「ワンダー・オブ・U」を操る透龍と定助たちのスタンドバトルは、一見地味に見えるが、『ジョジョ』の歴史の中でも屈指の名勝負となっていた。「ワンダー・オブ・U」は「追いかけると厄災がぶつかってくる」ため、どんな攻撃も通じない。だからこそ定助は、逆に敵が向かってくるように仕向けたのだが、この戦いが漫画として凄いのは、狭い部屋の中で定助と明負が対峙する場面だけで、かなりの話数を費やしていることだ。

 もちろん、康穂が「ワンダー・オブ・U」に襲われる様子も同時に描かれており、上空を飛ぶ飛行機のスライドパネルが外れて災厄として落下してくるというド派手な見せ場もある。だが、メインとなる定助と明負の戦いは、密室での会話劇が中心でキャラクターの動きも多くない。そんな地味な戦いでありながら、凄まじい緊張感が成立していることに、何度読んでも驚かされる。

 もちろんこの緊張感は荒木飛呂彦の圧倒的な画力によって成立しているのだが、そもそも、スタンドバトル自体が汎用性の高い表現なのだろう。広い空間を舞台にした壮大なスケールの戦いはもちろんのこと、刑務所を舞台にした第6部のような密室劇としても成立するのがスタンドバトルの面白さだ。

 『ジョジョ』以降、異能力バトルを描いた漫画は多数登場したが、今回のような緊迫した戦いを見せられると「本家が一番ぶっ飛んでいる」と改めて実感する。また、戦いの決め手となったのが第7部「スティール・ボール・ラン」に登場した“回転”の力だったことにも驚かされた。物語自体は前作と繋がっていて伏線も張られていたため、必然と言えば必然なのだが、「ここで繋げるのか」という予想外の展開だった。

 一方、定助たちが戦う岩人間たちの正体も少しずつ明らかになってきている。物語の節々で岩人間の情報が生態図鑑のように挟み込まれるのだが、その姿は第2部に登場したカーズたち「柱の男」と呼ばれた種族を彷彿とさせる。第3部以降、『ジョジョ』=スタンドというイメージが定着して久しいが、個人的には第2部の世界観が一番好きだったので、岩人間の登場は嬉しい。過去作の要素が多数盛り込まれた『ジョジョリオン』だが、最終的に全ての『ジョジョ』を一つにまとめてくれるのではないかと期待している。