半袖が少し肌寒く感じ始めた10月、私は今、愛子と同棲してる。
同棲と言うにはあまりにもお粗末な生活だが、同じ屋根の下、確かに私たちは生きている。

毎週月曜朝に東京でのレギュラー番組が決まってから毎日が考える暇も無く襲いかかってきた。
三河と東京、授業とレッスン、トーク委員長とおはガール、気がつくと自分が今何をしているのか分からなくなる。

きっかけは愛子の皮肉めいた冗談だった。
生徒会メンバーでのミーティング中、睡魔に勝てずにウトウトと船を漕ぎ出した私に愛子は言った。
「寝坊助のめぐはもう東京に住んだ方が良いんじゃない」

でも私はその言葉の裏にある愛子の本音を知っている。
「じゃあ一緒に住んじゃおっか」
「冗談やめて」
「本気だよ、愛子と『愛』の同棲生活!なんちゃって!」
「ばか」
愛子は失笑した。


同棲生活唯一の不満が起床時の寂しさだ。
お互いの寝室が別々である事への猛抗議も気を遣いたくないと愛子に却下された。
私だって毎晩求めたりはしないのに。
ぼぼ意識の無いまま本能と根性でベットを抜け出し洗面所へと向かう。
愛子の部屋がのっそりと開く。

「起こしちゃった?」
「ううん、支度しなよ、ミルクティーでいい?」
「甘くして!」
「はいはい」

やはり成長期真っ只中の中学生に明け方の起床は辛い。
しかし今は無条件で愛子に甘えられる時間でもあるのだ。

「ねー愛子、髪結んで」
「緩くで良いんでしょ?」
「うん、スタイリストさんが困っちゃうから」
「その上着じゃもう寒いよ、カーディガン持っていきな」
「お母さんみたい」
「はぁ?」

中身の無い会話が名残惜しい
「そろそろ行かなきゃ」
「うん」

すごすごと出かける準備を済ませて靴を履く。

「いってらっしゃい」
素っ気なく愛子が言う。

「いってきます」
玄関先で私たちは静かにキスをする。




〜それでは聴いてください。MagicMelody〜