【SS】 よしルビQUEST
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善子「A42tc5=ΩtWin21liguLl……」
ルビィ「……」カリカリ
善子「そこから外側に円を作って、チョークは赤色ね」
ルビィ「……」カッカッカッ…
善子「そう、その調子……ルビィ、貴女円を描くの上手ね」
ルビィ「えへへっ…そうかなぁ」
善子「はいそこでストップ、これで陣は完成よ……最後に」
ルビィ「真ん中のお皿に」ピッ
善子「お互いの血を一滴」ツゥー
ポタッ……
善子「さあルビィ、準備はいい?」
ルビィ「うん」
善子・ルビィ「……汝、常世の国に在らずレば。 我、現世にて己が姿をミたりて。」
故有りし世に糸重ね、一輪自≪かかぐ≫り下思ひて。 響かせたまへ
我、張り者也─── ルビィ「──ストロベリームーン?」
善子「そ、ルビィもよく聞かない?」
ルビィ「そういえば、最近ネットでよく見るね」
ルビィ「お月様が赤くなるんだっけ? ロマンチックだよね」
善子「そうそう、それのことよ」
善子「あと二、三ヶ月もすればここでも見られるそうよ、その月が」
ルビィ「へえ〜…善子ちゃん、詳しいんだね」
善子「……別に? ほら私は流行に敏感だから」 ルビィ「えへへっ、そっか」
善子「ルビィも少しは知っておいた方がいいわよ」
善子「音楽やアイドルにだって流行り廃りはあるんだから」
ルビィ「うん、分かってる」
ルビィ「だから善子ちゃんがルビィに教えてくれたらなぁって」
善子「何言ってんのよ全く…甘えないの」
ルビィ「ごめんなさい」クスッ 善子「でもまあ? そこまで頼りにしてるっていうなら、教えてあげなくもないわよ主として」
ルビィ「善子ちゃんってあんまり素直じゃないよね」フフッ
善子「悪かったわね素直じゃなくて」
ルビィ「ううん、ありがとう」
ルビィ「でもたまにはルビィだけで考えなくちゃね…あっ、もう少しで授業が始まっちゃう」
ルビィ「急ごう善子ちゃん」タッ
善子「……もっと頼ってくれてもいいんだけどね、私は」スタスタ ─
ストロベリームーン。 最近になってメディアが取り上げはじめて、よくその名前を目にする
一年に一度というワードで、ああ、その手のやつかと内心呆れはしたけど
パワースポット信仰が未だに根付いているこの国で、宇宙に関する神秘が絡んだものを噂で流せば
確かに食いつきはいいんだろうなと感心もした。 ましてや月、満月だ。
人はロマンチストのくせして割とドライなところがある、夢があるものでもお手軽にパパッと済ませたいものなのだ。
理想4:現実1の割合を前提に努力しようとするし、だから短い練習法や簡単な生活習慣の改善などが流行ったりする。
最も重要である継続が、大抵この後に抜け落ちてしまうが。
そういう意味でもこのストロベリームーンというものは人々の興味の対象としては絶好なのだろうと、改めて人の移り気の早さに呆然とした。
いや、でもそんなものか。 今私が耽っているこの考察すら
明日になれば空っぽになって消えてしまう、取るに足らないものだしね。 善子「……」トントントントン
ルビィ「……善子ちゃん?」
善子「……」ウーン
善子「はあ……」カキカキ
ルビィ「…どうしたんだろう?」
花丸「さあ…?」 あとはまあ、恋愛の謳い文句としてはありがちな
「見た人に幸せが訪れる」だの「好きな人と結ばれる」だの
そういった“オマケ”まで付いてくるものだから、周りの女子たちも月並みに浮き足立って
教室の中だというのにまるで宇宙に放り出されたような、不思議な違和感がそこら中に漂っていた。
いやほんと、いつの時代も変わらないんだなあって。
さながら俗世の立会人になったような気分。 ただ、さっきから自分は違うとでも言いたげにだらだらと御託を並べてはいるけど
かく言う私もそんな浮かれ者の一人で、つまりは──
気になる子の反応を窺いたい、ということ
いくら堕天使の身とはいえ、恋に溺れてしまってはどうしようもなく
何かにしがみつきたくなることがあっても、それはもう仕方のないことなのよ。 ルビィ「善子ちゃん、、、善子ちゃんってば」
善子「……え? なに」
ルビィ「もう授業終わったよ」
善子「あれ……本当に?」
ルビィ「うん、一緒に帰ろうよ、花丸ちゃんも待ってる」
善子「……そうね」 ===
花丸「でも今日は珍しくボーっとしてたね、善子ちゃん」
ルビィ「何か考えごとでもしてたの?」
善子「ん、まあね」
花丸「ふーん…考え事といえば、クラスの子たちも最近は妙にそわそわしてるよね」
ルビィ「確かにそうかも……あっ、もしかしてストロベリームーンのことかな?」
善子「……」 花丸「すとろべり〜む〜ん? 何ずらそれ」
ルビィ「一年に一度、お月様が真っ赤になるんだって、凄いよね」
花丸「ほえ〜、そんな現象があるんだね」
善子「あんたたちはちょっと世間に疎すぎじゃない?」
ルビィ・花丸「あははは……」
善子(というかそこまで赤く染まらないっていう話もあるんだけど…)
善子(……でも)チラッ
ルビィ「?」
善子(そうなって欲しいという気持ちは、確かに私の中でもあるかもしれない) しかし、巷で人気のスクールアイドルにも専ら関心を寄せられているこの紅い月だが
正式名称は違うという話もあるらしい。
まあ正直私としては、そんなのどうだっていいんだけどね。
だって紅い月というのが、私の好物のイチゴとあの子の髪の色を思い起こさせて
まるで運命みたいだと、私の胸を高鳴らせてくれたから。
そう…たとえそれがこじ付けで些細なことでも、私が一歩踏み出すには十分すぎる根拠だった。 花丸「それじゃあまたね、二人とも」
ルビィ「うん、バイバイ」
善子「また明日」
善子「それにしても、よく懲りずに付いてくるわね貴女も」
ルビィ「そっちのほうが楽しいから」
善子「あっそ」フフッ ルビィ「それに、儀式のほうもあと少しでしょ?」
善子「…ああ、だからね」
ルビィ「うん、でもどうしちゃったの?」
善子「なにが?」
ルビィ「今回のはやけに凝っているなぁって」
善子「…魔力よ、紅い魔力が欲しいの私は」
善子「ならそのチャンスは今しかないじゃない?」 ルビィ「赤……あーそっか、一年に一回しかないんだもんね」
善子「そういうこと、さあ今日もちゃっちゃとやっちゃいましょ」ガチャ
ルビィ「今日はどこまで?」
善子「これを撒くわ、月の欠片」
ルビィ「金粉だよね?」
善子「代わりって意味よ、それから───」
……
… 善子「──うん、こんなものかしらね」
善子「お疲れさまルビィ」
ルビィ「善子ちゃんも」
善子「フフッ…次はいよいよ最終段階よ、心の準備をしておくことね」ハイ
ルビィ「これ、ちゃんと覚えられるかなぁ…?」ペラッ
善子「大丈夫よ、ルビィなら出来るって私は信じているから」
善子(私のやってることにも真面目に付き合ってくれる貴女だもの) ルビィ「ありがとう…ルビィ、善子ちゃんのために頑張るね」ニコッ
善子「…っ……ええ、よろしく」
善子「帰るんでしょ、もう暗いけど大丈夫? 送っていく?」
ルビィ「うん、でも途中まででいいよ」 スタスタ
善子「……ねえルビィ」
ルビィ「なに?」
善子「今日は月が綺麗ね」
ルビィ「えへへっ、そうだねぇ…三日月さん、綺麗な形してるもん」
善子「……うん」 ルビィ「またね善子ちゃん」
善子「はいはい、また明日ね」
善子「……伝わらないか」
善子「花丸から教えてもらったんだけど、あの子知らなかったみたいね」
善子「…やっぱり借り物じゃなくて、自分の言葉で伝えろってことなのかしら」
善子「……まあ、分かってはいたけどね」クルッ
善子「だから今、積み上げてるんでしょ」スタスタ
自分なりの告白ってやつを。 善子「……」ピタッ
善子「…………三日月?」ミアゲ
善子「…おかしいわね、今日は─」
善子「どう見ても満月なんだけど」
善子「あの子の勘違い、なのかしら…」スタスタ
○ === ●/】
ズズズッ…… それから一ヶ月後…
善子「……ふぅ」パタンッ
善子「これで全て滞りなく終わったわ、お疲れさまルビィ」
ルビィ「うん、やったね善子ちゃん」
善子「ええ、あとは実際に効果が現れるまで待つだけね」
善子「あの紅い月を」
ルビィ「でも月の色が変わるときに願いが叶うなんてロマンチックだよねぇ」
ルビィ「儀式っていうより、おまじないみたい」
善子「呼びかたが違うってだけでどっちも同じものでしょ」
善子「まあ言いたいことは分かるけどね」フフッ 善子「さてと、今日も遅くなっちゃったわね」
善子「泊まっていく?」
ルビィ「ううん、大丈夫」
善子「そう、なら今度会う日は来月になるわね」
ルビィ「え?」
善子「二人きりでって意味」
ルビィ「ああ、そっか」 ルビィ「楽しみだね、善子ちゃん」
善子「そうね……ちゃんと起きていなさいよ、迎えに行くから」
ルビィ「うん分かってるよ、連れていってくれるんだよね?」
善子「ええ、曜さんに教えてもらったとても見晴らしのいい丘に」
善子「そこで貴女に最高のものを見せてあげるから」
ルビィ「うん、期待してる」ニコッ
そして私は、この想いを貴女に…… ルビィ「バイバイ、善子ちゃん」
善子「気をつけて帰りなさいよー……さてと」
善子「これでようやく準備が整ったのね、あとは」
善子「私が気持ちを伝えるだけ……」スッ
善子(……家の大掃除のときに埋もれていたのを見つけた、この古い本)
善子(一体いつからあったのか、もうかなりボロボロで相当な年月が経っていることだけは間違いないけど)
善子(何故か儀式の部分と、呪文のページだけは苦も無く読めるくらいには綺麗な状態で保たれていた)
まるで強い念がそこに込められているかのように。 善子「……だからこそ」
善子(これは本物なんじゃないかと思った)
今までの、所詮遊びの範疇でしかなかったものとは違う……何か。
善子(もしかしたら、リスクを伴う危険なものかもしれない…でも)
善子「私は一歩先へ進みたいの、今まで通りの関係じゃない…その先へ」
そうだ、これは願掛けなんかじゃない
私自身が前に踏み出すための、覚悟を示すもの。
善子「私は本気よ……だからお願い、力を貸して」ギュゥ
善子「少しだけでいい、私に…想いを伝える勇気を」
……
… ─それからさらにひと月経って
遂にその日がやって来た。
ストロベリームーン、月が赤く染まる日。
胸の高鳴りを抑えられないまま家を飛び出した私は、愛しのあの子を迎えに行って
二人で一緒に手を繋ぎながら、ゆっくり、でも急かすようにあの丘へと向かった。
その時の気分はまるで、ガラスの靴を与えられたシンデレラのような。
時間の針を背に景色が巡り巡っていく、二人だけの世界。
そう───思っていた。 結論から言うと、想いを伝えることは出来た。
勇気を振り絞って、震える身体を必死におさえながら、彼女に向けていた感情を一つ一つ
力強く、丁寧に。
彼女はそれを静かに聞いてくれていた、私から目を離さずにずっと。
だから私もそれに応えるように、真っ直ぐに向き合って最後まで吐き出し続けた。
言い切った後にはもう息も途切れ途切れで、顔も熱いし、汗だって酷かったけど
優しく微笑むあの子の顔を見たら、なんだかとても安心したの
ああ、よかった。
私はちゃんと気持ちを、伝えられたんだって。 けど
その先が続くことはなかった
告白は
失敗したんだ。 私の想いは彼女に届くことはなく、この日のために積み上げてきた恋心は
夜風と共に攫われ、散り散りになって、そのまま
何もかもが空っぽになった私はただ呆然と、そこに立ち尽くしていて
とめどなく溢れる涙を拭うことすら出来なかった 私はその衝撃を忘れもしないだろう
そう、あの日──空に浮かぶ満月が、紅く染まったあの瞬間
彼女は、黒澤ルビィは私の前から姿を消した。 中国ウイグル族強制収容施設は180か所超存在
催涙ガスにスタンガンと手錠で拷問
「つながりを断て、出自を絶て」 を実践
21世紀のヒトラーこと習近平は 人類の敵です ─翌日
バタン
花丸「……」
曜「どうだった?」ハイ
花丸「誰にも会いたくないって」アリガトウ
曜「…そっか」ズズッ 梨子「赤夜失踪事件…新聞の見出しにはそう載っていたわね」スタスタ
曜「梨子ちゃん」
梨子「ごめんね、遅くなって」
梨子「善子ちゃんは…その様子じゃ駄目だったみたいね」
花丸「うん…」
曜「無理もないよ、私…よく相談に乗ってたから知ってたけど」
曜「よりにもよってあの日に、自分が想いを伝えようとした日に好きな人がいなくなったんだよ」
曜「しかも自分の目の前で」
曜「私が同じような立場でも…耐えられないと思う」 梨子「……そうね」
曜「あれ、そういえば千歌ちゃんは?」
梨子「今ダイヤさんに連絡してる」
曜「……止めなくてよかったの?」
梨子「こうして大々的に一つの事件として扱われている以上、知ってしまうのも時間の問題よ」
曜「そうかもしれないけど……」 花丸「……教えておいたほうがいいよ」
曜「花丸ちゃん?」
花丸「辛いかもしれないけど、何にも気付かないまま自分だけのうのうと過ごしていた…なんて知ったら」
花丸「きっと後悔すると思うから」
梨子「……千歌ちゃんも似たようなことを言っていたわ」
梨子「曜ちゃんごめんなさい、さっきのは言い訳だったの…本当は」
梨子「止められなかっただけ」
曜「梨子ちゃん……」
「…………」 曜「ねえ、これからどうする?」
花丸「マルはここにいるよ」
花丸「善子ちゃんのことが心配だから」
「そういうことなら中に入っていきなさい」
梨子「あっ」
善子母「いつまでもそんなところにいると風邪引いちゃうわ」
曜「いえ、でも」
善子母「それにずっと玄関前に居られても目立つから、ね?」
梨子「…お邪魔させていただきます」 ─
善子母「ごめんなさいね、粗末なものしかなくて」コトッ
曜「そんなっ、気にしないでください!」
曜「むしろ押しかけてるこっちが悪いといいますか…!」
善子母「いいのよ気にしなくて」
善子母「あの子のために、来てくれたんでしょ?」
曜「…………はい」 花丸「…でも、善子ちゃんは、会いたくないって言っていました」
善子母「部屋から出たの?」
花丸「はい、チャイムを鳴らしたら少しだけドアを開けて…マルと話をしてくれました」
善子母「…そう」
花丸「隙間越しにしか見れなかったけど、髪はボサボサで、目も真っ赤で」
花丸「酷い顔でした」
梨子「ちょっ、花丸ちゃんっ……」
善子母「でしょうね」フゥーッ 善子母「一応食事はとっているんだけどね、基本は部屋に籠りっぱなし」
善子母「でもそう…あなた達の呼びかけには答えてくれたのね」
梨子「……あの、お母さんは善子ちゃんのこと、どこまで」
善子母「全部知っているわ」
「!!」
曜「全部って…」
善子母「ルビィちゃんはよく家に遊びに来ていたし、善子の悩みも聞いていたからね」 善子母「だからあの子が、昨日深夜に家を出るって言っても止めなかったし」
善子母「ルビィちゃんの親族にも私から説得した」
梨子「…………」
善子母「その後大泣きしながら抱きつかれたときはどうしたのかと思ったけど」
善子母「あの子が自分の口から全部、説明してくれたわ」
曜「…………」
善子母「それからは疲れ切って昼まで就寝、後はあなた達も知ってる通りの有り様よ」
善子母「部屋から一歩も出ずにずーっと…パソコンの画面と向き合ってる」 花丸「……パソコン?」
善子母「それと新聞、さっきもね、夕刊を買うために出かけていたの」ガサッ
善子母「はいこれ」
花丸「…まさか善子ちゃん」
梨子「調べているんですか? 事件のこと…」
善子母「ええ、きっと……あそこまで懸命だと私も何も言えなくてね」
善子母「でも心配なのに変わりはないの、だから」
善子母「…曜ちゃん、梨子ちゃん、花丸ちゃん」
善子母「少しお願いしてもいいかしら?」 ─
善子「…………」バサッ…
[赤夜失踪事件]
[先日6月28日深夜にて同時間帯、各地域で複数の女性が行方不明になるという事件が……]
[現在も警察が付近を捜索しているが、未だに誰一人発見されておらず…]
善子「…………」カチッ
[意味分からん、目を離した間に見失ったってだけじゃないのか]
[各地域って言ってるからそれはないでしょ]
[神隠しの類か何か? 最近こういう都市伝説系の事件ってめっきり見なくなったけど]
[つーかこれ確実に未解決事件になるよね、まだどこも足どり掴めてないし] [そもそも原因が原因だからなあ……]
[あと↑の言ってることは間違いだからな、行方不明者は全員消えるところを誰かに見られてる]
[原因って月のことか? あれクソ怪しいもんな、連続じゃなくて一気に行方不明だし]
[しかも行方不明者が出てるの関東だけとか不気味すぎだわ、日本各地じゃなくて関東限定っていうのがほんと怖い]
善子「っ!?」カタカタ [それマジ? ソースどこよ]
[色んなところで拡散されてて話題になってるだろ、自分で調べろ]
[ニュースになった後にかなりの証言出てるぞ、こっちではそんな事件起きてないって]
[実際俺も彼女と外にいたけど何も起きなかったしな、ちな広島]
[隙あらば自分語り]
[ちょっと待て、関東だけじゃないぞ、確か中部のほうにも被害報告あったろ]
善子「………!」タンッ
[静岡は入ってたな] [あ、そうなの? でも九州東北あたりはマジで知らないらしいな]
[今のところ確定してるのは?]
[さっき上でも出てたけど静岡、東京、神奈川、長野、群馬あとは知らん]
[ちょうど日本の真ん中あたりか……何かありそうだな]
[こんなん陰謀論不可避ですわ]
[何でもいいから早く解決してほしい、俺が推してたスクールアイドルのメンバーも巻き込まれたっぽいし]
善子「……え…」 [は? スクドルもやられてんのかよ…]
[まだ断定は出来ないけど、今日発表予定だった新曲の情報も来てないし]
[グループ全員ツイートしてないからな、もちろん返事も無し]
[昨日月を見に行きますって呟いてからそれっきりだ]
[うわあ…もう黒じゃんそれ]
善子「……調べなくちゃ」カタカタカタ
[公式垢貼ってくれ、気になる] [ほら、凸はするなよ]
https:☆//twitter★○○××△△ーー
善子「……よし」
コンコン
善子「! ……ママ?」
花丸「ううん、違うよ」
善子「…まだ帰ってなかったのね」 善子「会いたくないって言ったでしょ」
花丸「放っておけないから」
善子「……いいから帰ってよ」
花丸「そこまで言うなら出ていってもいいけど」
花丸「夕刊、欲しくないの?」
善子「! あんたなんでっ」
花丸「どうする? このままじゃ渡せないよ」 善子「っ…」ガチャ
花丸「二人とも、今ずら」
バアンッ!
善子「!? な…」
梨子「曜ちゃん勢いつけすぎ、ドア壊れちゃう」ガシッ
曜「ごめん、力入れすぎた」タハハ
善子「あなた達ねえ、どういうつもりよ…!」
梨子「貴女のお母さんから清潔にしてくれって頼まれたのよ」
善子「はあ!?」 曜「そういうことだから、はいお風呂場に直行ー」ズルズル
善子「離しなさいって! こんなことしてる場合じゃ」
梨子「いいから入りなさい、はいバンザイして」
善子「勝手に脱がすな!」
ギャーギャー
花丸「あれなら多分大丈夫だと思います」
善子母「ありがとう、これで多少はマシになるわね」
善子母「さてと、私は夕飯の準備をしなくちゃね……食べていくでしょ?」
花丸「じゃあお言葉に甘えて」 ─
曜「ただいま終わりました!」ケイレイッ
梨子「ちゃんと隅から隅までしっかり綺麗に洗いましたから」ニコッ
善子母「あらほんと、良かったわね善子」
善子「…………よかないわよ」ムスッ
善子母「でも少しはさっぱりしたんじゃない?」
善子母「身なりが汚いと心のほうまで沈んじゃうものよ」
善子「……別に」 善子母「そう、まあいいわご飯出来てるわよ座って」トントン
善子母「二人も食べていって」
曜・梨子「ありがとうございます」
善子「…………」
善子母「はい善子」
善子「……うん」 善子「ご馳走様」パンッ
善子母「はいお粗末様、ちゃんと残さず食べたわね」
善子「当たり前でしょ、じゃあ私部屋に戻るから」ガタ
善子母「それは駄目よ、あそこは今から私が掃除するから」
善子「は?」
善子母「空気の入れ替えとごみをまとめるだけよ、余計なものには手を出さないわ」
善子母「そんなに手間はかけないから安心しなさい」スタスタ 善子「勝手なことばかり…」
花丸「そうかな」
善子「なによ」
花丸「善子ちゃんに比べたらそれほどでもないと思うけど」
花丸「勝手に学校休んで部屋にこもってお母さんやマルたちを心配させてさ」
善子「…………」
花丸「…相談してよ」
花丸「ルビィちゃんのこと、マルたちが気にしてないとでも思っているの…?」
善子「…………ごめん、なさい」 梨子「花丸ちゃん、それくらいにしておきましょう」
花丸「……ん」
梨子「はい善子ちゃん、これ今日の夕刊ね」
善子「…ありがと」
曜「ねえ、何か分かったこととかある?」ズイッ
善子「…この事件、一部の地域でしか起きていないみたい」バサッ
善子「具体的に言うと私たちが住んでいる中部、関東あたり……それと」
善子「消えているのは学生ってことね、ほら」 曜「なになに──[標的は学生? 相次ぐ失踪者に迫る]……か」
善子「話によるとスクールアイドルも巻き込まれたって噂があるわ」
梨子「え!?」
花丸「それって本当に」
善子「可能性は高いわ」
善子母「善子ー、もういいわよ」
善子「丁度いいタイミングね、ちょっと来て」 善子「さっきSNS上のやり取りで偶然見かけてね」
善子「これがそのスクールアイドルの公式アカウントよ」カチカチッ
善子「貴女たちが来る前、私も調べようと思っていたの」
梨子「……確かに昨日の日付から更新が止まっているわね」
曜「うん、少し遡っても頻繁に更新してたことが分かるし、いきなり止まるのは不自然かも」
善子「ええ、だから彼女たちも恐らくってファンの人は言っていたわ…ただ気になるのは」
善子「どうして女性だけが被害に遭っているのかってところだけど」 梨子「けれど神隠しって大体子供か女の人が攫われてるものじゃない?」
善子「そうかもしれないけど、どこか引っかかるのよ」
善子「何か、見落としているような…」
花丸「見落としって言っても…」ウーン
曜「……お迎え、とかだったりして」
善子「え? どういうこと曜さん」
曜「ああでも、やっぱりそんなわけないよね」
曜「流石に妄想が過ぎる気もするし……」
梨子「妄想って、何を思い浮かべたの曜ちゃん」
善子「何でもいいから話してくれないかしら? もしかすると手掛かりになるかもしれないし」 曜「えっと、笑わないで聞いてよ?」
曜「昔話にかぐや姫ってあるでしょ? なんかそれに似てるなあって思ったんだよね」
花丸「かぐや姫、竹取物語のことだね」
善子「この際名称はどっちでもいいわ、それで?」
曜「うん、かぐや姫の後半に月から使者が迎えに来る場面があるよね」
曜「今回の事件について考えてたらそれを思い出しちゃって」
善子(迎えに来る……か)
梨子「確かに赤かったとはいえ事件が起きた日も満月だったわね」 梨子「でもよく思いついたね曜ちゃん」
曜「いやそんなに大したことじゃないよ、昔千歌ちゃんたちとよく読んでたから」
曜「頭の中に染みついてたってだけだし」
梨子「そうなの?」
花丸「竹取物語では終盤で出てくる不老不死の薬を焼いた山のことを」
花丸「不死の山、不死山と呼んで綴られているずら、つまりこれが富士山の名前の由来とされているの」※
花丸「そしてその富士に近い静岡県民からすれば、竹取物語はほかの昔話よりもずっと有名だったりするんだよ」
梨子「へえー…なるほどね」
※名前の由来は諸説あります 曜「まあそれは一旦置いといて、どうかな善子ちゃん」
曜「何か参考になったりとか」
善子「そうね、確かに状況が似てるし…そのかぐや姫を学生に置き換えるとしっくりくるところもあるわ」
─でも、多分たまたま似通っただけで、直接的な関係はないだろうけど
善子(…………え? 何……)
善子(今…どうしてそう思ったの私は……?)
花丸「善子ちゃん?」
善子「…ううん、何でもないわ」 善子「となると、迎えに来る側も存在するってことになるわね」
善子「で、それに当て嵌まるのがここでいうところの神隠しで、攫う方」
善子「図式としては大体そんな感じで納まりがきくと思うわ」
曜「えーっとつまり…」
善子「つまりこの推測で話を進めるなら、この赤夜失踪事件は偶然ではなくて」
善子「何者かによって“意図的に”行われたものになる」
梨子「分かっててやったってこと? 偶然その日に攫われたんじゃなくて」
曜「誰かが敢えてその日を狙ってやった……?」 花丸「でもそんな突拍子もない…」
善子「ええ、これはあくまで私たちの中で出た推論…想像の範囲内でしかないわ」
善子「曜さんの言った通り、今の時点ではただの妄想ね」
善子「だからそれが正しいか間違っているか知るためにも、もっと情報が……!」クラッ
花丸「善子ちゃん!」ダキ
善子(やば……目が重くなって…)
梨子「…今日はここまでね、続きはまた明日にしましょう」ガタ
曜「だね、花丸ちゃんはそのままベッドまで運んで」
花丸「う、うん」 善子「ちょっと待…」
梨子「駄目よ、大人しく寝なさい」
梨子「善子ちゃん、疲れを取らないと頭だって回らないわよ」
曜「そういうこと、大丈夫、私たちも色々調べてみるから」
善子「……分かったわよ」
曜「うん、じゃあまた明日ね」バタン 花丸「よいしょっと…ここでいい?」
善子「うん」
花丸「じゃあマルもそろそろ帰るね」
善子「……花丸」
花丸「なに?」
善子「…今日はありがと」
花丸「どういたしまして」クスッ
花丸「またね、善子ちゃん」 バタン
善子「……はあ」ゴロン
善子(突拍子もない、か……でも)
善子(何でかそうは思えないのよね)
善子(どうしてそんなことが言えるのか、私にも、分からない…けど……)
善子「……あ、だめだ……ねむ…」ウトウト 安心なのか疲れなのか、はたまたその両方か
布団の中に入るととてつもない眠気に襲われて、私は促されるまま瞼を閉じた。
そのときふと横目で見た月の光が、私を誘っているようにも見えて
何故か私はそれを、とても懐かしく感じたの。 ─翌日
善子「……んぅ……眩し」モゾッ
善子「……朝……昼……どっち」ゴソゴソ
善子「……11時35分……か」
善子「休日でよかったわ……っと」
善子「顔洗ってこよ」フワァ 善子「……」
善子母「おはよう善子、その様子だとぐっすり眠れたみたいね」
千歌「こんちかー」テヲアゲ
善子「…最近は客人が多いわね、優良物件なのかしら」
千歌「いやそうでもないと思うよ」
善子「失礼ね、っていうか真面目に返さなくてもいいわよ」
千歌「あははごめんね、なんか顔見たら安心しちゃって」
善子「そう、悪かったわね心配かけて」 千歌「うん、本当に心配だったんだから」
善子「……」
千歌「まあそんなことよりも善子ちゃん」
善子「なに?」
千歌「今すぐ出かける準備してくれないかな? それまで待ってるから」 善子「出かけるって……どこに」
千歌「私の家、もうみんな集まってる」
善子「…何かあったのね?」
千歌「うん、例の事件に進展があった」
善子「!!」
千歌「詳しいことは部屋で話すよ」 ─
千歌「皆お待たせー連れてきたよー!」ガチャ
曜「お、やっと来た」
梨子「随分遅かったのね」
千歌「いやー善子ちゃんがなかなか目を覚まさなくってさー」アハハ
善子「悪かったわね、お寝坊さんで」
花丸「ううん、寧ろいいことだと思うよ」 梨子「さてと、全員そろったことだし早速話しましょうか」
善子「でも俄かには信じられないわね、ここに来る途中千歌さんに少し聞いたけど」
善子「行方不明者が見つかっただなんて…本当なの?」
曜「うん、まずはこれを見てよ」ピッ
善子「この映像は?」
曜「今朝放送されたニュース、録画してくれてたんだって」 [本日午前6時40分頃、山梨県南部町にて消息不明と思われていた五十嵐恵子さんを発見、無事保護されました]
[続きまして長野県茅野市……]
善子「!」
曜「昼になった今でも発見の報告は続いているって、次はこっち」
善子「……これ、昨日の」
曜「そう、善子ちゃんが見せてくれたスクールアイドルのアカウントだよ」
曜「このグループはメンバーの一人が巻き込まれていたみたい、でも今日見つかったそうで」
曜「そのことについて報告するために再浮上したって感じだね、見てよこの呟き」
曜「もの凄い勢いで拡散されてる」 善子「…今日の朝から見つかったの? 昨日は?」
梨子「夜中まで起きてたけど発見の報告は無かったわね」
梨子「でも一つ分かったことが」
善子「何?」
梨子「被害に遭った県について、善子ちゃんが聞いた話だと合計5つだったみたいだけど」
梨子「実際の所まだあったみたい、昨日の夜の報道でそれが確定されたわ」
梨子「で、最終的に事件が起きた場所は」
梨子「長野、静岡、山梨、群馬、神奈川、埼玉、東京、愛知、この8つ」 善子「……」
千歌「このうち群馬と埼玉、あと東京は行方不明者がほとんど見つかったみたい」
曜「その3つほどじゃないにしても、静岡だって保護されてる人は出てきているし」
曜「この調子ならもしかするとすぐに終わるかもしれないよ」
梨子「ええ、昨日の夜の時点だと被害に遭った場所がひと塊になっていて他は無害って状態だったから」
梨子「その段階では善子ちゃんみたいな考えを持ってる人、国家陰謀論を提示する人」
梨子「タイムスリップ説、異世界転生説、宇宙人黒幕説なんかがネット上で飛び交っていたけど」
梨子「どれも全部杞憂で済みそうね」 善子「……ルビィは、見つかったの?」
千歌「それはまだ…だけど」
千歌「でもきっとすぐに見つかるよ! 大丈夫!」
善子「……」
善子「一つ、気になることがあるんだけど」
善子「その行方不明者たちって戻ってくるまでの間に何があったの?」
曜「え?」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています