由結&美波&杏奈 (p・ω・。q)゚超絶Fantastic+.★*

Q. スローテンポでなければ情緒は生まれにくいとあなたは言っているが、ルールに縛られているのでは?

鈍行列車の旅には味わいがあり情緒がある。
それは、世の中の法則として存在している。
多くの人が鈍行列車の旅にそれを感じている。

砂糖が甘く唐辛子が辛い事は教科書に書いてなくても誰でも知っている。
そして、砂糖が甘い事を覆すことは出来ないし、唐辛子が辛い事を覆すことは出来ない。
料理をするならば砂糖の甘さ、唐辛子の辛さを理解した上で それらを活用して行かなければいけないんだ。
神が定めた法というものが この宇宙にはある。
それらをねじ曲げる事は出来ない。
それらとどう付き合っていくか、どう活用していくかが大事なんだ。

例えば…僕の漫画は描き込み量がすごい。
毎ページ、毎コマ、背景をびっしり描いていく事になる。
それは画面がうるさくなるし、濃い味付けになる事から胃もたれが起こりやすい状況になる。
ONE PIECEなどでは その画面密度から、そういう症状を起こす人をチラホラ見かける。
「描き込み過ぎでごちゃごちゃしてる」とか「見ていて疲れる」とかね。
それは画面の豪華さの弊害なんだ。
そして、これも世の法則のひとつであり“濃いものは胃もたれする”とか
“ごちゃごちゃしてるのは疲れる”とかっていう法則が発動してるだけなんだ。

でも、ONE PIECEは大ヒットしている。
それは“派手なものは一般受けする”とか“豪華なものはボリュームを生む”とか“賑やかなものには人が集まる”とか
そうした世の法則を活用しているからなんだ。

僕はONE PIECEを『東京』のようなものだと論じた事がある。
東京は人が多く建物も多くごちゃごちゃしている。
ある人々には東京はしんどくて疲れる街として映るが、そのごちゃごちゃしてうるさい東京には活気があるんだ。
その活気に魅力を感じる人はかなりの数、存在する。

では、人気をとるためにはごちゃごちゃしてなければならないのか?活気を生むにはごちゃごちゃしてなければいけないのか?
そういうわけではない。
活気のために豪華さは必要であるけれど、ごちゃごちゃは必要ない。
僕の場合は、描線を細めに設定する事で描き込み量を増やすやり方を採用している。

ONE PIECEより描線が細いので、仮にONE PIECEと同じくらいの密度で描き込みしても ごちゃごちゃが抑えられるんだ。
世の中の法則をねじ曲げる事は出来なくても、世の中の法則に別の法則をぶつける事で
マイナスな側面を軽減したり補う事が出来る。
僕にとっての創造というのは、世の中の法則を複数絡ませて最大効果・最大効率を追求するという事なんだ。

スローテンポでなければ情緒は生まれにくい。
これは世の中の法則だ。
でも、別の世の中の法則を加える事で変えていけるものもある。
いずれにしても大切なのは、世の中の法則を知るという事である。
創造というのは“複数の世の中の法則の混合”だからね。
ただ、別の世の中の法則をぶつけて、とある印象を変える事が出来たとしても
スローテンポが情緒を生み、アップテンポが情緒を消す、その基本的なルールは変わらない。