0782現場の名無し(SB-iPhone) (ササクッテロリ Sp85-amve)
2022/03/22(火) 19:36:12.88ID:P/ojkscDp「大丈夫です。電車使いますし、駅降りてから家まで近いですから。」
「けんちゃんが言うならいいけど。気をつけて、またいらっしゃいね。」
「はい、お邪魔しました。」
今日訪ねていた家での最後の会話を思い出したKENの心は、申し訳ない気持ちで一杯だった。
「やっぱ傘借りときゃ良かったかなぁ…」
ふと言葉が漏れた。KENは、漏らした言葉が思ってもいないことであると理解していた。返すことの出来ない傘を借りるわけにはいかないのだから。
「でもなあ…」
独り言を言わずにはいられなかった。なにか話していないと、感情が溢れてしまいそうだった。
幸いなことに、周りには誰もいない。今日の天気が雪であることにKENは深く感謝した。
「ウメブラ28、覚えてるか?懐かしいよなあ。篝火で勝った時は俺本当に嬉しかったんだぞ。」
「俺はもう一度お前と…」
今日どうしても伝えられなかった、一番伝えたかった思いを言い切ろうとしたその時、KENの頬を、大粒の涙がつたった。
「あ、雨。」
誤魔化そうとして、また言葉が漏れた。実際に雪が雨に変わっていることに気づくのは、少し後のことだった。
KENは走って家に向かおうとした。走ってる間は辛いことを考えなくていいと思ったからだ。だが、そう上手くはいかなかった。
家に着いたKENは急いで体を拭き、震えた手でパソコンを立ち上げると、いつものように一番の親友にメッセージを送ろうと文章を打ち始めた。
「途中で雨に変わったからびしょ濡れwやっぱ傘」
ガタン
突如、暗闇がKENを包み込んだ。
アイツとはもう会えない。断定はずっと避けてきたのに、もう認めざるを得ないんだろうとKENは思った。
停電はすぐに収まったが、何かが視界を覆い尽くしていて、しばらく何も見えなかった。
パソコンに中途半端に打ち込まれた文章は、送信されることも、消されることもなく、永遠にそこに留まり続けていた。