梨子「レクイエム」
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近づいてくるピアノ。
【〜〜〜♪】
梨子「あれ?」
近づくにつれて、音が聴こえてくる。
誰かが、ピアノを弾いてる?
【〜〜〜♪】
綺麗な音。
きちんと調律されているわけでもない、小さなアップライトピアノのはずなのに。
少なくとも私には、絶対に出すことのできない音が響いている。 誰。
誰が弾いているの。
私は駆け出す。
その存在を確認するために。
梨子「わぁ……」
ピアノの近くに辿りついたのに。
周りには人垣。
私の演奏をつまらなそうに見る子どもも、普段素通りする大人も。
立ち止まって、静かに演奏に耳を傾けている。 そして肝心の演奏者は。
梨子「……」
【♪――】
途切れる音。
同時に響く拍手。
演奏者は本物のピアニストのように、優雅に立ち上がり、頭を下げる。
「お姉ちゃん、アンコールはあるの?」
子どもが無邪気に尋ねる。
??「そうね――」
私の方に顔を向ける演奏者。
??「疲れたから、これでおしまいかしら」
「そっか――格好良かったよ、お姉ちゃん!」
普段、私には声をかけようともしないのに。
子どもは純粋、だからこそ残酷。 去っていく人たち。
そして。
??「あなた、来ていたのね」
近づいてくる。
梨子「お姉さん」
??「今日は遅かったのね」
少しだけ、罰悪そう。
梨子「ピアノ、弾けたんですね」
??「一応、それなりにね」
それなり、なんてレベルじゃなかった。 ??「本当は、あなたのピアノを聴くつもりで来たの。だけどほら、なかなか来なかったでしょ」
クルクルと、指で髪を巻きはじめる。
??「それで簡単に弾いていたら、人が集まってきて、リクエストとかされたせいで、止められなくなって……」
いたずらがばれた子どもが言い訳をするように。
ソワソワと、私の顔を見ることもできずにいる。
ああ、なんだろう。
この人、凄く。
梨子「可愛い……」
??「なっ」
梨子「あっ」
しまった、口に出てしまった。 ??「な、なにを馬鹿なことを言ってるの」
梨子「ご、ごめんなさい、つい」
だって、格好良い人って印象しかなかったし。
ピアノも、少し聴いただけなのに、本当に感動したし。
そんな人が、こんな。
こんな、小さな子どもみたいな――じゃなくて。
梨子「えっと、それよりも、演奏」
??「……怒ってる?」
梨子「どうしてですか?」
??「……その、なんというか」
確かにあまりの差にショックもあったけど。
別に怒るようなことはされていないし。 なにより、あんなに凄い演奏。
梨子「どちらかといえば、感動している、みたいな」
??「感動?」
梨子「素敵な演奏に、感動しました」
??「そ、そう?」
また髪をクルクルしだす。
これ、照れ隠しでもあるのかな。
梨子「お姉さん、もしかしてプロの人とか?」
??「別に、そんなんじゃないわよ」
梨子「そうなんですか?」
あんなに素敵な音を奏でるのに。 梨子「それなら、プロを目指している人とか?」
??「そんなわけないでしょ」
あれ、そっけない。
もしかして怒っている? なにか地雷踏んじゃった?
??「……私、もう行くわ」
梨子「帰っちゃうんですか?」
??「ごめんなさい、時間もあんまりないし、今日はピアノを聴く気分じゃないの」
さっきは私の演奏を聴きに来てくれたって言っていたのに。
やっぱり怒らせちゃったかな。
どうしよう。 ??「それじゃあ――」
背を向けて、去っていこうとする。
駄目だ。
嫌な予感がする。
ここで別れてしまったら。
繋がりが、この人と私を繋いでいた糸が、切れてしまう。
そんな予感が。
梨子「ま、待ってください!」
思わず、腕を掴んでしまう。
??「ヴぇ」
驚いたのか、変な声を出して振り向くお姉さん。 梨子「あ、あの」
どうしよう。
??「え、ええ」
勢いで動いたから、何も考えていない。
こういうとき。
なにを、なにを――
梨子「わ、私」
??「私?」
梨子「私の名前、桜内梨子、梨子です!」
??「そ、そうなの」
ちょっと引いてる?
ああもう、だけど私は引けない、女は度胸! 梨子「お姉さんの名前は?」
真姫「えっと、西木野真姫」
梨子「まきさん……」
にしきのまきさん。
お姉さんの名前。
髪を巻き巻きしているからかな、なんて。
梨子「まきさん、よかったらライン交換しませんか」
真姫「い、いいけど」
まきさんがたどだどしくスマホを取り出す。
よし、勢いで押せている。
この人は押しに弱いみたい。
ささっと交換を済ませて。
無理やりにでも繋がりを残して。 梨子「ありがとうございます」
交換完了。
真姫「えっと、ええ」
あれ、また髪の毛クルクル。
案外、喜んでくれている?
梨子「その、ピアノのこととか聞きたいんで、連絡してもいいですか」
真姫「少しぐらいなら、いいわよ」
クルクルクルクル。
やっぱりこの人、可愛い。 梨子「それじゃあ、私も帰ります」
真姫「弾いていかないの?」
梨子「今度、まきさんが聴いてくれている時にします」
一人で演奏しても意味はない。
最近の目的は度胸試しというより、まきさんに聴いてもらうことだったから。
真姫「……私、もう少しだけ時間があるわよ」
梨子「はい?」
真姫「早く、弾いてみせてよ」
表情を隠したいのか、顔を背けて。
だけど耳まで真っ赤だから、照れているのがまるわかり。 あはは、なんだろう。
本当に分かりやすいな。
真姫「な、なに笑っているのよ」
梨子「別に、なんでもないです」
真姫「い、いいからさっさと弾きなさいよ」
梨子「ふふっ、それじゃあ少しだけ」
いつものように、ピアノの前に座る。
さて、なにを弾こう。
まきさんが好きなのは、どんな曲なのかな。 とりあえずこの辺で。
書き忘れていましたが内容的にはりこまきです、ぼちぼち進めていきます。 M1
音楽室。
真姫「ラララー、ラララ――」
ふむ。
いいわね、なかなか。
今度の新曲、自然と良いメロディが浮かんでくる。調子がいいのかしら。
凛「ご機嫌だね、真姫ちゃん」
真姫「あら、分かる?」
凛「なんか『絶好調!』みたいな感じがするにゃ」 凛にばれるなんて駄目ね、私も。
先生に手伝いを頼まれた関係で花陽はいない。
今日は練習が休みだから、少し作曲の作業を進めようと思ったけど。
凛がついてきて、こうやっておしゃべりをしながらの作業。
凛「でさでさ、なにがあったの? 恋人とかできた?」
真姫「違うわよ」
凛「えー、恋が素直じゃないあの子を変えた! とかじゃないんだ」
真姫「なによそれ」
私はそんな、頭お花畑みたいなタイプじゃない。
真姫「ただ、面白い子と友達になれただけよ」 凛「へえ、どんな子なの」
真姫「まだ中学生だけど、音楽が好きなタイプでね」
凛「なるほどねえ。凛と違って気が合うと」
真姫「あなただって、気が合う――わけじゃないかも?」
凛「えー、酷いにゃー!」
じゃれついてくる凛。
真姫「もう、なによ」
凛「真姫ちゃんは凛のだからその子には渡さないよーって」
真姫「はいはい」 ピアノを弾くのは楽しい。
友達と過ごすのも楽しい。
だけど。
真姫「さて、私は帰ろうかしら」
凛「えっ、まだ早い時間なのに」
真姫「帰って勉強しないといけないから」
凛「えー、この前の定期試験もほぼ満点だったじゃん」
真姫「この学校の試験で満点でも、受験はそうもいかないでしょ」
親が私に求めているのは、トップクラスの医学部合格。
その為には必死に勉強する必要がある。
凛「勉強大変なんだね」
真姫「ええ」
二年生も半分が過ぎた。
スクールアイドル活動もあるけど、今の私は勉強一筋。
本当はこうやって作曲をする時間だって許されないぐらい。
そろそろアイドルは諦めて、作曲に専念した方がいいかもしれないような状態。
真姫「じゃあね、凛。花陽によろしく」
凛「うん、ばいばーい」
ましてや、遊びに行くなんて論外なはずなんだけど。 『今日は弾きに行く予定です』
スマホの画面に表示された文字。
真姫「少しだけ、行こうかしら」
ママには外で勉強してから帰ると連絡しておいて。
毎日のように、あの子の元に通う私。
ストレスやプレッシャーで潰れてしまいそうになった時。
ストリートピアノがあると聞いて、気分転換にと行った商業施設。
そこで出会った、四歳年下の中学生の少女、梨子。 綺麗な演奏をする子だった。
技術的には未熟。
ミスをするとすぐに顔に出るし、上手く弾けると笑顔になる。
だけど、聴き手を穏やかな気分にさせてくれる、そんな演奏で。
引き込まれた私は、自分の目的も忘れて聴き入ってしまったぐらい。
その後、毎日のように自然とその場所に足が向くようになり。
梨子も毎日、その場所でピアノを弾いていて。
時々、私が弾くこともあった。
連絡先を交換した――というか名前を知った時もそうだったっけ。
この前は連弾なんかして、いつもより人が集まってくるから梨子が恥ずかしがって大変だったり。 真姫「ふふっ」
学校へ行けばみんなと会える。
放課後も、梨子と楽しく過ごすことができる。
大変な日々だけど、楽しく過ごせていて。
このまま、変わらなければいい。
ずっと、この時間の中に居られれば。
ああ。
去年も、そんなことを考えたっけ。
変わらないな、私も。 スクスタ時空のりこまきも良かったけど
元音ノ木設定を活かせる年齢差りこまきはもっとイイよね ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています