こえなかったわ」
花陽「そ、そうですよね……」
聖良「佐々木……、もしや、講武所指南役の……!」
花陽「は、はい、一応」
鞠莉「講武所!?」
理亞「か、隠れた方がいいんじゃない?」
ダイヤ「確かに、曜さんが聞いたら斬りかかってくるかもしれませんわ……」
花陽「そ、そんな物騒な方がいるんですか……!?」
聖良「ま、まあそれはともかくとして、この大所帯はあなたでも想定外なのでしょうか?」
花陽「一応この浪士組は清河さんという方の発案で、仕切りも任せているのですが、この人数は……」
ダイヤ「何か裏があると?」
花陽「い、いえ、その、……でも、これは話せないですし、うーん……」
聖良「?」 その夜、宿場にて
穂乃果「お酒ー、お酒どこー!」
穂乃果は徳利を片手に大声で暴れている
梨子「う、うるさくて眠れない……」
ダイヤ「もう夜中ですのに、なんなのですか、あの方は……」
ことり「ごめんねー、穂乃果ちゃんはお酒入るといつもあんな感じで」
果南「あなたは?」
ことり「新見錦です、穂乃果ちゃん、えーっと、芹沢さんの同志というか……」
果南「知り合いなら止めてくれると助かるんだけど?」
ことり「うーん、ああなると私の言うことは聞いてくれないし、諫めてくれる海未ちゃんはこの時間は熟睡して起きないし……」
梨子「は、はあ……」
ダイヤ「つまり、どうすることも出来ないと?」
ことり「満足するまで待つしかないかなー……」
理亞「冗談じゃないわ、一言言わないと」
理亞は怒って穂乃果の方へ向かう 理亞「ちょっと、もう夜中なんだから静かにして欲しいんだけど」
穂乃果「えー……、まだそんなに遅くないよ?」
理亞「どう考えても迷惑っ……だって……」
理亞が言葉を続けようとしたが穂乃果からの殺気に言葉が詰まる
穂乃果「……」
理亞(な、何、この人……)
梨子「理亞ちゃんっ!」
ことり「はーい、そこまでだよー」
いつの間にか二人の間に入ったことりが穂乃果を止める
穂乃果「ん、いけないいけない、つい……」
ことり「ダメだよ、穂乃果ちゃん、酔ってるからって斬ろうとしたら」
穂乃果「あはは……」
ことり「あなたもごめんね?大丈夫?」
理亞「っ……!」
理亞は心配そうにすることりから逃げるように後退りする
果南(完全に斬る気だったのもやばいんだけど……)
ダイヤ(それを子供が悪戯したかのように叱るのも……) その様子を少し離れたところで曜と聖良が見ている
曜「……どう考えても浪士組で一番やばそうなのあの人だね」
聖良「ええ、腕が立つというより恐らく実戦経験が相当あるみたいですね」
曜「聖良さん、お願いが……」
聖良「芹沢鴨、新見錦、平山五郎、三人とも神道無念流の免許皆伝かそれに近い実力、名前は恐らく全員偽名でしょうね」
曜「あれ、いつの間に……」
聖良「もう付き合いも長いのですから、恐らく調べるよう頼まれると思ってましたよ」
曜「流石ー、山南先生」
聖良「やめてください……、ただ、詳しくはわかりません、誰に聞いても過去何をしていたかまでは……」
曜「なるほどね」
聖良「出来ればあまり深い付き合いはしたくないところですね」
曜「どうだろ、千歌ちゃんはなんか気になってみたいだけど」
聖良「そういえば千歌さんは?」
曜「爆睡中、ついでに鞠莉ちゃんも」
聖良「うちはそれで、大丈夫でしょうか……」
それぞれ不安や思惑を抱えながら一行は京へと到着する 京に着いた千歌たちは八木家を間借りすることになった
千歌「綺麗な家だねー」
理亞「ねえ、私たちは一緒として、なんであの人たちも一緒なの?」
理亞は奥の座敷にいる穂乃果達を見ながら言う
曜「仕方ないよ、そういう割り振りだし」
千歌「芹沢さーん」
穂乃果「ん?穂乃果でいいよー」
千歌「穂乃果さん、私たちはこっちを使わせてもらっていいかな?」
穂乃果「いいんじゃないかな?」
海未「ええ、私たちは奥を使いますので」
穂乃果「おっと、その前に……」 穂乃果達は腰を下ろす前に身なりを整え、八木家の当主の元へ向かう
穂乃果「しばらくの間、厄介になります、多々迷惑をかけるかもしれませんが、よろしくお願い致します」
穂乃果、海未、ことりは頭を深く下げる
聖良「っ、み、皆さんも、早く集まってください」
聖良は慌てて試衛館の面子を集めて、習うように頭を下げる
穂乃果「それじゃ、堅苦しいのはここまでにして、よろしくね」
穂乃果が笑いながら言うと八木家の当主も頭を下げて奥へと引っ込んでいく
千歌「すみません、挨拶を忘れてて……」
穂乃果「ん?いいよ、いいよー」
海未「礼は武士の基本です」
穂乃果「あはは、海未ちゃんに忘れると私は怒られちゃうからさ」
千歌「武士の、基本……」 ことり「みんなー、浪士組は集まるようにって」
鞠莉「着いたばかりなのに?」
浪士組は寺に集められると清河から浪士組は将軍警護ではなく尊王攘夷を目的として活動すると言う話をされる
「よって、私たちはこれより江戸へと戻り、真の目的のために活動する」
ざわつく一同だが、ほとんどは同意を示していく
梨子「ど、どうするの?戻るの?」
曜「今の話ってつまり幕府に逆らうってことだから……」
千歌「う、うーん……」
穂乃果「んー、私たちは行かないよ?」
穂乃果は周囲の声を気にせずに切り出す
穂乃果「私たちはそのために来たわけじゃないし、それに面白くなさそう」
曜「千歌ちゃん、千歌ちゃんも」
曜は千歌を急かすように声をかける
千歌「あ、あの、私たちも何もせずに帰るのは違うかなって……」
穂乃果、そして千歌達は清河の話には乗らずに京へ残ることになった ダイヤ「残るのは良いのですが、これからどうしますか?」
鞠莉「このままだと単なる居候の浪人よねー」
穂乃果「とりあえず、清河さんは斬らないといけないと思うんだよねー」
聖良「なっ……、しかし、それは……」
海未「あの方がやろうとしているのは簡単にいえば幕府を転覆させようとしています」
穂乃果「悪いことする前になんとかしないといけないと思うんだけど」
ことり「一応まだ京にいるうちに、だね」
理亞「斬るって言っても……どうやって……」
曜「……夜のうちに、暗殺するしかないと」
海未「ええ、そうですね」
千歌「そ、それは私たちに任せてもらえますか」 海未「どなたに実行させるつもりですか?」
千歌「それは……わた」
曜「私がやるよ」
穂乃果「んー、でも相当な腕だし、失敗できないよ?」
聖良「曜さんは実戦ではかなりの腕ですよ、問題はないかと……」
穂乃果「あー、そういうことじゃなくてさ」
海未「人を斬るというのは木刀で叩きのめすのとは違いますよ」
曜「人を斬ったことくらい、……ある」
ことり「それなら、この件は試衛館の人たちに任せてみたらどうかな?」
穂乃果「んー……、いいけど……」
千歌「心配なら、私と曜ちゃんでやる」 穂乃果「そこにいる、梨子ちゃんは?」
梨子「え、私……?」
聖良「彼女はまだ経験が……」
穂乃果「でもこの中で一番腕が立つの、多分あなただよね?」
千歌「だ、大丈夫、私と曜ちゃんで出来るっ!」
海未「それなら任せましょう、穂乃果、私たちは別で考えないといけないことも」
穂乃果「んー、そうだね、じゃあ任せたよ?」
穂乃果達はそう言って下がっていく
ダイヤ「大丈夫なのですか、あんなこと言って」
曜「やるしか、ないよ」
千歌「うん……」
千歌と曜は立ち上がると刀を持って八木邸を出ていく
梨子「大丈夫かな……」
果南「ま、やられることはないよ、少なくともね」 *****
***
*
曜「……清河は多分ここを通るはず」
千歌「間違いない?」
曜「う、うん、さっきここを通ったのは見たし、帰りにも同じ道を通るはず」
千歌「よ、よーし……」
千歌と曜は息を殺して物陰に隠れる
曜「……」
千歌「……ねえ、本当に斬ったことあるの……?」
曜「……あるけど、殺したことはないよ」
千歌「な、なんだ……」
曜「……でも大丈夫、どうすればいいかはわかってるから」
千歌「私も、大丈夫だよ……」
二人はお互いの顔を見ないまま暗がりで待ち構える しばらくすると話し声と足音が聞こえる
千歌(きた……)
曜(よし……)
耳を澄ませて近づいてくるのを待ち刀を構える
二人が飛び出そうとした、その瞬間肩を掴まれ戻される
曜(え!?)
