エルネスト・メックリンガーというその青年士官は、軍人とし
てヴェストパーレ男爵夫人に愛されたのではなく、芸術家とし
て遇されたのだった。彼は彼女の七人の愛人とちがい、自分で
自分を養うことが充分にできただけでなく、芸術家としてもすでに名声かそれにちかいものをえていた。散文詩人であり、水
彩画家であり、ピアニストでもあって、それが逆に、無名好み
の男爵夫人に一線をもうけさせることになっているようだっ
た。男爵夫人としては、彼女の精神的物質的な助力を必要とす
る男性にのみ、強烈な保護欲をそそられるようであった。
「……そうでしょうか」
キルヒアイスの声は、不審にみちている。だとしたらなぜ、パ
トローネ志向の男爵夫人が彼に食指をうごかすのだろう。
ラインハルトは小さく声をたてて笑った。
「菜食主義者でも、肉を食べたくなることがあるだろう。メッ
クリンガーは、いわば豪華なサラダみたいなもので、かえって
食欲がおきないのではないかな」
「女性心理に、ラインハルトさまがそれほどお精しいとは知り
ませんでした。」