凛「この一球に……命を懸ける!」
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凛(はっきり言って私は、小さい頃野球に興味なんて無かった)
凛(始まりは……小学校の夏休みのあの日、たまたま押し入れで見つけた一本のVHS)
凛『甲子園決勝大会 音ノ木坂高校対浦の星女学院……?』
凛(なんの気無しにビデオデッキに入れて、暇つぶしのつもりで見始めて)
凛(……試合が終わるその瞬間まで、目が離せなかった)
実況『空振りィィッ! 四番松浦、その場に崩れ落ちましたッ! 凄い、凄すぎるぞ豪腕桜内ッ! 9回裏の連続三振ーッ! キャッチャー星空がマスクを取って駆けつけ……』
実況『おっと……どうしたことでしょうか桜内。肩を抑えて……』
凛(そこで、テープは終わっていた。後でママに聞いた話だと、それはママが高校球児だった時の映像で。音ノ木坂が最強と呼ばれた、その時代を納めたものだったらしい)
凛『音ノ木坂高校……!』
凛(特に目標も無かった凛の人生に、その日一つの目標が生まれたんだ)
凛(ママのように、音ノ木坂高校で甲子園に出たい。って) 真姫「次は私の番ね。敬遠だとは思うけど、甘いところに来たら……」
凛(そして真姫ちゃんも当然のように敬遠され、ツーアウト満塁となったのだった)
真姫「カット!?」
真姫「待ちなさいよ、まだ私がいい感じのことを言って……!」
凛(なったのだった)
真姫「……」
絵里「……満塁。ポテンでも、打ちさえすれば最低一点の場面か」
絵里「よしっ! 行ってくるわ!」
第6打席 打者絢瀬絵里
真姫「絶対打ちなさいよ! こうなったら走塁でいいところを見せ」
かすみ「フッ!」ビュオン
真姫「聞きなさいよ!」
絵里(浮き上がって……止まる、って言ってたわよね) 絵里「……!」
フワッ
絵里(ここ!)ブンッ
絵里(確かに球は止まって、その場で浮き上がった。ポールに置いたボールを打つような、簡単に打てる球……!)
絵里(けど……!)
スカッ
ズバァンッ!
凛「か、空振り……!」
絵里「参ったわね……」
絵里「私、ポールに置いたボールにも滅多にバット当たらないのよ……!」
真姫「は……」
真姫「はああああぁぁぁぁぁぁっ!?」 真姫「そりゃ、そんな……そういうシーン、漫画でたまに見るけど!」
侑「現実にもいるんだね、そういう人」
歩夢「狙ったところにバットがいかないタイプなのかな……?」
侑「何にせよ、こっちにとってはチャンスだね。かすみ! 三振取っちゃって!」
かすみ「ふっふっふぅ……よっうやくかすみんの可愛いエンジンが温まってきたようですねぇ」
かすみ「これですよこれ、これこそがかすみんなんです!」ギュオッ
絵里「ッう!」ブォンッ
スカァッ
絵里(当たらない……! こんなことなら、バッティング練習ももっとしておくべきだったわね)
希「苦手やから、そもそも当たらんからって守備練習ばっかさせてたからなぁ……」
果林「最低限、止まった球は打てる程度には練習させておいた方が良かったんじゃない?」
希「せやなぁ……失敗したやん」 絵里「……くっ」
かすみ「サインは……コースをつけ? 必要ないと思うんですけどね」
かすみ「真ん中でも打てないのが、かすみんの真の実力なんですからっ!」キュッ
ギュオッ
絵里(コースギリギリ……! 入って……いや、これは)
審判「ボォ!」
かすみ「球半分ずれてましたかぁ……デブ子先輩、最初からボールコースにミット置いてませんでしたぁ?」
「……」フゴッ
かすみ「冗談ですよ。とにかく、これで一回表も終わりです……いきますよぉ!」
ギュウッオン!
絵里(速い……! 明らかに、さっきよりも球が速くなってる!?)
絵里(まさか、あの投手……調子に乗ると強くなる目立ちたがりタイプ? 調子に乗らせたのは……私だ)
絵里(打てない……止まったところを狙っても、バットが空を切るだけ。どうすれば……!) 絵里(低い位置から、浮き上がって止まって……その瞬間を捉えるしかない! とにかくバットを振り回して……)
絵里(……?)
ギュウォオォオォ
絵里(いや……違う、その方法じゃ打てない。バットにボールが当たらない私じゃ、皆と同じようにしても仕方ない)
絵里(狙うのは……!)
希「な、なんや!? 構えが変わった!?」
真姫「大きく振り上げ……っ、まさかあの構え!」
絵里「っらぁぁぁぁああああっ!!」
ブォンッ!
絵里(浮き上がって打てないなら……)
真姫「ゴルフじゃない!?」
絵里(その前に、無理矢理捉える!)
ギィッン! 穂乃果「あ、当たったけど……なんでゴルフ!?」
凛「そっか……」
穂乃果「凛ちゃん、何か分かったの?」
凛「かすみちゃんのあのボールは、言ってしまえば縦に曲がってくるストレートにゃ」
凛「縦に曲がる球なら、横向きのバットよりも縦に向けたバットの方が必然的に面は大きくなる」
花陽「だから、あのバットを縦にしたゴルフスタイル……」
花陽「無理矢理にでもミートしやすくなるんだね」
穂乃果「けど、代わりに威力は……」
ヒョロロロッ……
歩夢「オーライ……オーライ……よっ!」パシッ
塁審1「アッ! チェン!」
絵里「っはぁー……全っ然飛ばなかったわね」
希「大丈夫やん、絵里ち。当たっただけでも十分やと思うよ」
真姫「駄目よ、甘やかさない! 試合終わったらみっっっちり、バッティング練習させるから!」
絵里「分かってるわよぉ……」 一回裏 虹ヶ咲攻撃
穂乃果「まさか一点も取れずに攻守交代なんて……」
絵里「いつものことじゃない」
穂乃果「そうだけど! あの球ならまぁ一点くらいいけるかなーって思うじゃん」
絵里「私だって予想外よ、エマや真姫が敬遠されるなんて!」
エマ「よく敬遠されるから、そうなるだろうなぁって思ってたんだけどね」
真姫「私も敬遠慣れてるし。スラッガーはPASSさ……ってもんよ」
絵里「弱小と強豪の違いね」
希「まぁまぁ……こっちも0点に抑えればええ話やん」
希「かすみちゃんも凄いピッチャーやったけどこっちには球拾もいるし、凛ちゃんもいるんやから」
穂乃果「球拾ちゃん、絶対打ち取ってね! 出来れば三振取ってね!」
絵里「素人ばかりなんだから、外野に飛んだらほぼ終わりと思って投げなさい」
「プレッシャーかけてくるなぁ……」 第1打席 打者近江彼方
彼方「……」
侑「0点に抑える、だって」
歩夢「けどあれだけ自信があるってことは、相手も凄いピッチャーなのかもしれないよ」
侑「無いよ。強いピッチャーがいるなら、音ノ木坂は弱小なんて呼ばれてない」
果林「思いっきりブーメランじゃない」
侑「いいんだようちは……かすみもりなりーも今年入ってきたばかりなんだから」
かすみ「ええ、そうですよぉ。今年の夏には、虹ヶ咲は弱小の名を挽回してる筈です」
果林「挽回するの?」
せつ菜「かすみさん、それを言うなら返上ですよ!!!!」
かすみ「ギッ」(声と共振し肉体が自壊する)
侑「まあまあ……とにかく、相手を黙らせてあげてよ。彼方さん」
彼方「……」
侑「彼方さん?」
彼方「……zzz」
歩夢「寝てる!? お、起きて! 起きてください!」ユサユサ 彼方「ふぁああ……おはよ、彼方ちゃんはおねむだよ。もう少し寝かせて……」
果林「駄目よ。彼方がトップなんだから……早くバッターボックスに入ってきなさい」
彼方「ふぁあああっ……むにゅ」
「欠伸混じりとは……舐められたものですね」
希「大丈夫なん? 眠かったら三振するまで寝ててくれてもええよ?」
彼方「いやぁ……それやると侑ちゃんに怒られるからねえ。普通にやるよ」
希「そう……打ち取って、なるべく早くベンチに返してあげるやん」
彼方「んー……」
「とりあえずは……」
希(内角に一球外して様子見やん)
「……」コクッ
「ふぅー……とにかく凛ちゃんに代えたくなくなるくらい活躍しなきゃ。まずは三振一つ取って……」ヒュッ 希(ボール一個外れてるコース……相変わらずコントロールは完璧やな。球おっそいけど)
彼方「んー。彼方ちゃん、いいこと思いついたよ」
希「……?」
彼方「早くベンチに戻れて、侑ちゃんにも怒られない……」ヒュンッ
カキンッ!
希「なっ……無理やり打ってきた!」
絵里「ボール球を初球打ち……ひょろひょろ上がったセンターフライじゃない」
絵里「凛! バック、バックよ!」
凛「はいはい……下がって下がって」
凛「意外に伸びるにゃ……あんなふらふらなのに」ガンッ
凛「にゃ? ……フェンス?」
「う、嘘……」
凛「まだ落ちてこない、ってことは……」
穂乃果「先頭打者……ホームラン!?」 彼方「ふぁ……」タッタッタッ
彼方「はい、ホームベース踏んだ……戻るね」
希「嘘やろ……何で虹ヶ咲なんて弱小にあんたみたいなんがおるんや?」
彼方「それはこっちの台詞でもあるよねえ。何で西木野真姫がいるのさ」
希「……次は打ち取るからな?」ニィ
彼方「……楽しみにしてるよ?」ニィ
侑「凄い凄い彼方さん、よくやってくれたね」
果林「この子実力だけはあるのよね。公式戦全部寝坊で遅刻して、試合経験ほぼ0だけど」
彼方「はーい……彼方ちゃんは眠いから、もう起こさないでね」
歩夢「何だか、今日はいつもより眠そうな気がするね」
彼方「昨日、果林が寝かせてくれなかったから……」
歩夢「えっ……そういう……関係だったんですか」
果林「変な言い方しないで。遅刻しちゃまずいから家に泊めて、今日の動きを確認しただけ。20時には寝かせたのよ?」 果林「それから朝までぐっすり寝てたじゃない」
彼方「んー……けど、午前0時ごろにさ。隣からくちゅくちゅって水音聞こえてきて、その音で起きて」
果林「やめなさい」
果林「寝なさい。いいわね?」
彼方「おやすみ……」
せつ菜「流石に友達が隣にいるのにそれは引きますね」
果林「せつ菜ちゃん? いつもの元気な大声が無いわよ?」
歩夢「あ、あー! 私次のバッターだったー、いってきまーす!」
果林「話題を変えようとしてくれるのはありがたいけど、余計に私の恥ずかしさが際立つような……」
侑「果林ちゃんがどすけべな事なんてこの際どうでもいいよ、さて……ホームランで相手もどうでるか」
果林「どすけべ……」
璃奈「果林さん、元気出して。璃奈ちゃんボード『けど時と場合は選んで』」 果林「皆だって似たようなものじゃない……」ブツブツ
侑「いいから……ぼやくくらいならかすみの面倒見てあげて。結構心にダメージ負ってるから」
侑「……相手のピッチャーもそこそこダメージ負ってそうだけど。早速タイムかかってるし」
絵里「大丈夫? いけそう?」
希「そこそこ打たれる覚悟はしてたけど、まさか一発目からとはな……」
「だ、大丈夫ですよ! まだ肩があったまってないだけだから!」
凛「いざとなったら凛がいつでも代わるから、無理しないでほしいにゃ」
「交代するにしてもまだまだだよ……今日は矢澤さん来てないから、他に交代できる投手もいないし」
「いくら凛ちゃんにスタミナがあるって言っても、練習と実戦のそれは大違いなんだから」
凛「にゃ……」
穂乃果「とにかく一人一人しっかり処理していこ! とりあえずはワンアウト目指して、ファイトだよっ!」
絵里「そうね……何とか頼むわよ、球拾。審判、タイム終了!」
審判「ダイザッ!」 >>160
モブ絵里でちょっとエモい先輩後輩百合放り込んでくるんじゃないよ 第2打席 打者上原歩夢
歩夢「……」
希(どうするか……この子は余り力が強そうなタイプには見えない)
希(さっきみたいに、無理矢理ホームランに持っていかれる展開にはならないと思うけど……)
希(一応様子見やな、外角低め半個ずらしで一球外そか)
「……」コクッ
「らあっ!」シュイッ
ヒュルルルルルッ
歩夢「……」
スパァン
審判「ボッ!」
希(手を出してこないか……目がええみたいやな。技巧派か?)
希(となるとボールは無駄にカウントを重ねるだけかな。かぶさり気味やしここは……)
「……なるほど、ね」
希(内角高めギリギリ……上から叩く形になるから、まぁ外野まではいかない筈や) 「内角いっぱい、しかもカーブ……顔目掛けて飛んできて曲がる球に」
「どこまで対応できますかね!?」シュオン
ギュルルッ!
希(お……遅い! 相変わらず遅い! ストレートが110の球拾のカーブは、80も出てるか怪しいレベルで遅いんや)
希(ただでさえ微妙なところに、この超スローカーブ! とりあえずワンストライク……)
歩夢「ごめんなさい……」
希「……?」
歩夢「私達が勝つには、こういう手を使うしかないから」クイッ
凛(あの構え……!)
絵里「バント……!?」
希(なっ……!)
コンッ
凛(軽く当てられたボールは勢いを失い、力無さげに三塁目掛けて転がっていく)
凛(とはいえほとんど線の上……放っておけばファールボールになりそうにゃ) 絵里「……!」ダッ
希「絵里ち! 触ったらあかん!」
希「ファールや! ファールになるから!」
ヨロ……
絵里「よろけた……! これでファールに……」
ピタッ……
「なっ……」
絵里「ファールライン寸前で止まっ……つうっ!」ガシッ
絵里「ファースト! ……!?」
絵里「ファーストにランナーがいな……」
穂乃果「こっち! 絵里ちゃんセカンド! 早くっ!」
絵里「なっ……」ピシュッ
凛(絵里ちゃん達がファールラインを眺めている間に、気付けば歩夢ちゃんはファーストを回っていて……)
穂乃果「っ……うう!」パンッ
凛(絵里ちゃんの投げたボールが、セカンドの穂乃果ちゃんのミットに収まった時には。歩夢ちゃんはとっくに二塁を踏んでいた) 希「〜〜ッ! 嘘やろ……!? ランナー無しでバント、しかもサードゴロでツーベース!」
歩夢「せ、成功した……良かったぁ」
穂乃果「凄いね今の……狙って転がしたの?」
歩夢「う、うん。ドカベン読んでたら、そういう技が出てきて……とりあえず練習してみたら、意外と出来ちゃって」
穂乃果「へぇーっ……」
エマ「……っと、ごめんごめん穂乃果ちゃん。セカンドのカバー入らせちゃって」
穂乃果「ほんとだよ、穂乃果ファーストだよ!? 歩夢ちゃん一塁で止まってたら危なかったよ!」
穂乃果「なんでエマちゃん、センターの近くに行ってたのさ!?」
エマ「いや、あはは……何て言えばいいんだろ」キュイイン
エマ「この子の筋力と技量なら……そこに打ってくるような気がしたから」
歩夢「……!」ゾクッ
歩夢(な、なんだろ今のエマさんの目……凄く嫌な目だったような)
穂乃果「んー? よくわかんないや」
エマ「ごめんね、次からはちゃんとやるから」
穂乃果「うんっ! お願いねっ!」 第3打席 打者朝香果林
果林「ふぅ……歩夢が決めたんだから、私もいいところ見せなくちゃ」
希(……まずいな、ノーアウト二塁か)
希(打者は……なんかどすけべそうな人や。どすけべのオーラがある)
絵里「ワンアウト、ワンアウト取っていきましょ!」
希(そうは言っても、何をしてくるか……って!?)
果林「……」クイッ
希「送りバントか……消極的やね」
果林「あら、一点を確実に取るのが野球でしょう?」
希「……皆、前に出て。バントシフトや!」
凛(希ちゃんの掛け声に合わせて、皆がぞろぞろと前に……)
凛(あれ……? エマちゃん……?)
「なるべく三塁をアウトに出来るように、内角に……」ヒュッ
果林「……」ニヤッ 果林「それを狙ってたのよ……!」ヒュッ
希「なっ……バットを戻した!? 皆下がって!」
希(バスター! クソッ、読めた筈なのに!)
果林「遅いわ、よっ!」ブォンッ
カキィンッ!
希(センター前の強い当たり……凛ちゃんが走っても間に合わない!)
希(歩夢ちゃんは既に三塁付近まで進んでる、まずい、追加点取られた上にノーアウト一塁になる!)
果林「これで楽々……!?」
エマ「……」ポスッ
凛「エマちゃんが立ってたとこに……落ちてきた……?」
歩夢「えっ、嘘っ!? 戻らなきゃ……!」
エマ「……!」ダッ
凛(歩夢ちゃんが慌てて二塁に戻ろうとしていたが、既に三塁を蹴っている状態から間に合うわけもなく)
凛(エマちゃんが二塁ベースを踏み、これでツーアウトとなったのだった) 侑「……」
果林「……あの位置にセカンドがいるなんて予想外だったわ」
歩夢「私も……ヒットだと思って走り過ぎちゃった。ごめんなさい……!」
侑「いいよ二人とも。相手はあのエマ・ヴェルデなんだから」
侑「あの化物なら、何をしてきてもおかしくはない。知ってる? 前回の夏の甲子園大会で、エマさん全部のヒット性フライの落下位置を、バッターが打つ前に予測して動きアウトにしたんだよ」
果林「全ての落下位置を予測……!? そんなこと出来るわけないじゃない!」
侑「出来るんだよ、エマ・ヴェルデだから」
侑「インタビューでは『神様が私に教えてくれたんです』なんて言ってたけど……」
凛「凄いにゃエマちゃん! よくここに落ちてくるって分かったね!」
エマ「神様が、ここに落ちてくるって言ってくれたんだよ」
凛(神様……? ベーブ・ルースが落下位置を……?)
侑「……神様なんか信じてるタマじゃないと思うんだけどねぇ」 凛(続く第4打席、バッターは自壊し肉体の半分が砂と化したかすみちゃん……)
凛(虚ろな目をして遠くを見ている彼女は、スタミナ温存の為かバットを振らず三振。一回裏が終了した)
凛(二回表、7番バッターかよちんは浮き上がる球にバットを振れず三振……140に目が慣れる以前に、運動部経験の無いかよちんには無理だったみたいにゃ)
花陽「ううー……ボール怖いよぉ」
凛「かよちんは無理しなくていいにゃ。参加してくれてるだけでもありがたいんだから」
凛「さーて、ようやく凛の打席にゃ! ずばーんとホームラン決めるよっ!」
穂乃果「やっちゃえ、凛ちゃん!」
凛「うん、やるにゃ!」
第2打席 打者星空凛
凛「よーし、彼方ちゃんみたいにホームラン打つぞー!」ブンブン
かすみ「そう簡単には打たせませんよぉ? ようやく肩も温まって……かすみんの真の実力が発揮されてきたところなんですからっ!」 凛(……なんちゃって! 凛には考えがあるにゃ)
かすみ「いきますよぉ!」ギュニャ
シュオオオッ!
凛「ここにゃ!」クイッ
絵里「……え」
希「んなっ!?」
穂乃果「ええ……」
凛「バントにゃ! さあ、ファールラインギリギリを転がるがいいにゃ」コツッ
凛(さっきの歩夢ちゃんのバント見てから、やってみたかったんだよねこれ……相手もびっくりしてるみたいだし、これは確実に一塁いけるにゃ!)ダッ
凛「たったったっ……と! よし、これでノーアウト一塁にゃ!」
審判「ファール」
凛「ちょ……嘘でしょ……」ポロポロ
歩夢「え、ええと……バントの練習とか、余りしてない……のかな? 流石に一発勝負じゃあれは無理だよ」
凛「にゃあ……」 凛「と、とりあえず戻って……」
凛「仕方ないにゃ……ホームラン狙いに切り替えるよ」
かすみ「バントからホームランって……切り替えすぎな気がするけど」
彼方「バントでホームラン打つゲームあったよね、昔」
かすみ「余計にややこしくなること言わないでくださいよぉ!」
凛「バントでホームランって凄いゲームにゃ……ん?」
凛「バントでホームラン……」
穂乃果「何か頭悪そうなこと考えてる顔してるよ」
花陽「間違いないですね。付き合いの長い私には分かります、あれは馬鹿の極みの時の顔です」
穂乃果「人間、馬鹿を極めたらあんな顔になるんだね」
穂乃果「生きるのが辛くなってくるよ」 凛「さぁ、来いにゃ!」クイッ
かすみ「バカの一つ覚えみたいにバントの構え……そんなのじゃ、ボール投げられたらおしまいですよっ!」ヒュッ
凛「ボール球……! だけど、当てるだけなら無理矢理でもいけるにゃ!」
クッ
かすみ「当てても、既に皆バントシフトを引いていますよぉ!? さぁ、これでセーフになれますかねぇ!?」
凛「う……」
クククッ
かすみ(……? バットに触れたボールが、離れない……?)
凛「にゃああぁぁぁぁぁっ!!」
凛(力を入れて、限界まで力を溜めて……)
凛(押す!)
キィン!
かすみ「プッシュバント……歩夢さん!」
歩夢「うお、あれ、あ……届かない!」
凛(バントの構えを見て前に出てきた内野の頭を越えるバント……思いつきだけど成功したにゃ!)ダッ
審判「セッ!」 果林ちゃんに出し抜かれたのは仕形ない
毎日劇場でも希ちゃんをすけべに出し抜いてたもんな 第3打席 打者球拾
「ワンアウト一塁……上手く塁に出て1番打者に回せば、点の可能性も見えてくる場面ですか」
かすみ「ツーアウト一塁……ううん、ゲッツーでスリーアウトもあるかもしれませんよぉ?」
凛(球拾ちゃんのバッティング……投手としては三流だけど、打者としての力量は未知数にゃ)
凛(ベンチは顔が死んでる……絶対走らないでおこう)
凛「ツーアウト一塁! ツーアウト一塁で何とかいくにゃ!」
かすみ「味方から信頼されてなさすぎません?」
「ピッチャーだからね。バッターとしては信頼なんかなくていいよ」
「そっちだってバット振らなかったでしょ? 四番のくせに」
かすみ「いいんですよぉ、かすみんは……!」クイッ
キュルルルルルルルッ
(止まった瞬間を狙って……!)
(ん?)
ボグオッ!
「げはっ!?」
せつ菜「デッドボール!!!!!??? お腹に思いっきり当たってましたよ!!!!???」 かすみ「て、手元が狂って……」
「げは……おえぇ!」ビタビタボタッ
歩夢「げ、ゲロ吐いてるよ! 大丈夫なの!?」
彼方「これは……一旦中断して治療した方がいいかもねー」
絵里「酷いじゃない! ボールをお腹にぶつけるなんて!」
穂乃果「そうだよ! ただでさえ昨日十二発も真姫ちゃんのライナーお腹に受けてるのに!」
希「そうや! 謝れ!」
「謝れ!謝れ!」「球拾に謝れ!」「球拾先輩可哀想です……」「避けられない方が悪いのよ」「早く謝って!」「ここまで戦えたのも球拾先輩のおかげじゃないか」「今ならまだ許してくれる、謝れ」「頭を下げろ中須かすみ!」
かすみ「ご、ごめんなさい……わざとじゃないんですよぉ……」
凛「許せんにゃ……凛の尊敬する球何とか先輩を……!」
穂乃果「殴りつけてやるがいいや」
希「そうやな、殴りつけたまえよ」
凛「にゃっ!」ボグオッ
かすみ「げはぁっ!? おぼえっ!?」ビタビタボタッボトッ
絵里「げ、ゲロ吐いてるじゃない相手の投手!?」 侑「かすみになんて事を……!」
歩夢「そうだよ! わざとじゃないのに酷いよ、あんまりだよ!」
果林「スポーツマンとしてどうなのかしら……」
「謝れ星空!」「彼方ちゃんも謝った方がいいと思うよー?」「そうよ、早く謝りなさい!」「高野連に通報するわよ!?」「ちんぽを見せろ星空凛」「ちんぽも見せずに何が進歩だ」「全裸で神田の街一周してこい!」「謝れ!」
凛「にゃ……!? ち、違う! 凛は悪くねぇ! 穂乃果ちゃん達がやれって言ったんだ! こんなことになるなんて誰も教えてくれなかったにゃ!」
凛「凛は悪くねぇ!」
穂乃果「ベンチに戻ります。ここにいると馬鹿な発言にイライラさせられる」
希「少しはいいところもあると思ってたのに……ウチが馬鹿だった……」
真姫「絵里、こいつらクビにした方がいいわ。いつか新聞に載ると思う」
絵里「私もそんな気がしてきたわ……頭痛くなってきた」
第4打席 打者高坂穂乃果 ワンアウト一二塁
穂乃果「何はともあれ、得点のチャンスだよ。最高の結果を残してくれたね、球拾ちゃん!」
「げほっ……えほっ……はぁー……」
かすみ「ぐっ……ごほっ……はぁ……はぁ……」
穂乃果「相手投手も弱ってるみたいだし、ここで畳み掛けなきゃ……!」 穂乃果(狙うのは思いっきり叩き付けての転がし……いや。この際、フライでもいい)
穂乃果(打ちさえすれば、凛ちゃんは走ってくれる。凛ちゃんの足なら二塁からホームへの生還も十分に有り得る!)
穂乃果「よっし! いくよー!」
かすみ「くそっ……なんで人殴らせといてあんなキラキラした目をしてるんですかあの人……!」
真姫「これよ」頭の横で指クルクル
かすみ「かすみんを怒らせましたねぇ!」グイッ
キュオオォン
穂乃果(来た! いつもの……じゃない!?)
穂乃果(何だか少し、遅いような……腹へのダメージが効いてるのかな?)
穂乃果(まぁいいや、遅い方が打ちやすいし!)
真姫「……まずいわね」
エマ「うん、まずいね。これ」
穂乃果(よし、手元……さぁここで!)ブンッ
ブオッ
穂乃果「っ!? と、止まらない!?」 エマ「やっぱり……さっき言った通りだけど、あの球を打ちやすくしている原因は回転と球速なんだよね」
真姫「凛の腹パンが効いて、球速が落ちてる……回転も落ちてるわね。その状態だと目は遅い球速にしか慣れず」
真姫「結果的に、ただ浮き上がって真っ直ぐに進む……本来の厄介ボールの完成ってわけよ」
穂乃果「凛ちゃんめ……! いらないことを!」
凛「凛のせいなのこれ……? こんなの絶対おかしいにゃ……」
かすみ「はぁ……はぁ……」グイッ
キュオッ
穂乃果「う……」ブンッ
スパァン
審判「ットライゥチュウ!」
真姫「エマは打てる? あの球……」
エマ「私は打てると思うけど……あれに対応できるの、この中だと私と真姫ちゃんくらいな気がするなぁ」
凛(エマちゃんの予想通り、穂乃果ちゃんは次の球も空振りしアウト、続くモブAちゃんも同じく空振り三振)
凛(二回の表は、0-1のスコアをひっくり返せないまま終わってしまったにゃ) 凛(続く二回の裏……腹部へのダメージは球拾先輩にも平等に響いていたようで)
凛(5番捕手野デブ子が外野への鋭い当たり……余裕でツーベースコースだったが、走れない為一塁止まりとなってノーアウト一塁)
凛(6番何処出文魔毛留は堅実に送りバントを成功させ、ワンアウト二塁という場面)
凛(迎える7番バッターは、声の大きな優木せつ菜……)
希(前の前がパワーヒッター、前がちっこい技巧派……この子はどういうタイプなんや?)
希(塁に出た5番をホームに返す役目だとしたら、長打も警戒して……)
せつ菜「デブ子さん!!!!!! ホームランは無理ですけど、なるべくゆっくりホームに帰れるようにしますね!!!!!」
希「う、うるさいなぁ……思考が纏まらんやん!」
せつ菜「えっ!!!! そうですか!!!???? 気をつけますねっ!!!!」
希「わかった! わかったから、喋らんといて!」
せつ菜「……!!!!!!!!!」
希(めっちゃ圧感じるやん……一応外野下げとくか?) 凛「あれ、下がるの?」ズリズリ
花陽「えっと……モブAさんと凛ちゃん、なんで下がってるの?」
凛「キャッチャーが頭の上で右手を前後に動かしてるでしょ? あれ、長打あるから外野は下がれって合図にゃ」
花陽「サインかぁ……野球してるみたいだね!」
凛「野球してるんだよ、かよちん」
カキィンッ!
凛「っ!? かよちん、レフトフライにゃ!」
花陽「へ……」
凛(景気良く上がったボールは、真っ直ぐに……ほぼかよちんのいる位置に落ちてくる)
凛(けれどかよちんには、まともにボールを追えていないようで……)
花陽「あ、あわ……あわわっ!」
凛「まず……っ! かよちん、凛が取るからそこどいて……」
エマ「どいてっ!」シュッ
花陽「あわっ!?」ドンッ
パシッ
エマ「……っと、危ない危ない」 凛「かよちん大丈夫っ!? ……エマちゃんっ!」
エマ「ごめんなさい、言葉でどいてもらってたら間に合わないと思って……」
凛「それでもだよっ! 突き飛ばすなんてっ……!」
凛「誰かに怪我をさせるなんて、そんなの駄目にゃ!」
かすみ「!?」
エマ「けれど、私が取らなかったら……凛ちゃんは間に合わなかったでしょ? 私だって打つ前からスタートを切って、ようやくだから」
凛「それは……」
エマ「その場合、花陽ちゃんはフライを取れない。ボールが転がって、凛ちゃんがカバーに入った時には……」
エマ「あの動かざる山は、ホームを踏んでいたかもしれない」
「……」フゴッ
凛(巨大な岩山から短い手足と顔が生えているように見えるあの子が、そんなに早いとは思えないけど……肉でベース完全に隠れてるし)
凛「そ、それでも突き飛ばすなんて!」
花陽「ううん、やめて凛ちゃん……!」
凛「かよちん……」
花陽「私が悪いから……きっと、あのフライも取れなかっただろうし。エマちゃんの言う通りだよ」 花陽「私が下手なのが……悪いから」
凛「……」
凛「エマちゃん、一つだけ約束してにゃ。もうあんなことはしないで」
エマ「うん、分かった。もう突き飛ばしたりなんかしないよ」
花陽「ごめんなさい……」
凛「……」
凛(多分……エマちゃんの言うことの方が正しいんだろう)
凛(下手な選手に任せるより、突き飛ばしてでも優秀な選手がアウトを取った方がいい)
凛(そうなんだろうけど……なんかモヤモヤするにゃ)
せつ菜「ごめんなさい!!!! 取られました!!!!」
侑「うーん……ツーアウト二塁の場面で私に回っちゃったか」
侑「参ったなぁ……私じゃデブ子を返せるほどのバッティングは出来ないよ」
彼方「返せないと、リトルリーグ並の足の速さだからねー。センターゴロとかになってもおかしくないよ」 侑「とにかく塁に出て……最悪でも一二塁の形にしてくるから」
第4打席 打者高咲侑
侑「ふうっ……」
希「なんや部長さん、随分自信なさげやね」
侑「部長って言ったって、野球が上手いとは限らないからね。私は皆を纏める方……本来なら裏方の人間だから」
希「それなら何でスタメンに……」
侑「私より上手い人が……その……」
希「……弱小はお互い大変やな」
侑「うん……」
希(自信ない、って本人も言ってるし……実際態度もそんな感じやけど)
希(鵜呑みにするわけにはいかんな。ブラフに騙され続けてるし)
希(とはいえ長打はない、この細腕だとスイングが完璧でもそこまで持っていく威力は出ない筈)
希(内野を下げて、外野を前に……ううん)
希(普通にやった方が刺さりそうや。内角高めのカーブでびびらせて)
「……」コクッ 「フッ!」グイッ
ヒュルルルルル
侑「……!」ブンッ
スカッ
パスッ…
審判「ストライッ!」
希(スイングスピードは……予想通り、遅い。腰も余り入っていないように見えるやん)
希(これは穴なんか……? まぁええわ、もう一球同じとこに)
「はいっ」コクッ
「らぁっ!」グイッ
ヒュルルルルル
侑「……」
侑「っ……!」クイッ
希(バントの構え……! 送ってきた!?) コンッ
希(とはいえ上原歩夢のような、芸術バントじゃない……ただのボテボテのキャッチャーゴロや)
希(しかも足の遅い肉塊が相手やん、刺すには十分に間に合う!)ガシッ
希「絵里ち!」ヒュッ
絵里「ええ!」パシッ
希(これで二塁ランナーを二、三塁間に挟め……)
希(……いない?)
「……」フゴッオゴッ
希「二塁から……一歩も動いてない!?」
絵里「嘘っ……穂乃果ッ!」ヒュンッ
穂乃果「うんっ!」
侑「……!」バッ
侑(飛び込む……! 絶対に間に合わせるッ……!)
ズザァーッ!
穂乃果「くっ!」パシッガッ
侑「……」
穂乃果「……」
塁審1「……セーフッ!」
ワアアァァァッ!
侑「いてて……危なかったぁ。やっぱり色々練習しなきゃなぁ……」 絵里「凄い執念……何であそこまで……」
希「怪我してもおかしくなかったのに、スライディングなんて……!」
侑「……負けられない理由があるんだよ」
侑「叶えなきゃいけない、夢もあるからさ……」
凛「……夢」
凛(その後は一方的な試合展開が繰り広げられた)
凛(9番すぐにしぬ代がレフト方向からライト方向に曲がる長打を打ち、一塁、二塁とも本塁へ帰還。本人もスリーベースヒットとなった)
凛(0-3の場面で迎えた1番近江彼方。希ちゃんは当たり前のように敬遠策を取ったけど……)
彼方「んー……敬遠だと塁に出なきゃいけないからなぁ」ブンッ
希「飛んで……無理矢理当てに行ったぁ!?」
凛(無理な体勢から当てられた球は、ふらふらと上がって……フェンスに届く寸前で凛のミットに収まった)
凛(少しでも球が甘く入っていたら、間違いなくまたホームランを浴びていた……)
凛「無事に二回裏が終わったとはいえ……」
穂乃果「0-3かぁ……」 絵里「……」
絵里「三点を追う場面……かすみの球も捉え辛くなっているっていうのに、これは厳しいわね」
希「エマちゃんと真姫ちゃんが打ってくれたらいいんやけど、多分敬遠されるやろうしなぁ」
エマ「あはは、こればっかりは……ごめんね」
真姫「私だって打ちたいわよ……」
かすみ「ふぅ……やっとお腹の痛みもおさまってきましたよぉ」
かすみ「かすみんの本領発揮です、ここからばんばん三振を……!」
侑「待って、かすみ」
かすみ「侑先輩? なんですかぁ、早くマウンドに上がらないと……」
侑「ここまでよくやってくれたね。……そろそろ、交代の時間だよ」
かすみ「! ま、まだかすみんはやれますよぉ!?」
かすみ「それに、三回まではやらせてくれるって言ったじゃないですかぁ! 実戦経験を積ませるって!」
侑「うん、だからかすみにはライトに回ってもらう」
かすみ「ライト……?」 侑「すぐにしの代わりにかすみがライトに入って、投手には璃奈を置く」
侑「相手はかすみの球に慣れてきてるからね……また、後半にチャンスがあったらマウンドに立ってもらうよ」
かすみ「……」
侑「睨まないの。璃奈、いける?」
璃奈「ウォーミングアップは完了してるよ。璃奈ちゃんボード『ばっちり』」
かすみ「……りな子、不甲斐ないピッチングしてたらすぐにかすみんがマウンドに戻るから」
璃奈「大丈夫だよ、私結構凄いもん」
歩夢「硬球には余り慣れてないんだから、爪を割らないように気を付けてね」
彼方「彼方ちゃんも陰ながら応援してるよー……」
璃奈「ありがとうね。璃奈ちゃんボード『にっこり』」
かすみ「余裕ですねぇ……」
侑「ピッチャー交代! かすみに変わって天王寺璃奈! かすみはライトに入ります!」
絵里「ここで交代……天王寺璃奈がついに出てきたわね」
エマ「予想より少し早いね。三回が終わるまではかすみちゃんでいくと思ったんだけど」
真姫「念には念を……ってことでしょうけど、三点リードでエースを出すのは臆病すぎよ」 希「……んー」
凛「希ちゃん、確か璃奈ちゃんのファンって言ってたよね?」
凛「どんな球投げるの、あの子」
希「どんな球、っていうか……多分説明しても信じてもらえんと思う」
希「参ったなぁ……かすみちゃんの時にリード出来なかったの、かなり厳しいわ」
穂乃果「そんな凄い球投げるんだね……」
真姫「ま、私はその球ホームランにしたんだけどね? 詳しく知りたい? 話してあげてもいいけど?」
凛「失せろ」
希「ま、目をつむって振ってくるわ。そっちのほうが当たるかもしれん」
第1打席 打者東條希
希(さーて、どうなるかな……様子見とかで手加減してくれたら嬉しいけど……)
璃奈「……」クッ
ヒュッ
凛「……って、何あれ? 大暴投してるにゃ」
花陽「サード方向に向かって投げてる……? ランナーもいないのに、牽制するの?」
希(手加減、なしか!)
グググッ
凛「……? サードに投げたボールが……曲がってる?」 穂乃果「何あれ……あれじゃまるで、ボールじゃなくて……」
凛(ブーメランっ……!)
グググッ
希「っ……!」ブンッ
スパァァァンッ!
審判「ストライクッ!」
希「くっそ……テレビで見たときはあんなに興奮したのに。いざ目の前にすると……憎くて仕方ないやん」
真姫「相変わらずキレッキレね、璃奈のボール……」
凛「あれ何なの!? サードに投げたボールが……ぐいっと曲がってバッターボックスに飛び込んでいったよ!?」
真姫「そう、あれが璃奈の得意技よ。サード、ファーストに投げた球が、気付けばキャッチャーの手元に来ている……」
真姫「ランナーがいるときにあれをされたら最悪よ、牽制なのか普通に投げたのかも分からない。表情の見えないボール!」
璃奈「ふふ……ドキドキするよね? ピポパポするよね?」
真姫「魔球『ドキピポ』……!」
凛「ブーメランスネイクに改名しない?」
真姫「璃奈に言いなさいよ。気に入ってんだから、このネーミング」 希「まともにやっても打てへん! やっぱり目をつむるしか……!」グッ!
希(タイミングは分かってるんや、さっきのタイミングでバットを……さっきのタイミ)
スパァァァン!
審判「ストライッツウッ!」
希「……!」
璃奈「目なんか閉じたら、普通にストレートを投げるよ? 璃奈ちゃんボード『指摘中』」
希(くそっ……あかん!)
凛「目を閉じて当てずっぽうだと、変化球かストレートかの選択になる……真っ向勝負するしかないにゃ!」
希「分かってる、分かってるけど……!」
璃奈「いくよっ!」クッ
希(今度はファースト方向……外角に刺さってくる! 合わせるように打って、何とか転がすしか……!)ブンッ
スカッ
希「な……バットが届かん!? ボール……!?」
パシッ
審判「ストライッ! バッター、アウッ!」
璃奈「あんなに外れたボールを振ってもらえるなんて、得したね。璃奈ちゃんボード『にっこり』」
希「っ〜〜!」 凛「凄い……希ちゃんが手のひらの上で踊らされてる!」
真姫「……エマ、どうする?」
エマ「うーん、多分璃奈ちゃんは敬遠してこない気がするんだよね」
エマ「前に見た時から一度打ってみたかったし、まともに勝負してくるよ」
真姫「そ。一応アドバイスしとくけど、あれはかなり軽いわよ、当たりさえすれば長打になるわ」
エマ「当たりさえすればだけどね」
第2打席 打者エマ・ヴェルデ
エマ「……」ニコニコ
璃奈「エマ・ヴェルデ。聖ミヒャエルのスラッガー。去年の甲子園、わくわくしながら見てたよ」
エマ「ふふっ、ありがとう」
璃奈「一度、打ち取ってみたかったんだ」
エマ「そう……奇遇だね。私も一度、あの変化球打ってみたかったんだ」
璃奈「……打てたら、打たせてあげるよ」クッ
ヒュッ
凛(まっすぐなストレート……エマちゃんの目は完璧にコースを捉えていた)
凛(けど……動かない。最初からバットを振る気がないようにも見えるほどに、腕も、指の一本すらもぴくりともしていない)
スパンッ
審判「ストライクッッ!」
エマ「んー……出し惜しみしないでさ、あれ投げてよ。あのすっごく曲がる変化球」 璃奈「……そうだね。こんな強い打者なんだもん」
璃奈「全力を出さないと、失礼だよね。璃奈ちゃんボード『本気』」グオッ
キュオッォッ
穂乃果「出た! ファースト方向への大暴投!」
絵里「魔球ドキピポ……!」
クイイイイッ
凛「曲がって……けど、ストライクゾーンに入ってるのかボールになるのかすら全然分からない……!」
エマ「……」キュイイン
エマ「なるほど……回転に微妙な差があるのね。だからボールコースを使い分けられる」
エマ「……」ブンッ
ガキィィィン!
璃奈「……『!△?』」
凛(曲がったボールにドンピシャの位置で、エマちゃんはバットを思い切り振り抜いた。甲高い音が響き、ボールの姿が消える)
凛(誰もがボールの存在を見失って……最初に気付いたのは、ライトにいたかすみちゃんだった)
かすみ「嘘……」
凛(皆が、かすみちゃんの視線の先を追って……同じように口をあんぐりと開ける)
凛(だって、球が……)
かすみ「フェンスをえぐりとって、向こう側にいってる……!?」 歩夢「え……こ、これは……?」
侑「……ホームランでしょ。認めざるを得ないよ」
侑「あんなに軽く、持ってかれちゃあさ……」
エマ「良い球だったと思いますよ。繊細な指使い、瞬時に風の抵抗を予測する脳が無いと成立しない素晴らしい変化球です」タッタッ
エマ「けれど、回転を目で追えるものにとっては平凡な変化球と変わりありません。見た目の派手さだけです。改善すべき点が多いですね」タッ
璃奈「……覚えておくよ。璃奈ちゃんボード『メモ帳』」
絵里「流石よエマ! これで璃奈も調子を崩す筈よ!」
真姫「やるじゃない、これで1-3ね」
エマ「真姫ちゃんもホームラン打つでしょ? 前に打ったってことは、あの回転目で追えるんだよね?」
真姫「へ? と、当然じゃない!」
真姫(がむしゃらに振ったら当たったとは言えないわね……)
第3打席 打者西木野真姫
真姫「……久しぶりね、こうして対戦するの」
璃奈「中学生大会の準決勝以来だったっけ。あの時は逆転サヨナラホームラン打たれて……悔しかったなぁ」
真姫「そう、お詫びに二度目の無念を感じさせてあげるわ」クッ
凛(ホームラン予告……ま、真姫ちゃんのくせに何だかかっこいいことしてるにゃ) いくら曲がれど牽制方向に投げるのはボーk…なんでもない 想像つかない変化球だけど三塁一塁ベースあたりからキャッチャーに向かう球はストライクなのかどうかw 一三塁に投げた時点でアウトなんかこれ
調べたらボークに抵触してるっぽい
一塁、三塁がキャッチした場合ボーク、ファールゾーンを超えた場合ボール扱いって認識してたごめん
今日の更新はないです 面白いからおっけー
創作だしだれもそんなにガチガチにしなくても 女の子同士で子供ができる世界だしそのぐらい些細なことさ そこそこ有名な魔球のワンダーワイドホワイトボールだってボークらしいしへーきへーき またこの世にゴミが放たれてしまったのか
ゴミは俺だけで十分なのに>>1も馬鹿な真似をする 璃奈「ホームラン……打てたらいいねっ!」キュッ
キュルルルルルルルッ
真姫(三塁目掛けて投げられた球は、やはりベースの手前で急激に曲がり、ファールラインを沿うように私の元へと向かってくる)
真姫(回転は……見えなくはない。見ること自体は出来るけど……)ブンッ
スパァァァンッ
真姫(打てるかどうかは別の話。そもそも回転が見えたからって何処に着弾するかなんて分かるわけないでしょ!?)
璃奈「まずはワンストライク……次々いくよ!」
真姫「待ちなさい!」
璃奈「……?」
真姫「今の球は……ボークよッ!」
璃奈「!?」
侑「触れやがった……タブー中のタブーに」
璃奈「ぼ、ボークじゃないよ! 言いがかりはやめて! 璃奈ちゃんボード『怒り』」
真姫「セットプレイに入ってから投手が打者以外にボールを投げた場合、ランナーがいれば直ちにボークとなる……」
真姫「ルールブックにそう書いてるじゃない!?」 凛「ま……待って、あれはボークなの!?」
絵里「……ルールブックの通りであれば、一塁や三塁に投げられているからボークね」
璃奈「けどおかしいよ! 中学でもこの球を投げてたけど、誰もボークなんて言わなかったよ!?」
真姫「簡単な話よ……」
真姫「中学校の部活レベルなら、審判は野球にあんまり興味ない顧問の先生がやっていることが多い」
真姫「場合によっては補欠にも入ってない暇な部員よ?」
真姫「つまり中学野球の審判は、野球を知らないのよ!」
璃奈「な……」
璃奈「璃奈ちゃんボード『な、なんだってー!?』」
凛「けど普通に対戦してたってことは、真姫ちゃんも中学時代はボークの条件知らなかったんじゃない?」
希「いや、しゃーないと思うよ。投手以外はそこまで詳しく見ないもん、投手用のルールブック」
璃奈「し、知らなかった……じゃあ私の魔球は……!」
真姫「今後投げれば全てボークと指摘するわ! 当たり前よねぇ?」 こういうのは要らねぇわ
攻めたギャグ書く癖にこういう所で照れちゃうのダサい 璃奈「待って……それって全部真姫ちゃんがそう言ってるだけだよね?」
璃奈「審判によって裁定は変わるんじゃない?」
真姫「何言ってるのよ、大リーグボール2号じゃないんだから……」
璃奈「実際どうなのかな?」
審判「……西木野さんが持っているのは、旧時代のルールブックのようですね」
審判「皆さんもご存知の通り、この日本は2000年問題で男子が生まれる割合が20分の1になりました」
審判「甲子園大会は男子だけでは成立しなくなり、生き残った数少ない野球男子もレイプ宇宙人共に連れ去られた……そこで改定されたのが、現在の野球ルールになります」
審判「その際にボークは消滅しました。故に問題はありません」
審判「もし今後何かあった場合、全てレイプ宇宙人と改定野球ルールによって判断されます」
璃奈「問題無かったよ」
真姫「ええ、問題無かったようね……私が間違っていたわ!」
審判「試合再開!」
璃奈「いくよっ……魔球『ドキピポ』!」クイッ
キュオッォッ
真姫(一塁線に沿うような球……三塁線なら、デッドボールの可能性を考えてボールは警戒しなかったけど)
真姫(一塁側は例の届かないボールが有り得る……!) キュルルルルルルルッ
真姫(この球は……さっきと回転数がほぼ同じだから届く筈……)
真姫(届くわよね……?)ブンッ
キシッ
真姫(先っぽに当たった! ……けど)
璃奈「ッ……歩夢さん取らないで!」
歩夢「っと……ファールだね」
真姫(参ったわね……真芯で当たらないわ) 凛「真姫ちゃーん! ちゃんと目で追えてるから大丈夫にゃ!」
絵里「ガツンとホームランお願い! 追加点が無いと厳しいのよ……!」
真姫「分かってるわよ!」
真姫(ツーストライク……相手にとっては選択肢がかなり増えるわね)
真姫(こっちは寸前まで警戒してバットを振れない。ボールならいいけれど、ストライクを狙われた場合どうしても反応が遅れる……)
璃奈「……」クッ
真姫「何か……手は無いの?」
キュルルルルルルルッ
真姫(二度続けての一塁線……ボールが有り得る! 私が璃奈だったらこの場合はどうする?)
真姫(一球外して安全にバットを振らせる……?)
真姫(いや……私が、ある程度回転で判断していることは向こうも気付いている筈よね。わざわざボールカウントを増やす判断はしてこないはず)
真姫(つまり……)
真姫「真っ向勝負……っ!」ブンッ キンッ
真姫「……駄目ね」
真姫(実際、投げられた球はストライクゾーンに入っていた……とはいえ、ほとんど当てずっぽうに振ったそれは)
真姫(ふわりと浮き上がり、センター方向への浅いフライにしかならなかった)
真姫(当然のようにボールはセンターのミットに納まって……)
真姫「ツーアウト……」
凛「やっぱり真姫ちゃんでも、あの球を攻略するのは難しいの?」
真姫「正直なところ……そうね。右打者の場合、三塁線のドキピポは余り気にしなくていいと思うのよ」
真姫「デッドボールの可能性が高い中、早々相手もボールコースをついてこない……問題は一塁線」
真姫「ストライクかボールかの二択を、横っ腹から凄い勢いで飛んでくるボールの前でさせられるのよ? 悪夢よあれは」
凛「と、なると……やっぱり」
第4打席 絢瀬絵里
真姫「絵里じゃ……無理でしょうね」 凛(真姫ちゃんの言う通り、絵里ちゃんでは無理だった)
凛(バットを一度も振れないまま三振し、スリーアウト)
凛(三回裏、球拾が好投し二番の歩夢ちゃん、三番の果林ちゃんを打ち取ったものの四番かすみちゃんにホームランを打たれ点差を更に広げられる)
凛(その後も凛の出番はないまま……)
8回裏
絵里「……疲れたわ」
希「何で野球って9回もあるんやろうな。5回くらいでいいと思うわ」
希「放送延長してその後の番組に影響出ることもあるし、短くした方がいいと思う」
絵里「球拾……ももう限界みたいね」
「……」ゼェゼェ
絵里「8回までよく投げてくれたわ。普段ならとっくに矢澤さんに交代してる頃だもの」
絵里「……凛。いける?」
凛「いつでもいけるにゃ! 4回くらいからずっと待ってたんだよ、いつ変わってくれるのかって!」 凛(マウンドに立つ、初試合初登板の場面でーー)
凛(思ったより、緊張感は無かった。凛がいい球を投げようが、打たれようがもう関係ない領域に来ていたからかもしれない)
4-9
凛(8回裏で5点差……中々厳しいにゃ)
凛(おまけに9回表は絵里ちゃんからの下位打線……どうあがいても5点差は覆せない)
凛(そういう意味では、凛は敗戦処理投手のようなものなのかもしれなかった)
凛(9回裏は多分登板する機会無さそうだし……)
歩夢「……」
凛(打者は2番、歩夢ちゃんから……技術タイプの厄介な相手にゃ)
凛「……参ったにゃ」
凛(凛はバントの処理をやったことがない。練習をしたこともない。正直、あのバントを決められたら余裕でセーフを決められる……) 凛(ボールで一球様子見……なんてしてもしょうがないよね)
凛(ひとまず真っ直ぐの外角低め……!)キュイッ
シュオッ
希「……!」
凛(しまっ……甘いところに……!)
歩夢「っ……ここ!」ブンッ
カキィンッ!
凛(ほぼ真ん中に入ったボールに、ほとんどドンピシャのタイミングで歩夢ちゃんはバットを合わせる)
凛(軽く振られたスイング……少なくとも凛にはそう見えた。なのにボールは内野を超え、外野の頭を超え……)
凛「ら……ライト! フェンス当たるにゃ!」
凛(叫んだ時にはもう既に、歩夢ちゃんは一塁を回っていて。ライトがボールを投げた時には、二塁を踏みしめている歩夢ちゃんの姿があった) 凛「あんなに……飛ばされるなんて」
希「タイム! ……凛ちゃん!」
凛「ああ、希ちゃん……ごめんにゃ。あんな甘い球……」
希「それもやけど! さっき投げた球、あれ駄目やん!」
凛「へ……?」
凛(少なくとも真姫ちゃんと一打席勝負をした時よりは、スピードも出ている筈だけど……何が駄目なんだろう)
希「多分なんやけど……投げ方が凛ちゃんに合ってないんやわ、あのフォーム」
希「前のぎこちないフォームの方がまだいいかもしれん」
凛「な、なんで? スピードだって上がって……」
希「回転が……回転が全く足りてないんよ……」
凛「回転……?」
希「簡単に言うけど……回転が少ないとどれだけスピードがあっても打者の手元でガクッとスピードが落ちるんよ」
希「結果的にノビが無くなって、打ちやすく飛びやすいボールになるってわけやん」
希「今の凛ちゃんの球は……完全にそれ。打ちやすく飛びやすい、棒球や」 凛「そ、そんな……今そんなこと言われても流石に無理にゃ!?」
希「いや……練習時間を碌に取れんかったからこれはしゃーない」
希「何とか元のぎこちないフォームに戻してくれへん?」
凛「難しいよ、それは……」
凛「言うなれば凛は、今まで音程を知らない曲を適当に歌ってたようなものだもん」
凛「音程を知ったら、元の適当な音程は出てこなくなる……それと同じで、凛も元のフォーム覚えてないよ!」
希「参ったな……これなら球拾の方が……」
「……」ゼェゼェ
希「立ってるだけでも限界、って感じやんな……悪いけど、今は凛ちゃんしかいないんよ」
希「何とかして、回転数を上げて! スピード落としてもいいから、指引っ掛けるようにして!」
凛「わ、わかったにゃ」 凛「回転、回転……」
凛「こう、かな」ヒュッ
ヒュルルルルルッ
希(回転数は上がったけど……球速が随分落ちたな)
果林「さっきの子よりは打ちにくいけど……捉えられない球じゃないわね」ブンッ
キィンッ
凛(さっきよりかは球質が重くなったのだろう、ライト方面へふらふらと上がる浅いフライ……)
凛(浅いフライ?)
凛「エマちゃん! カバーお願い!」
凛(凛が叫ぶ前に、既にエマちゃんは動いていた。今までの試合から、外野のモブA、かよちん、そして満身創痍の球拾の全員が最早戦力にならないと知っていたのだろう)
凛(モブAもまた、エマちゃんが捕ると信じているのか最初から一切動かずスマホをいじっている)
凛(真姫ちゃんがセカンドのカバーに入り、エマちゃんからのボールを受け……これでワンアウト)
凛「外野が穴すぎるにゃ……エマちゃんいなかったら完全に終わってるよこれ……」 エマ「私は全然大丈夫だよ、けど……出来れば外野の前に落ちる浅いフライばかりにしてほしいかな」
エマ「流石にフェンス前とか捕りに……いけなくはないけど、疲れちゃうから」
凛(やっぱりノビの無い球じゃ意味は駄目みたいにゃ)
凛(続くバッターはかすみちゃん……ピッチャーだし、ちっこく見えるけど……)
かすみ「追加点のチャンスですねぇ」
凛「あげないよ。凛は自責点0で試合を終えるつもりだから」
凛(球拾のボールを軽くフェンス越えさせたパワータイプの打者……かすれば外野まで飛ばされそうにゃ)
凛(外野は……下がってない。まぁ下がらせても取れないし……)
凛(あ……エマちゃん凄い勢いで下がってる……歩夢ちゃんリードしたまま困った顔してるよ……)
凛「悪いけど三振してもらうにゃ……!」ザッ
凛(一球、外角に外して振らせる……カウントを進めなきゃ!)
ヒュルルルルルッ
かすみ「……」
審判「ボーッ!」 凛「振ってこないか……」パシッ
かすみ「当たり前ですよぉ。あんな見え見えのボール球に手を出すほど、目が悪くないですもん」
かすみ「ストライクが取りたかったら、ちゃーんとストライクに入れてくださいね? くすくす……」
凛(……それが出来れば苦労はしないんだけど。何処に投げても打たれるような気がしてならない)
希「……」スッ
凛(内角……高め? しかもギリギリ? 無理矢理引っ張られそうな気がするけど……)
凛「にゃっ!」キュッ
キュルルルルルルルッ
かすみ「! ……ッ」ヒョイ
凛「!?」
凛(避けた……? 別に身体の近くに向かったわけじゃないのに?) 凛(もう一度内角高め……了解)コクッ
凛「もう一球……!」ヒュッ
ヒュルルルルルッ
かすみ「……チッ! ううっ!」ブンッ
スパァンッ
凛(無理矢理身体をそらしながら、振ってきた……なんであんなにビビってるにゃ……?)
侑「まずいね、かすみの弱点がバレた」
歩夢「かすみちゃんの弱点って……内角高めから逃げてるあれのこと?」
侑「かすみは……ナルシズムの塊なんだよ。自分のかわいさに並々ならぬ自信を持っていて、国宝として崇め奉られるべきだとすら思ってる」
侑「だからかすみは「絶対顔を傷付けてはいけない、全世界の皆さんの為に」という志を持っているんだよ」
侑「顔に当たる可能性がある内角高めは……駄目なんだ。身体が無意識に避けてしまう……」
かすみ「くっ……かすみんのかわいい顔を狙うなんて、非道な人ですねぇ……!」
凛(別に顔狙ってるわけじゃないにゃ……!) 凛(けど……内角高めくらいであの反応なら……)
凛(顔面にボールを投げつけてみたらどういう反応するんだろう)
凛(わくわくしてきたにゃ)
希「……」
凛「……」パチッパチッ
希「! ……」コクッ
凛(希ちゃんも同じ意見みたいだにゃ。どことなく心躍ってるように見える)
凛「いくよっ! これで三振にゃ!」キュッ
かすみ「かすみんは負けませんよぉ……!」
ヒュルルルルルッ
かすみ「……えっ? うおっ!? やあっ!」ブンブン
凛(避けられた……!)
希(避けられた……!)
かすみ「危険球ですよ今の! ビーンボールですよ!」
凛「違うにゃ、凛はただ顔面にボールをぶつけたら新しい世界が見えそうな気がしただけなんだよ」
かすみ「そんなの見えなくていいですよ!? えっ、アウトなんですか!? バット振ったから!?」
かすみ「あんまりですよぉ……」 凛(ツーアウト二塁の場面から、打者は5番。身長2m20cm,体重180kgの岩山を何とか三振に取り8回の裏は終わった)
凛(続く9回表。例によって6番絵里ちゃんは三振、7番かよちんはドキピポを何とかバットに当てたものの、ショートゴロでアウト)
凛(9回表4-9。ツーアウトかぁ……)
璃奈「最後のバッターだね、ついに虹ヶ咲の勝利だよ。璃奈ちゃんボード『わくわく』」
凛「まだまだ。野球は9回ツーアウトからって言うにゃ」
璃奈「今までずっと三振なのによく言えるね?」
凛(璃奈ちゃんの言葉は事実で……凛は今までの打席、一度も璃奈ちゃんのドキピポにバットを当てられていない)
凛(全て三振……我ながらゾッとするにゃ)
璃奈「いくよっ!」キュッ
ヒュオオッ
凛(一塁線のボール……回転も何も見えない! ただただ向かってきてるだけじゃんこれ!)
凛「くっ!」ブンッ
スパァンッ
凛(全くタイミングも、位置も合わない……そもそも目で追えていない時点で無理があるにゃ! エマちゃんも真姫ちゃんも、こんな球どうやって攻略してるの……?) ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています