恋「どうして、私の前に姿を現したのですか?」

璃奈『あなたの元の世界に帰りたいっていう意思に、枕の管理プログラムが反応したから私が出てきている。私自身は、ガイドするただのAI』

璃奈『元の世界に、帰りたい?』

恋「はい。この世界は、確かに私が望んだ世界です。母が生きて……両親もサヤさんもチビも、みんなが家にいて」

恋「外に出ると嵐さんたちが待っていてくれて、皆で結ヶ丘に行くんです」

恋「何を悩むこともなく、私は私の思うままでいられるんだって、とても嬉しくて……」

恋「でも、それではいけないんです」

璃奈『どうして?』

恋「元の世界で、母は確かに亡くなりました。私は何度も母が生きていた頃の夢を見てきました」

恋「……その度に、目が覚めると胸が痛みました」

璃奈『この世界なら、ずっとお母さんがいる』

恋「はい。ですが私は、母の死を知っているんです。私がこの世界に甘んじてしまうと、初めてこの世界で目が覚めた時のように、母の死を思い出してずっと怯えていくことになる」

恋「胸の痛みは、母が私と一緒に生きてくれた証なんです。この痛みから逃げてしまうと、その証を否定してしまうことになります」

恋「だから、私は元の世界に帰らなければならないんです。母の生を否定しないためにも……これからの、私自身のためにも」