春は、絵里腋。やうやう短くなりゆく袖丈、すこし湿りて沸き出立ちたる香の淡く漂いたる。

夏は、絵里腋。水着の頃はさらなり。をどりもなほ。汗の多く飛び散りたる。また、風呂一日二日ぶり、穂乃果のうちに入りに行くもをかし。雨など濡れ透けるもをかし。

秋は、絵里腋。手入れ怠りて、腋の毛いと深くなりたるに、希の寝床へ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど、剃り残すさへあはれなり。まいて本人に告げたるが、いと恥ずかしがるは、いとをかし。夜乱れ果てて、腋の香、汗の味など、はたいふべきにあらず。

冬は、絵里腋。厚着で蒸れたるはいふべきにもあらず。腋のいと臭きも、股もさらに、いと臭きに、鼻など潜り込ませて、深く吸い込むも、いと好き好きし。癖になりて、しつこく腋臭貪り耽ければ、酔い人も、白き廃人になりて、わろし。

(腋草子 第一段 性少納言 作)