理亞「冬の夜更けに?」聖良「はい。怪談話、です」
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聖良「……」カリカリ
聖良「……」カリカリ カリカリ
聖良「……」
カラン
聖良「……ふう。今日はこれくらいにしておきましょうか」
聖良「終わりがないのが勉強とはいえ……これだけ量をこなすのは流石に疲れますね」
聖良「まあ、今までスクールアイドルに専念していたツケと思えば」
聖良「たったこれだけで済んでいるのは有難いことでしょうか」 聖良(……最後の大会。私たちは決勝へ進むことすら出来なかった)
聖良(それが悔しくないと言えば嘘にはなりますけど……でも)
聖良(Aquorsの皆さんに――そして、理亞に後押しされて吹っ切れたというか)
聖良(それで一種の区切りが着いたのは確かです、ね)
聖良(特に理亞が、皆さんの助けがあったとはいえあそこまで自立、成長していたのは)
聖良(……喜ばしいことではありますけれど。同時に寂しくもあり、でしょうか)
聖良(ふふ、我ながららしくないことを考えるものですね) パタパタ... ガチャ
理亞「姉様」
聖良「? 理亞、まだ起きていたの」
聖良「スクールアイドルは身体が資本なんですから、夜更かしはよくないですよ」
理亞「ごめん、姉様。でも、何だか今日は寝付けなくて」
聖良「……ふぅ、仕方ないですね。では、理亞さえ良ければ少し話でもしませんか」
理亞「本当!? ……あ、でも姉様の、受験勉強の邪魔に」
聖良「今、区切りが着いた所ですから。気にしなくても大丈夫」
理亞「そう……良かった」パァァ
聖良(……この笑顔を見ていると、さっきの自問が馬鹿らしくなってきますね) 理亞「ねえ、姉様」
聖良「どうしました、理亞」
理亞「私、また姉様の怪談話が聞きたい」
聖良「怪談話……ですか」
理亞「うん。昔寝る前に色々と話してくれた、ああいう話が良い」
聖良「……でもあの時は、理亞が震えあがってしまって眠るどころじゃなかった気が」
理亞「……それは忘れて」 聖良「ふむ……しかし怪談話、ですか」
理亞「ダメ? 姉さま」
聖良「そういうわけではありませんが……あまり手持ちの話もありませんよ?」
聖良「あの頃から語れる話がそれほど増えているわけでもないですし」
聖良「まあ、気分転換程度にはなるでしょうけど……それでも良い、理亞?」
理亞「勿論! だって姉様の怪談話、好きだもの」
聖良「……そう言われてしまっては敵いませんね」
聖良「では、始めましょうか。久しぶりの怪談話を」 第一夜 『小さいおじさん』
……さて、最初は軽い話から行きましょうか。私の方も、昔の感じを取り戻したいですし。
理亞は『小さいおじさん』って知っている?
そう。よくテレビで芸能人の人たちが見た、っていっているのを聞きますよね。
大きさはまちまちですが、大体手のひらに乗るくらいで。
ある時はこちらに声をかけてきたり、またある時は犬や猫に追いかけられていたり。
目撃談も全国各地で、そうそう、海外でも見たという噂があるみたいですよ。
一説によると、ホビットや妖精に由来するものじゃあないか……なんて噂があるみたいですが。
まあ、真相は依然、闇の中でしょうね。 どうして今この話をしたか……ですか?
それはですね、ここ函館でも『小さなおじさん』の目撃情報があるんです。
とは言っても、世間一般の『小さなおじさん』とは大分存在がかけ離れているようでして。
小学生くらいの大きさで、現れてもこちらに何をするでもない。
ただ通りを一人で歩いているだけ……そんな「幽霊」なんだそうです。
……不思議ですよね?
それくらいの身長の人なら普通に生きていてもおかしくはない。
私もそこが気になって。「出る」と噂の場所を探して、試しに行ってみたんです。 言うでしょう? 百聞は一見に如かず、って。
何事も、自分の目で確認できることは確認しておきたいですからね。
目撃談を集めるのは、そう難しいことではありませんでした。
同級生や、近隣の学校のスクールアイドルの皆さんに何人か見た人がいたもので。
そういった情報から……どうやら出るのは、函館駅の近くらしい、と。
ええ。意外と人の往来の多い所に出るものだと思いました。
それもあって、半信半疑でその場所へと向かってみたんです。 ……遭えたかどうか、ですか?
はい。それはもう呆気なく。
あまりに簡単に遭遇できたものですから、少し気落ちしたくらいです。
やはり噂は噂でしかなくて、普通の人がその話の種として弄ばれただけなんだと。
そう思い、早々に踵を返そうとしたのですが……ふと、あることが気になったんです。
『ズルリ。 コキ。』
遠くからこちらに近付いてくる彼に合わせて、音が鳴っていることに。 それが彼の足音だと気付くのには、そう時間はかかりませんでした。
『ズルリ、ゴキキ。』
彼の動きに合わせるかのように、音は聞こえてきましたからね。
いえ、しかし。何かを引き摺っているような、あるいは杖でもついているような。
そんな音が、果たして普通に歩いていて起こるでしょうか。
『ズルリ、コキ。 ズルリ、ゴキキ。』
そんな疑問もまた、彼とすれ違う時には氷解したのです。 ……彼の足元。
そこにあるべき足がなかった。
いえ、これだと少々語弊がありますね。
正確に言うなら、彼の膝から下が無かったのです。
背が小さく見えていたのも、きっとそのせいでしょう。
……どうして、そんな状態になっているのか、ですか?
それは私にも分かりません。
事故にしろ事件にしろ、「足を喪った男性が死亡」……なんて話はとんと聞きませんし。
手掛かりがない以上、私には断定しようがありませんから。 ……あるいは。
もしかしたら、彼は……てけてけが変じた姿なのかもしれませんね。
ほら、だって話の大枠は似ているじゃないですか?
『人の多いところに出る』『足を欠損した』『北海道特有の怪異』
これだけ類似点があるのですから、話が習合してしまったとしてもおかしくはありません。
……元は彼は、ただの塵芥に過ぎない、そんな霊の一体だった。
そこに、てけてけの話と要素が足された結果。
今も彼は、砕けた膝を引き摺り続けているのでしょう。
……なまじ強い『てけてけ』の知名度に引っ張られて、消えることすら許されずに。 ……これでこの話は終わり、です。
どうですか? 昔の調子は取り戻せていたでしょうか?
第一夜 『小さいおじさん』 終 第二話 『足跡』
さて、今日の話は……そうですね、怪談、怪談と。
それでは、こんな話にしましょう。
函館に住んでいる以上、雪というのはどうしても生活に関わってきます。
雪かきや雪下ろしを怠れば、住宅や屋根は潰される。
吹雪くことは勿論ありますし、副次的な路面の凍結だって洒落にならない。
しかし、雪が危険で、厄介なだけの存在かと言われれば、必ずしもそうではありません。
雪像やかまくら、それに幻想的な雪の結晶。色々な形で、見る人を楽しませてくれます。
……もちろん、理亞は言うまでもなく、分かっていますよね。 かくいう私も、一面に雪の積もった光景を見ると少し心が弾みます。
誰も足を踏み入れていない、ひたすらに真っ白な大地。
そこを踏みしめ、自分の足跡だけが残っていく……その瞬間が好きなんです。
……おっと、話が逸れましたか。
今から話すのは、そんな風に新雪の積もった、ある冬の朝の話です。 もう三、四年前になりますか。理亞が風邪をひいた日に、雪が積もったことがあったでしょう。
その次の日、熱も引かないのにランニングに理亞がついて来ようとして。
そうそう、あの時は不思議とぐずって最後は半泣きにまで……ふふ、ごめんなさい。
ともかく、そうして一人でランニングをすることになった日がありました。
冷たく澄んだ空気に、朝日に反射してきらきらと輝く氷の粒。
そして何より、早朝まで降っていたのか轍すらない雪の道。
普段通り……いえ、普段以上に張り切っていたのを覚えています。 コンクリートに比べれば些か走り辛いけれど、雪の上は慣れたものですし。
先程も言いましたが、新雪に足を踏み入れるのは気持ちが良い。
そうしてしばらく走っていましたが……丁度折り返して家に戻ろうと思った頃でしょうか。
道路の上に一人分の足跡があることに目が行きました。
どうも気が付きませんでしたが、私より先に雪の上を歩いていた子供がいたようで。
……ええ、足跡がとても小さなものでしたから。
それで、小さい子が朝早くから散歩でもしていたのだと思ったんですよ。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています