18歳のときから芸能界で活動し続け、29歳で引退した元アイドリング!!!リーダーの遠藤舞さん。引退後、転職したのはとあるアパレル企業。
遠藤さんがそこで「自分の無力さ」を痛感した理由とは?

私が18歳からずっと同じ芸能界という広いようで狭い世界にいて、長年お世話になった事務所を辞めてから、ふと(ボイストレーナーになりたいという願望こそあったが)これからどうしようと考えた時、未来へ繋がる自分の可能性の枝葉の少なさに驚いた。

絶望を少々孕んだ驚きを、思考を整理しながら噛み締めていくのは、とても苦い気持ちになった。
だって、十数年間必死に磨いてきたスキル【ダンス・歌・ルックス・バラエティ能力】はいってみればかなりニッチである。番組や握手会で鍛えた瞬発力は何かに役立ちそうだが、あとは度胸とかやりきる力とか、精神論的なものしか身についていない。本当に潰しの効かないことをやってきたんだなぁと、しばし打ちひしがれた。

「中途半端な売れ具合」ほどきつい
この売れ具合っていうのもミソで、全くもって芽が出なければ早々に諦めて別の道に方向転換することもできる。逆に誰もが知ってる顔になれるまで売れれば、芸能界の第一線から退いたとしてもその知名度や人脈を使って二次的なビジネスもやりやすいであろう(頭は使わなくてはならないが)。
しかしこれが中途半端な売れ具合だと、辞めどきもわからずズルズル、けれども辞めた後にもうまく経歴を活かせるほどの知名度もない。私はどちらかといえばこの「中途半端な売れ具合」に片足突っ込んだくらいの人種だったのではないかと思う。

芸能界引退後、たまたま知り合いの経営するアパレル会社に正社員として誘われた。そんなに多い額ではなかったのだが、毎月のお給料が保証されるのがなんともありがたかったので、即決だった。
しかも、いわゆる「指示待ち」ができるという甘えた考えもあった。もちろんお給料分の仕事はするつもりだが、社長や他の社員など自分より上の立場の人から「これやっといて」「あれやっといて」と言われたことをやれば働いているという実感が得られ、社会の歯車になることができている!と自己肯定できるのではないかと考えたのだ。
しかし実際に入社したら、現実はそう甘くはなかった。入社前は「経理の仕事の手伝いを」と言われていたのでそのつもりでいたが、手伝うほど経理の仕事が余っていなかったからか、経理のことについて聞いたところで何も教えてもらえなかった。
出社して私がやることといえば、朝の掃除をすること。以上!なのである。流石に掃除以外何もしないのにお給料をいただくのは居心地が悪すぎるので、社長に相談したら、新規の事業を考えて欲しいと言われた。え!? 会社員になって1週間の私がどうやって新規事業を!?と深夜アニメのタイトルのような状況に陥った。
やはり、なんでもやっていいよと言われるのが一番困る。結果、1年で会社を辞めてしまった。全く知らないジャンルでクリエイティビティを発揮しまくるほど私のポテンシャルは高くなかったということだ。

「自分の無力さ」を噛みしめた1年間
実はこの1年間は自分の人生の中でも辛かった期間上位にくる。自分の無力さをただ噛み締めているだけだったからだ。
めちゃくちゃ暇なのに忙しいふりをするスキルだけが身についた。

井の中の蛙が大海に放り出され、自分の無知や能力の無さを痛いほど自覚したあとで、恐怖を感じるのはむしろ選択肢が広すぎると感じる場合なのではないだろうか。