ルビィ「スターチス」
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【理亞1】
理亞(函館には、綺麗な海を観られる場所がある)
理亞(広い海と、街を見渡すことができる岬)
理亞(地元では心霊スポットと呼ばれることもあるのが難点だけど)
理亞(一人で頭を冷やしたいときにはちょうどいい場所)
理亞(私は今日もその場所へ向かう)
理亞(坂、昇らないといけないのも面倒だけど、運動不足にならないためにはちょうどいいような……) 理亞「あれ」
理亞(余計なことを考えながら、歩いていると)
理亞(岬へ続く長い坂。その先に、ちらりと赤い髪、見覚えのある人影が見えた)
理亞(昼間から、幽霊?)
理亞(いや、何かの間違いよね。だってあの子は)
理亞(ルビィは、もう)
理亞「見間違い、のはず」
理亞(だけど、もしかして本当に?)
理亞(いや、信じがたいけど)
理亞(追ってみよう)
理亞(ちゃんと確かめれば分かるはず)
理亞(一応普段から坂に囲まれた場所に住んでいるんだ、これぐらいの道は慣れっこ)
理亞(走って、追いかけて) 理亞「あっ」
理亞(誰もいない岬の先に、亡霊の姿は合った)
理亞(美しい瞳を持ち。赤い髪を棚引かせ、危うい雰囲気を漂わせる)
理亞(私は不思議と惹きつけられた。だって、その子は)
理亞「ルビィ……」
ルビィ?「!」 理亞(その名前を呼ばれたことで、驚いたようにこちらに振り向く)
理亞(以前の幼さはほぼ消え去っていたけど、その顔は)
理亞(確かに黒澤ルビィのもの)
ルビィ?「あなたは」
理亞「鹿角理亞。覚えてない?」
理亞(会ったのは数回だけ)
理亞(向き合って話をしたのは、たった一度に過ぎない)
理亞(忘れられても、不思議ではないけど)
ルビィ?「理亞、ちゃん」
理亞「……そうよ」
理亞(覚えていた、やっぱり) 理亞(彼女との関係は回数でみれば薄いけど)
理亞(その中で大切な秘密を打ち明けられて)
理亞(私は心の底からこの子を尊敬して、助けになりたい、そう思った)
理亞(でも翌日には行方知れずになってしまい)
理亞(悲劇が起きたのは、それから程なくしたころだった、のに)
理亞「あなた、どうして生きてるの」
理亞「スクールアイドル同士の心中劇だって、話題になったのに」
理亞(国木田花丸という少女が、恋人であった黒澤ルビィと無理心中を図り、成功した)
理亞(少しでもスクールアイドルに関心を持っている人間なら、誰でも知っている話) ルビィ?「……うーん、なんでかな」
理亞(とぼけた態度)
理亞(本当に幽霊、じゃあないわよね)
理亞(いやでも、場所が絶妙すぎる)
理亞(この世に未練を残した地縛霊――とか)
理亞「ねえ、ルビィ」
理亞(恐る恐る、手に触れる。感触、確かに人間の感触)
ルビィ「どうしたの、理亞ちゃん」
理亞「い、いや、なんでもない」
理亞(幽霊なんて実在しない。私は馬鹿?)
理亞(もう高校も卒業したのに、いつまでも子どもじみた発想が消えていない) ルビィ「ここ、入れないんだね」
理亞(ルビィが転落防止用の柵をポンポンと叩く)
理亞「そうよ、過去にここから、何度も人が飛び降りたから」
理亞(崖の先からだいぶ手前に設置されているそれは、景観的にはあまり歓迎できる物ではないから、気になるのも仕方はないけど)
ルビィ「じゃあ、落ちたら危ないんだね」
理亞「まあ、そうね」
理亞(当然、不慮の事故も多いから、柵が設置されているわけで――)
ルビィ「よっと」
理亞「ば、馬鹿!」
理亞(なのにルビィは、柵を乗り越えていこうとする) 理亞「なにしてるの、落ちるわよ!」
理亞(信じられない。ちゃんと人の話を聞いていなかったの?)
理亞(全く整備もされていないのに、落ちたら即死なのに)
ルビィ「いいんだよ、それで」
理亞(だけどこの子は、まるでそれを望んでいるかのように)
理亞(差し出した私の手を振り払おうとする)
理亞「よくないでしょ、そんなの」
理亞(冗談でも、人の生死はそんなにあっさりと語っていいものではない)
ルビィ「ルビィは、早くいかなくちゃ――」
?「ルビィちゃん」 理亞(自暴自棄に近い)
理亞(そんなルビィの動きと言葉を止めた、一つの声)
?「駄目だよ、それ以上は」
理亞(現れたのは)
理亞(誰?)
ルビィ「よ、曜ちゃん……」
理亞(曜)
理亞(確か、ルビィと同じグループにいた) 曜「帰るよ、ルビィちゃん」
理亞(物凄い力で、無理やりルビィを柵から引きはがす)
理亞(そして、物理的に意識を遮断しようとして)
理亞「あ、あなた」
理亞(助けたのは間違いない)
理亞(だけどその後の行為は?)
理亞(これは本当に現実?)
理亞(死んだはずの友人)
理亞(まるで映画のような行動をする年上の女性)
理亞(夢と言われた方が納得できる) 曜「あー、流石に焦ったよ。坂道走るの大変だったし」
理亞(だけど彼女はぐったりとしているルビィを担ぎ上げると、呑気な声で私の質問をかわす)
曜「惹かれたのかな、海に。ルビィちゃんも、海の街の子だから」
理亞(そういえば、彼女たちが通っていた学校も、海の近くの街――じゃなくて)
理亞「そんなことより、少し説明――」
曜「それに少し似てるんだ」
曜「ここは、花丸ちゃんが死んだ場所に」
理亞(花丸は、ルビィが愛していた人は、死んだ)
理亞(似たような場所)
理亞(つまり心中の噂は本当で)
理亞(間違っているのは、この子が生存しているという事実だけ)
理亞(だとしたら) 曜「ごめんね」
曜「いま見たこと、この子の存在は忘れてくれるとありがたいかな」
理亞(もっともな言葉)
理亞(世間的には、間違いなく黒澤ルビィは死んだことになっている)
理亞(なのに、理由は分からないけど生きていて)
理亞(この状況は、その事実を隠しているこの人にとって好ましくないんだろう)
理亞(つまり私は、優位な立場にいるはず)
理亞(だから) 理亞「連れていって」
曜「へっ」
理亞(この返答は予想外だったのか、曜は虚を突かれたよう)
理亞「拒否したら、ルビィのことを人にばらす」
曜「……それは、困ったね」
理亞(怖かった)
理亞(こんなことを言ったら、逆に口を塞がれてしまうかもしれない)
理亞(たった今、ルビィが受けたような行為を、私が経験することになるかもしれない) 理亞(それでも知りたかった)
理亞(この子にいったい何があったのか)
理亞(臆病なはずの私の心が、強くその答えを求めていた)
理亞(約束したから)
理亞(かつてこの北の地でルビィと話したとき、助けになると)
理亞(当時は何もできなかった)
理亞(気づけばルビィは消え、連絡を取ることさえできず)
理亞(私はただ噂を知り、涙を流しただけの無力な存在)
理亞(だけどもし、いまからでも力になれるなら)
理亞(あの時の後悔を上書きすることができるなら) 曜「君はルビィちゃんの知り合い」
理亞「友達よ」
理亞(数少ない大切な人の一人)
曜「……スクールアイドルをやってた、鹿角理亞ちゃんだよね」
理亞「……覚えていたの」
理亞(この人とは、会話をしたことさえないのに)
曜「色々と印象に残る子だったからね、君は」
理亞(それは、あまり好意的な意味ではないだろうけど) 曜「もし、何を見ても後悔しない?」
理亞「ええ」
理亞(後悔は、嫌い)
曜「なら、いいかな」
曜「君はある程度、信頼できそうだから」
理亞(その言葉と共に、手を差し出される)
曜「私は渡辺曜」
曜「年上でだけど、曜でいいよ」
曜「私の今は存在しない後輩ちゃんに似て、生意気そうな子だし」
理亞「……失礼ね、曜」
理亞(差し出された手を、ぎゅっと握る)
曜「……行こうか。ルビィちゃんが起きる前に」
理亞「ええ」 ◆
理亞(岬を出て、駐車場で車に乗り十数分」
理亞(たどり着いたのは、大きなお屋敷)
曜「ここね、元々一緒にルビィちゃんのお世話をしていた人の知り合いが最近買い取った家なんだ」
理亞(この規模の家、間違いなく億単位はする)
理亞(そんなものを、平然と買い取る……)
理亞「あなた、お金持ち?」
曜「私じゃないよ、その知り合いの人は、まあ」 理亞(慣れた手つきで鍵を開け中に入る)
曜「着いてきて」
理亞(渡されたスリッパを履き、広い家をやや緊張しながら歩く)
曜「こっち」
理亞(玄関からある程度遠ざかると、現れた下へ続く階段)
理亞「地下なの?」
曜「ルビィちゃんの部屋はね」
理亞(少し長めの階段を下り、現れた扉を開く)
曜「もし声が外に漏れたら大変だから」 理亞(部屋の中には、大きめのベッドが一つ、ポツリと置いてある)
理亞(あとは椅子と机があるぐらい)
理亞「これ、部屋?」
曜「生活は上。寝るだけだから、ここは」
理亞(曜はルビィをベッドに寝かせると、その下からあまり見たことのない物の数々を取り出す)
理亞「それは?」
曜「拘束具」
理亞(拘束具?) 曜「やっぱりまだ早かったかな」
理亞(何事もないように、慣れた手つきでルビィの手足を鎖でつなぎ、胴体を縛る)
理亞「ちょっと、なにを」
理亞(もしかして、ルビィはここで監禁されている?)
理亞(そういえば彼女は結構な家のお嬢様だった)
理亞(身代金目当ての誘拐とか、そういう類かも)
理亞(もしそうならついてきた私は、口封じで、ころ――) 曜「怖がらないで。ちゃんと説明するから」
理亞(渡される一脚の椅子椅子)
理亞(心は震え、へたり込みそう)
理亞(今すぐここを飛び出して、助けを呼びたかった)
理亞(だけどこの状況で、私がこの人から逃げ切れるとは思えない)
理亞(信じてその椅子に座る、それが最も賢い選択肢)
曜「さて、なにから説明しようかな」
理亞(曜はルビィの頭をやさしく撫でながら、私の方をみる)
理亞(少なくともその様子は、誘拐犯のそれとは思えない) 曜「聞きたい事、ある?」
理亞(そんなの、いくらでも)
理亞(だけどまず、真っ先に知りたいのは)
理亞「どうして、ルビィをそんな風に縛り付けるの?」
理亞(この人の言動に、ルビィへの攻撃性、悪意は見られない)
理亞(それなのに、意識を絶ち、拘束して。行動とはあまりにもギャップがあった) 曜「こうしないと、ルビィちゃんはすぐに死のうとするの」
理亞「死……」
理亞(信じられないような言葉)
理亞(もし岬での光景を見ていなければ、だけど)
曜「この部屋に何もない理由は、私が誤って目を離してしまうケースを考えて」
理亞(死に利用できる道具を置いていない、そういうこと?)
曜「一応落ち着いているときはね、こんなことせずに地上に出て二人で暮らしているの」
曜「でも大抵、ふりをしているだけの演技でさ」
曜「今日みたいに逃げ出して、死に場所を探し始めちゃうんだけど」
理亞(それであんなに焦っていたんだ)
理亞(そしてルビィの行動は、冗談でもなく、本気で死のうと) 理亞「どうして、ルビィはそこまでして」
曜「それは――」
ルビィ「あ、あぁ」
理亞(曜の言葉は、震える声とガチャリという拘束具の音でかき消される)
曜「……おはよう、ルビィちゃん」
ルビィ「なんで、なんで」
理亞(彼女は状況を思い出したのだろう)
理亞(キッと、曜を睨みつける) 曜「ごめんね」
ルビィ「触らないで!」
理亞(再び頭を撫でようとした曜の手に、ルビィが噛みつく)
曜「……ごめん」
理亞(曜はそれを振り払うことなく、ただルビィに噛まれ続ける)
理亞(表情一つ、変えることなく)
ルビィ「死なせて、死なせてよ!」
理亞(半狂乱)
理亞(耳を塞ぎたくなるような声が部屋中に響き、反響する) ルビィ「早く行ってあげなきゃいけないの!」
ルビィ「マルちゃんは一人で苦しんでいるから、早くルビィが行ってあげないといけないの!」
理亞(ルビィの悲鳴のような叫びが、心に刺さっていく)
理亞(見るに堪えなかった)
理亞(こんなの、耐えられなかった)
曜「花丸ちゃんの後を、追おうとしてるんだ」
理亞「……」 理亞(世間的には、無理心中となっている)
理亞(国木田花丸に黒澤ルビィが巻き込まれた形だと)
理亞(だけど、これをみると、とてもそうは思えない)
曜「二人の幸せはね、傍に居て愛し合うことだけだった」
曜「それが叶わなくなって、世界に絶望した」
曜「そして抜け殻のようになった二人が選ぼうとしたのが、心中だったんだ」
理亞(曜は薬のような物を取り出すと、強引にルビィに飲ませる)
理亞(徐々に小さくなる声、弱々しく、しぼんでいく) 曜「私はね、ルビィちゃんと約束していたんだ。味方になると、助けてあげると」
理亞(完全に静まると、噛まれた跡を撫でながら、悲しそうな顔で私へ向き直る)
曜「だけど自分の弱さから一度、それができずに二人を追い詰めてしまった」
曜「だからせめて望みを叶えようと、彼女たちが決めた最期を手助けしようとして、実際に動いて」
理亞(泣いているわけじゃないのに)
理亞(ここまで悲壮感に溢れた顔は、初めて見た) 曜「本当はね、ルビィちゃんをおくってあげるべきなの」
曜「でもそれは、色々な要因でできなくなってしまった」
理亞(また、ルビィの頭を撫でる)
曜「せめてもの償いに、私はずっとルビィちゃんの傍にいる」
曜「もう数年、彼女につきっきりで、一度も傍を離れていない」
曜「死以外の彼女の望みを叶えて、できる限りの生活を送ってもらう」
曜「それが私にできる、精一杯のことだから」
理亞(信じられない)
理亞(たった一度、僅かな時間ここにいただけで、私の心は切り裂かれるような痛みを感じたのに)
理亞(彼女は何年も、これを体験し続けているの?) 理亞「どうして、そこまで」
曜「これは私が背負った十字架に対する責任だから」
理亞(責任?)
理亞(あなたが背負っているのは、どれだけ大きく、重たいもの?)
曜「それで理亞ちゃんは、どうする?」
理亞(彼女の表情が、言葉が、物語っている)
理亞(これ以上首を突っ込んではいけない)
理亞(今ならまだ引き換えせると) 理亞「私は、ルビィが落ち着くまで待つ」
理亞(それでもここから離れるわけには、逃げるわけにはいかない)
理亞(この人ほどでなくとも、私にも責任、後悔はある)
曜「……そう、ありがとう」
理亞(ルビィと同じように、私の髪に触れる)
理亞(やさしい手だ、彼女の心を示している、やさしい手)
曜「きっとね、次に目を覚ますときにはある程度収まってる」
曜「お茶を淹れてくるから、それまで飲みながら目を覚ますのを待とう」
理亞(曜はそう言って、部屋を出て行く)
理亞(ほぼ初対面の私に、ルビィを託して) ルビィ「……いい人なんだよ、曜ちゃんは」
理亞(扉が閉まる音と同時に、聴こえる声)
理亞「ルビィ」
理亞(起きてた、どうして)
ルビィ「無理やり何かをするのなんて、本当は向いてない人」
理亞(口から吐き出される粒)
理亞(ああ、薬を上手く飲ませられなかったんだ) 理亞「……私は、あなたを逃がしたりはできないわよ」
理亞(例え友達の望みでも)
理亞(示された信頼を簡単に裏切るわけにはいかない)
ルビィ「分かってるよ」
ルビィ「ごめんね、理亞ちゃん」
理亞(落ち着いた声と共に、ルビィは私に小さく頭を下げる)
理亞「どうして謝るの」
ルビィ「巻き込んじゃったから、かかわらない方がいいようなことに」
理亞「……巻き込まれにいったのよ、私から」
理亞(逃れる選択肢を、ことごとく無視して、自分で勝手に選んだ道) ルビィ「……そう」
理亞(ルビィは、寂しそうに天井を見上げる)
ルビィ「花丸ちゃんはもういない。ルビィだけが生きてるの」
ルビィ「誰よりも臆病で小さな、ルビィが一緒に居てあげないと壊れてしまいそうなぐらい繊細な、永遠を誓ったはずの大切な人だけが」
ルビィ「一人で、逝っちゃったの」
理亞(彼女の頬を涙が伝うのが見える)
理亞(だけど私は動けない)
理亞(その滴を拭ってあげるべきだと分かっているのに、動けない) ルビィ「早く同じ場所へ行って、抱きしめてあげなきゃいけない」
ルビィ「一人にさせてごめんと謝って、慰めてあげないといけない」
ルビィ「それなのにみんな、死なせてくれないの」
理亞(かける言葉が見つからない)
理亞(きっと今の私がなに言っても、彼女の心には届かない)
理亞(今の私では、何もできない)
理亞(自分の無力さが、嫌だった) 足りなかった補足を
以前合同誌に載せていただいた話を台本形式に編集したものです。
時系列的には前作の数年後、後日談のようなものとなります。 【果南】
果南(窓から差し込む陽ざし)
果南(一貫性のない騒がしい鳥の声)
果南(不快だ、気持ち悪い)
果南(目に入るもの全てを自分から遠ざけたい)
果南(こんな時間に目を覚ましてしまうのは、かつて松浦果南が生きていた時の習慣によるもの) 『果南、俺はそろそろ仕事行くから』
果南(扉の外から父さんの声が聴こえる)
果南「ああ、うん」
果南(私は近くにあった酒瓶を手に取りながら、はっきりとしない答えを返す)
果南(一度寝てしまったせいで酒の効力が切れてしまった)
果南(強く、酔う為だけに存在する安酒を胃に流し込み、私は再び布団に入り込む)
果南(どちらが正しかったんだろう)
果南(どんな道を選べばよかったんだろう。
果南(私は、一つの道を正しいと思って鞠莉に手を貸した)
果南(けど結局、その道を最後まで進めず、ルビィを生かしてしまった)
果南(本当は迷っていたのかもしれない)
果南(彼女たちの終わりへの道を助けることに対して) 果南(二人の死を確認しようした時、聞いてしまったんだ)
果南(最後の最後、息絶える直前に花丸が残した)
果南(『生きて』という言葉を)
果南(そして助けてしまった)
果南(かろうじて生きていたルビィを)
果南(誰にもばれないように、既に息のなかった花丸を崖から突き落として)
果南(対外的には二人とも死んだと見せかけて) 果南(その中途半端な行動の結果、ルビィはずっと苦しんでいる)
果南(ルビィが死んだと思い込んでいるダイヤも苦しんでいる)
果南(鞠莉も、善子も、曜も)
果南(それはすべて私の所為だ)
果南(私がルビィを助けたから、みんなが余計に苦しんでしまった)
果南(花丸がどんな意図で呟いた言葉かさえ分かっていないのに)
果南(ただ自分の意識が作り出した幻聴かもしれないのに)
果南(勝手に判断して、血迷った行動をして) 果南(罪の意識が、私を覆い尽くす)
果南(本当は贖罪の為に行動を起こすべきなのに動けない)
果南(ただ酒に溺れて、必死に心を覆いつくし)
果南(別の痛みで誤魔化す為に自分を傷つける)
果南(周囲もそれを納得して受け入れてくれる)
果南(やさしい彼女たちは誰も私を責めようとしない)
果南(それが私には痛く、苦しかった) 果南(毎晩、夢に出てくる)
果南(最後に突き落とした花丸が)
果南(実は生きていた、私が止めを刺さしてしまった。私が殺した、そんな内容の時もある)
果南(ルビィと離れ離れにされたことに怒り、私を地獄へ引きずり込もうとするのも定番)
果南(だけど一番辛いのは、リアルな夢)
果南(逃げ出した二人を最初に捕まえた時の、花丸の叫び)
果南(その後彼女を拘束していた際の苦しみ) 果南(私がダイヤに従わず、反対していれば、こうはならなかったかもしれない)
果南(当時の彼女が言ったように、幸せな人生にならずとも)
果南(少なくとも、今よりはマシだった、それは間違いない)
果南(結局、私が原因)
果南(弱さ、愚かさ、優柔不断さ)
果南(死にたかった、死んで楽になりたかった)
果南「ああ」
果南(こんな状態になってようやく花丸の気持ちが少し理解できるなんて皮肉)
果南(いったい誰が仕込んだんだろうね) 【理亞2】
理亞(あの日から私は、毎日のようにルビィの元へ通うようになった)
理亞(彼女のことは放っておけなかったし、どうせ友達もいないつまらない大学生活)
理亞(ルビィと一緒にいる方が楽しいという、少し悲しい事実もある)
理亞(でも私が行けばルビィは喜ぶし、曜もある程度落ち着くことができるから)
理亞(きっと役には立てている) 曜「やあ、いらっしゃい」
理亞(家を尋ねると、いつも最初に顔を出すのは曜)
理亞(私を信頼してくれているのか、特に警戒することもない)
理亞(逆の立場なら絶対に考えられない行動、お人よし)
曜「ルビィちゃん、結構前から理亞ちゃんを待ってたよ」
理亞「そうなの?」
曜「うん、今日はいつ頃来るのかな〜なんて。可愛いよね」
理亞(照れる)
理亞(初対面の彼女感じた、人懐っこさに近いものを感じる) 2人の中を引き裂いておいて死んだら後悔するのは都合いいなと思ってしまう 理亞(ルビィが乱れていたのは、再会したあの日だけ)
理亞(あとはそれなりに落ち着いて、曜と一緒に家の中で生活をしている)
理亞(曜曰く、一度暴れるとしばらくは大人しくなるらしい)
理亞(その後に『理亞ちゃんの力も大きいけどね』と付け加えてくれたのは、とても嬉しかったっけ)
ルビィ「あっ、理亞ちゃん」
理亞(あからさまに表情が変わるわけではないけど、どこか輝いたような顔)
理亞(会話を出来る相手が、今の彼女にはそれだけ貴重ということなのかな)
理亞(曜は自虐的に『私は敵みたいなものだから、話し辛いんだよね』と言っていたけど) 理亞「ルビィ、今日はなにしてたの」
ルビィ「本、読んだり」
理亞(彼女はよく読書をしている)
理亞(それはマルちゃん――国木田花丸が趣味にしていた行為らしい)
理亞(普段は絶対に、彼女の名前を出さないけど)
理亞(だけど行動の節々に影響が色濃く残っているらしい)
曜「ちょっとしたハンドクラフトもしていたんだけど、今は少し休憩中なんだ」
理亞(曜が私の分のお茶を持ってきてくれる) 理亞(ルビィはスクールアイドル部で衣装係を務めていて、手先が器用で手芸も趣味らしい)
理亞(そして意外(失礼)なことに、曜も似たような趣味を持っていて)
理亞(Aqoursの衣装はこの二人で作っていたとか)
ルビィ「本を読み終わったら、理亞ちゃんも一緒にやる?」
理亞「そ、そうね」
理亞(スクールアイドル時代もほとんど姉さまに任せきりなぐらい)
理亞(細かい作業は苦手なんだけど……)
理亞(器用な人は羨ましい)
理亞(二年生になってから一人になったスクールアイドルでは、結局最後まで一人で衣装は作れなかったもの) 曜「苦手なの?」
理亞(ルビィに聴こえないように、こっそりと曜が尋ねてくる)
理亞(この人は、本当に目ざとい)
理亞「うん」
理亞(私も素直に打ち明ける)
理亞(一応年上な分、私も素直になりやすい)
曜「それじゃあ、ルビィちゃんの読書が終わるまで色々教えてあげるよ」
曜「そのほうが、やりやすいでしょ」
理亞「ありがとう」
理亞(ルビィに格好悪いところを見せたくないから、とてもありがたい助け舟) 曜「それじゃあ、ちょっと道具持ってくるから。ルビィちゃんのことお願いね」
理亞(パタパタと、部屋を出て行く曜)
理亞(私は頼まれたとおり、ルビィに目を移す)
理亞(相変わらず、集中して本を読んでいる)
理亞(学校教育を受けた人間なら誰もが聞いたことのある、自ら死を選んだ作家の作品)
理亞(アイドルが好き、裁縫が好き)
理亞(そんな彼女本来の人間性からは、想像もつかないような本)
理亞(間違いなく、国木田花丸が愛していた類の物語) 理亞(ルビィは花丸を意識して生きている)
理亞(それなのに私が知る限り一度も名前を出していないのは)
理亞(意識しないようにするため)
理亞(花丸を思い出すと、衝動的に死を選択しようとするから)
理亞(だけど死を望んでいるはずの彼女が、なぜ自分にストッパーをかけているのか)
理亞(そこで引っかかってしまう)
理亞(本当は死を望んでいない?)
理亞(いや、それはない)
理亞(ルビィの国木田花丸への異常なまでの愛情、そして実際に見た行動から考えれば)
理亞(それならなぜかは私には分からない)
理亞(曜はある程度理解しているかもしれないけど、内容的に尋ね辛い)
理亞(考えてみるしかない)
理亞(自分の頭で考えて答えを導き出す。それしかない) 【善子】
善子(目を覚ますと、顔に大きなクマのぬいぐるみが張り付いている)
善子(きっと寝相の悪い私が、枕元に置いてあったこいつを倒してしまった結果)
善子「……邪魔」
善子(こんな可愛いの、全然私の趣味じゃない)
善子(ウザったい、いつも眠るときに気に障る)
善子(引きはがし、壁へ放り投げる)
善子(ちょうど古ぼけたアイドルのポスターの下へ当たり、小さな落下音が部屋へ響く)
善子「あーあ」
善子(危なかった。あと少しで代えの利かないものを破いてしまいそうだった)
善子(私じゃこれがどこで売っているかも、代わりに何を張ればいいのかも分からない) ダイヤ「ルビィ!」
善子(ぼんやりとしていると、駆け込んでくる仮の姉)
善子(心配するのはポスターだけじゃなかった)
善子(あの壁の隣は、ダイヤの部屋)
善子(数々の出来事の末に、妹に対して異常なまでに過保護になってしまった姉の部屋)
ダイヤ「ルビィ、ルビィはどこですか」
善子(かつての美貌からは見る影もない乱れた髪)
善子(荒れ果てた顔、さらに細く、骨のようになってしまった身体)
善子(まるでゾンビのような人間が、部屋を這いずり回り、最愛の妹を探す) 善子?「……ここだよ、お姉ちゃん」
ダイヤ「ああ、ルビィ。ちゃんと」
善子(声で存在に気づき、彼女は私に、黒澤ルビィに抱き着く)
善子(私はルビィだ)
善子(かつては存在した津島善子はもうこの世にはいない)
善子(ここに居るのは、黒澤家の次女で、ダイヤの妹の黒澤ルビィ)
ダイヤ「うふふ、今日も可愛らしいですわね」
善子?「ありがと、お姉ちゃん」
善子(本物のルビィは生きている)
善子(だけど私たちはそれを知るのが遅かった)
善子(そしてダイヤに伝わった時には、もうこの状態) ダイヤ「ルビィ、ルビィ……」
善子(この細い身体からは想像もできないような力で、私を抱きしめ続ける姉)
善子(絶対に放さないという、強い意志)
善子(かつて黒澤ダイヤだったものの名残)
善子(この道を選んだのは私自身だ)
善子(俳人と化していくダイヤへの贖罪から始めた行為)
善子(最初はただ、傍に居て彼女を支えるだけ)
善子(今の曜さんが、ルビィにやっているのと同じこと)
善子(私に裏切られたせいで妹を失ったのにもかかわらず、ダイヤはそれを受け入れていた)
善子(それぐらい彼女は弱っていた)
善子(というより、既に正気を失っていたのかもしれない) 善子(傍にいるにつれて、次第に、記憶が書き換えられていく)
善子(ダイヤの頭の中で、ルビィの死は否定されて)
善子(いつも傍に居た私は善子という妹となり)
善子(気づけばルビィへと名前が変化して)
善子(津島善子と、本来の黒澤ルビィの存在は、抹消されていた)
善子(私はそんな状況を受け入れざるをえない)
善子(罪悪感が、逃げることを許してくれない) 善子(そんな偽りの生活が続いたある日、果南さんが黒澤家へやってきた)
善子(密かにルビィを助け出してしまったこの人から、この状況について私は何度も謝罪を受けた)
善子(土下座と、数えきれないほどの詫びの言葉)
善子(きっと彼女は、自分を罰してほしかったんだ)
善子(それなのに私は、ただ謝罪を受け入れるだけで、何もしなかった)
善子(果南さんは、ダイヤにも真実を話した)
善子(いま彼女の傍に居るのは津島善子であること)
善子(本当の妹は、黒澤ルビィは別にいて、まだ生きているということ)
善子(だけど) 『何を言ってるのですか、ルビィはここに居るでしょう』
善子(果南さんの言葉に対して、私を抱きしめながら、冗談でも言われたかの様に鼻で笑うダイヤ)
善子(既に私は黒澤ルビィになっていたのだから、仕方ない)
善子(そしてその瞬間、私の偽りの生活は終わった)
善子(私は、黒澤ルビィは偽りではなく、真実になった)
善子(津島善子はかつて私がヨハネと呼んでいたある種の副人格、痛々しい存在と同じようなものだ)
善子(ダイヤは壊れてしまったんだ)
善子(私も、もう壊れてしまった)
善子(けどせめて、その結果で得た平穏は保っていたかった) ゲロつまんねwwwwwwwwwwwwwwwwwwww >>62
つまんねiphone生きてたのかww
ss総合でしかイキれなかったのにワッチョイついてからビビってもうこの掲示板からいなくなったと思ってたww つまんねって言ってもちゃんと戻ってきてレス読んでるあたり律儀だなって思う 評価は変わるもんだよ
現地点でつまらなくても最後には面白いSSになってるかもしれないからね あと>>64はおめでたい脳ミソしてるね
SSに面白いつまらないのレスつけるのは俺の勝手だし、こいつみたいなのに絡まれない限りはそれ以上のレスはしてないし
あのスレで過去作晒せと言われたからわざわざ晒してやったし、むしろ他にあのスレで俺にしてほしい事って何?
ちょうどあと少しで完走ってとこまで来てたから一緒に消えてやったんだが、またこうして絡んでくるの見ると俺のことが好きで好きで仕方ないんだろうね 他人のssに長文自語り書き込むやつ以外に面白いやつっていないと思うんだけど ただSS読んでる身からしたらiPhoneももんじゃも両方荒らしだから早く消えてくんねえかな わざわざ「つまらない」っていう一つのレスにキチガイみたいなレスつけてる>>64が1番やばく見える…何より>>1が可哀想 【理亞3】
理亞(ルビィの家へ通うようになってから、かなりの期間が経過した)
理亞(私のほぼ空っぽだったメッセージアプリのトーク履歴)
理亞(その渡辺曜という人間の名前が常に一番上にあった)
理亞(ルビィは携帯を持たない、だから連絡は全て曜とおこなう)
理亞(まあ、頻繁にやり取りをすると言っても、殆ど事務的な連絡だけ)
理亞(今日だってそう) 『明日、そっちへ行っていい?』
理亞(もはや定型文になって一節を送る)
理亞(これに対してすぐ、曜が『いいよ』と返すまでがお決まりのパターン)
理亞「あれ?」
理亞(だけど今日は、いつもと違った)
理亞(既読はいつもどおり素早く付いたけど、その後の返事が来ない)
理亞(別段不思議なことではないけど、彼女にしては珍しい)
理亞(何か追加で送る?)
理亞(いやでも、それも催促しているみたいで悪いかな)
理亞(だからとりあえず、素直に帰ってくるのを待つべきかも) ブブッ
理亞(あ、きた)
『私、いないかもしれないけど大丈夫?』
理亞(返事の内容は普段と違う、あまり想定していなかったもの)
理亞(曜は絶対にルビィの傍を離れないはずなのに)
『どうして?』
理亞(彼女がいなくても問題はないけど、理由は気になった)
理亞(ルビィより優先するものがあるの?)
『鞠莉ちゃんが代わりにルビィちゃんの傍に居てくれる日なの』
理亞(鞠莉ちゃん? 知らない)
理亞(いや、どこかで聞いたことがある?) 『誰?』
『あっ、分からないか』
『小原鞠莉ちゃん、私とルビィちゃんの、スクールアイドル時代の先輩で、いま住んでいるおうちの所有者』
理亞(ああ、確か名前に聞き覚えはある)
理亞(Aqoursと出会った東京の大会の後、入ったという三年生)
理亞(だけど曜がいない)
理亞(そして知らない人がいる)
理亞(人見知りの私にとって、少し辛い状況かも)
理亞(行くの止めておこうかな)
理亞(いやでも、ルビィは待っているかもしれない) 『気が引けるなら、無理しなくてもいいよ』
理亞(この人には心は隠せない。私が誤魔化す前に逃げ道をくれる)
理亞(これは正直ありがたい、ありがたい言葉だけど……)
『行くわよ、別に平気だし』
理亞(そこで引かない、強がってみせるのが鹿角理亞という人間)
『じゃあ鞠莉ちゃんには伝えておくね。金髪の大きなお姉さんだから、すぐわかるよ』
理亞(金髪、大きい)
理亞(小心者の私にはなかなかハードルが高いタイプ)
理亞(しかもお金持ち、危ない人とか?)
理亞(どうしよう、何か脅されたりしたら……)
理亞「早まったかな……」
理亞(だけどルビィの為にも、頑張らなきゃ) ※
鞠莉「いらっしゃーい」
理亞「は、はひっ」
理亞(翌日、大きな声で私を出迎えてくれた確かに色々と大きい人)
理亞(だけど想像とは全然違う、フレンドリーな雰囲気)
鞠莉「あなたが理亞ちゃんね、曜から話は聞いているわよ」
理亞(ただやっぱり、独特の雰囲気がある)
理亞(偉い人に会うとき、みたいな感じ?)
理亞(私はさしずめ、蛇に睨まれた蛙)
理亞(人見知りも相まって、まともに喋ることさえできない) 鞠莉「もー、緊張しなくてもいいのよ」
理亞(ポンポンと頭に手を置かれる)
理亞(同じだ)
理亞(曜と同じ、やさしい手のひら)
理亞「えっと、ルビィは」
理亞(待ってくれているのかな)
鞠莉「ああ、地下よ」
理亞「地下……」
理亞(それは、つまり) 理亞(それは、つまり)
鞠莉「結構暴れちゃってね、最近は落ち着いていたらしいんだけど」
理亞(二度目だ、ルビィが地下に閉じ込められるのは)
理亞(最初だけ、たまたまタイミングが悪かっただけ、というわけではなくて、やっぱり日常的に起こること?)
理亞(弱っているルビィと会うのは、ちょっと嫌かな……)
鞠莉「とりあえず、地下へ行きましょうか」
理亞「う、うん」 理亞(無言で二人並んであるいて)
理亞(地下室へたどり着くと)
理亞(そこにはぐったりしているルビィの姿)
理亞(曜の時とは違い、口にまでさるぐつわのような物を付けられている)
鞠莉「また暴れてる」
理亞(小原鞠莉も手慣れた手つきで、ルビィを正しい位置へ戻す)
鞠莉「私が来るといつもこう」
鞠莉「最近は落ち着いてると言われても、なかなか信じがたいわね」
理亞「……」 理亞(この人、嫌われているのかな)
理亞(それとも何か余計なことを話したりしちゃうとか……)
鞠莉「やっぱり、曜がいないと止められないのかしらねぇ」
理亞「曜が?」
鞠莉「あの子がいるときは比較的落ち着いているのに」
鞠莉「私が時々代わりにくると、いつもこれ」
鞠莉「そんなことを知ったら、曜はずっとルビィの傍を離れなくなるだろうから、話してないけどね」
鞠莉「私も、ルビィも」 理亞(信頼できる相手がいるから落ちつける?)
理亞(だけどこれは発作ではない。彼女は死を望んで生きている)
理亞(むしろ冷静な方が、確実な方法を選ぶことができるはずだ)
理亞(例えば私と再会した時のように、逃げ出して死に場所を探したりとか)
鞠莉「元々ね、ルビィとはそれなりに仲良くはしていたはずなの」
鞠莉「困っている二人を助けてあげたこともあった」
鞠莉「ルビィだって私のことを信頼してくれてたはずなのに、正直悲しいわね」
理亞(とても疲れた顔をしている)
理亞(きっとこの人は忙しい中の合間を縫って、ルビィに会いに来ているんだ) 鞠莉「あなたは、ルビィと仲が良いのよね」
理亞「一応、そうだと思う」
理亞(少なくとも私の中では、一番仲のいい、友達)
鞠莉「そしてルビィのことは、曜から色々と聞いて知っている」
理亞「うん」
理亞(本人からは聞けない。だけど知りたいことは曜が全部教えてくれる)
鞠莉「それじゃあ、曜のことは知ってる?」
理亞「曜の?」
鞠莉「あの子自身のこと、尋ねたりはしないでしょ」 理亞(言われてみると、そのとおり)
理亞(私が曜について知っているのは、一つ年上)
理亞(ルビィの元先輩で、何らかの事情でいつも面倒を見ている人)
理亞(たった、それだけ)
鞠莉「曜はね、とても才能に溢れていた子」
鞠莉「大きな輝きと放ち、皆を惹きつけることができる、特別な子だった」
鞠莉「こんな問題に巻き込まれなければ、もっと幸せな生活を送っていたはずの」
理亞「……」
理亞(優秀な人なのは知っている)
理亞(普段の行動のそつのなさ、才能)
理亞(なんでもできる、だけどそれを誇示したりしない) 鞠莉「やさしすぎる、自分より他人を優先してしまうような子」
鞠莉「本当は解放してあげたい」
鞠莉「でも曜がいるから、ルビィは生きてる。彼女がいないと、ルビィは生きられない」
鞠莉「今の歪なルビィは曜抜きでは考えられないの」
理亞(あぁ、そうか)
理亞(ルビィは曜を裏切れない)
理亞(だから彼女の前では、正常な判断ができる限り、死を避けようとしている)
理亞(曜はルビィを縛る鎖だ)
理亞(彼女の存在が、死の選択を躊躇させている)
理亞(だから目の前から姿が消えると、ルビィは死のうとする) 理亞(きっとここで死んでも、この小原鞠莉やその他の人間は、曜を傷つけないように、上手く誤魔化すだろう)
理亞(そうすれば曜は傷つかない)
理亞(ルビィは彼女が傷つかない場所で、死のうとしているんだ)
鞠莉「それを理解しているから、曜はここから離れられない」
鞠莉「例えルビィが望んでいなくても」
鞠莉「やさしいあの子には、それもまた辛いと思うけど」
理亞「……」
理亞(背負っている物の重さ、彼女たちの苦しみ、ジレンマ)
理亞(また少し、理解できた)
理亞(だけどもし、曜が言うように私が来るようになってから症状がさらに落ち着いているとしたら)
理亞(私もルビィを縛る鎖となれる可能性がある人間なのかもしれない) 鞠莉「こんなこと、今日会ったばかりのあなたに頼むのも変だけど」
鞠莉「二人の、ルビィと曜のこと、支えてあげてくれないかしら」
理亞「……はい」
理亞(自信はない)
理亞(大きな力になれると思い込めるほど、自分に自信はモテない)
理亞(頑張っても、二人の奥深くまで入り込めるとは限らない)
理亞(けどきっと、この人は私ならできると信じてくれている)
理亞(少なくともルビィが昔は信頼していて、曜は今でも信用している人)
理亞(信じてみる価値はある)
理亞(目標)
理亞(できたかもしれない) 【曜】
曜(目を覚ますと、外はまだ薄暗い)
曜(その光景を見て寝過ごさなかったという事実を認識し、安堵する)
曜(横で眠るルビィちゃんは静かに寝息を立てている)
曜(私は彼女近づき、腕についていた手錠を外す)
曜(この子が眠ってからつけて、起きる前に外す)
曜(あまりこういうことはしたくないけど、寝起きは特に精神状態が安定しないから)
曜(意識がある間は拘束具が付いていないのだから、ストレスは最低限、であってほしい) 曜(最低限の家事をこなし、簡単な朝食を用意して)
曜(眠り続けるルビィちゃんを横目に身支度を整える)
曜(そこまでして、あとは彼女が起きるのを待つ)
曜(今日は珍しく、大学の用事で忙しいという理亞ちゃんが来ない予定)
曜(久しぶりの二人きり)
曜(ここ数年は当たり前の時間だったはずだけど)
曜(少し緊張するかも、なんて) ルビィ「……曜ちゃん」
曜(お目覚めのお姫様)
曜「おはよう、ルビィちゃん」
曜(毎朝繰り返される、まるで恋人か家族のようなやり取り)
曜(私たちの場合、姉妹かな)
曜(死にたがりの妹と、狂った姉)
曜「朝ごはん食べる?」
ルビィ「……うん」
曜(朝ごはんは拒否されることが多いから珍しい)
曜(今日は調子がいい日なのかな)
曜「ちょっと待って。すぐに準備するから」 曜(用意しておいたのは、スプーンで食べられるリゾット)
曜(衝動的な行動に走らないよう、切れたり尖ったりしている物は使わない)
曜(この部屋も地下ほどではないけど、物が少ない)
曜(時間を潰せるように、本や安全な手芸用品は揃っているけど、せいぜいその程度)
曜(昔ルビィちゃんが住んでいた、アイドルグッズや可愛い小物で溢れた部屋とは大違い)
曜「美味しい?」
ルビィ「うん」
曜(一緒に朝食を食べて、ルビィちゃんは少しだけど笑顔)
曜(これだけで、私は幸せだったり) 曜「今日は、外に出ようか」
ルビィ「えっ、いいの」
曜「うん」
曜(幸い今日は平日で外の人も少ない)
曜(最近は状態も落ち着いているし、私の体調も悪くない)
曜(鞠莉ちゃん経由で事情をある程度把握している人がいる場所になら、問題ないから)
曜(せっかく天気も良さそうだし、最近は彼女が逃げ出した日を除いて外出していない)
曜(タイミングとしてはちょうどいい) 曜「どこか行きたいところはある?」
ルビィ「うーん……綺麗な物を見たいかも」
曜(綺麗な物……)
曜(そういえば近くに温室の植物園があった)
曜(家族で遊べる休日以外、地元の人はまず行かない)
曜(時期によっては観光客が多い場所だけど、オフシーズンの今なら人はほぼいないし)
曜(最悪外国人になら見られてもあまり問題にならないかな)
曜(あそこなら鞠莉ちゃんの顔も効いた筈) 曜「分かった。ちょうどいい場所を知ってるから、お昼になったら行こう」
ルビィ「う、うん!」
曜(あっ、また笑った)
曜(よかった、今日はたくさん笑っている)
曜(私はいつも、この子の顔を曇らせてばかり)
曜(最近家へ来るようになった理亞ちゃんは、簡単に笑顔を作らせてあげているのに)
曜(私は彼女を苦しめる原因なんだから、仕方ないけどね) ※
ルビィ「わぁ、凄いよ!」
曜(植物園に着くと、まるで子どものようにはしゃぎ始めるルビィちゃん)
曜(いつも家の中ばかりだから、こういう風景は新鮮だよね)
曜(それは私にも言えることなんだけど)
ルビィ「見てみて、このお花綺麗だよ!」
曜「うん、そうだね」
曜(花か)
曜(これで喜ぶなら、庭でなにか育ててみようかな)
曜(いや、駄目か。私に世話をする時間なんてない)
曜(でも理亞ちゃんに手伝ってもらえればできる?)
曜(……真面目に考えてみようかな) ルビィ「曜ちゃん、あっちも色々ありそうだよ〜」
曜(楽しそう)
曜(ルビィちゃん、久々に心から笑っていた)
曜(私はやっぱり嬉しかった)
曜(心の底から、ルビィちゃんの笑顔を喜んでいた)
曜(そして一緒に見る光景の美しさも頭では理解していた)
曜(それでも私は笑えなかった)
曜(必死に笑顔というものを思い出し、顔に貼り付けようとしても)
曜(それが、できなかった) ルビィ「……曜ちゃん」
曜(そんな私の様子に気づき、申し訳なさそうに俯くルビィちゃん)
曜(ああ、せっかく咲いた花を、私が枯らしてしまった)
ルビィ「……ごめんね」
曜「……ううん」
曜(ごめんね)
曜(それは私が言わなきゃいけない言葉だよ) ◆
曜(数日後)
曜(鞠莉ちゃんが屋敷にやってきた)
曜(私たちの生活を維持するために、若くして世界中を飛び回り、自らを酷使している彼女は)
曜(わざわざ私の為に、時間を見つけてはルビィちゃんの相手をしてくれる)
曜(その日だけは、私は休むことができる)
曜(休める場所は、滅多に使うことのない自室)
曜(ろくに手入れもされていないけど、寝るだけならそれで十分) 曜(一人、ベッドで横になると、次々に頭へ浮かんでくる後輩たちの顔)
曜「……ごめんなさい」
曜(花丸ちゃん)
曜(もし私が最初から動けていれば、助けられたかもしれない女の子)
曜(本が好きなのに案外やんちゃで、可愛かった女の子)
曜「ごめんなさい、ごめんなさい」
曜(私があの時、連れ出さなければ)
曜(鞠莉ちゃんを裏切ってでも、あのままルビィちゃんを支えながら普通に生きていれば)
曜(少なくとも、今みたいに毎日花丸ちゃんを想い、死を切望しながら生きる、そんな日々を送らずに済んだはずなのに)
曜「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
曜(善子ちゃんを巻き込まなければ、私一人でやっていれば)
曜(あの子は自らの存在さえ失ってしまった)
曜(それに比べれば、この日々は苦労と呼ぶことさえ許されない) 曜(私たちは皆、自分が正しいと思った道へ向かって動いた)
曜(けど、その結果がこれ)
曜(花丸ちゃんは死ぬ前に、『生きて』と言ったらしい)
曜(果南ちゃんの作り話なのかもしれない)
曜(自分を正当化したい彼女が作り出した、幻)
曜(だけど花丸ちゃんの言葉が事実だとしたら、それは間違いなくルビィちゃんへ向けたもの)
曜(本当に、大切な恋人を巻き込んでしまったことを、悔やんでのもの) 曜(果南ちゃんの気持ち)
曜(花丸ちゃんの気持ち)
曜(私はルビィちゃんを死なせるわけにはいかない)
曜(もう繰り返したくなかった)
曜(みんなが深く傷つく現実は、見たくなかった)
曜(だから私はルビィちゃんの意志を捻じ曲げてでも、彼女を生かす)
曜(自分の持てるすべての力を利用して)
曜(ルビィちゃんを苦しめ続ける)
曜「最低、馬鹿曜だ、私」 ??「そんなこと、ないわよ」
曜(ノックの音もせずに、開くドアと、聴こえる声)
曜「梨子ちゃん」
曜(『いつも』、私が壊れる前にやってくる女の子)
梨子「相変わらず、死にそうな顔をしているわね」
曜(彼女はいつも、鞠莉ちゃんと一緒に函館へやってくる)
曜(だけどルビィちゃんの面倒をみるわけではない)
曜(彼女の担当は、私だ)
梨子「曜ちゃん、おいで」
曜「……うん」
曜(そんな趣味なんて、ないはずだったんだけど)
曜(気づけば梨子ちゃんに甘えていた)
曜(まるでピアノを弾くように私を自在に操り、あらゆる快楽を引き出す彼女の指に溺れていた) 曜(人間に許された現実逃避の道具は、酒、たばこ、クスリ)
曜(だけどルビィちゃん関係を考えれば、それらを使うことは不可能だ)
曜(そうなると残されたのは性だけだったから)
曜(梨子ちゃんは私を、まるで陶器の人形のように扱う)
曜(大切に、壊れてしまわないように)
曜(その想いが、心地いい)
曜(でもそんな行為は当然罪悪感が募る)
曜(私を愛してくれていたのに、同性だからとその想いを袖にしてしまった幼馴染への) 曜(千歌ちゃんは内浦に置いてきた)
曜(ついてこようとしたのを、無理やり引きはがして)
曜(今でもしょっちゅう、手紙が来る)
曜(電子メールやSNSじゃなくて、手書きのもの)
曜(千歌ちゃん、あれで結構達筆だから。その方が気持ちが伝わるからと)
曜(綺麗な字で自分や私の家族についての近況報告をしてくれる)
曜(そして最後に『好きだよ』とか、『付き合って』とか)
曜(あげく『結婚しよう』なんて言葉が付け加えられていたこともあったね) 曜(冗談半分、本気半分)
曜(だけど、絶対に付いてくる『曜ちゃんは何も悪くない。全部投げ捨てて戻ってくるべき』という内容だけは、きっと本気)
曜(それなのに)
曜(そんな誘いは、受けるわけにはいかないから)
曜(冷たい私は、そんな千歌ちゃんの手紙にひとこと、『ごめん』と返すだけ)
曜(それでも彼女はまた、手紙をくれる)
曜(梨子ちゃんの身体と千歌ちゃんの心)
曜(その温かさだけが、私の救いだった) 【理亞4】
ルビィ「……」
理亞(今日のルビィは、大人しく本を読む日みたい)
理亞(ずっと、一冊の文庫本に夢中だ)
理亞(ルビィの鎖になる)
理亞(目標はできたけど、その手段についてはまったく思いつかないまま)
理亞(ひとまず絆を深めていくしかないと、今日も普段と同じように、三人でぼんやりと過ごしている) 理亞「ふぅ」
理亞(手に持った本を閉じる)
理亞(何かを考えながら読書ができるほど、私は器用ではない)
ルビィ「理亞ちゃん、本は嫌い?」
理亞(曜はお茶を淹れに出ていて、ルビィと二人きり)
理亞「……そんなことない」
理亞(そわそわと、落ち着かないのを見抜かれたかな)
理亞(正直、身体を動かしている方が好きだし、少なくとも本を読む習慣はもっていなかった)
理亞(楽ではないのは、確かだけど) ルビィ「本当は趣味、何だっけ」
理亞「……お菓子作り」
理亞(一応、甘味処の娘だし)
ルビィ「あはは、理亞ちゃんっぽい」
理亞「そう?」
理亞(むしろ逆はよく言われる)
理亞(そんな可愛らしい趣味、尖った私らしくはないと)
理亞(肯定的な反応を示してくれるのは、今までは姉様ぐらいしかいなかった) ルビィ「それなら今度、理亞ちゃんが作ったお菓子を食べてみたいな」
理亞「別にいいわよ、それぐらい」
理亞(どうせ作っても、姉様以外食べてくれる人なんていなかったから)
ルビィ「本当に? じゃあ楽しみにしてるね」
ルビィ「曜ちゃんもお茶菓子色々用意してくれるけど、たまには他の人の作った物も食べたかったんだ」
理亞「分かった、任せて」
理亞(そっか、普段出てくるお菓子には曜の手作りも含まれているんだ)
理亞(いつも美味しいし、あれ比較されるとなると少し不安……)
理亞(少し練習してから持ってきた方がいいかな) ルビィ「あれ。そういえば、曜ちゃんは?」
理亞「あっ」
理亞(言われて気づいた)
理亞(お茶を淹れに行ってからずいぶん経つのに、まだ戻ってきていない)
理亞「様子、見に行く?」
ルビィ「でも、いいのかな」
理亞「うーん……」 理亞(ルビィはキッチンへの立ち入りは禁止されている)
理亞(理由は刃物など、危険な物が置いてあるから)
理亞「まあ私もいるし、問題ない」
理亞(仮説的には、曜の前ではルビィが行動に出ることはないはずだし)
理亞(最悪なにかあっても、すぐに対処できるわけだから)
ルビィ「そうだよね。それよりも曜ちゃんが心配だもん」
理亞「うん」
理亞(少しだけ、胸騒ぎがする)
理亞(こんなことは今までなかったから) 理亞(部屋を出て、キッチンへ)
理亞(一応、ルビィの手をひきながら)
理亞「よう――え!?」
ルビィ「ど、どうしたの」
理亞(キッチンに広がっていた光景は)
理亞(床に零れている液体、飛び散った陶器の欠片)
理亞(そして倒れている――)
ルビィ「曜ちゃん!」
理亞(駆け寄るルビィ)
理亞「よ、曜!」
理亞(少し遅れて、私も続く) ルビィ「だ、大丈夫!?」
理亞(うつぶせで動かない身体。ルビィが声をかけながら揺する)
曜「……」
理亞(それでも返事はない)
ルビィ「曜ちゃん! 曜ちゃん!」
理亞(彼女が自らの死にかかわること以外で、ここまで取り乱しているのは初めて見た)
理亞「ど、どうしよう、救急車とか」
理亞(曜、息はしているけど明らかに変だ)
理亞(私たちだけで対処するべきではない) ルビィ「で、でも、ここに呼んでもいいのかな」
理亞(けど、ルビィの言うとおり)
理亞(ここには隠さなければならない要素が多すぎる)
理亞(少なくとも家主である小原鞠莉の許可は取らなければならない)
理亞(だけどもし、曜の状態が急を要するとしたら)
理亞(この迷いが、彼女の生死にかかわることになったら……) 曜「……もう、大げさだよ」
理亞(グルグルグルグル、混乱していると)
理亞(倒れていたはずの曜がゆっくりと顔を上げる)
ルビィ「平気なの?」
理亞(ルビィが曜に抱きつく)
曜「ごめんね、ちょっと転んだだけ」
理亞(そんなわけない)
理亞(嘘だということは、すぐに理解できた) 理亞「一度、休んできたほうがいいわよ」
理亞(どう見ても正常ではないもの)
曜「いや、それはちょっと」
理亞「いいから。私もしばらく居られるし」
理亞(誰か見ていればきっと大丈夫)
理亞(そもそも、ルビィもこの状況で、何かをしでかすことはないだろうから)
曜「……じゃあ、お願いしようかな」
理亞(それでも拒否されることを予想していた)
理亞(だけど返ってきたのは肯定)
理亞(彼女の身体には、それほど大きな異常が起こっているの?)
曜「ここの後片付けは自分でしておくから、二人は戻ってて」
ルビィ「う、うん」
曜「悪いけど理亞ちゃん、ルビィちゃんをよろしく」
理亞「え、ええ」 理亞(フラフラとおぼつかない足取りで立ち上がる曜)
曜「少し休んだら回復するだろうから、心配しないでね」
理亞(無茶を言わないでほしい)
理亞(ああそうですか、なんて考えられるわけがないのに)
理亞(だけどこれ以上ここに居るのも、ルビィの精神衛生上よくはないから)
理亞「ルビィ、いこ」
ルビィ「で、でも」
理亞(心配そうなルビィ)
理亞(離れたくないのだと、理解はできるけど)
理亞「曜も一人の方が、落ち着くだろうから」
ルビィ「……分かった」 ―――
――
―
ルビィ「よっぽど、疲れているのかな」
理亞(部屋に戻ると、ルビィはやはり心配そうに漏らす)
理亞「かもしれない」
理亞(あの曜が、ルビィな状況で傍を離れようとするなんて)
理亞(ひとまず小原鞠莉に連絡は入れたら、息のかかった医者が来てくれたから一安心ではあるけど) 理亞「曜の様子によっては、誰か代わりの人がくるらしい」
ルビィ「鞠莉ちゃん、かな」
理亞「……たぶん」
理亞(そうなったらルビィはまた、花丸の後を追おうとするのだろうか)
理亞(駄目、それは嫌だ)
理亞(それを防ぐためには)
理亞「……私、曜が起きるまでここにいる」
ルビィ「ふぇ」
理亞「ずっと起きて、ルビィを見てる」 理亞(ルビィに合わせて器用に生活するなんて真似はできないけど)
理亞(寝なければ問題ない)
ルビィ「だ、駄目だよ、そんなの。おうちの人も心配するし」
理亞「平気。姉様は分かってくれる」
理亞(それとなく、ルビィのことは話してある)
理亞(姉様は私のことを信じてくれるから、この件も認めてくれるはず)
ルビィ「大丈夫だよ。私も、曜ちゃんが寝ている間は何もしないから」
理亞(曜が寝ている間、には)
ルビィ「理亞ちゃんは人から信頼されているんだね。お姉ちゃんや、曜ちゃんに」
理亞(そんなことない。そもそも私のことを信じてくれるのは、その二人だけ)
ルビィ「曜ちゃんはね、ルビィの為に、ルビィを生かすために、絶対に目を離さなかった」
ルビィ「例えどんなに体調が悪くても、なにが起こっても」
ルビィ「抜けているところがあるから、理亞ちゃんと再会した時みたいに、隙ができるときはあったけどね」
理亞(そうやって、曜はルビィをこの世に繋ぎ止めてきた) 理亞「ルビィは、曜のことが好き?」
理亞(答えは、聞くまでもないけど)
ルビィ「……本当にやさしい人なの」
ルビィ「昔、ルビィとマルちゃんの関係を知りながら、真っ先に味方になってくれた」
ルビィ「ルビィの望みを叶えるために、自分の人生をなげうつ覚悟で逃げるのに協力してくれた」
ルビィ「本当はもう、傷つけたくない」
理亞(やっぱりそうだ)
理亞(ルビィを生かす為の鍵は、彼女のやさしさを利用すること)
理亞(その方法だけは、既に考えてある) 理亞「……それなら、死ぬ前に助けてあげれば」
理亞(私がルビィの信頼を得る為に、思い描いていた言葉)
ルビィ「助ける?」
理亞「死ぬのは、渡辺曜を救ってからでも、遅くない」
ルビィ「曜ちゃんを、救ってから……」
理亞(目から鱗、そんな反応をしている)
理亞(それでいい)
理亞(こうすれば、曜のためにルビィは生きようとする)
理亞(この子も曜と同じように、やさしい子だから) 理亞(そもそもルビィが曜という鎖に苦しんでいるなら、こちらからそれを外す方向に誘導してあげればいい)
理亞(少なくともその間、この子は自分の意志で生きようとする)
理亞(前を向いて生きようとする)
理亞(そしてこれは、そう簡単に解決する問題でもない)
理亞(時間はたっぷりできるはず。曜の鎖から解放される前に、私が新しい鎖となる)
理亞(曜を助けた後、今度は私を解放するために生きる)
理亞(そうやって繰り返せば、ルビィは生きられる)
理亞(今のように死を望み、目的を持たずにただ存在する生き方に比べれば、充実した人生が送れる)
理亞(大切な人の死なんてごめんだ)
理亞(だけど苦しんでいるこの子の姿も、私はもう見たくなかった) 【鞠莉】
鞠莉(私はいつも、大切な選択を間違えてきた)
鞠莉(自分勝手な判断で、大切な後輩たちの未来をいくつも壊した)
鞠莉(輝かしい未来が約束されていた子たちから、それを奪い取った)
鞠莉(花丸は死に、ルビィや親友だった果南とダイヤは心を病み、廃人のようになった)
鞠莉(曜はルビィ、善子はダイヤの為にその身を捧げ続ける)
鞠莉(千歌と梨子も大切な幼馴染や仲間を失った) 鞠莉(私はできる限りのことをして、彼女たちに償いをする)
鞠莉(全員が不自由なく生きる為に必要なお金を稼ぐ)
鞠莉(あらゆる手段を講じて、年中動き回っている)
鞠莉(そんな私が、少しでも時間ができればやってくるのがここ、函館)
鞠莉(だけど今日訪れるのは、いつもの屋敷ではない)
鞠莉(坂の上にある、古くから続く喫茶店)
聖良「小原さん、いらっしゃい」
鞠莉(鹿角聖良)
鞠莉(最近できたルビィの友人の姉)
鞠莉(彼女に会うのは初めてではない)
鞠莉(曜に存在聞いたあと、真っ先に挨拶へ行き、事情を説明して)
鞠莉(その時の彼女は、突拍子のない私の話を素直に聞き入れて)
鞠莉(理亞ちゃんがルビィの元に通うのを許可してくれた) 鞠莉(今日の目的は、先日理亞ちゃんに一晩ルビィの面倒をみさせてしまったことのお詫びとお礼)
鞠莉(曜が倒れるという緊急事態、あの子のおかげで乗り切れたから)
聖良「お茶でいいですか?」
鞠莉「あっ、すぐに出るからお構いなく」
鞠莉(人を使って調べさせた鹿角聖良の経歴は素晴らしい)
鞠莉(実績、カリスマ性、学歴、完璧に近い人間)
鞠莉(逆に妹の理亞は、お世辞にも出来がいいとはいえない)
鞠莉(身体能力は高い、頭も悪くはない)
鞠莉(だけど人間としてあまりにも不器用すぎる) 聖良「お忙しいのですね、相変わらず」
鞠莉「私は未熟だから効率が悪いだけよ」
鞠莉「曜や理亞ちゃんに頼ってないで、もっと函館にも来なきゃいけないのに……」
聖良「ふふっ、私たちはまだ若いのですから、未熟なのは当然ですよ」
鞠莉(確かにそのとおり、未熟なのは別段おかしなことではない)
鞠莉(だけど私は、そんな当たり前を主張できる立場ではない)
聖良「曜さんの体調は大丈夫ですか」
鞠莉「ええ。この後自分でも様子は見に行くけど、すぐに回復はしたみたい」
鞠莉(医者が言うにはただの過労)
鞠莉(本当ならもっと休んでいてほしかったのに)
鞠莉(驚異的な回復力で、もう普通に過ごせているとか) 聖良「遠慮なく理亞を使ってあげてくださいね」
聖良「あの子、ルビィさんや曜さんと出会ってから、いつも楽しそうなので」
鞠莉「いいの? 妹を危ない世界に巻き込んで」
鞠莉(冷静さを欠いたルビィがとんでもないことをしでかすかもしれない)
鞠莉(人の死を、忘れられないトラウマを目の当たりにする可能性だってあるのに)
聖良「大丈夫です、私は理亞を信じています」
聖良「あの子は強い子ですから」
鞠莉(それなのに、完璧な姉は不出来な妹を全面的に信頼している)
鞠莉(この奇妙な信頼関係は、どこから来るのだろう)
鞠莉(甘いようでどこか厳しい。私が知っている姉妹と似ているようで、違う関係性)
鞠莉(それを理解するのは、なかなか難しそう) 【理亞5】
理亞(季節は深まり、函館もちらほら白い雪が舞う季節になってきた)
曜「ヘイ理亞ちゃん、ヨ―ソロー!」
理亞(曜は一度倒れて以来、ずっとこんな感じ)
理亞(元気いっぱい、いつも大騒ぎ)
理亞(これが痛々しい空元気ではないことを願わずにはいられない)
ルビィ「理亞ちゃん!」
理亞(いや、だけどそれだけじゃない)
理亞(曜が明るくなったのは、ルビィの変化の影響もある)
理亞(この子は普段から意識をするようになった、曜に出来る限り負担をかけないようにと)
理亞(最近はずっと、いい子のルビィ) 理亞「……お邪魔するわね」
曜「ほいほい、お茶入っているよ〜」
理亞「そういえばお菓子、持ってきたから」
ルビィ「わぁ、ありがとう」
理亞(温かい室内で、三人仲良くくつろぐ)
理亞(最近はトランプみたいな、簡単なゲームをすることも増えた)
理亞(それもきっと、前進の証) 理亞(だけどまだ、ルビィは曜に対して具体的な行動を起こせていない)
理亞(その一歩を踏み出せない理由は、未だに過去と、花丸と向き合えていないから)
理亞(このままだと、元のルビィに戻ってしまうかもしれない)
理亞(曜を助けると決めた前の彼女に)
理亞(そうしないために、状況を変える方法)
理亞(私が、考えたのは)
理亞「ねえ、ルビィ」
理亞(これはリスクの伴う方法)
ルビィ「なに?」
理亞(だけど先へ進むために、必要だから)
理亞「昔、函館で会ったとき、花丸のことを聞かせてほしいって頼んだわよね」 ルビィ「……あったね、そんなこと」
理亞(覚えていたんだ、ルビィも)
理亞「教えてよ、いまから」
曜「理亞ちゃん、それは……」
理亞(口を挟もうとする曜の気持ちもわかる)
理亞(これは触れてはいけない話題、タブーのようなもの)
理亞(だけど、ルビィの今後の為に、避けることはできない) ルビィ「いいよ、花丸ちゃんの話をしよう」
曜「ルビィちゃん、無理しなくても」
ルビィ「曜ちゃん、大丈夫だから」
理亞「ルビィ……」
理亞(これで)
理亞(これで、うまくいけば)
ルビィ「初めて会ったのはね、中学校の図書室」
ルビィ「隅でアイドル雑誌を読んでいたルビィを、花丸ちゃんが発見した時」
ルビィ「見つめ合ったときからね、惹かれあって。すぐに気づいたの、この人は運命の人だって」
理亞(この辺りは、以前簡単に聞いたことがある)
理亞(ルビィが私に、駆け落ちの事情を打ち明けた時) ルビィ「マルちゃんはね、本を読むのが大好きな女の子」
ルビィ「ルビィと一緒に居ても、気づけば本の世界に入り込んじゃったりする、困った子」
ルビィ「あと食べるのが大好き。結構常識知らずで、変わってる」
ルビィ「だけどやさしくて、誰よりもルビィのことを愛してくれた」
ルビィ「隣にいるだけで温かくて、手を繋ぐと胸がドキドキして。抱き合うと顔が真っ赤になって」
ルビィ「キスをして、身体を重ねるだけで、幸せな気持ちになれて――」
理亞(言葉が止まる)
ルビィ「それで、ね」
理亞(ルビィの身体が、震えていくのが分かる)
理亞(カタカタ、カタカタと)
理亞(不規則に上下し、顔がどんどん青くなっていく) 曜「ルビィちゃん――」
ルビィ「寂しがり屋だったの。ルビィから離れるのを凄く嫌がって、ずっと一緒に居ないと嫌だって、二人がいいって、いつも、いつも」
理亞(異変に気づき、止めようとする曜の声も聴こえていない)
ルビィ「だから誓った。永遠に離れないことを。死ぬ時まで、ずっと一緒に、一緒にいると。だから、だから」
曜「ルビィちゃん、止めよう」
理亞(曜が力づくでルビィの口を塞ごうとする)
理亞「ご、ごめん。もういいから」
理亞(ああ、軽率だった)
理亞(まだ早かったんだ)
理亞(ルビィには、早すぎた) ルビィ「花丸ちゃんは、マルちゃんは……」
理亞(二人で止めても、壊れた機械のように花丸の名前を呟き続けるルビィ)
理亞(駄目だ、私はまだ、ルビィの鎖には慣れていない)
ルビィ「あぁ、あぁ。行かないと、マルちゃんの所に、行かないと」
理亞(岬で再会した時のルビィ)
理亞(もう二度と、目にしたくないと思っていた彼女)
曜「ルビィちゃん、ごめん」
理亞(曜が無表情で、ルビィの意識を絶つ)
理亞(こうなったルビィを止める方法は、他にない)
曜「地下に運ぶよ」
理亞(崩れ落ちたルビィの身体をそっと持ち上げる曜)
理亞「……私も行くわ」
理亞(ごめん、ごめんねルビィ)
理亞(私の軽率な行動のせいで苦しませて) ―――
――
―
理亞(いつもの地下)
理亞「ルビィ……」
ルビィ「理亞ちゃん」
理亞(今回は目が覚めた時点で、会話が成立する程度には冷静になっていた) ルビィ「ねえ理亞ちゃん、一緒に死んでよ」
理亞(だけど頭は、以前のルビィに戻ってしまった)
ルビィ「ルビィ、一人だとつらいの。殺してくれるだけでもいいから、お願い」
理亞(いや、それより悪化しているのかもしれない)
理亞(少なくとも、私が再会した後より、彼女の目は暗く濁ってしまっている)
理亞「……嫌よ」
理亞(大きな罪悪感)
理亞(本当は彼女の望みを叶えてあげたい、そう考えてしまうぐらい)
理亞(だけどそれはあり得ない、断るしかない) ルビィ「……理亞ちゃんは、邪魔だよ」
ルビィ「再会した時も、私は死のうとしたんだよ」
ルビィ「せっかくのチャンスだったのに。マルちゃんが、ルビィの事を待っているのにっ」
理亞(非を認めるわけにはいかない)
理亞(彼女の死への渇望を肯定するわけにはいかない)
理亞(だから口には出さず、心の中で必死に謝る、ごめんなさいと)
ルビィ「嫌い、理亞ちゃんなんて、嫌い!」
理亞「……うん」
理亞(辛かった。大切な友達からの罵倒は)
ルビィ「みんな嫌い! 大嫌い!」
理亞(だけど、それから逃れる選択肢は存在せず)
ルビィ「ルビィは! ルビィは――」 ※
曜「ふぅ、やっと休んだね」
理亞「ええ」
理亞(散々叫び続けて、疲れ切ったルビィが休んだのはすっかり夜が深まったころ)
理亞(結局、私は何もできなかった)
理亞(私では、彼女の心の奥に届かなかった) 曜「もう遅いし、送っていこうか? ルビィちゃん、しばらくは寝ているだろうし」
理亞「平気。それよりもルビィの傍に居てあげて」
理亞(きっと一番落ち着くのは、曜の傍だから)
曜「気にしないほうがいいよ。怒らせるなんて私はしょっちゅうだし」
理亞「……うん」
理亞(そうなんだろう。最初の頃は特に)
理亞(曜はこんな気持ちをいつも味わっていたはずなのに、よく折れなかったな)
理亞(強いな、本当に)
曜「また、来てね」
理亞「ええ」
理亞(私だって、一回で折れたりしない)
理亞(ルビィを救い出すことを諦めない)
理亞(例え嫌われても、拒絶されても、あの子の為に動く)
理亞(その意志だけは絶対に曲げない) 【ダイヤ】
ダイヤ(私は昔から、いいお姉ちゃんになれませんでした)
ダイヤ(普通に可愛がろうとすると、過剰に甘やかしてしまう)
ダイヤ(それではよくない、少し厳しく当たろうとすると、今度は傷つけ、泣かせてしまう)
ダイヤ(姉失格、どうしようもない子ども)
ダイヤ(それでもあの子はついてきてくれた)
ダイヤ(私を愛して、信頼してくれた)
ダイヤ(それがただ嬉しく、それに応える為、正しいと思う方向へ妹を導こうとした)
ダイヤ(その為に散々無茶をしてきた、周囲を敵に回すこともあった)
ダイヤ(だけどルビィの為になるなら、一切気にならなかった)
ダイヤ(例えあの子から嫌われることになっても、構わなかった)
ダイヤ(そうしてずっとずっと、妹のことだけを考えて生きてきた) ダイヤ(だけど)
ダイヤ「ルビィ」
ルビィ?「どうしたの、お姉ちゃん」
ダイヤ(僅かに尖った声、同じように黒い髪。似たような鋭い目元)
ダイヤ(姉妹の証、間違いなくルビィのもの)
ダイヤ(だけど幼い日の妹は、こんな子だったのでしょうか)
ダイヤ(ところどころ、一致しない記憶)
ダイヤ(常に頭の中に違和感がつきまとう)
ダイヤ(この妹は、本当に黒澤ルビィ?)
ダイヤ(そんなあり得ない疑念が、時々私の中を渦巻いてしまうのです) ダイヤ(そしてそれは、最近さらに強くなりました)
ダイヤ(きっかけはたまたま、机の裏に落ちていた写真を見つけたこと)
ダイヤ(集合写真、その中の一人は、スクールアイドルの衣装を着ている私)
ダイヤ間違いなく高校時代、気づけば解散していたAqoursのもの」
ダイヤ(だけどそこに、一人だけ知らない人間が写っていました)
ダイヤ(赤い髪を左右に結び、混ざり気のない可愛らしい笑顔を浮かべる小さな少女)
ダイヤ(考えられるのは、記憶にない裏方か、他のスクールアイドルの人間)
ダイヤ(それならば、覚えていない自分の記憶力のなさを責めれば済む話、なのに)
ダイヤ(どうしても気になる、この子から目を離せない)
ダイヤ(浮かんでしまうのです)
ダイヤ(【ルビィ】という名前が、その赤い髪をみるだけで)
ダイヤ(自分でも理解している、今の私が正常ではないことぐらい)
ダイヤ(けれどもどこに異常があるか、それが分かっていない)
ダイヤ(もしも、その異常が違和感の正体だとしたら)
ダイヤ(私は、私は――) 【理亞6】
理亞(私が花丸のことを尋ねたあの日以来、ルビィはずっと地下室に籠っている)
ルビィ「マルちゃんはね、寂しがり屋さんなの。一人でいるのが嫌で、それでも強がって」
理亞(ずっと拘束されたまま、花丸の話ばかりをする。私にも、曜にも。同じような話を、毎日、毎日)
ルビィ「ルビィが一緒にいてあげないと駄目なの。同じ場所へ逝ってあげないといけないの」
理亞(今は珍しい来客(宅配便?)に対応している曜も、すっかり参ってしまったよう)
理亞(それは私も同様)
理亞(ずっと死の世界について語り、自分を解放するように求め、切望してくる)
理亞(心が押しつぶされる)
ルビィ「待ってるんだよ、花丸ちゃんはあの世で、来世で」
ルビィ「早くしないと追いつけない、離れ離れになる。だから――」 ??「ないよ、そんな世界」
理亞「えっ」
理亞(扉の外から、突然聴こえてくる声)
理亞(曜でも、鞠莉でもない、知らない声)
??「いつまで夢をみているの、ルビィ」
理亞(ガチャリという音と共に、扉を開けて入ってきたのは、髪の長い女性)
ルビィ「か、果南ちゃん……」
理亞(その人を見て、ルビィが呟く)
理亞(果南――松浦果南。Aqoursの元メンバーの一人) 果南「死後の世界なんて、ない。花丸は、もう二度と戻らないんだよ」
ルビィ「そんなこと――」
果南「国木田花丸に、黒澤ルビィはもう二度と会う事ができないんだ」
理亞(ルビィの心を刺激する言葉の数々)
理亞(この人は明らかに、意図して煽っている。
理亞「ちょっとあなた、なにを――」
果南「ごめん」
理亞(何かを口に当てられる)
理亞(曜とは違い迷いのない動き)
理亞「ま……」
理亞(薄れる意識の中、カチャカチャと何かが――ルビィの拘束具が外れる音が聞こえる)
理亞「だ、駄目……」
理亞(止めなければいけないのに。尻切れていく声)
理亞(消え入る意識と共に私の意識は深く、深くへ沈んで―――― ※
曜「理亞ちゃん!」
理亞(私を呼ぶ曜の声)
理亞「っ」
理亞(頭が痛い、変な薬を嗅がされたのか、フラフラする)
曜「大丈夫?」
理亞「え、ええ」
理亞(曜も顔をしかめている。もしかして、同じような目に遭った?) 曜「ルビィちゃんは?」
理亞「ルビィは――」
理亞(寝ていたはずのベッドに、彼女の姿はない)
理亞(私が最後に見た光景は、幻じゃなかった。つまり)
理亞「松浦果南にさらわれた」
曜「やっぱり……」
理亞(きっと曜も、彼女に襲われたのだろう)
理亞(来客というのも、宅配便を装った松浦果南?)
理亞「私、どれぐらい寝てた?」
曜「ほんの少し――だけどルビィちゃんは、どこに……」
理亞(私は松浦果南がどんな人間か知らない)
理亞(だけど曜の動揺具合をみる限り、そこまで危険な人間ではないのかもしれないけど)
曜「さっき連絡したから、鞠莉ちゃんが周辺を探してる。私たちも行こう」
理亞「うん」 ※
曜「くそっ、ここでもない」
理亞(曜が運転する車で、ルビィと縁がある場所を回って探す)
理亞(だけど本人の姿どころか、目撃情報さえ出てこない)
曜「理亞ちゃん、どこか思い当たる場所はある?」
理亞「そんなこと言われても……」
理亞(一緒に外出したりはしないから、心当たりなんてほとんどない)
理亞(せいぜい、最初に出会った海沿いと――)
理亞「もしかしたら、だけど」
理亞(一つだけ、思い当たる場所がある) ―――
――
―
曜「本当に、ここ?」
理亞「うん」
理亞(ザクザクと、雪を掻き分けて長い坂を登っていく)
理亞(冬季は車が通れないせいか、深い雪が積もった道)
理亞(私たちはそれを必死に登る)
曜「外れたら、かなりのロスだよ」
理亞「……大丈夫」
理亞(ここはこの時期、ほとんど人が来ないにもかかわらず、新しい足跡が残っている)
理亞(先にルビィがいることを、私はほぼ確信していた) 理亞「曜、走れる?」
曜「……了解!」
理亞(深い雪道を猛スピードで駆け上がる)
理亞(そして一番上へたどり着いたとき)
曜「ルビィちゃん!」
理亞「ルビィ!」
理亞(岬の先に、ルビィと、彼女を抑えつける松浦果南の姿が見えた)
理亞(私と曜は、共に下り坂を駆け下りようとして、雪に足を取られ転ぶ)
理亞(それでも構わず、滑るようにどんどん先へ、ルビィの元へと進んでいく) 果南「来たね、二人とも」
理亞(そしてたどり着いた先、最初に口を開いたのは果南)
曜「果南ちゃん……」
果南「曜、久しぶりだね」
曜「どうして、こんなことを」
果南「理由は色々」
果南「まあ、私が話す前にルビィからその子――鹿角理亞ちゃんに話があるみたいだけど」
理亞「私に?」
理亞(わざわざ、話?) ルビィ「ずっとね、理亞ちゃんに聞きたかったことがあるの」
理亞(ルビィは抑えつけられたまま、だけど私をしっかり見据えている)
ルビィ「どうして、ルビィの傍に居てくれるの」
理亞「傍に居る、理由」
理亞(約束があったから?)
理亞(見捨てられなかったから?)
理亞(そういう、義務感じゃなくて)
理亞「友達を助けたいと思った、ただそれだけ」
理亞(たぶんそれが、素直な気持ち)
ルビィ「……じゃあ殺して」
ルビィ「そうすれば、ルビィは救われる」
理亞「嫌よ」
理亞「私はあなたを殺したくなんかないし、大切な姉様に迷惑はかけられない」
理亞「なにより、ルビィと一緒に生きたいの」
理亞(親友と共に、できる限り長く、長く) ルビィ「……無理だよ、そんなの」
理亞(素直な気持ちを伝えた、説得のつもりだった)
理亞(だけどそれが意味を持たないことは分かっている)
理亞(でもそうすることしか――)
果南「そうかな」
理亞(果南の声)
理亞(止めて、今は刺激しないで――)
果南「マルは最後に残したんだ」
果南「『生きて』という言葉を、ルビィに」
ルビィ「……えっ?」 理亞(耳を疑う。ここで作り話?)
ルビィ「嘘だ」
理亞(そう、そんなことは信じられない)
理亞(ずっとルビィから聞かされていた国木田花丸がそんなことを望むなんて、ありえない)
果南「本当だよ」
理亞(だけどそんな突拍子もない話を肯定したのは)
曜「果南ちゃんの言葉は、たぶん本当」
理亞(松浦果南ではない第三者)
ルビィ「……曜、ちゃん」
理亞(思わぬところからの言葉に、場の空気が変わる) 果南「ずっとね、考え続けてきた」
果南「マルの言葉は真実だったのか。考えて、考えて、その末の結論」
果南「私はもうボロボロだけど、これを伝えるためにここまで来た」
果南「本人に伝えないまま、消えることは許されなかったから」
果南「そしてこれを、ルビィと、ルビィを支えてきた人たちに知ってもらいたかったから」
理亞(そこまで話すと、彼女はルビィを抑え込んでいた手を放す)
果南「これを知った上でルビィが死を選ぶなら私は止めない」
果南「例え二人邪魔をしようとしても、排除する」
ルビィ「……」
果南「ルビィは、どうする?」
理亞(本気だ、この人は)
理亞(私たち二人でかかっても、きっと止められない)
理亞(他人には手出しができない状況を作り出し、全てを打ち明けた上で、選択権をルビィに託した) ルビィ「ルビィは……」
理亞(それでもルビィは動かない)
理亞(整えられた舞台を前にしても、何かに縛られてしまったように、動けない)
理亞(結局)
理亞(彼女を本当の意味で動かせる人間は、一人しかいない)
曜「生きよう。きっと花丸ちゃんも、それを望んでいるから」
理亞(曜がルビィに静かに声をかける)
理亞「私も」
理亞「私もルビィが生きている限り、傍に居るから」
理亞(私も同じように、ルビィに語りかける)
ルビィ「曜ちゃん、理亞ちゃん……」
理亞(少しだけ、ルビィの意識が私たちの方へ、生きる方へと向く)
ルビィ「私は――――」 【梨子】
梨子(曜ちゃんの匂いが染みついた部屋)
梨子「信じていいのかしらね、本当に」
梨子(出会って数ヶ月しか経っていないような子を)
曜「私は、信じるよ」
梨子(本当に甘いわね、曜ちゃんは)
梨子(だからつけこまれる、私みたいな人間に)
梨子(私はあの子たちに対して、責任も義務も感じていない)
梨子(そこに辿りつくまでの過程で、それなりに関わっていたはずなのに)
梨子(ドライな人間)
梨子(だから別に、ルビィちゃんの助けになるつもりは一切なくて)
梨子(ここへ来ていたのも、曜ちゃんを放っておけなかったから)
梨子(曜ちゃんを助けてあげたかったから) 梨子(だけどね、そそられてしまったの)
梨子(弱っていく彼女の姿に、不謹慎にも興奮を覚えた)
梨子(鞠莉さんと一緒のタイミングにこだわったのは、そうしないと曜ちゃんを慰めてあげられないから)
梨子(鞠莉さんがいるときしか、絶対に彼女はルビィちゃんの傍を離れなかったから)
梨子(自分勝手、欲を満たすだけの行為。だけど利害が一致していれば、それは必要な行為)
梨子(そもそも私は、曜ちゃんのことが結構好きだった)
梨子(その危うさが、昔愛した人に似ていたから)
梨子(あと、見た目? 癖毛ぐらいしか似てないかもだけど) 梨子「ねえ」
曜「なーに?」
梨子「ずっと傍に居た子が、ポッと出の子に盗られるのはどんな気持ち?」
曜「うーん……娘を嫁に出すお父さんの気持ちかな?」
梨子(きっと冗談だと思ったんだ。曜ちゃんは笑っている)
梨子(そうだったわね)
梨子(渡辺曜は本来、こんな風に笑う、明るい子だった) 梨子「そういえば、鞠莉さんがね、ここに住んでもいいって」
梨子「もう使わないだろうから、私の曜ちゃんの二人で」
曜「……そうなんだ」
梨子「私は別に、それでも構わないけど」
曜「……ごめんね、梨子ちゃん」
曜「私は帰らなきゃ」
梨子「そう……」
梨子(ルビィちゃんは沼津に戻る)
梨子(だから曜ちゃんもついていく)
梨子(理由はそれだけだと、分かっているけど)
梨子(やっぱり勝てないのね)
梨子(神様は純粋に彼女を支えて続けた子の味方)
梨子(私は曜ちゃんの特別にはなれない)
梨子(都合が良すぎる、弱みにつけこんで手に入れるなんて) 梨子「残念、せっかく立派な家を手に入れるチャンスだったのに」
曜「それなら、梨子ちゃんだけで住めば?」
梨子「私には、そんな資格ないわよ」
梨子(いらないもの、肝心のおまけが付いてない家なんて)
梨子「そろそろ行くわね。また内浦で会いましょう」
梨子(実家に帰るのは気が引けるけど、もう一人、気になっている子がいるから)
梨子(その子を助けてあげるのも悪くない)
曜「梨子ちゃん。今までありがとう」
梨子「ええ」
梨子(私の方こそ)
梨子(楽しかったわよ、曜ちゃん) 【理亞7】
理亞(私のベッドは、普通よりも少し大きい)
理亞(姉様が『友達と一緒に寝られるように』と言いながら選んでくれたもの)
ルビィ「うゅ……」
理亞(目を覚まし、横をみると、もぞもぞと動く赤い髪)
理亞「おはよう、ルビィ」
ルビィ「あ、理亞ちゃん」
理亞(沼津へ戻り、かつての仲間たちを助ける)
理亞(それがルビィの決めた答え)
理亞(通じ合えたと思ったのに)
理亞(結局私たちは、離れ離れになる) 聖良「おはようございます、二人とも」
理亞(だけど鞠莉さんが受け入れる体制が整えるまでの間)
理亞(社会復帰のリハビリも兼ねて、鹿角家で居候することになって)
理亞(短い期間だけど、一緒に暮らしている)
ルビィ「聖良さん、おはようございます」
理亞(姉様は、ルビィの事情をすべて知った上で、快く受け入れてくれた)
理亞(理由は私の親友だから)
理亞(心が広い? それとも姉馬鹿)
聖良「ルビィさん、昨日鞠莉さんから連絡がありました」
聖良「もうすぐ、沼津の方の準備が整うと」
ルビィ「……はい」
理亞(ルビィは、黒澤家には戻れない)
理亞(鞠莉曰く、その理由はなかなか複雑らしいけど、詳しくは知らない)
理亞(必要ならルビィが教えてくれるはずだから) 理亞「もうすぐ、お別れ」
ルビィ「うん」
理亞(同居生活は楽しかった)
理亞(昔から思い描いていた、仲のいい人との幸せな時間をたくさん経験できた)
理亞(色々なルビィに触れ、知ることができた)
理亞(きっと一生、忘れない思い出)
ルビィ「全部終わったら、絶対に理亞ちゃんに会いに来るから」
理亞「うん、約束」
理亞(裏を返せば、終わるまでは会えないかもしれないということ)
理亞(だけど私は、それで構わない)
理亞(私は鎖となった。ルビィをこの世に繋ぎ止める鎖と)
理亞(私がいれば、少なくとも再会するまで、ルビィは生きることができる) 聖良「二人とも、お別れまではまだ少しあります」
聖良「今は顔を洗って、朝ご飯を食べましょう」
りあルビ「「はーい」」
理亞(姉様の言うとおり、まだ時間はある)
理亞(もう少しこの幸せをかみしめる時間は)
理亞(ねえ、ルビィ)
理亞(ありがとう、私と友達になってくれて) 【千歌】
千歌(昔は毎日、顔を合わせていた)
千歌(いつも一緒、仲良し幼馴染)
千歌(離れることなんて想像もできなかったし、あり得ないと思っていた)
千歌(だけどそれが現実になって、何年も顔を合わせない日々が続いて)
千歌(手紙は書いた)
千歌(読んでくれているのはいつも律儀に帰ってくる返事で理解していたけど、やっぱり会えないのは寂しかったな) 千歌(でも今日、ようやく再会)
千歌(私の大好きな幼馴染、曜ちゃんに)
千歌(沼津の駅、こっそり梨子ちゃんから電車の時間を教えてもらって)
千歌(改札前で待ち構える間、私の心はずっとドキドキと高鳴ってる)
千歌(到着時間になり、響く電車が走る音)
千歌(少し間が開いて、改札から出てくる人々)
千歌(その一番後ろに、ゆっくりと歩いて改札へ向かう、見慣れた人)
千歌(ずいぶん痩せた、苦労が一目でわかるほど老けた)
千歌(だけどどんなに見た目が変わっても、見間違えるわけがない)
千歌(昔、家族よりも長く時間を共にした人のことを) 千歌「曜ちゃん!」
千歌(改札を出てきた彼女に飛びつく)
曜「千歌、ちゃん?」
千歌(最初は驚いたように、だけどすぐに表情を緩め、私をやさしく見つめる)
千歌(この目、匂い、感触、ずっと待ちわびていた、本物の曜ちゃん)
曜「どうしてここに?」
千歌「えへへ、企業秘密なのだ」
千歌(残念ながら、情報元を漏らすことは禁じられているから) 曜「わざわざ、迎えに来てくれたの?」
千歌「うん」
千歌(嘘、本当は真っ先に曜ちゃんと会いたかったから)
千歌「曜ちゃんのお父さんやお母さんね、無理やり用事を作ってうちに呼んであるんだ」
千歌「そうすれば、ちゃんと会えるだろうから」
千歌(せっかく帰ってきたのに、大好きな親御さんに会えなかったら寂しいもんね)
曜「……ありがとう、千歌ちゃん」
千歌(あれ、少し泣いてる?)
千歌(相変わらず涙もろい)
千歌(強がってみせるけど、繊細ちゃんなんだから) 千歌「よーし、じゃあ帰ろうか曜ちゃん」
千歌「最近車買ってもらってね、それで来てるんだ」
曜「うん」
千歌(曜ちゃん、千歌が免許を持ってるなんてびっくりするかと思ったけど、特に反応なし)
千歌(そうだよね、私たちはもう大人になったんだもんね)
千歌「ふぅ」
千歌(改めて曜ちゃんを見る)
千歌(歩く足取りもフラフラしている、手足も傷だらけ)
千歌(あのキラキラと輝いて、エネルギーに溢れていた彼女の姿からは、想像もできないほど)
千歌(それだけ苦労していた、頑張っていたことは、私も知っている) 千歌「本当に頑張ったんだね、曜ちゃん」
千歌(ゆっくり休んでほしかった)
千歌(ずっと休んで、元気になって欲しかった)
曜「……まだ、終わりじゃない。私はまだ、やらなきゃいけないことがあるの」
千歌(でもそうだよね、知ってるよ)
千歌(曜ちゃんがそういう子だってことは、私が一番)
曜「善子ちゃん、果南ちゃん、ダイヤさん、助けてあげなきゃいけない人がいる」
千歌「そうだね、それでも」
千歌(細くなった身体を、思い切り抱きしめる)
千歌「それでも今は、休もう。一緒に」
曜「……うん」
千歌(曜ちゃんは自分にはそんな権利はないと考えているのかもしれない)
千歌(だけど今は、今だけは)
千歌(私の腕の中で休むことを許してほしいと、心に浮かんだ子たちの影に願った) 【ルビィ】
ルビィ(東京から沼津へ向かう電車の窓から外を眺める)
ルビィ(昔、Aqoursのみんなで乗った時とほとんど変わらない、懐かしい風景が広がっている)
ルビィ(一人だ)
ルビィ(いつ以来か思い出せないぐらい、久しぶりの一人きり)
ルビィ(小さい頃、ずっとお姉ちゃんが隣にいた)
ルビィ(中学からは花丸ちゃんが)
ルビィ(その後も曜ちゃん、理亞ちゃん、誰かが絶対に傍にいてくれた)
ルビィ(たくさんの人に支えられて、ルビィは生きてきた) 『次は〜』
ルビィ(乗換駅)
ルビィ(ホームに降りる)
ルビィ(ここは理亞ちゃんと出会う前、大会のために東京へ向かった時、花丸ちゃんが美味しそうにパンを食べていた場所だっけ)
ルビィ「マルちゃん……」
ルビィ(思い出す、彼女のこと)
ルビィ(以前ならそれだけで頭が死に支配されていた)
ルビィ(だけどもうそんな思考は微塵も無くなって。溢れてくるのは、ただの悲しみと涙) ルビィ(マルちゃんと違って色々なことは考えられない分、最初から知っていたよ)
ルビィ(来世なんて存在しない、死んでしまえばそれまでだと)
ルビィ(それでも大切な人の為、幻想の世界を望んだ彼女の為に目を逸らしていた)
ルビィ(自分の考えを捻じ曲げていた)
ルビィ(本当は理解していた、生き残ってしまった後、どうするのが最適かなんて)
ルビィ(それでも目を背けようとした理由は、寂しかったから)
ルビィ(ただ耐えられなかった)
ルビィ(花丸ちゃんがいない世界という、現実に)
ルビィ(だから大切な人をダシに、死のうとした)
ルビィ(虚無しかない現実から、無の世界――死後の世界を目指そうとした) ルビィ(函館で過ごした最後の日、夢をみた)
ルビィ(花丸ちゃんが出てくる夢)
ルビィ(だけど悪夢じゃない、幸せな夢)
ルビィ(二人で過ごした図書室)
ルビィ(色々な場所を回ったデート)
ルビィ(繋いだ手や重ねた唇の感触)
ルビィ(思い出が溢れ出した夢) ルビィ(ねえ、花丸ちゃん)
ルビィ(ルビィは生きてみるよ)
ルビィ(酷い人生)
ルビィ(みんな壊れてしまった取り返しのつかない世界)
ルビィ(それを少しだけマシにして、大切な人たちを救う)
ルビィ(そこまでは絶対に頑張る)
ルビィ(それが終わったら、ルビィはいつか死んじゃうとかもしれない)
ルビィ(ずっと生きられるほど強くないから)
ルビィ(それでも、生き残った意味を果たしてから逝くよ) ルビィ(ルビィと花丸ちゃんとは二度と再会できない)
ルビィ(だけどもし別の世界があれば、一緒に居ようね)
ルビィ(どんな関係だとしても、一緒に居続けようね)
ルビィ(きっとルビィたちは、どの世界でも一緒)
ルビィ(国木田花丸と黒澤ルビィがそこに存在する限り、絶対に)
ルビィ(電車がやってきて、扉が開く)
ルビィ(もうすぐ帰るよ)
ルビィ(最後まで見守っていてね、ルビィの心の中に残っている、大切な人) ???
「あなたたちはどうしていつも一緒なの?」
「どうしてかな?」
「気づいたら傍にいた、そんな感じずら」
「そうだね、そんな感じ」
「本に夢中になりすぎちゃったね」
「うぅ、先生に怒られちゃったよぉ」
「もうすぐ小学校卒業なのに、まだまだ子どもなのかな」
「締まらないねぇ」
「締まらないずら」
「これはこれで、楽しいけどね」
「ルビィちゃんとなら、どんな状況でも楽しめるよ」
「そうだね、マルちゃんさえいれば、ルビィも」
「花丸ちゃんとはね、中学校で出会ったの」
「あれはまさに、運命的な出会いだったずら」
「本当に、もっと昔から一緒だったみたいに、あっという間に仲良くなって」
「不思議だったよね」
「うん」
「それぐらい、大切な人なのかな」
「そうだよ、きっと」
「ずっと、一緒だよね」
「そうだね。おばあちゃんになっても、来世でも、違う世界でも」
「マルたちは、絶対に離れないよ」 花丸ちゃんとルビィちゃんの物語はここでおしまいです
約二年越しの後日談、お付き合いいただきありがとうございました。
ここで続きを書くのが遅れてしまったのは申し訳ありませんでした。 乙
ググるまでスターチスが花の名前であることすら知らなかった お疲れさまでした
衝撃を受けたあの話からもうそんなに経っていたんですね
次回作も楽しみにしています 説明を入れ忘れたので少しだけタイトル補足
タイトルの『スターチス』は花の名前です。
主な花言葉は
変わらない心、途絶えない記憶
加えて
きいろ:愛の喜び
ピンク:永久不変
です。 心中から一気に読んできた
決して単純なハッピーエンドではないけれど、
それでもこの結末を迎えたこと、それを読むことができて本当によかった
素敵なSSをありがとう ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています