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そこで、宇都宮健児氏にこの「結果」をお伝えしたところ、憤りをあらわにした。

「非常にけしからんことですよね。要望書の提出は代表して僕が行いましたが、背後にはあの当時で35万人の声があるわけですから。これは明らかに都民、国民の民意を軽視しているということだと思います。

アメリカでは、政府宛ての要望書が一定数超えたら必ず回答しなければいけないとか、要望の多い順に政府の広報やHPに掲載しなければいけないことになっています。同じことはソウル市でもやっています」

日本では、署名に対する法律や条例などないのだろうかと尋ねると、宇都宮氏は言う。

「請願署名や陳情であれば、議会に提出され、採択するかどうか諮られますが、これはオンライン署名で請願というかたちではありません。

しかし、何故オンライン署名にしたかというと、請願は一定の形式を踏まえる必要があり、今それをするには、街頭に出て接触を増やし、むしろ感染を拡大させるリスクがあるという矛盾した行為になるからです。

ただ、陳情とか請願という形式ではなくとも、数十万の人の声を代表しているのですから、きちんと検討するべきですよね。

今回、このように完全に署名を踏まえての要望書を無視した理由の一つは、おそらくきちんと検討を行ったら、専門家の意見を踏まえる必要が出てきて、世論も多くが反対している状態で、中止せざるを得なくなるからでしょう。

それに、法律的には『国民主権』で、官僚や政治家は本来、国民に対する奉仕者なんです。にもかかわらず、日本にはなぜか官尊民卑的な考えが昔からあって、この署名無視もまた『下々のものが何を言っているんだ?』といった考え方のあらわれではないかと思います」

「Change.org」の発表によると、開始3日目で20.6万筆を超えたこの署名は、史上最速のペースだったという。

「英語とフランス語、ドイツ語でも発信しており、海外のメディアの方が先に報道したり取材したりしてくれたんですよ。

現在までに41社の取材がありましたが、その3分の2が、イギリスやアメリカ、ドイツ、フランス、ノルウェー、スウェーデン、香港、シンガポール、韓国など、海外メディアです。

BBCではトップニュースとして扱われたと聞いています。ところが、日本はいわゆる五大紙(読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、日本経済新聞、産経新聞)がスポンサーをやっているから、五輪開催反対をなかなか報じない。

IOCバッハ会長やコーツ副会長が上から目線で日本人の国民感情を踏みにじるような発言を連発しても、菅首相は抗議もしない。そうした状況で、IOCって何なのかという感情が今、日本中に広がっていますよね」

「女性はいくらでもウソをつける」という杉田水脈氏のジェンダー差別発言に対する抗議署名が13万筆となった際にも、自民党は受け取りを拒否した一件は、記憶に新しい。

政府も都政も「民意を無視する」という体質が今の日本のスタンダードになってきてしまっているのだろうか。
(続く)