SS 小泉花陽はお腹がすいた
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よくあるわかりやす〜い異世界もの
のんびり進行
伝説として語り継がれる9人の女神たちのお話し
みなさんこんにちは、おひさしぶりです。小泉花陽です
私は音ノ木坂学院の一年生……と、自己紹介はしなくても大丈夫かな
ラブライブ優勝を目指して8人のステキな仲間と一緒に日々がんばってます
ここは今回も変わりません
でも今は大きく変わった事があります
事…状況? 何になるのかな?
――私は今………
花陽「えーっと……」キョロキョロ…
周囲を見渡しても、やっぱり覚えがありません
知らない場所です。私はなぜか知らない場所に立っていました
花陽「確か凛ちゃんと一緒に本屋さんに寄って…」
いつもの通学路……学校が終わってみんなとスクールアイドルの練習をして……
ところどころ不明瞭ですがいつもと変わらない生活をしていたように思えます
でも今は違います
夢を見ているのかとも考えましたが、肌に感じる気温や空気の感触がそれを夢だとは結論づけてはくれません
花陽「どこなの……ここ……?」
??「あ、あのっ!」
花陽「ぴゃあ!!」ビクッ
突然かけられた声に全身で反応してしまいました
驚くのは当然だけど、それでもこのよくわからない状況で他の誰かがいるのは救いでした
??「ごめんなさい、驚かせちゃって」
花陽「いえ…こ、こちらこそ大声だして……えっと…」
私に声をかけてきたのは同じ年頃の女の子でした
見た目こそ私の良く知る普通の女の子ですが、その服装…身に着けている物には見覚えがありません
外国の方?
??「あの、あなた様が勇者様…なのですか?」
花陽「……へ?」
??「ここに召喚されてきたので、そうなのかと思いましたけど……」
花陽「召喚? えっと……え?」
聞き覚えのある単語ではありましたが、自分にかけられる言葉とは到底無縁…
凛ちゃんやにこちゃんがよく遊んでいるゲームで聞いた言葉です
??「ち、違うのですか?」
花陽「私は勇者とか、そういうのじゃないです……」
??「勇者様じゃ……ない?」
花陽「私は小泉花陽と言います。普通の学生で……」
??「そ、そんな……」
私の言葉に女の子はゆっくりと項垂れてしまいました
絶対人違いだと思うのだけど、少し申し訳なく感じます
しかし今はそれどころではありません
花陽「あの、すいませんがここがどこなのかとかわからなくて、帰り道も……」
??「……………」
花陽「あのー……」
??「か、帰り道ですか……えっと……」
私の問いかけに今度は女の子が申し訳なさそうな顔をする
ここまでまだ私の思考はいつもの日常の延長上にあったのだと思います…
??「ごめんなさい。召喚術を扱える術者はさっきの大召喚で……」
だから彼女の言葉のすべてを理解する前に、ごめんなさいという言葉だけが強く響きました
??「あなたを元の世界に送り返す方法は……ありません」
花陽「――――え」
??「本当にごめんなさい。でも、もう私達には勇者様のお力にすがる他なかったのです!」
花陽「…………」
強い衝撃の後、ゆっくりと女の子の言葉を理解します
術がどうとか勇者様がどうとかよりも、一番大事な部分を聞き返しました
花陽「……あの、元の世界って………ここはどこなんですか?」
??「ここはクレスタリア領のはずれにあるセト村です」
花陽「クレス………」
??「クレスタリアです。といってもコイズミハナヨ様には聞き覚えはないかもしれません」
花陽「…………」
いつか凛ちゃん達が話してた内容が頭を過りました
凛「にこちゃん、異世界転生ものだとなにが好きー? 凛はオーバーなスライムのやつ〜」
にこ「私はハザードのやつが好きね」
凛「しぶいにゃー。TV派?OVA派?」
にこ「当然OVAよっ!」
凛「凛は小説派にゃ〜」
にこ「ハーレム信者かっ」
正直楽しそうだな〜というくらいで深くは理解しようとしていませんでした
でも……今の状況を説明するとなると、そういう事なのかな、凛ちゃん……
??「ここはコイズミハナヨ様のいた世界ではありません。あなたは異世界から召喚されてきたのです」
――私は今……異世界にいるみたいです
状況についていけずオロオロするだけの私に彼女、ユリカさんは優しくしてくれました
ユリカ「落ち着きましたか?」
花陽「はい、すいません……」
ユリカ「無理もありません」
私は異世界……この場合は私達のいた世界ですが、そこからこの世界の召喚術によって連れてこられたそうです
大きな何もない部屋だと思っていたここは儀式の中心地らしく、暗くて見通しは悪いけれど、目が慣れてくると見えてきたものもありました
花陽「……………」
ユリカ「…………」
私の立っていた場所を中心に、周りを囲むようにして黒い毛布のようなものがいくつか落ちていました
よく目を凝らすと、何かが零れたのか毛布の周りが濡れています
だけどそれが何なのかなんて考える余裕なんてありません
少し落ち着きはしました。だけどユリカさんは私が一番欲しい答えは持っていません
ここが本当に凛ちゃんがよく話していた漫画にでてくるような異世界なのかどうかの正否は今はどうでもいいのです
私はただ一つ、帰る方法だけが知りたいのですっ!
花陽「あの……」
ユリカ「は、はい」
花陽「誰かほかの人……帰る方法を知っている人とかいませんか?」
ユリカ「それは……」
知らない世界へ連れてこられた私が、元の世界に帰りたいと言うのはおかしな話ではないとおもいます
けれどユリカさんは私の問いかけには答えてくれません
それどころか……
ユリカ「ほ、ほんとにコイズミハナヨ様は……勇者様ではないのですか?」
花陽「違うと思います。私はただの高校生で、漫画みたいな不思議なチカラもありません…きっと人違いです」
ユリカ「そんなはずはないのですが……」
花陽「ないって、そう言われても…」
花陽「早く帰らないと晩御飯の時間なのに……」
ユリカ「…………」
花陽「すいません、誰か他の人を……」
ユリカ「あ、あのっ…どうかスキル継承だけでもやってみてもらえませんか!?」グイッ
花陽「え? スキル……?」
ユリカ「スキル継承です。それができなかったら私も諦めますから」
花陽「いえ、あの……よくわかりませんし、ただ帰りたいだけなんですけど」
ユリカ「……………」
このよくわからない状況によくわからない言葉を続けざまに言われ、少しだけ気持ちがざわめく
最初はただ不安で、怖くて…だけどユリカさんという年も近そうな子が声をかけてくれたから落ちついたけど…
ユリカ「そ、それが終われば帰る方法をお教えしますからっ」
花陽「…えっ?」
ユリカ「ごめんなさい、さっきはコイズミハナヨ様に嘘をついてしまって……」
伏し目がちに申し訳なさそうにしているユリカさん
どういう事情かはわかりませんが、勇者という人を必死に求めているのはわかりました
だけどちょっと強引すぎて酷いと思います
ユリカ「コイズミハナヨ様が勇者様でないとわかれば私も……」
花陽「…………」
勝手な話です。だけどそれで帰らせてくれるなら早く終わらせて帰りましょうっ
花陽「そのスキル継承というのはすぐに終わるんですか?」
ユリカ「は、はい! 時間はかかりません。継承できるかできないかだけですので」
花陽「じゃあ早くしてください。私が勇者じゃないというのを証明しますから」
私は何の変哲もない女の子です。どうして私みたいな平凡極まりない庶民が呼ばれたのでしょうか
いざ帰れる目途がたつと少しだけそこに興味もでてきますが……
花陽「……………」
いえ、やっぱりそんな事を考えている余裕はありませんね
早くお家に帰っておいしいご飯が食べたいです
落ち着いたらこの不思議な体験を凛ちゃんに聞かせてあげよう
ユリカ「コイズミハナヨ様、こちらを…」サッ
ユリカさんが私に差し出したのは小さな木箱でした
これがスキル?
ユリカ「えっと……コイズミハナヨ様は今何かスキルをセットされていますか?」
花陽「え?」
ユリカ「これがどのようなスキルかわかりませんが、強制タイプだと今あるスキルが上書きされてしまいますから…」
花陽「すいません、スキルがなんだかもわかっていないので、セットとか言われてもわかりません……」
ユリカ「コイズミハナヨ様の世界にはスキルがないのですか?」
花陽「あるかないかと言われても、スキルがどういうものなのか認識に違いがあるかもしれないので、知っているものかもしれませんし…あとその呼び方…」
ユリカ「え、お名前間違っていましたか!? 失礼しました!」
花陽「いえ、そうじゃなくて、わざわざフルネームで呼ばなくても、花陽でいいですよ」
ユリカ「ハナヨ……様?」
花陽「です。小泉は名字で、名前が花陽なので」
ユリカ「ミョウジ?」
花陽「あー……いえ、いいです。花陽でけっこうですから」
ユリカ「わ、わかりましたハナヨ様」
ユリカ「それでスキルセットですが、こういうものです。わかりますか?」ポワッ
ヴオン…
花陽「わっ」
突然ユリカさんの前に文字……のような、よくわからない記号のようなものが浮かび上がりました
ファンタジーです!!
ユリカ「これは私のスキルなのですが、私は戦闘向きではないので介護、防衛用のスキルしか扱えません」
花陽「すいません、初めて見るものでやっぱりわかりません」
ユリカ「そうなのですか。ここ、青い字で表示されているのが私の持つスキルでは一番レベルの高いものです」
やっぱりこれ文字なんだ。ユリカさんの示すところには確かに青い記号が並んでいる
そしてその近くには白や黄色の文字もあります。レベルが違うという事でしょうか?
花陽「ごめんなさい、見た事のない文字なので読めないです」
ユリカ「あ、そうだったのですか……ん、でもハナヨ様とは普通に会話ができているような…」
花陽「そういえば………」
ユリカさんは普通に日本語を話してるけど、ファンタジー的な何かがあるのでしょうか?
というか横文字も使っていますよね?
ユリカ「んー…よくわかりませんね」
花陽「ユリカさんにわからないのなら私にわかるはずもないです」
ユリカ「会話ができるなら大丈夫かな? ナビは音声なので」
花陽「ナビ?」
ユリカ「はい、こういうのです……」サッ ピピッ
――スキル「下町育ち」をスキルセットから外しますか?
花陽「こ、声が……この文字列から?」
ユリカ「スキルの切り替えやセット、説明などをナビしてくれるナビ妖精です」
花陽「妖精さん!?」
ユリカ「妖精はわかりますか?」
花陽「私の知ってる妖精さんの認識で合っているのかはわからないけど……」
でも私の世界でも妖精さんは架空のファンタジーキャラクターの筆頭です
現実として扱っているユリカさんとはやっぱり差異はあるのかも…
ユリカ「今のようにステータスの確認や変更の際に音声が流れますので、それに対してハイやイイエを指定するんです」
花陽「はぁ……」
ユリカ「とにかくまずはやってみましょう! スキル継承!」
そういうとユリカさんは再度私に木箱を差し出す
とりあえず受け取りますが、大丈夫かな……
ユリカ「中に未鑑定スキルが1つ入っているので、それを手にしてみてください」
花陽「未鑑定?」
ユリカ「遺跡から発掘されたスキルは最初は未鑑定で、どのようなものなのか不明なのです」
花陽「遺跡……未鑑定……」
ユリカ「それらについてはまた後でご説明しますね」
いや、終わったら早く帰りたいのですけど……
花陽「と、とりあえず開けていいんですね?」
ユリカ「どうぞ」
カチッ ギイィィィィ……
木箱の中に何が入っているのかとドキドキしながら開けてみましたが、そこには私でも知っている文字がありました
花陽「???」
ユリカ「それが私達の最後の希望。勇者様にしか扱えないと言われるスキルです」
花陽「???…?」
???です。箱の中に小さな正方形の板があり、そこに大きく書かれている文字……???
花陽「不明…というニュアンスはよく伝わりました。でもこれが勇者にしか扱えないというのは?」
ユリカ「そのスキルプレートの色を見てください」
花陽「ん、えっと……金色に輝いて綺麗ですね。え、もしかして純金ですか!?」ドキッ
ユリカ「この世界のスキルは色によってランク分けされているのですが……」
ユリカさんの説明によると、誰でも扱える生活基準のスキルは白字で全然レアじゃないそうです
そこから、白、赤、黄、青、黒、銀、金と順にランクが上がるのだと
そして金というのは特別な人間……それこそ選ばれた者にしか扱えないとても強力なスキルなのだそうです
……だから、勇者?
ユリカ「私達の中にそのスキルを継承できるものはいませんでした……」
花陽「条件がまったくわからないのですが……」
ユリカ「それはもう、生まれ持った資質……宿命のようなものだと言われています」
花陽「はぁ……」
ますますそれが私だなたんて到底思えません
何か期待されているようで申し訳ないのですが、がっかりさせてしまう事になりそうです
花陽「それで、これをどうすればいいのですか?」
ユリカ「スキルプレートを手にし、使用すると念じてください」
花陽「ね、念じる……思い描くって事ですか?」
ユリカ「そうです。スキルプレートを使うという意思をプレートに伝えるのです」
花湯「わ、わかりました…」
言われるまま手にしたプレートへ使い方もわからないのに使うと念じる
きっと何の変化もおこらず、私が勇者じゃないという証明をそれでしてくれると思います
花陽「……………」
ユリカ「…………ゴクッ」
シュゥゥゥゥ…… ピキン
花陽「え?」
ユリカ「反応しました! や、やっぱり……!」
手にしたプレートが一瞬小さく震えたかと思うと、金属音が鳴り響きます
ど、どういう事!?
花陽「これどうしたら…!?」
ユリカ「落ち着いてください、そのままじっと……」
シュウウゥゥゥゥ…… ピピ……
――スキル「???」を習得しますか?
花陽「え……!?」ドキッ
ユリカ「や、やりました! やっぱりハナヨ様は勇者様なのです!!」
花陽「ま、待って! 私何もしてないですよ?」
ユリカ「今まで誰もそのプレートを起動できた者はいません。勇者様にしか無理だと言われてきました」
花陽「そんな……だって私には何も……」
ユリカ「さあハナヨ様! スキルを習得して、どのようなスキルなのか見てみましょう!」
勇者……これを習得しちゃったら……私は勇者になっちゃうの?
それって……どういう事? ちゃんとお家に帰してくれるんですよね?
ユリカ「ハナヨ様、さぁ!」グイ
花陽「わ、わわ、そんなせっつかないで……んんっ」ググ…
結局私は、勇者になるという事の意味も深く考えず……というかユリカさんの圧しに負けてしまうのでした
ピッ
――スキル「???」の習得を開始します
ユリカ「おお、すごい!! これできっとみんなも……」
花陽「あ、あの、私ちゃんと家に帰してくれますよね? 聞いてます?」
――スキルトラップを確認
スキル「強欲の代償」が発動しました
花陽「ん?」
ユリカ「なっ!!?」
ユリカ「そんな、トラップが仕組まれていたなんて!」
花陽「あああの、ど、どういう事ですか?」
ユリカ「強欲の代償というのは、宝箱などを守るために使われるスキルで、その先にあるものを手にしようとするものに対して発動するトラップです」
花陽「わ、私どうなるんですか!?」
ユリカ「トラップが発動したということは……何かハナヨ様に対して効果が発動したという事……です」
花陽「そんなの聞いてません!!」
ユリカ「も、申し訳ありません! まさかスキルプレートに罠があるなんて前例もなくて……」
花陽「私どうなっちゃうんですか?」
ユリカ「トラップがどのようなものかわかれば……」ジ…
ユリカさんが私が手にしたプレートをじっと見つめる
トラップは発動したと、さっきの声は言いました
誰も扱えなかったスキル。ようやくあらわれた扱える者には罠が発動するなんて、なんていやらしい仕掛けなのでしょう!
花陽「…………」ドキドキ…
ユリカ「…………」
ピピッ
――対象者ロスト。スキル「強欲の代償」の効果は無効化されます
花陽「へ?」
ユリカ「ロスト……消えた…………強欲の代償が………はっ!?」
花陽「あの、どういう事ですか?」
ユリカ「そうか。ハナヨ様の意識が対象を欲していないから……無欲だからきっとそれを対象にした罠が発動しなかったんです!」
花陽「そうなの?」
ユリカ「そう……だと、思います……」
花陽「そこはあやふやでなくハッキリして欲しいところです……」
ユリカ「申し訳ありません。なにせ初めて見たもので……」
花陽「えー……」
つまり、スキルを習得しますかと甘い言葉で誘い込んで、それに対する罠を発動させると…
やっぱりなんていやらしいのでしょうか!!
ピッ
――スキル「???」を習得しますか?
花陽「あ、また……」
ユリカ「きっともう大丈夫なはずです。さすがに二重トラップはないと思います」
花陽「次なにかあったらもう私やりませんからね!」
ユリカ「はい!」
なんか調子いいんですよねぇ、ユリカさん……
さっきと同じようにもう一度プレートに対して使う事を伝えます
もう罠がないのなら終わってくれますよね?
花陽「……………」ドキドキ…
ユリカ「…………」
ピピッ
――スキル「無垢乙女」の使用を確認。スキル「???」をランクアップ可能です
ランクアップしますか?
花陽「え、なに……?」
ユリカ「ランク……アップ?」
どうにも思っていた流れとは違う音声が流れ、私だけでなくユリカさんも困惑しているようでした
ユリカ「無垢乙女……聞いた事のないスキルですが、ハナヨ様のスキルですか?」
花陽「し、知らないです、スキルなんて持ってもないし使ってもないし……」
ユリカ「という事は自動発動……パッシブスキルなのかもしれませんね」
花陽「パッシ……?」
パッシブスキルとは、セットしておくだけで効果が自動的に発動するタイプのスキルだそうです
……いや、そもそもそんな苺みたいなスキルをセットなんてしてません!
花陽「とりあえずどうしたらいいんですか?」
ユリカ「ハナヨ様が望むなら、スキル「???」をランクアップできるみたいですが…」
花陽「ランクアップするとどうなるの?」
ユリカ「本来ならそのスキルの上位スキルになり、色も一段階上がります」
花陽「でもこれ、最高位の金ですよね?」
ユリカ「はい。そこからランクアップするのなんて私は知りません」
花陽「じゃあしないほうがいいですよね?」
ユリカ「え、でもランクアップはそのスキルが単純にレベルアップすることなのでマイナスにはならないと思いますよ」
花陽「いやあの、正直スキルがなんなのかもわかってないので、ランクとかどうでもいいんですけど…」
ユリカ「ハナヨ様、それはもったいないですよ!」
花陽「えー……」
ついにストレートな意見が飛び出しました
というかユリカさん、何か期待の眼差しでこっち見てるし……まぁ問題ないならいいのかな?
花陽「じゃあランクアップしますよ?」
ユリカ「お願いします!」キラキラ
同じように念じればいいということなので、私はランクアップをすることを思い描きました
ピッ
――スキル「???」をランクアップします
シュウウウゥゥゥ…
花陽「わっ、ひ、光りだした!?」
ユリカ「ハナヨ様、落ち着いてください。ランクアップ自体はすぐに済みます」
驚いてプレートを手放しそうになるのをなんとかこらえて状況を見守ります
はやく帰りたいです……
シュウウゥゥゥゥ…… キラキラ…
花陽「プレートが……」
ユリカ「な、なにこれ?」
私が手にしていたプレートはその色を金から変化させていました……
ユリカ「綺麗……」
花陽「淡い光……碧色に輝いてますね…」
ユリカ「碧……色?」
花陽「そんなのがあるんですか?」
ユリカ「いえ、は、初めて見ます……こんなことがあるなんて……こんな……ぅぅ…」ヨロッ
トサッ…
花陽「ユリカさん!?」
ユリカ「うっ……ひぐっ……ぇぅぅっ……」
花陽「ユリカさん!? どうしたんですか?」
突然ユリカさんがへたり込んだと思ったらそのまま顔を覆って泣き出してしまいました
な、なにかまずい事をしてしまったんでしょうか……
――スキル「????」を習得しますか?
花陽「あ……名前が変わった? まだ不明みたいだけど…ユリカさん、これ……」
ユリカ「ぐす……ぅぇぇぇぇ……」
ユリカさんは急に泣き崩れたまま、話ができる状態ではありません
仕方ない……よね……
花陽「……………」
ピピッ
――スキル「????」を習得します
花陽「ユリカさん……ユリカさ〜〜ん」ユサユサ…
ユリカ「ぇぅっ……は、はいぃ……ヒック」
花陽「終わったみたいですけど……」
ユリカ「え?」ガバッ
花陽「スキル継承。たぶん、終わりましたけど…」
ユリカ「ぐすっ……はい」
花陽「大丈夫ですか?」
ユリカ「ん……大丈夫です。すいません……」
花陽「それであの、帰る方法を教えて欲しいんですけど…」
ユリカ「……………」
スキル継承が終われば帰る方法を教えてもらう約束です
私がどうしてよくわからないスキルを習得できたのかはわかりませんが、まずは何をおいても帰る方法です!
ユリカ「ハナヨ様を元の世界へと送る方法は、召喚の時と同じ規模の召喚術を用いる必要があります」
花陽「じ、じゃあはやくその召喚術を……」
ユリカ「……………」
花陽「ユリカさん?」
ユリカ「私達じゃ……もう同じ規模の召喚術は使えません……」
花陽「…………え?」
何度か見たユリカさんの表情……本当に申し訳ない気持ちが見て取れます
つまりそれは、彼女の言葉が嘘偽りがないという事を意味していました
花陽「じ、じゃあ………私はどうやって帰れば……」
ユリカ「この村にはもう術士はいません。他の土地へ行って召喚士を探して…」
花陽「いないって……私をここへ召喚した人はいないんですか?」
ユリカ「………………」
花陽「ユリカさんっ!」ガシッ
ユリカ「ご…………ごめんなさい……」
花陽「なにを………」
ユリカ「本来召喚術というのは精霊を使役したりするのに使われる術式なのです」
花陽「…………え?」
ユリカ「その術をこことは違う世界……異世界にまで干渉させるにはたくさんの術者が必要となります」
花陽「たくさん……」
ユリカ「術者の数と、それにともなう魔力の消費量……願いが大きくなればなるほどそれは増大するのです」
花陽「願いって……」
ユリカ「ハナヨ様を……誰も扱えなかったあのスキルを継承できる人物を召喚し、私達を救っていただく事……」
花陽「…………」
なんて身勝手な話でしょう
私の都合なんて一つも考慮せず、無理やり連れてきて助けてくださいなんて、勝手すぎます
花陽「………………」
だから、私は文句を言っていいはずです……怒ってもいいはずなんです
花陽「…………んんんっ!」ググ…
だけど、ここにきて感じる小さな違和感が、私にそうはさせませんでした
ユリカさんの言った言葉に嘘偽りがないものだとするなら、先についた嘘とも繋がるからです
ユリカ「……………」
花陽「…………あの」
本当なら聞きたくない事だけど、私自身に関わる事なのでそこだけはどうしても必要でした
花陽「私を召喚した人達は……どう、なったんですか?」
少し言葉を選んでいるのか、ユリカさんは何度か言葉を飲み込んでいます
それがもう、答えのようなものでした……
ユリカ「大召喚を行った者は皆……使命を終えて………天樹の元へと……」
花陽「………………」
ユリカさんの悲痛な思いが伝わってきます。こうするしかなかったと、彼女は言いました
周囲にある黒い布……たぶん、元の持ち主がいたのだと思います
私という存在を異世界から召喚するために、いったい何名の方がそうしたのでしょうか……
ユリカ「あの……ハナヨ様!」
花陽「………はい」
彼女は私の前で跪くと、まっすぐ私を見つめます
出会った頃に少しうかがえたユリカさんの懇願する様子に、私はどうしていいかわかりません
ユリカ「いえ……勇者ハナヨ様! あらためてお願い申し上げます! どうか私達をお救いください! どうか…勇者様のご慈悲を…!」
花陽「ぅぅ………」
すごく身勝手に呼び出しておいてまたこの話です
でも簡単に断れない状況なのも変わりません
私が元の世界に帰るために必要なコト、必要な情報はユリカさんに頼るほかないからです
正直助けてくださいと言われても私に出来る事なんて限られています
スキル継承というのも終わったのに特に何の変化もありませんでした
だから、はいわかりましたなんて安請け合いなんて到底できません
でも私自身のためにも無碍にもできないのも事実……
花陽「………………」
ユリカ「……………」
私はきっと露骨に嫌そうな顔をしていると思います
だけどユリカさんは視線をはずすことなくじっとこちらを見つめています。答えを待っています
花陽「…………ぅぅ」
元の世界に帰りたい……私自身のこの願いを叶えるために、間違えないように、慎重に話を進めたいと思います
花陽「…………条件があります」
きっとユリカさんにも罪悪感なのか、我儘なんてレベルじゃない話なのをわかっていたのかな
私の提案はあっさりと快諾してくれました
そして私は私で罪悪感というか、言われるままにユリカさん達が大事にしていたスキルを使ってしまいました
ここに責任を感じる必要は実際のところわかりませんが、貰っておいて断るというのは少しうしろめたい気分です
花陽「お返しは……できないんですよね?」
ユリカ「はい。スキルとは個人それぞれに内包されるものなので、元のプレートに戻すというのは……」
という事から、なんだかすごいレアっぽいスキルを私は習得してしまったので、他の誰かに譲るという条件は不可能でした
だから無茶なお願いには無茶なお願いで返そうとしたのです
花陽「私が元の世界に帰れるように、最後まで手伝ってください!」
人に対してあんな強気に何か言ったのなんて初めてでした
それでも私はどうしても元の世界に帰りたかったから、きっと断れない立場である彼女にそう言いました
ユリカ「私達を救っていただけるのなら、この命は勇者ハナヨ様のものでございます」
前提として私がユリカさん達を助けるのが最低条件であり、最大の譲歩
正直気軽にハイと答えてそれができなかったらと思うと難しいです
私が帰るためにはこの世界の人達の助力は絶対条件です
その助力を得るためには何を置いてもユリカさん達を救うというのが条件
ほとんど強制ですよねぇ…こんなの
だから私は私にできる事はやってみますという一文を付け足したのです
花陽「本題として、私は何をすればいいんですか?」
ユリカ「は、はい……その説明をするには一度村を見て頂きたいのですが」
花陽「ここが村じゃないのですか?」
ユリカ「ここは村のはずれにある聖域のような場所です。古くからある神ノ遺跡と言われています」
花陽「はぁ……」
村とこの神殿はすぐ近くにあり、歩いてすぐだというので場所を移動することになりました
なにげに異世界なんてところに来て、まともに意識もしていませんでしたが、これは本当ならすごい事なんですよね
花陽(凛ちゃんが見たら喜びそうだなぁ……)
なんて呑気な事を考えながらユリカさんの後について神殿を出る
花陽「ここは……森の中?」
ユリカ「はい。ここはクレスタリア領の最北に位置するところで、ここより北には険しい山脈があり誰も立ち入れません」
花陽「さっきも言ってましたね。クレスタリア領……」
ユリカ「この国の名であり、本来私達の村も国の庇護下にあったのですが……」
花陽「本来……今は違うのですか?」
ユリカ「国は少し前に滅びました」
花陽「へぇ…………えっ!?」ドキッ
何かすごく大事な事をさらっと口にしたような……?
村に続く山道を歩く中、簡単にこの国について教えてもらいました
花陽「戦争………」
ユリカ「はい。元々隣国と友好的ではなかったのですが、少し前にさらに関係が悪化する事件がありまして」
花陽「…………」
異世界なのに聞きなれたその言葉に嫌な連想をしてしまいます
まさかとは思いますが、私にその戦争をどうにかしろとかそういう話じゃないですよね? 絶対無理ですよ?
ユリカ「正直国がどうなろうと私達には関係ありませんが…」
花陽「あ、そうなの?」
ユリカ「私達から搾り取るだけ搾り取って何一つ助けてくれなかった……こんな国……」
花陽「はぁ………」
取り敢えず無理難題の一つは回避できそうです
だけど状況的に見ても簡単な内容ではすみそうにありません……
森を歩く私達の先に木造の建物がいくつか見えてきます
あれがユリカさんの村だと思います。異世界の建造物がどういうものかと考えていましたがその形状には見覚えがありました
花陽「中世の建物みたい…」
ユリカ「あそこが私達の村、セト村です」
近づくにつれその印象は強いものなっていく
お話しにでてくる昔のヨーロッパなどでみかける建築造形とよく似ています
そしてこちらに向かって駆けてくる一人の子供……?
花陽「え?」
ユリカ「ソラ!?」
ソラ「ユリ姉ーーー!!!」タタタ…
村の方から全力疾走してきたのはこの世界で出会う二人目の人……小さな……男の子? 女の子?
可愛らしい12,3歳くらいの子供でした
ユリカ「ソラ! 遺跡の方にはきちゃダメだって言ったでしょっ!」
ソラ「ごめんなさい、でもそれどころじゃないの! スズ姉が!!」
ユリカ「スズに何かあったの!?」
ソラ「ユリ姉達が遺跡に向かってからしばらくして、アイツらが来たんだ」
ユリカ「………っ!?」ビクッ
ソラ「ちゃんとユリ姉の言う事聞いてみんな隠れてたんだけど、スズ姉が……」
ユリカ「スズがどうしたの!?」
ソラ「アイツらが帰っていった後をつけて、アジトの場所を見つけるんだって…」
ユリカ「なっ…………バカっ!!」
ソラ「と、止めたよ危ないって……でもスズ姉がユリ姉の手助けがしたいって言って……」
ユリカ「そんな……っ」
花陽「………………」
どうやら村で何かあったようですが、詳しい事情を知らないので置いてけぼりです
そんな二人のやり取りを見つめていると、ソラと呼ばれる男の子……女の子?と目が合います…これは……
ソラ「あ……………」
花陽「ん?」
てっきりユリカさんと同じような反応を予想したのですが、ソラくん(取り敢えず)は違いました
ソラ「んん…」ギュッ
ユリカ「ソラ……」
花陽「…………」
ソラくんはユリカさんにしがみつくと、顔を伏せて泣いているように見えます
私はそんなに怖い表情をしていたんでしょうか?
――まぁ、いい顔はしていなかったと思いますけど……
ユリカ「ソラ、お姉ちゃん達がスズを連れ戻してくるからちゃんと家に戻ってて、いい?」
ソラ「ぅぅ………」
ユリカ「ソラっ!」
ソラ「は、はい……」
ユリカ「ソラがみんなの面倒見てあげるのよ」
ソラ「ん…わかってる……」
ユリカ「いい子ね。頼んだわよ」
ユリカさんにそう諭され、ソラくんは村へと戻っていきました
そして話の流れに私の事も含まれていたようなので、やる事というのは連想できそうです
ユリカ「……………」
ソラくんの背中をじっと見つめるユリカさんに変化がおこったのはすぐでした
ユリカ「ハナヨ様、事情が変わりました。村へ行くのは後になります」
花陽「えっと……スズさんの後を追うの?」
ユリカ「スズというのは私の妹なのですが、ちょっと無茶な事をしでかしたようで……」
花陽「………何か危ない話ですか?」
ユリカ「今は時間の猶予もないので道すがら…」
花陽「待ってください!」
ユリカ「ハナヨ様……」
いくら縁のない話だとしても、この流れでわからないはずがありません
ユリカさんが救って欲しいという私に懇願する内容……
花陽「悪い人達がいるんですね?」
ユリカ「はい。最悪なやつらです」
花陽「それを……わ、私がどうにかするっていうお話しですか?」
ユリカ「私達の願いはそうです」
継承されたらしいスキルというのは今のところ私に何の変化も与えてくれません
私はかわらず普通の学生のままで非力です
ユリカ「ハナヨ様はゴールドクラスか、それ以上のスキルを習得なさっています。その力があれば…」
花陽「で、でも私には何の変化もないようだけど…」
ユリカ「行動指定タイプのスキルは習得と同時に使用イメージが流れてくるものなのですが、それはないのですね?」
花陽「特に何も……」
ユリカ「それなら習得したスキルは自動発動タイプという事になります」
さっき言っていたパッシブスキルだと、ユリカさんは言います
だけど何が自動で発動するのかわからないものに期待されても……
ユリカ「とにかく今は時間が無いので、走りながら説明しますっ」タッ
花陽「え、そんな……」
ユリカ「緊急事態なんです!」
村に向かって森を南に歩いていたユリカさんが、そこから西の方角へと走り出します
状況はなんとなくわかるのだけど、まだ私が役に立てるかどうかもわからないのに…
それよりも悪い人を追いかけて行ったっていうスズさんの居場所、わかるのかな?
ユリカ「ハナヨ様」タタタ…
花陽「は、はいっ」タッタッタ…
ユリカ「走るのはお得意でしたか」タタタ…
花陽「得意ってほどじゃないけど、まぁ毎日走ってはいたので…」タッタッタ…
スクールアイドルとして毎日練習をしていたおかげかな
ユリカさんが全速力で走っているのかはわからないけど、なんとかついて行く事は出来る範囲です
ユリカ「それでは走りながら簡単に説明しますので聞いてください」
花陽「ん、はいっ」
継承したスキルがどのようなものか確認するためにはスキルボードを開く必要があるそうです
最初にユリカさんが見せてくれた文字が浮かび上がるやつがそうみたい
そこで自身にセットされているスキルの項目を選択し、ナビ妖精さんに解説してもらうという流れ
ユリカ「スキルプレートの時と同じ感覚で思い描くだけで簡単に表示できます」
花陽「わ、わかりました。やってみます」
ユリカ「っと、ちょっと待ってください」
花陽「ん?」
ユリカ「スズが近くにいるので、もしかしたらアイツらも近くにいるかもしれません」
ナビ妖精の音声は周囲にも響いてしまうので、ボードを開いても解説は少し待って欲しいとのこと
少し開けた山道をもう少し進めばスズちゃんがいると……どうしてわかるのかな?
ユリカ「ああ、私達姉妹間で居場所を確認できるスキルがあるんです」
花陽「そんな便利なものがあったんですね」
使う素振りは見えなかったけど、いつのまにかそういうのを駆使していたそうです
スズさんが身を潜めていたら驚かせちゃいけないと、ユリカさんがゆっくりと周囲を警戒しながら歩く
私は少し後ろをついていきます
本当に近くに悪い人達がいるなら、いよいよもって私にはどうすることもできません
だけどユリカさんが過剰な期待を寄せる勇者様のスキルというものでなんとかなるのなら、なんとかしてもらわないといけません
花陽「えっと……正面にスキルボードを表示するイメージ……」ス…
ヴォンッ パパパッ
花陽「………………」
言われた通りにイメージした結果、私の視界がたくさんの文字に埋め尽くされました
花陽「なに……これ…?」
ユリカさんの時のような数行の文字列が浮かび上がるのを想像していましたが、実際にでてきたのは「????」という文字
そしてその下へ線が数本のびていて、それぞれが別の「??????」「?????」と繋がっています
さらにその下へと別の線が伸びていて、また違う「????」へと繋がって、どんどん広がっています
いつか凛ちゃんとにこちゃんが遊んでいたゲームの話を思い出します
にこ「やっぱり先を見越して役割をきっちり決めないとね」ピピッ
凛「にこちゃんはどのスキルルートを選んだの?」ピッ
にこ「断然火力優先よ!」
凛「えー凛と一緒だと連携かたっよっちゃうよ〜」
にこ「私は単発火力ルートいくから、凛は手数優先の乱舞ルートを選べばいいじゃない」
凛「スキルツリーだとどの辺から分岐にゃ?」
にこ「三段階目だから……ここね。まだ分岐は可能よ」
凛「じゃーリンはこっちにするにゃ〜」
花陽「……………」
えっと……つまりこれはスキルツリーのようなもので、一番上の1つ以外は選択して習得していくという事なのかな?
花陽「一番上の????がもう習得されているスキルでいいのかな? 碧色に光ってるし……」
最初の1つを起点とし、そこから2つに、そこから4つにとどんどん分岐しているようです
たくさんある???の文字も下るにつれ色が変化しています。ユリカさんが言っていたスキルレベルによるものでしょうか
あれ、でもこういうのって後ろにいくにつれてレベルが上がっていくものだったような……まぁゲーム的な見方ですが
と、たくさん並ぶ???の中に1つ、読めない文字で書かれているスキルがありました
それは最初のスキルから4段階下にあるスキルで青色をしています
花陽「これは……習得済み?」
上から順番に習得していくものだと思っていたけど、やっぱりゲームのようではないという事でしょうか
「いやああぁぁぁぁぁ!!!」
花陽「」ビクッ
え…今のはユリカさんの声……悲鳴?
花陽「ユリカさん!?」
突然の悲鳴に萎縮してしまいますが、周りに誰もいないという状況にじっとしているわけにもいきません
花陽「もうっ…これ、邪魔……んっ」サッ
目の前に表示されるスキルボードの文字が多すぎて視界の妨げになってしまいます
しっかり私の前に表示されるので走っていても邪魔でしかたありません
なんとか表示した時と同じ感覚で引っ込んでくれたけど、ちょっと使い辛そう
花陽「確かこっちの方から……」ザッ
森の中……少し開けた場所にユリカさんはいました
その傍に、横たわる女の子……
ユリカ「スズ……スズー!! ぅぁぁぁぁぁぁっ!!」
花陽「…………ユリカ……さん」ドキッ
ユリカさんと同じ長い黒髪の女の子
花陽「う…………ぁ……」ドクン
スズさんは仰向けに倒れ、虚ろな瞳で空を見上げています
初めてだけど、それは私の心臓に重く響きます……スズさんは……
ユリカ「なんで……なんでこんなこと……ぁぁぁ……」
スズさんはもう生きてはいませんでした
胸が……心が痛い……
ずっとずっとユリカさんはこの世界について話してくれていたのに、私はこの時まで深く意識していませんでした
あまりにも日常からかけ離れすぎていて、一番連想しやすいゲームの事で例えてばかりで、見ようとしていません
だけどユリカさんは教えてくれていました
ここは……戦争によって人の命が失われる世界
願いの代価に、その命を捧げる事になる世界……
ピピッ
――対象に対する「悪意」を感知しました
スキル「無垢なる罪人」を発動します
花陽「えっ!?」
ユリカ「!?」ビクッ
突然聞こえてきたのはナビ妖精の声。それも……私から……?
ユリカ「ハ、ハナヨ様……スズが…ぅぅ……」
花陽「ユリカさん……」
私に気づいたユリカさんが顔をあげる……けれどその表情はすぐに崩れてしまいます
今の私にかけられる言葉なんてあるはずもない…
今目にしているのはユリカさんが私に求めていた救いそのもので、私が何もできなかった結果……
花陽「……………」
ユリカ「ぐすっ……ハナヨ様、さきほどのスキルは?」
花陽「えっ…あぁ、私にもわからなくて…」
ユリカ「自動で発動したのですか……パッシブタイプなのは間違いないようですね…んっ」
花陽「あの…ユリカさん……」
ユリカ「……………」
あんなに辛そうだったのに気丈に振る舞おうとするユリカさん
やっぱり言葉はでてこないです。私に今の彼女の気持ちは理解できそうにありません
ユリカ「ハナヨ様、スキルボードは確認できましたか?」
花陽「それが、数が多くて何が何だか……」
ユリカ「数? 習得したスキルは複数あったのですか?」
花陽「習得できてるのもあったけど、字が読めなくて」
ユリカ「よければ私が確認しましょうか?」
花陽「お願いします…」
ユリカさん……強い人です……
ユリカさんにスキルを確認してもらおうとした時、その声は聞こえてきました
「やっぱりまだ残ってやがったな」ガサッ
「余計な手間をかけさせてくれる…」ガササッ
ユリカ「っ!?」
花陽「え?」
突然現れたのは西洋風の鎧を身に着けた大きい男の人達でした
これはもしかして、騎士……とかそういう職種の?
あれ……でも確か……
ユリカ「おまえらがっ!」ギリッ
花陽「ユリカさん!?」ビクッ
出会ってそんなに話たわけじゃないけど、その声にはあきらかな感情が含まれていました
ユリカ「おまえらがスズを……スズをっ!!」
花陽「…………」
ユリカさんの感情がこのもやもやした懸念すべてに答えをだしてくれる
最悪なやつらと言っていた人達。ユリカさん達を苦しめている存在で…
私がこの世界に呼ばれた元凶っ!
そして…私がこの人達を………
花陽「…………ゴクッ」
「わざわざこっちにそのガキを移したのはアタリだったようだな」
「相手の位置を特定するスキルがあるんだろう。そして村には今だ隠れ続けている連中がいる」
「そいつらもなんらかのスキルで隠れているのは確実だな」
「この嬢ちゃん達に聞けばいいだろ」スッ
ユリカ「…………っ」
花陽「う……ぅぅ…」
四人の鎧を纏った男の人達がこちら……ユリカさんを睨みつける
ピピッ
――対象に対する新たな「悪意」を感知しました
スキル「無垢なる罪人」の効果領域を拡大します
花陽「えっ!?」
ユリカ「ハナヨ様?」
「やはりなんらかのスキルを使ってやがるな」
「聞いた事のないスキルだが、まぁそれも含めて直接聞いてやりゃあいい…」スッ
「さっきのガキよりかは楽しめそうだなぁ」
また発動したスキル……無垢なる罪人? 効果がわからないのに何が発動したの?
ホントに、私になんとかできる力なんてあるの?
ユリカ「…………」
ユリカ「ハナヨ様……ここから南にまっすぐいけば村が見えてきます」」
花陽「え?」
ユリカ「私が時間を稼ぐのでハナヨ様は村へ向かってください」
花陽「ど、どういう事ですか?」
ユリカ「ハナヨ様が継承したスキル。使いこなせればきっとあいつらに負けません」
花陽「でも、スキルは何かもう発動してるよ……それなのに何の変化もないし…」
ユリカ「スキルボードに表示されるスキル名に触れる事でそのスキルの説明が聞けます。そちらで確認を……」
「おっと、逃がさねぇぜっ」ザッ
ユリカ「っ!? ハナヨ様、急いで……あっ!」
花陽「ユリカさん!?」
鎧を着こんだ人達は見た目以上の速度で私達を取り囲みました
その内の一人がユリカさんを背後から取り押さえた
ユリカ「くそっ触るな!!」グッ
「へっ、さっきのガキより全然いい体してるぜ」
「隠れてる奴らの居場所を聞き出したらたっぷり可愛がってやるぜ」
ユリカ「く…うぅl、やめっ……!」
花陽「…………」
ユリカさんが男達に押し倒される……
彼女は私に村へ行ってと言いましたが、そんなことできません
ユリカさんは私が元の世界に戻るために必要な人なんです
この人達は悪い人達で、スズさんを殺した許せない人達……だから…っ
花陽「わ、私……が……」
「おっと、変なスキルを使うんじゃねーぞ」ザッ
花陽「ひぃっ!?」ビクッ
めめ、目の前に他の人が! 捕まったら……私……
花陽「ス、スキル! なんでもいいから助けてくださいっ」ブンッ
効果も使い方もわからないスキル。でも私にどうにかできるとしたらそれに頼るしかありません
とにかくなんでもいいから使い方を調べるためにスキルボードをもう一度展開したときでした
「な………なんだこいつぁ……」
「き、気をつけろっ何かのスキルかもしれん!
突然現れたたくさんの文字列に男の人達が一瞬躊躇しています
今のうちにスキルツリーのてっぺんで碧に光ってる????に触れて……
花陽「お願い、何か出来る事を……っ!」
ピピッ…
「なにかするつもりだぞ! 取り押さえろ!」
花陽「ひゃっ!」ビクッ
ユリカ「ハナヨ様!」
「動くんじゃねぇ!」グッ
「…このっ!」バッ
花陽「!?」
……凛ちゃんっ!
ピッ……
――近くて遠いその場所に
――彼女は一人そこにいる
女神の良く知る、変わらぬ笑顔でそこにいる
花陽「…え?」
「っらぁっ!」バッ
花陽「…っ」ビクッ
――彼女はこの世のあらゆるものを見つめ続ける
すぐ傍で、すぐ隣で、みんなと同じ変わらぬ笑顔で見続ける
「……………は?」
花陽「……………?」
――けれど、誰も彼女の事を知る者はいない
すぐ隣にいるのに触れる事も出来ない
「ど、どうなってんだこりゃ……」
「身体が……」
花陽「え?」
――「隣人花陽」は誰にも干渉できない。1つ隣の次元に存在する
目の前まで迫った私を捕まえようとする手に、私は何もできず身体を竦める……
でもいまその手は私に触れる事はありませんでした
花陽「こ、これ……きゃあっ!?」ビクッ
「う、ぁぁ…」
たぶん……これ、この人の腕で……私の首元に埋もれるようにして刺さっている
だけど触れられたという感触はなく、感じとれるのは背後で動く手の存在
ユリカ「か、体を突き抜けた?」
「幻惑系のスキルか!?」
花陽「あ、あわわ……」
「くそっ、どうなってやがる!」ザッ
花陽「ひゃうっ」ビクッ
掴めないならと、今後は体ごと覆いかぶさってきます
男の人が目の前に!!
……と、思いましたが先と同様に男の人が私の体を通り抜けてしまいます
スキル解説が何か抽象的でよくわからなかったのですが、一つだけ確かなことがありました
花陽「誰も……干渉できない…?」
「こいつはゴーストかなんかか!?」スカッ
干渉できない。触れられない……それがこのスキルの効果ってことでいいのかな?
おかげで捕まる事はないけど、ユリカさんの状況を解決するには役に立たないような……
花陽「う…うぅ……」スッ
「うわっ!?」ビクッ
花陽「え?」
私の体を掴もうと躍起になってる人の体を少し押し返そうと手を前にだしたら、触れてしまいました
花陽「あれ、触れる?」
「幻惑じゃねーのか? くそっ」バッ
押し返そうとする私の手を掴もうとするけど、やっぱり男の人には触れない
もしかして、私からは触れることが出来る?
花陽「あの…」グッ
「ひっ…は、離せっ!」バッ
こちらからは一方的に触れる事が出来る……えっと、じゃあどうすれば……
ピピッ
――スキル「それ正解!」が発動しました
花陽「えっ!?」
「こ、こいつまた何かスキルを!?」
それ正解……? さっきも何か違うスキルが発動していたような…
私が継承したスキルは????の1つじゃないのでしょうか?
花陽「っと、それよりも……」
スキルそのものが相変わらずよくわかりませんが、先ほど発動した「それ正解!」というスキルの効果は良く分かりました
花陽(発動と同時に脳裏に浮かんだ光景……私がこの状況でするべきこと……)
きっと一瞬見えたのが正解なのでしょう
花陽「んっしょ!」タッ!
「なっ!?」
「こいつ…!」
ユリカ「ハナヨ様!?」
私に今出来る事……ユリカさんをこの状況から助けるためにするべき最優先の事…!
花陽「にあぁぁぁぁ!」ダダダダ!!
「つっこんできやがった!」
「抑えろ!」バッ
ユリカ「ハナヨ様、危ない!」
花陽(大丈夫……きっと、大丈夫……)ドキドキ
体験したばかりでまだスキルに何の信頼性もないけど、これだけはどこか自信がありました
ユリカさんを助けるための行動として躊躇していられません…!
ドンッ!!
「ぐおっ」バタッ
花陽「〜〜〜〜〜っ! いっ……た!」ジーン…
ユリカさんを抑えつけていた人に全力タックルです!
これで大人の人をやっつけられるとは思いませんが、通用する今のうちに
ユリカさんが人質として扱われる前に……!
ユリカ「ハナヨ様、大丈夫ですか!?」バッ
花陽「痛い……けど、ユリカさんが無事ならいいですっ」
ユリカ「そんな…私なんかのために……」
花陽「……………」
取り敢えずこの状況をどうにかしたら認識を改めてもらいましょう
「くそっ、やっぱりこっちの攻撃が当たらねぇ…」
「魔術タイプのスキルだな。警戒しろ」
魔術タイプ……そうなんでしょうか?
でもとにかく今はわかってるスキルでなんとかするしかありません
それには……
ピピッ
――スキル「それ正解!」が発動しました
ユリカ「ハナヨ様、いまのスキルは?」
花陽「よくわかりません」
ユリカ「え?」
花陽「ただ、頭であれこれ考えた中に正解っぽいのがあると発動するみたいです」
条件は……この状況を切り抜ける方法……
ユリカ「正解がわかるって……それって、未来視…?」
花陽「取り敢えずなんとかやってみますから、私の後ろに隠れてください」
争い事とは特に無縁の私が考えた結果、正解だと言うのならもうそれに賭けるしかありません
作戦はズバリ、ハッタリです!
花陽「えーっと……」スッ
走るのに夢中で消えちゃったスキルボードをもう一度展開させます
詳しい事はわかりませんがこれがある程度の威嚇になっているようです
そういえばスキルランクによって色分けされているとのことですが、このボードが威嚇の効果があるというのは…
「ま、また何かする気だぞ!」
「こっちの攻撃があたらないんじゃどうしようもないぞ」
「ってかよぅ、なんだよあれ……見た事のないもんばかりだぞ」
「はぁ!? あれ全部スキルだっていうのか?」
習得したのは1つのはずなのでこれがどういう状態を表しているのかは分かりませんが、この文字列が意味するのは…
「あれは……ゴールドクラス…なのか?」
「それも1つや2つじゃねぇ……」
「なんなんだあいつは……」
なんなんだと聞かれたらそんなのは私のほうが知りたいです
花陽「…………」ザッ
ゆっくりと男の人達に歩み寄る。片手でスキルボードをなぞる様にし、もう片方の手を相手に向ける
さっき見えた光景ならこれで……
「く、くそ……いったん下がるぞ!」タッ
「術士様に状況を報告するんだ」
「おのれ、覚えてろっ!」ダッ
「お、俺……私達に逆らった事を後悔させてやるんだからねっ!」ダダダッ
花陽「……………」
なんかキャラ変わった人もいるけど、これでどうにか……
ユリカ「あ…………」
花陽「はぁ………」ストン
突然現れた鎧を着こんだ人達の脅威は相手の撤退という形でどうにか切り抜けました
私が継承したスキルって、さっきの発動していたものとは別のスキルだったようだけど、今はそれよりも……
ユリカ「ハナヨ様、あいつら……」
花陽「なんとか帰ってくれましたけど、さっきの人達がユリカさんの言っていた問題なんですね…ハァ」
緊張が抜けてついでに腰も抜けてその場でへたり込む……ぅぅ
なんとかなったというよりもバレる前に誤魔化しきっただけ……
ユリカさんは、あの人達をやっつけたい……いえ、この場合はもっと……
ユリカ「…………」スッ
花陽「あ…………」
男の人達が立ち去るその背中をじっと睨みつけていたユリカさん
やがてそれも見えなくなると、表情を変えることなく横たわるスズさんに寄り添う……
花陽「……………」
さっきの人達はスズさんを殺した人達……私はきっとあの人達に復讐するために呼び出されたのだと思います
それはスズさんより以前にたくさんの犠牲があったということ……
ユリカさんにとっての目的……私はそれを逃がした……
花陽「あ、あの………」
ユリカ「…………」
スズさんの頬を優しく撫でる姿にまた私の心がざわつく
私は……間違ったのでしょうか……
ユリカ「ハナヨ様……」
花陽「…………はい」
ユリカ「お願いでございます……あいつらを……殺してください……」
花陽「…………」
ユリカ「あいつらは村のみんなを……お母さん達を殺したやつらなんです」
花陽「あの人達は一体?」
ユリカ「さっきお話しした戦争があったという話は覚えていますか?」
花陽「はい……」
ユリカ「あいつらは戦争に負けたクレスタリア軍の敗残兵です」
花陽「え!?」
ユリカ「本当なら国を……民を守るべき役目を持った騎士団なんです……」
花陽「そんな……」
戦争に負けたという結果だけ聞いていましたが、そこから派生する問題なんて考えたこともありません
日本も昔は他国を相手に戦争をし、敗北をした歴史があります
授業で習った程度の知識しかありませんが、戦時中に交わされた条約で敗戦国にも一定の権利、線引きがされています
ユリカ「元々このあたりは統治も行き届いていない田舎だったんです。戦争の影響もあまりなくて……」
花陽「領土の端って言ってましたね」
ユリカ「はい。だからみんなそういう対策なんてしてなくて、戦争も外の話って感じだったんです」
戦争が終結してもユリカさん達の生活には影響ありませんでした
しかし彼ら……クレスタリア軍の敗残兵は行き場を無くし、野盗の集団となりました
ユリカ「近くにトト村というところがあるのですが、そこが最初にあいつらの襲撃を受けました」
花陽「トト村……」
ユリカ「連中はそのうち敵国の支配が村におよぶのを恐れて、どこか森の中にアジトを作って隠れ潜んでいます」
花陽「ど、どうして村を襲うんですか?」
ユリカ「連中が何を考えてるのかなんてわかりません。ただハッキリしているのは……」
――殺さないと、自分達が殺される
花陽「…………」
ユリカ「私達を生かすためにお父さん達は大召喚を行使してくれました。最後の手段として…」
花陽「…………」
――あいつらを殺すための存在……勇者を異世界から召喚する
ユリカ「私達にはもう何もありません。村で隠れているのも子供ばかりなんです」
花陽「……そんな」
ユリカ「だからハナヨ様……あいつらを殺してください。一人残らずっ!」
花陽「…………」
ユリカ「どうして答えてくれないんですか…」
花陽「…………」
ユリカ「私の頼みを聞いてくれるって、そう言ったじゃないですか!!」
花陽「……だって」
ユリカ「…………」
人を殺せって……私にそんな事ができるはずが……
ユリカ「スズ……ごめんね、連れて帰るのにちょっと時間かかっちゃうけど…」ガバッ
花陽「あ………」
ユリカ「一度きちんとお話をするとしても、今は先に移動しましょう。ハナヨ様」
花陽「はい。あ、手伝います」サッ
ユリカさんはスズさんの体を肩に担いで歩き出します
どんな状況だろうと、こんなところに置いて行くなんて……できませんよね
初めて触れるスズさんの体はとても冷たく感じました
花陽「うぅ……」ズキ…
なんだろう……すごくお腹が……痛い……
ユリカ「……ありがとうございます」
花陽「いえ…」
お腹が……胃が…痛い……
ユリカ「ハァ…ハァ……ん、くっ…」ズルズル…
花陽「はぁ、ふぅ……ぅぅ…」ザッ ザッ
スキルを継承したといっても力がついたわけではありません
ユリカさんも力があるほうではないようです
非力な女子二人で一人の人間を運ぶのはとても大変でした
それにさっきからお腹の具合が悪い……
花陽「う…く…んぅ……」フラッ
ユリカ「ハナヨ様、大丈夫ですか?」
花陽「ごめんなさい…少し…お腹が……」
ユリカ「どこかお怪我を!?」
花陽「ケガとかじゃなくて……これ……あうっ!」ズキッ ガクッ
ユリカ「ハナヨ様!!」バッ
だめ……痛みがどんどん…きつく……なって……でも…これは知ってる…
花陽「あぐっ、く、あぁっ……!」
ユリカ「ハナヨ様、そこの木陰で少し休みましょう」
胃がしくしくする……だけどこの痛みは覚えがありました……
花陽「いえ……いつもよりちょっときついけど、原因は…わかりました…」
ユリカ「平気なのですか?」
こんなに強く痛むことはなかったけど、これは自分の胃液のせい…
つまり……私はお腹が空いているからこうなっているだけです
こんなに痛むのは初めてですが
花陽「村まで、あとどれくらいですか?」
ユリカ「このペースでいくと…20分くらいでしょうか」
花陽「そう…ですか……」
村についたら何か食べる物が頂けるでしょうか……
―私達にはもう何もありません。村で隠れているのも子供ばかりなんです
花陽「…………」
―あいつらを殺してください
花陽「………私が」
ユリカ「ハナヨ様……ハナヨ様?」
花陽「え?」
ユリカ「その……お腹、どうされたのですか?」
花陽「お腹……え、なに…これ…?」
しくしくと痛む私のお腹が……いつのまにか淡い光を放っていました
碧色の……優しい光
ユリカ「何かのスキルですか?」
花陽「わ、わかりません…どうして…あ……」スゥッ
お腹に触れると同時に頭の中を何かが過る……これは…イメージ?
ユリカ「どうかされましたか?」
花陽「なにか、頭に流れ込んでくる……」
ユリカ「はっ! ハナヨ様、それはアクティブスキルではないですか?」
花陽「スキル……ん……そうかも………このイメージは……」
自動で発動するパッシブスキルではない、任意の対象をとるスキル…
花陽「どうやら新しいスキルが使えるようになったみたいです…」
ユリカ「新しい? ハナヨ様が継承なされたスキルは1つではないのですか?」
花陽「よくわかりません……」
いつ継承したのか、元々何かしらあったのかは不明ですが、任意に使うことが出来るスキルが増えました
発動条件が必要なので、おそらくその条件が充たされたために使用方法が頭に流れ込んできた?
花陽「えっと………どれかな?」ヴォン
ユリカ「わっ」
目の前にスキルボードを展開させる
流れ込んできたイメージ……スキルは「隣の観測者」
花陽「読めない……」
ユリカ「すごい……こんなにたくさんの高ランクスキルが……」
花陽「ユリカさん、この中の使えるスキルにある、隣の観測者ってどれだかわかりますか?」
ユリカ「え……えっと、ハナヨ様……お気づきではないのですか?」
花陽「え?」
ユリカ「これ、全部ハナヨ様が習得されているスキルです。このたくさんのスキル…すべて……」
花陽「………へ?」
てっきりゲームのように上から順番にスキルを選択して習得していくものだと思っていました
だけどそれは違っていて、もうこのスキルボードに表示されているすべてが私のスキルだそうです
ユリカ「驚きました。お父さんもたくさんのスキルを習得していましたがこんなのは初めてです」
花陽「あの、それで隣の観測者ってどれですか? わからない文字と???ばかりで……」
ユリカ「そうでした。えーっと……あ、これです!」スッ
それは一番上にあるスキルのすぐ下、2つに伸びている二段目にあるスキルでした
二段目のスキルはどちらも碧色
もしもこのスキルがもたらしたイメージが私の想像通りなら……
花陽「…………」ピッ
一番上のスキルの時と同じように「隣の観測者」に触れる
ナビ妖精の無機質な声が響く……
ピピッ
――彼女はいつもやってくる
甘い香りに誘われて、お腹がすいたとやってくる
――彼女はいつも問いかける
欲しいモノがありますようにと問いかける
すべては彼女の望むまま……奇跡の対価は目の前に
――「隣人花陽」はお腹がすいた
望むモノを与えましょう。すべては彼女が望む事。思うままに描きましょう
時の歯車が許す限り……20と3の奇跡を描きましょう
花陽「……………」
ユリカ「隣人……花陽……?」
やっぱり抽象的な内容でスッキリはいってこないのですが、イメージとほぼ重なります
わかったのは、スキルの発動条件が私が空腹時であること
スキルの使用回数が23回と決まっている事。そして……
花陽「……………」スッ…
ユリカ「ハナヨ様?」
スキルの効果は………
花陽「もし、うまくいったら……」
ユリカ「え? は、はい……」
花陽「何か食べる物をください。お腹がすきました」
ユリカ「それは勿論、構いませんが……ハナヨ様、何を…?」
木陰に横たわるスズさんの傍に座り、頭でイメージします
本当にこんなことが可能なのか自信はありません
だけど目の前にあるものを私の望むモノ……願うカタチにできるという奇跡があるのなら……
花陽「……………」パァァ…
ユリカ「この光は……ハナヨ様、スズになにを!?」
スキルの仕様方法として詠唱のような、台詞のような一文が頭をよぎる
今はこれに賭けて言葉にします
花陽「すいません、隣のものですが……「死なない体を持つスズさん」はありませんか?」
カヨチン…… カーヨチン!!
花陽「凛……………ちゃ………………?」
ハナヨサマ…!!
花陽「えっと…………誰………です、か……?」
ユリカ「ハナヨ様!」
花陽「ぴゃあっ!?」ガバッ
ユリカ「あぁ、よかった…ハナヨ様ー!」ガバッ
花陽「え……あれ?」
誰かに呼ばれたような気がして目をあけると、そこに女の子がいました
いえ、落ち着いて見るとそれはユリカさんでした
異世界の人で、私のこの現実は夢でもなんでもなくまだ進行中という事です
ユリカ「よかった……うなされているようでしたので……ぅっ」
花陽「そうだったんですか……」
私にしがみついて涙を流すユリカさん。本当に心配をかけてしまいました
花陽「あれ、ユリカさん私に触れるのですか?」
ユリカ「はい。よく考えてみるとあいつらには触れられなかったのに、不思議だなと思いましたけど」
花陽「何か理由があるんでしょうか……ん?」
私は確か村に続く森の中にいたような
ユリカ「あ、ハナヨ様が寝ていらっしゃるあいだに村までお運びしたのです」
花陽「あ、じゃあここは……」
そこは石造りの部屋で、おそらく寝台のようなところに寝かされていたようでした
辺りがうす暗いのは部屋の明かりが傍にあるロウソク1つだけのせいでしょうか
ユリカ「ここはセト村にある私の家の地下室です。やつらから隠れられるように入り口が見えないようになっています」
花陽「そうだったんですか。すいません、大変でしたよね」
ユリカ「いえ、スズと二人だったので平気でした」
花陽「あ、それならよかったです………ん?」
ユリカ「ハナヨ様。この気持ちをどう表していいのか、私にはわかりませんが……」スッ
花陽「あ…」
ユリカ「スズを助けていただき、本当に……本当にありがとうございます」ギュッ
私の手をとるユリカさんから想いが伝わる
そっか……うまくいったんですね
カチャ
スズ「よかった、声がしたからもしかしてと思って…」
ユリカ「スズ! ハナヨ様がお目覚めになられたわ!」
花陽「あ……」
暗くてよく見えませんでしたが、おそらく隣の部屋? から姿を現したのはスズさん
言葉にすると本当に簡単だけど、奇跡のようなスキルの効果で生き返ったスズさんです
スズ「勇者ハナヨ様……姉さんを助けていただき、ありがとうございます」
ユリカ「もう、それだけじゃないでしょ!」
スズ「それと……軽率で愚かな行動をしたバカな私を……助けていただき、本当に……」
花陽「いえ、自分でそんな風に言わなくても……」
スズ「いいえ! 少しばかり戦闘スキルが使えるからと甘く考えていた私は愚か者です」
ユリカ「ずっとこの調子なんです…」
スズ「自分だけですむのなら自業自得ですが、姉さんやハナヨ様にまで迷惑をかけてしまい……くっ……」
ちょっと固い思考がどこか海未ちゃんを連想してしまいます
でも、スズさんの行動は自分勝手なものではないというのを知っています
彼女は村に残されたみんなのため……ユリカさんが連れてくる勇者のためにと行動したらしいです
花陽「そう自分を卑下しないでください。私はただユリカさんにお願いされたから……」
ユリカ「……え?」
花陽「ユリカさん」
ユリカ「は、はい!」
花陽「お腹……すきました。何か食べる物があったら頂けませんか?」
ユリカ「あ…喜んで! 今他の子達が準備していますので!」
花陽「他の子達……あ、ソラくんや村に残っている?」
スズ「本当なら村をあげておもてなししたいところですが、申し訳ありません」
花陽「事情はよく分かっているので気にしないでください」
私こそ突然現れて食い扶持を1つ減らすようなものなのに申し訳ない気持ちでいっぱいです
でも背に腹はかえられないので素直に申し出ます
きっと断ることができないであろうユリカさんの善意につけこむようで気にはなりますが
出来るだけ彼女の願いを叶えて、お互いの目的のために協力しあわないと
花陽「あ、そうだ」
花陽「ユリカさん」
ユリカ「はい、なんでしょうか?」
花陽「今のうちにお話ししておくことが……」
ユリカ「……はい」
空腹感はまだありましたが、さっきのような痛みはだいぶマシになっていました
食べる物を頂いたらこのスキルはしばらく使えなくなる。それなら……
ユリカ「スズ。ハナヨ様とお話しがあるから、みんなのお手伝いしてきて」
スズ「姉さん……。わかりました、それでは…」ササッ
花陽「………」
スキルのイメージが流れ込んできた時に把握した事があります
「隣の観測者」のスキルは自分には使えないという事
花陽「ユリカさん…」
ユリカ「はい」
花陽「私はここに呼ばれてくる前はほんとに普通の高校生で、特別なものなんてなにもありませんでした」
ユリカ「ハナヨ様……」
花陽「勇者だなんだと言われても、特別なスキルなんて使えても、私は普通の女の子なんです」
ユリカ「…………」
花陽「そんな私に人を殺すことなんてできません」
ユリカ「…………」
花陽「だけど私が元の世界に戻るためにはユリカさんの協力が必要です」
ユリカ「…………」
花陽「だから私にできるのは……そのお手伝いだけ……」
ユリカ「え……?」
花陽「ユリカさん……私があなたを、あなたが望む存在に変えてあげます」
ユリカ「それは……スズと同じような?」
花陽「はい。私のスキルであなたに1つだけですが、授ける事ができます」
ユリカ「1つ……」
花陽「あのスキル「隣の観測者」が対象に与えられる観測は一人1回までだそうなので」
ユリカ「1回……。それでスズは生き返ったのですか」
花陽「正確にはスズさんは死なない体になったという方が正しいです」
ユリカ「死なない体……」
花陽「はい。もうどんな怪我や病気にも負けません」
ユリカ「…………」
―この時の私は死なない体というものがどういった存在になるのか、深く考えていませんでした
花陽「だからユリカさんも、何か希望があれば言ってください」
ユリカ「私が……」
花陽「こんな事言うとズルイと思われるかもしれませんが、私は元の世界に帰りたいだけなんです」
ユリカ「それは……わかります」
花陽「だからユリカさんが望むカタチであの人達をどうにかしたいのなら、私がお手伝いします」
復讐とかそういう心情は私にはまだ理解できません
だからその気持ちをぶつける手段が欲しいのなら、それを望んでもらいたいです
ユリカ「私がハナヨ様を元の世界に戻す術を使えるようになるというのは、可能なのですか?」
花陽「…え?」
ユリカ「お父さん達が行使した秘術大召喚……その術者を探すのが目的、ですよね?」
花陽「私は詳しい事はわからないので、戻る方法としてユリカさんがそう言うなら…でも……」
花陽「その……大召喚って……使った人達が……」
ユリカ「膨大な魔力を必要とするので一人では無理とされています。そして異世界との壁を砕く衝撃と負荷で肉体も……」
花陽「……………」
ユリカ「でもどんな望みでも良いというのなら、私一人で膨大な魔力を扱い、死なないようにできるのではと……」
スキルの効果でその効果、状況、結果は得られると思います。だけど……
花陽「それは無理みたいです」
ユリカ「え……ダメですか」
花陽「ユリカさんの考えには膨大な魔力と死なない体。二つの希望が含まれているからです」
ユリカ「あ……一纏めというわけにもいかないのですね」
花陽「その方法で私が元の世界に帰れるか考えましたけど、スキル「それ正解!」が発動しませんでした」
ユリカ「あ、さっき使ってらしたスキルですね」
花陽「…………」
ピピッ
――スキル「それ正解!」が発動しました
ユリカ「わっ……ハナヨ様、いまのは?」
花陽「あー……えっと……」
今ある判断材料だけで私が元の世界に帰れる方法を考えた一つの可能性です
花陽「ユリカさんが死なない体を手に入れて、一人で召喚術を扱えるようになるために特訓すればできそうですけど…」
ユリカ「わ、私やります! ハナヨ様のお力になれるなら!」
花陽「いえ、残念ですがその特訓に必要な時間がちょっと……現実的じゃないので……」
私が帰れる頃にはもうおばあちゃんです
ユリカ「そうですか………あ、じゃあ…」
ユリカさんは私が元の世界へ帰る方法として、一つ現実的な提案をしてくれました
私の中に判断材料がないのでその道が正しいのかどうかはわかりませんが、私はその提案を受け入れました
それが私がここに来た理由の一つのような気がしたからです
-セト村の民家 ユリカさん家の隠し部屋
ユリカ「はい、みんなこっちへいらっしゃい」
花陽「……………」
ご飯の用意が出来たということで、私は別の地下室へと案内されました
そこにいたのは小さい子供達。ユリカさんの話だとこの村で生き残った最後の村人……
ユリカ「この方が私達に力を貸してくれる勇者様、ハナヨ様よ。ご挨拶して」
花陽「…………」ドキドキ
アイナ「アイナです。初めましてハナヨ様」チョイッ
アヤ「わたしはアヤです。お会いできて光栄ですわ」ペコ
ヨシノ「……ヨシノ」ムスッ
パイ「パイだよ」
花陽「わぁ……」キラキラ
か、かわいいっ! 天使のような可愛らしい女の子達がこんなに…アイドル顔負けです!
ソラ「……………」
リホ「ほら、ソラも挨拶しないと」
花陽「っ!?」ドキッ
え? ええ!?
花陽「り、凛ちゃん!?」
リホ「え? あ、私はリホと言います。よろしくお願いします」ペコ
花陽「リホ……ちゃん」
驚きました。リホと名乗ったショートヘアの女の子。雰囲気どころか見た目も昔の凛ちゃんそっくりです
リホ「ソラ、ちゃんと挨拶しないと」
ソラ「…………ん」
ソラくん。昼間に一度会った時から少し警戒されているようです
みんな、私がここにいる理由を知っているのかな……
リホちゃんに背中をおされて前にでるも、やはりソラくんは私と目を合わせてくれません
ユリカ「申し訳ありませんハナヨ様。ソラは…その……」
花陽「いいんです。なんとなく、わかりますから」
スズ「もう一人いるんですが、小さい子でいつもこの時間にはもう寝ているんです」
パイ「おこすー?」
花陽「あ、いいですよ。寝かせておいてあげてください」
ユリカ「すいませんハナヨ様」
トトト… ピトッ
花陽「へ?」
ヨシノ「〜♪」ゴロゴロ
花陽「は、はわわ///」
ヨシノちゃんが私の手をとって……ゴ、ゴロゴロしてますっ!
か。かわいい〜〜〜!!
パイ「ぱいも〜♪」ゴロゴロ
花陽「ひゃあぁ///」
ユリカ「これ、ハナヨ様になんてことをっ!」
全然かまいません!
用意された長テーブルと、人数分並べられた椅子に座り晩御飯を頂きます
私の両サイドにヨシノちゃんとパイちゃんが座り、なぜかベッタリされています
こんな可愛らしい女の子に懐かれるなんてすごく新鮮でドキドキしちゃいます
ユリカ「すいませんハナヨ様。二人がご迷惑を……」
花陽「いえいえ、全然いいですよ。ねー♪」ギュー
ヨシノ「〜♪」フニフニッ
パイ「あい」モニモニッ
リホ「二人だけズルイっあとでわたしも〜!」
アイナ「そ、それならわたしも…」
スズ「それはいいから、早く食べなさい」
ソラ「…………」モグモグ
アヤ「…………」
ユリカさん達が用意してくれたこの世界で頂く最初の食べ物は、私の良く知っているものでした
コンソメ味のスープにいくつかの野菜が細かく入ってます
これは……キャベツ? ニンジン?
それに一切れのパンとふかしたジャガイモのようなもの……
正直これだけ育ち盛りの子達がいるのに、この量は不十分に感じました
でもこの食事に誰も不満を口にすることなく、笑顔で食べています
これを……当たり前の日常にしてしまってます……
花陽「…………」ズキ…
野盗となった敗残兵に村が襲われ、なにもかも奪われた……それが……
ユリカ「ハナヨ様、スープのおかわりはいかがですか?」
花陽「ん……あ、いえ、私はこれで」
パイ「スープ嫌い?」
花陽「ううん、おいしいよ」
ユリカさんの望みであるこの村の問題として、これもきっと含まれます
そうだ……悪い人達をどうにかしても、ここにはみんなが食べいけるだけの生活水準がありません
-夜。地下の一室
花陽「ふぅ……」
食事の後、なぜかみんなと遊ぶことになりました
遊ぶと言っても特別何かするわけでもなく、子供達とあれこれお話しをしただけです
それでもある程度みんなの事を知ることが出来ました
ユリカさん、18歳(年上でした)
セト村でみんなのお母さんがわりとしてがんばるお姉ちゃん
スズさん、17歳(見た目通り年上)
年長組としてみんなを取りまとめているお姉ちゃん。唯一戦闘系のスキルが扱えるそうです
アイナさん、16歳(年上さんでした)
少し大人びた女の子。背伸びしたいお年頃?
アヤさん、16歳(驚きの年上さん)
ちょっと幼く見える可愛い女の子。ソラくんの面倒をよく見ているお姉ちゃん
ソラくん、14歳(可愛い男の子でした)
まだちゃんとお話しできてないけど、仲良くできるといいな
リホちゃん、12歳(キュート)
可愛いリホちゃん。きっとトップアイドルにだってなれる逸材です!
ヨシノちゃん、12歳(不思議な子)
妖精さんのような愛らしさでトップアイドルになれる逸材です!
パイちゃん、12歳(エンジェル)
天使のような笑顔でトップアイドルになるべくして生まれた逸材!
……と、ちょっとエキサイトしすぎましたがみんな本当に魅力的な可愛い女の子達
一人ずっとお休みしていた子がいて結局会えませんでしたが、10歳のエミちゃんというらしいです
花陽「…………」
アイドルとして活動したなら、きっとすごい人気がでると思います
この世界にそういうものがあるのかはわからないけど、私は考えます
戦争なんてない、平和な世界であの子達が自由に……
スクールアイドルなんてあったら、きっとステキなグループになりそうです
ピピッ
――対象に対する新たな「悪意」を感知しました
スキル「無垢なる罪人」の効果領域を拡大します
花陽「っ!?」ビクッ ガバッ
用意された寝床で少しウトウトしていた時、ナビ妖精の声が室内に響きました
これは何度か発動していたスキルです
花陽「えっと……この場合は……」キョロキョロ
子供達と遊ぶのに夢中でスキルの確認をしなかったことを少し後悔します
だけどこれはきっと緊急事態なんだと思います
花陽「対象は私……私に対する悪意……迫っている……」
ガチャ タタタッ
ユリカ「ハナヨ様! 起きていらっしゃいますか!?」サッ
花陽「ユリカさん」
ユリカ「お休みのところ申し訳ありません、実は…」
花陽「あの人達が来たんですね?」
ユリカ「え、は、はい……おそらく……」
花陽「それ確実だと思います。危険を知らせるスキルが発動しました」
ユリカ「ホントですか!? ではスズの言っていたことが…」
正確な時間はわかりませんが、外はもう深夜だということです
みんなが寝静まった頃合いを狙ってわざわざ迫る悪意なんて、少なくありません
花陽「ここは入り口が隠されているんでしたっけ?」
ユリカ「それが……」
今までは隠れているという事がバレていなかったから誤魔化せていたのだそうです
だけどすでにスキルで隠れているというのはバレています
隠れている者がいるとわかって来ているという事は、それを見破る手段を用意している事
ユリカ「明日には場所を移そうと考えていたんですが、甘かったようです」
そうですよね。あの人達はあんなにわかりやすい捨て台詞を残していたのに意識が回らなかった
危機感はあっても戦略として考えられる余裕も頭も私にはありません
きっとユリカさん達にもこの状況は戒めとなるでしょう
花陽「なんて呑気な事言ってられないんですよね」
ユリカ「ホントに申し訳ありません」
花陽「ユリカさんが悪いなんてことはありませんよ」
この時、私はユリカさんと野盗との間に自身がとっくに介入している事を思い知ります
あの人達をどうにかして欲しいと呼ばれたのは私で、あの人達がここに来る目的に私も含まれているからです
もう無関係とかそういう意識はありませんが、私はもっと問題の中心にいると思います
花陽「あの、外にはどうやって出るんですか?」
ユリカ「ハナヨ様…!?」
花陽「私が行ってきます」
ユリカ「でもハナヨ様は……その……」
私に人を殺す事なんて出来ません。それは今でも同じです
だけど、守りたいと思う気持ちもあるのは本当です
花陽「大丈夫です。今日のところは帰ってもらうだけですから」
ユリカ「…………」
花陽「ユリカさんはみんなの事を守ってあげてください」
ユリカ「で、ではせめてこれをお持ちください!」チャキッ
花陽「え……」
ユリカさんが差し出してきたのは、私の世界にもあるようなナイフでした
私には到底扱うことなんて出来ない刃物。だけどこれにも使い道があるのはわかります
花陽「ありがとうございます」
昼間はハッタリで誤魔化しました
それでもまだ来るというのならちゃんと示さないといけません
スズ「あ、あのっ! ハナヨ様」
ユリカ「スズ?」
花陽「スズさん?」
スズ「わ、私も……一緒に……」
ユリカ「スズ、でもあなた……」
スズ「でもハナヨ様一人に押し付けて、ただ隠れているだけなんて……それに戦えるのは私だけだし…」カタカタ…
スズさんはその手に薪を割る時に使うような斧を持ってました
でもその体はここから見ていてもわかるくらいに震えています
無理もないと思いました
スズさんは一度あの人達に酷い目にあわされたんです。その相手がまたやってきた
いくら死なない体だとしても心の傷まではすぐには治りません
スズ「決して足手まといには…」
ユリカ「無理よスズ。今のあなたじゃお役には立てないわ」
スズ「で、でも私死なないんでしょ?」
ユリカ「死なないから役に立つなんて事はないわ。あいつらに利用されるだけ…むしろ死なないのをいいことにもっと酷い事もされるかもしれないのよ」
スズ「っ!」ビクッ
ユリカさんの言葉にスズさんは身を抱えて蹲る
あいつらが言っていた言葉を思い出し、私はある程度ですが想像します
ユリカ「私達は弱い。今はその事実を受け止めて、強くなりなさいスズ」
スズ「ぁぅ……姉さん……私…」グッ
ユリカ「そのためのチャンスをハナヨ様が作ってくださった。今は辛くても、耐えなさい!」
花陽「……………」
ユリカさんはホントにいいお姉ちゃんです
みんなご飯の時にはあんなに明るく笑顔を見せてくれていました
だけどその影にあるものを私はちゃんと受け止めたい。力になってあげたい
花陽「スズさん……」スッ
スズ「ハナヨ……様」
私にはユリカさんほどの暖かみも包容力もありませんが、この気持ちだけは伝えたくて、そっと抱きしめます
花陽「ここは私にまかせてください」ギュウ
スズ「ハナヨ様……」
花陽「そして、いつかきっと強くなって、みんなを守ってください」
スズ「ぅぅ……はい……かならず……」グッ
花陽「ふふ、では行ってきますね」スッ
ユリカ「ハナヨ様……」
うん。きっと大丈夫……上手くいく……きっと!
ユリカ「それではスキルで封鎖している地下室への入り口を一時的に解除します」
スズ「階段の傍にいますから、戻られるときはお声をかけてください」
花陽「わかりました」
ガチャ ギィィィ…
ちょと短いけど続くー
週末お出かけにつき次の更新は来週になります… -セト村
花陽「…………………」
この世界に来て何度か体感していたのに、私はまた足をとめてしまいます
ユリカさんの話してくれた事を私は平和ボケした頭で想像し、理解した気でいたのです
花陽「うっ…………ぅぅ…」グッ
野盗による襲撃。私は村中の食べ物とかそういったのを根こそぎ奪っていったとか、そういうイメージで考えていました
外から見えていた建物はほんとに村の外周にあって、被害が少なかったのだと思います
みんな殺された……とても酷い事をされたんだと思います
だけど、こんなの……あんまりです……
花陽「ハァ……ハァ……ぅ」ヨロッ
お家の地下室から外に出たと思ったけど、そこは家の中じゃありませんでした
辺り一面瓦礫の山。屋根もなにもない、家だったものが破壊されつくしていました
そして、残骸の先……道を挟んだ向かいの瓦礫から見えるのは、人の手足……
ユリカさん達は隠れ住んでいました。だから外の状況に手をつけることも出来ないまま
花陽「ハァ…うぅ…」
辺り一面に漂う強烈な異臭……
何もかもがそのまま。こんなの……耐えられそうにないです
花陽「とにかく、ここからは離れないと…」
野盗がすぐ近くまで来ています。スキルで隠してあるとはいえ、私がここにいると探られてしまうかもしれません
花陽「………え?」
ヒューーーーン…… ドガァァン!!
花陽「きゃあぁぁ!!」ビクッ
ば、爆発!? 私のすぐ横に何かが飛んできた……いえ、これはっ
花陽「こ、攻撃してきた?」
あの人達、もう村に入って来てるの? どうして私がここにいるって……
ドガァァン! ドゴォオォォン…!! ガァァァン!!
花陽「……………っ!?」ビクッ
ち、違う……これは……
ドガァァァン!! ヒュンッ
花陽「あっ!?」ビクッ
花陽「…………?」
爆風で飛ばされてきた瓦礫が私のほうに飛んできたけど……また…すり抜けた?
とにかく移動しながら確認を……
花陽「ほんとに、村全体を無差別に……」タタッ
ヒュンッ ドスッ
花陽「っ! きゃあぁぁぁ!!」
な、なにかが私めがけて……こ、これ……剣?
ゲームでよく見かける……武器……これ、私に……
花陽「は……ぁ……」ブルッ
瓦礫と同じように剣も私の体をすり抜けたおかげで無傷でした
だけど……全身を冷たい感覚が走り抜ける
私、今……殺されそうに……
「チッ、やはり何かの幻術の類か」
「あれがそうなのか?」ザッ
「あら、けっこう可愛い娘じゃない」スッ
花陽「あ……んんっ……くっ」キッ
崩れた瓦礫を押し退けるようにこちらに迫る人影……三人
この人達が……この村をっ…!
花陽「怖いけど……がんばらなきゃ……私が……」タッ ザッ
この人達に……伝えないと
「術士様は周囲を攻撃してくださいよ」スッ
「幻影にしては濃いな」
「持ち帰って可愛がってあげましょ」タッ
伝え………うぅ、やっぱりお帰り頂く方向で…
花陽「あ、あのっ……村からでていってくださいー……」
「あん?」
花陽「もうここには何もありません。来るだけ無駄ですっ」
「何もないことぁないだろ。隠れ潜んでる奴がいる」
「それに、少なくともアナタがいるわね?」
花陽「私達は明日にでもここを離れます。ここをどうにかしたいのならその後好きにしていいですから」
「お嬢ちゃんは、私達が誰だかわかっているの?」
花陽「え……えっと、クレスタリアの騎士団……だった人達ですよね?」
「そうだな」
花陽「戦争の事もあなた達の事情も私にはよくわかりません、だけど……」
「俺達の正体を知っているのなら、やはり生かしてはおけんな」チャキッ
花陽「えっ…!?」
「むしろ一番の不安材料がここにまだあるようだ」
「ああ、絶対に逃がさねえ」
「せっかく可愛がってあげようと思ったのに、残念ね〜」
花陽「……………」
……流れが悪くなった?
不安材料……この人達の目的って……
「囲め」スッ
「背後行きます」
「詠唱はじめるわ」
花陽「…………」スッ
敗残兵となって野盗まがいの事をしている元騎士団……だけじゃない?
「探知できない? どういう事?」
「構わねえ、撃て」
花陽「えっ…!?」
私の足元が赤く光って……何かの模様?
ヒュン ゴオォォォン!!
花陽「ぴょわあぁぁぁぁぁ!!!」
ば、ばば、爆発しましたっ! 足元がどかーーんて!!
もしかしてこれ、魔法とかファンタジー世界ならではのやつでしょうか!?
だけど、やっぱり私には何も感じなかった……というより、魔法の効果で発生した現象だけすり抜けた?
「………!?」ピクッ
花陽「びっくりしましたぁ……」ドキドキ
「な……無傷だなんて」
よし、きっと大丈夫…このまま作戦続行です!
とりあえず私の後ろから近づいてる人に…
タタタッ
花陽「あ、あのっ!」
「むうぅ、くっ」サッ シュッ
花陽「ごめんなさい、あたりません」スルッ
「くそっ」タッ
花陽「あ、待ってください」ギュッ
「うわっ、離しやがれ!!」グイ
本当なら男の人の力に私が勝る要素なんてありません
だけど私が握る手をこの人は振りほどけない。振り切る力をぶつける先がないからです
干渉されないという事は、こちらからの干渉に対して無抵抗だという事……で、いいんですよね?
「なんだこれ、腕が…あがらねえっ!」ググ…
花陽「帰ってくれないなら、聞きたい事があります」
ヒュンッ ゴオォォ…
花陽「っ!?」
「うおっ!」
突然背後からものすごい風が通り抜けます
でもこれも魔法によるものなんでしょうか、私には何の感触もありません
私が捕まえてる人は少し飛ばされそうになっていましたが、腕がそこに固定されているように動きません
一方的な干渉。なんだかすごいです
あとは私がちゃんとやれれば……
花陽「すいません、お話しがあるので待っていてもらえますかー?」
「なんなのあの子……」フルフル
「やっぱり幻術なんかじゃねぇ、実体がある……」
花陽「あなたも諦めて大人しくしていてください。手荒な真似はしたくありません」ギュッ
「ぐあっ…く…!」
花陽「あ、ごめんなさい。痛かったですか?」
特に筋力がついたわけではないのにこの反応……
逃げたり暴れたりできないのであればこれでいきます
花陽「ちょっとお話ししたいので、大人しくしていてくださいね」
「うぅ……くっ」コクッ
花陽「あの、あなた達もこっちに来てくれませんか」
「なんだ……?」
「…………わかったわ」
私個人としては何か危害を加えようという気はないのですが、見た状況は完全に人質をとっています
それにこの人達は悪い人達です。ユリカさん達にホントに酷い事をしました
花陽「最初に言っておきますけど、私自身はあなた達の敵じゃありません」
「はぁ、じゃあ離せよっ」ググ…
花陽「お話しがあるのは本当です。離したら逃げちゃうじゃないですか」
「逃げないわよ」
このローブを着込んだ人……女の人?
「お前、なにもんだ?」
花陽「何者と聞かれても、普通の学生です」
勇者とか言われてますけど、自分で名乗るのはやっぱり恥ずかしいです
「そんなわけ…っ!」ググ…
花陽「じっとしててくださいっ」ムギュッ
「ぐあっ、くそっ……」スッ
「ライ、じっとしていろ…」
私が取り押さえている騎士の人はライさんというようです
さっき私はこの人に殺されそうになりました
花陽「……………」
「普通の学生がこんなマネできるわけないでしょ」
花陽「あ、いえーその、それには事情がありまして…」
「どんなだよ」
花陽「私の事はいいんです。それよりっ…!」
ちゃんと話して、ちゃんと伝えなきゃ
花陽「この村や、近隣の村を襲った野盗はあなた達で間違いないですか?」
「…………ああ」
花陽「……………」ギュムー
「いででででっ!」
花陽「どうしてそんな酷い事をするんですか?」
「はぁ? なにが酷いってんだー?」
「私達を見殺しにしておいて、何を今さらっ!」
花陽「……?」
見殺し? どういうことでしょうか?
「お前はこの村の者なのか?」
花陽「あ、いえ…私は最近お世話になってるだけで……」
「余所者が邪魔してくれてんの!?」
花陽「よそもの……それはそうですけど……」
「北の連中が盟約を果たさず、俺達は戦場で孤立したんだ」
「援護も受けられず、敗戦が確定していても帰る場所すらなかったのよ…」
それって、先にあった他国との戦争の事でしょうか
北とはこの辺りの事?
「しかも王都の皇族は敗戦が濃厚になるとまっさきに逃げ出しやがった…」
「絶対に許さないわ」
花陽「えっと……話が違う方向へ行きそうなのでちょっと戻しますけど」
うっかり流されそうになりますが、そんな事を聞きたいのではありません
花陽「もうこの村には数人の子供達しか残ってません。あなた達のせいで」
問題の正当性なんて私にはわからないし、関係もありません
あの子達の親を殺し、普通の生活すらできなくさせた。私はこれがただただ許せません
花陽「事情はわかりませんが、子供達を巻き込まないでください。ひ、人を殺すなんて絶対ダメです」
「何も知らないくせに…っ!」
花陽「確かに私には詳しい事情はわかりません。だけど、ダメなものはわかります」
ユリカさんの涙が本物である以上、私はユリカさんの味方でありつづけると決めました
花陽「なので、こちらから一つ要求があります」
「要求?」
私がユリカさんにしてあげられる事……ユリカさんが望んだ事……
花陽「全員、髪の毛を数本づついただきます」
「髪の毛?」
「まさか、サーチに使うのか?」
「髪の毛だと、ダイレクトサーチか…?」
花陽「そうらしいです」
ユリカさんは野盗に対して復讐する事を心に決めています
最初は誰でもいいからこの人達に復讐できればいいと考えていましたが、今は違います
花陽「あなた達が奪ったものの代償は、かならず支払ってもらいますとのことです」
「ことです……って、誰だよ…」
花陽「あなた達が酷い事をした村の人達です。私はそのお手伝いをしています」
「復讐か……。だったら今連れて来いよ。ちゃんと相手してやるよ」
花陽「今はしません。あなた達のおかげでここはもう人が住める場所ではありませんから、移動するんです」
「そのための……サーチか」
花陽「これから先、あなた達は村の生き残った子達に狙われることになるんです」
ユリカさんは私の提案を、これから先の生きていくための目的と手段に使いました
この人達に直接復讐するために、進むべき道を決めたのです
花陽「あなた達がどこでなにしようがもう関係ありません。いつか必ず、彼女達はあなた達の前に現れます」
「はっ………」
「たいした執念ね」
花陽「だけどその前にあなた達がまた私達に危害を加えようというのなら、わ、私が相手になります」
「どうして余所者のお前がそんなに肩入れするんだ?」
花陽「……………」
どうしてと聞かれれば、それは私が元の世界に帰るために必要だから
……いえ、もうそれだけが理由じゃないのを自分でもよくわかっています
「ねえあなた……どうせなら私達の仲間にならない?」
花陽「え!?」ドキッ
黙っていたのが何か誤解を与えてしまったようです
私個人の事情があるのは確かですが、例えこの人達が私の問題を解決してくれる存在だとしても仲間になんて考えられません
それに私がこの世界に召喚される元々の原因はこの人達のせいなのです
花陽「個人的な恨みはありませんが、私はあなた達が……その、嫌いです。大嫌いなんです」
立場を明確にするために強めの口調で言います
こんな事を他人に言うのは初めてです。だけど、心には何の抵抗もありません
ホントに誰かを嫌うことがあるとどういう心境になるのか、初めて味わう経験です
「あっそ……。そんなすごいスキルを使えるのにあんなやつらに肩入れなんて…もったいないわね」
花陽「あなた達なんかよりずっといい子達ですっ」
「嫌われたもんだな」
花陽「それより、はやく髪の毛を置いて帰ってください」
「イヤだと言ったら?」
花陽「……え?」ドキッ
私が一人、人質として騎士の人を捕まえているのにどうしてこの人達は引かないんでしょう
……それより、私が考える話の流れでこの人達を諦めさせることができない
スキル「それ正解!」がさっきから全然発動してくれません
「俺を人質として交渉材料に考えてるんなら無駄だぜ」
「俺達はある目的のために組んではいるが、仲間のために…なんて考えはない」
「目的の邪魔になるなら当然、捨てるわよ」
花陽「……………」
花陽「じ、じゃあなんで話し合いに…その、応じてるんですか?」
「殺意もない、やる気がまずない相手が人質なんてとって有利に事が進むと思ってるのか?」
花陽「え……」
「お前たちの動向を探るためと、あとは……」
「私は今でもあなたを殺す方法をずっとためしてるわよ。なんか効果ないみたいだけど……」
花陽「…………」ドキッ
「優しいんだな、あんた」
「こんなに優しくて可愛くて……あぁ、ほんともったいないわぁ……」
花陽「な……う……」
どうしよう……私なんかの考えじゃこの人達の意志を変える事なんてできない
事の良し悪しは別として、この人達は本気です……命をかけている。それを曲げる事はないのかもしれません
だったら私に出来る事は……
「それにしてもホントどういうスキルなのかしら……別動隊にあなたのデータをずっと送って探らせているのだけど、解答がでないって」
花陽「別動隊……?」
「まさか夜襲をかけるのに、昼間の連中はおうちでお留守番なんて考えてたわけじゃないだろ?」
花陽「え………」
「突入部隊とは別に今もこの村の周囲で村から出ようとしているやつを監視しているし、隠れている奴らの探索もしている」
花陽「…っ!?」ビクッ
「んー可愛い反応♪ ホントにシロウトなのねぇ」
他にも仲間がいるのはわかっています。少なくとも昼間に出会った人達……だけどどうして今ここにいない事に思考がまわらなかったのでしょうか……
もしかして、この会話もただの時間稼ぎにされているだけなんじゃ……
花陽「……………」ドキドキ…
「あら、動揺しているわね。隠れているお仲間が心配?」
「俺なんかを捕まえたままで守れるのか?」
花陽「………ぅぅ」
私はユリカさん達を守りたい……なのにこの状況は何も変わらない
自分が干渉されないからってすべてが上手くいくなんて事にはならない……
花陽「ど、どうしても諦めてはくれないんですか……?」
「ええ、私達は例え死んでも諦めないわ」
信念が………覚悟が違いすぎます
なにもかもを平和ボケした頭で考えている私なんかの言葉じゃこの人達は変えられない
花陽「…………………」ゴクッ
だったら……もうこれしか……
ピピッ
――スキル「それ正解!」が発動しました
「なに!?」
「スキルだと!? なんだ……?」サッ
「…………聞いた事のないナビ妖精………」
発動……しました…………本当に、これしかないのでしょうか……
花陽「ハァ……ふぅ、ん……」スッ
「な、なにを……あ…」
ユリカさんから受け取ったナイフを取り出し、人に向けて構える
スキルがその道を示してくれました
私自身も覚悟を決め、かわらなければいけないと……
武器を手にし、戦う意思を明確にし、躊躇わない事……
花陽「わ、私……ほ……本気、ですよっ!」ググ…
「……………」
この人達には曖昧な態度は通じない。私が本気だとわかってもらわないと……
「…………」
「あらら、そっちにいっちゃったか」
「お前の負けだな」
花陽「え……?」
「諦めて仲間になって欲しかったんだけどねぇ〜……ん、仕方ない」
私が捕まえてる人にナイフを突きつけたら状況が変わりました
んー?
「ねえあなた。村にはもう子供しか残ってないって言ってたわね?」
花陽「へ? あ、ああ、はいっ」
「じゃあ、これ見てくれる?」スッ
花陽「これは、女の子の絵?」
ローブの人に一枚の絵を渡されました。小さいけど立派な額縁に入った女の子の絵
花陽「えっと……これが?」
「……………」
それは自身の髪が踝にまで伸びた小さな女の子
見た感想としては、ただ可愛らしい女の子だなって感想しかでません
服装がヒラヒラフリルのドレス姿で、まるでお姫様みたい
「ん、その反応はホントに知らないみたいね」
「どうすんだ?」
「ここが最有力だったんだろ?」
花陽「………?」
「いいわ。おとなしく帰ってあげる」
花陽「…………えっ!?」
「俺達の最重要目標はこの娘を殺すことだ」
「この村の連中も残らず消してやりたいところだけどな……」
「そのためにあなたみたいなわけわかんない存在に狙われるのはゴメンだわ〜」スッ
帰る……引いてくれる……?
花陽「あ、ありがとうござ……っ」
って、なんでお礼言おうとしてるんですか私……
この人達は許せない人……ちゃんとしなきゃ
花陽「待ってください。髪の毛置いていってください」グッ
「いてて、なんだよ帰るって言ってんのに」
花陽「理由はさっき説明しました。あなた達を許せない子達がいるんですっ!」
「そんなのイヤに決まってるでしょ」
「当然だ」
ヒュンッ ザシュッ
花陽「……………え?」
「っつ……っしょっと」タッ
「こっちは残さないようにっと」スッ シュウ…
ゴオォォ…
花陽「わっ」ビクッ
私が捕まえていた騎士の人の腕を、もう一人の騎士の人が手にした剣で切り落とした
ローブの人が私が持ったままの腕に突然魔法かなにかで火をつける
花陽「……………」
「じゃあねお嬢ちゃん。もしどこかで会ったらまた勧誘させてもらうわ」タッ
「作戦終了、撤収するぞ」タタッ
「俺らの正体知られてますけど、いいんすか?」スッ
「知られているならそういう対応するだけよっ」
花陽「……………」
―――
――
-ユリカさん家の地下、隠し部屋
ユリカ「ハナヨ様!」
スズ「ご無事で、ハナヨ様!」タッ
花陽「……………」
野盗の人達が帰った後、私は呆然としてその場で動けませんでした
ようやく状況を理解し、念のため周囲を警戒しつつユリカさん達の待つ地下室へと戻りました
ユリカ「お怪我はありませんか、ハナヨ様」
花陽「あ……はい。大丈夫です……」
スズ「………よかった」
ユリカさん達は私の無事に安堵し、喜んでくれています
きっとすべて上手くやったんだと思ってくれているのでしょう
だけど……結局私はなさけないままで、簡単にどうにかできるなんて考えていました
花陽「……………」
ユリカ「ハナヨ様?」
パイ「ハナヨ様〜」テテテ…
リホ「おかえり〜」トトト… ピトッ
花陽「え……ど、どうしたの?」
ユリカ「少し前に大きな爆発音が続きましたから、みんな飛び起きてしまって」
花陽「あ、そうですよね……」
アイナ「あいつら、おっぱらってくれたの?」
花陽「………うん」
ヨシノ「ありがとう…」ピトッ
花陽「………ふふ」
私は……この子達を守れたんでしょうか……
??「あの……ありがとうございます……」
花陽「え?」
ユリカ「あ、ハナヨ様にはまだご挨拶していなかったわね。エミちゃん、おいで」
エミ「ん……」トトッ
花陽「…っ!?」ドクンッ
食事の時、寝ていた女の子
最年少、10歳のエミちゃん
エミ「エミです。ハナヨ様、よろしくお願いします」ペコッ
花陽「あ……ぅ……」
それはとても可愛らしい、小さな女の子
アヤ「ハナヨ様、どうしたの?」
それは……見覚えのある女の子
花陽「……………」
エミ「?」
綺麗な髪が踝にまで伸びた、お姫様のようなドレスを着た……女の子
これ凄い長編なのでは…?
面白いからいいんだけど! -地下室 花陽ちゃんの寝室
ユリカ「そうですか……サーチの触媒は手に入りませんでしたか…」
花陽「はい…。ごめんなさい……」
ユリカ「そんな、謝らないでくださいっ」
花陽「でも、私にもっと覚悟があれば変わったんです。だけど……」
どうしても一歩踏み込めないでいた領域
この世界の人達と私……いえ、きっとこうと決めた事なら迷いなく動けたと思います
絵里ちゃんや穂乃果ちゃんみたいに真っ直ぐ突き進む勇気があれば……
ユリカ「ハナヨ様……」スッ ギュゥ…
花陽「え……」
ユリカ「ごめんなさい。辛い役目をおしつけてしまって」
気が付くと私はユリカさんに抱っこされていました
よく凛ちゃんや希ちゃんにこうしてぎゅっとされることがあって、その時のような心がフワっと軽くなる心地よさを思い出します
なんだか……疲れが一気に……
花陽「ん……ユリカ……さん……」
ユリカ「どうか今日はこのままお休みになってください」
花陽「あ…ふ………ん」ウトウト…
頬に感じる柔らかい感触に包み込まれる……体中から力が抜けていくよう……で……
花陽「…………スゥ…」
ユリカ「…………」ギュッ
ねぇ……凛ちゃん………私………帰ったら……
ユリカ「おやすみなさい、ハナヨ様」
-次の日 セト村
スズ「…………」キョロキョロ
花陽「ぅぅ……」
スズ「ハナヨ様、大丈夫そうです」
花陽「はい、じゃあ手分けして探しましょう」
スズ「私はあちらから見て回ります」スッ
花陽「周囲に誰かいる気配がしたらすぐに戻ってくださいね」
スズ「ええ、もう一人で先走るようなマネはしません」
昨晩の襲撃から明けて今日、ユリカさん達はセト村を出ます
行先としてあげたのは、東の国「ユーディクス」
ユリカさん達が自らの手で目的を果たすために選んだ道……魔導士になるための学校がある国だそうです
花陽「ふぅ……ぅぅ……」
今私とスズさんは長旅に必要なもの……わずかに残った物資がないか村を見て回っているところです
花陽「はぁ……」フラフラ…
旅立つ前にユリカさんが子供達にお話しをしています
今回の旅の理由……自分達の境遇、目的……為すべき事……
私を元の世界に帰すために、あの子達が選んでくれた方法のため
花陽「……………んー」ガラガラッ ガタッ
崩れた家屋にお邪魔して、少し原型を留めている箪笥を調べます
着替えや毛布は地下室にある程度ありましたが、旅をするという事はもっと必要になります
幸いなのは、もうじきあの子達は病気や怪我に対する心配はしなくて済むという事
私がみんなを「隣の観測者」で変化させるからです
そのために必要なこととして、私は朝食を食べていません……
花陽「どうして空腹時限定なんだろう……はぁ…」グルル…
残り22回使えるスキル「隣の観測者」……みんなに使うとして残り14回……
使うたびにご飯が食べられないのはなんとなくイヤなので、使えるうちに必要なものを考えてみます
花陽「旅に必要なもの……」ガサゴソ…
スズ「クルマ……ですか?」
花陽「そういう乗り物とか……なさそうですね……」
スズ「すいません、私の知る限りで移動に使うものといえば荷馬車くらいしかありません」
機械的なものがない文明みたいですし、私達が機械で行う事はこちらでは魔法やスキルになります
という事は、この場合は移動や荷物運びに使うスキル?
スズ「大きな町にはそういった物を扱うスキルも売っていると思いますが、今はないですね」
花陽「スキルって売ってるんですか?」
スズ「はい。生活用のものとかはだいたいは店で買う事で手に入るんです」
花陽「家電製品を買うようなものなのかな?」
スズ「カデン?」
花陽「ああいえ……。ということは必要なものとしてあげられるのは大きな荷車とか?」
スズ「長旅になりますが、野宿には慣れていますよっ」
花陽「んー……さすがに小さい子もいるし……」
花陽「何か使えるの、ないのかなぁ……」ヴォン
スズ「わっ」
花陽「あ、いきなりごめんなさい」
スズ「いえ、こちらこそ……はぁー……すごいですね」
全部私が習得しているというスキルボードを展開させたらスズさんが驚いています
なんだかみんな同じ反応するんですね
スズ「???になっているのはどういうスキルなんですか?」
花陽「それがよくわからなくて……」
「隣の観測者」が空腹時になると使えるようになったので、他のスキルも何か条件が必要なのかもしれません
頂点に「隣人花陽」……なぜか私の名前がついたスキルがあって、そこから下に2つに分かれて、その2つがさらに2つづつ分かれて4つに
その4つがそれぞれ2つに分かれて8つに……
私のスキルは全部で15あるようなのです
花陽「何か日常生活に使えそうなのないんですかねぇ……」
スズ「ハナヨ様のスキルって、聞いた事のないのばかりなんですね」
横で同じようにボードを眺めていたスズさんが物珍しそうに見ています
私が習得したから私の名前がついているのか、元々なのかもわからない変な名前のスキルばかりです
スズ「あ、これだけスキルカラーが青ですね……無垢乙女?」
花陽「これがそうなんですね…」
一度だけ発動した苺みたいなスキルですね。最下段にあるようです
読めない文字のせいでどれがどれだか理解できません
スズ「隣のは黒……リン、知ってるよ……?」
花陽「え?」
スズ「あ、このスキルの名前です。リン、知ってるよというスキルのようです」
花陽「凛ちゃん?」
スズ「?」
どうしてここで凛ちゃんの名前が……いえ、これが凛ちゃんのことなのかわかりませんが……
ちょっと気になったのでナビ妖精の解説を聞いて見ます
ピピッ
――「リン、知ってるよ」他種族、他国家間にある様々な言語を自動変換し、意思疎通を可能にする
スズ「へえ〜外国語とか覚えなくていいスキルなんですね。便利そうです」
花陽「ああ、このスキルのおかげで私、みんなとお話しできているんですね」
この世界に来た時からこのスキルは私が習得していたという事でしょうか?
無垢乙女もそうですが、仕組みがよくわかりません
同じように「無垢乙女」も確認してみます
ピピッ
――「無垢乙女」何も知らない、汚れのないピュア乙女
無垢で無欲で無害な乙女は誰からも愛され、誰からも疎まれる
スズ「よくわからないスキルですね」
花陽「たまにある抽象的なナビはなんですかね?」
スズ「ややこしい言い回しをするのはナビ妖精の気まぐれだとも言われてますけど……」
花陽「あ、前例があるんですね」
そもそもナビ妖精って、生物なのでしょうか?
理想としてパーっと移動できるスキルがあればいいけど、残念ながら今は確認できません
ゴールドクラスとか、すごいスキルらしいのに???のままなのか使えません…残念です
結局村から運び出せそうな物はあまりなく、着替えとして何枚かの衣服やタオルを確保できただけでした
スズ「ハナヨ様、そろそろ戻りましょう」
花陽「はーい」
ユリカさんが大事な話を終えて準備している頃です
スズ「お腹、大丈夫ですか?」
花陽「………え、あぁ」
最初に発動した時のようにお腹が淡い光を放っていました
碧色の優しい光……私はこの光に不思議と心が落ち着くのを感じます
最初の時に感じた痛みは今はない……でも、
花陽「お腹がすきました……」
スズ「もう少しの辛抱ですよ」
-回想
ガチャ バタン
パイ「おかえり〜」
ソラ「ユリ姉、スズ姉〜!!」ダッ
ユリカ「ただいま……んっ…しょ」ズズ…
スズ「ソラ、急いでベッドの用意と毛布を出してっ」ガタッ
花陽「……………」Zz…
ソラ「っ!? そ、その人…さっきの……」
ヨシノ「この人ーだぁれー?」
アイナ「まぁ可愛いっ」
ユリカ「みんな静かにして、ハナヨ様がおきてしまうわ」
リホ「エミちゃんみたいにどこかの村から来た人ー?」
エミ「わたしは知りませんが…」
パイ「てつだう〜」
アイナ「わお、おっぱいでっか」
ユリカ「アイナ、この方に変な事したら許しませんよ」ギロッ
アイナ「はいはい」
ソラ「……………」
アヤ「ソラ、どうしたの?」
スズ「姉さん、後は私にまかせて」
ユリカ「ハナヨ様をお願いね、スズ」
ヨシノ「あの人は?」
ユリカ「大丈夫、お休みしているだけよ」
アヤ「面倒事なの?」
ユリカ「その事も含めて話があるの。アイナ、みんなをキッチンに集めて」
アイナ「ん、わかった…」
ソラ「……ぅぅ………」
ヨシノ「どしたのー?」
ソラ「どうもしないっ……」プイッ
ユリカ「みんな座って。大事な話があります」
リホ「はーい」
ヨシノ「ん」
パイ「なにー?」
アイナ「あんた達、大人しくしなさい」
エミ「…………」
ソラ「………」ムスッ
アヤ「……?」
アイナ「それで、大事な話って?」
ユリカ「みんなとこれからのお話」
アヤ「これから?」
リホ「リホは早くお外で遊びたいよ〜」
ヨシノ「かくれんぼ飽きた〜」
ユリカ「そうだね。もうこんなところに隠れ続けるのも限界だよね」
エミ「出るのですか?」
ユリカ「出ましょう。みんなで」
パイ「わ〜い」
ユリカ「……ねえ、みんなは将来何になりたい?」
アイナ「突然だね」
リホ「ママみたいなまじゅつしになりたい!」
ヨシノ「まおう〜」
パイ「パパとおなじ魔法つかいっ!」
アヤ「……ソラ……ノ…ゴニョゴニョ…」
ソラ「……………」
ユリカ「ソラは?」
ソラ「急に言われても……わかんないよ」
ユリカ「そう……そうよね……」
アイナ「あなたは何かあるの?」
ユリカ「えっ!? わ、私は……」
アイナ「あったでしょ、夢」
ユリカ「私は………今はハナヨ様のために……」
アイナ「ハナヨ様?」
ユリカ「コイズミハナヨ様。私達を助けてくださる勇者様です!」
アヤ「さっき連れてきた人がそうなの?」
ユリカ「そうよ! さっきも勇者様のお力すごかったのよ!!」バッ
アイナ「あらら」
ユリカ「と、ちょっと話がそれちゃったけど……」
アイナ「あなたがね」
ユリカ「とにかく、私達はここを出て違う国へ行くの」
リホ「おひっこしするの?」
エミ「…………」
ユリカ「もうここで暮らしていくのは……ね」
アイナ「…………」
パイ「そうなのー?」
アイナ「行くあてはあるの?」
ユリカ「あて……というか、必要な事だって思える行先ならあるの」
ヨシノ「ゆーでぃくすー?」
ユリカ「そう。魔法の分野を専門的に扱う機関や学び舎があってね、そこへ行こうと思うの」
アイナ「行って、何するの?」
ユリカ「みんなで魔法を学ぶのよ」
ソラ「え、ボクも!?」
アヤ「えー……」
ユリカ「それにね、ここには学生寮もあって、勉強に集中できる環境なの」
エミ「…………」
パイ「おべんきょうばっかはいやー」
アイナ「寮か。でも現実問題どうにかしないといけないのは確かだよね」
ユリカ「このままここにいても、そのうち食べる物も無くなって、復興どころじゃなくなる…」
アヤ「だから……?」
ユリカ「この理不尽な状況に対する救いを与えてくださったハナヨ様のためにも、どうか……」
ソラ「…………」
ユリカ「どうかお願い。私が勝手に決めたことだけど、みんなでやらなきゃできないの……」
アイナ「…………」
アヤ「よくわかんないけど……あなたが言うなら、いいわよ」
リホ「うん、リホもいいよ」
パイ「おねえちゃんが嬉しいなら、ぱいも」
ヨシノ「魔法をならって、まおうになる」
アイナ「……ま、魔法とかわたしに覚えられるかはわかんないけど、いいよ」
ユリカ「…………ありがとう」
リホ「でも、おとうさんたちが帰ってくるのはまってたいな」
ヨシノ「うい」
パイ「お仕事まだおわらないのかなー」
アヤ「…………」
アイナ「……ユリカ、まだ話は?」
ユリカ「できるわけ………ないじゃない……」
ソラ「……………」
エミ「ユーディクス……東の国ですね」
ユリカ「エミちゃんはいいの?」
エミ「はい。トト村に戻っても私一人じゃ生きていけませんし、お世話になった恩義もありますから」
ユリカ「恩義だなんて、困ったときはみんなで助け合うものよ」
エミ「………そうですね」
ユリカ「……?」
アヤ「ソラ、さっきからどうしたの、黙っちゃって」
ソラ「なんでもない……」
―――
――
-セト村
花陽「…………」
ユリカ「…………」
スズ「ほら、リホ………」
リホ「イヤっ!! 行きたくない!! パパはぜったい帰ってくるもん!!」バタバタッ
パイ「……グスッ…………リホ……」ギュゥ
ヨシノ「ぅぇぇぇぇ…っ!」
地下室でユリカさんが村の状況をゆっくりと子供達に話しました
自分達を助けるために、大人のみんなが守ってくれた事……もう、帰ってこない事
これからはみんなが助け合って生きていかなきゃいけない
ユリカ「ごめんね、黙ってて……でも……でもねっ!」グイ
リホ「っえぅっ…?」
ユリカ「しっかりしなさい!! お父さんの子でしょ!!」
パイ「………ズビ…グスッ」
ヨシノ「………っ」
ユリカ「私は村を襲った連中を……みんなを殺した連中を絶対に許さないわ」
リホ「ぅぅ……おねえちゃ……っ」
ユリカ「あなた達は泣いたままでいるの? 悔しいままでいいの? 逃げるだけでいいの?」
パイ「! ……」ブンブン
ヨシノ「ヤダ……」
ユリカ「だったら顔をあげなさい。私達はそのために東の国へ行くの!」
リホ「……………ぅぇ………」
少し強引で、一方的にも見えます
だけど彼女達がここで立ち止まっている時間がないのも理解できるから、何も言えません
前を向いて歩いていくためにも、今は強く引っぱっていく人が必要です
リホ「…………わかったょ……ズズッ」
パイ「……………」コクッ
ヨシノ「行くの……」
ユリカ「ありがとう……みんなで助け合っていきましょう」
本当に強いお姉ちゃんです
みんながみんな血の繋がりがあるわけじゃないらしいですけど、もうそんなの関係ありません
この9人はお互いが大切な家族です
花陽「9人……」
なんとなく頭によぎるその言葉に不思議な安堵感がありました
大丈夫だって思える根拠なんてありませんが、それでも言葉にすることで何かがかわる予感がします
花陽「この9人なら、きっと大丈夫……」
……と、気持ちを鼓舞していざ出発!とは簡単にいかないのが現実なのです
ユリカ「これも……スズ、こっち持てる?」ゴソッ
スズ「んしょ…ふう、なんとか……」ズシ…
アイナ「嵩張ってしょうがないね」ガチャガチャ…
アヤ「でも必要なものにはかわりないよ」
リホ「ソラ兄がんばれ〜」
ソラ「んぐぐ……これくらい…っ!」グググ…
エミ「さすがに多すぎじゃ……」
ヨシノ「ソラ兄ならだいじょうぶ〜」
パイ「ぱいもお手伝いするー」
花陽「……はは」
目的地となる東の国「ユーディクス」までの移動手段は、ずばり徒歩です
それも1日かけて歩けば着くような距離じゃありません。当然数日は野宿が続きます
その際に必要な簡素なキャンプ道具。道中必要な食材を確保するための狩り道具や採取道具
調理に使うお鍋やお皿。毛布、着替え、その他もろもろ全部を持ち運びしないといけません
私も荷物持ちを手伝おうとしたのですが、
ユリカ「ハナヨ様のお手を煩わせるようなことは……っ!」
スズ「私達で運べますから、大丈夫です!」
と、さらっと断られてしまい、手ぶらです
だけどソラくんもがんばってるのにそれを横目に何も持たないのは、立場がどうとか以前に気が重くなります
花陽「なので、自分のためにも必要と感じるので用意します」
ユリカ「な、なるほど……ご配慮感謝します」
-セト村周辺 東の野道
リホ「なになに、ハナヨさま〜何するの?」ヒョコッ
花陽「んーとね、みんなが楽に旅ができるように必要なものを作るんだよ」キュンッ
ヨシノ「おー」
パイ「馬車を作るのー?」
可愛い女の子達に囲まれて草むらの上にシートを敷いてのお昼ご飯タイムです
私は朝から水しか飲んでいないのでお昼はちゃんといただきたいと思います
なので、ここはしっかりと考えなくてはいけません
リホ「みんなが乗れるおっきい馬車がいいなー」
花陽「リホちゃんは馬車が好きなの〜?」ニコニコ
リホ「うん」
形状は馬車が濃厚……といってもこれだけの人数と荷物を運ぶには相当大きな馬車が必要になります
それに馬車という事は、それを引く馬も必要です。それも1頭じゃ無理でしょう
花陽「大きい馬車か……」カサッ
リホ「お絵かきするの?」
花陽「そうだよ。イメージしたものができるから、細かいところもしっかりしておかないとね」ニコニコ
パイ「ぱいもかくー」
花陽「うん、みんなで書こう」ニコニコ
ヨシノ「んっ」シャキン
大変な状況なのにそれらを忘れてしまいそうなほど楽しい時間です
凛ちゃんにそっくりなリホちゃんを見ていると昔を思い出してほっこりします
そういえば凛ちゃんとにこちゃんがアニメの事で話していた内容が……
にこ『いつも思うんだけど、馬車の中にこんだけいて、大変そうね』
凛『荷物もあるのにね』
にこ『盾やスマホだと馬車の中にも収納とかあったりするわよね』
凛『床下収納や、二階建てっていうのもあるよねー。乗ってみたい』
花陽「……………」サラサラ…
リホ「ハナヨさま、お絵かき上手〜」
花陽「ふふ、ありがとう」
よくアイドルのステージ衣装を妄想しては色々書いていたのが役に立ちました
小物とか細部にまで拘るよりも、大まかな骨組み、形状をより明確にして……
パイ「リボンつけよっ」カキカキ…
ヨシノ「羽も」シュバッ
リホ「あはは、変なの〜」
花陽(馬車というより、花籠のようなものになってる……)
ユリカ「みんな、お昼ご飯の用意できたわよ」
リホ「は〜い」
パイ「ハナヨさま、ごはんですっ」
花陽「あ、私は後でいただくから、みんなで先に食べてね」
ヨシノ「食べないのー?」
リホ「一緒に食べようよー」グイグイ
ああもう、可愛い……
ユリカ「これ、ハナヨ様のお仕事の邪魔しないの」
リホ「おしごとちゅー?」
花陽「そんなに時間かからないし、気にしないでみんな先にどうぞ〜」
パイ「ふに、じゃまはしたくないの…」トテテ…
みんなと少し離れた場所でさっそく出来上がったイメージ画を構築してみます
構造の基礎は馬車……だけど丈夫なのがいいので、枠組みを映画にでてくる鉄の戦車のような……
車輪も同様に…本体が大きくなるので1つ1つを大きく……
花陽「んー……」
大人数だから横幅よりも縦に広げて、二階部分も同様のスペースを……
花陽「あ……」ピタッ
よくよく考えると、これ大きいキャンピングカーですね。お家と車がくっついたやつ
ベースはそっちのほうがイメージしやすいかな……でもそのまま車を作っても燃料も免許もないし動かせない…
花陽「ということは、前面を馬車のような馬が引く形で……」
……できました!
花陽「っと、このへんにリボンと羽を……よし……」
花陽「それではやってみましょう……このイメージ画を元に……」スゥ…
これが上手くいけば他にも使い道ができそうです
花陽「すいません、隣の者ですが……「私がイメージする馬車」はありませんか?」
シュウゥゥゥゥ…… ピカァァン
花陽「わっ」
手にした画用紙が輝きだしたかと思うと、光になって浮かびあがる
光はゆっくりと回転しながらその大きさをどんどん変化させていきます
花陽「……って、え、え!?」
大きくなっていきます……光が……何かを形作って……
花陽「………………」
馬車が完成しました……形は私のほぼイメージ通り……だけど……
花陽「お、大きい……」
大きいです……とても……え、というかこれ……
ユリカ「ハナヨ様!」タタッ
スズ「今の光は……って、これは…」
アイナ「わあ、すっごい!」
アヤ「え、なにこれ?」
花陽「ええっと……馬車……なんですけど……」
リホ「わあすごーい、お家だ〜」
パイ「どこから持ってきたの〜?」
ソラ「すげー……」
みんなが驚いています
私も驚いています……
確かに馬車……のようなものは完成しました
しかしその大きさたるや……ほとんど一軒家です、お家です
ヨシノ「あ、羽がついてるっ」
エミ「すごい……」
花陽「あれーー?」
イメージ通りの形状にはなりましたが、なぜかイメージよりも3,4倍大きくなってしまいました
もう馬車というより車輪がついた動く家です。キャンピングカーと言えなくもないですが…
ユリカ「ハナヨ様、これは一体……」
花陽「みんなで移動するのにあったら便利だろうなっていう考えで出来た馬車です」
ユリカ「馬車……ですか……馬車……?」
スズ「おっきい鉄の箱に見えないことも……これどこから乗るんですか?」
花陽「横にあるドアからです」
リホ「すごーい! ハナヨさま、乗っていい?」
花陽「いいよー。変な構造になってないといいけど…」
パイ「のる〜!」タタタ…
ヨシノ「羽〜〜」タタタッ
ユリカ「これ、まだご飯の途中なのに…もうっ」
花陽「ふふ、まあいいじゃないですか」
正直私も内装を見てみたいとは思います
ソラ「…………」ソワソワ…
アヤ「ソラも行ってくれば?」
ソラ「っ……んんー…」ジ…
花陽「ん?」
ソラ「………」
花陽「ソラくんも、見てきていいよ」
ソラ「ぅ………ん」コクッ タタタ…
なんだか初めてコミュニケーションがとれた気がします
ユリカ「……………」ソワソワ…
花陽「……………」
可愛い人だなぁ……
花陽「ユリカさんもどうぞ遠慮せず」
ユリカ「あ、ああ、あの子達があちこち壊さないか見てきますねっ」ピクッ
花陽「まぁ、少し大きいけど成功かな?」
スズ「はぁ……すごいですけど、こんなのを引く馬なんているんですか?」
花陽「あ………」ピタッ
そうでした。ここまで大きいと馬も1,2頭ではとても足りません
予定としては馬車にスキル1回、馬に1回と考えていたのでこれはミスりました
スズ「ちなみに私は無理そうです」
花陽「いや、さすがに人力は考慮してないです……」
んー……馬、何頭くらい必要なんだろう?
スキルの残り使用回数で足りるかなぁ……
ガチャッ バタン
リホ「すごーい、外にでれるよー!」
ユリカ「屋上があるんですね。あぁ、洗濯物をここで干したりできるかな?」
パイ「おひるねできるね」
花陽「あぁ、喜んでくれてる……」
スズ「車輪はついていますし、なんとか引けないですかねぇ」
花陽「とにかく1頭、用意してみます」
馬……馬車馬……この場合私の知ってる馬でいいのかな?
えっと、この落ちてる石ころでいいかな
花陽「すいません、隣の者ですが……「立派な馬車馬」はありませんか?」
ピカッ シュウウウゥゥ…
スズ「おおっ…光が……変わっていく……」
花陽「立派な馬ならなんとか……」
「ブルルルっ……」ザッ
花陽「わぁ、おっきい」
スズ「立派な馬ですね、ハナヨ様」
花陽「はい、これならいけるかも……っ!」グッ
ピピッ
――スキル「アルパカマスター」が発動しました
花陽「ん?」
スズ「スキル!? ハナヨ様のですか?」
花陽「あ、たぶん……えっ?」
シュウゥゥゥゥゥ…… ギュイーン
花陽「あれ、お馬さんが光って……」
スズ「ま、また何か変化するんですか?」
花陽「し、知らないですっ…どういう事……!?」
…ゥゥゥゥゥン キラキラキラ…
スズ「こ、これは…っ!」
花陽「あ、ああ……これって……」
「ヴェェッ…」ザッ
花陽「お馬さんが‥‥…アルパカになっちゃったーー!!」
隣人の要求がご飯どころじゃない…
チート感ゴリゴリで好きよ 見てるよー
にこちゃんが盾とかスマホとか言っててなんか笑ってしまう スズ「ハナヨ様……この生き物はいったい…?」
花陽「あ、アルパカさんはこの世界にはいないんですね…えっと……」
「ヴェェッ」
花陽「えっと……モフモフで、フワフワの愛らしい動物です」
スズ「馬が変化したように見えましたが、もしかして馬車を引くことに長けた動物なのですか?」
花陽「んー……正直馬と比べると……そもそもラクダ科の草食動物だから馬車を引くなんてことは…」
「フェー…」サワサワ
スズ「ハナヨ様に懐いていますね。可愛い…」
花陽「はわ、この感触ひさしぶりです……んっ?」スゥゥゥ…
あれ、またこの感覚……頭に何かイメージが流れ込んできます
もしかしてさっき発動したスキルと関係あるのでしょうか?
花陽「……………」
きっかけはわかりませんが、スキル「アルパカマスター」が発動したことで別のスキルも解放されたようです
頭に流れてきたイメージはアルパカさんのステータスを調整、設定できるスキル
花陽「アルパカクリエイト……」スッ
スズ「ん?」
花陽「どうやらこのアルパカさんに馬車を引いてもらえそうです」
スズ「え、1頭でですか?」
花陽「はい。ちょっとやってみます…」
「フェェェ…」
イメージとして流れ込んできたのは、スキルボードと同じように展開させる感覚……
ヴォンッ
――「アルパカクリエイト」
・アルパカマスタリー
・能力向上
・言語設定
・交配設定
・戦闘技能設定
花陽「色々あるなぁ……言語?」ピツ
・言語設定 -現地標準語 -マスター同期 -オート設定
スズ「なんだか見た事のない記号……文字ですか、これ?」
花陽「え……あ、そういえば日本語だ。私に合わせてくれてるのかな?」
スズ「ハナヨ様の国で使われている文字でしたか。複雑そうですね……」
花陽「見慣れないと漢字とかややこしそうですもんね。えっと…」
言語って、アルパカが話す……なんてことになるのかな?
まさかね……えっと、オートにしてみよう
ピッ
花陽「……………」ジー
「あら、話せるようになったわ。ありがとう」
花陽「ぴゃあっ!?」ビクッ
スズ「し、しゃべった!?」
「そんなに驚かないでよー。あなたが設定してくれたのよ?」
花陽「は、はぁ……」
もう些細な事じゃ驚かないなんて思っていてもさすがに驚きます
アルパカの飼育係だった時も、確かにお話しできたら楽しいな〜なんて考えていましたけど
「よろしくね花陽ちゃん」
花陽「私の名前、知ってるんですね」
「そりゃーね、私を生み出してくれたお母さんだもの」
花陽「おか……ぁぅ……」
スズ「さすがハナヨ様です。こんな愛らしい動物を創造なされるなんて…」
「んふ、ありがとっ」キュピンッ
花陽「それで、あなたは……えっと……名前はなんていうの?」
「名前はまだないわ。花陽ちゃんがつけてくれない?」
花陽「わ、私ですか……んー」
「可愛い名前お願いね」
花陽「そ、そんなプレッシャーかけないでください……」
リホ「わー、なにこの子〜!」タタッ
パイ「おっきいの〜」
ヨシノ「うま……じゃないの、なにー?」
スズ「ハナヨ様が創造されたのよ」
花陽「創造というよりも、なんか勝手にできたというか……」
「まぁ、可愛い子達ね〜。よろしくね」
リホ「おー、しゃべるー!」
ヨシノ「フワフワだ〜」モフモフ
パイ「わ〜い、ふっかふか〜♪」ボフン
「うふふ」
子供達がもう気に入ったのか、アルパカさんの背中に飛び乗ってはしゃいでいます
そうだ、どうせなら……
花陽「ねえみんな、この子にステキなお名前をつけてくれませんか?」
「あら、花陽ちゃんたら〜」
リホ「お名前?」
パイ「つけるー」
ヨシノ「まおう!」
リホ「それはないよヨシノちゃん」
ヨシノ「っ!?」
パイ「あなたはおとこのこ? おんなのこ?」
「私は女の子よー」
パイ「じゃあねぇ、すっごくフワフワだから、すわわ!」
スズ「略すところがおかしいわよ」
リホ「フワフワならそのまま、フワでいいんじゃない?」
パイ「それもまぁアリね」
ヨシノ「……まおう」
「ふふ、可愛い名前ね」
リホ「じゃああなたのお名前はフワ!」
フワ「ありがとう。気に入ったわ」
アルパカさんもとい、フワちゃんが旅の仲間に加わりましたっ!
花陽「えっと、これでいけそう?」ピッ
・能力向上 -STR 999 ↑
フワ「わぁ、すっごい力が湧き上がってくるわ! これなら馬車を引くのなんてお安い御用よ!」
カチャカチャ
アイナ「フワさん、手綱はこんな感じでいい?」
フワ「ん、ちょっと緩いかも。もう少し強めに取り付けてくれてもいいわよぉ」
アイナ「わかった。苦しかったら言ってね」
フワ「ありがと、アイナちゃん」
みんなにフワちゃんを紹介し、この大きな家のごとき馬車を引いてもらう準備をします
なぜかその口調、雰囲気から大人の女性を連想させるのか、一部からはフワさんと呼ばれています
ユリカ「ハナヨ様、フワさんとは会話ができますから馭者は必要ありませんか?」
花陽「あー……そうですね。いちおう形状として席はありますが」
フワ「それならただ引いて歩くだけじゃ退屈しちゃうから、誰かお話し相手になって欲しいかな」
花陽「それなら大丈夫そうですね」
ユリカ「みんな荷物はちゃんと積み込んだわね?」
スズ「大丈夫です」
アヤ「全部積み込めるなんていいわねー」
ソラ「楽になった」
エミ「……………」
アイナ「エミちゃんどうしたの? 忘れ物?」
エミ「いえ、ただちょっと……すごいなって思って……」
アイナ「ハナヨ様?」
エミ「はい……。あれが勇者様のお力なのですね」
アイナ「わたしは勇者がどういうものかいまいちピンとこないけど、すごいなってのはわかるよ」
エミ「………あの力があれば」ボソッ
アイナ「ん、なに?」
エミ「なんでもありません。さ、行きましょう」
花陽「ユリカさん、旅をするのに今必要なものは他に何かありますか?」
ユリカ「そうですね……食料問題はもう少しするとでてきそうです。いまのところは大丈夫ですが」
花陽「取り敢えず今すぐというのはないんですね?」
ユリカ「はい。ハナヨ様のおかげで移動の問題も改善されましたから…」
花陽「じゃあ、もういいですね……」ゴクッ
ユリカ「……?」
花陽「お腹すきました〜ご飯ください〜!」
ユリカ「あああ、す、すぐにご用意します〜!!」
こうして私達の旅は馬車と馬……あらためアルパカのフワちゃんを手に入れ、快適に進むのでした
>>233
加減を一切知らないかよちん好きwww
この馬車狭い道だと木々をなぎ倒しながら進むよな イメージを形にするというのは本当によくわからない部分が多々あります
アヤ「おお、すごい便利です……」ジーン
花陽「………どうして?」
馬車もとい動く大きな家……1階にはダイニングキッチンがあり、トレイもお風呂もあります
一番驚くべきことは、私のイメージがそのまま直結してできているということです
アヤ「このガスコンロ……というのは無限に火がでるのですか!?」
花陽「でてますねー……ほんとにどうして?」
アヤ「とにかく、これはお料理するのにもとても助かります!」
花陽「それは楽しみです」
イメージはしました。だけど連想するものが馬車=キャンピングカー=大きな家となり、設備も完備
しかしその構造は私自身にはよくわかっていないものばかりです
なのにしっかりと機能しているのはなぜ?
-馬車外 馭者席
花陽「それが私のイメージ……ですか?」
フワ「そうなるかしらね。花陽ちゃんが思い描くものを作り出したとして、どこまでイメージしてる?」
花陽「えっと……キャンピングカーとかは、車と家がくっついた便利な乗り物で、家だったら台所やトイレもあって…」
フワ「そこね」
花陽「え…どこですか?」
フワ「家にあるものとして、水で流せる水洗トイレやお風呂、ガスで火が付くガスコンロ」
花陽「それは、まぁ……」
フワ「でも頭でイメージする時って、ガス管を通してガスをコンロ台で着火して火を起こす、なんて考えないでしょ?」
花陽「そう……ですね。お風呂やトイレも、あったらあったで、水を使うのは当然ですし…」
フワ「要はその部分を一纏めにして形にしたから今のような事になってるんじゃないかしら?」
フワちゃんが言うとことはつまり、
私がイメージしたお家が、ガスコンロは火がつくもの、お風呂なども水がでて当たり前の物としたからだと
つくづくデタラメなスキルだなと思います「隣の観測者」
花陽「それにしてもフワちゃんは物知りですね」
フワ「ふふ、だてに長く生きてないわよ」
私もフワさんと呼ぼうかな?
ソラ「いいって、風呂くらい一人で入れるよっ!」ジタバタ
アヤ「そう言っていつも頭洗わないでしょ、ダメよー」グイ
リホ「いいお湯でした!」シュタッ
パイ「しゃわー? きもちいー」ホカホカ
ヨシノ「おふろ……好き」ポワポワ
ユリカ「気持ちいいわねー。こんなものがあるなんて、ハナヨ様に感謝です」
花陽「………………」
アイナ「このスイセントイレってすごいわね、不思議な空間に水で流すなんて」
スズ「どこへ流れているのでしょうか?」
ほんとにどこへ繋がってるんですかね。お風呂もそうですが……
これもきっとイメージとして、私が知らないから……どこかに流れていくというイメージの形ですよね
リホ「フワちゃ〜ん、あそぼ〜」
フワ「んー、そうねぇ。ユリカちゃーん」
ユリカ「あ、はいっなんでしょうか?」サッ
フワ「今日はもう陽も落ちるし、移動はここくらいでいいかしら? 私夜道って苦手なのよ」
ユリカ「そうですね。それでは今日はこのへんで野宿……はしなくていいんですね」
フワ「ちょっとその辺の草でも食べてくるから、手綱はずしてくれる?」
ユリカ「わかりました。今日はありがとうございました」カチャッ
フワ「お安い御用よ。花陽ちゃんのおかげで力仕事は余裕だし」
ユリカ「さすがハナヨ様ですっ」
フワ「リホちゃん、ちょっとお散歩に行く?」
リホ「行く〜」ボフッ
花陽「……………」
フワちゃんのコミュ力、すごいです……
-夜 馬車内二階
二階部分は部屋がいくつかありましたが、その一つにだけ大きなベッドが置いてありました
ユリカさん達にはこれが珍しいのか、その寝心地を堪能しています
さすがに9人全員は寝れないので日替わりにするそうです
当然のようにユリカさんはベッドには私をと言ってくれましたが、私は慣れているので後回しにしてもらいました
ユリカ「スー…グゥー……」
リホ「ふにゅ……」Zz…
パイ「しゅぴー…しゅぴー…」
ヨシノ「………………フニッ」
エミ「…………スゥ……スゥ…」
花陽「みんな可愛い寝顔」クスッ
-夜 馬車屋上
ブンッ ブンッ
花陽「あれ、スズさん…?」
スズ「ハナヨ様、眠れないのですか?」ブンッ
花陽「ん、ちょっとね……」
ホントはみんながすごく早寝で一人でどうしたものかと考えていたのですが
花陽「スズさんは……素振りですか?」
スズ「はいっ! 今はなにより強くなりたいので」ブンッ
スズさんは村から持ってきた丈夫な木の棒を木刀のように扱っています
本当ならもっと強い武器もあったのだそうですが、野盗の襲撃の際奪われてしまったそうです
スズ「ハナヨ様は剣術などはなさりませんか?」ブンッ
花陽「へ?」
スズ「こちらに来られる前は学生だとお聞きしましたが、ハナヨ様ならきっとお強くなられますよ」ブブンッ
花陽「いやいや、それは無理ですよ。剣なんて重くてとても持てませんし……」
スズ「鍛錬をすればすぐですよっ!」ブンッ
花陽「はは……考えておきます」
あまりそういう自分は想像できません
毎日スクールアイドルの練習で基礎体力はあるほうだと思いますけど、筋力はまた別です
花陽「あ……そういえば練習してないな……」
こちらの世界に来てもう3日。むこうだと私はどういう扱いになってるのかな…
やっぱり行方不明やもしかしたら誘拐なんて騒ぎになってるのかな
凛ちゃん……みんな……心配してるかな……
花陽「…………」スゥ…
花陽「だって、可能性感じたんだーそうだ、ススメーェ♪」
スズ「!」ピクッ
花陽「後悔したくないっ目の前に、ボクらの、道がある〜♪」
スズ「……………」
花陽「ん……ちゃんと歌いたいな、やっぱり……」スッ
スズ「……………」
花陽「………ん?」
スズ「………」
花陽「あ、ごめんなさい突然」
スズ「い、いえ……」
花陽「えへへ、むこうでよく歌ってたんですけど、ちょっと思い出してちゃって///」テレテレッ
スズ「ハナヨ様は祈祷師でもあるのですか?」
花陽「え? キトウ……?」
スズ「今のって、礼唱とは……違うものですか?」
花陽「さっきのはスクールアイドルをしていた時に歌ってた曲です」
と、普通に答えてしまいましたがこのやり取りは噛み合いません
異世界文化の違いとか、そういうものをもう少し考慮しなくちゃ……
案の定スズさんがよくわからなかった顔をしていらっしゃいます
花陽「ようは普通の歌です。こっちの世界には歌とかはどういうのがあるんですか?」
スズ「…………ウタ?」
花陽「歌………音楽です……けど……」
スズ「音楽というと、祈祷師が祈りのさいに用いる礼唄と、呪術に使われる呪唱とか、そういうものではないですか?」
花陽「はぁ……歌というものがそもそもない?」
スズ「すいません、もしかしたらあるのかも知れませんが、なにぶん世情に疎くて……」
花陽「ああいえ……」
私もこの世界の事なんてほとんど知りません
だけどもし、アイドルが歌うような歌や曲がないのだとすると、少しだけ寂しく感じます
スズ「あ、でも……すごくさっきのは……なんというか……」
花陽「え?」
スズ「心地いいというか、綺麗で耳から感じる……気持ちいい感覚というか…んん、上手く表現できないのですが…」
花陽「……」
スズ「その、すごく好きな感覚だと思いました」
花陽「…っ!」ドキン
花陽「あ、ありがとうございます。さっきのはススメ→トゥモロウという曲でね、ライブでも人気の曲なのっ!」
スズ「は、はぁ……ライブ?」
花陽「ライブっていうのはね、ステージにお客さんを集めてアイドルが歌やダンスを披露してみんなで楽しむもので…」
スズ「ハ、ハナヨ様……?」
花陽「他にもステージ衣装や振付をアレンジしたりして毎回工夫を……っ!」ハッ
スズ「……………?」
花陽「………ごめんなさい、いきなりじゃ意味がわかりませんよね……」
スズ「いえ……言葉としてはよくわかりませんでしたけど、一つだけはわかりました」
花陽「えっ?」
スズ「ハナヨ様の楽しそうに話されるのを初めて見ました。本当にお好きなんですね」
花陽「はいっ! いいですよアイドル! みんな可愛くてキラキラしてて、やる気元気勇気全部もらえます!」
-次の日
ユリカ「おはようございます、ハナヨ様……あら?」
花陽「ああ……おはようございます……」フラフラ…
ユリカ「ど、どうかされましたか!? なにやらお疲れのようですが……」オロオロ…
花陽「いえご心配なく…ちょっとした自己嫌悪ですから…」
ユリカ「……?」
結局よくわかってないままのスズさんに私のテンションは下がることはありませんでした
途中からもうよくわからないまま、あれもこれも伝えなきゃって必死になって……
ユリカ「ホントに大丈夫ですか?」
花陽「……はい」
気がつくとスズさんが半分寝落ちしていて我にかえりました
夜の修練の邪魔をしただけでなく、無理につきあわせてしまい申し訳なく思います
花陽「……………」
でも、今でもどうして自分があんなテンションになってしまったのかという理由ならよくわかります
私が何気なく口ずさんだ歌を……違う世界の歌を、スズさんは好きだと言ってくれました
アイドルの……私達スクールアイドルの歌が異世界の人に聴いてもらえたという事実が、嬉しかったのです
花陽「もしかしたら、アイドルも見てもらえる……」
感性として通じるものがあるなら、この世界でもアイドルはみんなに元気を与えられる存在になるかもしれない
ガタンッ ゴトゴトゴト…
花陽「っと、もう出発?」
あれこれ考えていたら馬車が動き出しました
-馬車外 馭者席
花陽「フワちゃん、おはようございます」
フワ「おはよう花陽ちゃん」ガタゴト…
リホ「おはよ〜ハナヨさま!」
花陽「リホちゃん、おはよう」
馬車を引くフワちゃんの背中にリホちゃんがちょこんと乗っかってます
可愛い……やっぱりみんなアイドルになったらすごいグループになりそうです
彼女達のステージを見てみたい……私は素直にそう感じました
フワ「あら、遠くに見えるのは町かしら?」
リホ「ホントだ、姉ちゃ〜〜〜ん、町だよー!」サッ タタッ
花陽「町……?」
周囲どこを見わたしても平原が続く中、それは見えてきました
それと同時に目に入ってくるものに、私は本能で叫んでいました
花陽「あ、あああああ〜〜〜〜!!!」
>>239
この辺は異世界モノで毎回気になったるわ 本日はにこ誕SS一気投下で力尽きたのでお休み…
また明日から >>256
にこ誕のも面白かった
こっちも楽しみに待ってる フワ「ちょっと急に叫ばないで、どうしたの?」
花陽「ごめんなさい、でもあれっ!」ビシッ
フワ「んー?」
進む道の先に少し大きめな町並みが見えてきました
いえ、問題は町がどうこうではありません、その周囲にあるものです
私がそれを見間違う事はありません……黄金色に輝く……
花陽「麦畑………」ゴクリ
ユリカ「あ、ほんとだ。トロスタンですね」
花陽「麦……米………ご飯………」ドキドキ
ユリカ「ハナヨ様、あそこは丁度国境沿いにある町でトロスタンといいます」
花陽「あの……この世界って、お米はあるんですか?」
ユリカ「米……白米ですか? ありますよ」
――ありますよ ――ありますよ ――ありますよ〜……
ああ……セト村の状況から食材になんて気を回す余裕なんてありませんでした
だけど……だけどすぐそこに至高の食材、お米があるのです!
ユリカ「わりと一般的なものですが、セト村では奪われたり燃えてしまったりと、残ってはいませんでしたが」
花陽「な、燃えて……むぅ、なんということ……」ギリギリ
ユリカ「ハナヨ様はお米がお好きなのですか?」
花陽「はいっ、大好きです!」
ユリカ「そ、そうでしたか……すいません、ご用意できなくて」
花陽「あっ、いえいえそんな、みなさんの事情は理解してますので」
でもあるんだったらそのうち食べてみたいと思います。異世界のお米!
ユリカ「……………」
花陽「いい麦ですねーこの辺り一帯は畑がずっと広がってるんですね。土の性質はどんなだろ?」
ユリカ「ハナヨ様、あの町で少し不足している食材の買い出しに行くのですが、よければお米も買ってきましょうか?」
花陽「えぇっ!? ほ、ほんとですか!!」パァ
ユリカ「どのみち保存食等買う予定でしたし、馬車のおかげで荷物が増えても問題なくなりましたので…」
花陽「あう、こんな事を言うのはあれですが、ぜひお願いしますっ」
ユリカ「ハナヨ様が遠慮なんてなさらないでください。私達はみなハナヨ様のためならどんな事でもやる覚悟です!」
花陽「それはちょっと……重いです……」
ユリカさんの場合は本気でそう考えてそうなんで、少し対応に困ります
私はユリカさんに頼りきりの立場なので、経緯はともかく女王様待遇はちょっと身に余ります
ユリカ「アイナ、アヤ、ちょっと来てー」
アイナ「ん?」
買い出しとしてユリカさん、アイナさん、アヤさんが町へ向かうようです
さすがにこんな大きな馬車もどきが町に入るには問題がおこりそうなのでと、私達は外で待機
てっきり子供達も町へ行きたいと言い出すかなと思いましたが、みんなお留守番することになりました
スズ「調味料もあればお願い」
アヤ「オッケー。あと今晩は米を炊くかもしれないから、土鍋を用意しておいてって」
スズ「わかりました」
ご飯を土鍋で……これは雑炊のような調理方法かな?
なんにせよ楽しみですっ
ユリカ「………………」
アイナ「どうしたの?」
ユリカ「えっ……ああ、なんでもないわ。行きましょう」
アヤ「安売りしてるといいなー」
ユリカさん達が買い出しに出かけ、子供達はフワちゃんと外で遊んでいます
スズさんとソラくんは屋上で剣の稽古、エミちゃんは二階で本を読んでお勉強中?
花陽「……………」
エミちゃんの事はユリカさんにだけ話ました
トト村からの避難民で、トト村唯一の生き残り
理由は不明ですが敗残兵の野盗集団が狙っている可能性がある……
詳しい事情はわかりませんが表だって歩くのは危険だそうです
花陽(どこか不思議な雰囲気があるんですよねぇエミちゃん)
ミステリアスな美少女………いいですねっ!
と、そういうワケで私は一人お茶を飲んで暇を潰しています
花陽「いまのうちにまた何か調べてみようかな……」
一人の時間がある時にスキルボードを開いて他のスキルに関するものが何かないか調べています
相変わらず???のままで不明なスキルが15個中、7個も残っているのが気になります
そういえば新たに発動したスキル「アルパカマスター」について衝撃の事実が判明しました
ピピッ
――自身が管理する動物、ペットをすべてアルパカに変化させる
変化時、アルパカの年齢、性別はランダムで決定される
なんとも恐ろしいスキルでした
あの馬も私のペットとして認識し、アルパカに変化したのです!
このスキルがある限り、私は他のペットを飼う事ができそうにありません
アルパカはまぁ可愛いですけどっ
花陽「……………」ヴォンッ
それと、説明が抽象的じゃないけど端的すぎてよくわからないのが、
花陽「………………ムム」
発動しません。スキル「それ正解!」
なんどか発動して助けてくれたスキルですが、仕組みがよくわかりません
ピピッ
――望む未来を予見する。そこに至るまでに絡む要因が1つ増えるたびに視える範囲が縮小される
一度「隣の観測者」のスキルを使って「私を元の世界に帰せる存在」というのを作れば帰れるか考えてみました
結果「それ正解!」は発動せず、何かしらの問題で失敗することがわかりました
理屈はわからないけどそれが失敗するのかがわかるというのはとても便利だと思います
けど、やっぱりよくわかりません
-夕方
アイナ「ただいま〜」ゴソッ ガサガサ
アヤ「ふえー疲れたぁ……」ドサッ ドサッ
フワ「おかえりなさい。あらけっこうな大荷物ね」
アイナ「ユリカが米も買うって言うからねぇ……」
アヤ「重かったー……」グデ
フワ「あらら、荷物運びにでも手伝いにいけばよかったかしら?」
花陽(お米っ!)
スズ「おかえりなさい。あれ、姉さんは?」
アイナ「なんか用事があるから先に帰ってってさー」
アヤ「あと、晩御飯の準備……ご飯炊いといてって」
スズ「町で用事……なんだろ?」
花陽「」ウズウズ…
ソラ「?」
アヤ「さて、荷物運びはアイナやっといてね。私ご飯の準備するから」
アイナ「えー…疲れたよぅ……ソラ、頼んだ」バタッ
ソラ「え、一人で!?」
花陽「手伝いますよっ!」
アヤ「え……いえ、ハナヨ様に手伝わせたなんてユリカ姉が知ったら……」
花陽「そんなの気にしないでください。おいしいご飯のためですっ!」グッ
ソラ「………よいっしょ……」ガサッ
花陽「こっちは持って行くね、ソラくん」ガサッ
ソラ「……………はい」ササッ
アイナ「………………」
フワ「難しい年ごろよねぇー」
花陽「え?」
アイナ「ごめんねーハナヨ様。ソラは父親のことが特に大好きだったもんでさ」
花陽「お父さん……あ…」
ユリカさんとスズさん、ソラくんは血のつながった姉弟だそうです
という事はソラくんのお父さんは大召喚を行使して……
花陽「そうですか……」
私がここにいる理由を知っているという事は、私の存在がそのままお父さんの結末を意味しています
割り切るのはそう簡単じゃないですよね……
アイナ「そういや子供達は?」
花陽「みんな昼間あちこち走り回って、今は寝てます」
フワ「ちょっと遊び過ぎたかしら」
アイナ「はは、元気でなによりだよ。しばらく外に出られなかったからね、嬉しいんだよ」
花陽「エミちゃんはずっと二階で本を読んでたけど」
アイナ「あの子は妙に大人びたところがあるよねぇ」
フワ「一番小さいのに、子供達の中じゃ一番大人かもしれないわね」
花陽「それはちょっとわかるかも……」
アイナ「てか、喉かわいたー……ハナヨ様、お水頂戴〜」
花陽「あ、はーい。今持ってきますね」
-夜
リホちゃんら子供達も起きてきて、みんなで晩御飯です
ついに念願のご飯が食べられるのですっ!
しかし異世界のお米に期待する気持ちとは別に心配な事もありました
アイナ「ユリカまだ戻らないのー?」
スズ「位置は少しだけ動いてるけど、まだ町にいるみたい……」
アヤ「用事ってなんなのかなー」
リホ「ふいーお腹すいたぁ……」
パイ「あ、白いご飯だ〜」
ヨシノ「お米♪」
花陽「ヨシノちゃんもお米好きなのー?」
ヨシノ「んっ///」コクッ
さすが、白米は異世界共通で愛されるものなのですね!
エミ「あら、今の時期にお米なんて。けっこうしたんじゃないですか?」
花陽「……えっ?」
アヤ「ユリカ姉が今日は奮発して買うんだっていいだしたのよ」
アイナ「まぁでもおいしそうだしいいじゃん」
花陽「お、お米って高いんですか?」
エミ「お米は流通時期が年間通して安定するものではないのです」
花陽「そ、そうなんだ……」
エミ「今は収穫の頃合いなので、価格が落ち着くのはもう少し先になります」
リホ「エミちゃんむずかしー言葉知ってるねー」
パイ「かしこい!」
花陽「……………」
これ、どうみても私のためにユリカさんが買ってくれたって事ですよね…そんな……
スズ「でも、お金の管理をしている姉さんが判断したんだから、きっと大丈夫なんでしょう」
アイナ「まぁそうだね」
アヤ「とにかく冷めないうちに食べよう。ユリカ姉も先に食べてっていってたから」
スズ「そうですね。ハナヨ様、いただきましょう」
花陽「ん……あ、はいっ」
もしも金銭的に無理してくれたのだとしたら、ちゃんと感謝してお返しをしましょう
でもいまは……ごめんなさい、我慢できませんっ
花陽「いただきま〜〜すっ!」クワッ
パクッ モグモグ……
花陽「モムモム………っ!?」ギラン
こ、これは……すごくおいしいです!!
キラキラ…… カッ!
リホ「わっ」
アヤ「ハ、ハナヨ様!?」
花陽「えっ?」キラキラ…
アイナ「ど、どうしたの? なんか光ってますけど……?」
花陽「光って……わっ!」ビクッ
言われて気が付きました。私の体、光ってます……全身が碧色に……!?
ピピッ
――スキル「GOHAN屋通い」が発動しました
花陽「ほえ?」キラキラ…
突然発動したスキル……このスキルの効果はすぐに体で理解しました
パイ「ハナヨさま、それなーにー?」
花陽「はは……どうやら私、お米を食べるとパワーアップするみたいです」
エミ「………そんな安易な」
おいしいお米を口にした瞬間、体中に感じる力……すごいです!
今ならこのままでも悪い人と戦えそう……そんな自信が不思議と湧き上がってきます
スズ「すごいですね、ハナヨ様」
花陽「はいっ!……でも!」
花陽「今はご飯をおいしく頂く事に集中します」パクパク…
アイナ「すごい、光りながら食べてる」
パイ「あはは、まぶしい〜」
ヨシノ「ゆうしゃ、カッコいい…」
エミ「……………」
ソラ「…………スゲー」
まさかお米を食べると発動するスキルだなんて、考えてもいませんでした
だけどお米でパワーアップというのは、なんだか私らしくて単純です
リホ「もしかして違うもの食べたら色かわるー?」
花陽「ん、どうだろうね。でも綺麗な色だよね、この光」キラキラ…
アヤ「夜道とか便利そうですね」
おもわぬ形で新しいスキルが判明しましたが、気にせずみんなでお食事です
花陽「この炒め物もおいしいですね」キラキラ…
アヤ「季節野菜です。おいしいですよー」
アイナ「全部食べないでね、ユリカの分も残しておいて」
花陽「はっ……ご飯全部食べてしまいそうでした」キラキラ…
リホ「お米好きなのー?」
花陽「はい、お米は大好物ですっ!」キラキラ…
エミ「それが勇者の……資質…?」
花陽「いえ、どうでしょうか……?」キラキラ…
パイ「ごちそーさまっ」
アイナ「食べたらお風呂はいるんだぞー」
リホ「はーい」
スズ「……………」
花陽「はぁ、至福のひと時でした……」キラキラ…
スズ「ハナヨ様」
花陽「はーい、なんですかぁ?」キラキラ…
スズ「申し訳ありませんが、フワさんを少しお借りします」スッ
花陽「フワちゃん? 借りるって…でかけるんですか?」
スズ「姉さんが町をでたみたいなんですが、様子がおかしいんです」
花陽「えっ?」キラキラ…
スズ「急ぎ迎えに行きたいので、どうかフワさんを…」
花陽「フワちゃんがいいなら構わないけど、ユリカさんどうかしたの?」
スズ「移動速度が遅い……というよりも、フラついてる?」バッ
花陽「…………っ」ゴクッ
ガチャ バンッ
スズ「フワさん、よろしいですか?」
フワ「あら、どうしたの?」
フワ「え、ユリカちゃんが?」
スズ「はい。迎えに行きたいのでフワさんの脚をお借りしたいのですが」
フワ「お安い御用よ、背中に乗って!」スッ
ユリカさんとスズさんはお互いの位置がわかるスキルを持っています
そのスズさんがこう言うのだからユリカさんに何かあったのは間違いない?
花陽「ま、待ってください」ドクン
スズ「ハナヨ様はみんなの事を…」
ごめんなさい、今はユリカさんが心配です
花陽「私も行きますっ!」キラキラ…
スズ「……………」
フワ「二人でも全然大丈夫よっ」
花陽「行きますっ!」バッ
フワ「どうしてそんなに光ってるの?」
花陽「元気いっぱいってことです!」キラキラ…
スズ「…………わかりました、行きましょう」
花陽「はい!」キラキラ…
フワ「じゃあ飛ばすから誘導おねがいねっ!」ダッ
ユリカさん……どうか無事でいてください!
-トロスタンの町周辺の街道
ドドドドド……
花陽「わわわわ、は、速い〜〜!!」キラキラ…
フワ「振り落とされないようにしっかり掴まっててねっ!」ドドドドドド…
スズ「大丈夫です! 気にせず全速力でお願いします!」
フワ「オッケ〜!」ググッ
シュバババババババババ……
黄金に輝く麦畑を横目にアルパカが疾走する光景……すごいものがあります
私自身が光っているせいか、傍から見れば碧に輝くアルパカが夜の闇を切り裂くように駆け抜けています
スズ「止まった? フワさん、その先の道を右にお願いします」
フワ「わかったわ!」
少し先に町の光も見える。ユリカさんは町をでてそんなに離れていないようです
-トロスタンの町 麦畑
ユリカさんは町からでてすぐのとこ、畑の側溝に蹲るようにして座っていました
スズ「姉さーーーーーんっ!!」バッ スタッ
ユリカ「…………え?」
スズ「姉さん大丈夫? 何があったの?」グッ
ユリカ「スズ……どうして……?」
フワ「よかった、無事みたいね」
花陽「怪我は治ると思いますけど……ユリカさーん」シュゥ…
ユリカ「ハ、ハナヨ様!?」サッ
花陽「大丈夫ですか?」
スズ「姉さん、何かあったの?」
ユリカ「何もないわ……ちょっと疲れただけだから……」ズリ…
花陽「ん………?」
座り込むユリカさんに手を伸ばそうとしたところ、ユリカさんが私から離れるようにして後ずさる
これは……一体……?
って、あれ…体の感覚が変わった……スキルの効果が切れたのかな?
フワ「とにかくまずはお家に帰りましょ。ユリカちゃん、背中に乗って」
ユリカ「わざわざ来ていただいて…申し訳ありません……」
フワ「何言ってるの、家族のためならどこへでも飛んでいくわよ」
花陽「そうですよ、ユリカさん……」
ユリカ「…………はい」サッ
声をかけたら顔を背けられました
スズ「立てる?」グッ
ユリカ「ええ……ふぅ……」
スズさんの手を借りて立ち上がるユリカさん。その服装があちこち痛んでいるのがわかりました
ブラウスの袖、スカートの一部裾、細かいものも含めるとたくさんあります
スズ「姉さん………」
ユリカ「………平気。はやく帰りましょう」
フワ「……………」
花陽「…………」
あきらかに何かあったと思うけど、今はそれを話している時じゃないのはわかります
でも、ユリカさんのこの様子はどうしたのでしょうか?
「いたぞーーー!!」
「まてー!!」
花陽「へ?」
スズ「え、なに?」
ユリカ「!?」ビクッ
フワ「町のほうから誰か来るわ」
突然の大きな声に振り向くと、数人の馬に乗った人達がこちらにやってきます
それぞれ手には松明のようなものを掲げています
トロスタンの町の人かな?
「間違いありません、その女です!」
ユリカ「あ………っ!」グッ
花陽「ん?」
馬でやってきた一人がユリカさんを指さして言いました
ユリカさんを探しているのでしょうか?
「間違いないんだな?」
「はい」
「よし、そこの女…こっちへ来い!」
スズ「姉さん?」
フワ「…………」
ユリカ「…………な、なんでしょうか?」スッ
花陽「ユリカさん?」
どうも穏やかではありません
「お前がこの男から金を強奪したと、通報があったが、間違いないか?」
ユリカ「え!? そ、そんな事してません!」
スズ「いきなり何を…!」
「お前たちはこの女の仲間か?」
スズ「家族よ!」
ユリカ「スズ……やめ……」
ユリカさんが強盗!? そんな事するはずがありません!!
「こいつらもグルかもしれませんっ」
「ふむ……調べる必要があるな」
花陽「ユリカさんが強盗だなんて、ありえません! 何かの間違いです!」
ユリカ「ハナヨ様、ダメですっ!」
スズ「そうだ、いい加減な事を言うな!」キッ
「ふん、いくら言ってもこちらには証拠があるのだ!」サッ
スズ「何をっ……!?」
パアァッ
ユリカ「えっ…!?」ビクッ
ユリカさんの事を強盗だと言った人が何か手をかざした瞬間、ユリカさんの腰のあたりが赤く輝きました
それはユリカさんが腰から提げていた革袋でした
「俺は職業柄、自分の金がどこにあるか判別できるようにしているんだ。そこで光っているのが間違いなく俺の金だ!」
ユリカ「……ぁ……ぅ……」
え……どういう事ですか? ユリカさん……
「間違いないようだな……女を拘束しろ!」サッ
ユリカ「ま、待ってください、私は本当に強盗なんて……」
「ではその金はどうした? 説明できるか?」
ユリカ「そ……それは………」
スズ「姉さん……?」
フワ「……………」
ユリカさんが別の男の人に抑えられる……なに、これ……
ユリカさんが……連れて行かれちゃう?
フワ「スズちゃん、私が飛び込むからそのすきに……」スッ
スズ「フワさん………わかりました」
これはきっと何かの間違いです。ユリカさんが強盗なんてするはずがありません
でも誤解を解く前に連れていかれそう……もしかして警察のような組織の人達なのでしょうか
花陽「そうだ……私なら……」サッ
ユリカさん達以外には触れられない私がなんとか助け出して、改めて弁明を……
フワ「花陽ちゃん? やめなさっ……!」
花陽「離してください!」タッ
「なんだお前、邪魔をするのか!?」グイッ
ユリカ「ハナヨ様!? ダメです!」
花陽「大丈夫です、私が今……」グッ
「こいつらみんな仲間だ、全員捕らえろ!」ガッ
花陽「………え?」
ガシッ ダンッ!
花陽「きゃあっ!」ドン
「おとなしくしろ!」グッ
え……どうして? ユリカさん達以外、私に触れられないはずじゃ……?
ユリカ「待ってください、その人は関係ありません!」
「我々の邪魔をする時点でそれは聞けんな。残りも捕らえろっ!」
「はっ!」
ユリカ「あ、あなた……最初から私を騙してっ!!」ギリッ
「何のことだい? まさか強盗よりも罪が重い事でもしてたのかい?」ニヤッ
ユリカ「くっ……ううぅっ!!」
花陽「ユリカ……さん…」
腕を捻られ、頭を地面に抑えつけられ……私は身動きが取れないまま、見ていることしかできませんでした
「お前も暴れるんじゃない!」ガッ
スズ「くっ…ぁぅ……」ググ…
「なんだこれ……馬、か?」
フワ「……………」ス… ダッ!
「あ、逃げたぞ!」
「馬なんかほっとけ」
スズ「……………」
ユリカ「…………っ」
花陽「………ぅぅ」
「よし、全員連行しろ」
「まだ若いのに盗賊まがいなことなんて……これも戦争の影響かね」
気が付くと私達は包囲されていました
一体…何がおこっているのでしょう……
まさか、スキル「屈強な男達10000000000000人に輪姦される花陽」が!? -トロスタンの町 牢屋
ガチャ ギイィィ…
「ほら、入れ!」グイ
花陽「ぁぅ…」
ユリカ「乱暴にしないでください!」
スズ「姉さん、堪えて……」
「明日、本格的に罪状を明らかにするからな、それまで大人しくしてろよ」ガチャ
花陽「…………くっ…ぅぅ」
スズ「ハナヨ様、大丈夫ですか?」
花陽「はい……なんとか……ぅ」
警察っぽい人達に連れられ、私達は町の牢屋に放り込まれました
両手を後ろ手に縛られているのが少し辛いです
スズ「どうにか抜け出せないかな……」キョロキョロ
花陽「上のほうに小窓があるけど……小さすぎるし無理ですね」
ユリカ「……………」
スズ「くっ、この手錠、スキルを封印する術式が施されてる……」
花陽「さっき他の人に触られたのはそのせいなのかな?」
ユリカ「…………」
はぁ……このままここにいても明日よくわからない罪をきせられて逮捕されちゃうのかな
この世界にもちゃんと警察というか自警団というか、犯罪を取り締まる組織はあったんですね…
凛ちゃん……私異世界で犯罪者になっちゃうよぅ……
ユリカ「あ……あの………」
花陽「ユリカさん?」
スズ「姉さん、どうしたの?」
ユリカ「……………」
牢屋に入れられてから隅っこで座り込んでいるユリカさん
何かいいたそうにスズさんを見ているけど……なんだろう、私のほうはあまり見てくれません……
なんでしょうかこの心に圧し掛かる苦しい感覚……
スズ「姉さんどこか痛むの?」
ユリカ「…………」フルフル
何か伝えたいけど、言い出せない……そんな様子が見て取れます
もしかして……私がいるから?
花陽「あ、あの……私すみっこにいるので……お話しなら……」スッ
ユリカ「ち、違うんですハナヨ様……私が悪いんです……でも、それでハナヨ様に…嫌われたく……なくて…」
スズ「姉さんが強盗なんてマネができないのはよく知ってる。だけどさっきのはどういう事?」
私が嫌う? それはきっとありません
ユリカさんが何を考えているのかはわかりませんが、そんな心配はしなくていいというのを言わないと
コツコツコツ… ガタッ
スズ「誰かきますっ」サッ
花陽「え……」
ユリカ「………」
「よう……」ヌッ
ユリカ「っ!?」
スズ「お前はさっきの……!」
現れたのはユリカさんにお金を盗られたと言っていた男の人
30すぎくらいでしょうか? 目つきが鋭くて、私なんかは睨まれると萎縮してしまいます
その人がどうしてか牢屋の外にいます
お金は取り返したのに、まだ何かあるのでしょうか……
ユリカ「なにしにきたの!」ギロ…
花陽「…………」ドキッ
いつか見た、本気で怒っている時のユリカさん……
その迫力を横で感じて体がピリつきます
ユリカさんの態度を微塵も気にする事なく、男の人はこちらに近づいてくる
「手荒なマネしてすまなかったな」
ユリカ「最初からこうするつもりだったんでしょ……」
「そう怒るなよ。騙すつもりなんてなかったさ」
ユリカ「だったら……」
「おまえが欲しくなったんだよ……ユリカ」
ユリカ「っ!?」ビクッ
スズ「こいつ、なにを……」
花陽「え、え?」
「ユリカ……それが本当の名前なんだろ? いい名前じゃないか」
ユリカ「…………うるさいっ」
な、なんだか予想もしなかった言葉が……どういうこと?
スズ「姉さん……こいつ何をいってるの?」
ユリカ「し、知りませんっ……私は……」
「へぇ、そっちの子は妹さんか。よく似ているな」
スズ「っ……なに……」
「でもその様子じゃ、姉さんが何をしていたか知らないみたいだな」
ユリカ「や、やめて……」
花陽「…………」
「安心しな。姉さんが強盗をしたっていうのは嘘だから」
スズ「!? だったらなんであんな事を……」
ユリカさんのことをじっと見つめる男の人……口元は笑ってるけど、目が怖い……
人を外見で判断しちゃいけないっていうのは分かってます……けど……
「どうしてもユリカを手に入れたくてね、急ぎ人を動かす理由が欲しかったんだよ」
スズ「それで強盗だなんて……酷い……」
花陽「じ、じゃあユリカさんは無罪なんですね?」
それならこんなところに入れられる理由がありません
即時解放を要求です!
「残念だが、強盗のほうがマシなんだよなーユリカ?」
ユリカ「………………」
花陽「え……どういうことですか?」
スズ「…………はっ!?」
スズ「姉さん……さっきのお金……」ザッ
ユリカ「………………」
花陽「………ん?」
スズ「まさか……嘘でしょう!?」
ユリカ「…………」
男の人が言った言葉によって、スズさんに何か思い当たることがあるようです
なるべく私の視界に入らないようにしていたユリカさんが今度はスズさんから顔を背ける……
「くく……」
スズ「身売り………したの?」
ユリカ「……………」
花陽「身売り? って…なんですか?」
スズ「…………」
ユリカ「…………」
その言葉に、スズさんもユリカさんも俯いてしまいます
連想できるものはありました。でもそれがユリカさんと繋がりません
だって…ユリカさんがそんな事をするなんて……考えられない
「この町じゃ、婚姻前の女が体を売るのを何よりの重罪として扱うんだよお嬢ちゃん」
花陽「………体を……?」
ユリカ「や、やめて! 言わなくても…わかって……」
スズ「ホントなんだ……」
言葉の意味は、私の知ってる範囲だと……売春?
ユリカさんが……この人と……そんな
「規律としてはあるが、実際はほとんどが暗黙の了解としてるがな」
花陽「……………」
「ちょいと裏道にはいりゃ、金と男を漁る女はゴロゴロいるんだぜ」
男の人が嬉々として語る内容に、誰も口を挟まない……
下を向いて黙り込むユリカさんの様子が、それらすべてを真実だと告げているようです
どうして?……頭の中はもうそればかりがグルグルしている
「この町は独立した自治権を持ってはいるが、先の戦争の影響でね、村を焼け出された難民が行き場を求めでやってくる」
花陽「難民……あっ」
セト村やトト村以外にも、戦争によって直接被害を受けた地域もきっとたくさんあるのだと思います
この国は戦争に敗北し、王都が陥落したと聞きます
私には難民がもたらす実質的な問題はわかりません。でも、きっとこれもその一つ……
花陽「取り締まれない……ってことですか?」
「体を売る女がいれば、それを買うためにやってくる奴もいる。皮肉なもんだがこの町は条例違反が経済を支える一部になってんのさ」
「おかげで女には困らないが、どいつもこいつも似たようなのばっかりでな、飽きてきたところだった」
スズ「最低!何が困らないですか! 女性をモノとして扱うなんて!!」
「わかってねぇなお嬢ちゃん。モノとして扱われるほうが女はありがたいんだよ」
スズ「そんなわけっ……」
「金を稼ぐための仕事。そう割り切ってやらなきゃすぐにまいっちまうぜ。それとも同情と憐れみもつけて欲しいのか?」
スズ「わかるもんか……そんな事情……」
「………だが、お前は違った、ユリカ」
ユリカ「…………」
花陽「…………」グッ
国の事情、生きるための方法……正直私にはその正否はわかりません
だけどこの人がユリカさんの名前を口にするのはとても嫌です。嫌な気分になります……
「どういう事情かは知らないが、お前は他の女どもとは違う雰囲気があった……売りも初めてだったんだろ?」
ユリカ「……………」
「お前には何か野望のために覚悟を決めた強い意志を感じた。強い女だ」
花陽「…………」イライラ…
「それに顔もいい。体も上等だ。喘ぐ表情なんて最高だったぜ」
とても嫌な気分……心が重い……苦しい……
「何か目的があるなら力になる。だからユリカ、俺の女になれ」
ユリカ「……………」
その名前を口にしないで……ユリカさんは……ユリカさんは……
ユリカ「断れば、私をつきだすという事ですか?」
「いくら暗黙と言っても体裁は保たないといけないからな。見せしめと牽制でもある」
スズ「なんだそれ……卑怯者っ」
「ユリカを手に入れるためだ。ま、一晩考えることだ。明日またくる」スッ
スズ「姉さんがお前みたいなやつなんか相手にするもんか!!」ガシャンッ
男の人が一言残して立ち去る
明日……私達はそれまでここに……このまま……
ユリカ「…………ぅぅっ」
スズ「くそっ……なんだアイツ……」
この気持ちをどうすればいいのでしょうか……んん!
花陽「………ぅぅぅぅ」イライラ…
ユリカ「…………っ」
スズ「朝までにどうにかしてここを抜け出さないと……ハナヨ様」
花陽「…………」イライラ…
スズ「ハナヨ様っ!」
花陽「っは、はい!」ビクッ
スズ「…えっと、どうにかしてここを抜け出す方法とか、ありませんか?」
花陽「ごめんなさい、私にはどうにも……手も動かせませんし……」
スズ「そうですか……んー」
花陽「あ、でもフワちゃんが何かすると思います」
スズ「フワさん……そうか、無事に逃げられたフワさんが行動を起こしてくれれば!」
ドサッ!
スズ「!?」
花陽「な、なに?」
突然の物音にドキっとしました。それは牢屋の中央に落ちてきた袋でした
ユリカ「この袋、アイナのです」
スズ「どこから……あ、小窓?」
花陽「あそこから投げ入れたってことかな?」
スズ「フワさんが来てくれたんでしょうか?」
投げ込まれた袋にはなんともありがたいものが入っていました
この後起こるであろう町の騒ぎと、それに乗じて逃げる作戦を知らせるメモ
そして……
スズ「あ、袋の中の紙包みにおにぎりが…」
花陽「なんですとっ!」バッ
スズ「って、ごめんなさい。食べ物だとは思わなくて足の指で包みを開けちゃって…」
花陽「そんなのは些細な事です」
ユリカ「おにぎり……」
花陽「ユリカさんが買ってくれたお米を炊いたやつですよ。おいしかったです」
ユリカ「そうですか……それはよかった……」ニコ
花陽「……………」ズキ…
ああ……わかりました……この心に重く圧し掛かる感情……
花陽「おにぎりは3つ…1人1個かな」
スズ「私はさっき食べたので大丈夫です。ハナヨ様のスキルに使ってください」
ユリカ「スキル?」
花陽「お恥ずかしながら、ようやく私もお役に立てる時がきたようです」
スズ「ハナヨ様はお米を食べるとパワーアップするのです!」
ユリカ「まぁ」
若干なんでおにぎり? って顔をしているユリカさんは少し落ち着いたように見えます
3つのおにぎりの内、申し訳ないけど2つは使わせてもらいましょう
さっきの感覚から計算してスキルの効果時間は15分から20分くらい……2つあれば十分です
花陽「ちょっと失礼して……っしょ…」ガバッ パクッ
手が使えないので床に置いたおにぎりにかぶりつく形になる
間違っても凛ちゃん達には見せられない姿です……が、今はなんでもやります!
スズ「あ、でもこの手錠にはスキルを封印する術式が……」
シュウゥゥ… カッ!
花陽「え、そうでしたっけ?」キラキラ…
ピピッ
――スキル「GOHAN屋通い」が発動しました
スズ「さすがハナヨ様!」
ユリカ「………すごい」
花陽「ん、大丈夫そうです、これくらいなら」バキッ
今のパワーなら手錠を壊すのは簡単です。きっとこの牢屋からも出られます
メモによるとこの包みを投げ込んでから10分後に町で騒ぎを起こすとのことです
きっとその騒ぎに乗じて逃げるという作戦は上手くいくと思います。だけど、私はこの感情を抑えられそうにありません
バキッ バキッ
スズ「ありがとうございます。これでスキルが扱えます」クイッ
ユリカ「ご迷惑をおかけして、申し訳ありません」
花陽「…………」
花陽「スズさん、作戦が始まったら予定通り脱出して、北門にきている馬車にユリカさんと向かってください」
スズ「はい……あれ、ハナヨ様は?」
花陽「私は少し用があるので……」
ユリカ「ハナヨ様?」
花陽「ユリカさん、一つ聞かせてください…」
ユリカ「は、はいっ」
花陽「………お金が、必要だったんですか?」
理由としてそれしかないのですが、そうさせてしまったのは……きっと私です
ユリカ「はい………ですがこれは私が勝手に…」
花陽「いえ、いいんですもう。それで十分です」
何も知らずおいしくご飯を食べて喜んでいた自分が許せません
一人で抱え込んで、一人で解決しようとするユリカさんも許せません
私に大事なものを感じさせてくれたあの男の人に少しばかりの感謝……そして、
花陽「大事な家族を泣かせる人を、ちょっと引っ叩いてきます」
ユリカさんとえっちできるとかこの男許せんな
俺の息子と一緒に引っ叩いてやる -トロスタンの町 駐在所
花陽「んー……」コソッ
牢屋を出て、注意深く外の様子を窺うと人の気配がしません
もう夜も遅いからみんな帰ったのかな?
スズ「普段は守衛の一人くらいはいると思いますが」
ユリカ「誰もいない?」
花陽「いないなら遠慮なくおいとましましょう」キラキラ…
もしかしたらもうどこかで騒ぎが起こっているのでしょうか?
スズ「北門はどっちかな?」
ユリカ「こっち、案内できるから」タッ
花陽「じゃあ私はこっちへ……」キラキラ…
ユリカ「ハナヨ様!」
花陽「はい」キラキラ…
ユリカ「その……お気をつけて……」
花陽「大丈夫です。まかせてくださいっ!」グッ
ユリカ「……っ、はい!」
明かりの少ない夜道を行く二人の背中を見送ってから、今一度気合を入れます
花陽「………ふぅ、よしっ」キラキラ…
「おい、そこの眩しいの!」
花陽「ぴゃあぁ!?」ビクッ
「やっぱり、さっき牢屋に放り込んだ女だな? そこで何をしている!」タタッ
花陽「え、あ、おおお、これはですね…えっと…」オロオロ…
「まさかお前、抜け出したんじゃないだろうな?」ガッ
花陽「ひゃうっ」キラキラ…
おそらく牢屋の守衛さんかそういう立場の人なのでしょうか、私はあっさりと掴まります
って、やっぱりユリカさん達以外の人にも触れる……どういう事なの?
「ほら、さっさとこい!」グイッ
花陽「ご、ごめんなさい! 私は他に用事があるので行けません!」ブンッ
ヒュンッ ドサッ
花陽「あら……」キラキラ…
また牢屋に逆戻りは嫌なので振りほどこうと腕を上げたら守衛さんが飛んでいってしまいました
いや、まぁ…私が放り投げたんですよね、これ……
花陽「すいません、行きますね……あの、お大事にー」コソコソ…
おそらく気絶してらっしゃるようなので今のうちにここから離れましょう
タタタタタ…
花陽「あの人どこいったのかな……」タタタ…
ドォォォン…
花陽「!? 爆発?」キラキラ…
もしかして騒ぎを起こすって、爆発騒ぎですかフワちゃん!?
さすがにそれはやりすぎだよぅ……
アヤ「ハナヨ様!」
花陽「ん、あ、アヤさん!」キラキラ…
アヤ「よかった、遠くからでも光ってるのが目立って見つけられました」タタッ
花陽「どうしてここに?」キラキラ…
アヤ「もしハナヨ様に何かしらの事情でおにぎりが渡らなかった場合に備えてこのあたりで待機してました」
花陽「そうだったんですか。あ、もうユリカさん達は北門に向かってます」
アヤ「北口の門番も陽動によっていなくなると思うので、その隙に脱出してもらいます」
花陽「北門には誰が?」キラキラ…
アヤ「ヨシノちゃんとパイちゃんがいます」
花陽「え、子供達も来てるんですか!?」キラキラ…
アヤ「来てると言いますか……この陽動作戦はエミちゃんの発案です」
花陽「……へ?」キラキラ…
アヤ「みんなお姉ちゃん達を助けるんだって、はりきってますよ」
花陽「危ないなぁ……」キラキラ…
アヤ「ところでハナヨ様は逃げないのですか?」
花陽「ああ、私はちょっと用事があって、すぐに済むと思いますが」キラキラ…
この感情をぶつける先と、おとしまえというやつをつけるのです!
アヤ「それじゃ、私は別の場所で陽動をしているアイナと合流してとっとと逃げますね」
花陽「うん。ありがとう」キラキラ…
あのエミちゃんがこの大胆な作戦を……てっきりフワちゃんがやってくれたものだと思いましたが
花陽「とにかくもう少し町が騒ぎだして混乱した隙に……」キラキラ…
ドガァァン…… ワー ワー
「何事だ!?」
「はっ! 町の東門にて謎の爆発騒ぎありとの報告です」
「爆発……どこからかの襲撃か?」
「現在被害状況を確認中、詳細は不明です」
花陽「………」コソッ
「し、失礼します! 南門付近にて謎の爆発があったと報告が!」
「南門!? 立て続けにか!?」
大騒ぎになりそうな予感がします……さて……
花陽「…………」ジー
ユリカさんの話だとあの男の人はけっこうな権力を持つこの町の商人だという事です
でなければ勝手に牢屋に出入りなんてできないし、罪を一方的にユリカさん一人に擦り付ける事なんてできません
おそらく立場的に上の人と繋がってるはずです……
花陽「………んー」ジー
ピピッ
――スキル「それ正解!」が発動しました
花陽「ん、あの人か……」コソコソ…
ちょっと訪ねてみてあの男の人がどこにいるのか知ってる人はすぐに見つかりました
こういうところでは便利なスキルです
「よし、お前たちは東門へ、お前は南門だ。就寝中の連中も全員叩き起こせ!」
「はっ!」
「了解です!」
花陽「………」ソー
「ん、おいそこの眩しいの」ビシッ
花陽「ひゃいっ!?」ビクッ
「なんだ子供か…こんなところで何をしている?」
花陽「えっと…その、道に迷って……」キラキラ…
またすぐに見つかってしまいました……そんなに眩しいのかな?
「道? こんな夜中にか?」ジー
花陽「…………ゴクッ」キラキラ…
えっと……事前に考えていた作戦で……
花陽「そのぅ……私、例の商人さんに夜に来るようにって……でも私この町に来たばかりで…道が」モジモジ…
「例の……ああ、あの人か……まったく毎度毎度……」チラッ
花陽「…………?」キラキラ…
「ま、まぁ…ありか…///」
花陽「それで、よければ道を教えて頂けませんか?」キラキラ…
「ん、そうだな。道は単純だ、あそこに周囲よりあきらかに華美な建物があるだろう。そこだ」
花陽「あそこですね、わかりましたっ」ペコッ
「ん……ところでどうだ、後で俺のところにも……」
タッタッタッタ…
花陽「ありがとうございました〜〜」スタタタ…
-あきらかに華美な建物
花陽「これはいわゆるこの世界での成金趣味というのでしょうか?」キラキラ…
やたらと煌びやかな外装に、意味不明な銅像に燭台
噴水も無意味に大きいしバランスが悪いです。なってませんねぇ……
花陽「ま、今はどうでもいいのですけど…」コソコソ…
「おい、今東のほうで爆発騒ぎがあったってよ!」
「なんだとっ野盗かなんかか!?」
「様子を見に行ったほうがいいんじゃないのか?」
さすがにお金持ちの御屋敷らしく、警備員のような人達が数人います
しかし町の騒ぎの対応か、バラバラに動いているようです
よし、今のうちにさっと走り抜けて侵入です
花陽「なんだか少しだけドキドキする……怪盗みたいです」キラキラ…
「ん、あそこの茂みで何か光ってないか?」
「どこだ? 本当だな、なにかあったか?」
花陽(えー……どど、どうしよう…)キラキラ…
さっそく見つかって怪盗どころではありません!
ここはパワーアップを信じてみなさんにお休みしてもらうほうが早いでしょうか……
花陽「……っ!」グッ
ドオォォォォン!! ガタガタッ
「!!?」
「うわ、今の爆発近いぞ!?」
い、今のもフワちゃん達が起こしてる騒動ですよね?
ここまで振動が…でも、チャンスです!
コソコソ… ササーー
-華美な建物内
花陽「えーっと……」キラキラ…
ピピッ
――スキル「それ正解!」が発動しました
花陽「よし、最上階ですねっ!」キラキラ…
とにかくまずは一発、キツイおしおきをします
そしてきっちり返してもらうんです!
花陽「ユリカさんのお金、全額きっちりと!」キラキラ…
急遽お出かけイベント発生により、今日はお休みしますー
明日また… -屋敷内 2F
建物のすぐ近くでの爆発騒ぎという事でお屋敷内の人もほとんど様子を見に行ったみたいです
あの男の人はまだ最上階から動かない。部下にまかせてのんきに寝ているのでしょうか
花陽「それはそれで好都合です……」サササー
外観はゴチャゴチャしていましたが内装はシンプルです
たぶんお高いのであろう絵画がいくつか飾られているくらい
なんだか映画にでてくるお金持ちキャラの家ってイメージがそのまま当てはまりそう
花陽「…………」コソコソ…
外の騒ぎが功をなしてか、三階への階段前まではスムーズにこれました
この上にあの人はいると思います
花陽「あ……」シュウゥ…
おにぎりパワーが消えてしまいました
もう1個あるおにぎりは突入時に使いましょう
しかしこのスキル、無駄に光るのだけなんとかなればもっと使い勝手がよくなると思うんですけどねぇ…
花陽「………」ソー
三階に到着しました
どうやら三階は中央にあるあの大きな部屋が一つだけのようです
外の騒ぎもそう長くは続かないだろうし、さっそく突撃します
花陽「これは……鉄の扉、防音扉でしょうか」
外の騒ぎももしかしたら聞こえていないのかも知れません
ガチッ ググ…
当然ながら扉には鍵がかかっています
ではおいしいおにぎりの出番です!
パクッ シュウゥゥゥゥ… カッ!
花陽「この効果が切れる前に戻らないと……モグモグ」キラキラ…
ガチッ グググ…
花陽「重い……だけど一気に押し込んだらいけそう……よしっ」グイグイ…
花陽「やーー!!」ガガガッ
ビキビキ ガゴンッ!! ドガァン……
「っ!!?」ビクッ
「っ!!?」ビクッ
花陽「!?」キラキラ…
予想通り……というか予想以上に壁ごとくり抜く形で扉を壊してしまいました
突然の出来事に当然中にいた人は驚いた様子で私を見つめています
中にいた人……ユリカさんに迫っていた男の人
と、女の人……?
「きゃあぁぁぁ!」ガバッ
「な、何事だ!!」
部屋の中央に置かれた大きな丸いベッドに二人はいらっしゃいました……
裸です……お二人は抱き合っているようにも見えます
いえ……曖昧でもなんでもなく、私はとんでもないところへお邪魔してしまったようです
花陽「えっと……」キラキラ…
「お前は、さっき牢屋にブチこんだガキ!?」
「なになになんなのー?」オロオロ…
花陽「ごめんなさい、間違えましたっ」キラキラ…
私ったらとんでもなく失礼な事をしてしまいました
恋人同士の……大切な時間を邪魔をする事に……
……ん?
花陽「あれ…?」キラキラ…
花陽「あ、あなたちゃんと彼女さんがいるじゃないですか!」キラキラ…
「はぁ? いきなり壁をぶち壊して何言ってるんだお前は…」スッ
花陽「キャーーー! た、立たないでくださいっ!!」キラキラ…
「それよりお前、どうやって牢屋を……」
花陽「それは、あなたにちゃんと言っておくことがあるからで……ふ、服を着てください!」キラキラ…
「なんなのこの子……眩しいし」
「ちっ…お前はもう帰っていいぞ」ゴソッ
「え、でも…」
「いいから帰れっ!」
「はいはい。わかったわよ」スッ
花陽「ぴゃうっ!?」ビクッ
女の人が帰れと言われてしぶしぶ服を着て出ていくのを見届けて、改めて……
「それで、何の話だ?」ギロ…
花陽「ユリカさんの事です!」キラキラ…
「ユリカの返事でも持ってきてくれたのか?」
花陽「はい。ユリカさんはあなたのモノになんてなりません!」キラキラ…
「それがどういう結果になるのかは、さっき話したと思うが?」
身売りという、強盗よりもっと重い罪によってユリカさんが裁かれる……
悪い事をした事実はあって、そこは誤魔化せない部分です…でも、
花陽「私個人の問題でそれは困ります。だからそこはごめんなさい」キラキラ…
「はぁ? なにがだ?」
花陽「私達は今夜のうちに町を出てそのまま逃げちゃいます」キラキラ…
「ふ、なにをバカな事を……この町からそう簡単に罪人を逃がすわけないだろう」
花陽「いえ、もう町を出ている頃だと思います」キラキラ…
「は?」
花陽「こんな部屋にいるから外の騒ぎに気が付かないんですよっ」スタスタ…
「そ、そういえば下の警備兵どもはどうした!?」
花陽「下の……ああ、みなさんここにはもういらっしゃいませんよ」スッ…
ホントは外の爆発騒ぎに対応しているだけですが、こういう言い方をすれば効果はあると思います
あまり時間をかけると私自身が逃げる時間がなくなってしまいます…なので……
「お前が……やったのか?」
花陽「……ここに来るのに必要でしたので」キアキラ…
嘘ですけど
花陽「あなたは彼女さんがいらっしゃるのにユリカさんに手を出そうとして……どういうつもりですか?」グッ
「どういうつもりも、言葉のままさ。俺は欲しいと思った女はすべて手に入れてきた。力があるからな」
花陽「それは、女の人を何人も……そういう意味ですか?」キラキラ…
「言ったろ……言葉のまま。と言ってもまだ20人くらいしかいないがな……」
花陽「……………」
…最低な人です。この世界の価値観とか難しい事はわかりませんけど、やっぱり私はこの人が嫌いです
誰かに対してこんな感情を持つなんて、いつ以来でしょうか……
花陽「…………ユリカさんは……」ググッ
おもいっきり叩いたら、さすがに危険ですよね………でも全然スッキリしない……もうっ!
花陽「……女性は、モノなんかじゃありません!!」ブンッ
ズドォォン!! ミシ…
「うあっ……な、なんだ……!?」
湧き上がる感情をおもいっきりぶつけるのはさすがにダメそうなので、床に転がっている鉄扉の破片を思いっきり壁に向かって投げつけました
………ちょっとスッキリです
「か、壁に穴が……強化系のスキルか!?」
花陽「この力であなたにおしおきしようと思いましたが、上手くセーブできそうにありません……残念です」キラキラ…
「バカ野郎、殺す気か!!」
花陽「なので、ユリカさんのお金を返してください」キラキラ…
「は? 金って……身売りのか?」
花陽「そうです。やったことは間違いで軽率ですが、ユリカさんの優しさと覚悟のあらわれなんです」
「犯罪行為で得たと自覚しているのか?」
花陽「勿論ユリカさんにはあとでちゃんとおしおきします。だけどあなたはその覚悟を利用してユリカさんをハメました。脅しの材料にしました!」
それはやっぱり許せないんです
花陽「私は正義の味方を気取っているわけじゃありません。ユリカさんを悲しませたあなたがただ許せないだけです!」キラキラ…
「…………」
花陽「善悪の問題じゃありませんから。私の要求を断るなら……覚悟してくださいね」キラキラ…
私のやってる事も立派な脅迫行為です。自分でも驚いています。こんな大胆な行動…
花陽「さぁ、はやく出してください!」サッ
さっき投げたのより大きめの破片を掴み取り、目の前に突きつけます
昔見た映画のシーンにあった、リンゴを片手でグシャっと潰すようなパフォーマンスでもすればもっと効果があるかな?
「わかった……そっちの棚の一番上に入っている。持っていけ」
花陽「えっ……あ、どうも…」キラキラ…
と、どうやら素直にお金を返してくれるみたいです
危ない事をしなくて済むのならそれに越したことはありません
花陽「あなたのお金は識別できるみたいですけど、それは解除してもらえますか?」キラキラ…
「解除条件は俺自身から5キロ以上距離をとるしかないぜ」
5キロならここを離れて隣国に行くようなので問題ないかな?
花陽「それなら大丈夫そうなのでこのまま貰って行きますね」クルッ
「………………」スッ
わぁ、これまたゴージャスな棚です。金銀に輝いてます
棚として使うには他と変わりませんけどっ…と、
ガタッ スー
棚の一番上に見慣れた革袋がありました
手に取るとずっしりと重さを感じるのできっと中身はそのままでしょう
花陽「取り返したよ、ユリカさん……」キラキラ…
ピピッ
――対象に対する「悪意」を感知しました
スキル「無垢なる罪人」を発動します
「………………」スッ
何度か発動したことがあるスキル「無垢なる罪人」
正直曖昧なこのスキルはよくわかってないのですけど、探知機のような役割なのかと思っていました
でもどうやらこれが一つのきっかけになっているのかもしれません
花陽「…………はっ!?」キラキラ…
「へへ、こうなりゃ多少ガキでも構わねぇぜ!」ガバッ
振り向くと背後に男の人が迫っていました
注意していなかったわけではありません。たぶん襲われても対処できる自信があったのです
でも今、その必要がないことを理解しました
「…………は?」ガンッ
花陽「……………」キラキラ…
目の前にまで迫っていた男の人は、私の体をすり抜けて棚にぶつかってます
そうですか、悪意が……
って、この人今私に何しようとしたんですか!?
「なんだこれ……ありえねぇ……」ガタッ
花陽「えっと……あ、そうだ」キラキラ…
目的の物も手に入りましたし、もう帰るとします
最後にちゃんと言いたかった事を言っておきましょう
花陽「ユリカさんは……あの人はあなたなんかにはもったいないステキな人なんです。二度と、近づかないでくださいね」ビシッ
「……なん………」
くぅー…なるべく冷たく言い放つために真姫ちゃんをイメージしました
カッコよく決まったでしょうか?
花陽「それでは失礼しますね」ペコッ
「……………」
花陽「あ、もう彼女さん一人とちゃんと付き合ってくださいね、可哀想ですよ!」ビシッ
「……………」
よし、では帰りましょう! みんなが待っています
おつおつ
ピュアなかよちんに裸見せつけやがって、この男許すまじ
でも脅しやハッタリがだんだん板についてきてるな…… -お屋敷 1F 玄関ホール
爆発音は聞こえなくなりましたけど、外の騒動は収まってはいないようです
騒ぎに乗じて逃げる作戦はまだ可能みたい
花陽「みんな無事に合流できたかな……」コソコソ…
ウウゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーー!!!
花陽「な、なに!?」キラキラ…
突然ホールに響く轟音。これって、サイレンのようなもの?
はっ……あの人が!?
花陽「あきらめの悪い人ですね、もうっ」タタッ
サイレンは建物全体に響き、外にまで届いています
その音に反応したのはこのお屋敷の警備員さん達
花陽「わっ、みんな戻ってきてる!?」コソコソ…
正面玄関から呑気に出ようとしていたので危うく鉢合わせになるところでした
警察っぽい人に捕まったのが私に対する悪意ではない、公務執行という職務から来ているものだとすると…
花陽「おにぎりパワーが消えちゃうと、私なんてすぐに捕まってしまいます」サササッ
ということでもうのんびり隠れて脱出なんてのはやっていられません
パワーにまかせてなぎ倒す……なんてのも騒ぎを大きくしちゃうし、ずっと追われる事になりそうです
なので……
ゴッ! ガゴンッ!! ガラガラ…
花陽「ごめんなさい、弁償はできないけど……」タッ
玄関から出ると見つかってしまいますので、ホールの壁を一部破壊して脱出します
「また爆発か!?」
「裏庭に何かいるぞっ!」ダッ
「もっと人を集めろ!!」
ワーワー! ドドド…
花陽「わ、こっちに来る!?」キラキラ…
落ち着いてここから逃げる手段を……
ピピッ
――スキル「それ正解!」が発動しました
花陽「うん、いけるっ!」ダッ
パワーが続く限り、全速力でダッシュです!!
ダッ シュタタタタタ…
北門にまっすぐ向かうと目立ったりしちゃうので住居の間をジグザグに進みます
そしてある程度進路が東だと思わせる事が出来たら
花陽「あった、町の外壁! ここから北にっ!」スタタタタタタ…
「くそ…なんて速さだ……」
「それにあの光はまるで……」
「夜空を流れゆく流星のようだ……」
-トロタウン北門外
建物の裏側に入ったり細道をいくつも抜け、どうにか目的の場所へ到着しました
やはり町全体で騒ぎが起こったのか、夜だというのに町明かりであたり一帯がとても明るい
花陽「あ……」シュウゥゥ…
おにぎりパワーが切れました。ここからは光っているとかえって見つかりやすくなりそうなので丁度良かったです
あとはこの街道をまっすぐ北に進めばどこかに馬車が待機しているはず……
ハナヨサマ… ハナヨサマ…!
花陽「ん、声が……」キョロキョロ…
ユリカ「ハナヨ様、こちらですっ」
花陽「ユリカさん!」
ユリカ「ああ、良かった……ご無事で…」
街道横の茂みからでてきたのはユリカさんとフワちゃんでした
フワ「だから大丈夫だって言ったでしょ〜」
ユリカ「はいっ! 本当に……」
花陽「二人とも、待っててくれたの?」
フワ「この子が絶対ここで待つって聞かなくてね」
ユリカ「ごめんなさい。私の我儘で……」
花陽「ううん、ありがとうございます。あ、それと…」ゴソッ
大事なもの、ちゃんと渡して安心させてあげないと
花陽「取り返してきたよ、これ……」ドサッ
ユリカ「あ………」
フワ「あら、これって手つきのお金よね。大丈夫なの?」
花陽「5キロ以上離れちゃえば平気だそうなので」
ユリカ「……………」グッ
フワ「さ、あんまりのんびりもしてられないわよ。背中に乗って」
花陽「うん」サッ
ユリカ「はい!」サッ
ユリカさんが革袋を大事にしまうのを見て、取り戻しにいって良かったとあらためて思います
中途半端な気持ちじゃなかったんですよね
ユリカ「ハナヨ様、戻ったらお話ししたい事が…」トスッ
花陽「うん。私もあります」
フワ「夜も遅いし明日にすればー?」タタッ…
花陽「ところでフワちゃん」
フワ「なーに?」タタッタタッタタッ…
花陽「陽動作戦はいいんですけど、あちこち爆発させるのはちょっとやりすぎじゃないですか?」
フワ「あら、あれは爆発というよりも、音と粉塵をまき散らせただけのもので、被害なんてなにもだしてないわよ」タタッタタッタタッ…
花陽「そうなんですか?」
フワ「それと、あれは私がやったんじゃなくて、エミちゃんの魔法よ」
花陽「魔法!? エミちゃんがですか?」
フワ「そうよー。私はエミちゃんを背中に乗せて町中走り回っただけっ」タッタタッタタッ…
花陽「そうなんですか……んーエミちゃんが…」
ちょっと意外でしたが、この作戦を立案したのもエミちゃんという事なら不思議ではないのかな?
フワ「それよりあの憎たらしい男、ちゃんと張り倒してくれた?」タタッ トンッ タタタ…
花陽「あはは……直接やると加減ができそうになかったので、驚かせたくらいです」
フワ「ビビらせてやったのね、まぁそれで良しとするわっ!」タタッタタッタタン…
花陽「あの人、ユリカさんを逃げられないようにして、彼女にするつもりだったんですよ」
フワ「あの男が? はは、無理無理〜」タタンタタンタタッ…
花陽「ですよね? しかも自分は他に彼女がいるのにですよ、許せませんよ!」
フワ「ああ、いるわよね〜。へたにお金や権力持っちゃって自分を勘違いしちゃう男」ザッ トンッ
花陽「女性をモノのように扱うなんて、きっと罰が当たります」
フワ「ふふ……」タタンタタッ…
花陽「ん、どうかしましたか?」
フワ「元気そうでよかったわ」タッ…
花陽「フワちゃんは、ユリカさんの事……」
フワ「なんとなくわかってたわ。最初に座り込んでる時、ちょっとそういう匂いがしたから…」シュタッ…
花陽「匂い……そういうのでわかるんですね」
フワ「鼻が利くのよ私。牢屋に入れられた花陽ちゃん達の位置もバッチリだったでしょ?」バシャバシャ…
花陽「なるほど、それで……」
背中に感じるユリカさんの体温……
フワちゃんが走り出しすとほぼ同時に、疲れと緊張からかすぐに眠ってしまいました
私の腰に回された手をしっかりと掴む
私と同じような年頃で、たくさん辛い目にあってきたのに、みんなのお姉ちゃんとしてがんばる人……
みんなが頼りにして、みんなの期待に応えて……
フワ「一番上のお姉さんってだけでも大変な立場なのに、勇者さまを導く担い手もがんばって」ザッ ザッ
花陽「……………」
今回の事で一つ分かったことがあります
花陽「ねえフワちゃん。ユリカさんって、お姉ちゃんなんですよね…」
フワ「そうねぇ。でもいきなり追いやられた状況、境遇に必死に食らいついてるって感じ。見ていて心配だわ」トコトコ…
花陽「そう。そうなんです……とても優しいお姉ちゃんなんですけど、本来のユリカさんはもっと……」
もっと誰かに甘えたいんじゃないのかな……
今回の事もたった一言相談できれば違った答えを得られたはずです
私もそうですが、私達みんながユリカさんを「頼れるお姉ちゃん」に縛り付けているような気がします
フワ「ふふ、やっぱり花陽ちゃんはイイ子ね」トコトコトコ…
花陽「え、なんですか急に…?」
フワ「花陽ちゃんって、集団生活において達観した視点から全体を観察して、活かせるのね」トコトコ…
花陽「え………」ドキ…
フワ「そういうところで生活していたの?」トットッ… ザッ
花陽「生活……そうですね。生活の一部になっていたと思います」
フワちゃんに言われた言葉がいつか言われた言葉と重なってドキっとする
そこは私にとって何より大切な居場所でした
みんな……今頃どうしてるのかな……
フワ「見えたわよ」トコトコトコ…
花陽「月明りでも目立ちますねー、あの大きいお家」
北の街道をずっと進む先に、今の私の居場所が見えます
馬車の前にはみんなが待っていました
手を振って出迎えてくれるリホちゃん達
私はユリカさんを起こさないようにと、みんなに静かにしてもらうようジェスチャーします
スズ「おかえりなさいませ、ハナヨ様」スッ
花陽「ただいま。っと、ユリカさんをベッドまで運ぶのを手伝ってくれますか」
アイナ「それはわたしとアヤでやるよ。ハナヨ様も疲れてるでしょ」
アヤ「おまかせください」サッ
花陽「それじゃ、お願いします」スッ
??「お帰りなさいませ、ハナヨさま」スッ
花陽「エミちゃん…かな?」
声でわかりましたが、エミちゃんは全身を黒いローブで覆っており、その顔は見えません
どういう立場なのかはやっぱりわかりませんが、この子に助けてもらったのは事実です
花陽「ありがとうエミちゃん。色々がんばってくれたんだよね」
エミ「いえ、これくらいでユリカさんやハナヨさまに受けた恩が返せるとは思ってはいません」
パイ「エミちゃんすごいんだよ、まほうつかいなの!」
ヨシノ「まおうのけんぞく…」
エミ「あの程度の目くらませならみんなもすぐに使えるようになるよ」
リホ「ホント!? 使いたい〜!」
パイ「どかーんてやりたい!」
エミ「また今度、教えてあげるね」
花陽「…………」
この子について詮索するのは、私にとって必要な事なのかな……?
私達の今後に関わる問題になるのかな?
フワ「ふぁ……ん、悪いけど、私はお先に休ませてもらうわね」トボトボ…
花陽「あ、はい。今日はほんとにお疲れ様」
フワ「明日……話すんでしょ?」
花陽「はい。大事な事だと思うので」
フワ「がんばってね、それじゃおやすみなさい」
花陽「おやすみなさい……」
スズ「ハナヨ様もお休みになってください」
花陽「あ……うん。えっと……スズさん」
スズ「はい」
花陽「ユリカさんの事で、大事なお話しがあるの」
スズ「え、今ですか?」
花陽「うん。疲れてると思うけどごめんね。でも大切な事……」
私がいつか帰ッた後、その先を一緒に生きていくみんなのためにも……
-次の日 お昼前
ガタコン… ガタコン… カタカタカタ…… ガタコン…
花陽「…………すや…」Zzz…
ガタコン… ガタコン… カラカラ… カタカタ… ガタコン…
ガタコン… ガタコン… ガコッ!
花陽「んにっ…」パチッ
穏やかな日差しと、心地よい絶妙な揺れ具合に誰もが抗えない至福の時…
それを壊したのは急停車した馬車の振動でした
花陽「ん……何事でしょうか……」
リホ「あ……ふ……んー…なにー?」
花陽「おはようリホちゃん」
パイ「ぁぅ……ドカーン……デス……」Zzz…
花陽「ふふ、可愛いっ」プニッ
馬車が急停車したのはその進路に問題が発生したためでした
花陽「おはようフワちゃん。どうかしたんですか?」
フワ「おはよう花陽ちゃん。これ見て〜」
フワちゃんが示す先には大きな深い崖……と、頼りなさそうな吊り橋
ふむ……なるほど、行き止まりとなっているのですね
さすがにこの吊り橋をこの大きな馬車で通るのは難しいです
スズ「おはようございます! 何か問題でもありましたか?」
フワ「おはよう。これ見て〜」
スズ「ふむ……なるほど、これは……」
アヤ「ふぁぁ……おはよー……どしたのー?」
アイナ「あぁ…外あっつい……」フラフラ…
昨日はみんな夜遅くまであれこれやっていたので、今の今まで寝ていました
自由な時間に起きてこられるこの生活はなるほど…人を堕落させてしまうかもしれません
ヨシノ「お腹すいた……」ヒョコッ
アヤ「そうだね。少し早いけどお昼ご飯の用意するかな」
アイナ「朝食べてないし丁度いいよ。手伝う」
スズ「ではこっちの問題は我々で対処しましょう」
フワ「ここは迂回ルートはないのかしら?」
スズ「あるにはありますが、すごく南下しなくてはいけませんね」
花陽「南って、トロスタンの領域にまた入っちゃうよ」
フワ「出戻りしちゃ、朝早くから移動してる意味ないわねぇ」クルッ
花陽「………………」
フワ「花陽ちゃん、何かいい案はある?」
花陽「…………いくつか考えてみましたけど、正解はでないですね」
スキル「それ正解!」が発動しないのであれば、それはその結果にはならないという事
じゃあこの場合、多少の被害をだしても無理をする方法だと……?
ピピッ
――スキル「それ正解!」が発動しました
スズ「あ、何かでましたか?」
フワ「なになに?」
花陽「うーん……いけることはいけるのかぁ……」
とりあえずお昼ご飯を食べてからですね
-馬車内 1F広間
「「「いただきまーす」」」
朝食には遅い、昼食には少し早いご飯の時間です
アヤちゃんの料理の腕はかなりのものだと、異世界感覚ですが認識します
アヤ「このキッチンって設備が便利でさー、もっといろんな料理作って見たくなるのよね」
ソラ「ん……うまい」
アヤ「ありがとっソラ」
実際料理は他にも作れる人はいますが、アヤちゃんが自ら作りたいと言ってくれているのでお任せです
料理のレパートリーは他にどんなのがあるのかなぁ
トン、トン、トン…
ユリカ「ふぁ……おはようございます……あれ」zz…
花陽「おはようっ」
お昼になってユリカさんが起床します。やっぱり昨日の疲れはまだ残っているようですね
ユリカ「ん……朝ご飯ですかー?」zz…
スズ「姉さん、いまはお昼です。それと顔を洗って」
ユリカ「…………お昼!?」ハッ
どうやら自分が一番最後に起きてきたことを理解したのか、どこか慌てた様子のユリカさん
昨日の事を考えるまでもなく、そんな事を気にする子なんて誰もいないのに、どこか申し訳なさそうです
ユリカ「ああ、あの…ごめんなさい、私……」
スズ「姉さん、そんな事気にしなくていいから、顔洗ってご飯にしよう」
ユリカ「ぁぅ……わかりました」
花陽「おはよう、ユリカさん」
ユリカ「お、おはようございますハナヨ様……」
パイ「ハナヨちゃん、もうちょっと横にずれてー」
リホ「ユリカお姉ちゃんそこに座るの」
花陽「はーい」
ユリカ「…………え!?」
アヤ「ハナヨちゃん、はいこれユリカ姉のお茶碗」
花陽「はいはい」
ユリカ「こ、これっあなた達!」
ヨシノ「ふに?」
ユリカ「ハナヨ様にそのような言葉使いを……」オロオロ…
花陽「あ、いいんです。私からお願いしたことなので」
ユリカ「え、で…でも……」
花陽「ユリカさん、とりあえず顔を洗ってご飯にしましょう。話はそれからです」
私達が出会った経緯、関係性から考えても無理もないことなのかもしれません
だけどユリカさんが私のためにつくしてくれる事で生じる弊害なら、そんなもの必要ないです
花陽「作戦名、先輩禁止!…です」
スズ「先輩?」
花陽「ああ、そこは気にしないでください」
ユリカ「あの、一体どういう事なのでしょうかハナヨ様?」モグモグ…
花陽「そのさま付け禁止です」
ユリカ「ですが……」モグ…
スズ「ハナヨちゃんがいいって言うんだから、むしろ失礼だよ」
ユリカ「でも、どうして……」モムモム…
花陽「ユリカさんが私を元の世界に帰すために頑張ってくれているのはわかります」
ユリカ「それは当然です」
花陽「でも、そのためにユリカさん一人がすべてを背負う事はないんですよ」
アイナ「出来る事はがんばってやる。でも出来ない事は無理してやる必要ないよ」
ユリカ「アイナ……」
スズ「私達のいる意味も考えてください
ソラ「ボクはユリ姉に…前みたいにもっと笑って欲しい…」
ユリカ「ソラ……」
アヤ「一人でなんでもやろうとするから、昨日みたいな事にもなるんだよ」
パイ「良く知らないけど、悪い人におかね盗られちゃったんだよね」
リホ「悪い人にはついてっちゃダメなんだよ」
ヨシノ「危険…」
エミ「みんなに心配をかけてはいけませんね」
ユリカ「うぅ……はい……」
花陽「ユリカさんが私の事を考えてくれているように、私だってこの世界でユリカさんがいないと何もできませんでした」
ユリカ「……………」
花陽「だから私達はお互いさまなんです。立場も同じ、だからその妙な壁、とっぱらいませんか?」
ユリカ「……でも元々の原因は私達に……」
花陽「私がここに来た事で、みんなが助かっているならそれはそれで良かったと思います」
ユリカ「ハナヨ様……」
花陽「私自身もおかげさまでなんとかなってますし」
ユリカ「…………」
花陽「……これでもダメですか?」
ユリカ「いえ、ダメじゃないです……」
花陽「もう一人で悩んだりしませんか?」
ユリカ「はい。もっとみんなに助けて欲しいです……」
花陽「ユリカさんの事、ユリカちゃんって呼んでもいいですか?」
ユリカ「はい…………え!?」
花陽「私の事もそう呼んでくれますか?」ニコニコ
ユリカ「……はい。わかりました」
花陽「じゃあもうお互い、敬語もやめましょう!」
ユリカ「ん……は、、はい…?」
スズ「たまに私の下着を間違えて履くのも、やめてくれる?」
ユリカ「ふぇっ!?」
リホ「おやつもっと買ってくれる?」
パイ「ぱいはもっと可愛い服が欲しいわ」
ヨシノ「つのぶえ」
アヤ「わたしは調理器具がいいかな〜」
ユリカ「ち、ちょっといきなりなによみんなして……もうっ」
エミ「ふふ……」
ユリカさんが自然と笑っているのを見て、今の関係が私達には一番良いと思いました
でもみんな、お金はそんなに余裕ないんだよ?
お昼ご飯の後、ユリカちゃんから話があると言われました
昨日の事についてまだ何かあるのでしょうか……
しかし今は先にやる事があるのですっ!
花陽「それじゃ行きますよ〜フワちゃん!」キラキラ…
フワ「ホントに大丈夫なのー?」
花陽「それはフワちゃん次第です〜」キラキラ… ガッ
吊り橋を渡れない我が家こと大きい馬車
多少の被害に目を瞑るのなら向こう岸へ渡る事が可能なのです
……たぶん、他にもっといい方法があったかもしれませんが……
ユリカ「だ、大丈夫なの?」オロオロ…
スズ「ハナヨちゃんを信じよう、姉さん」
方法はシンプルです
花陽「んっ……しょーっと!」ググ… ガコン
私が向こう岸のフワちゃん目掛けて馬車を投げ飛ばし、フワちゃんが体で受け止めるのです
被害は……ちょっとひっくりかえるお家の中です
勿論逆でもいけたかもしれませんが、フワちゃんは後ろ脚で蹴り飛ばすことになるので馬車が傷つきそうだと却下に
リホ「おーすごいっ、ハナヨちゃんホントにお家持ち上げた〜!」
パイ「いまよ、おもいっきりぶつけてやるのっ!」
フワ「軽くでいいわよ〜〜」ブンブン
花陽「しかし自分の事ながらすごいパワーですね、これ」キラキラ…
ユリカ「どうして碧色に光るのでしょう?」
エミ「放出されるパワーの密度が濃いために可視化されたもの、一種のオーラと呼ばれるものになっているのかも」
アヤ「ややこしいな」
結果として家飛ばしは上手くいきました
フワちゃんが上手く足で勢いを殺し、馬車へのダメージも最小限です
きっと中はお片付けしないといけないかもですが
ユリカ「…………」
花陽「なにはともあれこれで旅を続けられます」キラキラ…
ユリカ「ねえハナヨちゃん…」
花陽「なんですかー?」キラキラ…
ユリカ「馬車を持ってジャンプ……とかできたら、そっちの方が軽傷ですんだかも?」
花陽「……………あ」キラキラ…
ジャンプ………できそうです……
ピピッ
――スキル「それ正解!」が発動しました
おつおつ
自分から距離を縮めることができたのも成長の表れかな?
と思ったらどっか抜けたままなのがかよちんらしいw -午後 国境沿いの街道
ガタコン… ガタコン… カタカタカタ…
馬車は順調に街道を走ります
このまま何事もなければ明日には国境を超えるそうです
花陽「この辺りはずーっと何もない平原なんですね〜」
ユリカ「そうですね。年に数回ですが、この辺りで大規模な演習が行われたりはしているようですけど…」
花陽「…………」
ユリカ「…………」
花陽「あはっ…やっぱりすぐに変えるのって難しいですね」
ユリカ「ふふ、そうですね。でも、今まで感じていた何か重たいものはすっと軽くなった気がします」
どうにかフランクに接しようとがんばっても、ふとした時に元に戻る
意識しないで自然とするのにはまだかかりそうですけど、それさえも今はいいかなって感じます
伝えたい気持ち、想いはちゃんと伝えましたから……
話があるというユリカちゃんの要望で私達は今馬車の屋上にいます
下から拝借し設置したテーブルと椅子で優雅な紅茶タイムです
ユリカ「みんなにお片付けまかせちゃってよかったのかなー」ズズ…
花陽「紅茶飲みながらだとなんだかなーって感じですよユリカちゃん」ズズ…
ユリカ「ふふ、そうでした」
これでケーキとかあったら最高なんですが、それは贅沢というものですね
ユリカ「………」
そろそろお話しを切り出すころかなーと思いながらお茶のおかわり……
ユリカ「あの……ハナヨちゃん」
花陽「はいっ」カチャ
ユリカ「お話しがあります……その、今後について……」
花陽「はい」
ユリカちゃんの話というのは、私が元の世界に帰るまでの具体的な日程と、対策について
ユリカ「ハナヨちゃんを元の世界へ逆再召喚するには、強大な魔力を持つ術者が必要です」
花陽「そうでしたね」
大召喚という重々しい名前の通り、行使するにはいろんなものを捨てる覚悟が必要です
一番重要なのは、術者自らの命……
ユリカ「お父さん達は6人で大召喚を行いました。私達がお父さん達のレベルになるには数年じゃ足りません」
花陽「すごい方だったんですね……」
ユリカ「はい。お父さんは魔術の道、未来を見据えて何を後世に伝えるべきかをいつも考えているような人でした」
本当に立派な人。魔法の先生だったのかな?
ユリカ「そんなお父さん達と同程度の魔力を使うとなると、おそらくですが私達だと8人くらいは必要になります」
花陽「8人……ほとんど全員ですね」
ユリカ「はい。元々魔法の勉強のために大きくなったら学校に行く予定でしたので、それはいいのです」
花陽「みんな将来は魔法使いになるの?」
ユリカ「私達はそういう家系に生まれましたから。家系というよりも、民族ですね」
民族……え、村全体がそういう部族?
ユリカ「セト村というのは魔術師の村だったんです。トト村も流派は違いますが同じような者達の集まりで……」
魔術師の村……やっぱりこういう言葉を聞くとここが異世界なんだなって改めて思います
そういえば……先の戦争で村が加勢しなかったと言ってる人がいましたが、何か事情があったのでしょうか
ユリカ「ソラは魔術の才能はあるのですが、剣術のほうが性に合ってるらしくその道を進みたいと…」
花陽「あ、みんな進みたい道に進ませてあげてください……なるべく」
ユリカ「ありがとうございます。ソラはスズと一緒に剣が好きなようでして…」
花陽「じゃあスズちゃんも?」
ユリカ「いえ、スズは私達と一緒に魔法の勉強をしてもらいます」
花陽「いいのかな?」
ユリカ「はい、そこはお気になさらず」
私としてはありがたい申し出なんだけど……ううむ……
ユリカ「予定通りユーディクスへ到着したら、私達は魔法学校への入学試験を受けようと思います」
花陽「はわ、試験ですか…」
そういうのは異世界共通なんですね。試験かぁ……
ユリカ「個人の魔法適正を視るだけですから簡単で、すぐにすむとおもいます」
花陽「そ、そうなんですか……」
この自信はやっぱり魔術師の家系、部族ならではものでしょうか
花陽「その試験というのはいつやってるんですか?」
ユリカ「ユーディクスの魔法学校編入試験は随時、それこそ24時間受け付けているんです」
花陽「あ、そうなんですね。すごい…」
ユリカ「そのために作られた国ですからね」
魔法の国かー……どんなところなのかな
ユリカ「私も実際に行くのは初めてなんです」
花陽「楽しみですね」
ユリカ「はい。で……その、相談なんですけど……」
花陽「ん、なんですか?」
ユリカ「お父さん達が残してくれたお金は、全部学校の入学費用にあてようと思っています」
花陽「あ、そこはやっぱりお金がかかるんですね」
ユリカ「旅の資金はそれと村に残っていたお金を集めたものでやりくりしているんです」
花陽「入学費用があるから、余計な出費は控えていたんですね」
それなのに私はユリカちゃんに無理を言って…ユリカちゃんはなんとかそれに答えようとして…
ユリカ「ユーディクスに行く足は止められない。でもお金が必要っとなって……愚かな事をしてしまいました」
花陽「それはもう忘れましょう、ね?」
ユリカ「私が耐えるだけで、もっと簡単にいくものだと楽観視していたのは事実なので……」
花陽「話があらぬ方向へ行くからやめましょう。で、本題はなんですか?」
自責の念が強いせいか、強引に止めないと歯止めが利かなくなりそうです
ユリカ「ああすいません。えっと……首尾よく私達が合格して寮に入る事になった場合…」
花陽「そういえばみんな寮生活になると言ってましたね」
その場合、私はソラくんとフワちゃんとのんびりお留守番かな?
……え、ホントに!?
ユリカ「ソラはユーディクスにある剣術学校に入学を希望しています」
花陽「あ、魔法以外にもあるんですね」
一瞬ちょっとドキっとしちゃいました
ユリカ「剣も魔法にも長けた才能を育成するのが目的ですから。まぁ基本は魔法なんですが」
花陽「みんなの将来にとって大事なところなんですね」
ユリカ「それで、寮生活に入ったら私達は召喚術を専攻して、1日でも早く習得できるよう努めます」
花陽「よろしくお願いします」
ユリカ「それで……その期間とその間の生活費なのですが……」
花陽「はいっ」
ユリカ「最短で……1年を目安に考えています」
花陽「……………」
1年……結構……かかるんですね……
ユリカ「も、勿論もっと早くなる可能性は十分あります。がんばりますから」
花陽「はい……その、がんばって……ください…」
ユリカ「ごめんなさい。もっと早くできればいいのですけど……」
花陽「いえ……その……正直もう数日行方不明になっちゃってるし、もうこうなったらバーンと1年なんて……」
………だめだ。ユリカちゃん達は間違っていません。私が彼女達を助けてあげたいと願った形です
その形を私のために使おうとしてくれているんです……不安なんて……
だから……気落ちしちゃいけません、表情にだしちゃ……
花陽「…………ぅっ」
ユリカ「ハナヨちゃん……」ギュッ
花陽「ぁぅ……」
やっぱり顔にでてたのかな……ユリカちゃんに優しく抱きしめられました
あぁ……いい匂い……落ち着きます……
ユリカ「私に無理はするなと言ってくれたよね。それはね、ハナヨちゃんもだよ」ギュー
花陽「ぅぅ………はい……ありがと……」ギュッ
ユリカ「すぐに帰してあげられなくてごめんなさい。でも私達はみんなハナヨちゃんのためにがんばるから…」
花陽「はひっ……わかっで…ます……ズズ…」
ユリカ「ん……なんだかこうしてるとハナヨちゃんも妹みたい……」
花陽「…………はぅ」
ユリカ「ふふ、ごめんなさい冗談ですよ〜」
花陽「ユリカ…お姉ちゃん///」
ユリカ「えっ///」ドキッ
花陽「…………」
ユリカ「……………」
なんだか未知の領域に突入しちゃいそうなので止めておきましょう
花陽「あ…と、もう大丈夫です。ありがとう」パッ
ユリカ「い、いえ……ん……」
なんだか私達の間に不思議な空気が……
な、なにか話題を……
ユリカ「あ、そうだ! ハナヨちゃん、それでその間の費用なのですけど!」パッ
花陽「へっ? ああはい、なんでしょう?」
よかった、これでなんとか……
ガシャーン… バタバタ…
花陽「………ん?」
リホ「エ、エミちゃん! ダメだよーーー!!」ドタンッ
ユリカ「なんでしょう、下で何かあったのかな?」
花陽「行ってみましょう」
何か物が倒れる音とリホちゃんの声……一体何が!?
タンタンタンッ… トト…
ユリカ「なにかあったんですか!?」
パイ「あ、いいところにっ!」
ヨシノ「リホを止めてください」
花陽「リホちゃん!?」
リホ「っ!?」
エミ「あ、ユリカさん……この子どうにかして欲しいです」
二階に降りてきた私達が目にしたのは、倒れるエミちゃんと、それに圧し掛かるように覆いかぶさるリホちゃん
これはタダごとじゃない気配がします
ユリカ「ちょっとなにやってるの! やめなさいリホちゃん!」
リホ「こ、これは違うのっ……ただリホは……」
エミ「私が必要だと思ってやるんです。お気遣いは無用です」
リホ「でもっ…もったいないよ!」
花陽「と、とにかく落ち着いてリホちゃん」
ユリカ「とにかくまずどいてあげなさい」
リホ「うぅ……はい」
エミちゃんとリホちゃんがケンカでもしているのかと思いましたが、興奮しているのはリホちゃんだけのようです
パイ「だいじょぶ?」
エミ「はい。特に怪我もしていませんし、平気です」
ヨシノ「やれやれです」
ユリカ「なにがあったの?」
リホ「………エミちゃんが……切るっていうから……」
花陽「切る? なにをです?」
エミ「髪ですよ。ユーディクスの寮に入るならこの髪は色々と邪魔になりそうなので…」
リホ「ダメだよっこんなにキレイで長い髪を切るなんて、もったいないよ!」
なるほど、エミちゃんが自身のとても長い髪を切るというのに反対しているというワケですね
ううん……確かに長い……というか、ものすごく長いから、寮生活においてそれを維持しながらというのは……
エミ「それに、私自身も変わらないといけないと思いましたので」
花陽「変わる?」
エミ「トト村の人達の仇……みなさんがセト村の事を想うと同じくらいには、私にも目的があります」
パイ「???」
ヨシノ「……むずかしいの」
リホ「でも……」
エミ「それに、髪はまた伸ばせばいいだけの話です。けれど切ることで私自身の決意を表したいのです」
ユリカ「エミちゃん……あなた……」
花陽「……………」
トト村の生き残りだというエミちゃん
野盗の人達が探しているかもしれない子……
髪を切るという決意……本当に…
いや、ここで無意味な詮索をする必要はありません
エミちゃんも私のために魔法学校への入学を決めてくれたのです
花陽「私は、エミちゃんのやりたいようにやっていいと思うよ」
リホ「うぅ…ハナヨちゃん……」
花陽「エミちゃんの髪がとてもキレイなのは私も同意だけどね」
パイ「ツヤツヤなの」
エミ「ありがとう、ハナヨさ……ちゃん」
花陽「リホちゃんはロングに憧れてるの?」
リホ「ん……だって、みんなキレイだもん」
ユリカ「自分で伸ばしたりはしないの?」
リホ「に、似合わないよ……」
絶対にそんな事ありません、リホちゃんは最高の原石です!
どうして凛ちゃんタイプの顔の子は自身の事に対して同じ悩みを持つのでしょうか?
ユリカ「あら、リホちゃんはロングヘアーもきっと似合うわよ」
リホ「そんなことないよ……」
ユリカ「リホちゃんのその悩みはね、リホちゃん自身が一歩前に踏み出さないと消えてくれない悩みなのよ」
リホ「ぅぅ……」
ユリカ「もしリホちゃんがその一歩を踏み出すためにきっかけが欲しいのなら、私がお手伝いしてあげます」
リホ「ほ、ほんと?」
ユリカ「はい。ただ憧れているよりも、ずっと前向きで、リホちゃんのためになる事です」
リホ「おねがいっ! エミちゃんみたいにわたしも変わりたい!」
ユリカ「ふふ、わかりました……では」
こういうところはやっぱりお姉ちゃんですね、ユリカちゃん
ユリカ「これから先、私の許可無く髪を切るのを禁止します。破ったらきつ〜いおしおきです」ニコッ
-夕方 馬車内 2F
花陽「わぁ、さっぱりしましたね〜♪」
ユリカ「ショートも似合いますね♪」
エミ「ありがとうございます」テレッ
リホ「…………」ポー
髪を切るというエミちゃんの意志を尊重したリホちゃんが見守る中、カットを行いました
自分で適当に切ろうとしていたエミちゃんに変わってヘアカットをしたのがユリカちゃんです
自分の身長とほぼ同じくらいあった綺麗な髪をバッサリと首回りに揃えたショートヘア
リホちゃんとだいたい同じくらいでしょうか、やっぱり可愛らしいです
ヨシノ「ありなの」
パイ「かわいいよっ!」
エミ「……なんだか生まれ変わったような気分です。体が軽い」
リホ「お風呂も楽になるよ」
子供達の騒ぎもひと段落したところでお話しの続きです
花陽「え、お金ですか?」
ユリカ「はい」
ユリカちゃんの相談のもう一つがお金の問題
当初は自分がやりくりしなきゃとあれこれ考えてやっていたそうです
しかも入学以降のお金の捻出方法が……
花陽「村にあったマジックアイテムの売却……ですか」
ユリカ「はい。元々村に伝わる由緒あるものからお父さん達が自作した魔法のアクセサリーなどです」
花陽「でもそれって、とても大事なものなんじゃ……」
ユリカ「ただそこにあるだけで問題が解決するわけではありませんから、仕方のない事でしたが…」
その中にはきっと思い出の品とかたくさんあると思います
ん……でしたが?
ユリカ「素直に人に頼る事を教えていただいたので、ハナヨちゃんにお願いがあるのです」
花陽「……ん、はい」
ユリカ「あの不思議なモノの性質を変えるスキルでお金の問題をどうにかすることはできませんか?」
花陽「モノの……ああ、隣の観測者ですか」
このスキルでお金の問題をどうにか……んー
花陽「何か売ったらすごく高い物を作るとか?」
ユリカ「それだと相場にもよりますが、一時的なしのぎにしか……」
あまり高すぎる物を売るとしても、今の私達には伝手がないうえ、若輩者だと交渉が上手くいかない可能性があるとユリカちゃんは付け加えます
花陽「お金そのものを作るとしても……」
ユリカ「……?」
スキル「それ正解!」が発動しない
つまりこの案は無理という事ですか
花陽「たくさんのお金を作り出すのは無理でした」
ユリカ「数が多いとダメということですか」
花陽「作るのはあくまで1つですから」
ユリカ「なるほど……」
二人であれこれ考えてもいい案が出ないのでみんなの意見を聞いて見ましょう
-夜 1F広間
晩御飯の席で作戦会議です!
アイナ「お金を作る……ねぇ」モグモグ…
アヤ「確かに金銭的負担が無くなれば色々と助かるけど…」パクパク…
花陽「この先の事も考えるとあったほうがいいのは確かです」キラキラ…
スズ「しかし直接お金を作るのは無理……という事ですか」ズズ…
話の内容が少し難しい部類になるので、子供達は先に食べてお風呂に入っています
スキルの残り使用回数も考慮して考えないといけません
アイナ「フワちゃんにも相談してみるとか?」
スズ「それもいいですね」
日中ずっとフワちゃんとおしゃべりしていた二人
いつのまにかすごく仲良くなって、なんだかフワちゃんをお姉さんのように慕っています
まぁフワちゃんて、どこかできる大人の女性ってイメージはあります
フワ「お邪魔しまーす」コツコツ…
ユリカ「どうぞ〜」
スズ「フワさん、こちらにどうぞ」
アイナ「紅茶でいいかな?」
フワ「あら、なんだかお姫様みたいな待遇ね」
花陽「フワちゃんは人気者です」キラキラ…
フワ「ご飯のたびに光ってるのね、花陽ちゃん」
花陽「正直慣れたとはいえ、外でご飯を食べる時はちょっと考えものです」キラキラ…
フワ「なるほど、お金の問題は確かに大事ねー」
アイナ「一回のスキル使用でうまくいくいい方法ないかなー?」
フワ「お金といっても国によって通貨が違ったりするし、花陽ちゃんが持つイメージにあわなかったら意味ないしね」
花陽「これから行くユーディクスはまた違う通貨なんですか?」キラキラ…
ユリカ「はい。国ごとに独自の紙幣、通貨があります」
レート換算とか、そういう仕組みはどうなってるのかな?
アヤ「あ、思いついた!」
アイナ「何かいい案があるの?」
アヤ「お金が無限にでてくる財布を作ればいいんじゃない?」
スズ「無限に……」
花陽「でもそれだと、お金が無限に出るのと、財布との2つの願いが入っているから…」キラキラ…
アヤ「そこをさ、今使ってるユリカ姉さんの財布を変えればいけるんじゃない?」
花陽「あ、元々の財布を変化させるんですね」キラキラ…
フワ「急場しのぎだとそれでいけるかもしれないけど、花陽ちゃんが持ってるお金のイメージってこの国のだけでしょ?」
花陽「はい。硬貨を数種類みただけです」キラキラ…
アイナ「それでもそれは無限にでてくるのか…」ゴクッ
ユリカ「貴重な勇者様のスキルをその場しのぎに使うのは……」
フワ「もしこの先新しい紙幣、硬貨が作られて流通が変わればただの紙切れになるわね」
スズ「それに紙幣には通し番号があります。そこはどうなるのでしょう?」
アヤ「うう、そんな一気に責めなくても……」
花陽「可能ではあるけど、少しもったいないという事かな?」キラキラ…
ふむ……意外にこれ!っていうスッキリした方法がないですね
トトト… カタッ
エミ「あの、お姉さまがた…」
フワ「あらエミちゃん。どうしたのー?」
エミ「先ほどからお話しされているお金の問題について一つご提案があるのですが……」
追いついた!
スレタイが伏線になってるのかな?
面白く読ませてもらってます! -次の日 国境沿いの街道から少し外れた川辺
昨日の夜、エミちゃんから問題解決に対するすばらしい提案がありました
最年少のわりにしっかりしているなとは思っていましたが、すごく賢いのです
花陽「うー……」
ユリカ「ハナヨちゃん、もう少しだけガマンしてね」
花陽「わかってます。これもスキルのため……」
スキル「隣の観測者」の発動条件を満たすために私は朝食を抜き、部屋でゴロゴロしているところです
エミちゃんの方法でお金の問題がうまくいくのはスキル「それ正解!」で確認しています
その場合必要になるのが……
花陽「みんなはもう準備してるの?」
ユリカ「はい。川辺で待機してます。と、いうか遊んでます」
エミちゃんが提案してくれたのは、ズバリ!「放棄されて久しいお金を集める箱」です
ユリカ「確かに世界中、ありとあらゆる場所で放棄されているお金というのはものすごい数がありそうです」
花陽「さらに「お金」という世界共通認識によるイメージの固定によって、それが「お金」である以上、すべて対象になるっていうのがすごいね」
ユリカ「紙幣が変わろうとも、国が変わろうとも、そこは変わらない部分ですしね」
ホントにエミちゃんのナイスアイディアです。放棄と管理は別なので、人様の金庫から盗る事もない
ちなみに財布ではなく箱としたのは、回収時の許容量を考えての事だそうです
セト村から持ってきた荷物を入れた箱を1つ、魔法の箱に変化させるのです
花陽「上手くいって、はやくご飯が食べたいです」
ユリカ「ふふ、私がおいしいお昼ご飯、作っておきますね」
花陽「わ〜い♪」
世界中から放棄されたお金を集めるという事は、山道や排水溝、ちょっと汚い場所のお金も集めるということです
つまり、最初にするべきことは…
そう、硬貨の洗浄です!
花陽「紙幣はある程度仕方がないけど、硬貨はきっとすごいことになりそう」
ユリカ「たくさん集まるといいですね」
花陽「お金の問題が解決すれば、ユリカちゃんは何かしたい事はある?」
ユリカ「そうですねぇ……んー」
ユリカちゃんだって年頃の女の子です。おしゃれしたり、美味しいものを食べたりと思うのは自然です
ユリカ「今は……特におもいつきませんね」
花陽「そうですかー…」
無欲というより、あまりそういうものに興味がないのかな
村ではどんなことをして遊んでたんだろ?
そうこうしているうちに、運命の時はやってきました
花陽「では、行きます……」ドキドキ
ユリカ「お願いします」
リホ「わくわく」
パイ「どきどき」
ヨシノ「そわそわ」
アイナ「上手くいっておいしいもの食べられますように」ナムナム
アヤ「可愛いお洋服とか買えますように」ムムム…
なにやら煩悩もきこえてきますが、やりましょう
花陽「すいません、隣のものですが、この箱は「放棄されて久しいお金を集める」箱でしょうか?」シュウゥゥ…
キラキラ… カッ!
いつもとはちょっと違うニュアンスで唱えてみます
このスキルは私のお願い事に対して可能ならはYESという形で返してくれるスキルです
この場合は目の前にある箱がどういう性質のものか問いかけて、YESの返答を貰って変化させます
いつもの、〇〇はありますか?→YES から、これは〇〇ですか?→YESというもの
応用技? というやつですね
シュウゥゥゥゥ…… デデーーーン!
花陽「出来ましたっ!」
キラキラキラ……
何かの副次効果でしょうか、ただの大きめな木の箱が変化して、ゲームにあるような宝箱になってしまいました
………いいのかな?
スズ「おお、なんと見事な……」
ソラ「………スゲー」
ユリカ「若干形状が変わっているけど……これが?」
エミ「なんてデタラメなスキルでしょう……」
木の箱、改めお金を集める金の箱!
しかも無制限にお金をただ集めるだけじゃなく……
花陽「えっと、イメージで流れてきたこの箱の使い方を説明しますね」
フワ「みんなしっかり聞いておくのよ」
金の箱には1つのボタンとメーターのような表示板があります
操作は単純、箱を閉めて集めるボタンを押すと世界中から放棄されたお金を集めます
そしてメーターが一定値を超えると動作を終える
箱の中がいっぱいになると自動で止まるなんて、やけに便利な設計になったものです
リホ「すごいのー」
ヨシノ「きんぴかっ」
パイ「はやくやってみせて〜!」
花陽「それじゃ、パイちゃんこのボタン押してくれる?」
パイ「え、ぱいが押していいの?」
花陽「うん」
パイ「わーい!」ポチッ
アヤ「はやっ」
カタッ ブブブ… ガシャガシャガシャ!! ガコガコガコ!!
ガタガタガタッ! ジャリジャリジャリッ
アイナ「だ、大丈夫なの?」
エミ「これは、硬貨が大量に投入されている音ですね」
スズ「おぉ……」
時間にして30秒ほどで箱はいっぱいになったようです
さて、世界中から集められたお金というのを拝見しましょう
花陽「じゃあ開けますね」
フワ「いよいよね」
ガチャッ ギイィィィ………
ユリカ「っ!? こ、これは!!」
エミ「くく………っ!」
「「「くさ〜〜〜い!!!」」」
世界中の硬貨は同時に、世界中の泥や汚いものも運んできたようです
フワ「ちょっと、これって有毒成分とかない? 大丈夫なやつ?」
花陽「あっ……ど、どうなんだろ?」
エミ「私達はハナヨちゃんのおかげでケガや病気にもならない体ですけど、ハナヨちゃん本人は…」
ユリカ「えっ!? た、大変!!」
フワ「それなら大丈夫よ。花陽ちゃんはもうこの世界で死ぬことはないから」
花陽「………え?」
なぜか私も知らないような事をフワちゃんから聞かされました
フワ「えって……自分のスキルでしょ? 把握してなかったの?」
花陽「はい」
フワ「まったく、そういうところはのんびりしてるのね」
花陽「えっと……自分でも把握してないスキルとかあるので、深く考えていませんでした」
ユリカ「と、とにかくハナヨちゃんも平気なんですね?」
フワ「大丈夫よ。でもこのお金がそういった成分に毒されていないかチェックするのも大事になるわね」
アイナ「町で使えないんじゃ意味ないしね」
アヤ「それと、予想通り硬貨のほとんどが汚れてるから、川で洗浄ね」
リホ「きれいきれいするっ!」
パイ「紙のおかねはー?」
エミ「使えそうなのだけを頂いていきましょう」
予定を変更して今日は一日みんなで硬貨洗浄です
と、その前に……
花陽「ユリカちゃん、お腹がすきました」
ユリカ「は〜い」
続くー
週末お出かけするので、もしかしたら更新が来週になるかもです… ほんとほぼ毎日更新でありがたい
いつ死ななくなったんだ… おつおつ
エミちゃんがキーパーソンなんだろうけどどうなるのかしら 金銭的問題は解決しました
それもなんだかすっごいモノを掘り当てて……
エミ「わあぁぁ! こ、これは失われたといわれる旧ビィビ王国の硬貨!!」ビクンビクンッ
リホ「なんかピカピカして綺麗なのもあったー」
エミ「きゃぁ! これは西の公国プランタスの100周年記念硬貨!!!」ビクッ
パイ「変なおじさんの顔ーきもちわるい」
エミ「そそ、それは!! 南の城塞都市グレイトリリーの剣王就任記念硬貨!!!」プシゥ…
アイナ「詳しいなーエミちゃん」
アヤ「ね」
花陽「この世界にも記念硬貨なんてあるんですね」キラキラ…
ユリカ「ハナヨちゃんの世界にもあったんですか?」
花陽「初めてそういうのが作られたのがオリンピックで、それから歴史的なイベントや天皇行事等に作られたりとか…」キラキラ…
ユリカ「お祝い事かなにかですか? そのあたりは共通なんですね」
馬車からのんびりご飯を食べながらお金の洗浄作業を見守る
作業というか、水遊びついでというほうが正しいかもしれません
フワ「ふふふ、それそれっ」バシャバシャ
ヨシノ「おうふ、冷たい」
ソラ「あー、お金が散らばってるよ」
楽しそうです
スズ「姉さん、最初に集めたお金の選別はだいたい終わったよ」
ユリカ「ご苦労様。それでいくらくらいになったかな?」
スズ「なぜか綺麗な札束でごっそり集めてきてるのとかもあるから予想よりかは多いかも……あとは…」チラッ
エミ「はわわ、幻のウラルカナルコイン!!」ビクンビクンッ!
スズ「エミちゃんがすごく珍しくて貴重な硬貨を見つけてくれてるから、あれが売れればもっと」
ユリカ「それは楽しみね」
エミ「っ!?」ピクッ
花陽「ん?」キラキラ…
エミ「………いま哀しい言葉を聞いてしまいました」
エミ「この歴史的価値が計り知れない硬貨……売るんですか?」
アヤ「え、だってそのために集めたものだし……?」
エミ「そ…………そうですか…………ぅぅ」ガクッ
あら……目に見える勢いでテンションが下がっていくエミちゃん
記念硬貨、好きなんだね
花陽「いいよエミちゃん。欲しいのがあったらエミちゃんにあげますよ」シュウゥ…
エミ「へ……ホ、ホントですかっ!?」パァッ…
ユリカ「その記念硬貨がないと資金が足りないってわけでもなさそうだし、いいんじゃないかしら」
スズ「正直エミちゃん以外にはその硬貨の価値はわかりませんし…」
アヤ「ま、ハナヨちゃんがいいなら私はどっちでも」
エミ「ありがとうございます! 大切に、生涯宝物にします!!」ガシッ ブンブン
花陽「そんなに喜んでくれるならよかったです」ベト…
ユリカ「エミちゃん、まずは手を洗いましょうね
元々放棄されて忘れられたお金です。好きにしちゃいましょう!
それよりも少し大人びたエミちゃんが子供らしい愛らしい姿を見せてくれたのが嬉しいものです
リホ「次わたしー」ポチッ
花陽「あら?」
カタッ ブブブ… ガシャガシャガシャ!! ガコガコガコ!!
ガタガタガタッ! ジャリジャリジャリッ
ユリカ「ハナヨちゃん、追加がきました」
花陽「そうみたいですね。よし、私も洗浄やりますかっ」
-夜
結局夕方まるまる使ってお金集めと洗浄をがんばりました
合計4回ほど箱をいっぱいにしましたが集まるお金の勢いは衰えません
実際日本でも落ちてるお金とか全部集めたらどれくらいになるんだろう?
フワ「はい、じゃあここに座って〜」ポンッ
花陽「えへへ、おじゃましますっ」ボフンッ
汚れた体をみんなお風呂で綺麗さっぱりしました
晩ご飯の準備をアヤちゃんとユリカちゃんがしてくれている時間、
私はその時間にフワちゃんに呼び出され、スキル講座を受ける事になりました
そして今、最高のソファに頭から沈みこんでいます
フワ「ふふ、子供ができた気分だわ」
花陽「フワちゃん、フワフワのモフモフです〜」
くつろぐフワちゃんのお腹にボフっと埋まるこの感覚、やみつきになりそうです
フワ「それじゃあスキルボードをだして」
花陽「寝転がったままでもいいですか?」ヴォン
フワ「いいわよ」
展開したスキルボードはあいかわらず???が数個あります
そういえばどうしてフワちゃんは私のスキルについて知っているんでしょうか?
フワ「それは単純な答えよ。私は花陽ちゃんから生まれた存在で、あなたの中にあるスキルが元になっているから」
花陽「え、フワちゃんて私から生まれたの?」
フワ「言葉通りにってわけじゃないけど、まぁもっとざっくり言うとこのスキルの中から生まれたって方がわかりやすいかな」
さすがに世界のどこかにいるフワちゃんを無理やり連れてきたとか、そういうのではないとは理解していましたが…
フワ「さ、それよりもお勉強よ」
フワ「まずはこのスキル「GOHAN屋通い」についてわかってることは?」
花陽「これは知ってます! お米を食べるとパワーアップです!」
フワ「はい、じゃあナビ妖精の解説を聞いて見ましょうか」
ピピッ
――お米の真の味が解る。空腹の度合いによって身体能力効果と効果時間が向上延長される
花陽「え、そうだったんだ……」
フワ「ほらわかってない〜」
ただ食べてパワーアップ! というスキルじゃなかったんですね……そしてまた私のお腹の具合によると……
フワ「花陽ちゃんてあまりゲームとかしないほう?」
花陽「ゲームは凛ちゃんやにこちゃん達がやってるのを眺めてる程度で、あまり……」
フワ「そうなの。自分のステータス確認は大事だからこまめにするといいわよ」
フワちゃんはゲームという言葉も、凛ちゃんにこちゃんの事も知っているのかな?
でも私のスキルの事は知っていても、私自身の事は知っているわけじゃない。不思議なアルパカさんです
花陽「今度からなるべく見るようにします……」
フワ「では次に「無垢なる罪人」についてはどこまで知っているの?」
花陽「これは悪意ある人が近くにいると知らせてくれて、私に触れられなくなる……?」
このスキルは解説を聞いてもよくわからないのです
フワ「とりあえずナビ妖精の解説を聞いてみて」
花陽「はい……」
ピピッ
――深淵に佇む一人の乙女
乙女は何も知らない。知ろうとしない
――無垢で、純粋で、汚れを知らない乙女は世界の悪意に晒される
それでも乙女は知ろうとしない。無知で、愚鈍で、傲慢で身を落とす深淵の乙女
――乙女の罪は裁かれず、ただ…何も知らない愚者であれ……
花陽「ね、これで分かれと言うのが無理じゃないでしょうか?」
フワ「んーでも一応これでもヒントはあるのよ」
スキル解説をお願いしたら曖昧なヒントだけ教えてくるナビってどうかと思います
フワ「まぁ花陽ちゃんにあわせて解り易く言うとね…」
花陽「う……はい」
フワ「花陽ちゃんはこの世界ではつねに1つ隣の次元に存在するのよ」
花陽「あ、それは「隣人花陽」のスキルでですか?」
自分の名前がついたスキル名ってなんか恥ずかしいです
フワ「そう。本来花陽ちゃんにはこの世界のものすべてが触れないし、干渉なんてまずできない存在」
花陽「ふむ……」
フワ「でもそのままではただ不便だから、こっちのスキルで線引きしているのよ」
花陽「それは、触れられるモノとそうじゃないものを「無垢なる罪人」が仕分けしていると?」
フワ「もっと端的に言うと「悪意」に晒された時、花陽ちゃんは本来の存在、1つ隣の次元に移動している状態ね」
自動で回避してくれていると、そういう認識でしょうか?
フワ「ここで大事なのは、花陽ちゃんはこの「無垢なる罪人」によって悪意から守られるけれど、それにも種類があるの」
花陽「悪意の種類?」
フワ「そう。花陽ちゃんは「無垢なる罪人」が新たな悪意を感知して、領域を拡大したってナビを聞いた事ない?」
花陽「んー……そう言われると、あったようななかったような…?」
フワ「正解は、二回ありました」
いつも対象に対する悪意が〜って流れだったからちゃんと聞いていなかった……
フワ「そしてこの領域拡大が二回おこなわれたことによって花陽ちゃんは誰にも殺す事ができなくなったの」
花陽「え……殺す……って、物騒ですけど、そういう意味で?」
フワ「そういう意味よ」
今思い出しても背筋が凍る思いです。実際に私は殺されそうになったことがありました
フワ「じつは領域拡大がおこなわれる前にかぎって言えば、花陽ちゃんはこの世界で死ぬ可能性があったのよ」
花陽「え」ドキッ
フワ「まず最初の悪意、これは単純に誰かが花陽ちゃんを殺そうとする悪意ね。これには花陽ちゃんを傷つけようとする悪意も含まれているわ」
花陽「…………」ゴクッ
フワ「そして1回目の領域拡大で追加された悪意が、花陽ちゃん自身を使ってどうにかしようとする悪意ね」
花陽「私をどうにかする……というのは?」
フワ「例えば花陽ちゃんを捉えて人質にしたり取引に使われたり、はては凌辱したりしようとする尊厳に対する悪意よ」
花陽「凌……え……っと、つまり、私を……」
フワ「レイプしようとしてたってこと」
花陽「」ゾクッ
端的に話すフワちゃんの言葉がかえってストレートに響きます
私は誰かからそういう意識で見られ、襲われていたという事でしょうか……
………ぅぅ、殺されるのも嫌ですが、これはもっと恐ろしく感じます
フワ「そして待望の二回目の領域拡大。これで無敵になった花陽ちゃん」
花陽「二回目の領域というのは……」
フワ「解り易く言うと、他力本願な悪意ね」
花陽「解り難い……」
フワ「例えば、誰か花陽ちゃん殺してくれないかなーとか、事故って死んじゃわないかな〜とかよ」
花陽「フワちゃんは重い言葉をさらさらと並べすぎです」
フワ「お勉強なのに雰囲気作ってどうするのよ」
花陽「まぁそうですけど……」
フワ「もし仮に今ここに爆弾や大砲の流れ弾が飛んできても、不慮の事故という誰かが望んだ悪意として、花陽ちゃんは無傷よ」
花陽「おぉ……」
フワ「これはさらに言うと、花陽ちゃん自身が誤って毒物を口に含んだとしても誰かが願った不慮の事故となるわ」
花陽「すごいですね、私」
フワ「馬車にいるあの子達が善意から花陽ちゃんに食べてもらいたいと思って用意した毒キノコなども含まれるわ」
花陽「できればそんなことはないと願いますが、まぁ安心というわけですね」
フワ「よかったわね。それを願ったどこかの誰かに感謝しておきなさい」
花陽「どこの誰かは存じませんが、ありがとうございます」
フワ「でも注意しないといけないのは、これらのスキルはあくまで「悪意」から花陽ちゃんを守るもの」
花陽「あ、それは分かります。警察の人に私が捕まった時にそういう事なのかなって思いました」
あの人達には悪意なんてありません。悪い人を捕まえるという正義の志があったのです
フワ「でもそこに、誰かに唆されて花陽ちゃんを捕まえようとしたとなると、また別よ」
花陽「善い人を利用できないという事ですね」
フワ「あの日の夜、花陽ちゃんがユリカちゃんを助けようと警察の人に突っかかったことがあるでしょ?」
花陽「それは……はい……」
フワ「あの時、ユリカちゃんを捕まえたいと思っていた商人の男は花陽ちゃんの存在すら知らなかった。だから花陽ちゃんは取っ捕まったのよ、私は止めようとしたのに」
花陽「厳しいご指摘……」
この先もしも似たような状況があったり、すれ違いによる勘違いからでも私は善人にはちゃんと捕まるわけですね
花陽「あ、そういえばフワちゃんは残りのスキルも知ってたりするの?」
フワ「この???になっている部分?」
花陽「残り6つ、いまだに???のままなやつです」
フワ「ごめんなさい、判らないわ〜」
花陽「ありゃ、そうですか」
フワ「残りのスキルはどんな色なのかしら?」
花陽「えっと……???の文字色で判別していいんですよね?」
フワ「それで大丈夫だと思うわ」
見たままで言うと、碧、碧、金、金、金、青……かな
金色が最高ランクだって聞いてましたが私のスキルはどのランクにもない碧が多めです
フワ「碧色はね、花陽ちゃん自身のもつ魂の色よ。ランクじゃない、唯一無二の色」
花陽「魂の……色……」ドキッ
少し大げさな表現だなと思う反面、馴染みのある色は私の心を落ち着かせてくれる
異世界にきて数日……この優しい碧の輝きは、私がスクールアイドルであるという事を忘れずにいさせてくれます
フワ「残り6つ。おそらくだけど、発動条件が必要なのと花陽ちゃんが認識していないだけの2種類かしら」
花陽「認識ですか……」
フワ「この世界の常識と花陽ちゃんの中の常識とで微妙に差異があるせいもあるかしらね」
花陽「なるほど……」
ガチャ
スズ「ハナヨちゃん、ご飯の用意ができましたよ」
花陽「あ、はーい」
フワ「続きはまた今度にしましょうか」
花陽「はい、ありがとうございます」
スズ「フワさん、今日は冷え込みそうですし、中に入られてはいかがです?」
フワ「ふふ、この毛皮は本当に温かいのよ」
花陽「気持ちいいです」モフモフ…
フワ「それに、いちおう夜の警備も兼ねてるからね。ありがとう」
スズ「そうですか。では………っ!?」ピクッ
フワ「あら……やーねぇ……」ムクッ
花陽「わっ……どうしたんですか?」
スズ「ハナヨちゃん、何者かがこちらに接近中です」
フワ「それもけっこうな数ね……」
花陽「え、え!?」
ピピッ
――対象に対する「悪意」を感知しました
スキル「無垢なる罪人」を発動します
しゃべるアルパカ、女子力高いときたらCV:徳井青空しかでてこん 花陽「スキルが……」
フワ「スズちゃん、中のみんなに知らせて」
スズ「はいっ!」ダッ
フワ「花陽ちゃん!」
花陽「は、はい!」ビクッ
フワ「クリエイトで私の戦闘技能設定ってあったでしょ?」
花陽「あ…ありました」
フワ「そこで設定できる技能、全部使えるようにして! それと中でご飯もらってきなさい」
花陽「ええと……技能設定、技能設定……中でご飯……」
フワ「まずは落ち着きなさい」
そんな事言われても、突然の事態にすぐ動き出すフワちゃん達と違って私にはまだどういう状況なのかさえ……
フワ「しっかりなさい、敵が来てるのよ!」
敵……私達に危害を加えようとする存在
さっきスキルが発動したから間違いないと思います
だけどこんな何もないところでどうして?
ガチャッ ダンッ
ユリカ「ハナヨちゃん、敵がきたというのは本当ですか?」
花陽「さっき悪意を感知したから間違いないと思うけど…」
フワ「ユリカちゃん、花陽ちゃんにご飯用意してあげて!」
ユリカ「そ、それが……」
ユリカさんの言葉にいつも冷静で余裕のあったフワちゃんが初めて表情を変えました
フワ「え、今日はご飯じゃないの?」
ユリカ「ごめんなさい……お昼もそうでしたし、違うものもいいかなって……」
フワ「仕方ないわね。花陽ちゃんはデコイ役として走り回ってもらう?」
花陽「デコイ……?」
ユリカ「フワさんそれは……」
フワ「緊急事態なんだから適材適所よ」
私にわかりやすく説明してくれました。なんとも荒っぽい役回り
ようは、私が囮となって敵を引き付けるという事です
確かにスキルによって私は無敵も同然かもしれませんが……
フワ「頼りにしてるわよ」
花陽「怖いのには変わりないんですよー?」
エミ「敵ですか、ハナヨちゃん!」ダッ
花陽「エミちゃん!?」
フワ「でてきちゃダメよ、中に入ってなさい!」
エミ「敵はどこから向かってきているのですか?」
花陽「エミちゃん、今はそれどころじゃ……」
フワ「………何か考えがあるの?」
エミ「状況によります」
花陽「……ん?」
フワ「私は気配を感じるだけで正確な位置はわからないわ」
ユリカ「それならスズがわかると思います。あの子のスキルは周辺探知に長けているので」
エミ「すぐに正確な位置と数をだしてもらってください」
花陽「えーっと……私はどうすれば?」
エミ「ハナヨちゃんはまだ待機を」
花陽「わ、わかりましたー」
エミちゃん、なんだか人が変わったようなするどい目つきに……
フワ「まかせていいのね?」
エミ「提案はしますが、決定はフワさんにお任せします」
フワ「わかったわ」
なんだか蚊帳の外って感じですが、一度私達を救出するための作戦を立案したのがエミちゃんです
こういう事に慣れているのでしょうか?
スズ「確認しました。北の方に10人程度、こちらの様子を窺っています。それと西の岩場に3人」
フワ「おそらくそっちが本命ね。どういう連中かわかる?」
スズ「所属まではわかりません」
エミ「一気に襲ってこないのは、おそらくこの異様に大きい馬車がなんなのか不明なためでしょう」
フワ「外にいるのが私みたいなのだしね」
エミ「それでも襲撃をするつもりなのは何か事情があるようですね」
スズ「この辺りを徘徊している盗賊の可能性は?」
フワ「すぐ近くに国境もあるのに、警備隊が黙ってないんじゃない?」
エミ「いえ、それなら話は分かります。いまこの国の治安はガタガタなのですから」
話にまるでついていけなさそうなので大人しくフワちゃんの戦闘技能設定でも弄ってよう
ソラ「スズ姉、ボクも戦う!」ザッ
スズ「ソラ、だめよあなたは!」
ソラ「なんでだよ、スズ姉ちゃんも戦うんだろ!?」
スズ「ロクな武器もないのに何言ってるの!」
ソラ「それはスズ姉ちゃんも一緒だろ、木刀でもやれるよ!」
いつも寡黙で大人しいソラくんがすごく熱くなってます
相手は私達に危害を……この場合、もっと酷い事をするつもりです
ソラ「もうイヤなんだよ、何もしないで隠れてるだけなんて!」
スズ「ソラ……」
ソラ「ボクもお父さんの仇を取るために、強くなりたいんだっ!!」
ユリカ「ソラ……あなた……」
花陽「……………」
フワ「やっぱり男の子ね」
少し……いえ、けっこう……ドキっとしちゃいました
スズ「いいソラ、死なない体だとしても、ものすごく痛いし苦しいのよ?」
ソラ「そんなのみんな同じだろ」
エミ「ふふ、その通りですね」
花陽「エミちゃん……」
エミ「戦いましょう。みんなで」
フワ「花陽ちゃん、設定は?」
花陽「これで……いけるかな?」ポチッ
アルパカクリエイトにあるメニューから戦闘技能設定を開き、使用可能スキルをかたっぱしからonにしました
フワ「っと、全部使えるようになったかわりに調整も必要っぽいわね……でもっ」グッ
エミ「北の敵はフワさんとスズさんでお願いできますか?」
スズ「二人ですか?」
フワ「私一人だと相手はできても抜けられる可能性もあるからね」
エミ「こっちは私達で対処しましょう、ハナヨちゃん」
花陽「はひっ!」ドキッ
急に名前を呼ばれて驚いちゃうけど、そうですよね。こっちは私達でなんとか……
スズ「っ!? やつら動きました!」
フワ「オッケー、突っ込むからスズちゃん背中に乗って!」ダッ
スズ「了解です。では姉さん、こちらはお願いします!!」タタッ
ユリカ「き、気をつけてね!」
ソラ「がんばれっ!」
エミ「それではこちらも作戦です」
ユリカ「なんでもやるわ!」
ソラ「やってやるぜ!」
アイナ「子供達は二階に避難させてきた」
アヤ「当然、わたし達だってやるわよ!」
それぞれ手におたまやフライパンを持ったアイナちゃんアヤちゃんも加わり、西から来る敵に備えます
ユリカ「どうすればいい?」
エミ「まずは……」
ホントに突然の事ですが、私達の戦いが始まろうとしています
フワちゃんとスズさんが北の集団に突撃してから3分程して西から3人やってきました
申し訳ないですが見るからに悪そうな人達……盗賊団という方々です
正直前に立つのも遠慮したいところなのですが、これも作戦です
花陽「でで、では……行ってきます」ガクガク…
ユリカ「ハナヨちゃんなら大丈夫です」グッ
エミ「ファイトです!」
うぅ……安全とはいえ、慣れるものではありません
花陽「できるだけ……怯えた感じで……」
演技としてではなく、普通にできそうです……ぅぅ
「誰かいたぞ……女だ」ザッ
「へへ、こいつはけっこうなもんじゃねーか」ザッ
「油断はすんなよ」
花陽「………………」ジ…
平和的なんてもってのほかです、この人達いきなり手に物騒な剣を持ってます!
でも逃げずに…なるべく引き付けて……馬車の近くに……
花陽「あ、あの…何か御用ですか?」
「ああそうだ、用はあるぜ」
「こいつはなんだ?」コンコン
花陽「なに…と、言われても……うちの馬車ですが……」
「はぁ、どこのシロモノだよ」
「まぁいい。じゃあこいつは頂いていくぞ」
花陽「え……どうして……?」
「見て分かんだろ、俺らが旅の行商人にでも見えるか?」
「おい女、他には誰がいる?」
できれば二人だけど……最低でも一人は捕まえる……そのためには……
花陽「中には家族がいます。あげられるものはないのでどうぞお帰りください」
「はぁ、お前状況わかってんのか?」スッ
作戦は……とにかく相手を逃がさないこと……
花陽「わ、わかってますよ……でも、何もないんですよぅ……」ビクッ
「ないんならお前の身体を頂いちまうだけ……」サッ
来ました
「………は?」スカッ
花陽「ごめんなさい、私には触れないんです」ガシッ
私を捕まえようとした盗賊の手が私をすり抜ける。そして一方的な干渉でその腕を捕まえます
前に一度できていたのでいけるとは思いました……けど、
「うわぁ、なんだコレ!?」ググッ
「術者だ、離れろ!」サッ
「かまわねぇ、やっちまえ!」サッ
右手で一人を捕まえ、左手でもう一人を捕まえようとしたけどダメでした
私の異常な状態に他の二人は慌てて距離を取ります
ですが注意が私に向いているなら十分です
バッ!
ソラ「でやーー!!」
ガンッ!
「ぐふぉぉっ!?」
「ガキ!? どこからっ!!?」
ソラ「ガキじゃねー!!」ブンッ
「く、こいつ!」ガッ
まだ非力なソラくんですが、馬車の屋上から飛び降りての一撃なら大人を倒すのには十分です
突然の奇襲に残った一人は逃げようとしますがソラくんが襲い掛かる
エミ「援護しますっ」バッ
馬車から飛び出したエミちゃんがその手にしていたのは小さな光の弾
あれが例の……
エミ「ソラくんハナヨちゃん、耳を塞いで!」ブンッ
ドォォォォォォン!! ブオッ
「うおぁっ!?」ガクッ
ソラ「そこだっ!」バッ
トロスタンの町で騒ぎを起こしたという音と粉塵の魔法
殺傷能力はないものの、威嚇には十分な効果です
ソラ「やー!」ブンッ
「くそ、ガキがなめてんじゃねー!!」グッ
ソラ「うあっ…!」
しかし相手は人を襲う事を仕事にしてるような盗賊です
一瞬怯みはしたものの、すぐに体勢を整えてソラくんの腕を掴み上げる
アヤ「………」コソ…
アヤ「離せ、このっ!」ドカッ
「うほぅっ!?」サッ
ソラ「わっ」ドサッ
アヤちゃん!? いつのまに背後に……というか股間を思いっきり蹴り上げた衝撃で盗賊がソラくんから手を離す
あれって痛いんですよね?
「ぐぬあぁぁ、なんで、離れねぇんだ、くそっ!」グッ
花陽「ちょっと大人しくしててください」
捕まえた一人が抜け出そうともがきますが、これ本当に無理みたいですね
「ぬらぁ!」ブンッ
花陽「ひゃうっ!?」
残った片手で乱暴に剣を振り回してきますが、あたらないとはいえちょっと怖いです
アイナ「………」ソー
「くそっ、なんなんだよこれはよーー!!」
ブンッ ゴインッ!
「ぐふっ……」クテ…
アイナ「はぁ、はぁ…殺った?」
花陽「殺っちゃダメです!」
暴れる盗賊に背後からアイナちゃんのフライパンがさく裂しました
力がすっと抜ける感じがしたので、気絶したようです
アイナ「これで二人、あと一人!」グッ
花陽「加勢に行きましょう!……ん?」
ふと倒れている盗賊が手にしている武器……鉄製の剣が目に入る
ロクな武器がないまま戦っているスズちゃんやソラくんに、これを……
花陽「…………」
アイナ「ハナヨちゃん?」
でも、これってやっぱり……人を傷つける以上に、命を奪う武器になるんですよね
これを……ソラくんが使う……
花陽「………」ドクン
もう頭では理解しているのに、私の中の理性が最後の一線を越えてくれません
きっと必要になるのはわかっているのに……
アイナ「あ、こいつの剣丁度いいじゃん、もらっちゃお!」ガッ グイ
花陽「あ…………」
アイナ「ソラっ! これ使える?」スッ
アヤ「きゃー! きゃー!」
ソラ「ちょ、今それどころ…じゃっ!」ガッ バッ
「ガキがチョロチョロと」ブンッ
盗賊がアヤちゃんへ標的を変え襲い掛かりますが、ソラくんが間に入って応戦
しかし人を切るための武器と木刀じゃまともに打ち合うのも容易ではないようです
ユリカ「アイナちゃん、のびてる奴は縛り上げたわ!」キュッ
アイナ「こっちにもいるからお願い!」
ユリカ「わかったわ!」
エミ「アイナちゃん、その武器貸してください!」
アイナ「え、これ? わかった」サッ
奇襲的なものは終わり、最後の一人とソラくんとの直接対決状態になっています
「このクソアマー待ちやがれ!」ダッ
アヤ「キャー!」スタタタタ…
ソラ「アヤ姉、下手に走らないでこっち来てくれよ!」タタッ
アヤ「え? あ、行く〜!!」タタッ
なんか、あまり緊張感はありませんが……
エミ「もう一度いきます、みんな……」スッ…
花陽「あ、また耳を……」サッ
エミ「目を閉じてっ!!」バッ カッ!
花陽「えっ!?」
ピカーーーーン…
花陽「ひゃあーーーー!!」
エミ「え、ハナヨちゃんどうして?」タタタ…
花陽「てっきり……耳を塞ぐものと……ああぅ、目がぁぁー」
エミちゃんが頭上に投げた玉のようなものが突然爆発したと思ったらすごい光が視力を一気に奪っていきました
そういえば身内の魔法とかはちゃんと私に効くんですね……ぅぅ、目が染みるー
ソラ「………っ!?」チラッ
「………危ねぇ、あやうく目がやられるところだったぜ」
ん、もしかして盗賊も目を閉じて回避したのでしょうか?
じゃあこの奇襲は失敗?
エミ「何言ってるんですか、みんな目を閉じて脚を止めたから……」ザッ
ソラ「あ、これ…」ガッ
エミ「これ使ってください、ソラくんならきっと大丈夫です!」
「こいつ、俺らの武器を!?」
ソラ「まともに打ち合えるならもう怖くねぇぞ!」バッ
「ガキが、武器もった程度で調子のってんじゃ……」サッ
エミ「今度は威嚇じゃないですよ!」シュウゥ……ドンッ
ドカァン!
「ぐおあっ!」
ソラ「でやぁぁ!」ザッ
え、え、なになに、なんだかすごい爆発音が……何も見えないんですけどっ!
ユリカ「ハナヨちゃん」サッ
花陽「ぴゃあっ!?…って、ユリカちゃん?」
ユリカ「大丈夫ですか?」ギュ
花陽「あ、う、うん…ちょっと目が見えなくて……なにがあったんですか?」
ユリカ「……もう、終わりましたよ」
ユリカちゃんがもう終わったと告げてから数分して、ようやく視力が回復しました
最初に視界に飛び込んできたのは、倒れる盗賊とその喉元に剣を突きつけるソラくんの姿…
花陽「……………」ドクンッ
一瞬、ソラくんが盗賊の人を殺しちゃったんじゃないかと思い、心臓が強く跳ねます
すぐにそれは間違いで、倒れている盗賊は両腕を縛られた状態で動けなくなっているのがわかりました
花陽「…………ふぅ」
安堵すると同時にハッキリとした気持ちが込み上げてきます
やっぱり私は敵討ちだとしても、みんなに人を殺して欲しくはないという事です
キレイ事だとしても、私の我儘でも……だけど……
エミ「あ、フワさん達が戻ってきました」
花陽「……っ!」
フワ「はぁ…ふぃー……」ヨタヨタ…
ユリカ「スズ!!」ダッ
アイナ「フワちゃん! めっちゃ怪我してるじゃん!」
花陽「フワちゃん!!」ダッ
フワちゃんが背中にスズさんを乗せて帰ってきました
しかしスズさんは気を失っているのか、ぐったりとしています
そしてフワちゃんは……綺麗なフワフワな毛並みが血や泥で汚れきっていました
フワ「ああ、大丈夫よ……ほとんどは返り血だから…ふぅ…」ドタッ
ユリカ「フワさん、スズはどうしたのですか?」
フワ「疲れて眠ってるのよ……ふふ、まったく無茶するんだから……」クテ…
花陽「フワちゃんは平気なんですか!?」
フワ「平気……とまではいかないけどね……私もちょっと疲れたかも……ぅ」バタッ
エミ「フワさん!」
フワ「ちょっと寝るわね……それと、向こうの盗賊達、全員気絶してるから今のうちに拘…束……を……ぐぅ」
フワちゃんとスズさんは二人で盗賊10人を相手に大暴れしたんですね
お疲れ様です。ゆっくり休んでください……
アイナ「よし、その倒れてる盗賊達を急いで捕まえに行こう」
ユリカ「人手がいるわね。ハナヨちゃん、アヤちゃん、一緒に来てくれる?」
アヤ「オッケー、縄持ってくる」
ユリカ「エミちゃん、フワさんとスズを視ていてくれますか?」
エミ「ええ、まかせてください」
フワちゃん……大丈夫かな……
ユリカ「ハナヨちゃん、行きましょう」タッ
花陽「は、はい……」タタッ
返り血って言ってたけど、全部じゃないですよね? 血が出るような怪我をしたってことですよね
もっとちゃんとした治療をしてあげたほうがいいんじゃないかな……
花陽「………」タッタッタ…
ユリカ「なにか心配事でも?」
花陽「えっ…あ、いえ……」
大丈夫、エミちゃん達が見てくれているのを信じましょう
今はせっかくがんばってくれた二人のためにもやる事をちゃんとやらなきゃ…
北に数分走ったところで二人が盗賊達と戦った場所へとやってきました
花陽「……………ぅっ」
アイナ「これまたハデにやったなー」サッ
ユリカ「私はこっちから縛っていくね」サッ
そこは私の持つ現実、イメージとは到底かけ離れた惨状でした
確かに誰も死んではいないのかもしれません、気絶しているだけと言えばそうです…けど……
これは…セト村で見た光景と……ほとんど変わりありません
「あ……ぐぅ……」
花陽「あ……」
みんな気を失ってると思っていたけど、一人意識のある人がいました!
花陽「あの、大丈夫ですか?……っ!」スッ
「ぅぅぅ………」
その人は頭から血を流し、不自然に折れ曲がった足のせいで満足に動けそうにありませんでした
すぐに手当てをしないと危険だと思います
花陽「あの、ユリカちゃ……」ザッ
ユリカ「ん…しょ、これで、次は……んっ」グッ グイッ
アイナ「ユリカ姉、このデカイ人縛るの手伝ってー!」
ユリカ「今行くわ」サッ
花陽「………っ」
どうしよう……この人を助けてって……言えない……
「……………」
花陽「あの、もう少しガマンしてくださいね…………後で……」
「……………」
花陽「……っ!?」ビクッ
そんな……さっきまでまだ……ん……?
「…………っ」
花陽「気を失ってる…だけ……よかった……」
とにかく拘束もだけど、応急手当をちゃんとしないと……
アヤ「ハナヨちゃん……何を?」
花陽「この人の止血を……包帯がないのでとりあえず服の布で…」ギュッ
アヤ「どうして?」
花陽「どうしてって、怪我しています。もう戦いは終わったんですからちゃんと手当を……」
アヤ「……………」
花陽「アヤちゃん?」
アヤ「こいつら盗賊だよ? 私達を襲おうとした奴らだよ?」
花陽「それは……そうだけど」
アヤ「そんな奴ら手当したって、また他の誰かを襲うかもしれないんだよ?」
花陽「……………」
アヤ「ハナヨちゃんが優しいのは知ってるけど、それはちょっとわかんないよ」
花陽「だからちゃんと捕まえて、逮捕してもらうんです」
アヤ「それが出来ないのが今のこの国のあり様なんだって! トロスタンの町だってそうだったでしょ?」
アヤちゃんの言う事はもちろん解ります。これが正しいかどうかなんて私に判断できるものじゃありません
でも、だからってこれを見過ごしたら、私は私のまま、帰れなくなる
花陽「それでも、私は中途半端でもやりたいんです」ズッ ギュッ
アヤ「…………」
花陽「私が人を助ける理由は……きっと我儘なもので、良いとか悪いとかは別なんです、だから私一人でやります……」ブチッ
きっとμ’sのみんなだって同じ事をしたはずです。だからみんなの元に帰るためにも、曲げちゃいけないんです
アヤ「………お人好し」グイッ
花陽「………え」
アヤ「私には理解できないし、きっとこれからも変わらない」サッ
花陽「アヤちゃん……これは私が……」
アヤ「時間もないの、さっさとやって他の奴もみるつもりでしょ?」キュッ
花陽「………はい」
アヤ「正直その思想はいつか危ない事に繋がるような気がするし、危険だと思う」
花陽「……うん」
アヤ「だからお願い……その思想にソラは巻き込まないで。あの子の邪魔はしないでください」
ソラくんの目的……そうか……アヤちゃんそれで
アヤ「私達はみんなハナヨちゃんに感謝しているし、これからもハナヨちゃんのためにやれることはするよ」
花陽「うん」
アヤ「そんな私からの唯一のお願い、聞いてくれる?」
―――
――
おつおつ
すごく面白いけどこれ1000までいっても終わらなくないか エミ「あ、帰ってきました!」
ソラ「ユリ姉、お帰り」
ユリカ「ただいま……」ザッ
アイナ「ふいー疲れた……」ガシャガシャ…
アヤ「戦利品だよ〜!」ドサッ
花陽「…………」タタッ
倒れていた盗賊の一団をすべて拘束した私達は、念のために盗賊達が使っていた武器を可能な限り回収しました
確かに戦利品と言えばそうかもしれないけど、危険防止のため……だよね?
ガチャ タタタ… ゴソゴソ…
リホ「ハナヨちゃん!」ダダッ
パイ「おかえり〜!」ギュー
ヨシノ「がいせん」
花陽「ただいま。みんないい子にしてましたか?」ガサッ
リホ「もちろ〜ん」
パイ「お茶の用意をしておいたの」
ヨシノ「飲んで〜」スッ
花陽「あ、ありがとう……」グイ
リホ「ん、なにしてるの?」
花陽「ちょっと薬箱を……」ゴトッ
パイ「あ、それならエミちゃんがフワちゃんの手当に持っていったの」
花陽「そうでしたか。ではそっちに……」
ヨシノ「誰か、怪我したの?」ギュッ
花陽「ん……大丈夫だよ。念のためにね」スッ
ヨシノ「………そう」
みんな笑顔で迎えてくれます。家族が無事だったのですから当然です
なのにこの気持ちはなんだろう……
花陽「エミちゃん、フワちゃんの様子は?」タタッ
エミ「大丈夫です。かすり傷ばかりでしたので傷薬だけで済みました」
花陽「そう……。あ、薬箱借りて行くね」サッ
エミ「どこかお怪我でも?」
花陽「ううん。向こうに怪我してる人がいるから……」
エミ「…………」
花陽「私ちょっと行ってくるね」ダッ
エミ「盗賊の怪我を治療するのですか?」
花陽「…………」
花陽「うん」
エミ「そうですか……」
ユリカ「ハナヨちゃん……」ザッ
花陽「あ……はい」
ユリカ「一人じゃ大変です。私も行きますね」スッ
花陽「え、でも……」
エミ「みんなには適当に言っておきます」
ユリカ「ありがとう、お願いしますね」
花陽「ユリカちゃん、これは私の我儘で……」
ユリカ「はい。でもお手伝いします」
何もしていないのに襲われる。殺されそうになる……生きるためにも戦うしかない
でもこれがユリカちゃん達の世界であり、常識なのは今日までで十分理解しました
だけどなんだろう……何かこの世界には足りないものがある気がします
他者に対する愛情、思いやり……これはあります。間違いありません
じゃあこのもやもやとしたものは一体……
ユリカ「ハナヨちゃんて、お父さんに少し似ています」タッタッタ…
花陽「えっ……いきなりどうしたんですか?」
ユリカ「お父さんは知識も実力も優れた人でした。各地から御弟子志願の人がくるほどに…」
花陽「そうだったんですか…」
ユリカ「でもお父さんはその技術、魔法も魔術も戦争の道具にされるのを嫌っていました」
その話はなんとなくですが分かります……私達の世界にもある事です
ユリカ「お父さんはその技術を平和な事に、人々のためになるようにと願っていたんです」
花陽「…………」
きっとそこに個人の善悪なんて関係ない、理想とするものがあったのでしょう
だけど……ううん、これも違う……少しだけ……だから確かめないと……
花陽「立派なお父さんですね」
ユリカ「はいっ」
ユリカちゃんはものすごくお父さんっこですね
気持ちはわからなくもないですが、ホントにすごいです
花陽「……………」
そういうのはハッキリとわかるのに……んんー
花陽「なにがズレているんだろう……」
盗賊達は一か所にまとめて縛り上げて拘束しています
急ぎ治療が必要なのは2名の方
治療と言っても私にできることなんて傷の消毒や包帯を巻く程度です
真姫ちゃんならもっと細かく状態を診察したりできるんだろうけど……
花陽「んしょ……えっと、包帯は……」ゴソッ
「なんのつもりだ?」
花陽「ぴょわぁ!?」ビクッ
ユリカ「ハナヨちゃん!?」
お、驚いた。気絶していた怪我人の方が意識を取り戻していました
よく見ると何人かの人は黙ってこちらを睨みつけていました
あれ、でもスキル「無垢なる罪人」は発動してない…?
取り敢えずこのままやりましょう
花陽「今包帯を巻きなおしますから待っててください」ササッ
「…………?」
ユリカ「私はあちらの方をみますね」スッ
花陽「お願いします」グイッ
「おい、だからなんのつもりだと……」
花陽「じっとしていてください、怪我してるんですよ」
「…………お前は、さっきの変な生き物と女の仲間じゃないのか?」
花陽「仲間ですよ。でもそれとこれとは関係ありません」グルグル…
「………………」
花陽「………あの」キュッ
「……ん?」
花陽「あなた達はどうして盗賊なんてやってるんですか?」ビリッ
「そんなもん、食うために決まってんだろ」
花陽「他にいくらだって方法はあるんじゃないですか? 町で働くとか…」ゴソゴソ…
「俺達みたいな傭兵崩れが町になんか入れるわけねぇだろ……」
花陽「そうなんですか?」グルグル…
「この国がどういう状態なのか、知らないわけじゃないだろ」
またです……みんな何かあるとこの国の事情を口にします……
まるで国を言い訳に全部諦めてしまっているような、そんな悲壮感を感じます
花陽「戦争に負けるって、そんなに大変な事ですか?」
問いかけてすぐに愚かな質問だと思いました
国の事情、人の事情……私にわかるはずもないのに……
「さぁな、たんに俺達の仕事先が変わったくらいだろ」
花陽「そんな単純なものなんですか?」
「生きてくためならどうとでもするだろ……」
花陽「…………」ギュッ パシッ
「いて……」
花陽「近くの国境警備隊にあなた達の事を通報しておきますから。それまでここで大人しくしていてくださいよ」
「へっ……結局数時間死ぬのが先送りになっただけか……」
花陽「え……どういう意味ですか?」
「盗賊なんざ捕まったら終わりだろ。ただでさえ、今のこの国に罪人を留置しておける余裕なんざないんだからな」
花陽「……………」
ユリカ「その方のおっしゃる通りです。ハナヨちゃん」
花陽「…………ユリカちゃん」
ユリカ「敗戦国となったこの国は今、トップがいないまま敵国に支配されることもなく、無法の地となっているのです」
花陽「支配されないって……じゃあどうして戦争なんて……」
ユリカ「それは話すと長くなりますので、また……」
花陽「…………」
「……………」
ユリカ「さて、治療も終わりましたし戻りましょう」
花陽「………ん……」
なんか……スッキリしません……
「おい、待てよ」
花陽「え、はい……」
「どうせこのままじゃ俺達全員死ぬのを待つだけだ。それなら背に腹は代えられねぇ」
花陽「?」
「あんた、俺達を雇わないか?」
花陽「雇……は、えぇ!?」
ユリカ「なにをいきなり……」
「別に不自然な話じゃねえだろ? 俺達も死ぬよりかはよっぽどマシだ」
花陽「あ、あなた達を雇って、何の得が……」
「あんたの兵隊になるんだ。邪魔な連中を殺してやるぜ」
ユリカ「耳を貸してはいけません。すぐに裏切るに決まってます。大人しく極刑を待ちなさい」
「俺達を今ここで生かす理由もわからねぇが、みすみす殺されるくらいなら従ってやるよ」
ユリカ「盗賊が……あなた達がどれだけ人のモノを奪ってきたか考えた事あるんですか! 信じられるわけありません!」
「そんときゃ殺してくれてかまわねぇよ」
花陽「……………」
……またです
ユリカ「どうせそのままでも野垂れ死ぬか警備隊に裁かれるかなんです。受け入れなさい!」
…………またすぐにそういう話……もうイヤ
花陽「どうしてみんなすぐに人を殺すだの奪うだの、そんな話ばかりするんですか!」
ユリカ「ハ、ハナヨちゃん?」
花陽「なんで……もっと楽しくなるようなこと……明るいこと、前向きに話せないんですかっ!」
ユリカ「そ、それとこれはまた別で……」
花陽「同じですよっ!みんな心に余裕がなさすぎます! そんなことで擦り減らして、荒んでいくばかりですよ!!」
ユリカ「…………」
「………なんだよいきなり」
気がつくと、なんだか溜まっていたものをすべて吐き出すように叫んでいました
そして同時にもやもやしたものは確信へと変わります
戦争によって家や家族を失った人達……野盗の集団に村を襲われたユリカちゃん達……
生きるために人を襲う盗賊達……哀しい事、辛い事はたくさんありました
私はそんな中、彼女達を救うためにとこの世界に召喚されました
結果として彼女達は命を奪われることなく、生きていけるようになりました
だけど……私はたんに得たスキルでその都度都合のいい結果をだして、彼女達のお手伝いをしていただけ
花陽「違うんです、ユリカちゃん……っ!」
ユリカ「え……違うとは……?」
花陽「私が思う助けるって、やっぱり少し違うんです」
ユリカ「そんな事ないですよ、私達はハナヨちゃんのおかげでこうして……」
花陽「私はもっとみんなに笑顔でいて欲しいんです」
ユリカ「…………」
逃げるように村を出て、みんなで復讐を誓って、毎晩外を警戒しながら眠って……襲われたら戦って……
戦争だからって目を背けちゃいけません。そんなの、疲れるだけです
花陽「そのために必要なものがなんなのか、やっとわかりました……」
ユリカ「……そ、それは……?」
「………?」
花陽「娯楽です」
ユリカ「ごらく?」
花陽「やっぱり子供はみんなアニメや漫画、好きなことに夢中にならないとだめです」
ユリカ「好きなことはわかりますが……あにめ?」
花陽「勇者のスキルでユリカちゃん達の生活、生きる基盤を作れたのなら、今度は私自身がやります」
ユリカ「ん……いったいどのような?」
花陽「アイドルのステージです」
ユリカ「あいどる……とは、なんでしょうか?」
花陽「アイドルはみんなに元気と勇気、そして笑顔をくれるすばらしいものなんです!」
ユリカ「ええっと……ごめんなさい、わからない言葉で意味が……」
花陽「ただのアイドルじゃありません。スクールアイドルです!」
ユリカ「すくーる……あいどる?」
「おい、こいつさっきから何を言って……」
花陽「盗賊さん!」
「ん、お、おぅ……」
花陽「さっきのお話し、お受けします」
ユリカ「ハナヨちゃん!?」
「おおそうか、なら話ははえぇ、この縄を……」
花陽「あなた達には舞台を作ってもらいます!」グッ
「は?」
そして他に必要なものは創るしかありません
晩ご飯結局まだでしたから、丁度いい感じにお腹もすいてきました
しかしそれ以上に…
花陽「………どうしようユリカちゃん」
ユリカ「……えっと……なにがでしょう?」
花陽「なんかやるって決めたらすごくワクワクしてきました!」
ユリカ「よくわかりませんが、それはよかったですね」
花陽「うん、見せてあげます。とっておきのステージ!」
いつか見たスズさんの反応をもう一度、みんなに
この世界も争い以外に熱中できるものが他にあれば、きっと違う道が開けるはずです
花陽「スクールアイドルって、すごいんですからっ!」
>>544
テルマエ・ロマエみたいになってきて草
とても面白いです -次の日 お昼 馬車二階の一室
スクールアイドルのライブ、アイドルのすばらしさをみんなに伝えたい!
…そう思って……思い付きでやった結果……
花陽「……………」シュン…
アヤ「…………」
フワ「…………」
私は今、怒られています
アヤ「まったく昨日言った事をもう忘れるなんて……ハァ」
花陽「いえ、その……忘れたわけじゃないんですけど……」
フワ「なんでいきなり倒したはずの盗賊達の面倒……というか監視を私がしなきゃ……フゥ」
花陽「ホントごめんなさい。手伝ってはくれるという事だけど、やっぱりみんな心配だろうから……」
アヤちゃんフワちゃんが怒るのは当然です
昨日、アヤちゃんに私の思想は危険だと言われました。いつか本当に取り返しのつかないことになるかもとも…
それをいきない破っただけでなく、家に連れてくる暴挙…
アヤちゃんが危惧しているのは私の思想がソラくんの目標、決意を歪めてしまう可能性
そして起きたばかりのフワちゃんにはただ面倒事を押し付けただけ……
事前に何の相談もなく、私がすべて勝手に決めたことです
花陽「暴走気味だったのは認めます。ごめんなさい」
それでも私は心に決めたこの方法を間違いだとは思っていませんし、途中でやめることもないです
二階の窓から外の様子を見ても、そう遠くないうちにそれは起こると思いました
花陽「…………ふふ」
アヤ「ちょっと、何笑ってるのよっ!」
フワ「話聞いてるの!?」
花陽「ひゃいっ、ゴメナサイ!」
フワ「正座10分追加よっ!」
フワちゃんて、怒ると怖いんですねぇ……
昨日、私は自身の思い付きで盗賊さん達を雇い入れました
アヤちゃんはきっと怒ると思いましたけど、それ以上にユリカちゃんもきっと快くは思っていなかったと思います
強く言えなかったのは、私とユリカちゃんの関係性がすべてです
今思うと、この部分はもう少し配慮が必要だったかもしれません
彼女達の村は盗賊と同じような集団、敗残兵の野盗に襲われたのです
決して同じ相手ではないけれど、同じように接してしまうのは仕方のない事ですよね……
私が盗賊さん達を連れて帰ったのを猛反対したのはアヤちゃんとアイナちゃん
アヤちゃんはそのまま、敵と馴れ合う私が許せなかったのでしょう
アイナちゃんは子供達が危険な目にあうのを危惧してくれました
それでもやっぱり、私が決めた事というのがあって、徹底抗戦とはなりませんでした
恩義に付け込むようで、ここも申し訳なく思います
ソラくんはあまり気にしていないというか、暴れるならまた抑えるという姿勢でした
盗賊さん達も意見が別れていました
最初に申し出をしてきた方はこの盗賊団のサブリーダーのような方で、それなりに人望もありました
一方私達の馬車に襲撃してきた三人は一人がリーダー的な人で、皆を従えている人でした
この人と、この人に従う数名は拘束されている今も私達に雇われるという案を拒否しています
最初はアジトのような場所があって、他に仲間がいるのかどうかという話を聞いてから問題なさそうなら放置する予定の人達
最終的に6人の方が私達に雇われるという形となり、残りの方々は今も傍の岩場に拘束しています
アヤ「それで、この後どうするの?」
花陽「それは当初の予定通り、ユーディクスに向かうってことで」
フワ「あの連中も家にあげるつもり?」
アヤ「私ゴメンよ、むさっくるしいし」
花陽「あ、はは……」
きっと反対意見のほうが多いのは分かっているので、そこは考えてあります
花陽「大丈夫です。今の生活に支障がないようにしますから」
アヤ「ホントお願いよ……ふぅ」
フワ「変なところで拘るのねぇ」
花陽「ごめんねフワちゃん。すぐに負担のないようにするから」
フワ「考えはあるのね、じゃあいいわ。しっかりやるのよ」
花陽「うん。色々ごめんね」
アヤ「ホンっと、バカがつくお人好しだわ」
花陽「えへへ……」
アヤ「褒めてないっ! もう、ハナヨちゃんのそゆとこはキライ!」
花陽「ぁぅ……」
ハッキリと言われてしまいました……はぅ
アヤ「っ………そ、そこだけだからっ」プイッ
落ち込んだ私にちゃんとフォローしてくれるあたり、アヤちゃんはやっぱりいい人です
ただ守りたいものに一生懸命なんだよね
一階ではアイナちゃんとユリカちゃんがお昼ご飯を作ってくれています
今日はいつもよりたくさん作るのでエミちゃんもお手伝い
外では他の子供達がまだはしゃいでいます
それは私が昨日、アイドルのステージを見せるためにと創りだしたもののせいです
花陽「様子はどうですかー?」ガチャッ
〜♪ 〜♪ ー♪
パイ「ハナヨちゃん! どれもすっごくステキ〜♪」
リホ「楽しいがとまらないの♪」
ヨシノ「…興奮♪」
花陽「ふふ、でしょう?」
外にドーンと置いてあるのは音楽機材
私が作りだした「真姫ちゃん家にあるような高級オーディコンポ」です!
正直高級オーディオコンポと言ってもそのお値段は私にはわかりません
だけど子供達……もといこの世界の人達にはこれそのものが初めての体験です
ちなみに私が知っているすべての歌が全部搭載されています
これはコンポとは別に曲データがすべて入ったUSBメモリーを創ったからです!
スズ「すごいですね、この音楽……」
ソラ「初めてこんなのきいた」
花陽「でっしょう〜〜?」
スズちゃんとソラくんは念のため盗賊さん達の監視をしてくれています
が、私に雇われた人達はおそらく大丈夫でしょう
私と直接お話しして、悪意がないのを確認しています
勿論、害をなす悪意以外に注意するべきものはたくさんあると思います
だけどそれらは今、音楽によって一つとなっているのです
花陽「おはようございます。怪我の具合はどうですか?」
「ああ、ハナヨの姉御。世話んなりやす」
花陽「とりあえずその呼び方はやめてください」
「すいやせん……しかし、食うために命はってた俺らに飯だけでなく、こんな看護まで…」
花陽「雇った以上、部員の面倒はちゃんと見ます」
「ブイン…?」
花陽「気にしないでください。他に言い方が見つからなかったので」
部下とか手下とか、そういうのはなんとなくイヤだったのですが、部員もちょっと違う気がします
怪我人以外の手の空いた人は今薪拾いと、あるものを探しに行ってもらってます
後々必要になるからと私がお願いしました
逃げ出さないかという懸念はありましたけど、昨日晩御飯をごちそうしたら素直になってくれました
ここにいると少なくとも食べ物にはありつけると思ったみたいです
花陽「ま、逃げたところでユリカちゃんとスズさんに見つけられてしまうんですけどね」
「え、なにかいいやしたか?」
花陽「いいえー。さて……もう一人の方……」スッ
最初に私に対して交渉してきたサブリーダー的な人も傍ではしゃぐ子供達を眺めていました
足を骨折しているので動けないせいですけど、子供達を見つめるその視線は不思議と穏やかに見えました
花陽「おはようございます。どうですか、体調はー」スッ
「ん、ああアンタか。悪くないって言うとおかしいが、気分はいいほうだ」
花陽「それはなによりです」
「さっきから流れてるこれ……オンガクといったか。礼唄とは全然違って……いいものだな」
花陽「これは曲だけですけど、ここに歌詞がついて、歌がついて、振付がついてそれにあわせて踊って……どんどんステキなものになります」
「よくわからんが、あいつらを見てると、悪くないんだろうな……」
視線の先にまたはしゃぐ子供達
花陽「子供がお好きなんですか?」
危ない感じの人という意味で聞いたわけではないのですが、黙り込んでしまいました
ホントに!?
「…………今でこそこんなだが、俺にも家族がいてな。ガキを思い出してた」
花陽「え……」
「戦争でみんな死んじまったがな」
花陽「…………」
悪い事を聞いてしまいました。もしかしてこの盗賊団って、戦争難民と呼ばれる人達なのでしょうか
望んで悪の道に進む人なんて……
「あ、すまん。今の話他の奴らには秘密にしていてくれ」
花陽「え、どうしてですか?」
「俺らは仲間だが、境遇はそれぞれ違う。少なからず俺についてきてくれるヤツに余計な気を使わせたくない」
花陽「はぁ……了解です」
人それぞれの事情というのは本当に複雑で、お話ししてみないことには解らない事はたくさんあります
それをしないまま誤解をして、すれ違うのなんてのは私の世界でもよくあったことです
それでも同情はしません
この人達が実際にやってきたことはとても酷い事で、そこをうやむやにしていると本当にアヤちゃんの言う通りになっちゃうから
花陽「もうじきお昼ご飯です。その後に正式に契約しましょう」
「契約?」
花陽「雇用主と従業員の、です」
それと、私に雇われるのが嫌だという人達にもお話ししておかないと
ハナ「ハナヨちゃん、この曲すごくいいの〜♪」
ヨシノ「カラダが勝手に動き出す……っ!」
花陽「ふふ、それはオフボですけど歌が入るともっとノれますよ!」
リホ「ききたい、お歌!」
もう………しょうがないですねぇ!
花陽「ではちょっとだけ、途中からですが……」ウズウズ…
ハナ「わーい」
花陽「ちなみにこの曲のタイトルは「輝夜の城で踊りたい」です。みんなで歌いましょう!」
ヨシノ「不思議な響き」
ガチャ
ユリカ「みんな、お昼ご飯できましたよー」
アイナ「お、なにこの音。楽しそう」
花陽「私はっ紅いっ薔薇の姫よ〜♪ 優しくさらわれ〜たい〜♪」クルクルッ
リホ「ハー!」
ユリカ「………」
アイナ「………」
花陽「そっとささやーいてー、意味ありーげにっ、目をそ〜らす〜♪」ビッ
ユリカ「こ、これは……ハナヨちゃん?」
花陽「あ、ユリカちゃん。今軽くみんなに歌を披露していたところですっ!」
アイナ「これが昨日言ってた……アイドルの歌?」
花陽「無数にあるアイドルソングのほんの1つですけどね。……このきっせっきっを〜恋と、呼〜ぶのねー♪」
一人で歌っただけなのに、気持ちがどんどん高まってくる
やっぱりアイドル、楽しいです!
だけど同時に感じるものもあります
それは……どんなにがんばっても私のソロしかないという事ですっ!
花陽「悲観することはないと思っても、私も真姫ちゃんや絵里ちゃんみたいにカッコよく歌いたいな……」
9人で歌うと、さまざまな個性、ハーモニーが合わさり、一つの綺麗な旋律になる
私はこれをμ’sの声と密かに呼んでいますが、そういう一人では絶対に叶わないものも、やっぱり欲しくなる
他のみんなの声を……どうにか創り出せないかな?
ユリカ「みんなご飯だよー」
リホ「踊ろうよ踊ろう〜カグヤの城で〜♪」
パイ「セイザがおりなす〜ディスコッティーク♪」
ヨシノ「わぁた〜しも〜まぜて〜♪」
花陽「……っ!」ドキッ
アイナ「それ、ハナヨちゃんに教えてもらったの?」
リホ「さっき歌ってくれたの、自分で歌っても楽しいって♪」
パイ「おもしろ〜い!」
ヨシノ「気分は上々」
この子達……いまのをもう覚えたの?
いえいえ、そうじゃなくて……今の歌声……なんて綺麗な……
花陽「…………」ゴクッ
ユリカ「ホントに楽しそうね。でも先にご飯にしましょう?」
リホ「は〜い」
ヨシノ「お腹がすきました」
パイ「あはは、ハナヨちゃんのマネー?」
そういえば……ここには原石がゴロゴロしているのでした
私がそのステージを見てみたいと考えたほどの……
アイドルの原石がっ!!
お昼ご飯の時間になり、薪拾いにいっていた盗賊さん達も帰ってきました
私のお願いした、あるものも見つけて……
その件もあり、今日のお昼は私とフワちゃんは外で盗賊さん達と一緒です
花陽「おかえりなさい」
「うっす、戻りました!」
「おう、すまねーな、手伝えなくて」
「何言ってんだよ、怪我人は大人しく寝てろってな」
「へへ、ちげーねぇ」
フワ「むぅ………」
「うわっ、き、昨日の変な生き物!?」ビクッ
「まさかまた俺達を…っ!?」ビクビク
フワ「しないわよっ! あと誰が変な生き物よ失礼ねっ!」
「お前ら、フワの姉御に失礼だぞ」
フワ「誰が姉御よ! もう、疲れるわねぇ……」
花陽「あは、もうしばらくの辛抱だからね」
「ハナヨさん、これでいいんすか?」サッ
花陽「ありがとうございます。助かりますっ」
「い、いえ…これくらい///」
フワ「なに照れてるのよ、花陽ちゃんに変な気起こすんじゃないわよ?」ギロッ
ちょっと過敏に反応しすぎじゃない?
フワ「それで、なにをするの?」
花陽「んっとね……」スッ
盗賊さんが探してきてくれたもの。それはなんでもいいので野生の動物です
今回見つけてきてくれたのは……これは……豚?
ブヒッ ブヒッ
ブヒブヒ言ってますし、きっとそうなんでしょう
「そのまま食べるのか?」
花陽「食べませんっ!」
これはフワちゃんの負担を減らすために準備するものの一つなのです
花陽「それじゃこの豚さん、いただきますね」
「へいっ」
花陽「あなたは今から私のモノ……ペットです」
フワ「あ、花陽ちゃんまさか……」
ピピッ
――スキル「アルパカマスター」が発動しました
シュウゥゥゥゥゥ…… ギュイーン
「うわっ、なんだ!?」バッ
「光ってやがる…!?」
花陽「すぐ終わりますよー」
……ゥゥゥゥゥン キラキラキラ…
「へ、変化しやがった……」
「これは、ハナヨさんのスキルですか?」
花陽「うん。私のペットをすべてアルパカさんに変化させるスキルです」
「アルパカ?」
フワ「私のような動物のことよ」
「………………」スッ
豚さんが変化して生まれたのはフワちゃんと同じようなフサフサの毛並みのアルパカ
花陽「そうだ、言語設定しないと……」ピッ
フワちゃんの時と同じように会話ができるようにします
そういえば誕生する性別や年齢はランダムだという事ですが……
フワ「……………」
「………ん……あぁ、話せるのか……」
フワ「……っ!?」ドキ
「おお、すごい、しゃべった!」
「しかも……」
花陽「なんて渋めの声……大人の……男性?」
「花陽だな……俺を生み出してくれた事、感謝する」スッ
花陽「あっ…ハイ!」ギュッ
ひづめで握手を求められました
「ハナヨさん、こいつぁいったい……?」
花陽「みなさんのお世話係というか、フワちゃんにすべて見てもらうのは限度がありますので」
フワ「花陽ちゃん、つまりはもう一つ、お家を創るのね?」
花陽「お家というか、まぁ馬車ですね……そこでコレを……」ゴソッ
「ん、紙と…ペン?」
花陽「あちらにあるような馬車兼お家を私が創りますので、夜までにみなさんでデザインとか、必要なものを決めておいてください」
「あれを!?」
「ハナヨさんが作る!!?」
「可能だ。そして新しくできた馬車を俺が牽引することになる。よろしくな」
「まじでやすかっ!」
「アンタ、名前はなんていうんだ?」
名前……そういえば最初はないんでした
また子供達につけてもらおうかな?
「名前はない。お前らの好きに呼べ」
花陽「あら……」
「なんだかおやっさんのようだ……」
「あ、いいんじゃないか? おやっさん」
「いいな。親父のようだしな」
……まぁ、みなさんがいいならいいんですけど……」
フワ「そんな愛称みたいなのはダメよ! ちゃんと決めないと!」
花陽「フワちゃん!?」
「ん……そういえば俺と同じ境遇の奴がいたのだったか。よろしくな」
フワ「わ、私のほうが先輩なんだからね、そこはきっちりしてよね」
「ああ、理解はしている」
フワ「だ、だったらいいけどっ……」プイッ
ん……?
「それじゃ、俺らは午後のあいだにこの人に名前と、馬車のデザインを考えりゃいいのか?」
花陽「全員でやるには少し人数が多いので、どなたか剣術が得意な方いらっしゃいませんか?」
「剣術なんてまともなもんじゃねぇけど、一番手クセが悪いって言われてんのならオレだぜ」
花陽「それは……いいのかな?」
「なんか討伐でもするのか?」
花陽「いえ、そんな物騒な話じゃないです。お昼ご飯の後、こちらに来てください」
大事なお姉ちゃんをお借りするんです。その時間も有効に使って欲しいですからね〜
フワ「……………」ジ…
花陽「フワちゃん、お昼の後ちょっといい?」
フワ「……………」
花陽「フワちゃん?」
フワ「っ、あ、ごめんなさい、なに?」
花陽「……………」
フワちゃんの視線の先には新しいアルパカさん……おやぁ?
-お昼過ぎ
〜♪ 〜♪
花陽「お、みんなで聴いてるんですか?」
フワ「楽しそうね」
リホ「うん、楽しいっ♪」
パイ「ハナヨちゃん、この曲にも歌はあるの?」
花陽「このコンポで聴ける曲はだいたい歌もあるんだよ」
私が意図的に曲のオフボバージョンばかり流しているからね
ユリカ「ハナヨちゃんごめんなさい、子供達が占領してしまって…」
花陽「いえいえ、音楽を楽しんでもらえるのは嬉しいです」
エミ「あ、あの…私も聴かせてもらってます」
花陽「遠慮しないで、みんなで楽しんでね」
エミ「それで…あの、えーっと…」ポチッ
エミちゃんが器用に高級コンポを操作する
え、もう操作方法も覚えたの?
そして聴こえてくる曲は……
〜♪ 〜♪
エミ「私この綺麗な音、リズムがとても気に入りました! ぜひこれの歌を教えていただきたいのですが?」
花陽「エミちゃん……」
エミちゃんが綺麗だと言ってくれた曲は……Snow halation
花陽「いいよ。ちょっとこの後用事があるから、夜でいい?」
エミ「はい♪」
にっこりと笑うエミちゃんの笑顔にドキっとします
やっぱりこの子達には戦いなんてものとは無縁でいて欲しいと思います
ヨシノ「ンフ……♪」カチッ
ドーーーーン!! ♪!♪!!♪!!!
花陽「わっ! ヨ、ヨシノちゃん!? 音量最大にしちゃダメー!」
ソラ「なんだ!?」バッ
スズ「敵襲ですかっ!?」ダダッ
突然の大音量に馬車からソラくんやスズちゃんも飛び出してきました。まぁ当然です……
キュッ …… 〜♪
アヤ「ダメでしょーめっ」ペチッ
ヨシノ「楽しい♪」
リホ「頭がくわんくわんするの」
エミ「あわわ……」
ユリカ「はぁ…すごい音ですね……」
花陽「さすが高級……スピーカーの重低音もすごいです」
あまり詳しくは知りませんが、いいスピーカーとはそういうものらしいですから
花陽「ソラくん、スズちゃんーちょっといいですかー?」チョイチョイ
ソラ「…ん」
スズ「はい、なんでしょう」サッ
花陽「私は少し用事がありますので、スズちゃんついてきてくれますか?」
スズ「それは勿論構いませんが、どちらへ?」
花陽「あの拘束したままの盗賊さんのところです」
スズ「連中にまだ何か用があるのですか?」
ソラ「ボクも?」
花陽「いえ、ソラくんはそのあいだ……」スッ
「うっす、ハナヨさん、来ましたぜ」ヌッ
花陽「あ、こっちですー」
ソラ「…っ!」サッ
スズ「……ハナヨちゃん、何を…?」
アヤ「……………」
花陽「みんなにも話してある通り、私はこの人や他の方々を雇う契約を結びました」
ソラ「それは聞いたよ」
花陽「なので、一応この人はもう味方で、仲間です」
アヤ「……………」
スズ「ハナヨちゃんが決めたことに異論はないですが……」チラッ
ソラ「…………」
花陽「ソラくんがソラくんの目的のために努力することに、私が口を挟むつもりはありません、ただ…」
ソラ「?」
花陽「ソラくん達が戦おうとしている相手は元王国の騎士団です。ものすごく強い人達です」
ソラ「わ、わかってるよ……」
スズ「ハナヨちゃん、何を…?」
花陽「なので、私がスズちゃんをお借りしている間、この人がソラくんの特訓相手になってくれます!」ビシッ
ソラ「…え?」
「はぁ?」
ソラくんだけじゃない、他の子達も仇うちというのはきっと止める事の出来ない生きる目的のようなものです
でも、だからといってそのために身内以外すべてを敵視するのもどうかなって思います
いやまぁ…盗賊さん達に無茶いうなってのもわかるんですけど
アヤ「ハナヨちゃん、どういうつもりでっ」ダッ
花陽「この人はソラくん達の仇じゃありませんよ? 別に仲良くなれとも言ってませんし」
アヤ「そういう問題じゃ…」
花陽「確かにこの人達に私達は襲われましたけど、見事返り討ちにしました。でも…」
花陽「セト村を襲ってきた騎士団の人達はもっと強いですよ。今のままで勝てますか?」
あの夜村すべてを吹き飛ばす勢いの爆風を私は体験しました
たった数人でさえ、この盗賊団の人達より何倍も強いのはわかります
ソラ「だ、だから毎日特訓してるよ!」
花陽「じゃあこの人と特訓するのも問題ないですね。むしろもっと実践的に指導してくれるかもしれません」
アヤ「…………」
ソラ「………わかった、やればいいんだろ」スッ
「いいんですかい?」
花陽「あ、剣は危ないからダメですよ? ちゃんと安全なもので…」
アヤ「強くなるのに手段を選ぶなって事……?」
花陽「別にそんな深い意味はないです…もっと単純な事です」
アヤ「なによ単純な事って……」
花陽「昨日の敵は今日の友ってやつです!」グッ
アヤ「はぁ…なによそれ……」
花陽「私の友達が好きな漫画でよくある展開です」
「おいボウズ、カシラに勝ったんだってなぁ」
ソラ「ボク一人でじゃない」
「それでもだぁ、たいしたもんだ。だが、サシだとどこまでやれるかな〜?」
ソラ「うるさい、お前なんかすぐに倒してやる!」サッ
スズ「ハナヨちゃん、よろしいので?」
花陽「フワちゃんもいるし、危険な事はないでしょう。それより私達も行きましょう」
スズ「はいっ」ザッ
花陽「あ、待ってください。少し荷物があるので運ぶの手伝ってください〜」
スズ「あ、すいません。お任せください」
出発する前にもう一度子供達の様子を窺う
リホ「さっきの曲もう一回効きたい」
パイ「えー、こっちはー?」
ヨシノ「全部こいです」
花陽「……………」
そこにさっきまでいたエミちゃんの姿はありません。盗賊さんが来ると同時に家の中に入っていきました
本当にそうなのか、考えすぎなのか……盗賊さんの目に、極力入らないようにしている?
必要な時でもなるべく最小限。露出を控えるようにいつも部屋で本を読んでいます
髪を切ったのも、これからたくさん人目に触れる事になるから……?
花陽「考えすぎ……だと、いいなぁ」
スズ「どうかしましたか?」ズシッ
花陽「ん。みんな本当に色々あるのかなーって思って…」
スズ「ん……?」
花陽「スズちゃんはアイドル活動とか、やってみたいって思います?」
スズ「アイドル活動……ですか? いえ、どのようなものかもよくわかっていないので……」
花陽「んーそうですか。今度じっくり教えてあげますね」
スズ「はぁ……」
みんなに見せてあげたいスクールアイドルのステージ
そのために必要な要素として、一人では限界のある私はグループでの活動を模索します
まず最初に一緒にやってみたら楽しそうだなって思ったのはリホちゃん達
あの愛くるしい天使のような笑顔に、澄んだとおる声……すごいです
それに実際のライブじゃなくても、一緒に歌って踊ってと、何かに全力をかけることができるのって、とてもいい事だと思います
花陽「エミちゃん……一緒に歌ってくれるかな……」
スズ「エミちゃんがどうかしました?」
花陽「どうか……したんでしょうかねぇ?」
スズ「?」
ただの杞憂に終わればそれでいいのです
だけど、アイドル活動をするうえで何か障害があるというのなら、私がなんとかしてあげたいと思います
続くー グラブルのほうにがっつり時間をとられそうです… おつおつ
追いついた、まさかこんな展開になるとは
予想外のところから話の軸が見えてきてすごく面白い -近くの岩場
昨日私達を襲撃した盗賊さんのうち、私に雇われるのは嫌だと拒否された方をまとめて拘束してあります
別に無理やり何かをさせるつもりはありませんし、話を聞くだけで何かを要求するつもりもないです
私達が到着するやいなや……
ピピッ
――対象に対する「悪意」を感知しました
スキル「無垢なる罪人」を発動します
スズ「ハナヨちゃん…っ!」サッ
花陽「大丈夫です。むしろわかりやすくて助かります」
話をちゃんとするためにも、私は自身のスキルを信じて、強気に出ようと思います!
花陽「あのー……」
「あん?」ギロッ
……強気に……は、ちょっとまだ無理かなぁ…
花陽「お話しがあります……」オドオド
「うるっせぇ、さっさとこれ解きやがれ!」ガウッ
スズ「キサマ!」サッ
花陽「ああ、いいです。大丈夫です」スッ
さて、どうやってお話しを切り出そうかな……
花陽「取り敢えず皆さん、暴れなければ何もしないので落ち着いてください」
スズ「話があるというのは本当です。それと……」ゴソッ
ドサッ ガバッ
「………こ、この匂いはっ」ゴクッ
「食い物……」ゴクリ…
花陽「昨日から何も食べてないようですし、これどうぞ…」ゴソッ
「なんのマネだ…」
「俺達を飯ごときで懐柔しようってんなら……」
なんでここまで嫌われているんでしょう……?
花陽「ちょっとお話しがあるだけです。それ以外に用事なんてありませんから」
「話をきくだけでその飯をくれるってぇのかい?」
スズ「ハナヨちゃんの好意はありがたく受けておくのが身のためですよ」
微妙に誤解を生みそうな言い方ですけど、話が進むのならいいかな?
さすがに突っぱねていても目の前に食べ物を置かれると人間、抗えるものじゃありません
私なんて一瞬でご飯に飛びついて罠にハマります
「ま、どうせこのまま放置されりゃ死ぬんだ。話くらい構わねぇぜ」
スズ「他の方々もよろしいですね?」
この人がこちら側のリーダーなのでしょう
そのリーダーの決定に他からの異論はなさそうでした
私が盗賊達に聞きたい事は彼ら独自のコミュニティの話です
先にあったという戦争がきっかけでたくさん増えた戦争難民達の現状……それと……
花陽「みなさんは、元王国騎士団で結成されたという野盗の集団をご存知ですか?」
「元騎士団……ああ、あの連中か……」
花陽「彼らについて知っている事があるなら教えてください」
「知ってるも何も、戦争に負けていくあてのない連中が行きついた先だろう。珍しくもない」
花陽「それだけですか?」
「……ん、ああそういや妙な噂は聞いた事があるな」
花陽「噂って、なんですか?」
話によると、戦争で負けた敗残兵の一部が敵国にそのままつき、ある命令で動いているらしい…と
「そのまま敵に殺されるよりかはマシなのもあるが、戦争の原因が元々この国にあるんだ、わからん話でもない」
花陽「原因……?」
スズ「先の戦争を引き起こした原因がクレスタリアの王族によるものだというのは事実です」
花陽「え……そうなんですか?」
戦争があったという話は聞いていましたが、そういえばどうして戦争になんてなったかなんて考えていませんでした
それが……この国によるもの?
スズ「私も詳しくは知りませんが、姉さんならもう少し知っているかもしれません」
花陽「ユリカちゃんが……」
そういえば何か知っているような口ぶりだったような?
「ま、そんなんで誰もこの国のために動かないんで、今のような無法地帯の出来上がりってわけさ」
スズ「他人から奪う事しかしない者が国を批判とは……」ググ…
花陽「スズちゃん、落ち着いて…ね?」ドウドウ
国が国民からも見放されたという事なんですね……
日本でいうと、国民総ストライキとか、そういう規模の話なのでしょうか?
花陽「あの、敵国が戦争に勝ったのに何もしないって言うのは……?」
「元々相手はこの国を占領したいわけじゃねぇ。自衛のための戦争だからだろ」
「ほっとくとこの国は周辺国すべてを巻き込んで何をするかわからねーからな」
「噂じゃ世界征服を目論んでたってよー」
スズ「お前たち、憶測で勝手なことを……」
世界征服……急に漫画のような言葉がでてきました
しかしそれが現実として起こりそうだったからこの国は他国によって抑えられた……そういう事?
花陽「でも敗戦国をそのまま放置って、ちょっと無責任じゃないですか?」
「そうか? 勝者がすべてなんだ、負けてとやかく言うのも変だろ」
花陽「む……そういうなら大人しく私の言う事聞いてくださいよっ」
「へっ、誰がおまえみたいなガキに」
花陽「むぅ……」プクー
スズ「ハナヨちゃん、こんな奴ら仲間にしなくて良いですよ」
「ああそうだ、もう一つ妙な噂を聞いたな…」
花陽「ん、なんですか?」
「元騎士団の連中は相手国の命令で、何者かを探してるらしいぜ」
花陽「…………」ドキッ
「なんでもソイツがいるとまた戦争になる可能性があるんだとよ……まぁ噂だからどこまで本当かは知らんが」
何者かを探している……どうしよう……話が繋がりそう……
――その後他にいくつか質問をしたり、別の盗賊団についても聞いて見ましたが、私の心はずっと同じ部分でぐるぐると回り続け、ほとんど話がはいってきませんでした
「おい、まだあんのか? いい加減それ食わせろよ」
花陽「あ……はい、そうですね……」
さすがにもうこれ以上何かを聞き出すのは無理かな……じゃあ
花陽「スズちゃん、ここはもういいので先に帰っていてくれますか?」
スズ「え、先にですか?」
花陽「はい。お願いです」
ちょっとズルイ言い方。こうすればスズちゃんが断りづらいのを知っています
ゴメンね。でも、きっと私のやろうとしている事はスズちゃんもみんなも納得しにくいでしょうから……
スズ「わ、わかりました……ハナヨちゃんに何かあるとは思えませんけど、どうか無事に帰ってきてくださいね」スッ
花陽「ふふ、大丈夫です。すぐに帰りますよ」
数回こちらを振り返りつつも、スズちゃんが先に帰っていきました
さて、こっちもとっとと終わらせて帰りましょう
「なんのつもりだ…?」
「は、まさかおまえ!?」
「アイツらにいい顔しておいて、裏で俺らを消すつもりか!」
花陽「しませんよそんな事……」スッ
スズちゃんに運んでもらったのはこの人達にあげる予定の食料
で、私自身も彼らに渡すものを持参しています。小さめの革袋を2つ……
花陽「……これ、みなさんに差し上げます」ドサッ
「これは……む!?」
「金…か?」
花陽「はい」
私が渡すものは、お金。単純であり、この人達に必要なもの……
花陽「このお金差し上げますので、もう盗賊なんてやめてマジメに働いてください」
「は……?」
「俺らに働けって?」
花陽「そうです。盗賊なんてやっても何もいいことありませんよ。人に恨まれるだけです」
そしていつかその行いは自分に返ってくるんです
決して良い事にはなりません。みんなを見ていればよくわかります
花陽「誰かに想われるなら、もっとステキな想いのほうがいいですよ」スッ
「……ん?」
何かに憧れる、純粋な夢を描く想いのほうが、きっと生きていても楽しいと思います
夢中になれるものがあれば……
花陽「あ……そうだ」
「まだなにかあんのか?」
いつかやる予定……そのうちできたらいいかなっていう願望……
ううん、言葉にして、やる事を決めちゃう方がきっと話は進むと思います
花陽「今度スクールアイドルのライブをします。よかったら見に来てください」
「あ? なんだって?」
「巣食う……なんだ?」
花陽「スクールアイドルです! そのうち告知もしますから、どこかで見かけたらぜひ……」スッ
言っちゃいました。日時も場所も決まってないけど、告知するって言っちゃいました
これで出来ませんなんて言えなくなりましたっ!
まぁ何のことかよく伝わってないと思いますけど、とにかく前に進まなきゃです!
花陽「遊びに来てくださいね」ニッコリ
おつです
グラブルコラボのストーリーとこのスレがダブるわ! -夕方
盗賊達の拘束を解き、歯向かうのも無駄だというの理解してもらってからお家へと借ります
家の前ではソラくんの特訓がまだ続いていました
「はぁ、はぁ、ったく……まだやんのか…?」
ソラ「まだまだ……勝つまでやるっていっただろっ!」グッ
花陽「わぁ……」
アヤ「お帰り。こっちはご覧の通りよ」
花陽「ずっとやってるんですか、二人とも?」
アヤ「そうなの。あ、あのコンポってやつは中に運んでおいたから」
花陽「ありがとうございます」
ソラくんと盗賊さんはずっと訓練という名の勝負を続けていました
さすがに年季が違うのか、実力はあきらかに盗賊さんのほうが上
しかし若さゆえの気力、体力はソラくんのほうがあったようです
「いい根性してんじゃねーか、ボウズ……ふぅ」
ソラ「おっさんこそ、へばってんじゃないのか?」ダッ
「うるっせー」ガッ
お互い手にしている木刀もすでにボロボロ……ずっと打ち合ってるんですね
アヤ「ソラー、もうじき晩ご飯だよー?」
ソラ「わかってるよ〜っ!」ブンッ
「そらっ!」ガッ
どうやら私の読み通りのようですね……というか、凛ちゃんの読んでた漫画の通りといいますか…
「ほらっ、また足が止まってんぞー!」ガッ
ソラ「うわっとっ…くぅ、もっかいだ!」ザッ
なんだかちょっと楽しそうにも見えます。男の子ってよくわかりません
フワ「おかえりなさい。話は終わったの?」
花陽「ただいま。はい、聞きたい事はだいたい…」
おかげでアイドル活動のためのハードルが少しあがりましたが……
フワ「晩ご飯の前に、あっちに顔出すんでしょ?」
花陽「あっち……ああ、はいっ!」ハッ
フワ「………ちょっと忘れてたでしょ?」
花陽「考え事が増えたので……はい」
そういえば夕方頃に行くと言ってありました。危ない危ない…
花陽「まだスキル使えるほどお腹空いてないし、今日も晩ご飯は一緒ですかねぇ……」
フワ「……そう」
花陽「……………」
なんだかそわそわしているような……んん?
花陽「私ちょっとあちらへ行ってきますけど、フワちゃんも行きますか?」
フワ「えっ? わ、私?」
花陽「はい。向こうのアルパカさんとお話しでもどうかなっと…」
フワ「べ、別に私はあんなの興味ないんだけどー?」
花陽「……………」
フワ「まぁ花陽ちゃんが一人でむさくるしい男達のところに行くのが不安だっていうなら、ついて行ってあげてもいいけど?」
花陽「……………」
フワ「………」
花陽「………」
フワ「ごめん、行きたい」
花陽「はい、行きましょう♪」
まぁ……もしかしなくても、そうなんだね
フワちゃんも女の子です。ここは陰ながら応援しましょう!
ん、そういえばクリエイトに交配設定とかいうのもあったような……あれってどういうのだろう?
花陽「ま、必要ならその時にって感じかなー」
フワ「どうかしたの?」
花陽「ううん、なんでもないです」
あんまりこっちから弄るのもあれですし、温かく見守りましょう
花陽「フワちゃん、背中乗ってもいいですか?」
フワ「ん、いいわよ。はいっ」スッ
なんとなく、今のうちにモフっておきたくなりました
盗賊さん達は昼間と同じ場所で談笑していました
見た感じ、決めるべきことは全部決まったのかな
花陽「みなさーん」パカラッ パカラッ
「お、ハナヨさん」
「お帰りっす」
「ふお、それ、背中に乗れるんか?」
フワ「女の子限定よ」
「姉御〜」
雇うと決めたからというのもありますが、私の側についてくれた人達は基本明るい方々です
フワちゃんや他の子達と仲良くしてくれるのも嬉しく感じます
そして…あのアルパカさんも……
「ん、戻ったか……」
花陽「え………?」
アルパカさんは程よい大きさの岩に腰掛けて寛いでいました
アルパカが……椅子に座るかのように……胡坐をかいて……寛いでいますっ!
花陽「……………プフッ」フルフル
「どうかしたか?」
花陽「い、いえ……クク……」
フワ「笑われてるわよ、あなた」
「?」
花陽「あ、いえ…ごめんなさい。見た目の愛らしさとその声のギャップが…フフ」
どうしよう、すごく可愛い……でも大人の男性なんですよね……
花陽「はっ、もしかしてこれがにこちゃんがよく言ってたギャップ萌えというやつでしょうか!?」
フワ「ただ不格好なだけよ」
「お、これって俺らもギンに乗れるってことか?」
「必要とあらば乗せるのは構わないが……」
花陽「ん……ギン?」
「ああ、この人っつーかアルパカ?の名前っす。色々候補あがった中で本人に決めてもらいやした」
オスのアルパカさん、名前はギンさんということになったようです
渋いですね〜
ギン「そういうわけだ、以後よろしくな」
フワ「ん……フワよ。まぁ、よろしく」
花陽「うんうん。なんだかお似合いですっ」
「それと、言われてた家のデザインってやつなんだが……」スッ
花陽「はいはい。ん、これですか……?」
「よく考えるまでもなく、俺らに絵心のあるやつなんざいなかったからな。適当に屋根と窓と車輪だけつけたぜ」
紙に描かれていたのは子供のラクガキかと思うほど線の崩れた馬車……のようなものの絵
これでイメージしたらホントにこういうのが出来上がってしまいそうです
花陽「んー……これは却下です」
「そうか……。デザインなんて誰もやったことねぇからな。難しいもんだ……」
花陽「仕方ありません、ここは私達でなんとかしましょう」
「すまねぇな……」
内装とかは基本うちのと同じで問題ないと思いますが……
花陽「あの、もしかしてみなさんわりと不器用だったりします?」
「全員刃物の扱いには自信あるぜ?」
花陽「……………」
↑の一行目訂正
「それと、言われてた家のデザインってやつなんだが……」スッ
花陽「はいはい。ん、これですか……?」 日曜大工的なノリでやってくれる……かな?
ステージ作りをお願いしようと思っていましたが少し不安になってきました
花陽「それも練習ですかねー」
フワ「家もそうだけど、今日はこれからどうするの?」
花陽「みなさんを正式に雇うので、これからみんなであちらへ行きましょう」
「あんまり歓迎はされてねぇようだが……」
「無理もないわなー」
花陽「そうですけど、これから先もずっとこの調子なのも困るので、無理やり打ち解けろとはいいませんが、話くらいはできるように、お願いします」
「俺らはハナヨさんに従うって決めたからな、命令されればなんだってやるぜ」
……命令は、できればしたくないですねぇ
-夜 馬車 1F
花陽「ただいまー」ガチャ
ユリカ「ハナヨちゃん、お帰りなさい!」
アイナ「お帰り、ご飯の用意できてるよ」
アヤ「もう食べる?」
花陽「あ、いえ…この後スキルを使いたいのでそれの後で頂きます」
スズ「それではお茶だけでも淹れますね」
花陽「ありがとう」
さて、どうやって切り出そうかな……
花陽「…………あれ?」
花陽「そういえばソラくんと一緒に特訓してた人は?」
アヤ「ああ、あいつなら……」
ドタドタドタ… ガチャ
ソラ「よっし、ご飯食べたらもうひと勝負!」
「風呂はいったばっかだろーに、またボロボロんなるぞ?」
ソラ「いつまでもやられたままでいるかっ」
花陽「………え?」
ユリカ「二人とも泥だらけだったので、一緒にお風呂に入ってもらってました」
アイナ「なーんか、ソラのやつが妙に懐いちゃってね……」
アヤ「………ふん」
花陽「あらまぁ……」
期待していたことではありますが、まさかユリカちゃん達がお家にあげるのを認めたのは意外でした
これなら外で控えてる問題もスムーズにいくかな…?
花陽「そういえば子供達は?」
ユリカ「スズと一緒に二階で音楽を楽しんでますよ。ご飯になったら呼んでと」
アイナ「音楽って確かにいいものだけど、わたしらの中で一番ハマってるのはあいつらだねー」
アヤ「わたしももう一回聴きたい曲あるのに、すっかり占領しちゃってて…」
アヤちゃんが気に入った曲ってどういうのだろう。ちょっと気になります
花陽「でも丁度いいかな。ちょっとみなさん外に来てくれますか?」
ユリカ「ん、はい」
花陽「ご紹介したい方々がいますので」
-馬車外
状況的に私の話はみんなわかっていると思いますが、ギンさんも含めて正式にご挨拶です
花陽「みなさーん」
ザッ ザッ ザッ
「うす……」ザッ
「ども」ザッ
ギン「…………」
ユリカ「あら、あの方は……?」
アイナ「フワさんがもう一人?」
アヤ「可愛い……」
花陽「こちらは男性陣のお世話兼馬車を引くために来ていただいた、アルパカのギンさんです」
ギン「よろしく……」
ユリカ「っ!?」ドキ
アイナ「渋っ」
アヤ「えー……」
反応が様々でおもしろい……
花陽「ギンさん、それにみなさん。こちらが私の仲間…というか家族同然の方々です。仲良くしてくださいね」
「わかりやした」
「後ろにいるのは足を負傷してますんで、そのままで失礼しやす……」スッ
「………」ザッ
「………」ザッ
花陽「……え?」
お互いにちゃんと挨拶をして、今後とも仲良くやっていければという話をしようと思っていたのですが…
「先日の無礼、改めてお詫び申し上げたい……どうかこのとおり……」スッ
花陽「…………」
盗賊さん達が皆、膝をついて頭を下げます
これは……昨日の襲撃に関する謝罪……
ユリカ「はい……わかりました。どうか頭を上げてください」
アイナ「結局こっちはほとんど被害なかったし、いいんじゃない」
アヤ「私を襲ったムカつく奴は……いないか。ならいいわ」
花陽「……………」
フワ「どうかしたの?」
花陽「いえ……なんでも……」
私はみんな仲良くしてもらおうと間に入り中継役として手を回そうとしていました
だけど、一番大事な事を忘れていたのです
やった事、起こした事への謝罪……この一番大事な部分を私はうやむやに済まそうとしていました
自分がいればみんな強く言えないとか、立場を強調してばかりでみんなの気持ちを考えていませんでした
フワ「誰もそんなとこまで気にしてないわよ」
花陽「…………」
フワちゃんにはお見通しみたい
なんだかすごく……
花陽「恥ずかしいです……」
フワ「花陽ちゃんなりにみんなをまとめようとしたじゃない。その気持ちはみんなに伝わっているわよ」
ユリカ「まぁ、ギンさんと仰るんですね、ステキなお声です…」
アイナ「ホント渋いなー…おいくつなんですか?」
ギン「今日生まれたばかりなんでな……」
アヤ「あはは、おじさんおもしろーい」
ギン「おじ……」
勇者という特殊な立場にいつのまにか慣れてしまってたんですね
みなさんのおかげで、人としても初心に戻ってがんばろうと、そう思いました
乙です
毎日更新は嬉しいけどグラブルコラボちゃんと回るのならがんばるんやで 道徳や倫理感の描き方というかバランスがなんか好きだな -夜
ユリカちゃんが男性陣を家に招いて晩ご飯にしましょうという提案を、彼らは断りました
「嬢ちゃん達の申し出はありがたいが、こんなおっさん達で女子の聖域を汚すわけにはいかんよ」
「そういう事。風呂ありがとよ」
ソラ「明日もまたやろうな、おっちゃん!」
「ったく、マジで疲れ知らずだな…」
昨日と同様、馬車の外でご飯を食べるという事だそうです
この国に季節があるのかどうかはわかりませんが、夜は比較的暖かいです
日本でいうと、春あたり?
おじさん達が焚火を囲い晩ご飯を食べている間に私に出来る事をやりましょう
花陽「いい具合にお腹も空いてきたし……」
最初こそみんな私に気を使って静かにご飯を食べていましたが、今ではもうそんな気遣いも無用と理解してくれました
リホ「えっ、フワちゃん増えたの!?」モグモグ
パイ「見たい!」グモグモ
アヤ「増えたといえば…増えたのか……」パクパク
アイナ「ご飯食べながら大声だすなよー、飛んでくる」
エミ「あの方々のお目付け役という事ですか?」
花陽「ううん、新しい仲間として来てもらったんだよ」
そしてあの人達の住むお家を今……
ヨシノ「ふんふ〜ん、ふふ〜♪」
ヨシノちゃんがデザイン中です
寝ころびながらおかずを口にし、鼻歌まじりにお絵かき……
てっきりユリカちゃん辺りが躾として注意するかなとも思いましたがー……
ユリカ「あむ……おいしいわね、これ」サッサッ
アヤ「んふふ、でっしょ〜?」
特に何も言わない。おそらくヨシノちゃんがお絵かきしている理由を知っているからでしょう
つまり、はやくお家を作らないと私がご飯を食べられないのですっ!
花陽「ホントに絵が上手だね〜ヨシノちゃん」ナデナデ
ヨシノ「えへへ♪」
予定としてはこの後おじさん達のお家を作ってからご飯を食べてお風呂に入って……
エミ「……?」
花陽「………」
エミ「?」ニコッ
花陽「………っ」ドキッ
エミちゃんに歌を教えてあげる約束をしています
……けど、その時に少し話を聞いて見ようと思います
そして、できれば一緒に歌を……アイドルをやりませんかと、勧誘してみるのです
ヨシノ「出来たのっ」バッ
花陽「はやいねー。どれどれ……」スッ
ヨシノちゃんデザインの馬車と言う名の動く大きな家、二号
この家と同じような羽が生えてますけど、こっちは黒を基準にして全体的に大人の雰囲気です
思いのほかちゃんと細部まで拘っていて、少しボーっとしながら無難なデザインにするのかなと考えていたのを訂正します
リホ「リボンついてないよー?」
ヨシノ「ハッ!?」
アヤ「いらないでしょー男くさいところに」
パイ「リボンは誰でも可愛くなれるよ?」
スズ「うーん……さすがにちょっと……」
色々意見はありましたが結局リボンは無しという方向に決まりました
私も無しに1票いれたのは言うまでもなく……
……そして、新しい馬車が完成しました!
キラキラキラ…… デーーーン
「こりゃ…‥すげぇ……」
「そこらにあったただの石ッコロが……」
「ハナヨさん、アンタ一体何者なんだ?」
花陽「ふふ、慣れたとはいえ、すごい光景です」
「ここに俺らが住んでいいんですかい?」
花陽「はい」
「「うおおおお」」
外観こそ違いますが、中の設備などはほぼ同じはずです
私のイメージがこれ以外を知らないので……
花陽「中にあるものの説明をしますね」
「お前が入ったって言う風呂はあるのか?」
「あるんじゃねーかなー」
「どれどれ……」
ギン「俺はこの家を守ればいいのだな…」
花陽「家だけじゃなく、みなさんと協力して、出来ることはやってあげてください。そのための能力はさっき設定しておいたので」
とりあえず上げられる数値はフワちゃん同様に最大値にしておきました
これで防犯対策も大丈夫でしょう
花陽「あ、それと……」
「……ん?」
家にはそこに住む人達のルールがあります
それはここにいるみなさんでやっていってもらいましょう
花陽「こっちの……ええっと……」
どっちも呼ぶときは家だったり、やけに大きい家のような馬車とかなので、わかりやすい別呼称が必要です
花陽「取り敢えず、こっちを男子寮、向こうを女子寮としておきましょう」
「男子っていうか、おっさんだらけだけどな」
花陽「取り敢えずですよ。それでここの管理と細かいルールはあなたにおまかせしますね」
「まぁ、これでも元副団やってたんだ。なんとなくそうなるとは思ってたぜ」
みんなこの人についてこちら側に来てくれたのです。この人の言う事なら素直に聞くでしょう
花陽「それともう一つ。今後一切、悪い事は禁止ですよ?」
「ハナヨさんの不利益になるようなマネはしないさ……安心してくれ」
利益があるならいいってものでもないんですが……ま、そこはしばらく様子見で
家の設備、特に台所とお風呂、トイレの説明をざっくりとし、私は女子寮に戻りました
ようやくご飯が食べられます……
フワ「おかえりなさい」
寮の前ではフワちゃんがいつものくつろぎモード
懐でモフモフしているリホちゃんはお休みのようです
花陽「ただいまー」ガチャ
お家の中ではヨシノちゃんがソファでゴロゴロ…
アヤちゃんとソラくんがお茶を飲みながら楽しくおしゃべりしています
他のみんなは二階かな?
トタタタ…
エミ「おかえりなさい、ハナヨちゃん」タッ
花陽「ただいま、エミちゃん」
私との約束があるから待っててくれたのかな?
歌を覚えるの、楽しみにしてくれていたんですよね
私もそんなエミちゃんと楽しく歌いたいから………もう目を背けちゃいけない、大事な話をしましょう
-女子寮 屋上
エミ「今日も星が綺麗ですね…」
花陽「そうだねー。この世界は空がとても綺麗です」
エミ「ハナヨちゃんの国ではどんな星が見えるのですか?」
花陽「んー。私は自分の国から見た空しか知らないけど、外国にはもっとたくさんの星が見える地域もあります」
エミ「外国ですか……」
花陽「遠くてそう簡単に行けないんですけどね…」
エミ「遠い……そうですね。やっぱり自分の国から出るのって、大変なんですね」
花陽「…………」
エミ「…………」
トントントン… ザッ
ユリカ「おまたせしましたー。夜は少し冷えるので温かい紅茶をお持ちしました」トンッ
花陽「ありがとう」
エミ「ありがとうございます」
二階では子供達がコンポから流れてくるクラシックを聴きながら静かに眠っているのでお話しの場所を屋上にうつしました
エミちゃんと歌の話をするのとは別にするお話しのために、ユリカちゃんにも同席してもらいました
ユリカ「何のお話しをしていたんですか?」カチャ
エミ「ハナヨちゃんの世界の星空の話です」リン
花陽「こことそんなに変わらないのって、やっぱり異世界にも宇宙や他の星があるからなんですかね」
ユリカ「あまり意識した事はありませんが、そうかもしれませんね」
エミ「異なる世界とは異なる宇宙も存在するということですね。興味深いです」
エミ「あの、ハナヨちゃん。さっそくで申し訳ないのですが、昼間に言っていた話を……」
花陽「うん、そうだね。えっと……まずはこれ…」カサッ
さっきヨシノちゃんが絵を書いてる時にさらっと書いておいた、スノハレの歌詞
まずはこれを見て全体の曲のイメージを見てもらいましょう
エミ「……………」
花陽「その曲はね、みんなでラブライブ優勝を目指していた時に……」
エミ「あの、すいませんハナヨちゃん……字が読めないので、内容を理解できません」
ユリカ「これはハナヨちゃんの国の字ですね」
花陽「………あ」
そういえばスキルのおかげで当たり前のように会話したりしていたので失念していました
花陽「言葉や歌にすると思うままに伝えられるのに、文字だと無理なんですね……」
エミ「…………」
ユリカ「それにしても、複雑そうな文字ですねー……」
いきなり躓いてしまいました。さて、どうしよう……
エミ「あの、ハナヨちゃん。よかったらこの歌詞の内容を教えてくれませんか?」
花陽「え…でも言葉が…」
エミ「覚えます! そしてできるだけハナヨちゃんの国の言葉で歌ってみたいのです」
ユリカ「ハナヨちゃんの国の言葉ですか。それは確かに聴いてみたいですね」
エミちゃんの真っ直ぐな視線と言葉がすごく嬉しく思います
これはこちらもその想いに答えないといけませんね
花陽「それじゃ、エミちゃんも紙とペンを用意して」
私自身もこの世界の文字は読めないけど、もしも読むことが出来たらもっとたくさんの事を知れるのかな
花陽「ここまでが一文で、歌だと……この部分まで」
エミ「なるほど……ふ、し、ぎ、だ、ね……い、ま、の、き、も、ち……」
ユリカ「こうして文字にするとまた違った印象を受けますね」
花陽「詩や作文と違って歌の歌詞はリズムをとっていますからね」
エミ「それで全体的に見ても統制がとれているように見えるんですね」
この世界には俳句のようなものはあるのかな?
文字で気持ちを……言葉で歌を……
あたりまえのようにある想いを伝える方法。想いを感じとれる方法
それがないというのを考えた事がありません
花陽「……漫画とかテレビも……ないんだよね」
ユリカ「……ふふ、歌詞のこの部分、はじめてハナヨちゃんに出会った時の事を思い出しますね」
花陽「はじめて……あぁ……そうですね」
私は気が付いたら見知らぬ神殿のようなところに立っていて、ユリカちゃんに声をかけてもらいました
あそこで一人ぼっちだったら、きっと今でもあそこで蹲っていたかもしれません
花陽「…………?」
あれ、そういえば私、あそこに召喚される前って何してたんだろ?
凛ちゃんと一緒にいたのはうっすらと覚えているのに……
エミ「ハナヨちゃん、この部分は……」ササッ
花陽「あ、うん。ここはね……」
たぶん、下校途中で突然……だったのかな
凛ちゃんきっと驚いて、心配してるだろうな……
エミ「と〜ど〜けて〜切なさ〜には〜♪」
ユリカ「名前を〜つけよう〜ぅかー♪」
「「スノーハレーション〜♪」」
花陽「………………」
エミ「……あ、今声が重なってなんだかすごくいい感じでした」
ユリカ「そうですね、歌って実際自分で歌うとその良さがわかります!」
驚きました……エミちゃんもだけど、ユリカちゃんも綺麗な歌声
それに覚えるのも早くて……みんな賢いなぁ
エミ「これ、三人で歌ったらもっと楽しくなると思いませんか?」
ユリカ「ふふ、リホちゃん達がずっと一緒に歌っている楽しさ、わかったような気がします」
花陽「ホントはね、この曲は九人で歌っていたんです」
エミ「そうなんですか? そんなにたくさん同時に同じように歌えるのってすごいですね」
花陽「うん。そのための練習をみんなするんだ。毎日、毎日……」
ユリカ「それが以前におっしゃっていた、アイドル活動なのですか?」
花陽「それだけじゃないよ。ダンスの振付を考えたり、衣装を考えたり。それをみんなで形にしていくの」
エミ「1つのものをみんなで作る……それがアイドル……」
花陽「正確には、スクールアイドルだよ」
ユリカ「それはアイドルと何が違うのですか?」
アイドルとしての活動やその意義はきっと同じです
だけど決定的に違うのは、スクールアイドルはスクールアイドルによって創られるものだという事です
エミ「良く分かりませんが、自分達で自分達を創る……?」
ユリカ「どういう意味でしょうか?」
花陽「スクールアイドルは、繋がっていくんです。みんなどこかのスクールアイドルに憧れて、自分もこうなりたいって願って…」
自分達がスクールアイドルを辞める時がきても、今までの自分達の姿を見て、きっとどこかで自分もなりたいと思ってくれている
そうしてスクールアイドルの想いは伝わっていく……私がスクールアイドルに憧れたように
それは、とてもステキな事だと私は思います
エミ「想いは伝わる……」
ユリカ「すごいですね。そんな存在がハナヨちゃんの世界にはあるのですね」
花陽「きっと、この伝わる想いに世界は関係ないのだと思います」
音楽を楽しいと感じてくれた。歌うことの喜びもわかってもらえた
私達は、何の違いもありません
花陽「だから、みんなで一緒にやりませんか? スクールアイドル!」
エミ「私達が……」
ユリカ「スクールアイドルを?」ドキッ
花陽「はい。正直ずっと思っていました。みんながアイドルのステージに立ったらどんなにステキだろうって」
エミ「……………」
ユリカ「で、ですが私達はハナヨちゃんのために召喚術を学ばないと……」
花陽「それはわかります。でも、スクールアイドルは人生すべてを捧げるものじゃありません」
みんなそれぞれが未来を見つめて動き出す大切な時期
その限られた時間の中で輝くからこそ、スクールアイドルはどこまでも本気になれるんです
花陽「私はそのために帰るのが遅れるのも、いいかなって思っています」
ユリカ「ハナヨちゃん、それは……」
花陽「ユリカちゃんには前に言ったと思いますけど、私は私自身のできることでみんなを助けたいんです」
エミ「…………」
もらったスキルをただ使うだけでいいのなら、きっとそんなのは勇者でもなんでもない、ただの便利屋さんです
この世界に召喚された意味を、ちゃんと私自身が納得する容で残さないと、
今度はそのせいで私は元の世界に帰れないと思います
花陽「私はみんなにアイドルのステージを見せてあげると言いました。でも……」
エミ「…………」
花陽「それは一緒にステージに立つという意味でも同じです。そして私はみんなとやりたいと思っています」
ユリカ「ハナヨちゃん……そこまでして……」
花陽「それにこれからユーディクスへ行くのなら、その国の人達にも見て欲しいと思います。アイドル!」
ユリカ「わかりました、やりましょう!」
花陽「あれ、意外にあっさりと……」
ユリカ「ハナヨちゃんの言う通り、歌はいいものだと思います。それをハナヨちゃんと一緒にやれるのはきっと楽しいと思いますから」
花陽「もちろんです!」
ユリカ「それにこの曲、9人で歌っていたと言ってましたよね?」
花陽「はい。私とスクールアイドルの仲間とで……」
ユリカ「じゃあ私達も負けてられません! こっちも9人で歌いましょう!」
花陽「……ええっ!?」
ユリカ「私とエミちゃん、それに子供達の3人。ハナヨちゃんにスズ……アイナとアヤも誘いましょう!」
花陽「やってくれますかねぇ……?」
なんとなくですが、スズちゃんとアヤちゃんはどうなんだろう……もちろん一緒にできたら楽しいと思いますが
エミ「…………」
ユリカ「そこはまかせてください、やらせて見せます!」
花陽「そんな無理やりやってもらっても楽しんでもらえないですよ……」
ユリカ「大丈夫です、そこは……」
エミ「あ、あのっ……」
花陽「……ん?」
エミ「ごめんなさい……私、歌は歌いたいです…でも……」
さっきまでの楽しい雰囲気を微塵も感じさせないエミちゃんの様子
ついにこの時が来たのです。慎重に話を進めましょう……
花陽「もしかして……人前で歌うのは嫌……ですか?」
エミ「…………」
ユリカ「そうなのですか?」
花陽「人に……見つかるとダメ……なんですか?」
エミ「ハナヨちゃん!? どうしてそれをっ!?」ビクッ
一つだけ気がかりなのは……
私の思う流れでは一度もスキル「それ正解!」が発動してくれないという事です……
続くー 週末お出かけするのでまた少しお休みします。週明けに……
なんだか長文だと書きすぎだよと出るようになってきたョ おつおつ、スクールアイドルらしさを感じる展開が楽しいね
次スレを立ててもいいのでは ユリカ「…………二人とも、どうかしたのですか?」
私とエミちゃんが急に黙ってしまったからユリカちゃんが心配しています
こんな雰囲気のまま話をするのも嫌なので、空気を重くしないようにしないと…
花陽「なんでもないですよ、ただエミちゃんがアイドルをするのに問題があるのなら……」
エミ「ハナヨちゃんは、どこまで知っているのですか?」
花陽「えっ……?」
エミ「あの事故の事も知っていて……はっ! だからここにユリカちゃんを!?」
ユリカ「え?」
花陽「あの、エミちゃん……?」
なんだか様子が……というよりも、追加で新しい情報が……
エミ「そうでしたか……だからハナヨちゃんとユリカちゃんに繋がりがあったのですね……納得です」
ユリカ「あ、あの…エミちゃん何を言って……」
エミ「ということは……ユリカちゃんも知っていて?」
花陽「……………」
どうやって話を進めるかというよりも、どうやってこの子を止めようかと考えます
このまま放置しておくとどこまで話が広がるんだろうとも思いますけど、こっちが置き去りなのは困ります
花陽「エミちゃん、落ち着いてください」
エミ「………私がここに呼ばれたのは……そういう理由からだったのですね……」
花陽「落ち着いてください」
エミ「……でも……私、本当にこの曲……歌が好きなのです。歌ってみたいと思ったのは本当で……」
花陽「…………」
ゴツン!
エミ「ひゃいっ!?」
花陽「落ち着きなさいっ!」
誰もそんな事言ってません。アイドルを好きだと言ってくれるこの子の言葉を、私は微塵も疑ってなんていません
それを勝手に否定されたようで、なんだか頭にきて手がでてしまいました
でもこうでもしないと治まりそうになかったと思いますし、少し心は痛みますが致し方なし……と、いうことで
エミ「ぁぅぅ……」ジーン…
ユリカ「いいゲンコツです、ハナヨちゃん」グッ
花陽「そこを褒められても……」
とりあえずこちらの話を聞いてもらわないと……
花陽「叩いちゃってゴメンね。でもエミちゃん全然話聞いてくれないから……」
エミ「でも……話って……私の……」
花陽「勝手に話が進んでいましたけど、私はほとんど何も知りませんよ?」
エミ「えっ!?」ドキ
ユリカ「なにか私の事もでていたようですが、どういう事でしょうか?」
私とユリカちゃんの言葉を聞いてエミちゃんが数秒固まります
そして状況を理解したのか、顔を真っ赤にしていきます。可愛い……
エミ「は、恥ずかしいです……」
ユリカ「エミちゃんがあれだけ取り乱すなんて初めて見ました」
花陽「落ち着いて少し達観した印象でしたけど、子供らしい一面ですね」
もちろんイイ意味としてです。みんな可愛いですね
花陽「ユリカちゃん、紅茶のおかわりお願いしてもいいですか?」
ユリカ「はい、すぐに用意してまいりますっ」シュタッ
エミ「…………」
花陽「大丈夫ですか?」
エミ「あ…はい。すいません、御見苦しいところを……」
花陽「落ち着いてからでいいので、ゆっくり話してもらえますか?」
エミ「……はい」
花陽「あと、別に問い詰めるとか、そういった事では全然ないので、気を楽にしてくださいね」
エミ「………」
エミちゃんがそのまま黙り込んで数分が経過し、ユリカちゃんが戻ってきました
ユリカ「ふふ、結局下ではみんな音楽を聴きながら眠ってしまったようです」
花陽「あの子達、クラシックに辿り着くとはさすがです」
まぁそのせいで眠っちゃったとは思いますけど…
ユリカ「はい、紅茶をどうぞ」カチャ
花陽「ありがとう」
エミ「………ありがとう、ございます」
ユリカ「あとお茶請けも用意しましたっ」ササッ
花陽「おー」
エミ「…………」
ユリカ「さすがに温かいといってもずっと外にいるのならと毛布も用意しましたっ」バサッ
花陽「さすがですっ」
エミ「…………」
ユリカ「さ、これでお話しする体勢は万全ですっ! 聞きましょう!」ザッ
花陽「はは……」
若干テンションがおかしいというか、話の内容がもしかしたらとても重いものかもしれないと、気が付いているのかな
エミ「まず最初に言い訳をさせてください」
花陽「ん?」
ユリカ「言い訳って…エミちゃんが何かしたのですか?」
エミ「何もしていません……いえ、もう忘れて生きていくようにしていました」
花陽「……?」
エミ「でもそれは、決して逃げたわけではなく……歴史から私達の存在を消すにはそうしたほうがいいと、あの方に言われて……」
んー……話の流れが掴みにくいです。というか、順を追って説明してくれないと意味がわかりません
ユリカ「エミちゃん、さっきも言ったけれど、私もハナヨちゃんもよく状況が呑み込めていません。最初からお願いします」
エミ「……ごめんなさい。落ち着いたつもりでしたけど、やっぱりまだ動揺しているんだと思います……」
花陽「じゃあこうしましょう。私達からいくつか質問していくので、ゆっくりでいいからそれに答えるというのは?」
ユリカ「尋問形式ですね」
花陽「あ、いえ…そんな重いものでは……」
エミ「はい、それでお願いします……」
花陽「尋問じゃないからね? もっと気を楽に、ね?」
もう、ユリカちゃん……けっこう言葉がきつい時があります
ユリカ「それではまずお尋ねしますが……」
エミ「…………」
ユリカ「エミちゃん。あなたは何者ですか?」
エミ「私の本当の名前は、エレミアと申します」
花陽「エレミア……ちゃん?」
ユリカ「エレミア……どこかで聞いたような……はっ!?」ガタッ
エミ「クレスタリア王国王位継承権第11位……この国の、元王女です」
花陽「…………お」
ユリカ「思い出した。確か王族の一番遠い筋の……」
エミ「そうです。肩書としてはありますが、ほとんど意味を持ちません」
ユリカ「でも確か戦争が始まる前にほとんどの王位継承者は行方不明になったり死去したりと……」
花陽「え……」
すごく物騒な話に……
でもやっぱりエミちゃん、高貴な人だったんですね
エレミア・クレスタリア……それがエミちゃんの名前
エミというのは偽名だったんだ……
エミ「偽名というと少し違います。私に新しく名前をくださった方がいたのです」
ユリカ「名前を……新しくというのはどういう意味ですか?」
エミ「私に国の事は忘れて新しい人生をと、道を示してくださったのです……」
ユリカ「………それは、誰ですか?」ズイッ
ユリカちゃん?
エミ「………それは……」ジ…
ユリカ「………まさか……お父さん……?」
エミ「……………」コクッ
お父さん……ユリカちゃんのお父さん?
ユリカ「どうしてっ!?」ガタッ グッ
エミ「……っ!」
花陽「ユリカちゃん!?」ガッ
ユリカちゃんが突然エミちゃんの肩を掴むと強く揺さぶる
慌てて止めますが、ユリカちゃんの様子がおかしいです
やっぱりお父さんの事だから?
ユリカ「どうしてお父さんがエミちゃんに……?」
エミ「それは……私があの方の実験に…被験者として選ばれていたからです」
ユリカ「実験って……それはいつの話ですか?」
エミ「去年の春先のことです」
ユリカ「………っ!」
ユリカ「それじゃ、お父さんがお城に呼ばれたのって……」
エミ「はい……例の魔導兵器の実験と開発のためです」
ユリカ「そんな………ウソでしょ……」カクッ
花陽「……………」
去年何かあったのでしょうか……ユリカちゃんがすごく動揺しています
ユリカ「それじゃあの事故って……お父さんの……」
エミ「それは違いますユリカちゃん! あの方の実験は成功しています! すべて私達王家が悪いのです!」
ユリカ「じゃあどうして……戦争になんて……」
エミ「それは………」
エミ「私は魔法の素質があったので実験に使われていただけで良く知りませんが、上の姉さま達があの兵器を軍事運用しようとしていたのです」
ユリカ「軍事……それではあの事件は?」
エミ「はい……。兵器を悪用し、隣国との開戦のきっかけにしようとしていました……」
ユリカ「なんてバカな事を……」
エミ「あの兵器はあの方の調整下と、私以外には扱えない仕様になっているのをあの人達は知りませんでした」
ユリカ「それって……」
エミ「おそらく暗躍に気づいたあの方がそうしてくれていたのだと思います」
花陽「…………」
どうしよう……お話しについていけません……
ユリカ「どうしてお父さんはそんな実験なんかに協力を……」
エミ「それは………」
ここまで二人の会話はお互いうまく繋がっていたようですが、ここでエミちゃんが言葉を詰まらせます
ユリカちゃんのお父さんが兵器実験に協力した理由……それは……
ユリカ「そんな……」
エミ「………」
花陽「セト村を人質………そんな酷い事を……」
エミ「本当に申し訳ありません。身内の恥とかき捨てるにはあまりにも……っ」グッ
ユリカ「………っ!」
花陽「…………」
ユリカちゃんのお父さんは魔術師として高名な方でした
その名は他国からお父さんに師事を願う人達がいるほど……その力を軍事利用しようとしたのがこの国の偉い人達
村の人達を人質にし、無理やり兵器開発に協力させたのです
エミ「……あの方の配慮もあり、兵器は上手く扱えないはずでした……でも姉さま達は無理やり起動させようとしたのです」
ユリカ「それが……あの事故の原因なのですね……」
エミ「はい。結果としてその場にいた多くの方が亡くなりました。近隣諸国の王族を巻き込む形で……」
花陽「えっ……それって……」
エミ「国境付近で行われた国際会議の場での事でした」
花陽「えぇ………」
ユリカ「それが先にあった戦争の原因。戦争中、セト村になんの援助もなく放置されていたのもそういう理由だったのですね……」
お父さんが戦争に協力しなかったという事だけど、あの敗残兵の人達はもっと違うニュアンスで言っていたと思います
もしかして、そのあたりの食い違いは誰かの意図的なもの?
エミ「私は開戦前にあの方からトト村へ逃げるように言われました」
ユリカ「お父さん……」
エミ「予定外の形での開戦だったため、クレスタリア軍は戦線維持もままならず、結果はみなさんがご存知の通りです」
ユリカ「自分達で戦争を引き起こしておいて、なんて無様な……」
花陽「ユ、ユリカちゃん……」
時折……いえ、結構きつく言う事があるユリカちゃんですが、自分の認識の中で敵としてるものに容赦がないんですね
エミちゃんの事、どう考えているんだろう?
エミ「あの方が…クレスタリアは近いうち滅び、新しい時代がくるから、私にはその時代を生きなさいと……私にエミという名をくださいました」
ユリカ「それでお父さん、自衛のための隠し部屋とか作って避難時の備えをしていたのね」
エミ「あの方はこうも言っておられました……」
-どんな理不尽にみまわれようとも、すべてを覆す存在……勇者がこの歪んだ国を正してくれる
-キミは普通の子供として、普通の人生を歩みなさい……
お父さんはエミちゃんにそう言ったそうです
エミ「私は生まれた時から国の教育施設で育てられ、親の顔もろくに知らないまま生きてきました……」
花陽「え……王女さまなのに……」
第11位というのがどういう立場なのかわからないけど、子供にすることじゃないように感じました
エミ「そんな私にあの方は……私に生きる意味と……道を示してくれ……て…ぅぅ」
話ながらもユリカちゃんのお父さんの事を思い出していたのでしょう
エミちゃんの目に大粒の涙が見えます
ユリカ「……………」
エミ「ごめんなさい……ホントは私、ここにいちゃいけないのかもしれません……でもっ」ポロポロ…
花陽「そんなこと……」
エミ「でも……こんな私に…みんな…っ…優しくして、くれて……友達だって…家族だって……ぇぅぅ」
花陽「エミちゃん……」
エミ「ホントに私、このまま忘れてもいいのかなって……楽しいことを楽しんで、いいのかなって…」
初めて会った時のエミちゃんは、どこか影がありました
リホちゃん達と一緒に遊ぶこともなく、一歩下がったところでその輪に入れずにいたように思います
しかし最近はみんなとも打ち解け、本当の家族のようになれたように思えます
だけど一人でずっと自身の生い立ちから心に重荷を感じてもいたんですね
エミ「でもやっぱりこの体に流れる血の呪いには抗えないようです……」
花陽「それは……エミちゃんが狙われる理由ですか?」
エミ「はい……。私を狙っているのはおそらく王族の生き残りです」
…………ん?
エミ「私にしか扱えないあの魔導兵器は人目につかない地下深くに封印されたと聞きました。きっとそれを使ってまだ戦争をと考えているに違いありません」
花陽「そうなの? 私はてっきり……」
兵器の事は詳しく知りませんが、エミちゃんを狙う野盗の集団は、その命を狙っていました
これはエミちゃんの推測が違う事を意味しているはずです。それにあの人達は……
ユリカ「………セト村が襲われたのって、エミちゃんがいたからなんですか?」
エミ「……っ!?」
花陽「ユリカちゃん?」
ユリカ「どうなんですか?」
どうして急にそんな事を言うの?
どうしてエミちゃんをそんな冷たい目で見るんですか?
それにそれは違うはずです。おそらくこの食い違いも誰かの意図的なものなんです!
エミ「…………それは………そう、」
ダメです、この流れは絶対に止めなくちゃいけません!
花陽「違いますよ!」バッ
エミ「……え」
ユリカ「ハナヨちゃん……」
花陽「村が襲われたのはエミちゃんのせいじゃありません。考えてもみてください……」
ユリカ「どういうことですか?」
花陽「村が襲われた時もそうだと思いますが、私が野盗と対峙した時……あれが要人の保護を目的としたやり方ですか?」
エミ「…………」
ユリカ「それは………」
兵器のためにエミちゃんが必要ならあんな無差別に火を放つようなことはしません
花陽「それにあの人達言ってました、探してる人物…エミちゃんの命が目的だと……」
エミ「え……」ドキッ
ユリカ「……じゃあやはり原因は……」
花陽「違うのっ! あの人達、エミちゃんが居ても居なくても村を襲ってました! 戦争の時、自分達を見捨てたのを許せないって!」
ユリカ「そんな! 私達は見捨てたなんて事……そもそも戦時中に繋がりを絶ったのは国のほうです!」
花陽「そこです、その部分がお互い食い違っているから誤解を生むんです」
エミ「疑心暗鬼に陥らせるための……罠?」
花陽「意図はわかりませんけど、ユリカちゃんの危惧していることは誤解です」
ユリカ「………っ」
エミ「…………」
ユリカ「その……ごめんなさい。つい感情的になってしまいました」
エミ「…………いえ」
花陽「一度落ち着きましょうか」
なんだか話が進むにつれてわからない事もたくさん出てきます
だけど一番大事な問題は見失いません
花陽「エミちゃん自身はアイドルをやってみたいという考えでいいんだよね?」
エミ「えっ……あ、はい。できれば」
花陽「ユリカちゃんも同じでいいんですよね?」
ユリカ「それは変わりありませんが……」
花陽「そしてエミちゃんがアイドル活動をしようとすると邪魔をしてくる人達がいる……と」
エミ「軍事利用のために私を拘束しようとする輩がいるかもしれないのでと、警告はされていました」
ユリカ「問答無用に命を狙われるなんて……もしかしてその相手というのは……」
ここで盗賊から得た情報も考慮します
あくまで噂の範囲ですが、話が繋がる以上無碍には出来ません
花陽「命を狙っている元騎士団の野盗達は、敵国に雇われているという話を聞いた事があります」
ユリカ「敵国……戦争の相手国ですか……」
エミ「おそらく、兵器の修復、再利用されるのを阻止するため。私が必要なのを知っているのなら、封印された兵器はすでに発見されたと見るべきです」
エミちゃんが生きている限り命を狙われる
その理由が戦争の火種になっている魔導兵器の存在……それが私達の邪魔をしています
花陽「それじゃ、するべき事は一つですねっ」
ユリカ「やはり早急に野盗との決着をつけるのですね!」グッ
エミ「でもどこにいるのかわかりません……」
………え? それはあまり意味がないと思います
ユリカちゃん達の直接の仇ではありますが、今は別の問題を解決しないといけません
花陽「あの人達は雇われているだけです。個人的に恨んでもいるようですけど、そこをどうにかしても同じです」
エミ「また別の刺客が送られるだけ……ですね」
ユリカ「えっと、じゃあどういう方法を?」
元凶がなくなればそれで問題は解決するはずです。なので……
花陽「エミちゃんっ」
エミ「はい」
花陽「その魔導兵器というの、壊しに行きましょう!」
おつおつ
ほぼ毎日更新のこのペースはすごい、俺も楽しみに読んでます おつおつです
かよちんの渾身のパンチで魔導兵器を破壊するのか -次の日 お昼
リホ「すごーい……」
パイ「キレイ……」
ヨシノ「可愛い…」
花陽「でしょ〜?」
アイナ「すっごく広いところだね」
アヤ「何人いるの、これ……」
みんながとても喜んでくれています
それもそのはず、今みんなが見ているのは…っ!
花陽「これは日本武道館といって、たくさんのアーティストがここでライブをするんだよ」
ヨシノ「あーてぃすと……カッコイイ響き……」
リホ「ライブって、お姉ちゃん達がやろうとしてる?」
ユリカ「ううん、リホちゃん達も一緒、みんなでやるんだよ」
パイ「おー」
アイナ「え……みんなって……」
アヤ「まさかわたし達も?」
ユリカ「そうよ!」
みんなは今1階の広間にドカーンと置いてある大きいテレビに流れている、アイドルのライブ映像を見ています
……そう、創りました! 様々なアーティストやバンド、アイドルのライブが観られるテレビを!
スズ「言葉はわからないけど、曲と一緒に聴こえてくる歌はとっても綺麗で、耳に心地よいですね」
アヤ「複数の声が重なるとこんなにも変わるんだ…」
アイナ「これをわたし達がやるのって、ちょっと無理なんじゃない?」
エミ「でも、とてもステキですっ!」
花陽「いきなりこのレベルまではさすがに無理だと思いますけど」
だけどみんなにアイドルのライブがどういうものなのかを感じてもらうにはこれが一番!
ホントは私自身で伝えたかったのですが、言葉や文字の壁があるのに気づいてやり方を変えてみたのです
ユリカ「みんな、これから数日の間ハナヨちゃんとエミちゃんが用事でお出かけするから、それまでにアイドルの基礎をしっかり勉強しますよ!」
リホ「やった〜!」
パイ「ライブ見てていいのね?」
ヨシノ「エミちゃんも一緒に見れないのー?」
エミ「ごめんなさい、でも戻ったら一緒に見ましょう」
アイナ「ユーディクスに着いてからじゃダメなの?」
花陽「ごめんね、急ぎの用だから」
花陽「それじゃ、向こうにはそう伝えておいてください」
ユリカ「はい。男性陣には買い出しとお金の洗浄をやってもらうんですね」
花陽「何かあったらギンさんと相談して決めてください」
スズ「無事に戻ってきてくださいね」
エミ「ハナヨちゃんが一緒ですから、安心してください」
花陽「…………ん」
花陽「そういえばソラくんは?」
アヤ「ああ、朝ごはん食べたら向こうに跳んでったわ。まったく…」
アイナ「今日も訓練やるんだってさ。相手のおっちゃんも大変だね」
ソラくん、がんばってるんですね
いつかその努力がみんなの望む形で報われるといいな
フワ「準備できてたかしらー?」ガバッ
花陽「はい、いけますっ!」
エミ「こちらも大丈夫です」
花陽「それじゃ、最初の予定で行きますね」
エミ「………お願いします」グッ
ユリカ「フワさん、お二人をどうかよろしくお願いします」
フワ「まかせといてっ! そっちもしっかりね」
私の急なお願いにも了承してくれたフワちゃんには、ちょっとがんばってもらいます
短い時間で長い距離を移動するにはフワちゃんの協力は不可欠です
フワ「道中は飛ばすから、しっかり掴まってるのよ!」
エミ「手綱を体に括りつけるので遠慮なさらず、やってください」
ユリカ「それではハナヨちゃん……」ギュッ
花陽「うん、行ってきますね」グッ
今回の件は言ってしまえば私個人の我儘です
ユリカちゃんのお父さんはエミちゃんにすべてを忘れて新しい人生を生きて欲しいと、手を差し伸べました
ユリカ「行ってらっしゃい!」
違う国で別の人生を歩むこともできたエミちゃんにとってこれが本当に良い事なのかわかりません
だけど大人の都合だけで命を狙われ続ける人生なんて、きっと幸せになんてなれないと思います
だから私はこの我儘を、やり通すと決めました
これが私の選んだ方法、みんなを救うために絶対に必要な事だから
エミ「まず向かうのは旧王都と呼ばれるクレスタリアの西にある町…」
フワ「そこに隠された研究施設があるのね」ダッ ダダダダダ!!
エミ「はい。おそらく施設は抑えられていると思いますが」
フワ「そこは勇者さまがなんとかしてくれるわ。ね、ハナヨちゃん?」ダンッ
花陽「……………ぅぅ」
エミ「ハナヨちゃん、どうしたのですか?」
花陽「いえ、みんなの手前、我慢していたんですけど……」
フワ「あぁ、なるほど。でももう少し我慢していてね、きっとそのパワーが必要になるんだから」ザザッ タタタタ…
エミ「ファイトです、ハナヨちゃん!」
花陽「わかってますけど……ぅぅ……お腹がすきました……」グゥ…
スレ容量的に自由に書けないのでここで終わります
新スレに続くー すいません、少し間が空いたので書留と他色々やってました
明日スレ立てて続き載せていきます
こっちは落としてもらって大丈夫です 新スレ乙です!
これからも楽しみに読ませていただきます ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています