◆二日目を終え、一堂寧々は宿舎で一息ついていた。的林はまだ帰っていない。どこに行ったのだろう。
ともあれ、彼女のいびきと歯ぎしりで眠れなかった日々からようやく解放される。
服は脱ぎ散らし、浴室は毛だらけ、洗面所は濡れっ放し。トイレの紙がなくなっても取り替えず。 そのくせ朝の化粧の時間は人一倍だ。マスカラを重ね塗りし、まるで別人になる。
的林が嬉々として喋るボトックス注射の話など、大切な試合を控えた寧々には興味のないことだ。化粧どころか陰毛1本剃ったことがないのだから。
昼も夜もこそこそとネット掲示板に何かを書き込んでいるようだった。
「デリカシーのなか女たい。」思わず寧々は口にしてしまった。
寒河江が自分を見つめている。長い睫毛が濡れていた。その瞳に寧々は吸い込まれそうになる。
そう、今夜は的林の代わりにこの人が隣にいる。
ナイトガウンから覗く抜けるように白い素足には薄紅色が差していた。
寧々の身体も熱を帯びている。胸は高鳴るばかり。
壇之浦の波の響きが無言の二人を静かに包み込んだ。