ことり(16)「今日から貴女の専属メイドになることりです。鞠莉ちゃんよろしくね♡」鞠莉(11)「ふんっ…」
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ことり「やぁ〜♡可愛い♡」ツンツン
鞠莉「ちょ、ちょっと…触らないで!」 「ねえ、それいつの写真?」
親友の惚けた、いつも通りのトーンの声でふと、我に返る。
もう、何分くらい眺めていただろうか。気がつけばすっかり日も落ちていて、
夕日がかった空に秋の到来と、そして夏のおわりを感じた。
「……うん。高校……三年生くらいの頃、………かな。」
「ふうん……じゃ、まだ5、6年前くらいだね。もう10分はその写真眺めてるから、どうしたのかなあ、って。」
「……あはは。ごめんね、穂乃果ちゃん。折角遊びに来てくれてるのに。」
夕暮れの部屋に、二人きり。もうそろそろ、夕飯の買い出しに行った海未ちゃんも帰ってくるだろうか。
高校も大学も卒業して、社会人になってから暫く。私達三人はまだ、こうしてたまの休みに集まったりしていた。
この前は、穂乃果ちゃんの家。その前は海未ちゃん、そして今日は私の家。
一人暮らしでバラバラに生活を始めて、それでもまだ、こうして時折集っては
鍋やら、素麺やら、西瓜やら。食べたり、だべってみたり、そんな感じのちょっぴり大人の休日を過ごしていた。
「ねえ、その写真さ。音ノ木坂の近くじゃないよね?どこの風景?山とか、海とか……。」
穂乃果の素朴な質問に、もう一度手にしている写真へと視線を落とす。
大きなホテルにきれいな海、そしてその後ろに広がる広大な山々。
美しい光景、そして懐かしい景色。
「……綺麗でしょ?……旅行に行ったときの写真なんだぁ。」
ーーー嗚呼、穂乃果ちゃんが来るからって。海未ちゃんが来るからって。
部屋の掃除を焦ってしたり、しなければ良かった。 こんなに、心を締め付けられるなら。こんなに、懐かしさと切なさで、胸が一杯になるなら。
「へぇ……って、そうじゃなくて。どこの写真なの?沖縄とか?」
「……淡島だよ。……静岡の、………沼津の方。」
言葉に出す。淡島、という言葉を口にするのももう何年ぶりだろう。
あの時は、あの頃は。それが全てで、それが私の居場所だった。
「ほぇ〜、そんな所に旅行なんてしてたんだね〜。ね、楽しかった?」
「………。ーーーー………うん。とっても。」
その言葉を捻り出すのに、少し時間が掛かってしまった。
どうしてだろう、楽しくて、毎日輝いていて、本当に凄くーーー凄く、素敵な日々だったのに。
それを口にするのが憚られたのは、私が今の今まで、"あの娘"と別れたまま、暫く連絡を取っていなかったから、だろうか。
或いはーーー……あんな風に哀しげに、送り出してくれた彼女との最期を。
今もどこか、後悔しているから、だろうか。
「………今、何してるかな。」
「へ?」
思わず口をついて出た言葉に、穂乃果ちゃんがキョトン、とした声を返す。
私は古びたノートをパタリ、と閉じた。その中に、写真を大切に挟み込んで。
或いはーーーノートの中に。
金髪の少女と、メイド服姿の私との。
大切な記憶を、しまい込んで。
「……海未ちゃんだよ。今、何買ってるかなあ、って。」
そうして、くすりと。
いつもの様に笑った。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています