【SS】 よしルビQUEST
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善子「A42tc5=ΩtWin21liguLl……」
ルビィ「……」カリカリ
善子「そこから外側に円を作って、チョークは赤色ね」
ルビィ「……」カッカッカッ…
善子「そう、その調子……ルビィ、貴女円を描くの上手ね」
ルビィ「えへへっ…そうかなぁ」
善子「はいそこでストップ、これで陣は完成よ……最後に」
ルビィ「真ん中のお皿に」ピッ
善子「お互いの血を一滴」ツゥー
ポタッ……
善子「さあルビィ、準備はいい?」
ルビィ「うん」
善子・ルビィ「……汝、常世の国に在らずレば。 我、現世にて己が姿をミたりて。」
故有りし世に糸重ね、一輪自≪かかぐ≫り下思ひて。 響かせたまへ
我、張り者也─── ─翌日
バタン
花丸「……」
曜「どうだった?」ハイ
花丸「誰にも会いたくないって」アリガトウ
曜「…そっか」ズズッ 梨子「赤夜失踪事件…新聞の見出しにはそう載っていたわね」スタスタ
曜「梨子ちゃん」
梨子「ごめんね、遅くなって」
梨子「善子ちゃんは…その様子じゃ駄目だったみたいね」
花丸「うん…」
曜「無理もないよ、私…よく相談に乗ってたから知ってたけど」
曜「よりにもよってあの日に、自分が想いを伝えようとした日に好きな人がいなくなったんだよ」
曜「しかも自分の目の前で」
曜「私が同じような立場でも…耐えられないと思う」 梨子「……そうね」
曜「あれ、そういえば千歌ちゃんは?」
梨子「今ダイヤさんに連絡してる」
曜「……止めなくてよかったの?」
梨子「こうして大々的に一つの事件として扱われている以上、知ってしまうのも時間の問題よ」
曜「そうかもしれないけど……」 花丸「……教えておいたほうがいいよ」
曜「花丸ちゃん?」
花丸「辛いかもしれないけど、何にも気付かないまま自分だけのうのうと過ごしていた…なんて知ったら」
花丸「きっと後悔すると思うから」
梨子「……千歌ちゃんも似たようなことを言っていたわ」
梨子「曜ちゃんごめんなさい、さっきのは言い訳だったの…本当は」
梨子「止められなかっただけ」
曜「梨子ちゃん……」
「…………」 曜「ねえ、これからどうする?」
花丸「マルはここにいるよ」
花丸「善子ちゃんのことが心配だから」
「そういうことなら中に入っていきなさい」
梨子「あっ」
善子母「いつまでもそんなところにいると風邪引いちゃうわ」
曜「いえ、でも」
善子母「それにずっと玄関前に居られても目立つから、ね?」
梨子「…お邪魔させていただきます」 ─
善子母「ごめんなさいね、粗末なものしかなくて」コトッ
曜「そんなっ、気にしないでください!」
曜「むしろ押しかけてるこっちが悪いといいますか…!」
善子母「いいのよ気にしなくて」
善子母「あの子のために、来てくれたんでしょ?」
曜「…………はい」 花丸「…でも、善子ちゃんは、会いたくないって言っていました」
善子母「部屋から出たの?」
花丸「はい、チャイムを鳴らしたら少しだけドアを開けて…マルと話をしてくれました」
善子母「…そう」
花丸「隙間越しにしか見れなかったけど、髪はボサボサで、目も真っ赤で」
花丸「酷い顔でした」
梨子「ちょっ、花丸ちゃんっ……」
善子母「でしょうね」フゥーッ 善子母「一応食事はとっているんだけどね、基本は部屋に籠りっぱなし」
善子母「でもそう…あなた達の呼びかけには答えてくれたのね」
梨子「……あの、お母さんは善子ちゃんのこと、どこまで」
善子母「全部知っているわ」
「!!」
曜「全部って…」
善子母「ルビィちゃんはよく家に遊びに来ていたし、善子の悩みも聞いていたからね」 善子母「だからあの子が、昨日深夜に家を出るって言っても止めなかったし」
善子母「ルビィちゃんの親族にも私から説得した」
梨子「…………」
善子母「その後大泣きしながら抱きつかれたときはどうしたのかと思ったけど」
善子母「あの子が自分の口から全部、説明してくれたわ」
曜「…………」
善子母「それからは疲れ切って昼まで就寝、後はあなた達も知ってる通りの有り様よ」
善子母「部屋から一歩も出ずにずーっと…パソコンの画面と向き合ってる」 花丸「……パソコン?」
善子母「それと新聞、さっきもね、夕刊を買うために出かけていたの」ガサッ
善子母「はいこれ」
花丸「…まさか善子ちゃん」
梨子「調べているんですか? 事件のこと…」
善子母「ええ、きっと……あそこまで懸命だと私も何も言えなくてね」
善子母「でも心配なのに変わりはないの、だから」
善子母「…曜ちゃん、梨子ちゃん、花丸ちゃん」
善子母「少しお願いしてもいいかしら?」 ─
善子「…………」バサッ…
[赤夜失踪事件]
[先日6月28日深夜にて同時間帯、各地域で複数の女性が行方不明になるという事件が……]
[現在も警察が付近を捜索しているが、未だに誰一人発見されておらず…]
善子「…………」カチッ
[意味分からん、目を離した間に見失ったってだけじゃないのか]
[各地域って言ってるからそれはないでしょ]
[神隠しの類か何か? 最近こういう都市伝説系の事件ってめっきり見なくなったけど]
[つーかこれ確実に未解決事件になるよね、まだどこも足どり掴めてないし] [そもそも原因が原因だからなあ……]
[あと↑の言ってることは間違いだからな、行方不明者は全員消えるところを誰かに見られてる]
[原因って月のことか? あれクソ怪しいもんな、連続じゃなくて一気に行方不明だし]
[しかも行方不明者が出てるの関東だけとか不気味すぎだわ、日本各地じゃなくて関東限定っていうのがほんと怖い]
善子「っ!?」カタカタ [それマジ? ソースどこよ]
[色んなところで拡散されてて話題になってるだろ、自分で調べろ]
[ニュースになった後にかなりの証言出てるぞ、こっちではそんな事件起きてないって]
[実際俺も彼女と外にいたけど何も起きなかったしな、ちな広島]
[隙あらば自分語り]
[ちょっと待て、関東だけじゃないぞ、確か中部のほうにも被害報告あったろ]
善子「………!」タンッ
[静岡は入ってたな] [あ、そうなの? でも九州東北あたりはマジで知らないらしいな]
[今のところ確定してるのは?]
[さっき上でも出てたけど静岡、東京、神奈川、長野、群馬あとは知らん]
[ちょうど日本の真ん中あたりか……何かありそうだな]
[こんなん陰謀論不可避ですわ]
[何でもいいから早く解決してほしい、俺が推してたスクールアイドルのメンバーも巻き込まれたっぽいし]
善子「……え…」 [は? スクドルもやられてんのかよ…]
[まだ断定は出来ないけど、今日発表予定だった新曲の情報も来てないし]
[グループ全員ツイートしてないからな、もちろん返事も無し]
[昨日月を見に行きますって呟いてからそれっきりだ]
[うわあ…もう黒じゃんそれ]
善子「……調べなくちゃ」カタカタカタ
[公式垢貼ってくれ、気になる] [ほら、凸はするなよ]
https:☆//twitter★○○××△△ーー
善子「……よし」
コンコン
善子「! ……ママ?」
花丸「ううん、違うよ」
善子「…まだ帰ってなかったのね」 善子「会いたくないって言ったでしょ」
花丸「放っておけないから」
善子「……いいから帰ってよ」
花丸「そこまで言うなら出ていってもいいけど」
花丸「夕刊、欲しくないの?」
善子「! あんたなんでっ」
花丸「どうする? このままじゃ渡せないよ」 善子「っ…」ガチャ
花丸「二人とも、今ずら」
バアンッ!
善子「!? な…」
梨子「曜ちゃん勢いつけすぎ、ドア壊れちゃう」ガシッ
曜「ごめん、力入れすぎた」タハハ
善子「あなた達ねえ、どういうつもりよ…!」
梨子「貴女のお母さんから清潔にしてくれって頼まれたのよ」
善子「はあ!?」 曜「そういうことだから、はいお風呂場に直行ー」ズルズル
善子「離しなさいって! こんなことしてる場合じゃ」
梨子「いいから入りなさい、はいバンザイして」
善子「勝手に脱がすな!」
ギャーギャー
花丸「あれなら多分大丈夫だと思います」
善子母「ありがとう、これで多少はマシになるわね」
善子母「さてと、私は夕飯の準備をしなくちゃね……食べていくでしょ?」
花丸「じゃあお言葉に甘えて」 ─
曜「ただいま終わりました!」ケイレイッ
梨子「ちゃんと隅から隅までしっかり綺麗に洗いましたから」ニコッ
善子母「あらほんと、良かったわね善子」
善子「…………よかないわよ」ムスッ
善子母「でも少しはさっぱりしたんじゃない?」
善子母「身なりが汚いと心のほうまで沈んじゃうものよ」
善子「……別に」 善子母「そう、まあいいわご飯出来てるわよ座って」トントン
善子母「二人も食べていって」
曜・梨子「ありがとうございます」
善子「…………」
善子母「はい善子」
善子「……うん」 善子「ご馳走様」パンッ
善子母「はいお粗末様、ちゃんと残さず食べたわね」
善子「当たり前でしょ、じゃあ私部屋に戻るから」ガタ
善子母「それは駄目よ、あそこは今から私が掃除するから」
善子「は?」
善子母「空気の入れ替えとごみをまとめるだけよ、余計なものには手を出さないわ」
善子母「そんなに手間はかけないから安心しなさい」スタスタ 善子「勝手なことばかり…」
花丸「そうかな」
善子「なによ」
花丸「善子ちゃんに比べたらそれほどでもないと思うけど」
花丸「勝手に学校休んで部屋にこもってお母さんやマルたちを心配させてさ」
善子「…………」
花丸「…相談してよ」
花丸「ルビィちゃんのこと、マルたちが気にしてないとでも思っているの…?」
善子「…………ごめん、なさい」 梨子「花丸ちゃん、それくらいにしておきましょう」
花丸「……ん」
梨子「はい善子ちゃん、これ今日の夕刊ね」
善子「…ありがと」
曜「ねえ、何か分かったこととかある?」ズイッ
善子「…この事件、一部の地域でしか起きていないみたい」バサッ
善子「具体的に言うと私たちが住んでいる中部、関東あたり……それと」
善子「消えているのは学生ってことね、ほら」 曜「なになに──[標的は学生? 相次ぐ失踪者に迫る]……か」
善子「話によるとスクールアイドルも巻き込まれたって噂があるわ」
梨子「え!?」
花丸「それって本当に」
善子「可能性は高いわ」
善子母「善子ー、もういいわよ」
善子「丁度いいタイミングね、ちょっと来て」 善子「さっきSNS上のやり取りで偶然見かけてね」
善子「これがそのスクールアイドルの公式アカウントよ」カチカチッ
善子「貴女たちが来る前、私も調べようと思っていたの」
梨子「……確かに昨日の日付から更新が止まっているわね」
曜「うん、少し遡っても頻繁に更新してたことが分かるし、いきなり止まるのは不自然かも」
善子「ええ、だから彼女たちも恐らくってファンの人は言っていたわ…ただ気になるのは」
善子「どうして女性だけが被害に遭っているのかってところだけど」 梨子「けれど神隠しって大体子供か女の人が攫われてるものじゃない?」
善子「そうかもしれないけど、どこか引っかかるのよ」
善子「何か、見落としているような…」
花丸「見落としって言っても…」ウーン
曜「……お迎え、とかだったりして」
善子「え? どういうこと曜さん」
曜「ああでも、やっぱりそんなわけないよね」
曜「流石に妄想が過ぎる気もするし……」
梨子「妄想って、何を思い浮かべたの曜ちゃん」
善子「何でもいいから話してくれないかしら? もしかすると手掛かりになるかもしれないし」 曜「えっと、笑わないで聞いてよ?」
曜「昔話にかぐや姫ってあるでしょ? なんかそれに似てるなあって思ったんだよね」
花丸「かぐや姫、竹取物語のことだね」
善子「この際名称はどっちでもいいわ、それで?」
曜「うん、かぐや姫の後半に月から使者が迎えに来る場面があるよね」
曜「今回の事件について考えてたらそれを思い出しちゃって」
善子(迎えに来る……か)
梨子「確かに赤かったとはいえ事件が起きた日も満月だったわね」 梨子「でもよく思いついたね曜ちゃん」
曜「いやそんなに大したことじゃないよ、昔千歌ちゃんたちとよく読んでたから」
曜「頭の中に染みついてたってだけだし」
梨子「そうなの?」
花丸「竹取物語では終盤で出てくる不老不死の薬を焼いた山のことを」
花丸「不死の山、不死山と呼んで綴られているずら、つまりこれが富士山の名前の由来とされているの」※
花丸「そしてその富士に近い静岡県民からすれば、竹取物語はほかの昔話よりもずっと有名だったりするんだよ」
梨子「へえー…なるほどね」
※名前の由来は諸説あります 曜「まあそれは一旦置いといて、どうかな善子ちゃん」
曜「何か参考になったりとか」
善子「そうね、確かに状況が似てるし…そのかぐや姫を学生に置き換えるとしっくりくるところもあるわ」
─でも、多分たまたま似通っただけで、直接的な関係はないだろうけど
善子(…………え? 何……)
善子(今…どうしてそう思ったの私は……?)
花丸「善子ちゃん?」
善子「…ううん、何でもないわ」 善子「となると、迎えに来る側も存在するってことになるわね」
善子「で、それに当て嵌まるのがここでいうところの神隠しで、攫う方」
善子「図式としては大体そんな感じで納まりがきくと思うわ」
曜「えーっとつまり…」
善子「つまりこの推測で話を進めるなら、この赤夜失踪事件は偶然ではなくて」
善子「何者かによって“意図的に”行われたものになる」
梨子「分かっててやったってこと? 偶然その日に攫われたんじゃなくて」
曜「誰かが敢えてその日を狙ってやった……?」 花丸「でもそんな突拍子もない…」
善子「ええ、これはあくまで私たちの中で出た推論…想像の範囲内でしかないわ」
善子「曜さんの言った通り、今の時点ではただの妄想ね」
善子「だからそれが正しいか間違っているか知るためにも、もっと情報が……!」クラッ
花丸「善子ちゃん!」ダキ
善子(やば……目が重くなって…)
梨子「…今日はここまでね、続きはまた明日にしましょう」ガタ
曜「だね、花丸ちゃんはそのままベッドまで運んで」
花丸「う、うん」 善子「ちょっと待…」
梨子「駄目よ、大人しく寝なさい」
梨子「善子ちゃん、疲れを取らないと頭だって回らないわよ」
曜「そういうこと、大丈夫、私たちも色々調べてみるから」
善子「……分かったわよ」
曜「うん、じゃあまた明日ね」バタン 花丸「よいしょっと…ここでいい?」
善子「うん」
花丸「じゃあマルもそろそろ帰るね」
善子「……花丸」
花丸「なに?」
善子「…今日はありがと」
花丸「どういたしまして」クスッ
花丸「またね、善子ちゃん」 バタン
善子「……はあ」ゴロン
善子(突拍子もない、か……でも)
善子(何でかそうは思えないのよね)
善子(どうしてそんなことが言えるのか、私にも、分からない…けど……)
善子「……あ、だめだ……ねむ…」ウトウト 安心なのか疲れなのか、はたまたその両方か
布団の中に入るととてつもない眠気に襲われて、私は促されるまま瞼を閉じた。
そのときふと横目で見た月の光が、私を誘っているようにも見えて
何故か私はそれを、とても懐かしく感じたの。 ─翌日
善子「……んぅ……眩し」モゾッ
善子「……朝……昼……どっち」ゴソゴソ
善子「……11時35分……か」
善子「休日でよかったわ……っと」
善子「顔洗ってこよ」フワァ 善子「……」
善子母「おはよう善子、その様子だとぐっすり眠れたみたいね」
千歌「こんちかー」テヲアゲ
善子「…最近は客人が多いわね、優良物件なのかしら」
千歌「いやそうでもないと思うよ」
善子「失礼ね、っていうか真面目に返さなくてもいいわよ」
千歌「あははごめんね、なんか顔見たら安心しちゃって」
善子「そう、悪かったわね心配かけて」 千歌「うん、本当に心配だったんだから」
善子「……」
千歌「まあそんなことよりも善子ちゃん」
善子「なに?」
千歌「今すぐ出かける準備してくれないかな? それまで待ってるから」 善子「出かけるって……どこに」
千歌「私の家、もうみんな集まってる」
善子「…何かあったのね?」
千歌「うん、例の事件に進展があった」
善子「!!」
千歌「詳しいことは部屋で話すよ」 ─
千歌「皆お待たせー連れてきたよー!」ガチャ
曜「お、やっと来た」
梨子「随分遅かったのね」
千歌「いやー善子ちゃんがなかなか目を覚まさなくってさー」アハハ
善子「悪かったわね、お寝坊さんで」
花丸「ううん、寧ろいいことだと思うよ」 梨子「さてと、全員そろったことだし早速話しましょうか」
善子「でも俄かには信じられないわね、ここに来る途中千歌さんに少し聞いたけど」
善子「行方不明者が見つかっただなんて…本当なの?」
曜「うん、まずはこれを見てよ」ピッ
善子「この映像は?」
曜「今朝放送されたニュース、録画してくれてたんだって」 [本日午前6時40分頃、山梨県南部町にて消息不明と思われていた五十嵐恵子さんを発見、無事保護されました]
[続きまして長野県茅野市……]
善子「!」
曜「昼になった今でも発見の報告は続いているって、次はこっち」
善子「……これ、昨日の」
曜「そう、善子ちゃんが見せてくれたスクールアイドルのアカウントだよ」
曜「このグループはメンバーの一人が巻き込まれていたみたい、でも今日見つかったそうで」
曜「そのことについて報告するために再浮上したって感じだね、見てよこの呟き」
曜「もの凄い勢いで拡散されてる」 善子「…今日の朝から見つかったの? 昨日は?」
梨子「夜中まで起きてたけど発見の報告は無かったわね」
梨子「でも一つ分かったことが」
善子「何?」
梨子「被害に遭った県について、善子ちゃんが聞いた話だと合計5つだったみたいだけど」
梨子「実際の所まだあったみたい、昨日の夜の報道でそれが確定されたわ」
梨子「で、最終的に事件が起きた場所は」
梨子「長野、静岡、山梨、群馬、神奈川、埼玉、東京、愛知、この8つ」 善子「……」
千歌「このうち群馬と埼玉、あと東京は行方不明者がほとんど見つかったみたい」
曜「その3つほどじゃないにしても、静岡だって保護されてる人は出てきているし」
曜「この調子ならもしかするとすぐに終わるかもしれないよ」
梨子「ええ、昨日の夜の時点だと被害に遭った場所がひと塊になっていて他は無害って状態だったから」
梨子「その段階では善子ちゃんみたいな考えを持ってる人、国家陰謀論を提示する人」
梨子「タイムスリップ説、異世界転生説、宇宙人黒幕説なんかがネット上で飛び交っていたけど」
梨子「どれも全部杞憂で済みそうね」 善子「……ルビィは、見つかったの?」
千歌「それはまだ…だけど」
千歌「でもきっとすぐに見つかるよ! 大丈夫!」
善子「……」
善子「一つ、気になることがあるんだけど」
善子「その行方不明者たちって戻ってくるまでの間に何があったの?」
曜「え?」 花丸「……何もないずら」
善子「本当に?」
花丸「うん、正確には“何も覚えていない”だけど」
善子「…奇妙ね、全員そうなの?」
花丸「マルが知っている限りではね、見て善子ちゃん」カチカチッ 花丸「行方不明者が見つかった後、今度はそれが話題の渦中になってる」
善子「……思い出そうとしても思い出せない、ね」
善子「一時的なショックで記憶を失っているのか、それとも誰かに消されたか…」
善子「もし後者が当て嵌まるなら……」
花丸「…どっちにしても行方不明者が全員無事に保護されましたってだけじゃ、当分話は終わらないと思う」
花丸「この事件…まだまだ荒れる気がするずら」 ここまでです、次の更新は明日か明後日あたりになると思います。 千歌「そんな…」
花丸「い、いやマルが言ったのはあくまで話題性ってだけでその…」
善子「そうね、特に問題なく終わる可能性もある、それよりも」
善子「今はルビィが帰ってくるかどうか、そっちのほうが気がかりだわ」
善子「ねえ、他に何か気になった点とかないかしら?」
曜「いや。特には…」
梨子「ないわね……」 善子「そう…なら今日はこの辺りにしましょう」
善子「みんな今日はありがとね」
千歌「ううん、また何か分かったら連絡するね」
善子「よろしくお願いね、私も家で色々調べてみるわ」
善子「それじゃまたね、お邪魔しました」ガチャ
バタン ======
善子「…………」スッスッ
善子「…被害者の数はおよそ400…うち半分が保護」
善子「残りは未だ捜索途中か…」カチッ
善子「……ん? 誘拐犯はロリコン? 何これ」
善子「…ああ成程、被害者に幼い顔つきの子が多い、か、ら……!」
善子「なによこれ、偶然よね…」 善子(最初に見つかった人から徐々に、そういう子の割合が増えてきている…)
善子(まるで少しずつ的を絞っていくように……特徴に当て嵌まる人物を)
─ 選別 ─
善子「! また…何なのよ……!」
善子「……けど、この予想がもし当たっているとしたら」
善子「もしかしたらルビィは…っ…」
善子「…馬鹿なこと、考えてるんじゃないわよ」
善子「そうよ、まだそうだって決まったわけじゃない」
善子「決まったわけじゃ……!」 しかしそれから数日が経過しても、やはりというべきなのか
黒澤ルビィは帰ってこなかった
なおその間も捜索は続き、その結果
神奈川、山梨、長野、愛知の被害者も全員無事に保護されたらしい
400人余りが同時間帯に失踪するという不可解極まりない事件でありながら
進展の早さは他の未解決事件の比ではなく、間もなく収束を向かえようとしていた
だけども、私にはそれが安心出来る知らせとはとても思えなくて
寧ろ、終わりではなくこれから何かが始まるような…そんな予兆さえ湧いてくるほどの
そんな得体の知れない不安感が私の心を渦巻いていたの。
そう、まだ終わっていないって…… ─それからさらに数日が経って
善子「……やっぱり」
善子(中学生、小学生、顔つきもそうだけど)
善子(体型も段々近くなっているような気がする)
善子「あの時の私の考え、間違ってなさそうね…でも」
善子「仮に選んでいたとして、どうしてそんなことをする必要があるのかしら…」
ブーッ ブーッ
善子「はいもしもし」
「もしもし善子ちゃん!? 大変だよ!」 善子「? 花丸、大変ってなにが」
「いいからテレビつけて! 早く!」
善子「まあいいけど」ピッ
善子「……っ…! 何よこれ」
「……見た?」
善子「…ルビィはまだ帰ってきていないはずでしょ、それなのに何で」
善子「どうして事件が解決したことになってるのよ!!」 ……
千歌「ダイヤさんに聞いたんだけど、3日前の時点でルビィちゃん以外の人は全員見つかっていたんだって」
千歌「でもそれから数日掛けてもルビィちゃんだけは見つけられなくて…」
善子「打ち切ることにしたの?」
千歌「表面上はって言ってた、捜索自体はまだ続けるみたい」
善子「…収拾をつけるためにってわけね」
善子「実際たった一人だけ帰ってきていないなんてことが周囲に知れたら」
善子「まず報道陣は黙ってはいないでしょうし」 千歌「ネットのほうはまだ荒れてるみたいだけど」チラッ
善子「放っておけばいずれ鎮火するわよ、いくら騒いだところで話題が何もなければ勝手に離れていくから」
善子「そういう意味でもメディアの方を先に手籠めにしたのは流石といえるわね」
千歌「……手籠めって」
善子「黒澤家が圧をかけて言わせないようにしてるんじゃないの」
善子「ダイヤから話を聞いたってことはそういうことでしょ」
千歌「…ルビィちゃんを守るためだよ、それは」
善子「…ごめん、言い過ぎた」 千歌「…あっそうだ、善子ちゃんに渡すものがあるんだった」
善子「?」
千歌「えっとね、梨子ちゃんと曜ちゃんが作ってくれたんだけど」ハイ
善子「静岡県、事件の中心説…」
千歌「SNSのほうでも結構騒がれてるみたいで、二人が調べてその要点をまとめてくれたの」
千歌「それで何か心当たりがないか聞いてみてって」
善子「私に?」
千歌「うん、なんか複雑な顔してたよ梨子ちゃん」 千歌「私の思い違いならそれでいいんだけどって」
善子「リリーが……」カサッ
善子「…………」
善子「─! …ぁ……」
善子「私…どうして今まで……」
千歌「善子ちゃん?」
善子「…ごめん、今日はもう帰るわ」ダッ
千歌「えっ!? ちょっと善子ちゃん!」
千歌「……本当に、そうなの?」 善子「はぁっ…はぁっ……!」タッタッ
[いい善子ちゃん、まずはこの説が出回っている理由を挙げていくわね]
[一つ目、行方不明者が最後まで残っていたのが静岡県だということ]
[まあこれは結構単純だね]
善子「はあっ…!」タッ [二つ目、被害者が保護された順番と場所の関連性]
[これは群馬、埼玉、東京の三つは人数が少なく、そのうえ比較的早く解決した一方で]
[神奈川、山梨、長野、愛知の四県はそれらよりも人数が多く、捜査に時間が費やされたことについての憶測ね]
[この違いは静岡に隣接している県とそうでない地域で]
[被害状況が大きく異なっているから、それでここに影響性があるのではと指摘されているの」
[つまり事件の中心部である静岡に近いから、被害も大きかったんじゃないかってことね]
善子「どうしてっ……!」 [そして三つ目、口封じ]
[千歌ちゃんから話は聞いたと思うけど表面上捜査は打ち切り、事件は解決したということになったわ]
[でもどうしても漏れてしまうものね、解散したとはいえAqoursはまだそれなりに知名度があるみたいで]
[ルビィちゃんが見つかっていないことについて言及している生徒が出て来たの]
[おかげでネット上は騒然、怪しさに拍車がかかったって感じね、もちろん現在進行形で色々勘ぐられてるわ]
[ただ、解散に伴ってAqoursのHP、ブログとかは全部閉鎖したから]
[それで中々足どりを掴まれずにいるっていうのが不幸中の幸いかも] [うん、根拠としては大体こんなところね……で、ここからは私の考えになるんだけど]
[先に言っておくわ、気分を悪くさせるかもしれないからごめんねって]
善子「何でっ…今まで……気付かなかったのよ…!」 [まずさっきも言った通り、行方不明者が全員保護されたのは静岡県が最後…ルビィちゃんを除いてね]
[そしてそのルビィちゃんは未だに見つけられないまま、事件は一応の終わりを迎えた]
[ねえ善子ちゃん、これは逆に言えばルビィちゃん以外は本来この件とは何の関係もなかったってことになるんじゃない?]
[女性だけが被害に遭っていたのも、容姿が似通っていたのも]
[選別されているからじゃないかって善子ちゃんは言ってたよね、でも本当にそうだとしたら]
[何でルビィちゃんがその中で選ばれたと思う?]
善子「……違う、本当はっ…どこかで…ッ!」
善子「分かってて……でも…!」
善子(信じたくなくて…) [……私ね、善子ちゃんの部屋に何か魔方陣みたいなものが描かれているのを見ちゃったの]
[ねえ、アレはいつやったものなの?]
[事件が起きた日、ルビィちゃんと一緒にいたのは善子ちゃんだったよね]
[そのルビィちゃんが最後の一人になって、事件の中心は静岡だって言われて…]
[これが本当に偶然のものだと思う?]
[はっきり言わせてもらうわ、善子ちゃん、貴女まだ──]
[私たちに何か隠していない?]
バタンッ!
善子「……はぁっ………げほっ…!」 善子「どこ…どこよっ」ガサガサ
善子「これじゃないっ……これでもない!」
善子「……あった、魔術書…!」
バッ
善子「…嘘……なんで」
善子「…傷ついてたページの一部が…直って……」ペラッ
善子「読めるように、なってる…」 ─現世と冥府を繋げる器、それを為すもの
これ即ち命である
善子「い…のち……嘘でしょ、ねえ…?」
器、暦、来るその時に導かれるようこの術を……
善子「違う、こんなの……私が、わたしは…っ……」
善子「そんな、つもり…じゃ……」
新たな世界創造に捧げる
善子「うぅっ…あぁ……あああぁぁああっっ……!!」 ─???
ルビィ「……ぅうん…」パチ
ルビィ「……ん…あれ…?」
ルビィ「ここは……」
「気が付いたか」
ルビィ「─! 善子ちゃんっ!?」バッ 「…………」
ルビィ(…じゃない、似てるけど…違う)
ルビィ「あなた……誰、ですか」
「───死神」
ルビィ「え…?」
死神「生前はそう呼ばれていた」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています