『夏の日の歌』

小麦色に灼けた肌を気に入ってはいないらしい。
頻りに乳白色の日焼け止めを腕に擦り付けるものの、容赦ない光線がじりじりと表面を刺し、流れ出る汗によって数分間でその効き目は無効化される。
機械的に庭から軒下を往復して、人間的な気だるさを漂わせながら雑草を毟る光景が、かれこれ二時間も続いていた。
「あー、だるい」と愚痴をこぼしながらも作業効率は全く落とさず、軍手を付けた両手で根っこからスルスルと雑草を抜いている。
庭にそびえ立つ向日葵は焦げてなお図太く太陽を向き続け、長い長い夏の一日を完全燃焼せんとばかりに照らされ続けていた。

「どう?高校生はもう慣れた?」
束の間の昼休憩、塩むすびを持つ指先が綺麗に揃っているのに心を奪われていたことと、彼女が頬張りながら喋っているのとで、その言葉を聞き逃した。
はっと気がついたように彼女の茶色い目を見ると、沈黙が生まれる。
「えっ、もしかしていじめられてるとかじゃないよね」
「ごめん久美ちゃんなに?今、聞いてなかった」
「何だ心配させないでよ。まあ何かあったら遠慮なく相談しなよ」

法事のために年一度、遠い親戚に当たる佐々木家とは顔を合わせていて、久美ちゃんとはもう十年以上の付き合いになる。
彼女のほうが二歳上なだけで、お互いに一人っ子だったから、集まった際には幼い頃からよく一緒に遊んだ。
今でも大凡そんな感覚で彼女とは接していて、その時間だけは少年時代にタイムスリップしたように童心へ帰ることができた。

「よし今年はこれくらいにしよう。もうこんな時間だし」
気付けば影が少しずつ伸び始め、雑草の束はきっちり昼休憩のときから倍に増えている。
久美ちゃんは軍手を外して水道で手を洗っている。
「久美ちゃんって本当にしっかりしてるよね」
タオルを渡してあげるついでに、そう言ってみる。
「どうした急に」
久美ちゃんは笑った。
「あ、わかった。そんなこと言って、お小遣いでも欲しいんでしょ」

他愛もない会話をする。
子供のように泥だらけのまま、親戚の待つ家へ帰る。
そんな無邪気なことが、果たしてあと何年できるのだろうか。

太陽について行く向日葵の如く、久美ちゃんの背中を追いかけた。
夏の真昼の暑い時。