【SS】 よしルビQUEST
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善子「A42tc5=ΩtWin21liguLl……」
ルビィ「……」カリカリ
善子「そこから外側に円を作って、チョークは赤色ね」
ルビィ「……」カッカッカッ…
善子「そう、その調子……ルビィ、貴女円を描くの上手ね」
ルビィ「えへへっ…そうかなぁ」
善子「はいそこでストップ、これで陣は完成よ……最後に」
ルビィ「真ん中のお皿に」ピッ
善子「お互いの血を一滴」ツゥー
ポタッ……
善子「さあルビィ、準備はいい?」
ルビィ「うん」
善子・ルビィ「……汝、常世の国に在らずレば。 我、現世にて己が姿をミたりて。」
故有りし世に糸重ね、一輪自≪かかぐ≫り下思ひて。 響かせたまへ
我、張り者也─── それから数日後…
─内浦のとある廃墟
千歌「全員いる?」
善子「大丈夫、問題ないわ」
曜「それにしてもよくこんなところ見つけてきたね」
梨子「どうやって調べたの?」
千歌「ちょっと色んな人に話を聞いただけだよ」 善子「さてと、それじゃあ実行する場所だけど…どこがいいかしら」
花丸「そうだね、ここから入って真っ直ぐ進んだところに広間があるずら」
花丸「ここだと、あそこが一番嫌な気配がする」
善子「ならそこにしましょう…全員準備はいい?」
善子「……行くわよ」カツンッ ……
…
曜「着いたね…」
千歌「うん、だけど…」
千歌「なんか来たとたん一気に寒気が……」ブルッ
花丸「千歌ちゃん、今ならまだ引き返せるよ?」
千歌「あはは、まさか」
梨子「そんな気ないわよ、誰もね」
善子「……」コトン 善子「よし、配置は済んだわ…最後に」
キュッキュ
曜「何描いてるの?」
善子「六芒星よ、“記憶”の中にあったものから引っ張り出してきたの」
善子「直感だけど、多分これで……扉が開く気がする」
善子「準備は整ったわ、あとは映すだけ」
「「……」」
善子「やるわよ」スッ 持ってきた手鏡を六芒星が描かれた鏡へと向ける。
向き合った二つの鏡は互いに反射を繰り返し、同じ面が先へ、先へと
際限なくずっと続いていく。
その状態からどれくらい経っただろう…5分、いや3分だったかもしれないし
もしかしたら1分にも満たない時間だったかもしれない
静けさと暗闇から溢れる禍々しい気
それがあらゆる角度から突き刺さるような悍ましさを感じて
そんな数字を数えることすらままならなかった しばらくすると不意に終点……目で確認出来る一番奥のところが突如として光り始めた。
小さかった光はだんだん大きくなっていって、遂には
鏡全体を覆うほどの、青白い輝きと化し……もう鏡面には何も映っていない
そしてその中央には、それよりもっと深く青い色に包まれている…自分が描いた六芒星
間違いない、確信を持って言える。
善子「“開いた”っ…!」 花丸「これが……実際に見るのは初めてずら…」ゴクッ
曜「本当に成功、したんだね」
善子(…形も変わっているわね、長方形だった鏡が楕円形になっている)
善子(大きさは…ちょうど1人入れるくらいの)スッ
ズズッ…
梨子「善子ちゃん、手が!」
善子「うん……今ので分かった」 善子「この感触、あのときと似ている」
善子(夢の中で感じ取ったアレと…つまり─)
善子「向こうに、繋がっているっ……!」ダッ
ブォンッ
花丸「善子ちゃん!?」
曜「消えたっ! 入れたってこと!?」
千歌「それより早く追いかけなくちゃ!」タッ
梨子「ええ!」
ヒュンッ ヒュンッ
ズッ ズズズズゥゥ……
……
… 死神「……」ピクッ
ルビィ「あれ? 何だろう……なにか」
死神「…来る」
ルビィ「え?」
トンッ
善子「……ふぅ、意識だけだったとはいえ二回目ともなると流石に少しは慣れるものね」
ルビィ「…善子ちゃん? 本当に……?」
善子「…ルビィ、会いたかったわ」
死神(ほう…成程そうか、あの娘が)
死神「まだ他にも来るな、数は3…いや4か」 シュンッ スタッ
千歌「わっとと…着いた?」
梨子「みたいね」ホッ
花丸「─! ルビィちゃんっ!!」
ルビィ「花丸ちゃん! それにみんなも…!」
死神「なんだ顔見知りか」
曜「! 待って、ルビィちゃんの隣にいる人」
曜「善子ちゃん……じゃないね、似てるけど」
善子「ええ、あれが恐らく…」 善子「ねえ、あんたよね…ルビィをここへ連れ去ったのは」
死神「そうだが」
死神「お前、私の言葉が分かるのか」
善子「は? 何言ってるのよ、分かるに決まって……!」ハッ
「「……?」」
善子「え、嘘でしょ…まさか」 善子「…ねえ皆、あいつの言ってること」
梨子「…うん、全く聞き取れない…さっきの善子ちゃんの言葉も、何を喋っているのか」
梨子「私たちにはこれっぽっちも…」
善子「……私も? それってどういう─」
死神「ふむ、これで決まりだな」
死神「津島善子───お前か、私の来世は」
善子「……えっ……?」 善子「来世…って、なに?」
死神「知らないか、ここまで来たのなら少しは身に覚えがあってもおかしくないと思っていたのだがな」
善子「どういう意味よ」
死神「言葉通りの意味だが?」
死神「お前に私の知識や記憶を借りた経験はないのかと聞いている」
善子「!」
死神「今抜けてきた道もそうだな、ここへ明確に繋がるよう六芒星を用いて行く先を固定したみたいだが」
死神「一体何をもってそれを正しいと判断した」
善子「……」 花丸「…ねえ善子ちゃん、あっちの人、なんて」
善子「…私があいつの来世だって、言ってる」
花丸「来世って…! じゃああの人は善子ちゃんの前世の姿なの…?」
梨子「確かに似てるとは思っていたけど……まさかそんな」
善子「いや、あり得ない話じゃないわ、寧ろ…それで今までの辻褄が合うくらい」
善子(だとすると…魔術書の文字が読めたのも、今向こうと会話が出来ているのも)
善子(多分その言語に対する知識が、私の中に無意識に備わっていて)
善子(実際に本物に触れることで、その記憶が蘇るきっかけになったから……?)
善子「けど、もしそうなら…」 善子「ルビィ! 貴女も彼女の言葉を聞き取れたりするの?」
ルビィ「え? うん、分かるけど」
善子(思った通りか……)
ルビィ「やっぱり他のみんなは死神さんの言葉、分からないんだね」
善子「死神、それがあいつの……」チラッ
曜「!……」コクッ
善子「ふーん、ずいぶんと物騒な名前なのね」 死神「別に私が名付けたわけではないが、真名を名乗る気もないのでな」
死神「敢えて使わせてもらっている」
善子「へえ…まあそんなことはどうでもいいのよ、それより」
善子「ルビィがあんたの言語を理解できる、その理由が知りたいんだけど」
善子「私が思うに、あの時の選別もそれを確かめるためのものだったんじゃないの? 違う?」
死神「教える必要はないな」
善子「さっきは色々と喋ってくれたみたいだけど?」
死神「私が確認するためだ、それが済んだ以上話す道理は存在しない」
死神「そしてお前らにも用はない、消えろ」 善子「あっそう、ならその前に─」
死神「何?」
曜「ルビィちゃんを返してもらうよ!」ヒュンッ
死神「」スッ
ルビィ「よ、曜さん!? いつの間に」
曜「かわされたかっ……でも」
曜「今だよ二人とも!」 グイッ
ルビィ「花丸ちゃん! 千歌さんも!」
千歌「ルビィちゃんこっちに!」
花丸「早く逃げるずら!!」
ダダダッ
死神「…ほう」
死神「先ほどの会話は時間稼ぎだったか、咄嗟に思いついたものにしては上出来だ」 曜「もう一回!!」ブンッ
死神「だが、そこの身軽な小娘」
死神「再び私に挑みにきたのは間違いだったな、愚の骨頂だ」パシッ
曜「なっ……」
死神「脆弱すぎる、話にならん」
メキメキメキッ
曜「…っ……い…! ああああぁぁぁぁああ!!!」 千歌「曜ちゃんっ!!」
曜「ぁぐっ……! うぅ………かはっ…!」
梨子「やめて! 離してっ!!」
善子「嘘でしょ…曜さんが、あんな…」
死神「痛みへの耐性もこの程度か……全く、どれほど温い人生を歩んできたのか計り兼ねるな」
死神「…いや待て、逆に言えばそういった生活を送れるだけの秩序が保たれている、ということになるのか?」
死神「……確かめてみるか」 死神「ルビィ、それと善子だったか、聞こえているだろう?」
ルビィ・善子「……」
死神「どちらでもいい、私の質問に答えろ」
ルビィ「答えたら、曜さんを放してくれるの?」
死神「そうだな、お前もこちらに戻ってくれば解放してやる」
善子「っ…ふざけないでよ!!」
死神「生殺与奪の権を握っているのは私だ、この意味が分かるな」
善子「…反吐が出るわね」
死神「ふん、耳慣れた言葉だな」
ルビィ「……」
死神「さあ、返事を聞かせてもらおうか」 毎度続きが気になるところで止めよる……
お伝えしておきます ルビィ「…分かった、でももう少しだけ待って」
ルビィ「みんなと決めたいの」
死神「構わん、だがなるべく手短に済ませてもらう」
善子「……っ」
花丸「善子ちゃん、ルビィちゃん、さっきから何を…?」
善子「…向こうは私たちに聞きたいことがあるみたい」
善子「だから質問に答えてルビィもあっちに送り返せば、曜さんは解放するって」
善子「そう言ってるわ」
梨子「それって人質じゃない!」
花丸「…どうするの?」 善子「もちろん曜さんのことは見捨てたくない……けど」
善子「ルビィをあいつの元に戻らせることも…私には出来ない」
善子「折角ここまで来たのに…っ…! どうすれば!」
ルビィ「……」
ルビィ「善子ちゃん、あのね」
ルビィ「ルビィ、死神さんのところに戻ろうと思うの」
「「!!」」
ルビィ「それが一番、無事に終わらせられる解決方法だと思う」
善子「な…何言ってるよ! 駄目に決まってるでしょそんなの!!」 善子「まだ曜さんを取り戻す方法だってあるかもしれないじゃない!」
ルビィ「ううん、無理だよ」
善子「無理じゃないわよ! さっきだって上手くいったじゃないの!」
ルビィ「最初はね、でも二度目はない」
ルビィ「あの時は死神さんの不意をついたけど、流石にもう警戒されてる…それに」
ルビィ「もう一度それをやろうとしたらきっと、死神さんは曜さんを殺すから」
千歌「…嘘だよね?」
ルビィ「本当だよ、間違いなくそうする」
ルビィ「あの人にね、迷いはないの…多分殺す時も躊躇は一切しない」
ルビィ「でも約束さえ守れば、無事に返してくれるはずだよ」
ルビィ「だから、ルビィが行かなくちゃ」 善子「だけどっ!! そんな奴のところに行かせるなんて尚更!!」
ルビィ「ルビィなら大丈夫」
善子「何でそう言い切れるのよ!!」
ルビィ「死神さんはルビィを絶対に殺せない」
ルビィ「“その日”が来るまで、ルビィに死なれたら困るから」
ルビィ「だから安心して」 千歌(それって…)
梨子(その日が来たら確実に死ぬってことじゃない…!)
ルビィ「曜さんを助けたいの…お願い善子ちゃん」
善子「……」
ルビィ「ルビィに行かせて」
善子「………分かった、わよ…」グッ
善子「でも……今だけだからね、次は絶対に助ける」
善子「必ずよ……私は絶対に、貴女のことを諦めないから」
ルビィ「うん、ありがとう……みんなもごめんなさい、折角ルビィを助けに来てくれたのに」 梨子「…謝るのは私たちの方よ、結局…何の役にも立てなかった…!」
ルビィ「そんなことないよ、嬉しかったもん」
花丸「…」
ルビィ「花丸ちゃん、善子ちゃんのことお願いね」
花丸「……任せるずら」
善子「…………」
ルビィ「善子ちゃん、ルビィ信じてるからね…善子ちゃんがまたここに来てくれるって」
善子「…当たり前よ、何度だってやってやるんだから」
ルビィ「うん、待ってる」ニコッ 死神「……」
ルビィ「そろそろ危ないかも…でもその前に」
ルビィ「善子ちゃん、聞いて」
ダキッ
善子「…ルビィ?」
ルビィ「──────」
善子「!!」
スッ
ルビィ「じゃあまたね、善子ちゃん」クルッ 死神「決まったのか?」
ルビィ「うん、今からそっちに行くね」
死神「……」
スタスタ
ルビィ「はい」
死神「よし、戻ってきたな」
ルビィ「早く曜さんを放して」
死神「いいだろう、約束だ」パッ
曜「うぐっ…! はぁ……はあ…!」
ルビィ「曜さん!!」
曜「ルビィちゃ…ごめ……足、引っ張って…」ヨロ
ルビィ「そんなのいいよ!」 ダッ
千歌・梨子「曜ちゃん!!」ギュッ
曜「千歌ちゃん……梨子ちゃん…」
善子「曜さん、ごめんなさい…私のせいで」
死神「集まったな」
死神「少し離れていろ、もう術式は仕込んである」
ルビィ「…うん」 バチッ バチバチッ…
善子「な、何? なんなの!?」
ブォンッ
花丸「! いきなり真下に…」
善子「この模様っ…! これ、まさか!!」
善子(私たちを飛ばすための!?)
死神「言っただろう、お前達に用などないと」
死神「時間だ、全員まとめてここから出ていけ」
善子「待っ──」シュンッ フッ…
死神「行ったか」
ルビィ「それで、聞きたいことって何?」
死神「あの娘達が送っている生活は、お前らの国では普通にあるものなのか」
死神「それとも特別なものとして扱われているのか、どっちだ」
ルビィ「…そうだね、ルビィのところは分からないけど」
ルビィ「善子ちゃんたちは多分、普通だと思うよ」
ルビィ「そこまで特別なことでもない気がする」
死神「…そうか」 ルビィ「ねえ、ルビィも聞いていい?」
死神「何だ」
ルビィ「あなたの記憶、善子ちゃんはどこまで見れるの?」
死神「今はまだ大して引き出せてはいないだろうな、しかし」
死神「今回ここに来たことと、アレが復活する際の影響を考えると」
死神「存外早く、全てを理解する日が来るかもしれん」 ルビィ「全部……見るんだよね」
死神「恐らくな、だが」
死神「お前だけは絶対にそれを見るな、いいか、絶対にだ」
ルビィ「……」
死神「一生記憶の底に閉じ込めて出さないようにしろ……要らん傷を負いたくなければな」 シュイン
善子「! ここは…やっぱり戻らされたのね」
善子「みんな無事? 曜さんは?」
梨子「大丈夫ここにいるわ、でも」
曜「…痛ぅ……」
梨子「腕の腫れが酷いから早く病院で診てもらわないと」
梨子「それにいつまでもここにいるのも危ないし、早くここから出ましょう」
善子「…そうね」 千歌「行こう、曜ちゃん」
曜「…ありがと」
善子「……鏡が割れてる、どこまでも徹底してるわね」
善子「…っ!」ガンッ
花丸「善子ちゃん」
善子「…分かってる、大丈夫、すぐ切り替えるから」ハァーッ
善子「……行きましょ」
カツンッ カツンッ
善子(待ってなさいルビィ、そして死神)
善子(私は必ずそこに戻る) ─それから数日後
善子「……」トントン
『善子ちゃん、聞いて』
『ルビィたちがやった儀式はあくまでも補助、本命は別のところにある』
『それと、重要なのは数字』
『あの時のこと、もう一度思い出してみて』
『あとね、最後にお願いが……』
善子「重要なのは数字、あの時のこと……つまり」カキカキ 善子「この方法を使って……出来た、でもこれに一体何の関係が」パラッ
善子「…ん? またページが直っているわね、今度は何が書かれて…」
善子「! これって……成程ね、だから…」
善子「ありがとうルビィ、おかげでようやく分かったわ」
善子「そういうことだったのね」
……
… ─さらに数日が経って
善子の部屋
ガチャ
曜「お邪魔しまーす!」
千歌「善子ちゃんこんちかー!」
善子「元気そうね二人とも」
梨子「花丸ちゃんも来てたのね」
花丸「うん、ちょっと前に」 善子「曜さん、腕の具合は?」
曜「もう平気だよ! ごめんね心配かけて」
梨子「お医者さんも驚いてたわ、凄い回復力だって」
千歌「流石曜ちゃんだね!」
善子「そう、良かったわ」
曜「えへへっありがと…あっ、そうだ善子ちゃん!」
善子「ん? なに?」
曜「あのとき頼まれていたやつ、ようやく分かったよ!」 善子「本当に?」
曜「梨子ちゃん、あれお願い」
梨子「ええ」ゴソゴソ
梨子「はい、これが詳しく書かれている本よ」
善子「……」
花丸「うーん確かにそっくりずら……ねえ二人とも、これ何語だったの?」
曜・梨子「ヘブライ語」 千歌「へぶらい?」
曜「イスラエル国で使われている公用語、らしいよ」
梨子「名前が似てるから誤解されがちだけど、イスラム国とは違う国だからね、勘違いしちゃ駄目よ」
千歌「ほえ〜、そうなんだ」
花丸(ん? でも確かイスラエルって…)
善子「…やっぱりね」ボソッ
善子「二人ともありがとう、これで確信が取れたわ」 曜「何か分かったんだね」
善子「ええ、例の事件が起きた原因」
善子「それはやっぱりこの魔術書が引き起こしたものだということが、分かったわ」
善子「そしてその術式がどんな要素で構成されているのかも」
梨子「……」
善子「理由も含めて一から説明するわね」 善子「まずはこの図を見て」カサ
千歌「あ、これアニメとかで見たことあるよ! 確か」
千歌「セフィロトっていうんだよね!」
善子「正解、実は数日前にまた魔術書のページが修復されててね」
善子「そこにこれが載っていたの、今見せてるのは私が簡略化したものだけど」
善子「これでも充分伝えられると思うわ」
https://i.imgur.com/Z09BT44.jpg 梨子「ページに載ってたということは、この図も重要なものの一つなのよね?」
善子「ええ、取り敢えず簡単に説明すると」
善子「セフィロトの樹はカバラという西洋魔術において大きな影響を与えた神秘主義、思想から生まれたものの一つで」
善子「別名、生命の樹とも呼ばれているわ」
善子「ちなみにセフィロトというのは複数形で、一つ一つはセフィラと呼ばれているの、この丸いやつがそうよ」
善子「で、こっちの各セフィラを繋いでいる道がパスって名前」
善子「この10の球体と22の道が合わさって出来たもの、その名称がセフィロトの樹なの」
善子「ただ今回は知識のセフィラともされている11個目、ダアトも含めて話を進めるわね」
善子「セフィロトは球体一つ一つとそれを繋ぐ道、その組み合わせ全てに意味があるとされているんだけど」
善子「それを一個ずつ説明していくとキリがないから、重要な部分だけ触れていくわよ」 善子「まずカバラの理論では、この世界は4つに分けられていると言われているの」
善子「初めに神、創始の世界とされるアツィルト、それに次ぐ創造の世界ブリアー」
善子「更にそれらを形成する世界イェツィラー、最後に私たちが生きている現実世界アッシャー…この4つ」
善子「で、ざっくり言うとここの一番上、最上界には神の魂が宿っていて」
善子「そこに辿り着くことで人は至高の幸福を得られるだろうというのがカバラの教義なのね」
善子「線で分けるとこんな感じ」キュッキュ
善子「死神はこれを利用して、この世とあの世を結ぶ道を創ったのよ」
https://i.imgur.com/vjDoiMv.jpg 花丸「でもどうやって?」
善子「数字よ」
花丸「数字?」
善子「カバラの考えの中でも有名なものがあるわ、数秘術と呼ばれるものよ」
曜「あっ、それ知ってる、占いでよく見るやつだ」
千歌「生年月日を入れるやつでしょ? 私も知ってるよ」 善子「そう、年月日の数字の足し算を繰り返して、最後の一桁の数で運命を占うといったものね」
善子「タロットとかにも使われていたりするわ」
善子「この数秘術を奴は発動させる魔術の基盤、トリガーとして、術式に組み込んだの」
善子「そうして起こったのがあの赤夜失踪事件」
善子「奇しくも私たちが最初に思っていた通り」
善子「あれは偶然の産物ではなく、死神の手によって意図的に引き起こされたものだったってわけね」 梨子「術が発動した日が、何か数字的に意味のあるものだったということ?」
善子「ええ、私は最初月のほうに何かがあると思っていたけど」
善子「ストロベリームーンという存在にまんまと踊らされたわ」
善子「よくよく考えてみればこの魔術書が日本以外の国にあった場合」
善子「時差や緯度経度の関係で赤い月は見ることが出来ないし、そうなれば本末転倒になる」
善子「なら何かそれ以外の要素があると考えるのはおかしくないはずなのに、まだ浮ついていたのかしらね」
梨子「善子ちゃん…」
善子「ごめん、話を戻すわね」 善子「いい? 重要なのはここ……事件が起きた当日の2018年6月28日」
善子「これを数秘術で計算すると…」
善子「2+0+1+8+6+2+8=27 ここから更に分けて2+7=9…9の数字が出てくるわけね」
善子「だけどこれで終わりじゃない、この数字の計算を更に年、月、日の三つに分けて計算する」
善子「そうすると…2018は11、6月は6、28日は10と1…合計五つの数字が浮かび上がるわ」
善子「そしてこの数字をさっきのセフィロトに合わせて繋げると…」ツゥー
「「「!!?」」」
善子「現実世界から神の魂へと繋がる一本道の完成よ」
https://i.imgur.com/aQ3GoBB.jpg 曜「ん…? ちょっと待って善子ちゃん、確かに道のほうは今ので分かったけど」
曜「繋げるためには本に書いてあった器…命が必要だったんじゃないの?」
善子「その通りよ、けどその器が何かももう分かっているわ」
梨子「本当に? ねえ、一体誰の命だったの?」
善子「死神よ」 千歌「死神って善子ちゃんの前世の人、だよね? でもその人ってもう死んでいるんじゃ…」
善子「そうね、そこも私が誤解していた部分の一つだったわ」
千歌「どういうこと?」
善子「つまり結論から言うと、そこに命さえ宿っていれば」
善子「その対象は生きた人間じゃなくても良かったってことよ」
花丸「! 善子ちゃんそれってまさか……その本が?」 善子「ええ、この魔術書には死神の命が宿っている」
善子「そして自分の命を器として、現世と冥府を繋げたの」
曜「本に命って…そんなことあり得るの?」
花丸「そこまで変な話でもないよ、日本にも付喪神<つくもがみ>といった伝承があるように」
花丸「長い年月を経たものには魂が宿ると云われているの」
花丸「また、呪いの人形みたいに作り手の念が強く込められているものには」
花丸「作り手の命が吹き込まれ、その人形が生きているかのように見えたりする」
花丸「心霊現象とかで人形の髪が伸びていた、っていう映像を見たことはある?」
千歌「うん」
花丸「あれにはそういったものも少なからず含まれているずら」 曜「じゃあ死神は…自分の命を奉げてまでこの魔術書を…」
善子「恐らく死に至るその際まで書き続けたんでしょうね、そうなることも狙って」
善子「全く、本命とはよく言ったものだわ」
梨子「なら、本のページが直っていったのは?」
善子「術の発動によって魔術書に宿っている死神の命と冥府にある魂が繋がったから」
善子「おかしいと思わなかった? ルビィはともかくとして」
善子「どうして魂だけの存在である死神が、冥府とはいえ自分自身の実体を持っていたのか」
梨子「そういえば……確かに」 善子「答えは簡単よ、あの日から時間の経過とともに死神は本来の力を取り戻しつつあるの」
善子「だから実体もあって、こっちにある魔術書のほうも」
善子「自然と元の完全な状態に近づいていってたというわけ」
梨子「成程ね…だとすると、善子ちゃんが言ってた情報や記憶が流れ込むっていうのは…」
善子「死神が力を取り戻していくにつれて、前世である私もそれによる影響を強く受けていたから」
善子「要は力が戻った分だけ、私は奴からその知識を授かっていたということになるわ」 曜「そういうことかあ…色々納得したよ」
曜「でもそれならさ、善子ちゃんとルビィちゃんがやった儀式には一体どういう意味があったの?」
曜「今までの話をまとめると魔術もそれに必要なものも、全部死神が用意していて」
曜「時間が来たから勝手に発動されたってことになるけど」
善子「ルビィの言葉と私の記憶から推測するに、あれは恐らく召喚術だと思うわ」
曜「召喚?」
善子「そう、前世の血を通して発動よりも早いうちに現世と繋がるためのもの」
善子「まあ曜さんも言った通り、その日が来れば勝手に本陣が発動するからこれはあくまで補助なんだけど」
善子「その儀式も予期せぬ結果で失敗に終わったわ」 梨子「予期せぬ結果? 聞いていて何かおかしい部分があったとは思えないけど…」
善子「注目するのは、この儀式には前世の血が必要だったというところ」
千歌「んーと…そっか分かった、ルビィちゃんだ!」
千歌「あれってルビィちゃんと二人でやったものなんでしょ? なら」
花丸「…そこにはルビィちゃんの血も混ざってる」
善子「そういうこと、つまり私とルビィの血が混ざりあったことで向こうは判別することができなかったのよ」 善子「さてと、これで大体の解説は終わったわね……じゃあ最後に」
善子「死神、彼女は一体何者なのか…その正体について話すわ」
善子「まずこの魔術書に書かれている言語、ヘブライ語」
善子「現在ではイスラエル国で使われているものだって二人も言ってたわね」
梨子「ええ」
善子「けどそれは今の話、考証をするにはもっと昔の時代まで遡る必要があるわ」
曜「そっか、昔に書かれたものだもんね」
善子「それで過去の話になった場合、このイスラエルというのは国でもそこに住んでいる国民でもなく」
善子「イスラエル人という部族のことを指していたの」 善子「当時イスラエル人は他民族からヘブライ人とも呼ばれていたわ」
千歌「ヘブライ人、言語と同じ名前だ」
善子「そう、ともすれば書かれている文字にヘブライ語が使われていても何らおかしくはない」
曜「じゃあ死神の正体は、昔のイスラエル人、ヘブライ人だったってこと?」
善子「いいえ正確には違うわ、正式に呼ぶならそうじゃないのよ」
曜「え?」
善子「確かにここまで聞くと死神はイスラエル人なのかと思うかもしれないけど」
善子「その前にもう一つ、確認しなくちゃいけないものがあるわ」
善子「それがこの魔術の大元になっているカバラ」 善子「セフィロトを生み出した思想、神秘主義というのはさっき説明した通りだけど」
善子「まだ触れていない部分があるの」
千歌「なに?」
善子「その思想や主義はそもそもどこから来たものなのか、ここについて」
善子「そしてそれを突き止めることこそが、奴の秘密を暴くうえで最も重要な鍵になったの」
花丸「……」 善子「最初に、カバラが形成されたのは12〜13世紀の中世…カバラとはヘブライ語で<伝承>を意味していて」
善子「この教義はユダヤ教の伝統に基づいた神秘主義思想として作られた」
善子「本来は宇宙の真理や神に対する追求を行うためのものだったけれど、いつしか思索と魔術に分けられ始め」
善子「そして魔術側の教義が西洋魔術の基盤として広がり始めたのは15世紀あたりから」
善子「また、現在の話に戻るけどイスラエル国は」
花丸「住民の8割がユダヤ人、宗派もユダヤ教が多数を占めているずら……ということは」
善子「そう、つまり私の前世、死神の正体は────」
善子「ユダヤ人なのよ」 曜「ユダヤ人って言うと……あの?」
善子「まあ私たちがどういう印象を持っているかはこの際関係ないのよ」
善子「大事なのは当時、彼女がその民族であったために誰に何をされてきたのか」
善子「死神がこうなるまでに至った過程ときっかけ、それを知ること」
「……」
梨子「…魔術といえば、確かその時代にそれに関係する有名なものがあったわよね」 善子「ええ、中世ヨーロッパで15〜18世紀にかけて行われた」
善子「魔女狩り、魔女裁判」
善子「詳しいことは分からないし、その記憶もまだ見つけられないけど」
善子「多分それが、全ての始まりなんじゃないかしら」
善子「とにかく、私が分かったのはここまで」
善子「また何かあったら教えるから、そっちも色々調べてみてね」
千歌「うん、わかった」 曜「それじゃまたね」
善子「ええ、お疲れさま」
花丸「……」
善子「? 何よ花丸、帰らないの?」
花丸「帰る前に話しておきたいことがあって」
善子「…なに?」
花丸「魔女裁判は……証拠がなくても被疑者を罰することが可能で、いや」
花丸「裁判とは名ばかりの人種差別による迫害ずら」 善子「……」
花丸「それともう一つ」
花丸「ルビィちゃんも本の文字、ヘブライ語を読むことが出来たんだよね? …ということは」
花丸「ルビィちゃんの前世もユダヤ人である可能性が高い」
花丸「日ユ同祖論なんていうのもあるくらいだから、そんなに妙な話でもないと思うし」
花丸「…だからね善子ちゃん」
花丸「そのルビィちゃんを死神が連れ去ったということは」
善子「…ええ、私も同じことを考えていたわ」
善子「恐らく直接的な被害を受けたのは死神ではなく…」
善子「“そっち”のほうなんだってね」 =====
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善子(……ぅ…うぅん…?)
善子(あれ、ここは…確か)
死神『…何? お前の前世のことを知りたいだと?』 善子(! この声! ということはやっぱりここは冥府……でも)
善子(どうして死神の声が聞こえるようになったのかしら)
ルビィ『うん、なんでルビィがここに来たのか、それは分かったけど』
ルビィ『死神さんがそこまでする理由が知りたいの』
死神『知る必要は『あるよ』
ルビィ『だって、そのためにルビィの命を使うんでしょ?』
善子(!!)
死神『受け入れている割には随分と落ち着いているようだが?』 ルビィ『うん、善子ちゃんが助けに来てくれるからね』
死神『無駄だと思うがな、仮にここへ来たところで邪魔はさせん、阻止するだけだ』
善子(まあ、実際手も足も出なかったしね……悔しいけど)
善子(…ってそうか、これ…今より少し前の死神の記憶なんだ)
ルビィ『それなら教えてくれてもいいでしょ? どうせルビィしか聞かないんだから』
死神『ほう意外と強かな奴だな、いいだろう』
死神『確かにお前には知る権利がある、前世として、その当事者として』
死神『私の過去を知る資格が……それに』
死神『お前の記憶を蘇らせるよりは、私の口から話しておいた方が楽かもしれん』 ルビィ『記憶……』
死神『ああ、お前にとっては負の遺産にしかならない』
ルビィ『どういうこと?』
死神『これからする話を聞けばすぐに分かることだ、だがその前に』
死神『話をするにあたって、まず始めにあいつの名前を教えておく必要があるな』
ルビィ『あいつって、ルビィの?』
死神『そうだ、名前はマリア……私の妹だ』
善子(妹!?) ルビィ『え? 死神さんってお姉さんだったの?』
死神『血の繋がりは無いがな、単に向こうが私を姉と呼んでいただけだ』
死神『しかし私はそれを止める気はなかった、血の繋がりなど私にとっては些細なことだったからな』
死神『それに、自分を慕ってくれていることに──悪い気はしなかった』
死神『いいや違うな……嬉しかったんだ、私は』
グワングワンッ
善子(っ!? 何……急に景色が……) ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています