曜「あなたがブラック・ジャック先生ですか……?」BJ「フフ……」
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『嘘をかさねて』
丘の上に建てられた家に向かっていた。少しよれてしまった地図のしわを伸ばしながら、目の前の家と地図の端に描かれているイラストを見比べ、確信を持った私はノックをした。
この家には、ブラック・ジャック先生という医者がいる。治療費はうんと高いらしいけど……それで彼女が治るなら、私は一生かけてでも払ってみせる。また“あの頃の私たち”に戻るために。そのためならなんだってするよ。 ギィイ…
BJ「お客さんかね。なんの用だい」
曜「あの、あなたがブラック・ジャック先生ですか……?」
BJ「あぁ」
曜「手術をお願いしたいんです。お金も持ってきました!」
BJ「ほう。おいくらほど?」
曜「300万です。足りなければ、その、後払いとか……」
BJ「フフ……まぁいいがね。言っておくが、私の手術を受けたければあと1桁は足りないね」
曜「3000万、ですか!?」
BJ「あぁ、それでも手術をして欲しいかい?」
曜「お願いします!必ず、一生かけてでも払いますから!なんでもします……っ!」 BJ「……それでおまえさん、どこが悪いんだ。見たところ健康そうに見えるがなァ……」
千歌「っ……」
曜「いえ……この子が患者なんです。高海千歌ちゃんと言います。自分は幼なじみの渡辺曜です」
BJ「……ふむ。まずは診察をしてみよう」
ギィ……
曜「喉です。少し前から声がでないみたいで……」
BJ「どれ見せてみろ……うぅむ、腫れてるわけではなさそうだが……」
曜「他のお医者さんもそう言って治療してくれませんでした」 BJ「そうだなァ……わからなければ手術のしようもない。諦めることだな」
曜「ダメなんですッ!」
BJ「声が出ないくらいで死にゃせんよ」
曜「私たちはスクールアイドルをやっていて。声が出せなきゃ……。お願いします!診るだけでも……っ!先生しか頼れないんです!!」
BJ「そのスクールアイドルとやらをやるために無意味な金を払うのかね?第一におまえさん、この金はどうした?」
曜「これは……今まで貯めてきた賞金です」
BJ「賞金?」
曜「私、高飛び込みという競技をやっていて……ありがたいことに大会によく出させてもらっているんです。それで賞金が出ますから、そのお金です。7年分くらい……かな」 千歌「……」ギュッ
曜「ん?大丈夫だよ、千歌ちゃん」
千歌「っ」フルフル
曜「ふふ、気にしないで。また一緒にスクールアイドルやろうね」
千歌「……」
BJ「……」
BJ「よしわかった。少し診てみるとするか」
曜「本当ですか!?」
BJ「喉に問題がないのなら、脳かもしれないな。一度検査をしてみる。それでわからなければ諦めろ。いいな」
曜「はい……ありがとうございます!良かったね千歌ちゃん!」
千歌「……」コクッ BJ「ここから先は患者以外立ち入り禁止だ。そこで待っていろ」
曜「あ……そうですよね。すみません」
……バタン
BJ「……ふぅ」
千歌「……」
BJ「ここは外に音が漏れない」
千歌「……?」
BJ「おまえさん、もう演技は中断して平気だぜ」
千歌「……あはは」
千歌「やっぱり、ブラック・ジャック先生は噂通りすごい人だなぁ……今までバレなかったのに」 BJ「どうして声が出ないフリをしている」
千歌「先生に治してもらいたいからです」
BJ「悪くない場所を治せってのか?フフ、まぁ実体のない人間を手術したこともあったが……」
千歌「あ、そうじゃなくて……治して欲しいのは、曜ちゃんなんです」
千歌「曜ちゃんはスクールアイドルをやっている……と言っていたんですけど、本当はやってないんです。もう、終わりましたから」
千歌「たしかに私たちはスクールアイドルをやっていました。だけどそれももう4年も前で」
BJ「4年も?」
千歌「曜ちゃんの中では、4年前に時が止まっているんです……きっと」
千歌「ううん、違うかな……たまに、今みたいな“高校生の曜ちゃん”が出るんです。普段はあんな感じじゃないんですけど……」 BJ「原因に心あたりは?」
千歌「高校を卒業したあと、4月1日に……曜ちゃん、事故にあったんです。そのときに頭を打ったみたいで……えっと、記憶を司るところ、に腫瘍ができているみたいなんです」
千歌「ただ、そこがとても難しい場所にあるらしくて……生活にも支障のないくらいの症状しかないから、手術もせずにいました。失敗して亡くなる可能性が高いより、今のままでも……って」
千歌「だけど最近、どんどんひどくなっていて……さっきみたいに、スクールアイドルをやってるとか、高飛び込みの話とかをするんです。どちらも、もうとっくにやっていないのに……「
千歌「昔の話を今の出来事のように話しては、矛盾に気付いて苦悩して……そんな曜ちゃんを見てきました。私はそのたびに曜ちゃんにあわせてたくさん嘘をついてきた……曜ちゃんのためにはならないってわかってはいたのに」
千歌「そんなときにブラック・ジャック先生の噂を聞いて……曜ちゃんを病院につれていくために、わざと声が出ないフリをしていたんです」
BJ「それで私は、自覚のない患者を手術せねばならんわけだ」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています