【SS】 よしルビQUEST
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善子「A42tc5=ΩtWin21liguLl……」
ルビィ「……」カリカリ
善子「そこから外側に円を作って、チョークは赤色ね」
ルビィ「……」カッカッカッ…
善子「そう、その調子……ルビィ、貴女円を描くの上手ね」
ルビィ「えへへっ…そうかなぁ」
善子「はいそこでストップ、これで陣は完成よ……最後に」
ルビィ「真ん中のお皿に」ピッ
善子「お互いの血を一滴」ツゥー
ポタッ……
善子「さあルビィ、準備はいい?」
ルビィ「うん」
善子・ルビィ「……汝、常世の国に在らずレば。 我、現世にて己が姿をミたりて。」
故有りし世に糸重ね、一輪自≪かかぐ≫り下思ひて。 響かせたまへ
我、張り者也─── オオ…ナントジヒブカイ…
「ああ、目の前にいる君は特に仲が良かったようだな」
エステル「…っ…」
「ふむ…魔女よ、何か彼女に言い残すことはないか」
エステル「…マリア…?」
マリア「……お姉ちゃん、ごめんね…それと─」
マリア「ありがとう」
エステル「!!」 「…だそうだ」スタスタ
「運がよかったな……“魔女”」ボソッ
エステル「!! っ…貴様あああああああああああああ!!!!」
「おい暴れるな!!」
「抑えろっ!!」
エステル「離せっ!! 離せええええええ!!」
「ではこれより刑を執行する」
「火を点けろ」 パチッ バチバチッ
ゴオッ
マリア「ひっ……」
エステル「やめろぉっ!!ふざけるな!正気か貴様ら!!」
エステル「これが使命だと!?役目だと!?」
エステル「貴様らこそ冒涜も大概にしろ!!こんなっ!こんなもの!」
エステル「救いでもなんでもないじゃないか!!」 ジジ ジジジッ…
ジュウゥッ
マリア「っっっ!! あぁっあああああああああああああ!!!」
マリア「いや!! やだ!! やあああああああああ!!」
ボウッ ボオォォ…
マリア「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいゆるして!!」
マリア「私じゃない!!私はやってないよ!!」
マリア「私は違う!私はっ…ああああぁぁぁぁああ!!!」
マリア「あぁあっ……かひゅ…こひゅ……っ」
マリア「……………ぁ……」 エステル「…………マリア? マリアッ!!」
マリア「……」
「ふむ……酸欠で死んだか」
エステル「!!」
「まあ、仕方あるまい」
「続けろ」
エステル「…………………は?」
エステル「何を、言っている…?」 ボオッ ボオオゥッ
エステル「続ける…? もう、いいだろ……息がないんだぞ…」
マリア「」ドロ
エステル「やめろ……」
マリア「」
エステル「頼…む……」
ボトボトッ
エステル「もう…やめてくれ……」 『ねえお姉さん、そこで何してるの?』
『私知ってるよ! お姉さんって女神様なんだよね! …あれ、違った?』
『ねえねえ、一緒についていってもいい? 何でって、えっとね…面白そうだから!』
『あっそうだ! 私ね、マリアっていうの!』
『えへへっこれからよろしくね、お姉ちゃん!』
エステル「マリアああああああああ!!!」 ……
パチッ パチパチッ
「やれやれ、ようやく全部燃えたか」
「えー早いでしょ、これで終わり?」
「次まで我慢しろよ、そう日が長いわけでもないんだ」
「さあ見世物は終いだ、みんな帰るぞ」
スタスタ
エステル「……」 エステル「……マリア」
エステル「頼む、返事をしてくれ」ベチョ…
エステル「頼むから…っ……」
「」
エステル「…ぅあっ…あぁ……ああぁ……」
エステル「うわああああぁぁぁああああああああ!!!」 エステル「………………」
エステル「なんだ…なんだっていうんだ」
エステル「お前も……お前も……お前たちも」
エステル「本当に同じ人間なのか……これが、あいつと一緒だと…?」
エステル「こんなものを、認めろというのか」
エステル「……ふざけるな」 エステル「認めない、私は、絶対に」ヨロ
エステル「貴様らだけは」
「うおっ! なんだ貴─」ザクッ
族長「!?」
族民「なっ…」
「何をやっている! 死にた─」
エステル「…なんと脆い」
エステル「今までこんな連中に怯えて暮らしていたというのか……はっ」
エステル「はは…あははははははは!!!」 「おい! 街の連中を連れてこい!! 全員で奴を殺──」
「この─」 「くら─」 「死っ─」
エステル「……」クルッ
族民「は、反逆者が……」
エステル「黙れ」ザシュッ
族民「」ボトッ
エステル「そこで首だけ晒していろ……さて」
エステル「これで全員か? …………いや」
族長「……」
エステル「最後にひとり、いたな」スッ ゴロゴロ……
エステル「」グチャッ
族長「ひっ……」
エステル「……」ザッ ザッ
族長「く、来るな…」
族長「来るな化け物おおおおおおおおお!!!」 ズブッ
エステル「……」
族長「……ぉ…あ…ぇ」
ドサッ
エステル「……」
エステル「化け物はお前らだろ」 ………………
「なんだこの有り様は、地獄絵図だな」
「生存者はいないのか」
「いえ、我々が来た時にはすでに…」
「……そうか」
「ですが、魔女の一派…その生き残りと思われる者から証言はとれました」
「ほう、してその者は?」
「すぐに殺しました」 「宜しい、他にも仲間がいないか徹底的に探せ」
「情報を聞き出すまでは生かしておくよう、他のものにも伝えろ」
「はっ」
「ふん…魔女の反逆か、図に乗りおってからに」
「……いや、この所業…もはや魔女と呼ぶことすら生温いのかもしれん」
「言うなれば、そうだな」
「常に我々の命を脅かす──死神、といったところか」 カリカリ……
カリ…
死神「………は…ぁ…」パタンッ
死神「っ! ……ゴホッ…ゴホッ!!」
死神「…そろそろか」ベト
死神「待っていろ……マリア…」
死神「…私は…必ず……」
──
─ ルビィ『…………』
死神『マリアの最期を見届けたとき、私は誓った』
死神『他の誰でもない、私自身の手であいつを救ってみせると』
死神『だからこそ…………』
死神『何故泣く』
ルビィ『──え──?』 ====
善子「……っ!!」ガバッ
善子「……はぁっ、はあっ!!」
善子「……っ、あれが…」
善子「死神の……過去」ポロポロ
善子「そう、だったのね……うっ」
善子「おえぇ…っ…」ベチャベチャ
善子「けほっ…………だけど、それでも」
善子「私は…」 ─
二週間後、8月12日
「……」
善子「───とまあ、死神にはそういった背景があったのよ」
善子「ざっくりと説明したけど大体こんな感じ」
曜「そんな事が……」
千歌「善子ちゃん…辛かったね」
善子「…っ……うん」
善子「…けど、だからといって彼女のやることを見逃すわけにはいかないわ」
善子「私たちは私たちで守りたいものがあるから」
梨子「…そうね」 善子「じゃあ本題に入るわよ」
善子「死神の過去を見て、そして前世の記憶が全て蘇って、ようやく彼女のやろうとしていることが分かったわ」
善子「覚えてる? 全員で冥府に行ったあの日、ルビィが言ったこと」
花丸「えっと確か…その日が来るまで死神はルビィちゃんを絶対に殺せないって」
千歌「ルビィちゃんに死なれたら困るからとも言ってたよね」
善子「そう、それは何故かというと」
善子「死神が行う魔術にはルビィの身体が必要不可欠だったから」 花丸「ルビィちゃんが?」
善子「魔術書に書かれてあった言葉があったわよね、前に皆で解読したやつよ」
善子「器、暦、来るその時に導かれるようこの術を新たな世界創造に捧げる…この部分」
善子「これが指し示すものは一つだけじゃない、二つあったの」
善子「一つは6月28日に発動した術のこと…器が魔術書、暦は今言った日付け、導くのはルビィ」
善子「そして世界創造とは自分たちのいる冥府のこと」 曜「じゃあ二つ目は?」
善子「これから発動させる術のこと、これを指しているわ」
善子「こっちは器がルビィ、暦がルビィや死神が言っていた“その日”、導くのはルビィの前世…マリアの魂」
善子「以前私は、ここに書いてある世界とは世界観という意味なんじゃないかって考えを述べたけど」
善子「それがこの部分に当て嵌まるのよ、つまり」
善子「二つ目でいう世界創造とは、ルビィの前世マリアをこの世に蘇らせること」
善子「死神は彼女の来世であるルビィの身体を器にして、そこにマリアの魂を定着させるつもりなのよ」 梨子「じゃあ死ぬっていうのは…」
花丸「肉体的ではなく、精神的な意味での死…一つの身体に二つの魂が入るのは危険とされているから」
花丸「死神の過去のことも考えると、魂の共存は実質不可能ずら」
曜「そんな危ない状態で生きていかせるわけにもいかないから…か」
花丸「うん、だからその術が発動したら必然的にルビィちゃんの身体にはマリアさんの魂が入ることになる……そうなれば」
善子「ルビィの魂、人格は完全に消滅する……たとえ姿は同じでも」
善子「そこにいるのは別人でルビィの面影はない、それは結果として死と同義よ」 千歌「…ねえ善子ちゃん、ずっと気になっていたんだけど」
善子「何かしら」
千歌「生まれ変わる魔術が発動する“その日”って、いつなの?」
善子「大丈夫それも分かってるわ、順を追って説明するわね」
善子「まず最初の術の重要な要素が数字であったのと同じように」
善子「こっちのほうにも構築式にカバラのそれが使われているわ」
善子「そこで私が描いたこのセフィロトを見返してほしいんだけど」カサッ
善子「見てほしいのはここ、一番上にある1のセフィラ、ケテル」キュッキュ
https://i.imgur.com/1PPngI6.jpg 善子「前にもサラッと触れたけど、改めて解説すると」
善子「このケテルがある場所は最上界に位置していて、そこには神の魂が宿ると言われている」
善子「創造の更に上、完全なる世界がこのケテルなのね」
善子「死神はこのケテル…1の力を利用できるように術式を組み込んだ」
善子「つまり数字の1が揃う日、それが術が発動する日になる」 曜「1が全部揃った日…」
善子「2018年は別名運命の年とも呼ばれているわ、これは何故かというと」
善子「普通は一桁の数字が出るはずの計算式で2018年だけ運命数“11”の数字が浮かび上がるから」
梨子「! ちょっと待って、ということは」
善子「ええ、暦に当て嵌まる日付け…それは2018年11月11日」
善子「今から約三ヶ月後に行われるその日が」
善子「私たちの運命を賭けた、死神との決着をつける最後の戦いよ」 千歌「最後…え、でもさ善子ちゃん」
千歌「その日が来る前にルビィちゃんを取り戻すこととかは出来ないの?」
梨子「そうね、私もわざわざそこまで待つ必要なんてないと思うけど」
曜「いや、やめておいたほうがいいと思うよ」
梨子「曜ちゃん?」
曜「千歌ちゃんたちも見たでしょ、私が手も足も出なかったところ……あの人は魔術だけじゃない、身体能力も優れている」
曜「しかもそれに加えて紛争、戦争経験者…どう見繕っても正面切って勝てる相手じゃない」
曜「仮に私と果南ちゃんが二人揃ったところで……いや、どんなに鍛えていても」
曜「私たちがただの女子高生であるうちは絶対に敵わないよ、喧嘩とかそういうレベルの話じゃない、向こうは殺し合いの世界で生きてきたんだ」
曜「実際にやられた身として言わせてもらうけど、何の考えも無しに行っても返り討ちに遭うだけだよ」 梨子「流石にそこまで言うこと…」
曜「ううん、卑下でもなんでもなく客観的に見た結果としての事実だよ…だからさ」
曜「善子ちゃんにはその“何か”の考えがあるってことなんだよね?」
善子「そうね、曜さんの言った通り」
善子「前みたいな手段で取り戻そうとするつもりはないわ」
善子「警戒心の強い死神のことだから冥府への道も閉ざされてそうだしね」 千歌「あっ…そうだよね、あの時も鏡が割られていたし……」
梨子「いつまでも私たちが行けるような状態を放置しているわけがないわよね…」
善子「だけどそんな状況でも一度だけ、絶対に道を開かなければいけない時間があるわ」
善子「それがマリアの魂を入れたルビィを現世に送るとき、術を使う日よ」
善子「決着をつけるとは言ったけど、まず前提として冥府に行くことが出来なければ話にならない」
善子「そしてそれが出来るのは、現状この日しかないのよ」 梨子「成程ね…それで対策っていうのは?」
善子「数字を使った術式、命が宿っている魔術書、これを逆手にとって死神が私に手出しすることが出来ない状況を作る」
千歌「どうやって?」
善子「死神の魔術と真逆の効果を持つ魔術を同じタイミングでぶつけて打ち消す」
善子「数字を要素にしているのなら、こっちだって同等の力が使えるはずよ」
善子「この魔術書を利用して、そのための術式を私が新しく構築する」
曜「対抗するための新しい魔術を作るってこと!? そんなこと出来るの!?」 善子「今の私には魔術師である死神の知識が全て備わっている、不可能じゃないわ」
善子「それにこの二週間で発動条件や式のイメージも大体掴んでいるの…期限は多く見積もっても二ヶ月ちょっとしかないけど」
善子「絶対にやってみせる…………ただ、これに一つだけ問題があるとすれば」
善子「この術式を完成、発動させるにはみんなの協力が必要不可欠だってこと」
曜「え、それの何が問題なの?」
梨子「リスクを伴う協力ということでしょ…そうなのよね?」
善子「ええ、文字通り命を懸けることになるわ」
善子「言っておくけど大袈裟な表現をしているつもりはないわ、本当に命に関わることなの」 善子「それに……本音を言うと、不安しかない」
善子「前世の記憶があるといっても所詮それは借り物の力、本物には遠く及ばないもの」
善子「正直、私一人の力じゃ太刀打ちできない…ルビィを助けられない」
善子「でも全員の力を合わせれば、一人じゃないのなら、絶対に勝てる……私はそう信じてる」
善子「だからどうかお願い……みんな、私に力を貸してください」
「「……」」
千歌「……ふーん、やっぱり何が問題なのか全然分からないね」
曜「だね、寧ろ頼ってくれて嬉しいくらい」
善子「……え?」 曜「言ったじゃん、なんでも一人で抱え込むのはよくないって」
曜「それに乗り掛かった船から降りるなんて、私はそんなの絶対に嫌だ」
千歌「うん、出来るか出来ないかじゃなくて、やるかやらないかが問題なら」
千歌「答えなんて、もうとっくに決まってるよ」
善子「千歌さん、曜さん…」
梨子「善子ちゃんのことだもの、多分善子ちゃん自身も相当危ないことするんでしょ?」
梨子「それが分かってて放っておけるわけないじゃない、僕であるリトルデーモンとしてはね」クスッ
善子「リリー…」 花丸「一蓮托生って言葉があるずら」
花丸「意味は、たとえどんな結果が待っていたとしても最後まで行動や運命を共にすること」
花丸「つまり、いつも通りのAqoursだってことだよ…何も変わらない、変わっていない」
花丸「皆で決めたあの時から今でも、そしてこれからもずっと、マルたちは運命共同体ずら」
善子「花丸…」
千歌「やろう、善子ちゃん…私たち皆で」
千歌「そして今度こそ絶対に救おうよ、ルビィちゃんを」
善子「…っ…ありがとう、みんな…」ポロポロ
善子「……グスッ…じゃあ作戦を伝えるわ、よく聞いて─」 善子「───以上よ、これが私が考えた死神に対抗する策と」
善子「全員の力を使った魔術を発動するための手段」
梨子「……考えたわね、確かにこの方法ならきっと」
曜「けど想像していたものよりかなりハードだよ、時期も考えると本当に死にかねない」
花丸「善子ちゃんはこれ…大丈夫なの?」
善子「大丈夫なわけないでしょ、でもこれしか私とルビィが帰って来れる方法はないの」
千歌「…死なないよね? ちゃんと生きて帰ってくるんだよね?」
善子「当然、命は懸けても死ぬつもりは全くないわ、皆もそうでしょ?」
善子「安心しなさい必ず戻ってくるから、だから貴女たちも絶対に死なないで」
千歌「……分かった、信じる」 曜「でもそういうことなら、付け焼刃でも少し慣らしておく必要があるね」
曜「“ここ”が空いている期間は確か来月までだし、休みを使って出来るだけ多く皆で行ってみようよ」
梨子「そうね、そこに辿り着くまでの時間と距離も測らなくちゃいけないし」
梨子「でも実際問題、当日に行けるのかしら?」
曜「大丈夫、許可さえ取れば行くことは出来るよ、その場合は自己責任になるけどね」
善子「でもなるべくなら万全の状態で臨みたい…その為にも」
善子「最後にあと一人、どうしても力を借りたい人がいる」
善子「私個人としても話をつけなくちゃいけない人が」
千歌「…今、実家に帰ってるって」
善子「ありがとう千歌さん」
善子「じゃあ……行ってくるわ」 ─黒澤家
コンコン
ダイヤ「どうぞ」
ガチャ
善子「……」
ダイヤ「お待ちしていましたわ」
ダイヤ「こうして顔を合わせるのは、久しぶりですわね」
善子「ええ、そうね」 ダイヤ「それで私にご用とは一体何でしょうか?」
善子「待って、その前に言っておかなくちゃいけないことがあるわ」
善子「……」スゥーッ
善子「ルビィのこと…本当にごめんなさい」
ダイヤ「……」
善子「こんなことに巻き込んで、黒澤家の人たちにも迷惑かけて」
善子「もちろん許してもらえるなんて思っていないわ、それでも」
善子「ずっと謝りたかった…貴女にちゃんと、伝えたかった」
善子「本当に…申し訳ありませんでした」 ダイヤ「……言いたいことはそれで全部ですか?」
善子「……」
ダイヤ「…そうですか」
ダイヤ「……」ハァーッ
ダイヤ「善子さん、顔を上げてください」
ダキッ
善子「…え……?」
ダイヤ「もういいです……もう、いいですから」
ダイヤ「少しの間だけ、泣かせてください」
善子「…………うん」ギュッ ====
ダイヤ「──成程、ある程度の事情は千歌さん達から伺っていましたが」
ダイヤ「まさかここまでとは……大変でしたわね」
善子「いや、別に私は……それに辛いのはルビィだって」
ダイヤ「……そうですわね、その通りですわ」
ダイヤ「…話を戻しましょう、さて善子さんの話を聞いたうえでまとめますと」
ダイヤ「11月11日…この日に善子さん達はルビィを救うため、あの場所へ辿り着かなければいけない」
ダイヤ「そしてその為には私、いえ黒澤家の力が必要で」
ダイヤ「だから手を貸してもらうためにここへ来たと、そういうことで宜しいのでしょうか?」
善子「ええ、それで合ってるわ」 ダイヤ「…………」フム
善子「どう? 問題なさそう? それとも流石にそこまでは……」
ダイヤ「…いえ、掛け合ってみれば大丈夫だとは思いますが……しかし」
ダイヤ「善子さん」
善子「何?」
ダイヤ「死にたいのですか?」
善子「言うと思ったわ、はっきり言って自分でもどうかしてると思うし」
善子「でもね、私は本気よ」
ダイヤ「……覚悟は、もう決めているということですね」 善子「私だけじゃないわ、他の4人も全員腹を括っている」
ダイヤ「…これは止めても無駄ですわね」
ダイヤ「分かりました、貴女たちに協力しましょう」
善子「本当!?」
ダイヤ「ただし一つだけ条件があります、当日その場所に私も同行させてください」
善子「ダイヤ…」 ダイヤ「元Aqoursのメンバーとして、元生徒会長として、鞠莉さんと果南さんの代表として」
ダイヤ「そして最後に、ルビィの姉として」
ダイヤ「私には貴女たちの行く末を見届ける義務がある、嫌とは言わせませんわよ」
善子「駄目なんて言う気はないわよ、最初からね」
ダイヤ「フフッ、そうでしたか……では改めまして、善子さん」
ダイヤ「ルビィのこと、どうかよろしくお願いします」
善子「……任せて」
善子「絶対に救ってみせるわ、そして叶えてみせる」
善子「あの時の約束を─」
……
… ─冥府
死神「…ふむ、これで残りは50を切ったか」
ルビィ「……」
死神「さて、あれから一向に音沙汰がないわけだが、まだ信じているというのかお前は」
ルビィ「うん、来るよ」
ルビィ「約束したもん」
死神「…一つ聞くが、何故そこまで大丈夫だと言い切れる?」
死神「ルビィ、お前がそこまで信じられる根拠とは一体何だ?」
ルビィ「…知ってるから、ルビィも、みんなも」
ルビィ「大切なものがなくなる辛さを、苦しみを……みんな分かってるから」 ルビィ「それにね、ルビィたちって諦めが悪いの」ニコッ
死神「……」
ルビィ「だから来るよ、必ずね」
ルビィ「ルビィの知ってるAqoursは、善子ちゃんは…」
ルビィ「どんな困難にも負けたりしない、途中で挫けたって、何回でも立ち上がって前に向かって進むんだ」
ルビィ「死神さん、ルビィはね、そんな善子ちゃんたちのことを」
ルビィ「信じてるんだよ」 ─それからまた月日が過ぎて、季節は冬
11月10日、早朝
善子「忘れ物は、ないわよね」
善子「……よし」キュッ
善子母「善子、迎えが来てるわよ」
善子「今行くから待ってて!」 善子母「ではよろしくお願いします」ペコリ
善子母「みんなも、気をつけてね」
千歌「はい!」
ダイヤ「ありがとうございます」
善子「お待たせ」タッ
曜「おはよう善子ちゃん、これで全員揃ったね」 善子「ええ、それじゃあ「待って!」
善子母「善子……」
善子「ママ…」
善子母「……っ……」
善子母「いってらっしゃい」
善子「! …うん」
善子「いってきます!」 梨子「もういいの?」
善子「いいのよ、あれで」
花丸「…いよいよだね、善子ちゃん」
善子「ええ…ようやくここまで来たわ」
善子「さあ、みんな準備はいい?」
「「……」」コクッ
善子「行くわよ、これが正真正銘最後の戦い!」
善子「目的地は富士山、その頂上! 待っていなさい死神!」
善子「私はもう絶対に負けない! 今度こそあんたの手から」
善子「ルビィを救い出してみせる!!」 ─富士山五合目
ダイヤ「着きましたわね」バタン
「お待ちしておりました、こちらの方々が?」
ダイヤ「ええそうです、人払いのほうは上手くいっていますか?」
「問題ありません、閉鎖という形をとっていますので」
ダイヤ「そう、ご苦労様でした」 ダイヤ「では皆さん参りましょうか」
曜「車で来れるのはここまで、後はただひたすら登るだけだよ」
曜「体調管理には十分に注意を払ってね」
ダイヤ「念のため、登山経験のあるこちらの方にも同行してもらうようにしました」
「よろしくお願いいたします」
善子「え、いやそれは有難いけど」
ダイヤ「心配ありません、今からやることは他言無用として通してありますから」
善子「…分かったわ、行きましょう」 ─八合目、山小屋
曜「はいストップ! 今日はここまでにしよう、みんなお疲れさま!」
千歌「つ、疲れたー……」
梨子「はぁっ…やっぱり…厳しいわね」
花丸「だけど、あともう少しずら…」
千歌「いや…本当ダイヤさんに頼んで良かったね、休める場所があるのは助かるよー」
千歌「ありがとうダイヤさん」
ダイヤ「冬の山道は危険ですからね、これくらい当然ですわ」 善子「そうね、なら休める今のうちにもう一度確認しておきましょう」
善子「曜さん、この調子のまま頂上まで行けたとして、どれくらい持つと思う?」
曜「そうだね、今のところ天気は悪くない…でも気温自体はかなり低いから」
曜「長く見積もっても30分…ってところかな」
ダイヤ「30分……大丈夫なのですか?」
善子「やってみせるわよ、向こうだってそんなに長居させてはくれないだろうしね」 千歌「それはそうだろうけどさ」
善子「大丈夫よ、私なら」
善子「さあもう寝ましょう、明日も早いわ」
曜「うん、そうだね…おやすみなさい」
善子「おやすみ」
善子(……30分、それが私たちのタイムリミットか)
善子(…充分過ぎるわね、うん、大丈夫)
善子(私たちならやれる) ─そして翌日、11月11日夜
富士山、頂上部
ヒュオオォッ……
善子「……着いたわね」
曜「うん、ようやくこれでスタートラインだね」
梨子「善子ちゃん、時間のほうは?」
善子「大丈夫、まだ来てないわ」
千歌「良かった、なら早速」
善子「ええ、全員配置について、時間が来たら私が合図を出すわ!」 花丸「善子ちゃん、全員準備できたよ!」
善子「分かったわ、そのまま待機でお願い!」
ダイヤ「……やはり見ているだけというのは、歯痒いですわね」
「あの、お嬢様…彼女たちは何を」
ダイヤ「直に分かりますわ、ですが……この先何が起きても、決して彼女たちを止めないよう、お願いいたします」
「? 畏まりました」
ダイヤ「……」フゥーッ
ダイヤ(皆さん、どうか負けないでください)ギュッ 善子「……来たわね、満月」
善子(本来、この日この時間帯に出てくるのは三日月…皆からもそう見えてる)
善子(満月が見えてるのは私だけ……そう、あの時と一緒だ)
善子(今になって分かる、あの時のあれは…私が初めて魔術書を通して観た予兆だったんだ)
善子(魔法陣の円、そのファクターを暗に示していたそれが、私と死神の最初の繋がり)
善子(ならきっと見えるはず…全てが分かった今の私なら)
ズズ…
善子(月を通して浮かび上がる死神の魔術…その本陣が!!)
ズズズッ
善子「──! 見えた!!」 善子「やるわよ皆!」スッ
ダイヤ「!!」
善子「反撃…開始だ!!」ザクッ
ズブッ! グサッ!
「!!? 自分たちを刺した!? 一体何を──!」
ダイヤ「待ちなさい! 言ったでしょう止めてはならないと!」
「しかし!」
ダイヤ「あれでいいのです!!」 千歌「……っ…ああああ! 右足!!」
梨子「ひだり……うで…!!」
曜「右…腕っ…!!」
花丸「左足……!! 善子…ちゃん!!」
善子「ごほ…っ…! 揃ったわね……これで…」ボタボタッ
ギュルギュルギュルッ!!
「なっ…血が……円を描いて…!」
バチバチ バチィッ!!
善子「完、成………よ…」バタン
シュウゥゥッ 花丸「善子ちゃんっ!!」
曜「善子ちゃんが、消えた…! …ということは」
千歌「……うん」
千歌「“成功”…した!!」
梨子「……良かった、後は…待つだけね」ガクッ
ダイヤ「!! 手当を!早くっ!」
「は、はい!!」
花丸「…うっ……頼んだよ、善子ちゃん」 ─
死神「…そろそろだな」
ルビィ「……」
死神「お別れだルビィ、来世の魂よ」
死神「短い付き合いだったが、お前と過ごす時間は悪くはなかった」
ルビィ「うん、ルビィも」
死神「さらばだ」 バチッ
死神「……何?」
ルビィ「?」
死神「…術が、発動しない」
「ようやく面食らったような表情をしたわね」
ルビィ「あ…!」
死神「…そうか、お前か」
「ええ、待たせたわね死神、そしてルビィ」
善子「今戻ってきたわよ」 ルビィ「善子ちゃん!」
死神「再び扉を開けてこちらにやってきたか…しかし解せんな」
死神「どうやって術を打ち消した、お前の力では私に及ばないはずだが」
善子「ええ、あんたの言う通りよ、私じゃあんたの魔術には敵わない」
善子「でも一人じゃなく、五人分の力なら、どうかしらね?」
死神「何だと?」 善子「私が術式に使ったものは五芒星、東洋では五行思想と呼ばれているものよ」
善子「でも西洋魔術のほうはそれとはまた違う、当然知ってるわよね?」
善子「西洋の五芒星は火、水、土、風、そして霊…この五つの要素で成り立っている」
善子「そこにあんたの魔術書と4人を当て嵌めて、中央には私、それで陣を展開させた」
死神「成程な、霊の位置に私を組み込んだか、だが」
死神「それ以外の属性は分けられまい」
https://i.imgur.com/GqifaNG.jpg 善子「いいや出来るわね、人間の命と魂を繋げるうえで最も深く関わっているもの……それは血よ」
善子「だから私はこの魔法陣を血で描くことにした…そして」
善子「血を使ううえで区別出来るもの、分類されるもの、それは血液型」
善子「千歌さんはB、曜さんはAB、リリーはA、花丸はO型! 丁度四つ分揃ってるのよ!!」
善子「数さえ揃えば後はそれを繋げればいい!」 死神「無理だな、例えその4人とお前の繋がりが深かったとしても」
死神「私には関係がない」
善子「そうよ、だからその為に真ん中に私がいるんでしょ」
善子「あんたと唯一繋がりの深い、来世である私がね」
善子「五芒星の要は中心、つまり全員の力を一つにまとめ上げるのが私の役目」
善子「そしてね、言っていなかったけど、私もO型なのよ」
善子「O型がそう呼ばれるようになった由来はね、全ての血液型の輸血において反応が0だった0<ゼロ>型から来ている」
善子「もうどういうことか分かるわよね」
死神「貴様、まさか」
善子「そう、私が発動させた魔法陣は──」
善子「私の血を巡回させて、あんたと他の4人全員に結びつきを与えるためのものなのよ!」
https://i.imgur.com/DcXEQzf.jpg ルビィ「みんなの、力…」
死神「…理屈は分かった」
死神「どうあっても邪魔をするというのだな」
善子「その為にここへ戻ってきた、さあ…返してもらうわよ」
善子「私の大事な人を」
死神「無駄だ─」バチッ!バチバチッ
ゴオッ!!
善子「っ!! 大した風圧じゃないの!」ザッ 死神「お前たちが打ち消したのはあくまで表面上の円に過ぎない」
善子「表面上ですって…!?」
死神「そうだ、たとえ先程の陣でお前が私自身の力と拮抗し、一時的に相殺したとしても」
死神「我が魔術の根本にある内側から溢れ出る力……我らが“神”の力を」
死神「その程度のもので完全に消し去れるわけがないだろう」
善子「神…! やっぱりね…だと思ったわ…!」
死神「術が消えたというのなら、今からまた発動しなおせばいいだけの話だ」ヴォン
死神「お前たちがやったことは所詮僅かな時間稼ぎ、無駄な抵抗に過ぎん」 善子「……」
フッ
死神「──構築は済んだ」
死神「短い逆転劇だったな」スゥ……
善子「……短い、ねえ」
善子「それはどうかしら?」
ピシッ ビシビシビシッ
死神「…何?」
パァンッ!
死神「!」
善子「あんまり私を舐めるんじゃないわよ」 死神「馬鹿な、何故消される」
善子「さっき無駄な抵抗って言ったわよね、その台詞、そっくりそのまま返してあげるわ」
善子「あんたが何度式を組み立てようが無駄よ。私が何回でも打ち消してやる」
善子「神様? 上等よ、来るなら来なさい」
善子「真っ向から迎え撃って返り討ちにしてあげるから」
死神「貴様ら…何をした?」
善子「別に、神様の力を借りてるのはあんただけじゃない…それだけのことでしょ」
善子「もう一度言うわ死神、あんまり私を舐めないで」
善子「あんたがこの日の為に計算を重ねてきたのと同じように」
善子「私も勝つための布石は全部打ってきてるのよ!!」 ──
─
『五人の力を合わせた五芒星を使って死神の魔術に対抗する、ね』
『うん! これならいけるよ!』
『ええ、勿論よ……だけど』
『これはきっと、一時的な打ち消し程度にしかならないと思う』
『一時的? どういうこと?』
『魔力の強さ、大きさではなく、量の問題ってこと』
『恐らく向こうは私たちが術を一回消しただけじゃそこまで動じない、何故かというとまた術を発動すればいいだけだから』
『それって、あっちは何回でも同じ魔術を使えるってこと?』
『そう、水で例えるなら私たちは精々コップ一杯分、向こうはウォータータンク10L超え、それくらいの差があるわ』 『そんなに!?』
『絡繰りはここ、11月11日の奥に隠された数字“666”の存在』
『666って確か…悪魔の数字って言われてるやつだよね』
『一般的にはね、でもユダヤの場合は違う』
『ユダヤにとって666は神の数字なのよ』
『聖書の一つにメシーアスという言葉があるわ、救世主という意味を持ったギリシャ語よ』
『神による救いを信じているユダヤ教ではこのメシーアス、メシアこそがユダヤ人にとっての神様、その象徴にあたるの』
『そしてそのメシーアスの文字列を数字に置き換え、計算して浮かび上がる数字が666』
『死神はその数字を利用して、神の力を借りるつもりなのよ』 『じゃあここにその6の数字が3つ隠されているってことだよね』
『えっとまず、日付けの計算式で出た数字の6と…』
『年、月、日で分けると1が6つ並ぶから、それが2つ目の6よね……3つ目は?』
『最初の術が発動してからこの日が来るまでの間に経過した月日の合計数』
『6月は2日、7月8月10月は31日、9月は30、11月は10日、これを全て計算すると』
『6+2+7+31+8+31+9+30+10+31+11+10=186 → 1+8+6=15 → 1+5=6 となるわ、これが最後の3つ目』
『数字が揃った…しかも』
『魔術書に蓄積された日数も組み込んで……こんなの一体どうすれば…』
『簡単よ、こっちも神様の力を借りればいい』
『え……?』 『もう皆分かってると思うけど、死神が魔術に使っている最大の要素は数字』
『だから例え魔術書がどんな場所にあろうと、時間さえ来ればこれが勝手に発動する仕組みになってる』
『つまり、これは逆に言えば』
『魔術を使うその場所だけは、私たちが任意の位置を指定できるということ』
『向こうが数字なら、こっちは土地で対抗するのよ』
『でもそんな、神様がいる場所なんて……あっ!』
『そうか! そういうことなんだね!』
『ええ、私たちが向かう場所…それは』
『大地に根付く日本の象徴、富士山よ!!』 善子「私が構築した魔術は“生きている人間をこの世に留まらせる術”」
善子「不死の山という伝承を持っているここは正に私にとっておあつらえ向きの場所なのよ」
死神「生きた人間、ルビィも含めてか」
善子「そう、死人のあんた達はお呼びじゃないの」
死神「…成程、つまり」
死神「消すものが増えただけか」パキッ
善子「やってみなさいよ、やれるものならね」ヒュオッ ビリィッ! ガガガガガガガガッ
バチバチィッ!
死神「! また…っ!」パァンッ
善子「…15回目っ!!!」キイィィン
善子(無効化されると分かってから、あっちは高エネルギーの魔力を組み込んでき始めた…!)
善子(恐らく私の体力を削ろうとして……けど!!)
善子「無駄よ! あんたがどんな小細工を仕掛けようが!」
善子「何度でも何度でも何度でも!! 私が弾き返す!!」
死神「…貴様っ!」 死神「いい加減に諦めろ! 引き際を知れ!!」バッ
善子「こっちの台詞…ってんでしょうが!!」バッ
バリバリバリバリッ!! ガガガガガガガガッ
ドオオオォォォン!!
善子「…16回目、何さっきからバカスカ威力上げてきてるのよ、焦ってるの?」ケホッ
ルビィ「すごい……善子ちゃん」 死神「焦る? 私が? 冗談を言うな」スッ
善子「……!」
死神「いつまでも食い下がる貴様に苛ついてるだけだ!!」ゴオォッ!!
善子(っ嘘でしょまだ大きくなるの!?)
善子「それを余裕がないっていうのよ!!」ビリビリビリッ!
善子「17…っ…回目ぇ!!」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています