「プロジェクトX〜挑戦者たち〜  レクサスの挑戦。奇跡の利益率−高級ブランドっぽい車の誕生」

 トヨタから、もっと利益率の高い車を作れと迫られていた。 思案に暮れていたとき、社長は意外な事を言った。
 「部品品質の手を抜いてみたらどうだろう」 工場長は戸惑った。 高級車から品質の手を抜いたら高級車ではなくなってしまう。

 「無理です。出来ません」工場長は思わず叫んだ。 「俺たちがやらずに誰がやるんだ。俺たちの手で作り上げるんだ!」
 社長の熱い思いに、工場長は心を打たれた。商人の血が騒いだ。 「やらせてください!」

 それから、夜を徹しての偽装高級車作りが始まった。省ける部品は省きまくる毎日だった。
 しかし、本物の高級車の味は出せなかった。 工場長は、来る日も来る日もコストと戦った。

 いっそ、BMWに転職すれば、どんなに楽だろうと思ったこともあった。 追い詰められていた。
 そこへ社長が現れた。そしてこうつぶやいた。 「発想を変えるんだ。高級車は走りだけで高級なんじゃない」

 そうだ。内装だ。内装とか見た目だけ高級にする手があった。暗闇に光が射した気がした。
 工場長は試しにプラスチックに何だかよくわからない表皮を貼ってみた。
 高級車特有の手触りが蘇った。 「これだ、これが探してた俺たちの高級車なんだ!」

 内装だけの偽装高級車の誕生だった。
 社長と工場長と従業員は、工場の片隅で朝まで飲み明かした。 工場長は、充足感に包まれ、涙が止まらなかった。

 「社長、完成した車で日本海に叫びに行ってきてもいいですか」工場長は言った。
 「ああ、いいとも。だが制限速度は守れよ。中身はトヨタのままだからな」 社長は自分のジョークに、肩を揺らして笑った。