二人が振り向くと果南が両手で二人の肩を掴んでいる
近づいていた足音は次第に遠ざかる
千歌「果南ちゃんっ、なんで邪魔を!」
果南「そんな震えた手で斬れるわけないでしょ、それに良く見なよ、別人だよ」
曜は言われて後ろの姿を見ると清河とは着物が明らかに違うことに気付く
曜「……っ」 果南「斬り損ね、人違い、それは許されないよ」
曜「……このままじゃ……」
果南「……私が声かけてバレたってことにしよう、それで納得するかは知らないけどさ」
千歌「でも果南ちゃん、それじゃ……」
果南「私は無能でいい、曜、わかるよね」
曜「それは……」
果南「私たちを束ねるのは千歌だ、ここぞで千歌を貶めることは絶対にさせない」
千歌「わ、私はそんな……」
曜「果南ちゃん、ごめん……」
果南「いいんだよ、ほら、戻ろう」 *****
***
*
海未「逃した?」
果南「いやー、二人が見えて声をかけたらバレちゃったみたいでさ」
千歌「……向こうも警戒していたみたいで声に敏感になってたみたいで」
曜「姿は見られてないけどね」
ダイヤ「……全く何をしているのですか、果南さんは」
果南「いやー、ごめんごめん」
穂乃果「仕方ないよ、でももう京で暗殺は無理かな……」
ことり「警戒強めるよね」
海未「仕方ありません、清河暗殺はあきらめましょう」
果南「申し訳ないね」
穂乃果「とりあえず、上様もそろそろ上洛だし、まずは警護でも考えようか」
海未「実際に出来るのかわかりませんが……」
穂乃果と海未は部屋を出て奥へと戻る
曜「……ふぅ」 ことり「緊張してたかな?」
ことりが息をつく曜の顔を覗き込む
曜「うわぁ!?」
ことり「安心して、最初から難しいと思ってたし、誰がやっても結果は同じだったと思うから」
千歌「え、それはどういう」
ことり「んー……穂乃果ちゃんはわからないけど海未ちゃんは試したんじゃないかなー」
千歌「無理だと思うことをやらされて試されてもなー……」
ことり「あ、それは違うよー?試したかったのは、近藤勇という人間とその周りの人たちの動き方」
曜「……!」
ことり「多分ね、合格だと思うから安心してね?」
ことりは笑いながら部屋を出ていく 果南「……なるほどね、相当厄介だ」
千歌「え、あの……」
曜「つまり、千歌ちゃんが率先して行動するか、失敗した時に周りが責任を被れるか、それを試された……」
ダイヤ「なるほど、そういうことでしたか」
聖良「……気を引き締めなくてはなりませんね」
千歌「……警護なんだけど、これ」
曜「いいよ、私が鞠莉ちゃんと理亞ちゃんあたり連れて適当に歩いてくるから」
ダイヤ「大した成果がある仕事にならないでしょうしね」
聖良「私や千歌さんは今後のことを考えましょう」
千歌「うん」
*****
***
*
穂乃果「というわけで、ごめんねー、失敗しちゃったよ」
花陽「し、仕方ないよ、その、京では流石に警戒してるでしょうし」
穂乃果「だよねー」
花陽「清河さんは江戸に戻り次第、私が、斬るから」
穂乃果「うん、よろしくね」
花陽「うん、そうだ、それと例の件も話は通したよ」
穂乃果「ありがとね、花陽ちゃん」 数日後、京の町は人で溢れかえっている
鞠莉「ちょっとーこれじゃ警護も何もできないじゃない!」
理亞「ねえ、本当にやらないといけないの?」
曜「一応、それが目的で来たんだし」
理亞「それはそうだけど……」
鞠莉「いいじゃないー、将軍が見れるなんてあんまりない機会よ?」
理亞「その言い方はちょっと無礼じゃ……」
しばらくすると多くの従者を引き連れた行列がやってくる
曜「すごいね、これは……」
鞠莉「こんな中で何かしようとする馬鹿な人もいないんじゃない?」
??「よっ!征夷大将軍!!」
理亞「な!?」
「おい、誰だ、今のは!」
「無礼な!」
突如人混みから発せられた声に護衛達が騒ぎ出す 曜「今のって、野次?」
理亞「向こうの方向から聞こえたわ」
鞠莉「せっかくだから私たちで捕まえちゃおうか」
理亞と鞠莉は声がした方へ走っていく
曜「ちょっと、ちょっと……」
曜も後を追うように走るも二人とは道を逸れる
曜(こっちの裏道使った方がいいんじゃないかな)
裏道を進んでいくと話し声が聞こえ曜は身を隠す
栞子「な、何を考えているんですか!?」
愛「だってさー、初めて見たわけだし、声も出ちゃうよねー」
曜(この声、さっきの野次の)
栞子「あれじゃ将軍を馬鹿にされたと思って捕まりますよ……」
愛「でもほら、護衛も距離が遠いから誰だかわかってないみたいだし」
栞子「まったく、何かあったら久坂さんに怒られるのは私なんですから、大人しくしてください、高杉さん」
愛「もう、こういう場では愛でいいって」
栞子「そういうわけには……」
愛「そうじゃなくてさ、誰かいるっぽいよ?」
愛が曜がいる方向を見て言うと栞子がすぐに反応して駆け出す
栞子「……逃げられましたか」 曜(やっば……、あれ気付かれるって……)
曜はせつ菜がこちらを見るのと同時に逃げ出し難を逃れる
鞠莉「曜ー、ダメだわ、見つからない」
理亞「京は道がよくわからない……」
曜(……京で活動するなら、この町をまずは知り尽くさないといけないね)
曜(それから情報をたくさん手に入れないと……)
鞠莉「曜?どうしたの?」
曜「ううん、とりあえず帰ろうか」
曜達は家茂上洛に何もできずに帰っていく 数日後
穂乃果「待て待てー」
穂乃果は八木家の子供達と家中を走り回り遊んでいる
千歌「……」
曜「千歌ちゃん、混ざろうとしないで」
千歌「な、なんでバレたの?」
曜「さっきから楽しそうだなーって顔で見てるから」
理亞「さっきからバタバタと……、そろそろ怒られるんじゃないの」
ダイヤ「怒る相手がいませんからね」
果南「そういえば、海未も、ことりもいないね」
鞠莉「二人なら朝早く出かけてたわよー?」
理亞「通りで伸び伸び遊んでるわけね」
ダイヤ「それが子供と追いかけっこというのもどうかと思いますが……」 海未「ただいま戻りました、……おや?穂乃果は?」
穂乃果「よーし!次は穂乃果が逃げるよ!せーの……あ」
海未「……何をしてるのですか!」
穂乃果「い、いや、子供達が退屈してるから……」
海未「だからといって、子供相手にバタバタと本気で走ってどうするのですか!」
穂乃果「うわああああん」
梨子「……私、未だに穂乃果さんのことよくわからないんだけど……」
鞠莉「それで言えば海未もよくわからないわよ、穂乃果の好き勝手を許す時もあるのに、ああやって注意する時もあるし」
ことり「海未ちゃんは武士らしくあるかどうかで怒る基準があるんだよー」
梨子「に、新見さん……」
ことり「畏まらなくてもことりでいいよ?」
曜「武士らしくって、どういう……」
ことり「んー、そこは海未ちゃん基準だからねー、見てればそのうちわかると思うよ」
梨子「……子供と追いかけっこするのは確かに武士らしくはないかもしれないけど……」
千歌「……多分、そこじゃないのかも」
梨子「え?」 海未「まったく……、それはそうと、皆さん、揃ってますか?」
果南「ん?何か話?」
海未「ええ、穂乃果、例の件、正式に決まりましたよ」
穂乃果「お、やったね、それじゃ……海未ちゃん話していいよ」
海未「会津藩が京に残った浪士組をお預かりしてくれるとのことです」
梨子「会津?」
鞠莉「会津ってー……え?ここ京よね?」
ダイヤ「会津といえば、……京都守護職の」
聖良「松平容保公ですね、まさか容保公から……?」
穂乃果「うん、ちょっと繋がりがあってね、話をしておいたんだよ」
海未「近いうちに直々にお会いして、そこで正式に会津藩お預かりとなります」
千歌「すごーい……」
曜「……相談なしに話を進めすぎな気もするけど」
海未「……では、他にいい手が?」
曜「それはないけど、同じ浪士組の同志と考えるなら事前に話をするのが筋じゃないのかな?」
海未「……」
曜「……」 穂乃果「うん、それもそうだよね、少なくとも千歌ちゃんには伝えるべきだったよ」
千歌「え、いや、私は別に……」
穂乃果「海未ちゃんも今後はちゃんと、千歌ちゃん、ううん、近藤先生に話を通してね」
海未「……了解しました」
穂乃果「それでいいかな?土方君?」
曜「……はい」
笑う穂乃果とは対照的に厳しい表情のまま頷く曜
聖良(曜さんにはいつも損な役割を……)
ダイヤ(しかし、ここではっきりと言うことは意味があるはず) ことり「それでね、一応正式に決まる前に、もう少し人を増やそうと思ってるんだよね」
鞠莉「確かに、京都守護職お預かりにしては心許ない人数よね」
穂乃果「隊士募集をしようかなって」
千歌「それなら何か手つ」
果南「あー、隊士募集であれば、聖良さん中心にすでに準備しようかと思っていたからちょうどいいよ」
海未「そうなのですか?」
聖良「……ええ、千歌さんに相談されて準備を、採用の有無は曜さんにお願いする予定です」
穂乃果「それなら任せていいんじゃないかな?」
海未「そうですね、では隊士募集の件は任せますよ」
聖良「はい、もちろんです」
穂乃果「じゃあよろしくね?」
穂乃果達はそう言って立ち上がり出かけていく 聖良「……果南さん、無茶なことを急に言わないでください」
果南「でも、ああするしかないでしょ?」
梨子「え?今の話はじゃあ……」
曜「初耳だよ、急いで準備しないと」
千歌「そうだよねぇ、私そんな話したっけって考えちゃったよ」
ダイヤ「少しでも穂乃果さんと対等の位置に千歌さんを置くにはああ言うしかありませんからね」
聖良「正直期待する人材が来るとは思えませんが、仕方ありません」
千歌「ごめんね、私が頭回らないから苦労させて」
曜「それは言いっこなし、よし、聖良さん募集の案内はすぐ作れる?」
聖良「ええ、大丈夫です」
曜「それじゃ、鞠莉ちゃんと理亞ちゃんは隊士募集の話を町で広めてきて」
理亞「なんで私が……」
鞠莉「了解っ、いくわよ、理亞!」
曜「梨子ちゃんは、……あの三人に会津からどれくらいお金貰えるか聞いてきてもらえる?」
梨子「え、お金?」
曜「まさかいくら貰えるか不明で募集はできないし、私から聞くのはあれだし……」
果南「梨子はなんか気に入られているみたいだしね」
梨子「いいけど……、教えてくれるかな」
曜「よし、時間ないけど頑張るよ!」 こうして最初の隊士募集が始まり、会場となる八木邸の隣の壬生寺には噂を聞きつけた者達が集った
「えーと、なるべく楽して稼げたらなって」
曜「却下、次」
「尊王攘夷のために!私は!」
曜「次……」
聖良「やはり急だとダメですね」
曜「向こうは?」
ダイヤ「梨子さんと理亞さんが次々に倒しまくってますわ」
曜「あの二人、試験の意味わかってる?」
曜が頭を抱えていると弱々しい声で話しかけられる
ルビィ「あのぉ……、こちらに永倉さんは……」
ダイヤ「ルビィ!?」
ルビィ「お姉ちゃん!」
曜「お姉ちゃん……?」 ダイヤ「なぜ、こちらに」
ルビィ「噂を聞いて京まで来たの、そしたら浪士組が隊士を募集してるっていうから、もしかしてって」
曜「ダイヤさん、この子は?」
ダイヤ「私が江戸で師範代を務めていた時に知り合った子ですわ、名前は島田魁、私を姉のように慕ってくれてます」
ルビィ「よ、よろしくお願いします」
聖良「ここに来たということは、浪士組に?」
ルビィ「は、はい、お願いします」
曜「えーと……」
曜は明らかに小さな体格のルビィを見て戸惑う
ダイヤ「実力はありますわ、それとルビィ」
ルビィ「う、うんっ……うゅ……!!」
ルビィは寺にある石柱を抱えると思い切り持ち上げる
曜「は、はああああ!?」
ルビィ「ふぅ……」
ダイヤ「見かけによらず、力がすごいのです」 曜「な、なるほど……、採用で」
花丸「一芸持ちも採用、単純に剣が強い人を集めてるわけではないということずらね」
曜「そうだね、いろいろと役割はあるだろうし……、って、誰!?」
自然と曜の隣に座って話に入ってくる人物に気付き曜は思わず刀を手に取る
花丸「怪しいものじゃないよ」
曜「怪しいよ!」
花丸「単なる入隊希望者ずら」
曜「入隊希望……、見たところ刀も持ってなさそうだけど」
花丸「この辺りのことは詳しいよ、それと本をたくさん読んでるからそっちでも役に立てるし……」
曜「気配を消すのは?」
花丸「今見せた通りずら、それに誰もマルが浪士組とは思わないと思うよ」
曜「……なるほど、そういうのもいるか……名前は?採用するよ」
花丸「山崎丞ずら、ちなみにお金はどれくらい?」
聖良「それは要相談ということで」
ダイヤ「いいのですか?戦力にはならなそうですが」
曜「いや、隠密みたいな役割は必要だよ、特に入り組んだ京の町に詳しい人は欲しいと思ってたし」
ダイヤ「なるほど」
曜「でも、単純に腕の立つ人も欲しいけど……」
聖良「それは、ちょうど良い方がいそうですよ」 聖良の視線の先にいる人物が入隊希望者を次々に倒していく
善子「……何よ、全然強いのがいないじゃない」
梨子「っ、善子ちゃん!!」
梨子は善子に気付くと嬉しそうに木刀で飛びかかる
善子「ひっ!?だから、なんでいつも襲いかかるのよ!」
梨子と善子は木刀で打ち合いを始める
曜「あれって、梨子ちゃんが話していた……」
ダイヤ「相当な腕ですわね……」
曜「ダイヤさんとどっちが上?」
ダイヤ「……」
曜「なるほど、これは強いね、ねえ!善子ちゃんだっけ?採用だよ!」
善子「善子じゃないっ!私は、えーっと……斎藤一よ!」
理亞(絶対偽名ね)
聖良(偽名ですね)
曜「よろしくね、善子ちゃん」
善子「善子じゃない!!」
こうして、斎藤一、島田魁、山崎丞を含めた隊士が入隊することになった 梨子「でも、なんで善子ちゃんが京に?」
善子「だって、試衛館に行ったらあんたがいないんじゃない」
梨子「あ、言うの忘れてた」
善子「話を聞いたら京に行ったって言うからわざわざ来たのよ」
梨子「でも、京って広いのによくわかったね?」
善子「なんかすごい噂広まってたわよ、手当もすごいもらえて、凄腕が集まるって」
ダイヤ「鞠莉さん、あなたはどういう勧誘をしてたんですか……」
鞠莉「な、なんで私なのよ」
ダイヤ「他に誰がいると……」 聖良「戻りました」
ダイヤ「どうでしたか?」
聖良「ええ、周辺の家もお借りできることになりましたよ、私たち試衛館組はそちらにいこうかと」
梨子「確かにここだけじゃ足りないくらい人も増えたもんね」
善子「何?ここじゃないの?荷物置いちゃったわよ?」
ことり「んー、ここでもいいんじゃないかな?」
いつの間にかことりが輪の中に加わっている
ダイヤ(また突然現れますね……)
ことり「穂乃果ちゃんが梨子ちゃんは八木邸でいいんじゃないって言ってたよ?」
梨子「え、でも……、千歌ちゃん達が移動するなら……」
ことり「梨子ちゃんは強いから気に入ってるんじゃないかなー」
善子「それなら私も強いわよ」
ことり「うん、善子ちゃんもこっちでいいって」
善子「え?」
鞠莉「それなら私は?」
ことり「他の人たちは別にいらないんじゃないかなー?」 ダイヤ「随分ですわね」
ことり「だって、他のみんなはどうあっても私たちのことは好きにならないでしょ?」
聖良「……まさか、そんなことありませんよ」
ことり「んー、あ、確かに」
ことり「千歌ちゃんはもしかしたらこっちに来るかもね」
ことりはそれだけ言うと笑って部屋を出ていく
鞠莉「ことりはなんだかよくわからないわね」
ダイヤ「読めない方です、それを言ったら穂乃果さんもですけど」
梨子「わ、私、千歌ちゃん達と一緒がいいよ?」
善子「それなら私もそっちがいいわ」
聖良「ええ、大丈夫ですよ」 数日後
穂乃果「それじゃ、入るよ」
千歌「は、はい……!」
穂乃果「そんなに緊張しなくて大丈夫だよ」
浪士組の面々は会津藩邸の前へとやってきた
曜「ここが会津藩邸……、損な役割を押し付けられた藩の本拠地ってことだね」
梨子「損?」
曜「京都守護職をやりたくもないけど無理やり受けざるを得なかったとか、あんまりいい話は聞かないよ」
聖良「曜さん、流石に控えてください……」
梨子「すごい、曜ちゃん物知りだね」
曜「町の噂だけどね、京の人たちはそう言ってたってだけ」
海未「あまり噂を信じない方が良いですよ」
曜「え?」
海未「その目で見ていないことというのは、不確かなものということです、まあ会えばわかりますか……」 会津藩邸の中へと入ると浪士組の面々は謁見の間へと通される
花丸「すごい広いずらー」
理亞「花丸!?ルビィ!?なんでいるのよ!?」
ルビィ「花丸ちゃんがついていこうって……」
花丸「理亞ちゃんもいるからいいかなって」
理亞「私は試衛館からの付き合いよ、なんで私がいればいいってことになるのよ!」
海未「静かに、お見えになりますよ」
理亞「納得いかない……」
奥から数人の人の気配がすると全員が頭を下げる
「……」
着物の擦れた音が止まり正面に人が座った気配がする
にこ「いいわよ、頭下げなくて」
その声に千歌は頭を上げようとするも聖良や曜に止められる
にこ「だからいいっての、二回言うの面倒なのよ……」
ようやく全員が頭を上げて正面に座る人物の姿を見る
にこ「よく来たわね、私が面倒な京都守護職を無理やり押し付けられた松平容保よ」 曜「えっ」
にこ「外だからって気を抜かないことね」
曜(聞いていたのとなんか違う……)
にこ「間違いじゃないけどね、そしてあんた達はそんな運の悪い藩のお預かりになったのよ、良かったわね」
穂乃果「もう、にこちゃんは意地悪な言い方するなー」
にこ「いきなり馴れ馴れしいっての!花陽からの話がなかったらわざわざ雇うつもりなんてないんだからね?」
千歌「……誰?」
海未「そこは、その、気にせずに」
にこ「ただ、こっちも利点がないのに藩預かりにするつもりはないわ」
千歌「え!?」
にこ「京都の治安維持、どれだけのものかわかってるわね?」
にこ「暗殺が至るところで起きている、正直中途半端な浪人ならいらないのよね」
穂乃果「私たち結構強いよ?」
にこ「それじゃ、ちょっと見させてもらうわ、この中から誰か試合をしなさい」 曜「聖良さん、これってよく言われる上覧試合ってやつ?」
曜が聖良に小声で尋ねる
聖良「ええ、おそらく、曜さん、これはおそらく」
曜「好機ってやつだ」
聖良「はい、上手くお願いしますよ」
穂乃果「今からここで?」
にこ「そうよ、出来るわよね?」
千歌「は、はい、大丈夫です」
千歌は曜にせっつかれて慌てて口にする
海未「では組み合わせは……」
曜「なら、まずは私と藤堂君で」
理亞「えっ、は、はいっ」
曜「もうひと試合なら、永倉君と斎藤君」
聖良(なるほど、いい組み合わせですね)
海未(あからさまに近藤派ですか、……まあいいでしょう) にこ「あー、そういうのいいわ」
曜「え?」
にこ「私が見たいのはそういうのじゃないのよねー、もっと真剣な興奮するような試合が見たいのよ」
千歌「あ、あの、その四人は実力もかなりのもので……」
にこ「仲良しこよしの試合でしょ、それ面白くないから」
曜(な……なんなのこの人……)
にこ「ちなみに?この浪士組の頭は誰?」
海未「芹沢です」曜「それは近藤です!」
同時に発言した海未と曜がお互いを見る
にこ「ふーん、なるほどなるほど、いいわ、芹沢派、近藤派お互い一番強いのを出しなさい」
にこ「勝った方が浪士組の局長、これ、面白いでしょ」
ニヤニヤとにこは笑いながら提案すると、側近達は頭を抱えている 曜(嘘でしょ……、何この殿様、噂とは違う方向でやばい人だ……)
にこ「ほら、誰が出るの」
千歌「よ、曜ちゃん、私は別に局長なんて……」
曜「いいから、聖良さん、どうする?」
聖良「……剣の腕なら、梨子さんでしょうね……」
梨子「わ、私出来るよ」
千歌「……梨子ちゃんにそんな責任を負わせるのはちょっと」
にこ「ほら、どうするのよ」
千歌「わ、私が!」
曜「ちょっとっ!」
にこ「そっちは」
ことり「それはもちろん」
穂乃果「私がやるよ」
聖良「な……」
にこ「いいわね、面白いじゃない」 *****
***
*
藩邸の庭で簡易的な試合場が作られる
穂乃果と千歌はそれぞれ木刀を持ち相対している
ダイヤ「この二人が試合ですか……」
鞠莉「……」
理亞「どうしたの、いつになく真剣な顔で」
鞠莉「……多分、この二人の試合なんて二度と見られないと思って」
花丸「穂乃果ちゃんって強いずら?」
聖良「ええ、強いですよ、剣術として素晴らしいものを持ってます」
ルビィ「その、芹沢先生は……?」
曜「実際の腕は見たことない、神道無念流の免許ってことくらいで」
善子「……あの立ち姿を見ればわかるでしょ、あれは……化け物よ」 千歌は穂乃果に対して木刀を構えるも手が出せずに穂乃果の周りを間合いをとりながら動く
穂乃果「……やっぱり千歌ちゃんはいいね」
千歌「……え?」
穂乃果「千歌ちゃんほどの腕なら実力差はわかるはずだよね、私には勝てないことくらい」
千歌「やってみないとそれはわからないよ」
穂乃果「うん、そう、そう言って戦う千歌ちゃんが、私は好きだよ」
穂乃果は千歌に即座に近づき木刀を振り下ろす
千歌「っ」
千歌はなんとかそれを受けて反撃しようとするも穂乃果は構わずに攻め続ける
穂乃果「……まだ、あなたじゃ私に勝てない、でもその気持ちの強さは大好き、強いよ、千歌ちゃんは」
穂乃果の左右からの振られる木刀を千歌はなんとか受け切る
穂乃果「でもね、上に立つ人の行動としては失格かな」
千歌はとうとう木刀を受けきれずに肩で受けてしまい、崩れ落ちてしまう
千歌「ぐっ……」
穂乃果「……」
穂乃果が木刀を千歌に突き立てる
千歌「……まだまだ……」
千歌は跪きながらも穂乃果を見て木刀を向ける
穂乃果が目が死んでいない千歌に止めを刺そうとする
穂乃果「どういうつもりなのかな?」
穂乃果の木刀の動きが止まる
飛び出した曜が木刀を手で握り締めている
曜「……」 曜は穂乃果をじっと睨む、木刀は完全に動きを止めている
千歌「曜ちゃん……」
穂乃果が木刀を離すと振り返り戻っていく
穂乃果「勝ちでいいんだよね?」
にこ「ええ、いいわよ、実力もよくわかった、十分ね」
にこ「あんた達はこれから壬生浪士組と名乗りなさい、以上よ」
満足そうに笑うとにこは屋敷内へ戻っていく
ことり「流石穂乃果ちゃんだねぇ」
海未「ええ」
穂乃果「……んー、間違えたかな」
海未「どうしましたか?」
穂乃果「千歌ちゃんじゃなくて、曜ちゃんの方だったかな」
海未「……?」 千歌「痛たた……」
梨子「大丈夫?千歌ちゃん」
千歌「うん、ごめんね、負けちゃった」
聖良「いえ、判断を間違えました、千歌さんを出すべきではなかったです」
ダイヤ「ええ、私が即答すべきでした」
梨子「違うよ、私が一番強いからっ……」
曜「……今言っても意味がないよ」
果南「曜……?」
曜「私たちは千歌ちゃんに行かせた、これが戦なら大将を行かせて首を取られたようなものだよ」
鞠莉「それはちょっと大袈裟じゃ……」
曜(向こうは確信を持って必ず勝てると思って穂乃果さんを出した、私たちは違う、不安があるのに千歌ちゃんを行かせた……)
千歌「曜ちゃん……」
こうして浪士組は壬生浪士組として正式に京の治安のために動き始めたのであった 近藤勇:高海千歌
土方歳三:渡辺曜
沖田総司:桜内梨子
井上源三郎;松浦果南
山南敬助:鹿角聖良
永倉新八:黒澤ダイヤ
藤堂平助:鹿角理亞
原田左之助:小原鞠莉
斎藤一:津島善子
島田魁:黒澤ルビィ
山崎丞:国木田花丸
芹沢鴨:高坂穂乃果
新見錦:南ことり
平山五郎:園田海未
佐々木只三郎:小泉花陽
坂本龍馬:高咲侑
高杉晋作:宮下愛
吉田稔麿:三船栞子
松平容保:矢澤にこ 江戸にて、花陽は血がついた刀を手に佇んでいる
花陽「……」
花陽の足元には清河と思われる人物の死体が横たわっていた
花陽「ふぅ……」
花陽「穂乃果ちゃん達は上手くにこちゃんと会ったかな……」
花陽「これから色々と大変そう……」
そして、京でも同じ頃
梨子「はあはあ……」
千歌「……」
千歌と梨子の前に死体が転がっている 千歌「殿内さん……」
梨子「姿が見えないから探してたら、まさか死んでるなんて……」
千歌「……この服装見る限り、京から逃げようとしてたのかな」
千歌と梨子は殿内を見ながら話していたが、お互い何かに気付き即座に刀を抜く
千歌「梨子ちゃん!」
梨子「うん!」
二人に襲いかかってきた者達を千歌は振り抜き、梨子は一突きで仕留める
「ひ、ひぃいい……!?」
千歌「……もう一人いた、あなた達が殿内さんを?」
「くっ……!ぐはっ!?」
逃げようと背を向ける相手を梨子は躊躇うことなく後ろから刀で突き刺す
「あ……が……」 梨子「……」
梨子は刀を抜くとまた刀を急所へと突き刺して止めを刺す
千歌「っ、梨子ちゃん!!」
止めを刺した後も刀を突き刺そうとする梨子を千歌が止める
梨子「あ……、あ……」
我に帰った梨子は刀を持ったまま震えている
千歌「梨子ちゃんっ、大丈夫!?」
梨子「私、殺し……人を殺した……」
千歌「……じゃなきゃ、殺されてたよ」
梨子「人ってこんなに簡単に……あ、あはは……」
千歌「……行こうか」
梨子「殿内さんは、どうするの……?」
千歌「私が斬ったことにする」
梨子「え……?」
千歌「……多分曜ちゃんなら、そうするはず」 *****
***
*
穂乃果「そっかー、殿内さん裏切り者だったんだ」
千歌「……不逞浪士と一緒に何か企んでたから、私と梨子ちゃんで斬ったよ」
ことり「可哀想だけど、仕方ないね……」
穂乃果「うん、ありがとね二人とも、汚れ仕事をしてもらって」
千歌「……斬らないと逃げられるかなって思っただけだから」
梨子「……それでは、失礼します」
千歌は穂乃果に報告すると部屋を出ていく
海未「……どう思いますか?」
ことり「うん、嘘だと思うよー?殿内さんがそんな大それたこと出来ると思えないし」
穂乃果「でも千歌ちゃんも梨子ちゃんも人は斬ったと思うな、目が違うもん」
海未「穂乃果、いいのですか?」
穂乃果「仕方ないよ、んー、あとは曜ちゃんにもう少し頑張って欲しいんだけどねー」 千歌「これが壬生浪士組で初めての仕事ってことなのかなー……」
梨子「……」
千歌「梨子ちゃん」
梨子「な、なに」
千歌「多分梨子ちゃんはこれからたくさん人を斬ることになると思う」
梨子「う、うん、わかってる、怖いけど、そのうち慣れて……」
千歌「ずっとそのまま怖がっていてね」
梨子「え?」
千歌「人を斬ることを怖がって、人が死ぬということを怖がって」
梨子「でも、それじゃ……」
千歌「ダメだからね、梨子ちゃんは人斬りなんかになっちゃ」
梨子「……うん」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています