エマ「ただいま果林ちゃん」果林「おかえりエマ」
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――――――
部室
かすみ「おえぇ〜〜〜っ!?」
かすみ「エマ先輩、スイスに帰っちゃうんですかぁぁ!!?」
エマ「うん……そうなの」
エマ「みんな、ごめんね……」
エマ「わたし……スクールアイドルフェスティバルには出れない」
侑「そんな……」
——————それは“親友”からの突然の報告だった。 ――――――
果林の寮部屋
昨日の夜のこと。
エマから話があると言われ、彼女は私の部屋にやってきた。
いつも笑顔で、明るく私の部屋を訪ねてきてくれるエマ。
でも昨日はどことなく暗い表情で、なにか変だなと思っていた。
……―――
果林「……えっ?」
エマ「わたしのお父さん、お仕事で事故にあっちゃったの……」
エマ「お父さんは元気なんだけどね、大きな怪我で歩くことも食べることもできなくて」
エマ「病院でお母さんがつきっきりなの」
果林「……大変だったわね」
エマ「……それでわたしね、」
エマ「お母さんの代わりにお家のことと残された兄妹の面倒を見なきゃいけないの」
エマ「だから……故郷に帰らなきゃいけなくなったの」
果林「……」
果林「あら、そう」 「あら、そう」
……愛想のない、冷たい返事しかできなかった。
正直、なんて言えばいいかわからなかったからだ。
エマには絶対に帰ってほしくない、だけど……
家族のことで私がとやかく言う事なんてできない。
ましてやエマはいつも誰かのために頑張ろうとする優しい娘だ。
家族のピンチを放っておける訳がない。
――――――「やりたいと思ったときから、きっともう始まってるんだと思う」
そう、誰かのために頑張ろうとするエマを私が一番知っている。
いま私がスクールアイドルでいられるのは、彼女のおかげなんだから……
エマ「ごめんね、しばらく果林ちゃんの面倒見れないけど」
果林「……別にいいわよ、エマが来る前は一人でなんとかしてきたもの……」
エマ「ふふっ……そうだね♪」
全くこの子は、こんな状況なのに……
一緒にいると自然に笑ってしまう、太陽みたいに明るい子。
エマがいなくなったら、私、笑うの減っちゃうかもしれないわね…… 果林「それでいつ帰れるのかしら?」
エマ「わからない……でも卒業までには帰れると思う」
エマ「でも次のスクールアイドルフェスティバルは……出られない」
果林「……!」
スクールアイドルフェスティバル……
いま侑ちゃんやせつ菜ちゃんを筆頭に大掛かりなライブを計画している。
街のいろいろな場所で、それぞれの同好会メンバーがライブをするという
私たちの活動の集大成といってもいいだろう。
私も同好会もみんなもそれに向けて頑張って来たけれど、
エマは……そこにはいない。
エマ「悔しいよ。みんなと一緒に出られないの、ほんとに悔しい」
エマ「けど一生懸命、悩んで、悩んで……やっぱり帰らなきゃって思ったの」
果林「……そう」
エマ「ごめんね、本当に」
果林「エマが謝ることじゃないわよ」
エマ「……明日みんなに伝えるから」
エマ「その前に果林ちゃんには知ってほしかったんだ」 エマ「果林ちゃんとはこの国で、一番過ごした時間が多いから。だから……」
果林「これからもでしょ、エマ」
エマ「え?」
果林「別にどこにいてもスクールアイドルでなくても、私達ずっと友達じゃない」
果林「それは何も変わらないわ、エマ」ナデナデ
エマ「……果林ちゃん……っ」ギュッ
誰にも言わずずっと悩んでいたことをやっと打ち明けられたのだろう。
エマを撫でると彼女は弱弱しく抱きしめてきた。
そうだ、私たちの関係は何も変わらない。
卒業までにエマは帰ってくる。
卒業しても私がスイスに遊びにいけばいいじゃない。
フェスティバルに出られない、だけ……
そう、きっと……それだけのこと…… ――――――
部室
かすみ「ぬわ〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」
しずく「か、かすみさん?!」
かすみ「ぬわ〜〜〜〜〜〜〜っとくできませんっ! 納得できませんよぉ!」
……かすみちゃんか。熱くなったのは。
もし反対するならかすみちゃんか侑ちゃん辺りとは思っていたけど。
かすみ「どうして帰らなきゃいけないんですかっ! エマ先輩、あんなに頑張ってたのに!」
歩夢「かすみちゃん……でもしょうがないんじゃ」
かすみ「なんとかならないんですか?! エマ先輩!」
エマ「え、えっと……」
せつ菜「かすみさん……エマさんに無理言っちゃダメですよ」
かすみ「でもぉ!」
璃奈「エマさんは3年生」
璃奈「もしかしたら次のフェスティバルが、最後のステージかもしれない」
果林「……!」 彼方「……果林ちゃん」
部室に10人、気まずい空気が漂う中、彼方が隣で私にささやいてきた。
彼方「果林ちゃんは……知ってたの?」
果林「えぇ……でも私も昨日聞かされたばかりだわ」
果林「正直私だって……」
私達は最後のステージかもしれない。
そのステージにエマがいないなんて、受け入れたくない。
だけどもう……しょうがないじゃない。
家族のことなんだから、私達がどうこう言って変わる問題じゃない。
果林「……私はエマを快く見送ってあげるのか正解だと思う」
果林「だってこれは、エマが選んだことなんだから」
彼方「……そっかぁ。そう、だねぇ……」
彼方「エマちゃんのことを一番知ってる果林ちゃんが言うなら……」
そうだ。嫌だとか悔しいとか、そういう気持ちは押し込めないと…… 果林「ねぇ、かすみちゃん。しょうがないでしょ」
果林「エマは帰らなくちゃいけないんだから」
かすみ「果林先輩……っ!」
冷静さを失っているかすみちゃんが私を睨む。
かすみ「エマ先輩はスクールアイドルが大好きなんですよっ?!」
かすみ「それにそれに、3年生で……もう最後のステージかもしれないのに!」
果林「そうだとしてもよ。ご家族が大変な目に合ってしまったのなら会いに行くのが普通でしょ?」
果林「エマだってフェスティバルに出るのか、帰国するのか悩みに悩んで答えを出したの」
果林「だからしょうがないでしょ」
かすみ「……っ」
エマ「果林ちゃん、かすみちゃん……」オロオロ 果林「エマだって辛いのをわかって帰るの。だから私たちは快く見送って」
かすみ「……ずるいですよ」
果林「……ずるい?」
かすみ「だって果林先輩がスクールアイドルでいられるの……エマ先輩のおかげなんですよね?」
果林「……!」
侑「かすみちゃん、ちょっとその辺に……」
かすみ「エマ先輩がいなかったら立てなかったステージに果林先輩は立つっていうのに、」
かすみ「そこにエマ先輩は立てないんですよ?!」
かすみ「よく「しょうがない」なんて言葉で済ませられますよね!」
かすみ「……失望しました」
かすみ「果林先輩ってばそこまで冷たい人間———っ!!」
エマ「かすみちゃんっ!」
かすみ「」ビクッ
エマ「……お願い、もうやめて」 かすみ「あっ、え?」
かすみ「私……いますごい、酷いことを……」
エマ「あっ……えっと、ごめんね? 私こそ大きな声出して……」
部室の空気を切り裂くエマの声。
驚いたかすみちゃんは我に返って青ざめている。
かすみ「ごっ……ごめんなさいっ! 果林先輩、エマ先輩、あの……」
かすみ「かすみん、頭冷やしてきますっ!」ダッ
侑「か、かすみちゃん!」
しずく「わ、私、追いかけます!」ダダッ
部屋を飛び出してしまったかすみちゃんをしずくちゃんが追いかけた。
かすみちゃん……
怒ってない……いや、むしろ本音では全部かすみちゃんの言う通りだと思った。
腹黒いだとかなんだとか言われるけど根っからのいい子なのを私は知っている。
あの子があんなに必死になったのは、心の底からエマのことを想っていたからだ。
そのくせ私は大人ぶって、ただエマの帰るっていう言葉をそのまま受け止めていただけ。
歩夢「果林さん……大丈夫ですか?」
果林「えぇ、大丈夫よ。気にしないで」
歩夢「は、はい……」
エマ「……」 愛「……あーっ!残念だなー!」
冷え切った気まずい空気の中、第一声を放ったのは愛だった。
愛「愛さん、エマっちとステージ立ちたかったー!」
エマ「愛ちゃん、ごめんね」
愛「でもさ! まずエマっちはお父さんとお母さんに顔見せて安心させてあげなよ!」
エマ「!」
愛「やっぱりご両親さん、愛する娘の顔を見るのが一番元気になるはずだからねー」
愛「だからまずはエマっちはスイスに帰ること!」
愛「んで……帰ってきたら、そりゃもう、とびっっっきり楽しいライブしようよ!」
愛「でしょ? かーりんっ♪」
果林「えっ? あっ……うん、そうよね」
私の真意を見抜いたのか、愛が私にウインクしてそう言った。
やっぱり愛は頼りになるわね。
私はほんとにもう……エマにも愛にも助けられてばかり。 エマ「え? でも3年生は最後のライブ……」
侑「大丈夫だよ、エマさん」
侑「次のフェスティバルは難しいかもしれないけど、またライブができるよう動いてみる!」
エマ「で、できるの?」
せつ菜「……正直、難しいかもしれません」
せつ菜「フェスティバルが大々的な企画なので、もう一度できる余裕があるかどうか……」
エマ「そ、そうだよね……侑ちゃん、せつ菜ちゃん、無理しなくても大丈夫だよ?」
せつ菜「でもっ! 大丈夫です! エマさん!」
せつ菜「帰ってきたらもう一度ライブができるよう全力を尽くします!」
侑「エマさん。私達、無理なんかしてないよ」
侑「心からエマさんのステージが見たいんです。だから心配しないでください!」
エマ「ゆ、侑ちゃん……」
せつ菜「そうですね! 卒業公演ってことで! もうフェスティバルに負けないくらいのライブをやりましょう!」
彼方「なななっ! なんだって〜?」
彼方「ほんとぉ〜?!!? やったあ!!!」
歩夢「いやなんで彼方さんが一番喜んでるんですか?!」
一同:あはははは!
エマ「……ありがとう、凄く嬉しい!」
エマ「よかったよ、果林ちゃん!」
果林「え、えぇ……そうね」 璃奈「……かすみちゃんは帰国の日にはちゃんと笑顔で見送ってくれるはず」
璃奈「だから安心してほしい」
エマ「うん。ありがとう。嬉しかったよ。かすみちゃん、あんなに本気になってくれて」
璃奈「……それともう一つ、私から提案がある」
璃奈「オンラインライブは、どうかな」
エマ「オンラインライブ?」
璃奈「フェスティバルで、エマさんとその故郷を中継するの」
璃奈「きちんとしたステージでは歌えないかもしれないし、踊れないかもしれない」
璃奈「生のお客さん達とより密接に繋がれないかもしれない」
璃奈「いろいろ足りないことはあるかもしれないけど、エマさんがもしよかったら」
璃奈「私も、なんでもしたい」
エマ「り、璃奈ちゃん……!」
エマ「すごいよ! もしできたら……やってみたい!」
オンラインライブ……さすが璃奈ちゃんね。
それなら遠く離れた土地でもエマはアイドルとして歌えるんだ。
生のライブと比べると物足りないかもしれないけど、それなら…… エマ「それすごくいいよ! 璃奈ちゃん!」
璃奈「ありがとう。璃奈ちゃんボード『テレテレ』」
エマ「だけど少しだけ考えさせてもらってもいいかな……?」
璃奈「勿論。ご家族の状況を見て、もしエマさんができそうなら」
璃奈「その時は連絡して。私、なんでも協力する」
エマ「心強いなあ。なんか帰らなきゃいけないっていうのに、ちょっとワクワクしてきちゃったよ!」
愛「うんうん♪」
侑「……よし! みんな!」
侑「エマさんの分もスクールアイドルフェスティバル、頑張ろう!」
侑「そして……今まで同好会を支えてくれたエマさんを」
侑「今度は私たちが支えよう!!!」
一同:おおーっ!
エマ「みんな本当にありがとう……わたし、本当に幸せ……!」
果林「……ふぅ」
本当に同好会のみんな……頼れる人達だわ。
帰国することを告げることに大きな罪悪感を抱えていたエマの顔はすっかり晴れたようだった。
肩の荷が下りたのね。だからこれでよかったのよね……きっと。 初めまして!書いてる者です。
次の更新は今日の夕方から夜くらいにかけてになると思います。
もしよかったら、よろしくお願いします。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています