SS 小泉花陽はお腹がすいた
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よくあるわかりやす〜い異世界もの
のんびり進行
伝説として語り継がれる9人の女神たちのお話し
ユリカちゃんがもう終わったと告げてから数分して、ようやく視力が回復しました
最初に視界に飛び込んできたのは、倒れる盗賊とその喉元に剣を突きつけるソラくんの姿…
花陽「……………」ドクンッ
一瞬、ソラくんが盗賊の人を殺しちゃったんじゃないかと思い、心臓が強く跳ねます
すぐにそれは間違いで、倒れている盗賊は両腕を縛られた状態で動けなくなっているのがわかりました
花陽「…………ふぅ」
安堵すると同時にハッキリとした気持ちが込み上げてきます
やっぱり私は敵討ちだとしても、みんなに人を殺して欲しくはないという事です
キレイ事だとしても、私の我儘でも……だけど……
エミ「あ、フワさん達が戻ってきました」
花陽「……っ!」
フワ「はぁ…ふぃー……」ヨタヨタ…
ユリカ「スズ!!」ダッ
アイナ「フワちゃん! めっちゃ怪我してるじゃん!」
花陽「フワちゃん!!」ダッ
フワちゃんが背中にスズさんを乗せて帰ってきました
しかしスズさんは気を失っているのか、ぐったりとしています
そしてフワちゃんは……綺麗なフワフワな毛並みが血や泥で汚れきっていました
フワ「ああ、大丈夫よ……ほとんどは返り血だから…ふぅ…」ドタッ
ユリカ「フワさん、スズはどうしたのですか?」
フワ「疲れて眠ってるのよ……ふふ、まったく無茶するんだから……」クテ…
花陽「フワちゃんは平気なんですか!?」
フワ「平気……とまではいかないけどね……私もちょっと疲れたかも……ぅ」バタッ
エミ「フワさん!」
フワ「ちょっと寝るわね……それと、向こうの盗賊達、全員気絶してるから今のうちに拘…束……を……ぐぅ」
フワちゃんとスズさんは二人で盗賊10人を相手に大暴れしたんですね
お疲れ様です。ゆっくり休んでください……
アイナ「よし、その倒れてる盗賊達を急いで捕まえに行こう」
ユリカ「人手がいるわね。ハナヨちゃん、アヤちゃん、一緒に来てくれる?」
アヤ「オッケー、縄持ってくる」
ユリカ「エミちゃん、フワさんとスズを視ていてくれますか?」
エミ「ええ、まかせてください」
フワちゃん……大丈夫かな……
ユリカ「ハナヨちゃん、行きましょう」タッ
花陽「は、はい……」タタッ
返り血って言ってたけど、全部じゃないですよね? 血が出るような怪我をしたってことですよね
もっとちゃんとした治療をしてあげたほうがいいんじゃないかな……
花陽「………」タッタッタ…
ユリカ「なにか心配事でも?」
花陽「えっ…あ、いえ……」
大丈夫、エミちゃん達が見てくれているのを信じましょう
今はせっかくがんばってくれた二人のためにもやる事をちゃんとやらなきゃ…
北に数分走ったところで二人が盗賊達と戦った場所へとやってきました
花陽「……………ぅっ」
アイナ「これまたハデにやったなー」サッ
ユリカ「私はこっちから縛っていくね」サッ
そこは私の持つ現実、イメージとは到底かけ離れた惨状でした
確かに誰も死んではいないのかもしれません、気絶しているだけと言えばそうです…けど……
これは…セト村で見た光景と……ほとんど変わりありません
「あ……ぐぅ……」
花陽「あ……」
みんな気を失ってると思っていたけど、一人意識のある人がいました!
花陽「あの、大丈夫ですか?……っ!」スッ
「ぅぅぅ………」
その人は頭から血を流し、不自然に折れ曲がった足のせいで満足に動けそうにありませんでした
すぐに手当てをしないと危険だと思います
花陽「あの、ユリカちゃ……」ザッ
ユリカ「ん…しょ、これで、次は……んっ」グッ グイッ
アイナ「ユリカ姉、このデカイ人縛るの手伝ってー!」
ユリカ「今行くわ」サッ
花陽「………っ」
どうしよう……この人を助けてって……言えない……
「……………」
花陽「あの、もう少しガマンしてくださいね…………後で……」
「……………」
花陽「……っ!?」ビクッ
そんな……さっきまでまだ……ん……?
「…………っ」
花陽「気を失ってる…だけ……よかった……」
とにかく拘束もだけど、応急手当をちゃんとしないと……
アヤ「ハナヨちゃん……何を?」
花陽「この人の止血を……包帯がないのでとりあえず服の布で…」ギュッ
アヤ「どうして?」
花陽「どうしてって、怪我しています。もう戦いは終わったんですからちゃんと手当を……」
アヤ「……………」
花陽「アヤちゃん?」
アヤ「こいつら盗賊だよ? 私達を襲おうとした奴らだよ?」
花陽「それは……そうだけど」
アヤ「そんな奴ら手当したって、また他の誰かを襲うかもしれないんだよ?」
花陽「……………」
アヤ「ハナヨちゃんが優しいのは知ってるけど、それはちょっとわかんないよ」
花陽「だからちゃんと捕まえて、逮捕してもらうんです」
アヤ「それが出来ないのが今のこの国のあり様なんだって! トロスタンの町だってそうだったでしょ?」
アヤちゃんの言う事はもちろん解ります。これが正しいかどうかなんて私に判断できるものじゃありません
でも、だからってこれを見過ごしたら、私は私のまま、帰れなくなる
花陽「それでも、私は中途半端でもやりたいんです」ズッ ギュッ
アヤ「…………」
花陽「私が人を助ける理由は……きっと我儘なもので、良いとか悪いとかは別なんです、だから私一人でやります……」ブチッ
きっとμ’sのみんなだって同じ事をしたはずです。だからみんなの元に帰るためにも、曲げちゃいけないんです
アヤ「………お人好し」グイッ
花陽「………え」
アヤ「私には理解できないし、きっとこれからも変わらない」サッ
花陽「アヤちゃん……これは私が……」
アヤ「時間もないの、さっさとやって他の奴もみるつもりでしょ?」キュッ
花陽「………はい」
アヤ「正直その思想はいつか危ない事に繋がるような気がするし、危険だと思う」
花陽「……うん」
アヤ「だからお願い……その思想にソラは巻き込まないで。あの子の邪魔はしないでください」
ソラくんの目的……そうか……アヤちゃんそれで
アヤ「私達はみんなハナヨちゃんに感謝しているし、これからもハナヨちゃんのためにやれることはするよ」
花陽「うん」
アヤ「そんな私からの唯一のお願い、聞いてくれる?」
―――
――
おつおつ
すごく面白いけどこれ1000までいっても終わらなくないか エミ「あ、帰ってきました!」
ソラ「ユリ姉、お帰り」
ユリカ「ただいま……」ザッ
アイナ「ふいー疲れた……」ガシャガシャ…
アヤ「戦利品だよ〜!」ドサッ
花陽「…………」タタッ
倒れていた盗賊の一団をすべて拘束した私達は、念のために盗賊達が使っていた武器を可能な限り回収しました
確かに戦利品と言えばそうかもしれないけど、危険防止のため……だよね?
ガチャ タタタ… ゴソゴソ…
リホ「ハナヨちゃん!」ダダッ
パイ「おかえり〜!」ギュー
ヨシノ「がいせん」
花陽「ただいま。みんないい子にしてましたか?」ガサッ
リホ「もちろ〜ん」
パイ「お茶の用意をしておいたの」
ヨシノ「飲んで〜」スッ
花陽「あ、ありがとう……」グイ
リホ「ん、なにしてるの?」
花陽「ちょっと薬箱を……」ゴトッ
パイ「あ、それならエミちゃんがフワちゃんの手当に持っていったの」
花陽「そうでしたか。ではそっちに……」
ヨシノ「誰か、怪我したの?」ギュッ
花陽「ん……大丈夫だよ。念のためにね」スッ
ヨシノ「………そう」
みんな笑顔で迎えてくれます。家族が無事だったのですから当然です
なのにこの気持ちはなんだろう……
花陽「エミちゃん、フワちゃんの様子は?」タタッ
エミ「大丈夫です。かすり傷ばかりでしたので傷薬だけで済みました」
花陽「そう……。あ、薬箱借りて行くね」サッ
エミ「どこかお怪我でも?」
花陽「ううん。向こうに怪我してる人がいるから……」
エミ「…………」
花陽「私ちょっと行ってくるね」ダッ
エミ「盗賊の怪我を治療するのですか?」
花陽「…………」
花陽「うん」
エミ「そうですか……」
ユリカ「ハナヨちゃん……」ザッ
花陽「あ……はい」
ユリカ「一人じゃ大変です。私も行きますね」スッ
花陽「え、でも……」
エミ「みんなには適当に言っておきます」
ユリカ「ありがとう、お願いしますね」
花陽「ユリカちゃん、これは私の我儘で……」
ユリカ「はい。でもお手伝いします」
何もしていないのに襲われる。殺されそうになる……生きるためにも戦うしかない
でもこれがユリカちゃん達の世界であり、常識なのは今日までで十分理解しました
だけどなんだろう……何かこの世界には足りないものがある気がします
他者に対する愛情、思いやり……これはあります。間違いありません
じゃあこのもやもやとしたものは一体……
ユリカ「ハナヨちゃんて、お父さんに少し似ています」タッタッタ…
花陽「えっ……いきなりどうしたんですか?」
ユリカ「お父さんは知識も実力も優れた人でした。各地から御弟子志願の人がくるほどに…」
花陽「そうだったんですか…」
ユリカ「でもお父さんはその技術、魔法も魔術も戦争の道具にされるのを嫌っていました」
その話はなんとなくですが分かります……私達の世界にもある事です
ユリカ「お父さんはその技術を平和な事に、人々のためになるようにと願っていたんです」
花陽「…………」
きっとそこに個人の善悪なんて関係ない、理想とするものがあったのでしょう
だけど……ううん、これも違う……少しだけ……だから確かめないと……
花陽「立派なお父さんですね」
ユリカ「はいっ」
ユリカちゃんはものすごくお父さんっこですね
気持ちはわからなくもないですが、ホントにすごいです
花陽「……………」
そういうのはハッキリとわかるのに……んんー
花陽「なにがズレているんだろう……」
盗賊達は一か所にまとめて縛り上げて拘束しています
急ぎ治療が必要なのは2名の方
治療と言っても私にできることなんて傷の消毒や包帯を巻く程度です
真姫ちゃんならもっと細かく状態を診察したりできるんだろうけど……
花陽「んしょ……えっと、包帯は……」ゴソッ
「なんのつもりだ?」
花陽「ぴょわぁ!?」ビクッ
ユリカ「ハナヨちゃん!?」
お、驚いた。気絶していた怪我人の方が意識を取り戻していました
よく見ると何人かの人は黙ってこちらを睨みつけていました
あれ、でもスキル「無垢なる罪人」は発動してない…?
取り敢えずこのままやりましょう
花陽「今包帯を巻きなおしますから待っててください」ササッ
「…………?」
ユリカ「私はあちらの方をみますね」スッ
花陽「お願いします」グイッ
「おい、だからなんのつもりだと……」
花陽「じっとしていてください、怪我してるんですよ」
「…………お前は、さっきの変な生き物と女の仲間じゃないのか?」
花陽「仲間ですよ。でもそれとこれとは関係ありません」グルグル…
「………………」
花陽「………あの」キュッ
「……ん?」
花陽「あなた達はどうして盗賊なんてやってるんですか?」ビリッ
「そんなもん、食うために決まってんだろ」
花陽「他にいくらだって方法はあるんじゃないですか? 町で働くとか…」ゴソゴソ…
「俺達みたいな傭兵崩れが町になんか入れるわけねぇだろ……」
花陽「そうなんですか?」グルグル…
「この国がどういう状態なのか、知らないわけじゃないだろ」
またです……みんな何かあるとこの国の事情を口にします……
まるで国を言い訳に全部諦めてしまっているような、そんな悲壮感を感じます
花陽「戦争に負けるって、そんなに大変な事ですか?」
問いかけてすぐに愚かな質問だと思いました
国の事情、人の事情……私にわかるはずもないのに……
「さぁな、たんに俺達の仕事先が変わったくらいだろ」
花陽「そんな単純なものなんですか?」
「生きてくためならどうとでもするだろ……」
花陽「…………」ギュッ パシッ
「いて……」
花陽「近くの国境警備隊にあなた達の事を通報しておきますから。それまでここで大人しくしていてくださいよ」
「へっ……結局数時間死ぬのが先送りになっただけか……」
花陽「え……どういう意味ですか?」
「盗賊なんざ捕まったら終わりだろ。ただでさえ、今のこの国に罪人を留置しておける余裕なんざないんだからな」
花陽「……………」
ユリカ「その方のおっしゃる通りです。ハナヨちゃん」
花陽「…………ユリカちゃん」
ユリカ「敗戦国となったこの国は今、トップがいないまま敵国に支配されることもなく、無法の地となっているのです」
花陽「支配されないって……じゃあどうして戦争なんて……」
ユリカ「それは話すと長くなりますので、また……」
花陽「…………」
「……………」
ユリカ「さて、治療も終わりましたし戻りましょう」
花陽「………ん……」
なんか……スッキリしません……
「おい、待てよ」
花陽「え、はい……」
「どうせこのままじゃ俺達全員死ぬのを待つだけだ。それなら背に腹は代えられねぇ」
花陽「?」
「あんた、俺達を雇わないか?」
花陽「雇……は、えぇ!?」
ユリカ「なにをいきなり……」
「別に不自然な話じゃねえだろ? 俺達も死ぬよりかはよっぽどマシだ」
花陽「あ、あなた達を雇って、何の得が……」
「あんたの兵隊になるんだ。邪魔な連中を殺してやるぜ」
ユリカ「耳を貸してはいけません。すぐに裏切るに決まってます。大人しく極刑を待ちなさい」
「俺達を今ここで生かす理由もわからねぇが、みすみす殺されるくらいなら従ってやるよ」
ユリカ「盗賊が……あなた達がどれだけ人のモノを奪ってきたか考えた事あるんですか! 信じられるわけありません!」
「そんときゃ殺してくれてかまわねぇよ」
花陽「……………」
……またです
ユリカ「どうせそのままでも野垂れ死ぬか警備隊に裁かれるかなんです。受け入れなさい!」
…………またすぐにそういう話……もうイヤ
花陽「どうしてみんなすぐに人を殺すだの奪うだの、そんな話ばかりするんですか!」
ユリカ「ハ、ハナヨちゃん?」
花陽「なんで……もっと楽しくなるようなこと……明るいこと、前向きに話せないんですかっ!」
ユリカ「そ、それとこれはまた別で……」
花陽「同じですよっ!みんな心に余裕がなさすぎます! そんなことで擦り減らして、荒んでいくばかりですよ!!」
ユリカ「…………」
「………なんだよいきなり」
気がつくと、なんだか溜まっていたものをすべて吐き出すように叫んでいました
そして同時にもやもやしたものは確信へと変わります
戦争によって家や家族を失った人達……野盗の集団に村を襲われたユリカちゃん達……
生きるために人を襲う盗賊達……哀しい事、辛い事はたくさんありました
私はそんな中、彼女達を救うためにとこの世界に召喚されました
結果として彼女達は命を奪われることなく、生きていけるようになりました
だけど……私はたんに得たスキルでその都度都合のいい結果をだして、彼女達のお手伝いをしていただけ
花陽「違うんです、ユリカちゃん……っ!」
ユリカ「え……違うとは……?」
花陽「私が思う助けるって、やっぱり少し違うんです」
ユリカ「そんな事ないですよ、私達はハナヨちゃんのおかげでこうして……」
花陽「私はもっとみんなに笑顔でいて欲しいんです」
ユリカ「…………」
逃げるように村を出て、みんなで復讐を誓って、毎晩外を警戒しながら眠って……襲われたら戦って……
戦争だからって目を背けちゃいけません。そんなの、疲れるだけです
花陽「そのために必要なものがなんなのか、やっとわかりました……」
ユリカ「……そ、それは……?」
「………?」
花陽「娯楽です」
ユリカ「ごらく?」
花陽「やっぱり子供はみんなアニメや漫画、好きなことに夢中にならないとだめです」
ユリカ「好きなことはわかりますが……あにめ?」
花陽「勇者のスキルでユリカちゃん達の生活、生きる基盤を作れたのなら、今度は私自身がやります」
ユリカ「ん……いったいどのような?」
花陽「アイドルのステージです」
ユリカ「あいどる……とは、なんでしょうか?」
花陽「アイドルはみんなに元気と勇気、そして笑顔をくれるすばらしいものなんです!」
ユリカ「ええっと……ごめんなさい、わからない言葉で意味が……」
花陽「ただのアイドルじゃありません。スクールアイドルです!」
ユリカ「すくーる……あいどる?」
「おい、こいつさっきから何を言って……」
花陽「盗賊さん!」
「ん、お、おぅ……」
花陽「さっきのお話し、お受けします」
ユリカ「ハナヨちゃん!?」
「おおそうか、なら話ははえぇ、この縄を……」
花陽「あなた達には舞台を作ってもらいます!」グッ
「は?」
そして他に必要なものは創るしかありません
晩ご飯結局まだでしたから、丁度いい感じにお腹もすいてきました
しかしそれ以上に…
花陽「………どうしようユリカちゃん」
ユリカ「……えっと……なにがでしょう?」
花陽「なんかやるって決めたらすごくワクワクしてきました!」
ユリカ「よくわかりませんが、それはよかったですね」
花陽「うん、見せてあげます。とっておきのステージ!」
いつか見たスズさんの反応をもう一度、みんなに
この世界も争い以外に熱中できるものが他にあれば、きっと違う道が開けるはずです
花陽「スクールアイドルって、すごいんですからっ!」
>>544
テルマエ・ロマエみたいになってきて草
とても面白いです -次の日 お昼 馬車二階の一室
スクールアイドルのライブ、アイドルのすばらしさをみんなに伝えたい!
…そう思って……思い付きでやった結果……
花陽「……………」シュン…
アヤ「…………」
フワ「…………」
私は今、怒られています
アヤ「まったく昨日言った事をもう忘れるなんて……ハァ」
花陽「いえ、その……忘れたわけじゃないんですけど……」
フワ「なんでいきなり倒したはずの盗賊達の面倒……というか監視を私がしなきゃ……フゥ」
花陽「ホントごめんなさい。手伝ってはくれるという事だけど、やっぱりみんな心配だろうから……」
アヤちゃんフワちゃんが怒るのは当然です
昨日、アヤちゃんに私の思想は危険だと言われました。いつか本当に取り返しのつかないことになるかもとも…
それをいきない破っただけでなく、家に連れてくる暴挙…
アヤちゃんが危惧しているのは私の思想がソラくんの目標、決意を歪めてしまう可能性
そして起きたばかりのフワちゃんにはただ面倒事を押し付けただけ……
事前に何の相談もなく、私がすべて勝手に決めたことです
花陽「暴走気味だったのは認めます。ごめんなさい」
それでも私は心に決めたこの方法を間違いだとは思っていませんし、途中でやめることもないです
二階の窓から外の様子を見ても、そう遠くないうちにそれは起こると思いました
花陽「…………ふふ」
アヤ「ちょっと、何笑ってるのよっ!」
フワ「話聞いてるの!?」
花陽「ひゃいっ、ゴメナサイ!」
フワ「正座10分追加よっ!」
フワちゃんて、怒ると怖いんですねぇ……
昨日、私は自身の思い付きで盗賊さん達を雇い入れました
アヤちゃんはきっと怒ると思いましたけど、それ以上にユリカちゃんもきっと快くは思っていなかったと思います
強く言えなかったのは、私とユリカちゃんの関係性がすべてです
今思うと、この部分はもう少し配慮が必要だったかもしれません
彼女達の村は盗賊と同じような集団、敗残兵の野盗に襲われたのです
決して同じ相手ではないけれど、同じように接してしまうのは仕方のない事ですよね……
私が盗賊さん達を連れて帰ったのを猛反対したのはアヤちゃんとアイナちゃん
アヤちゃんはそのまま、敵と馴れ合う私が許せなかったのでしょう
アイナちゃんは子供達が危険な目にあうのを危惧してくれました
それでもやっぱり、私が決めた事というのがあって、徹底抗戦とはなりませんでした
恩義に付け込むようで、ここも申し訳なく思います
ソラくんはあまり気にしていないというか、暴れるならまた抑えるという姿勢でした
盗賊さん達も意見が別れていました
最初に申し出をしてきた方はこの盗賊団のサブリーダーのような方で、それなりに人望もありました
一方私達の馬車に襲撃してきた三人は一人がリーダー的な人で、皆を従えている人でした
この人と、この人に従う数名は拘束されている今も私達に雇われるという案を拒否しています
最初はアジトのような場所があって、他に仲間がいるのかどうかという話を聞いてから問題なさそうなら放置する予定の人達
最終的に6人の方が私達に雇われるという形となり、残りの方々は今も傍の岩場に拘束しています
アヤ「それで、この後どうするの?」
花陽「それは当初の予定通り、ユーディクスに向かうってことで」
フワ「あの連中も家にあげるつもり?」
アヤ「私ゴメンよ、むさっくるしいし」
花陽「あ、はは……」
きっと反対意見のほうが多いのは分かっているので、そこは考えてあります
花陽「大丈夫です。今の生活に支障がないようにしますから」
アヤ「ホントお願いよ……ふぅ」
フワ「変なところで拘るのねぇ」
花陽「ごめんねフワちゃん。すぐに負担のないようにするから」
フワ「考えはあるのね、じゃあいいわ。しっかりやるのよ」
花陽「うん。色々ごめんね」
アヤ「ホンっと、バカがつくお人好しだわ」
花陽「えへへ……」
アヤ「褒めてないっ! もう、ハナヨちゃんのそゆとこはキライ!」
花陽「ぁぅ……」
ハッキリと言われてしまいました……はぅ
アヤ「っ………そ、そこだけだからっ」プイッ
落ち込んだ私にちゃんとフォローしてくれるあたり、アヤちゃんはやっぱりいい人です
ただ守りたいものに一生懸命なんだよね
一階ではアイナちゃんとユリカちゃんがお昼ご飯を作ってくれています
今日はいつもよりたくさん作るのでエミちゃんもお手伝い
外では他の子供達がまだはしゃいでいます
それは私が昨日、アイドルのステージを見せるためにと創りだしたもののせいです
花陽「様子はどうですかー?」ガチャッ
〜♪ 〜♪ ー♪
パイ「ハナヨちゃん! どれもすっごくステキ〜♪」
リホ「楽しいがとまらないの♪」
ヨシノ「…興奮♪」
花陽「ふふ、でしょう?」
外にドーンと置いてあるのは音楽機材
私が作りだした「真姫ちゃん家にあるような高級オーディコンポ」です!
正直高級オーディオコンポと言ってもそのお値段は私にはわかりません
だけど子供達……もといこの世界の人達にはこれそのものが初めての体験です
ちなみに私が知っているすべての歌が全部搭載されています
これはコンポとは別に曲データがすべて入ったUSBメモリーを創ったからです!
スズ「すごいですね、この音楽……」
ソラ「初めてこんなのきいた」
花陽「でっしょう〜〜?」
スズちゃんとソラくんは念のため盗賊さん達の監視をしてくれています
が、私に雇われた人達はおそらく大丈夫でしょう
私と直接お話しして、悪意がないのを確認しています
勿論、害をなす悪意以外に注意するべきものはたくさんあると思います
だけどそれらは今、音楽によって一つとなっているのです
花陽「おはようございます。怪我の具合はどうですか?」
「ああ、ハナヨの姉御。世話んなりやす」
花陽「とりあえずその呼び方はやめてください」
「すいやせん……しかし、食うために命はってた俺らに飯だけでなく、こんな看護まで…」
花陽「雇った以上、部員の面倒はちゃんと見ます」
「ブイン…?」
花陽「気にしないでください。他に言い方が見つからなかったので」
部下とか手下とか、そういうのはなんとなくイヤだったのですが、部員もちょっと違う気がします
怪我人以外の手の空いた人は今薪拾いと、あるものを探しに行ってもらってます
後々必要になるからと私がお願いしました
逃げ出さないかという懸念はありましたけど、昨日晩御飯をごちそうしたら素直になってくれました
ここにいると少なくとも食べ物にはありつけると思ったみたいです
花陽「ま、逃げたところでユリカちゃんとスズさんに見つけられてしまうんですけどね」
「え、なにかいいやしたか?」
花陽「いいえー。さて……もう一人の方……」スッ
最初に私に対して交渉してきたサブリーダー的な人も傍ではしゃぐ子供達を眺めていました
足を骨折しているので動けないせいですけど、子供達を見つめるその視線は不思議と穏やかに見えました
花陽「おはようございます。どうですか、体調はー」スッ
「ん、ああアンタか。悪くないって言うとおかしいが、気分はいいほうだ」
花陽「それはなによりです」
「さっきから流れてるこれ……オンガクといったか。礼唄とは全然違って……いいものだな」
花陽「これは曲だけですけど、ここに歌詞がついて、歌がついて、振付がついてそれにあわせて踊って……どんどんステキなものになります」
「よくわからんが、あいつらを見てると、悪くないんだろうな……」
視線の先にまたはしゃぐ子供達
花陽「子供がお好きなんですか?」
危ない感じの人という意味で聞いたわけではないのですが、黙り込んでしまいました
ホントに!?
「…………今でこそこんなだが、俺にも家族がいてな。ガキを思い出してた」
花陽「え……」
「戦争でみんな死んじまったがな」
花陽「…………」
悪い事を聞いてしまいました。もしかしてこの盗賊団って、戦争難民と呼ばれる人達なのでしょうか
望んで悪の道に進む人なんて……
「あ、すまん。今の話他の奴らには秘密にしていてくれ」
花陽「え、どうしてですか?」
「俺らは仲間だが、境遇はそれぞれ違う。少なからず俺についてきてくれるヤツに余計な気を使わせたくない」
花陽「はぁ……了解です」
人それぞれの事情というのは本当に複雑で、お話ししてみないことには解らない事はたくさんあります
それをしないまま誤解をして、すれ違うのなんてのは私の世界でもよくあったことです
それでも同情はしません
この人達が実際にやってきたことはとても酷い事で、そこをうやむやにしていると本当にアヤちゃんの言う通りになっちゃうから
花陽「もうじきお昼ご飯です。その後に正式に契約しましょう」
「契約?」
花陽「雇用主と従業員の、です」
それと、私に雇われるのが嫌だという人達にもお話ししておかないと
ハナ「ハナヨちゃん、この曲すごくいいの〜♪」
ヨシノ「カラダが勝手に動き出す……っ!」
花陽「ふふ、それはオフボですけど歌が入るともっとノれますよ!」
リホ「ききたい、お歌!」
もう………しょうがないですねぇ!
花陽「ではちょっとだけ、途中からですが……」ウズウズ…
ハナ「わーい」
花陽「ちなみにこの曲のタイトルは「輝夜の城で踊りたい」です。みんなで歌いましょう!」
ヨシノ「不思議な響き」
ガチャ
ユリカ「みんな、お昼ご飯できましたよー」
アイナ「お、なにこの音。楽しそう」
花陽「私はっ紅いっ薔薇の姫よ〜♪ 優しくさらわれ〜たい〜♪」クルクルッ
リホ「ハー!」
ユリカ「………」
アイナ「………」
花陽「そっとささやーいてー、意味ありーげにっ、目をそ〜らす〜♪」ビッ
ユリカ「こ、これは……ハナヨちゃん?」
花陽「あ、ユリカちゃん。今軽くみんなに歌を披露していたところですっ!」
アイナ「これが昨日言ってた……アイドルの歌?」
花陽「無数にあるアイドルソングのほんの1つですけどね。……このきっせっきっを〜恋と、呼〜ぶのねー♪」
一人で歌っただけなのに、気持ちがどんどん高まってくる
やっぱりアイドル、楽しいです!
だけど同時に感じるものもあります
それは……どんなにがんばっても私のソロしかないという事ですっ!
花陽「悲観することはないと思っても、私も真姫ちゃんや絵里ちゃんみたいにカッコよく歌いたいな……」
9人で歌うと、さまざまな個性、ハーモニーが合わさり、一つの綺麗な旋律になる
私はこれをμ’sの声と密かに呼んでいますが、そういう一人では絶対に叶わないものも、やっぱり欲しくなる
他のみんなの声を……どうにか創り出せないかな?
ユリカ「みんなご飯だよー」
リホ「踊ろうよ踊ろう〜カグヤの城で〜♪」
パイ「セイザがおりなす〜ディスコッティーク♪」
ヨシノ「わぁた〜しも〜まぜて〜♪」
花陽「……っ!」ドキッ
アイナ「それ、ハナヨちゃんに教えてもらったの?」
リホ「さっき歌ってくれたの、自分で歌っても楽しいって♪」
パイ「おもしろ〜い!」
ヨシノ「気分は上々」
この子達……いまのをもう覚えたの?
いえいえ、そうじゃなくて……今の歌声……なんて綺麗な……
花陽「…………」ゴクッ
ユリカ「ホントに楽しそうね。でも先にご飯にしましょう?」
リホ「は〜い」
ヨシノ「お腹がすきました」
パイ「あはは、ハナヨちゃんのマネー?」
そういえば……ここには原石がゴロゴロしているのでした
私がそのステージを見てみたいと考えたほどの……
アイドルの原石がっ!!
お昼ご飯の時間になり、薪拾いにいっていた盗賊さん達も帰ってきました
私のお願いした、あるものも見つけて……
その件もあり、今日のお昼は私とフワちゃんは外で盗賊さん達と一緒です
花陽「おかえりなさい」
「うっす、戻りました!」
「おう、すまねーな、手伝えなくて」
「何言ってんだよ、怪我人は大人しく寝てろってな」
「へへ、ちげーねぇ」
フワ「むぅ………」
「うわっ、き、昨日の変な生き物!?」ビクッ
「まさかまた俺達を…っ!?」ビクビク
フワ「しないわよっ! あと誰が変な生き物よ失礼ねっ!」
「お前ら、フワの姉御に失礼だぞ」
フワ「誰が姉御よ! もう、疲れるわねぇ……」
花陽「あは、もうしばらくの辛抱だからね」
「ハナヨさん、これでいいんすか?」サッ
花陽「ありがとうございます。助かりますっ」
「い、いえ…これくらい///」
フワ「なに照れてるのよ、花陽ちゃんに変な気起こすんじゃないわよ?」ギロッ
ちょっと過敏に反応しすぎじゃない?
フワ「それで、なにをするの?」
花陽「んっとね……」スッ
盗賊さんが探してきてくれたもの。それはなんでもいいので野生の動物です
今回見つけてきてくれたのは……これは……豚?
ブヒッ ブヒッ
ブヒブヒ言ってますし、きっとそうなんでしょう
「そのまま食べるのか?」
花陽「食べませんっ!」
これはフワちゃんの負担を減らすために準備するものの一つなのです
花陽「それじゃこの豚さん、いただきますね」
「へいっ」
花陽「あなたは今から私のモノ……ペットです」
フワ「あ、花陽ちゃんまさか……」
ピピッ
――スキル「アルパカマスター」が発動しました
シュウゥゥゥゥゥ…… ギュイーン
「うわっ、なんだ!?」バッ
「光ってやがる…!?」
花陽「すぐ終わりますよー」
……ゥゥゥゥゥン キラキラキラ…
「へ、変化しやがった……」
「これは、ハナヨさんのスキルですか?」
花陽「うん。私のペットをすべてアルパカさんに変化させるスキルです」
「アルパカ?」
フワ「私のような動物のことよ」
「………………」スッ
豚さんが変化して生まれたのはフワちゃんと同じようなフサフサの毛並みのアルパカ
花陽「そうだ、言語設定しないと……」ピッ
フワちゃんの時と同じように会話ができるようにします
そういえば誕生する性別や年齢はランダムだという事ですが……
フワ「……………」
「………ん……あぁ、話せるのか……」
フワ「……っ!?」ドキ
「おお、すごい、しゃべった!」
「しかも……」
花陽「なんて渋めの声……大人の……男性?」
「花陽だな……俺を生み出してくれた事、感謝する」スッ
花陽「あっ…ハイ!」ギュッ
ひづめで握手を求められました
「ハナヨさん、こいつぁいったい……?」
花陽「みなさんのお世話係というか、フワちゃんにすべて見てもらうのは限度がありますので」
フワ「花陽ちゃん、つまりはもう一つ、お家を創るのね?」
花陽「お家というか、まぁ馬車ですね……そこでコレを……」ゴソッ
「ん、紙と…ペン?」
花陽「あちらにあるような馬車兼お家を私が創りますので、夜までにみなさんでデザインとか、必要なものを決めておいてください」
「あれを!?」
「ハナヨさんが作る!!?」
「可能だ。そして新しくできた馬車を俺が牽引することになる。よろしくな」
「まじでやすかっ!」
「アンタ、名前はなんていうんだ?」
名前……そういえば最初はないんでした
また子供達につけてもらおうかな?
「名前はない。お前らの好きに呼べ」
花陽「あら……」
「なんだかおやっさんのようだ……」
「あ、いいんじゃないか? おやっさん」
「いいな。親父のようだしな」
……まぁ、みなさんがいいならいいんですけど……」
フワ「そんな愛称みたいなのはダメよ! ちゃんと決めないと!」
花陽「フワちゃん!?」
「ん……そういえば俺と同じ境遇の奴がいたのだったか。よろしくな」
フワ「わ、私のほうが先輩なんだからね、そこはきっちりしてよね」
「ああ、理解はしている」
フワ「だ、だったらいいけどっ……」プイッ
ん……?
「それじゃ、俺らは午後のあいだにこの人に名前と、馬車のデザインを考えりゃいいのか?」
花陽「全員でやるには少し人数が多いので、どなたか剣術が得意な方いらっしゃいませんか?」
「剣術なんてまともなもんじゃねぇけど、一番手クセが悪いって言われてんのならオレだぜ」
花陽「それは……いいのかな?」
「なんか討伐でもするのか?」
花陽「いえ、そんな物騒な話じゃないです。お昼ご飯の後、こちらに来てください」
大事なお姉ちゃんをお借りするんです。その時間も有効に使って欲しいですからね〜
フワ「……………」ジ…
花陽「フワちゃん、お昼の後ちょっといい?」
フワ「……………」
花陽「フワちゃん?」
フワ「っ、あ、ごめんなさい、なに?」
花陽「……………」
フワちゃんの視線の先には新しいアルパカさん……おやぁ?
-お昼過ぎ
〜♪ 〜♪
花陽「お、みんなで聴いてるんですか?」
フワ「楽しそうね」
リホ「うん、楽しいっ♪」
パイ「ハナヨちゃん、この曲にも歌はあるの?」
花陽「このコンポで聴ける曲はだいたい歌もあるんだよ」
私が意図的に曲のオフボバージョンばかり流しているからね
ユリカ「ハナヨちゃんごめんなさい、子供達が占領してしまって…」
花陽「いえいえ、音楽を楽しんでもらえるのは嬉しいです」
エミ「あ、あの…私も聴かせてもらってます」
花陽「遠慮しないで、みんなで楽しんでね」
エミ「それで…あの、えーっと…」ポチッ
エミちゃんが器用に高級コンポを操作する
え、もう操作方法も覚えたの?
そして聴こえてくる曲は……
〜♪ 〜♪
エミ「私この綺麗な音、リズムがとても気に入りました! ぜひこれの歌を教えていただきたいのですが?」
花陽「エミちゃん……」
エミちゃんが綺麗だと言ってくれた曲は……Snow halation
花陽「いいよ。ちょっとこの後用事があるから、夜でいい?」
エミ「はい♪」
にっこりと笑うエミちゃんの笑顔にドキっとします
やっぱりこの子達には戦いなんてものとは無縁でいて欲しいと思います
ヨシノ「ンフ……♪」カチッ
ドーーーーン!! ♪!♪!!♪!!!
花陽「わっ! ヨ、ヨシノちゃん!? 音量最大にしちゃダメー!」
ソラ「なんだ!?」バッ
スズ「敵襲ですかっ!?」ダダッ
突然の大音量に馬車からソラくんやスズちゃんも飛び出してきました。まぁ当然です……
キュッ …… 〜♪
アヤ「ダメでしょーめっ」ペチッ
ヨシノ「楽しい♪」
リホ「頭がくわんくわんするの」
エミ「あわわ……」
ユリカ「はぁ…すごい音ですね……」
花陽「さすが高級……スピーカーの重低音もすごいです」
あまり詳しくは知りませんが、いいスピーカーとはそういうものらしいですから
花陽「ソラくん、スズちゃんーちょっといいですかー?」チョイチョイ
ソラ「…ん」
スズ「はい、なんでしょう」サッ
花陽「私は少し用事がありますので、スズちゃんついてきてくれますか?」
スズ「それは勿論構いませんが、どちらへ?」
花陽「あの拘束したままの盗賊さんのところです」
スズ「連中にまだ何か用があるのですか?」
ソラ「ボクも?」
花陽「いえ、ソラくんはそのあいだ……」スッ
「うっす、ハナヨさん、来ましたぜ」ヌッ
花陽「あ、こっちですー」
ソラ「…っ!」サッ
スズ「……ハナヨちゃん、何を…?」
アヤ「……………」
花陽「みんなにも話してある通り、私はこの人や他の方々を雇う契約を結びました」
ソラ「それは聞いたよ」
花陽「なので、一応この人はもう味方で、仲間です」
アヤ「……………」
スズ「ハナヨちゃんが決めたことに異論はないですが……」チラッ
ソラ「…………」
花陽「ソラくんがソラくんの目的のために努力することに、私が口を挟むつもりはありません、ただ…」
ソラ「?」
花陽「ソラくん達が戦おうとしている相手は元王国の騎士団です。ものすごく強い人達です」
ソラ「わ、わかってるよ……」
スズ「ハナヨちゃん、何を…?」
花陽「なので、私がスズちゃんをお借りしている間、この人がソラくんの特訓相手になってくれます!」ビシッ
ソラ「…え?」
「はぁ?」
ソラくんだけじゃない、他の子達も仇うちというのはきっと止める事の出来ない生きる目的のようなものです
でも、だからといってそのために身内以外すべてを敵視するのもどうかなって思います
いやまぁ…盗賊さん達に無茶いうなってのもわかるんですけど
アヤ「ハナヨちゃん、どういうつもりでっ」ダッ
花陽「この人はソラくん達の仇じゃありませんよ? 別に仲良くなれとも言ってませんし」
アヤ「そういう問題じゃ…」
花陽「確かにこの人達に私達は襲われましたけど、見事返り討ちにしました。でも…」
花陽「セト村を襲ってきた騎士団の人達はもっと強いですよ。今のままで勝てますか?」
あの夜村すべてを吹き飛ばす勢いの爆風を私は体験しました
たった数人でさえ、この盗賊団の人達より何倍も強いのはわかります
ソラ「だ、だから毎日特訓してるよ!」
花陽「じゃあこの人と特訓するのも問題ないですね。むしろもっと実践的に指導してくれるかもしれません」
アヤ「…………」
ソラ「………わかった、やればいいんだろ」スッ
「いいんですかい?」
花陽「あ、剣は危ないからダメですよ? ちゃんと安全なもので…」
アヤ「強くなるのに手段を選ぶなって事……?」
花陽「別にそんな深い意味はないです…もっと単純な事です」
アヤ「なによ単純な事って……」
花陽「昨日の敵は今日の友ってやつです!」グッ
アヤ「はぁ…なによそれ……」
花陽「私の友達が好きな漫画でよくある展開です」
「おいボウズ、カシラに勝ったんだってなぁ」
ソラ「ボク一人でじゃない」
「それでもだぁ、たいしたもんだ。だが、サシだとどこまでやれるかな〜?」
ソラ「うるさい、お前なんかすぐに倒してやる!」サッ
スズ「ハナヨちゃん、よろしいので?」
花陽「フワちゃんもいるし、危険な事はないでしょう。それより私達も行きましょう」
スズ「はいっ」ザッ
花陽「あ、待ってください。少し荷物があるので運ぶの手伝ってください〜」
スズ「あ、すいません。お任せください」
出発する前にもう一度子供達の様子を窺う
リホ「さっきの曲もう一回効きたい」
パイ「えー、こっちはー?」
ヨシノ「全部こいです」
花陽「……………」
そこにさっきまでいたエミちゃんの姿はありません。盗賊さんが来ると同時に家の中に入っていきました
本当にそうなのか、考えすぎなのか……盗賊さんの目に、極力入らないようにしている?
必要な時でもなるべく最小限。露出を控えるようにいつも部屋で本を読んでいます
髪を切ったのも、これからたくさん人目に触れる事になるから……?
花陽「考えすぎ……だと、いいなぁ」
スズ「どうかしましたか?」ズシッ
花陽「ん。みんな本当に色々あるのかなーって思って…」
スズ「ん……?」
花陽「スズちゃんはアイドル活動とか、やってみたいって思います?」
スズ「アイドル活動……ですか? いえ、どのようなものかもよくわかっていないので……」
花陽「んーそうですか。今度じっくり教えてあげますね」
スズ「はぁ……」
みんなに見せてあげたいスクールアイドルのステージ
そのために必要な要素として、一人では限界のある私はグループでの活動を模索します
まず最初に一緒にやってみたら楽しそうだなって思ったのはリホちゃん達
あの愛くるしい天使のような笑顔に、澄んだとおる声……すごいです
それに実際のライブじゃなくても、一緒に歌って踊ってと、何かに全力をかけることができるのって、とてもいい事だと思います
花陽「エミちゃん……一緒に歌ってくれるかな……」
スズ「エミちゃんがどうかしました?」
花陽「どうか……したんでしょうかねぇ?」
スズ「?」
ただの杞憂に終わればそれでいいのです
だけど、アイドル活動をするうえで何か障害があるというのなら、私がなんとかしてあげたいと思います
続くー グラブルのほうにがっつり時間をとられそうです… おつおつ
追いついた、まさかこんな展開になるとは
予想外のところから話の軸が見えてきてすごく面白い -近くの岩場
昨日私達を襲撃した盗賊さんのうち、私に雇われるのは嫌だと拒否された方をまとめて拘束してあります
別に無理やり何かをさせるつもりはありませんし、話を聞くだけで何かを要求するつもりもないです
私達が到着するやいなや……
ピピッ
――対象に対する「悪意」を感知しました
スキル「無垢なる罪人」を発動します
スズ「ハナヨちゃん…っ!」サッ
花陽「大丈夫です。むしろわかりやすくて助かります」
話をちゃんとするためにも、私は自身のスキルを信じて、強気に出ようと思います!
花陽「あのー……」
「あん?」ギロッ
……強気に……は、ちょっとまだ無理かなぁ…
花陽「お話しがあります……」オドオド
「うるっせぇ、さっさとこれ解きやがれ!」ガウッ
スズ「キサマ!」サッ
花陽「ああ、いいです。大丈夫です」スッ
さて、どうやってお話しを切り出そうかな……
花陽「取り敢えず皆さん、暴れなければ何もしないので落ち着いてください」
スズ「話があるというのは本当です。それと……」ゴソッ
ドサッ ガバッ
「………こ、この匂いはっ」ゴクッ
「食い物……」ゴクリ…
花陽「昨日から何も食べてないようですし、これどうぞ…」ゴソッ
「なんのマネだ…」
「俺達を飯ごときで懐柔しようってんなら……」
なんでここまで嫌われているんでしょう……?
花陽「ちょっとお話しがあるだけです。それ以外に用事なんてありませんから」
「話をきくだけでその飯をくれるってぇのかい?」
スズ「ハナヨちゃんの好意はありがたく受けておくのが身のためですよ」
微妙に誤解を生みそうな言い方ですけど、話が進むのならいいかな?
さすがに突っぱねていても目の前に食べ物を置かれると人間、抗えるものじゃありません
私なんて一瞬でご飯に飛びついて罠にハマります
「ま、どうせこのまま放置されりゃ死ぬんだ。話くらい構わねぇぜ」
スズ「他の方々もよろしいですね?」
この人がこちら側のリーダーなのでしょう
そのリーダーの決定に他からの異論はなさそうでした
私が盗賊達に聞きたい事は彼ら独自のコミュニティの話です
先にあったという戦争がきっかけでたくさん増えた戦争難民達の現状……それと……
花陽「みなさんは、元王国騎士団で結成されたという野盗の集団をご存知ですか?」
「元騎士団……ああ、あの連中か……」
花陽「彼らについて知っている事があるなら教えてください」
「知ってるも何も、戦争に負けていくあてのない連中が行きついた先だろう。珍しくもない」
花陽「それだけですか?」
「……ん、ああそういや妙な噂は聞いた事があるな」
花陽「噂って、なんですか?」
話によると、戦争で負けた敗残兵の一部が敵国にそのままつき、ある命令で動いているらしい…と
「そのまま敵に殺されるよりかはマシなのもあるが、戦争の原因が元々この国にあるんだ、わからん話でもない」
花陽「原因……?」
スズ「先の戦争を引き起こした原因がクレスタリアの王族によるものだというのは事実です」
花陽「え……そうなんですか?」
戦争があったという話は聞いていましたが、そういえばどうして戦争になんてなったかなんて考えていませんでした
それが……この国によるもの?
スズ「私も詳しくは知りませんが、姉さんならもう少し知っているかもしれません」
花陽「ユリカちゃんが……」
そういえば何か知っているような口ぶりだったような?
「ま、そんなんで誰もこの国のために動かないんで、今のような無法地帯の出来上がりってわけさ」
スズ「他人から奪う事しかしない者が国を批判とは……」ググ…
花陽「スズちゃん、落ち着いて…ね?」ドウドウ
国が国民からも見放されたという事なんですね……
日本でいうと、国民総ストライキとか、そういう規模の話なのでしょうか?
花陽「あの、敵国が戦争に勝ったのに何もしないって言うのは……?」
「元々相手はこの国を占領したいわけじゃねぇ。自衛のための戦争だからだろ」
「ほっとくとこの国は周辺国すべてを巻き込んで何をするかわからねーからな」
「噂じゃ世界征服を目論んでたってよー」
スズ「お前たち、憶測で勝手なことを……」
世界征服……急に漫画のような言葉がでてきました
しかしそれが現実として起こりそうだったからこの国は他国によって抑えられた……そういう事?
花陽「でも敗戦国をそのまま放置って、ちょっと無責任じゃないですか?」
「そうか? 勝者がすべてなんだ、負けてとやかく言うのも変だろ」
花陽「む……そういうなら大人しく私の言う事聞いてくださいよっ」
「へっ、誰がおまえみたいなガキに」
花陽「むぅ……」プクー
スズ「ハナヨちゃん、こんな奴ら仲間にしなくて良いですよ」
「ああそうだ、もう一つ妙な噂を聞いたな…」
花陽「ん、なんですか?」
「元騎士団の連中は相手国の命令で、何者かを探してるらしいぜ」
花陽「…………」ドキッ
「なんでもソイツがいるとまた戦争になる可能性があるんだとよ……まぁ噂だからどこまで本当かは知らんが」
何者かを探している……どうしよう……話が繋がりそう……
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