【SS】しずく「千両役者」かすみ「三文小説」
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・アニメ時空です。
・栞子等のアニメ未登場キャラは登場しません。悪しからず。
・話の都合上、オリジナルのモブキャラが登場するので、苦手な人はブラウザバック推奨です。
・しずかすSS。アニメ13話でしずくとかすみが恋仲になったという前提。
以上、但し書きです。
書き溜めてませんのでゆっくり書いていく予定です。
よろしければ最後までお付き合い頂けると嬉しいです。 ガチャッ
かすみ「かすみん!買い出しより戻って参りました〜」
璃奈「もどりましたー」
侑「二人ともお帰り。買い出しありがとね」
かすみ「このくらいお安いごよっ……」
かすみ「ってぇ!なーんで、愛先輩がしず子に抱きついてるんですかぁ!」
愛「あれ?あ〜あははwいや、しずくがかすかすが居なくて寂しがってたからつい〜w」
しずく「へえ!?な、何言ってるんですか愛さん!///」
かすみ「かすかすじゃなくてかすみん━━━じゃなくて、とっととしず子を離してください!このドロボ〜!」
愛「にひひwほれほれ〜剥がしてみんしゃいw」
かすみ「ぐぬぬぬぬぬ〜…!」
しずく「あはは……」
璃奈「あ、そういえば聞いたよ、しずくちゃん。今度、合同演劇祭やるって」
しずく「……あ、うん。そうなの」
璃奈「今年も主演はしずくちゃん?楽しみ」
しずく「…うん。まだオーディション始まってないから分かんないけど、主演になれるように頑張るね」
璃奈「しずくちゃんなら、きっと大丈夫。璃奈ちゃんボード『ファイトっ』」
しずく「ありがとう、璃奈さん」ニコゥ 千両役者の歌詞が『21章の桜坂しずく』にしか見えない風潮、ほんと凄い。もっと広まって欲しい。
https://sp.uta-net.com/song/294603/ ━━━━━━━
━━━━━
━━━
【演劇部 部室】
部長「……そうですか。桜坂さんも主演オーディション、参加されるんですね」
しずく「はい。よろしくお願いします」
部長「……確かに、『千両役者』桜坂しずくという役者にとって、今回の五右衛門役はまさにうってつけの大舞台ですからね」
しずく「あの、その名前であまり呼ばないで貰ってもいいですか?その…恥ずかしいので……」
部長「ああ、そうなんですか。すっかり気に入ってると思ってましたけど」
しずく「なに言ってるんですか……名前負けもいいところですよ」
部長「そうですか?少なくとも、私は桜坂さんにピッタリだと思ってますが」
しずく「……そうですか」
しずく「あの……部長、少し聞いてもいいですか?」
部長「どうぞ」 しずく「部長は今回の演目に、どうして『山門』を選んだんですか?」
部長「別に大した理由はありませんよ」
部長「4校ともテーマが『日本の古典演劇のリバイブ』という縛りが設けられてたこと」
部長「1校あたりの上演時間が短いこと」
部長「その中でも他の学校よりインパクトを残したいこと」
部長「そういった色んな要因が重なって、それに最も適していると思ったのが、『楼門五三桐』二段目の返し「南禅寺山門の場」だった、というだけです」
しずく「……なるほど」
部長「まさか、桜坂さんの舞台として私があてがった、とでも思ってたんですか?」
しずく「い、いえ!そういうことでは━━━
部長「いくら『千両役者』と称えられてるからって、それは少し自意識過剰じゃないですか」
しずく「……はい、すみません、でした」
部長「……質問は以上ですか?主演のオーディションの日にちなどついては、また決まり次第、連絡しますので」
しずく「……大丈夫です。ありがとうございました」
ガチャッ
「桜坂さん、いますかー?」 >>66
例の演劇部部長(通称22秒先輩)は、公式からの言及はありませんがリボンの色からして3年生なのでは?と推測しております
このssでは、22秒先輩は無事卒業し、代変わりして新3年生の誰かが新部長に就任したという設定です 今ちょろっと調べたら「22秒の女」ではなく「29秒の女」でした
失礼しました
では続けます しずく「?……あっ」
しずく「かすみさん、どうしたの?」
かすみ「……さっき、演劇部の人たちに聞いたら、今日の稽古はもう終わったって言ってたから……」
しずく「待っててくれたんだ。ありがとね、かすみさん」
かすみ「別にしず子待ってるのは全然へーきだけど……」チラッ
部長「……」
かすみ「ごめん。話しあるみたいだったら、かすみん外で待ってるから」
しずく「うんうん。話はもう済んでるから大丈夫だよ」
かすみ「そ、そっか」
しずく「……それじゃあ、部長。お先に失礼し━━━「桜坂さん」
部長「本演目の『山門』の主役は石川五右衛門ですが、五右衛門の最期はもちろんご存知ですよね?」
しずく「……えっと、確か……釜茹での刑によって公衆の面前で処刑された……ですよね?」
部長「……そうです。あなたも気をつけてくださいね」
しずく「……?」
部長「何でもありません。お疲れ様でした」
しずく「……はい、お先に失礼します。お疲れさまでした」
バタンッ
部長「…………石川や浜の真砂は尽くるとも」
部長「世に盗人の種は尽くまじ」 発癌性の方の部長はレズレイプしてくるだけだけどこっちの部長はなんか怖いな 1です
急な用事があり更新が滞ってしまい申し訳ありません
今日の夜に続き書きます しずく「待たせちゃってごめん。行こう、かすみさん」
かすみ「うん」
かすみ「今の人って、演劇部の部長さんだよね?」
しずく「そうだよ。3年生で、私と同じ国際交流学科なんだ」
かすみ「ふーん……なんか、前の部長さんとは全然ちがうね。雰囲気」
しずく「そう…だね。前の部長は、みんなの憧れの先輩って感じだったけど、今の部長は、みんなが恐れる先輩って感じだから」
しずく「もちろん悪い人じゃないんだよ?真面目だし、頭も良いし、演技指導も的確だし。ただ━━━」
かすみ「ただ?」
しずく「━━━あの人自身がお芝居してるところ、見たことないんだよね。私」
かすみ「……かすみん達でいうとこの、侑先輩みたいな?」
しずく「え?」
かすみ「ほら、侑先輩ってスクールアイドル同好会だけどスクールアイドルじゃないでしょ?」
かすみ「それと同じことなんじゃないかなーと思って」
しずく「うーん……そうなのかなぁ」
しずく「……かすみさんにだから言うけど、実はね、部長とはあんまりお話したこと、ないんだよね」
かすみ「そうなの?」
しずく「うん……なんというか、考えすぎかもしれないけど、向こうから壁を張られてる気がするんだよね」
かすみ「……ふんーん」 かすみ「しず子の考えすぎなんじゃない?」
しずく「だといいけど……」
かすみ「変に考えたってしょうがないじゃん。合う合わないは誰にでもあるんだしさ」
しずく「…まあ、そうかもね」
かすみ「それに、かすみんとしてはぁ、そっちの方がいいかなぁって」
しずく「え?なんで?」
かすみ「だって……前の部長さんは、めちゃくちゃしず子と距離近かったじゃん!」
かすみ「何回かすみんとしず子の間に割り込んできたと思ってんのさ!」
しずく「あぁ……。まあ、あの人はああいう人だから……」
かすみ「忘れもしないよ!かすみんがしず子と同好会のことで大事な話してるって時にさ!
━━━「しずく、行こ」(アニメ2話)
かすみ「ムキーっ!あん時の澄まし顔〜!かすみんの方をチラッと見てさ、しず子も待たないでとっとと立ち去っちゃってさ!」
しずく「か、かすみさん、どうどう。落ち着いて」
かすみ「しず子もしず子だよ!かすみんと作戦会議してたのに、あっさり付いていっちゃってさ!」
しずく「え、えぇ……、今更そんなこと言われても……。ごめんなさい……」 かすみ「……最初、しず子って、部長さんのことが好きなのかなって思ってた」
しずく「え?どうして?」
かすみ「……かすみんは好きじゃないけど、顔は格好いい系だし、背も高いし、しず子には優しそうだったし」
かすみ「それにしず子も、部長さんと喋ってる時、普段と違う感じだったし……」
しずく「……うーん」
しずく「確かに、前の部長は私のこと気にかけてくれてたし、私も部長をよく頼りにしてたけど」
しずく「でも、それはあくまで部活の先輩と後輩の関係。恋愛とはまた違うよ」
かすみ「……じゃあ、恋愛として、誰かを好きになったのは……かすみんが初めて?」
しずく「そうだね。私、今までずっと演劇しか興味が無かったから、恋愛とは無縁だったかな」
かすみ「…………ふーん。そっかそっか。かすみんが初めてなんだぁ」
しずく「口元、にやけてるよ。かすみさん」
かすみ「ふぇ?な、なんのこと?」
しずく「隠し切れてませんよ?」 かすみ「だって、相手が初めて好きになった人が自分って、なんか嬉しいじゃんっ」
しずく「そう?私は別に気にしないよ?」
かすみ「かすみんが昔は別の人が好きだったとか、誰かと付き合ったことがあったとしても?」
しずく「うん。だって、かすみさんは私を選んでくれたわけだし」
しずく「今こうして恋人になってるだけで、私は嬉しいから」
かすみ「……しず子はズルいよ。そういうこと、平気で言えちゃうのが」
しずく「かすみさんも言ってくれていいんだよ?」
かすみ「……この流れで言えるわけないじゃん!///」
しずく「ふふっ♡照れてるかすみさんもかわいいよ♡」
かすみ「バカ///バカしず子///」
しずく「♡」
しずく「……ねえ、かすみさん」
かすみ「……なに?」
しずく「次の週末、どこかお出かけでもしない?」 かすみ「お出かけって、デートってこと?」
しずく「うん。……ダメかな?」
かすみ「いやいや!かすみんは全然大丈夫!たぶん予定ないはずだし、予定あっても何とかして空けるから!」
しずく「嬉しい。ありがとう、かすみさん」
かすみ「……でも、珍しいね。しず子の方から、デートのお誘いだなんて」
しずく「そう?」
かすみ「そうだよ。いつもデートしようって言ってるのってかすみんじゃん」
しずく「……そうかもね」
かすみ「何かあったの?」
しずく「……来週から、合同演劇祭に向けてのオーディションが控えてるんだけどね」
しずく「私、参加するからには主演を張りたいの」
しずく「だから、これから普段以上にお稽古に励んで、猛特訓しなくちゃいけないから、同好会の方に顔を出せなくなっちゃうと思うの」
しずく「こうやって、かすみさんと一緒にいる時間も、十分に取れないと思う」
かすみ「しず子……」
しずく「だから、二人で一緒に居られる時間に目いっぱいかすみさんと過ごせたら、オーディションも本番も、私、頑張れるかなって」
しずく「だから……その……」モジモジ
かすみ「……も〜しょうがないな〜」
かすみ「分かった!来週、かすみんがしず子に、かすみんパワーをう〜んと注入してあげる!」
かすみ「だから、絶対オーディション受かって、本番成功してよね!」
かすみ「約束!」
しずく「……うん。ありがとう、かすみさん」
━━━━━━━
━━━━━
━━━ 【デート当日】
【お台場 某所】
しずく「……」チラッ
『かすみさん : ごめん!ちょっと遅刻する!』
しずく「まあ、いつものことだけど」ハァ
「遅れてごめーん!」
しずく「やっと来た」
かすみ「待った?」
しずく「待った」
かすみ「そ、即答……」
しずく「かすみさん。遅刻癖、そろそろ直そうか?」
かすみ「ごめんって……。今日はかすみん、朝寝坊しちゃって」
しずく「早寝早起き、だよ。夜遅くまで起きてちゃダメって言ってるでしょ?」
かすみ「だって……今日のデートのこと考えてたら、しず子の顔ばっか浮かんできて、寝ようとしても眠れなくて……」
しずく「うっ……」
かすみ「許して……くれる……?」
しずく「……しょうがないなあ。今日のところは不問にするけど、次はそうはいかないんだからね?」
かすみ「よしっ!」
しずく「!?」
かすみ「というわけで、今日はしず子とデート!存分に楽しもーう!」
しずく「ちょっとかすみさん!絶対反省してないよねそれぇ!?待ちなさーい!」 かすみ「と、その前に」
しずく「?」
かすみ「しず子……その服なんだけどさ〜」
しずく「え?」(参照画像 https:////i.imgur.com/LjnMiOA.jpg )
しずく「な、なんか、おかしかった?」アタフタ
かすみ「派手すぎ!そんな格好で外歩いてたら、みーんなしず子の方を見るに決まってるじゃん!」
しずく「ふぇえ!?」
しずく(そう言われてみれば、今日のかすみさん、帽子に眼鏡もしてて、いつものかすみさんらしくない服装…)
かすみ「もー」(参照画像 https:////i.imgur.com/0w422Ph.jpg )
かすみ「しず子わかってる?今日はお忍びデートなんだから、そんな目立つ格好じゃすーぐバレちゃうじゃん!」 しずく「ご、ごめん……でも、お忍びデートって言葉を私たちが使ってるだけで、要は私とかすみさんが2人がお出かけでしょ?」
しずく「傍から見れば同じグループの娘たちが一緒に遊んでるようにしか見えないし、まさか私たちが恋人だなんて思わないだろうし、そこまで隠そうとしなくても……」
かすみ「……はぁ〜。だからしず子はスクールアイドルの自覚が足りてないんだよ〜」
しずく「……むぅ。どういう意味?それ」
かすみ「いい、しず子?たとえばこれで外を出歩いて、町ゆく人がしず子を見たら、こうなるわけだよ」
『え?あれって虹ヶ咲のスクールアイドルの娘じゃない?』
『本当だ!中須かすみちゃんと桜坂しずくちゃんだ!本物だ!』
『どうしようどうしよう!声かけちゃう?声かけちゃう?』
『声かけるだけならいいよね!ついでにサイン貰っちゃうか!』
かすみ「というようにね」
かすみ「かすみんもしず子も、スクールアイドルとして活動してる以上、ファンはどこにいてもおかしくないって常に自覚しなきゃいけないの」
しずく「……まあ、まさにそんな感じで外で声をかけられた経験はあるから否定しないけど」 かすみ「そりゃあ、突然ファンに声を掛けられても笑顔で対応できなきゃスクールアイドル不合格だよ?」
かすみ「そんなのかすみんだって分かってるけど……今日は別。だって、こないだ━━━」
━━━ しずく「だから、二人で一緒に居られる時間に目いっぱいかすみさんと過ごせたら、オーディションも本番も、私、頑張れるかなって」
かすみ「━━━そう、しず子が言ってくれたんだから、私は今日の二人っきりの時間を大切にしたい」
しずく「かすみさん……」
かすみ「誰の視線も感じたくないし、誰にも邪魔されたくない」
かすみ「今日は、みんなのスクールアイドルかすみんじゃなくて、桜坂しずくの恋人として━━━中須かすみとして過ごしたいの」
しずく「……ごめん、私の考えが甘かったよ」
しずく「確かに私たちは、もうただの女子高生じゃないんだもんね」
かすみ「そうだよ〜。それにしず子は、演劇の方でも顔が知られてるわけだし?」
かすみ「だから━━━!」
しずく(そう言って、かすみさんは自分の帽子を突然私に被せました)
しずく「きゃっ」ボスッ
かすみ「とりあえずは、かすみんの帽子、しず子に貸したげる!」
かすみ「どうするしず子ぉ?これからのデートだけど、まずはしず子の帽子選びに、かすみん行きつけのお店にでも行こっか?」
しずく「……もう。相変わらず強引なんだから」クスクス ◇◆◇◆◇◆◇◆
━━━それから私たちは、思いつくままに、気の向くままに、あちこちを練り歩きました
かすみ「ねえ〜しず子ぉ。これなんかぁいい感じじゃない?」
しずく「…!確かに……いいかも」
かすみ「でしょでしょ〜?」
━━━去年の合同演劇祭やSIFを経た私たちは、想像以上に大きな存在になっていて
しずく「あ、いいニオイするね。クレープかな?」
かすみ「食べる?」
━━━プライベートな時間を持つことも、貴重な時間になりつつあって
かすみ「うわ!ここゲームセンター出来たんだ!入ってみようよぉ、しず子!」
しずく「ほんとだね。来るの初めてかも」
かすみ「せっかくだし何かで勝負しようよぉ。負けた方がジュース奢りね!」
しずく「え〜?しょうがないなあ〜」
━━━だからこうやって、誰の視線も気にしないで過ごせる時間が、本当に久々で
しずく「あ!あそこの犬カフェ!こないだ本で紹介されてたんだよ?」
かすみ「ふーん、そうなんだ」
しずく「ちょっと休憩していかない?」
━━━あなただけを見て、あなただけと話せて、あなただけを想うことができる、今この時間が本当に愛しくて
しずく「かすみさん、これからどうしよっか」
かすみ「うーん……とりあえず、駅の方を向かいながら、それから考えよっか」
しずく「そうだねっ」
━━━ずっと続けばいいのに、なんて、つい考えてしまいます
◇◆◇◆◇◆◇◆ 【駅前】
かすみ「電車の時間、大丈夫?」
しずく「うん。まだ30分くらい後だから」
かすみ「そっか。じゃあ……そこのベンチでも座ろうよ」
しずく「うん」
かすみ「よいしょっと… あ"〜あ"る"ぎづがれだぁ〜」
しずく「かすみさん、またオジさんになってるよ」クスクス
かすみ「だって今日、朝からずーっと歩いてたじゃん」
しずく「そうだね。私もこんなに歩いたの久々だよ」
かすみ「かすみんもひさしぶりぃ……あぁ〜……」
かすみ「……ねえ、しず子ぉ」
しずく「なに?かすみさん」
かすみ「今日、どうだった?」
しずく「え?」
かすみ「今日のデート。楽しかった?」
しずく「……うん。すごく楽しかったよ」
しずく「楽しすぎて、これで今日はお別れしなきゃいけないのが、私つらいよ」 かすみ「しず子……」
しずく「帰らなきゃいけないのは分かってるよ?でも、これでもうしばらく、かすみさんとこういうこと出来ないと思うと……」
しずく「やっぱり帰りたくないよ……」
かすみ「……も〜」
ギュッ(しずくの右手を、かすみの左手が握る)
しずく「……!か、かすみさん!?」
かすみ「うわっ。しず子の手ぇ冷たっ」
かすみ「かすみんの手、あったかいでしょ?」
しずく「う、うん……暖かい、けど……」
かすみ「なんであったかいと思う?」
しずく「えっ…?私よりもかすみさんの方が基礎体温が…」
かすみ「ぶっぶーっ!不正解〜」
かすみ「分からないのしず子ぉ〜?」
しずく「むぅ……じゃあ正解は?」
かすみ「正解は〜、かすみんがあったかいのは、かすみんパワーがみなぎってるから!でした〜」
しずく「……なに?」
かすみ「ちょっとぉ!何言ってんだコイツみたいな顔するのやめてよ!」 かすみ「前に言ったでしょ?『かすみんがしず子に、かすみんパワーをう〜んと注入してあげる』って」
しずく「あ……うん」
かすみ「今日一日しず子と一緒に居る間、かすみんパワーをず〜っと送ってたつもりだったんだけど」
かすみ「しず子、まだ足りてなさそうだったから」
しずく「…………」
かすみ「だから……しず子の手を握って、かすみんパワー注入して、あっためてあげよーかなと思って」
しずく「……うん。かすみさんのパワー、すごく感じてるよ」
しずく「すごく暖かくて……体も心もポカポカしてきちゃうよ……」
かすみ「しず子……」
しずく「かすみさんの優しさに……私、もっと甘えたい……」
(がさつに握っていた手を、指を絡めるように繋ぎ直す)
かすみ「……!///」ドキッ
しずく「こうしたら、もっとかすみさんのパワー、感じられる…かな?///」ドキドキ
かすみ「ど、どうだろ?しず子、どう?///」ドキドキ
しずく「うん……///さっきよりも、かすみさんのが、すごく伝わってくるよ///」ドキドキ
かすみ「そ、そっか///ならよかった///」ドキドキ しずく「……///」ドキドキ
かすみ「……///」ドキドキ
しずく「……ねえ、かすみさん///」
かすみ「な、なに?しず子///」
しずく「その……」
しずく「キ……したい……///」
かすみ「……へ?」
しずく「だから、………ス……したいな///」
かすみ「こ、声ちっちゃいよしず子///」
しずく「だから!」
しずく「かすみさんと!キ……キス……したいです……///」
かすみ「……き、きすって……こ、ここで……?///」
しずく「うん…///ダメ……かな?///」
かすみ「こんなとこで…誰かに見られたら……///」
しずく「だいじょーぶ///今日一日、誰からも声かけられなかったでしょ?///」
しずく「せっかくのお忍びデートだもん……///中途半端なところで……帰りたくない///」
かすみ「……もー///しず子の甘えんぼ……///」
しずく「かすみさん……///」 かすみ「……///」ドキドキ
かすみ(うわぁ…///しず子、すっごく切なそうな表情……///かわいい……///)ドキドキ
しずく「……///」ドキドキ
しずく(かすみさんのお顔って…見てるだけで安心する……///優しくて…柔らかくて…大好き……///)ドキドキ
かすみ「……しず子、目つむって///」
しずく「う、うん///」
かすみ「……いくよ、しず子///」
しずく「……うん。来て、かすみさん///」
かすみ「ん……///」
しずく(かすみさんの手、あっつい……///)
しずく(その温もりが伝ってきて、私の身も心もすっかり火照ってしまっています…///)
しずく(もっともっと、かすみさんと暖まりたい……///)
スッ
しずく(あ、かすみさんの気配が━━━)
かすみ「……んっ♡」チュッ
しずく「んっ♡」
しずく(あっつい……♡火傷しちゃいそう……♡)
チュッ…♡
しずく(かすみさんの熱が、パワーが、━━━かすみさんの大好きが、どくどく流れてきます♡)
かすみ「しず子…♡」
しずく「かすみさん…♡」
チュッ…♡
しずく(私も大好きだよ、かすみさん━━━♡)
━━━━━
━━━━
━━━
ザッ
「…………『千両役者』も、所詮は女ですか」
パシャッ 一旦ここまでにします
続きは今日の夜書きます
今、構想全体のうちどの辺にいるのか端的に申し上げると、ジェットコースターで頂上まで登った所になりますかね
最後までお付き合いいただけると嬉しいです @cメ*˶- ᴗ -˵リ やっぱりしずかすだねっ! 【合同演劇祭 一週間前】
【演劇部 部室】
新聞部「……なるほど!去年は藤黄学院と虹ヶ咲学園の2校による合同演劇祭でしたが、今年はそこに東雲学院・青藍高校も新たに加わった、全4校による合同演劇祭、というわけですね…!」
新聞部「それにしてもすごい顔ぶれですね…!やはり去年の合同演劇祭の盛り上がりがこのような反響を呼んだのでしょうか?」
演劇部部長「そうですね。去年の私たちの演目『荒野の雨』は、劇場にお越しいただいた皆様から多くの感想が寄せられたと伺っています」
新聞部「そうですか…!絶賛の声が多数寄せられたと伺っておりますが、その要因はどこにあるとお考えでしょうか?」
演劇部部長「……やはり、主演を務めた桜坂しずくの存在が大きいと思います。彼女は当時1年生でしたが、演技、歌唱、またその存在感に圧倒された人も多かったのではないでしょうか」
新聞部「なるほど…!確かに、今では『千両役者』という異名をほしいままにする桜坂しずくさんですが、その名実が知れ渡るきっかけになった舞台、というわけですね…!」
部長「……はい、そういうことになりますかね」
新聞部「ありがとうございました…!それでは、今お話しにもあったように、去年の演劇祭の大盛況の火付け役でもあり、そして━━━」
しずく「……」ドキドキ
新聞部「━━━今年の合同演劇祭にて我が校の演目、『楼門五三桐』二段目の返し「南禅寺山門の場」、通称「山門」の主人公・石川五右衛門役を演じられます、桜坂しずくさんに、いくつかお話しをお聞きしたいと思います…!よろしくお願いいたします…!」
しずく「は、はい!よろしくお願いいたします…!」 演劇部部員A「いやぁ〜、分かってはいたけど、今年の主演もやっぱり桜坂先輩だよね〜」
演劇部部員B「当たり前じゃない。あんな責任重大な大役、桜坂先輩以外で出来る人いないでしょ」
演劇部部員C「でも、部長も本当は桜坂先輩に負けない実力者って、わたし聞いたよ…?」
A「へえ〜?確かに部長の演技指導って分かりやすいけど、部長の演技ってまだ見たことないんだよね〜」
B「だって、ゴエモンの敵役を演じるのが部長なんでしょ?えーっと確か…」
C「真柴久吉……」
B「そう、そいつ。オーディションもやらないで、部長が自分でやるって決めたらしいじゃん」
A「ふ〜ん?まあ、あのゴエモンの敵で、しかも立場的には上にいなきゃいけない難しいポジションだから、部長で正解かもしんないね〜」
C「桜坂先輩と部長による天下の見得……想像しただけでわくわくしちゃうな」
B「ま、私たちは裏でひたすら雑務だから舞台の上なんて見られないでしょうけど。それかせいぜい黒子ね」
C「ふえぇ…」
A「去年は観客席の方に居たというのに……とほほ〜」 新聞部「……はい、私からの質問は以上になります。最後に部長さん、桜坂さん。お一人ずつ、一週間後の合同演劇祭を首を長くして待っているでしょう皆様に一言、お願いいたします」
新聞部「では、まずは、部長さんから」
部長「はい。今回、私たちは『古典演劇のリバイブ』というテーマに、歌舞伎の演目『山門』の新解釈を試みました」
部長「歌舞伎と聞くと、馴染みのない、難しい、高尚だというイメージで語られがちですが、私たちと同年代の人でも楽しめるような、そんな舞台を目指しています。ぜひ劇場に足をお運びください」
新聞部「はい、ありがとうございます。では、桜坂さん。お願いいたします」
しずく「はい。この『山門』は歌舞伎の醍醐味が詰まった濃密な15分の舞台となります。その臨場感を劇場で存分に味わっていただけるように、石川五右衛門役として全力で演じさせていただきます」
しずく「観に来て下さった皆さんがお集まりしているその絶景が、舞台の上で眺める日を楽しみにしています」ニッコリ
新聞部「…はい!ありがとうございました!今日のインタビューを基に、明日には記事を作成し、全校生徒が見られるように掲示板等に張り出しさせていただきます…!」
新聞部「演劇部の皆さん…!合同演劇祭の成功を願っております…!今日はお疲れ様でした…!」
部長「お疲れ様でした」
新聞部「失礼いたしました…!」
ガチャンッ
部長「……桜坂さん」
しずく「……はい」
部長「やはりあなたは、今回もかなり期待を寄せられているようですね」
しずく「え?」 部長「先ほどの新聞記事ですが、『山門』の作品解説や鑑賞ポイントに対して紙面の半分があてがわれ、もう半分は、桜坂さんのインタビューにあてがわれるそうです」
しずく「そう…ですか」
部長「それが悪いとは思いません。確かに私個人としては、演劇祭に向けての演劇部の取り組みや、古典演劇のリバイブというテーマに紙面を割いてほしいとは思いますが…」
部長「桜坂しずくという演者の集客力を鑑みれば、演劇祭の宣伝広告として満点と言わざるを得ません。事実、『山門』はよく知らないけど桜坂しずくが出演するから観に来る、という人は少なくないですから」
しずく「あ、ありがとうございます…」
部長「……」
部長「それほどの期待を背負っている以上、その期待に応える必要があります。難しい役ではありますが……私が見てる限り、桜坂さんならきっと、現代の石川五右衛門になれると思います」
しずく「…!部長…!」
部長「成功を信じて、お互い全力を尽くしましょう」
しずく「は、はい…!」
部長「……では、私はこれで失礼して
しずく「あ、あの!部長……!」
部長「はい、どうしましたか?」
しずく「えっとその……五右衛門と久吉の『天地の見得』の場面なんですが、お稽古にお付き合いいただけますか?」
しずく「今回の話の中で一番きめなきゃいけない所な以上は……呼吸を揃える必要があると思いますので……」
部長「……話は分かりました。ただ、その稽古にはお付き合いできません」
しずく「な、なんでですか…」
部長「……桜坂さん。大女優を目指しているなら、演者には色んなタイプが居ることを覚えておいた方がいいでしょうね」
部長「━━━私ね、舞台の上じゃないところで、他の誰かに自分の芝居を見せるのが、すごく嫌なの」
しずく「……」
部長「だから、桜坂さんの要求には応えられません。わがままに聞こえるかもしれませんが、ご理解ください」
しずく「分かり、ました……」 【夜】
【桜坂邸】
しずく「はあ……緊張で疲れちゃった……やっぱりインタビューって慣れないなあ…」
しずく「……」
しずく「今日の……部長の言葉……」
しずく「『舞台の上じゃないところで、他の誰かに自分の芝居を見せるのが、すごく嫌』……」
しずく「芝居が嫌いってわけじゃないんだろうけど……どうなんだろ……」
しずく「……まあ、いっか…」
しずく「……」
しずく「……かすみさんに、会いたいなあ…」
しずく「電話くらいなら、いいかなぁ…」
スッ(スマホを取る)
ポチポチ
『中須かすみ』
しずく「…………やっぱダメ」
ポイッ(スマホを離す)
しずく「この一週間は、舞台のことだけに集中しなきゃ。かすみさんとお話しなんてしたら、気が移っちゃうよ」
しずく「我慢……がまん……がんば、ろうね……」
しずく「かすみ、さん……」
しずく「……zzz」 【翌朝】
【通学路 虹ヶ咲学園前】
しずく「ふわぁ〜あ……」
しずく「いけない…外なのについあくびしちゃった…」
しずく「シャキッとしなくちゃ……かすみさんに笑われちゃう」
ツーツー
しずく「? 電話?」
『高咲侑』ツーツーツー
しずく「侑先輩……?」スッ
しずく「もしもし?」
「あ、おはよう!しずくちゃん!今大丈夫!?」
しずく「はい、大丈夫ですけど……?」
「今どこ!?」
しずく「えっと……これで校門をくぐります」
「じゃあ私待ってるから、急いで昇降口まで来て!」
しずく「な、なにかあったんですか」
「写真が、拡散されてるの!」
しずく「写真……?」
「そう!」
侑「しずくちゃんとかすみちゃんがデートしてる時の写真が、校内に拡散されているの!」
しずく「━━━━━━え?」 【昇降口】
ガヤガヤガヤガヤ
「これマジ?」
「嘘だろ……」
侑「……まだかなぁ……あ!」
タッタッタッタッ
しずく「遅くなってごめんなさい!」
侑「ううん。急がせちゃってごめん!」
しずく「それで、その写真は……」
侑「昇降口前の、新聞部の掲示板なんだけど……」
ガヤガヤガヤガヤ
しずく「すごい人の数……」
侑「割り込んでくしかない!行こうしずくちゃん!」ガシッ
しずく「へぇっ!?」
侑「すみませーん!通らせてくださーい!ごめんなさーい!」
「あれ、あの子……本人じゃね?」
「桜坂さんじゃん…!」
侑「すいませ…ん!」スポンッ
侑「やっと前列!しずくちゃん、ここから見える!?」
しずく「ま……待ってくださ、い!これで!」スポンッ
パッ
しずく「……って、え。うそ━━━」 昇降口前の人だかりを強引にかき分け、最前列にたどり着いた先に広がっていたのは、目を疑う光景だった。
そこは普段なら新聞部が発行した記事を読むことができる掲示板で。
昨日の新聞部の方の話にもあったように、演劇部の特集が組まれており、合同演劇祭のことや、主演の桜坂しずくのインタビューが載せられていた。
問題は、そこではなく、その記事の周辺。
記事の周辺を囲うように配置された、十数枚の写真。
そのどれもが、鮮明に憶えている光景だった。
朝、かすみさんと待ち合わせしていた時の写真。
かすみさんと一緒にクレープを食べている時の写真。
ゲームセンターで遊んでいる時の写真。
犬カフェでくつろいでいる私たちを店の外から撮った写真。
私とかすみさんが隣り合って歩いている時の写真。
私とかすみさんが隣り合って座っている時の写真。
私とかすみさんが━━━キスしている時の写真。
ご丁寧に、どの写真でもかすみさんだけは、その目元が黒のマジックで塗りつぶされていた。
帽子を被っているおかげもあって、パッと見ただけではかすみさんとは気付けないだろう。
ただ、私のところには何も加工修正は施されていない。素顔が晒されていた。
━━━間違いない。犯人の狙いは私一人だ。
あの日のデートを尾行して、盗撮し、タイミングを見計らって、騒ぎを起こす。
その動機も、その光景を目にした時点で大方の目星は付いた。おそらく、私に対する怨恨の類だろう。
なぜなら、記事に載っていた私の顔写真を、上から塗りつぶすかのように、乱雑な字で次のように綴られていたからだ。
━━━『お前は大根役者だ』と。 そう来るかー面白くなってきた
>>111
このしずくは描写的にかなりの人気役者だからガチ恋勢も多そうで怖いな こういう展開は面白い
続きが気になります……しずく大好きだから楽しみにしてます! 現部長はしずくも演技見たことないし役者というより舞台監督か しずく「誰がこんなことを……」
侑「しずくちゃん……」
ガヤガヤガヤガヤ
「ねえ、桜坂さん!これって本当なんですか!?」
「どうなのしずくちゃん!」
侑「ちょっとみんな、一旦落ち着いてっ、!」
しずく「み、皆さん、これは━━━」
「相手は誰!?虹ヶ咲の生徒!?」
しずく「そ、それは、言えません!」
「いつからお付き合いしてるんですか?!」
しずく「それも言えません!」
「その隣の人が記事の人なの!?」
しずく「ち、ちがいます!このひとは無関係です!」
「いつかのインタビューで恋愛経験はないって言ってましたよね!?」
しずく「そ、それは……」
「あれは嘘だったんですか!?」
ガヤガヤガヤガヤ
侑「…ダメ、この状態じゃラチあかない!」
侑「…一旦退こう!しずくちゃん!」
しずく「え、えぇっ!?」
ダッ
「桜坂さん!?逃げるんですか!?」
「しずくちゃん!次の舞台、大丈夫なんだよね!?」
タッタッタッタッ
しずく「ゆ、侑先輩!何で撤退するんですか!ちゃんと事情を説明すればきっと……!」
侑「あそこで冷静に話を聞いてもらえるわけない!騒ぎがもっと大きくなるだけだよ!」
しずく「で、でも……」 【廊下】
侑「はあ、はあ、……ここまで来れば、大丈夫かな……」
しずく「そうですね……侑先輩、大丈夫ですか…?」
侑「はあ、はぁ、……ちょっと待ってて……」
しずく「……」
侑「はぁ……はぁ……うん、大丈夫」
しずく「……侑先輩、すみませんでした」
侑「へ?何が?」
しずく「今回のことです。かすみさんとお付き合いしてることは、同好会以外には秘密にしておくように言われてたのに……」
しずく「私がかすみさんとお出かけしたいなんて言い出したから……それがこんなことになってしまって……本当にすみません」
侑「……そんな、謝らないで。しずくちゃん達は悪くないよ」
侑「ファンの子達もいるから公表は控えた方がいいとは言ったけど、一緒に出かけるのも許されないんじゃ、あんまりだから」
しずく「先輩……」
侑「……まあ、あえて言わせてもらうなら、キスはちょっとやり過ぎかな?」
しずく「そ、そうですよね……軽率でした。ごめんなさい……」
侑「その……したくなっちゃったの?キス……」
しずく「……帰る前だったんですけど、別れるのが惜しくて、一緒に居たら、抑えきれなくて……」
侑「……そっか」
しずく「でも、かすみさんは悪くないんです!無理を言ってせがんだ私が悪いんです!」
しずく「だから、かすみさんを責めないであげてください……お願いします!」
侑「……もー」 スッ
侑「なでなで」
しずく「へ……?侑先輩?なんで、頭を撫でて……」
侑「しずくちゃんが可愛いから悪いんだよ?」
しずく「……答えになってない気がしますが…」
侑「真面目で、健気で、恋愛事はウブで、でも実は積極的で……本当に可愛いよ。あー、かすみちゃんが羨ましいなぁ」
しずく「あ、ありがとうございます…?」
侑「大丈夫。心配無用だよ。かすみちゃんもしずくちゃんも、私と同好会のみんなが守るから」
侑「さっきの囲いの人達も、今は興奮してるけど、落ち着いた後で事情を説明すれば、きっと分かってくれるはずだよ」
しずく「……侑先輩」
プルルルル
しずく「……電話?誰から……」
しずく「……!」
スマホ画面『演劇部 部長』
プルルルル 侑「かすみちゃんから?」
しずく「いや…演劇部の部長からです…」
侑「部長さん?」
しずく「はい……電話に出ますね」
プルルルル
『通話開始』ピッ
しずく「……もしもし、お疲れ様です」
しずく「……はい、確認しました」
しずく「……分かりました。これで向かいます」
しずく「……はい。失礼します」
『通話終了』ピッ
しずく「……すみません、侑先輩。これで私……演劇部の方に顔を出してきます」
侑「……大丈夫?何なら、私も一緒に行くよ」
しずく「…………いえ、大丈夫です。さっきの先輩の言葉で、元気貰えましたから」ニッコリ
侑「……なんかあったら、すぐに言ってね」
しずく「はい、ありがとうございます」
タッタッタッタッ
侑「……しずくちゃん、大丈夫かな」
プルルルル
侑「?」
スマホ画面『歩夢』
侑「歩夢…?もしもし」ピッ
『もしもし…!助けて侑ちゃん…!』
侑「…!?どしたの!?」
『とにかく、部室に来て…!』
侑「わ、分かった!今行く!」ダッ
━━━━━
━━━━
━━━ スクールアイドルもアイドルだからこういう風になっちゃう可能性もあるのか 【スクールアイドル同好会 部室】
ガチャッ
侑「歩夢!何があったの━━━
せつ菜「だから私は言ったんです!周囲の目にはくれぐれも気をつけてくださいと!」
かすみ「知ってますよ!何回も何回も聞きましたよ!耳にタコさんができるくらい!」
せつ菜「だったらどうしてあんな写真が撮られるんですか!!」
かすみ「知らないですよ!周りに人がいる前であんなことするほど、かすみん達も馬鹿じゃないですよ!!」
歩夢「二人とも…!一旦落ち着いてってば…!」
侑「な、なに…?どうしたのこの状況…」
歩夢「あ、侑ちゃん!早くこっち来て!この二人を離して!」
侑「う、うん!せつ菜ちゃん、落ち着いて!」ガシッ
せつ菜「離してください、侑さん!今、かすみさんと大事な話をしてるんです!」
侑「私が見てる限りじゃ、話し合いになってないよ!」
せつ菜「かすみさんが話を聞かないからいけないんです!!」
かすみ「何言ってるんですか!せつ菜先輩がかすみんの話を信じようとしないからですよ!」
歩夢「かすみちゃんも落ち着いて…!」ガシッ
かすみ「歩夢先輩もかすみんの話を聞いてましたよね!?先輩からも、せつ菜先輩に何か言ってやってください!」
歩夢「喧嘩するのはもうやめて…!」 ガチャッ
愛「おいっすー……って、そんな空気じゃないなこりゃ」
璃奈「かなり荒れてる」
侑「あ、愛ちゃん!一緒にせつ菜ちゃん抑えて!」
愛「…ったくー。じゃあ、愛さんはせっつーの方に行くから、りなりーはかすみんをお願い」
璃奈「うん。わかった」
ダッ
愛「せっつー、一旦クールダウンしよっか?」ガシッ
せつ菜「嫌です!かすみさんとの話はまだ終わってません!愛さんも邪魔するんですか!?」
愛「そう、邪魔するつもりだよ。嫌だったら力づくで離れてみ?」ググググ
愛「柔道部で助っ人に入った時に教えてもらった、直伝の固め技だけどね〜」
せつ菜「この…!この…!」ジタバタ
侑「うわぁ……あんなの食らったらひとたまりもないよ……」
せつ菜「ふんぬぅっ…!」ジタバタ
愛「果たしてせっつーに逃げられるかな〜?それか、深呼吸を三回するだけでも、特別に離したげるよ?」
侑「え…!?」
愛「どっちの方が賢い選択か、せっつーなら分かりそうなもんだけどなぁ〜」
せつ菜「……言ったからには、守ってくださいね」
愛「おうともさ」
せつ菜「…………スゥゥー、ハァァー。スゥゥー、ハァァー」
せつ菜「スゥゥー、ハァァー………しましたよ、愛さん」
愛「はい、お利口さん。離したーげるっ」パッ
せつ菜「はぁっ!はぁ…はぁ…」
侑「せつ菜さん…!」
愛「落ち着いた?」
せつ菜「………はい。見苦しい所をお見せしました」 璃奈「かすみちゃん、落ち着いて」
かすみ「ふゔぅー!ふゔぅー!」
歩夢「怒ってるネコさんみたいになってる……」
かすみ「しゃあー!」
スッ
璃奈「かすみちゃん、なでなで」
かすみ「!」
璃奈「かすみちゃんがこうなってる時は、頭を撫でてあげると落ち着いてくれる」ナデナデ
璃奈「こないだ、しずくちゃんが、そう言ってた」ナデナデ
かすみ「……………ありがと、りな子」
璃奈「どうしてせつ菜さんと言い合いしてたの?」
かすみ「……今日、せつ菜さんに呼び出されて、かすみん達のことが学校中で話題になってるって事を知って」
かすみ「写真を撮った犯人探しの話になったんだけど、かすみん達を目撃したファンの逆恨みなんじゃないかって事になって」
かすみ「かすみんが『こんなことするやつ絶対許せない!』って言ったら、せつ菜先輩にこう言われたんです」
━━━確かに犯人は卑劣極まりないですが、かすみさんとしずくさんも軽率だったのではないでしょうか。
━━━お二人ともスクールアイドルとして顔が知られており、更にしずくさんは演劇部の花形的存在でもあります。
━━━多くのファンがいる以上、私的な時間であってもその立ち振る舞いは弁えるべきだったのではないでしょうか? かすみ「……その言葉は、正しくて。正論なんですけど、かすみんとしず子の大事な時間を否定された気がして……」
かすみ「それに、どこにいてもファンがいるつもりで行動しなきゃって……そんなの、かすみんも分かってたのに……」
かすみ「なのに、こんなことになっちゃって、それが情けなくて……悔しくて……」
璃奈「……そっか」
歩夢「かすみちゃん……」
かすみ「だから……せつ菜先輩に、八つ当たりみたいな真似、しちゃいました」
かすみ「……ごめんなさい、せつ菜先輩」
愛「……ってかすかすは言ってるけど、せっつーはどう?」
せつ菜「……いえ、私も今言うべきことでもなかったのに、つい口にしてしまいました。……失言でした」
せつ菜「かすみさん、すみませんでした」
かすみ「せつ菜先輩……」
愛「……よーし、これで仲直り!よかったね、せっつー!かすかす!」
かすみ「……だから、かすみんです!今の絶対わざとですよね!?」
かすみ「というか愛先輩、さっきもサラッとかすかすって呼んでましたし!かすみん聞き逃しませんよ!」
愛「えー?なんのこと?」スットボケ
ギャーギャー
侑「……かすみちゃんとせつ菜ちゃんの喧嘩は何とか治まったみたいだね」
璃奈「うん。とりあえず一件落着」
璃奈「りなちゃんボード『ホッ』」
歩夢「私しか居ない時はどうなるかと思ったよ……。皆んながいてくれて本当に良かったぁ」
侑「……そうなると、まだ残ってるのは、しずくちゃんの問題だね」 プロ意識とか以前に、生徒会長としては一応風紀とかのことも気にしないとだめだしね せつ菜「……とりあえず生徒会としては、掲示物の強制撤去と、掲示板の悪用の対策強化に動きました」
せつ菜「校内の監視カメラの確認も理事に打診しました。が……様子から察するに、了承を得るには時間がかかるかもしれません」
かすみ「えー…そうなんですか…」
愛「りなりー、校内のカメラにクラッキングとかできないの?」
璃奈「少し時間もらえれば、できないこともない」
せつ菜「やめてください!犯罪ですから!」
侑「……でも、掲示板に貼られてた写真、かすみちゃんの目がどれも黒塗りされてたんだよね」
歩夢「それって……犯人の狙いは、しずくちゃんってこと、でいいのかな……」
せつ菜「しずくさんに対する注目・非難を集中させるために、かすみさんを特定しづらいようにした、ということですか?」
侑「そういうことなんじゃないかな……」
かすみ「……じゃあ、犯人の動機がかすみんとしず子への逆恨みだとしたら、犯人はしず子のファンだった人……ですかね?」
璃奈「ファンとして応援してたしずくちゃんに、かすみちゃんという恋人がいたことで、裏切られたと感じて、しずくちゃんへの好意が敵意にひっくり返った。……確かに筋は通ってる」
愛「んー、でもそれ以外にも、可能性は考えられるよ?」 侑「他の可能性って、たとえば?」
愛「まずひとつは、しずくのファンじゃなくて、かすみんのファンという可能性」
かすみ「ええ!?かすみんのファンはそんなことしませんよ!何言ってるんですか愛先輩!」
愛「でもかすみん、考えてみてよ?」
愛「かすみんのことが大好きなファンの子がいて、その子が二人のデートを目撃。強い嫉妬に駆られたその子は怒りの矛先を、大好きなかすみんじゃなくて、自分のかすみんを横取りしたしずくに向けた」
愛「その可能性はないって、絶対に言い切れる?」
かすみ「……そんなことする人がいたら、かすみんのファンだなんて、名乗ってほしくありません」 愛「もうひとつは、そもそも初めからしずくのことを快く思ってなかった人物、という可能性」
愛「しずくに対して大なり小なり悪感情があって、二人のデートを目撃したそいつは、しずくを貶めることができるチャンスだと考えて、実行に移した」
愛「……という線も、考えられるんじゃないかな」
歩夢「でも、しずくちゃんは、誰かの恨みを買うような……嫌われるような子じゃないよ……?」
愛「んなこたぁ愛さんも分かってる。しずくは敵を作らない性格だから、嫌われるような言動もほとんどない」
愛「でも」
愛「恨みを買うことは、あってもおかしくないんじゃい? たとえば━━━しずくの演技の才能やその面目躍如に、嫉妬してとか」
かすみ「……!じゃあ、演劇部の誰かってことですか!」
愛「って落ち着け〜い、かすみん。これは愛さんの推理だから。憶測の域を出てすらないよ」
侑「……そっか。演劇部の誰か、か……」
璃奈「……?侑さん?」 侑「ずっと……気になってることがあったの」
侑「ねえ、かすみちゃん。あの十数枚の写真の中に、しずくちゃんが帽子を被ってなかった写真があったんだけど、それがどこの場面かって覚えてる?」
かすみ「……しず子が帽子を被ってなかったとしたら、かすみん達が待ち合わせをしてた朝の時ですかね……」
かすみ「しず子の帽子を買うことになって、お店に入るまではかすみんの帽子をしず子に被せてましたし、お店を出てからは二人とも帽子でしたし……」
侑「……やっぱり、そうだよね」
せつ菜「……ん?ということは……」
せつ菜「この写真の撮った人物は、しずくさんとかすみさんが待ち合わせしてる段階から、シャッターチャンスを見張ってた……ということですか?」
かすみ「……うそ、ですよね?」
かすみ「だって、かすみん。待ち合わせの場所は、しず子にしか言ってませんよ?」
かすみ「たまたま私たちを朝に目撃して、朝からずっと尾行してきたんじゃないんですか?」
侑「もちろんその可能性も捨てきれない。だけど……」
侑「朝の時点で二人をシャッターに収めたってことは、この時点で二人の関係を怪しんでたってことになる」
侑「朝の時点でだよ?それって相当、勘が鋭い人なんじゃない?」
かすみ「た、確かに……」
愛「もしかしてかすみん、待ち合わせ先でいきなりキスしちゃった!とか?」
歩夢「ええ///」
かすみ「いくらなんでもそんなことしてませんよぉ!」
愛「してないんだ?」
かすみ「してませんってば!」 かすみ「あ……ただ、『デート』とか『恋人』って言葉は、使ってたかもしれません……」
侑「大声で?」
かすみ「そこはボリュームを落としましたよぉ」
侑「……じゃあ、よっぽど耳がよくなきゃ二人の会話は聞こえないだろうね。いくら遠目でしずくちゃんを確認することはできても、二人の会話が聞き取れないんじゃ、朝の時点で二人が恋仲だって分かるのは難しい」
せつ菜「…… 『たまたまお二人を目撃して、朝からずっと尾行してきた』という線は、かなり無理があるように思えてきましたね……」
せつ菜「むしろ、『二人の恋仲をすでに知っていた、もしくは、前から怪しんでいて、二人のデートの予定を予め把握していたために、朝からシャッターチャンスを待つことができた』という線の方が、色濃くなってきたような気がしてきました」
かすみ「でも!でもですよ!デートの日も、待ち合わせの場所も、かすみんとしず子以外には秘密にしてたはずです!」
かすみ「どうやって犯人は時間も場所も分かったんですか!」 侑「……今の時点じゃ、どうやってその話を耳に入れたのかは分からない」
かすみ「……やっぱり、かすみんとしず子のスクープを朝から狙ってたなんて、おかしいですよ!」
かすみ「あの日までは、かすみんとしず子は外ではあくまで友達として振る舞ってましたもん!」
かすみ「ちょっとはイチャついたかもしれませんけど、周りに人が居ないのを確認してましたから!」
愛「……まあ〜、かすみん。本人たちは隠し通せてるつもりでも、周りから見ればバレッバレなんかもしれないぞ?」
愛「壁に耳あり障子に目あり。おまけに恋は盲目ときたもんだ。二人の関係を怪しんでる人が居たって、おかしくはないっしょ?」
かすみ「うぐ……」
愛「……もっとも、確かにデートの時間や待ち合わせの情報源が謎なのは不可解だし、何より……」
愛「決定的な証拠を掴むために一日中ずっと二人を尾行した。いくらその間柄を怪しんでたとはいえ、その執着心は異常だよ」
せつ菜「それに加えて掲示板での凶行……そんなことをした人物がこの学園に潜んでると思うと、ゾッとしません」
歩夢「そう、だよね……。今朝の誰もいない時間帯に掲示板に工作したってことになるから、相当に朝早く来てるよね」
侑「となると新聞部の可能性も……?特ダネへの執着心ってことなら、一日中の尾行も説明できる……?」ブツブツ
璃奈「それか、今朝の掲示板に、演劇部の取材の記事が載ることを前もって知っていた人物」
璃奈「もちろん私たちはしずくちゃんから教えてもらってた。それに……しずくちゃんが知ってるなら、演劇部も人たちも知ってたはず」 せつ菜「……皆さん、一旦ここで整理しましょうか」
せつ菜「今回のしずくさんの問題。それについて今、分かっていることをまとめてみましょう」
せつ菜「まず、誰が事件を起こしたのか。いわゆる犯人というやつです」
せつ菜「最初は、かすみさん・しずくさんのファンを想定していましたが、演劇部や新聞部という可能性も浮かび上がってきました」
せつ菜「監視カメラの確認の了承がまだ降りてない現時点では、犯人を断定するのはむしろ危ういのかもしれません」
せつ菜「次に、なぜ事件を起こしたのか。いわゆる犯行動機です」
せつ菜「これについては意見が大方まとまっていますが、しずくさんを攻撃の的にするためでしょう」
せつ菜「ファンなのに裏切られたから……自分の推しを横取りしたから……個人的に気に食わなかったから……考えられる理由は様々です」
せつ菜「犯人が分かればその動機も見えてくると思いますが、犯人が分からない以上は見えてこない部分でもあります」
せつ菜「私たちが整理するべきなのは、犯行そのもの。物的証拠と、かすみさん本人しか知りえない情報から、犯人の動きを追ってみることです」 せつ菜「まず犯人Aは、朝からお台場に居合わせており、かすみさん達を遠距離から視認していました」
せつ菜「二人が来ることを知っていて待ち伏せしていたのか、知らないで偶然その場に居たのか……そこは断定できません」
せつ菜「ただ、その場面を写真に収めていたことから、お二人の関係が友達以上であるとその時点で読んでいた、と言えるでしょう」
せつ菜「そこから、犯人Aは一日中かすみさん達の後を尾行し、瞬間瞬間を写真に収めていきました」
せつ菜「そして最後。かすみさんとしずくさんがベンチに並んで……その……」
愛「キス」
せつ菜「……を、してた瞬間を撮って、その日の行動は終了」
せつ菜「そして日にちがだいぶ空きますが」
せつ菜「今日の早朝、誰も居ないタイミングを見計らって、掲示板に写真を貼るなどの細工します」
せつ菜「あとは生徒たちがそれを見て、騒動の様子を遠くから見ているだけ」
せつ菜「……というところでしょうか」 侑「……こうして見ると、写真を撮った日と公開日が数日ちかく空いてるのは明らかに不自然だね」
歩夢「せつ菜ちゃん、新聞部はしずくちゃんの記事をいつ掲載したかって分かる?」
せつ菜「はい。昨日は新聞部が記事の発行のために特別に居残り許可を生徒会に申請していたので、そこで話は聞いています」
せつ菜「なんでも、昨日の放課後に取材し、その記事を昨日のうちに完成させて掲載したそうです」
せつ菜「帰るのは夜8時を回った頃だそうで、校内には当然だれも残っていなかったとのことです」
侑「……じゃあ、写真を貼り付けられるのは、やっぱり今朝しかないか…」
愛「うーん?じゃあ、犯人もだいぶ絞られてくるんじゃない?」
愛「そりゃ、世間の注目度からして、あの特ダネ写真で一番しずくにダメージを与えられるのが、取材の記事が掲載されるタイミングってのは分かるよ?」
愛「でもそれは記事が出るのを前もって知ってるからこそ出来るわけで、そこらのファンの子じゃ出来ないっしょ?」
璃奈「……ただ、単独犯とは限らない。写真を撮った犯人Aが、新聞部の部員Bと結託して、部員Bに写真を貼らせた可能性も否定できない」
愛「あーそかそか。さすがりなりー」 かすみ「むむむ……なんだか考えれば考えるほど、かすみん、頭痛が痛くなってきました……」
歩夢「かすみちゃん、大丈夫…?少しそこで休もっか」
かすみ「すいません……」ゴロンッ
歩夢「もう、そんなしおらしいかすみちゃん、かすみちゃんらしくないよ?」
かすみ「歩夢先輩は一言よけーなんです……」
歩夢「ふふっ、ごめんね?」
歩夢「……ねえ、かすみちゃん。……私ね?かすみちゃん達は悪くないって思ってるんだ」
かすみ「え……?」
歩夢「確かに、私たちはスクールアイドルとして活躍してて、応援してくれてるファンの人もいる」
歩夢「だけど、私たちは高校生なんだから。誰かを好きになって、恋しくなって、愛し合って……それの何がいけないのかな?」
かすみ「…………」
歩夢「私は、かすみちゃんとしずくちゃんがお付き合いしてること、秘密にする必要はないと思う」
歩夢「むしろ、私たちの恋仲をどうか皆さん応援してください!って言っちゃっても良いと思うんだ」
かすみ「……そんなことしたスクールアイドルの人、見たことも聞いたこともないですよ」 歩夢「そうかな?」
かすみ「そうですよ……かすみんは皆んなのかすみんですし、しず子は皆んなのしず子ですから」
かすみ「ましてや、しず子は演劇部のスターもやってるんです。……きっと皆んな、桜坂しずくが誰かのものになるなんて、許せないに決まってます」
歩夢「……」
かすみ「そんなことはかすみんがよく分かってました。だから━━━」
かすみ「しず子のことは、絶対に私が守らなきゃいけなかったんです…」
歩夢「かすみちゃん……」
かすみ「……なのに、しず子を、こんな目に遭わせちゃって……」
歩夢「……」
かすみ「かすみんは…恋人失格です……」ポロポロ
歩夢「……かすみちゃんもしずくちゃんも悪くないよ。悪いのは、あんなことした人だよ」
歩夢「だから、かすみちゃん。自分を責めないであげて?」
かすみ「ごめんなざい、あゆむぜんぱい……」ポロポロ
歩夢「今は泣いてもいいよ。しずくちゃんの代わりに、頭撫でてあげるから」
なでなで
かすみ「えぐ、しず子……ごべんね、しず子……」ポロポロ
━━━━━━━
━━━━━
━━━ 【演劇部 練習場所】
「あっ……桜坂先輩だ」
「声かけた方が…いいのかな……」
しずく「……あ」
「!」
しずく「……ごめん、部長、どこにいるか知ってる?」
「えっと……たぶん部室にいると思います」
しずく「……そっか。ありがとう」
「……あの、先輩」
しずく「…どうしたの?」
「その……こういうとき何て言っていいか分かんないんですけど……」
「……元気、出してください」
しずく「……うん。心配かけちゃって、ごめんね?」
「……桜坂先輩」
◇◆◇◆◇◆◇◆
【演劇部 部室】
しずく「……ふぅ」
ガチャッ
しずく「失礼します」 スクールアイドルも学校やグループによって全然温度差違いそうだね。恋愛全然オッケーというところも多そう 部長「さ「わざわざ呼び出してしまってすみません、桜坂さん」
しずく「……いえ」
部長「お呼びした理由は、先ほどの電話口でもお伝え通りです」
部長「例の件に関する事実確認と、演劇部における今後の活動について、話の場を設ける必要があると判断したためです」
部長「まず、桜坂さん、あなたに何点かお聞きしたいことがあります」
しずく「……はい」
部長「例の件は、桜坂しずくに特別なパートナーがいることを示唆していましたが、それは事実ですか」
しずく「……はい」
部長「何故、我々には黙っていたのですか」
しずく「……わざわざ打ち明けるほどでもないと判断したためです」
部長「では、あなたは嘘を吐いていた、ということですか」
しずく「……」
部長「以前にあなたは、遠距離恋愛をテーマにした舞台のヒロインを演じ、その際のインタビューでは自分が恋愛経験がないと仰っていました」
部長「こちらについてはいかがですか」
しずく「……私たちの関係は一部を除いて外部には秘密にする方針でした」
しずく「そのため、あの場では居ないという発言をしました」
部長「しかし実際にはお付き合いしているパートナーがいた」
部長「桜坂さん、これはファンに対する立派な裏切り行為ですよ」
しずく「……そうですね」 相手が同性ならなおさら簡単に言えるわけないみたいな配慮はないのかこの人には 部長「……たしかに演劇部では、部員の恋愛について特に規則を設けていません」
部長「節度を保ち、風紀を乱さないお付き合いを各人に心がけていただき、仮に何かあってもそれは自己責任となります」
しずく「……」
部長「ただ、桜坂さん。あなたは今や私たち演劇部の看板であり、顔であり、花形です。言わば他の部員とは違う立場にあります」
部長「あなたに対する熱狂的な支持者も多いですが、今回はそれが裏目に出てしまったようですね」
しずく「……部の皆さんにはご迷惑をおかけして、申し訳なく思います」
しずく「合同の本番まで一週間を切ったというのに、私のことで水を差すことになってしまい、本当に……」
部長「……事実確認は以上です」
部長「次に、今、桜坂さんからもありましたが、今後の活動について━━━直近では、一週間後の合同演劇祭」
部長「それについて、お話したいと思います」 部長「合同演劇祭で発表する我々の演目『山門』において、桜坂さんは主人公・石川五右衛門役を演じることは、既に外部にも公表されてます」
部長「ただ、今朝の騒ぎを受けて、演劇部としてこのままで行くべきか否か、改めて考えさせていただきました」
しずく「……続投か降板、ということですか」
部長「そういうことになります」
しずく(……この流れで言えば、間違いなく、降板、だよね……)
しずく(せっかくここまで、あの日があったから今まで頑張れてきたのに……)
しずく(こんなことになるなんて、本当に悔しいな……)
部長「……結論から申し上げます」
部長「━━━桜坂さん、あなたには主演を続投していただきたいと思います」
部長「ただし、ある条件付きですが」
しずく「……え?」 部長「桜坂さんの主演続投についての判断は、三つ理由があります」
部長「一つ目は、本案件の規模からすれば、今後の対応によって信頼回復できる目処があること」
部長「先程は敢えて強い言葉を使いましたが、本案件は簡潔に言ってしまえば『桜坂しずくに恋人がいた』というだけです」
部長「飲酒や喫煙など校則に反する行為の場合は話が別ですが、こと恋愛に関しては強い拘束力はありません」
部長「もちろん、桜坂さんの立ち位置は他の部員とは一線を画す必要があります。しかし、一般論として、信頼を取り戻すには、真摯な態度で然るべき対応を取ることが一番早いだと私は思います」
しずく「……」
部長「二つ目は、演劇部の現状を鑑みるに、桜坂さんの代役を立てるのが困難であること」
部長「桜坂さんもご承知だとは思いますが、『山門』の石川五右衛門は、並大抵の役者が演じられる役ではありません」
部長「小手先の技術や演劇理論を超越して、観客全てを圧倒し魅了するような、演者としての『存在感』が求められてきます」
部長「……私見ですが、今の演劇部の部員は全員「演技は上手い」と思います。ただ、私が今言った、観客を惹きつける強烈な存在感」
部長「さしずめ『魔力』とも言えるでしょうか。その魔力に関しては、桜坂さんには誰もが敵いません」
部長「それに加えて、今から代役を立てるとなると、あと一週間しか稽古の時間がない以上、かなりの苦労を強いることになります」
しずく「……」
部長「そして三つ目ですが……この五右衛門役は桜坂さんの汚名返上・名誉挽回のチャンスでもあるということです」 しずくが動揺してるのもあるけど部長の演技力も凄いな
こんな壮大な嘘つける自信がないわ… 部長「……正直な話ですが、当初は降板させるべきなのではと考えました」
部長「それは罰則というよりむしろ、演者の身を守るため……つまり、桜坂さんを表舞台に立たせることは危険なのではないか」
部長「実際問題として、演者の不手際が原因で観客が暴徒化し、劇が台無しになったり演者が傷つけられた……そういう過去の事例もあります」
しずく「……それでも、私を降ろさず続投させるのは、そのリスクを背負え、ということですか…?」
部長「先ほど話した通り、今後の対応次第でそのリスクをある程度は回避できると思いますが……完全に防げるとは考えにくいでしょう」
部長「要はハイリスクハイリターンです。リスクを背負うことにはなりますが、五右衛門役として桜坂さんが舞台に立ち、劇を成功させれば、それ以上ない信頼回復が期待できます」
部長「反対に、降板はローリスクローリターンです。観客に対しての心配は減りますが、汚名返上の機会は失われます」
部長「……私としては、桜坂さんにご自分の名誉挽回をかけて五右衛門役に挑戦してもらいたい、そう強く思います」
しずく「部長……」
部長「勘違いしないでくださいよ?確かにこれは桜坂さんのこれからを案じての意見でもありますが、それ以上に……」
部長「きっとその気概で望んだ演技なら、4校の中で虹ヶ咲が一番になれるでしょうから」ニヤッ
しずく「……ふふっ。案外、侮れないお人ですね。部長」
部長「演劇が好きなだけですよ」 >>153
全部が全部舞台のためだけにやってる真性の劇キチなのかもと思えてくるレベルだな しずく「それで部長、条件とは……?」
部長「……そう。その話がまだしてませんでしたね」
部長「これは、演劇部からのお願いのようなものです」
しずく「お願い、ですか……?」
部長「はい。以後、今回のようなことが起きないように、その戒めとしてご理解ください」
部長「……桜坂さんには辛いかもしれませんが」
しずく「あの、おっしゃってる意味が……」
部長「端的に申し上げます」
部長「桜坂さん、今の交際相手の方と、別れてください」
しずく「…………え?」 部長「合同演劇祭に出演するのではあれば、今の交際相手の方とは別れていただきます。それが条件です」
しずく「ま、待ってください!」
しずく「部長はさっき、演劇部は恋愛については各人の自由だって、」
部長「だから、あなたは他の部員とは一線を画す必要がある立ち位置であるとお伝えしたではありませんか」
部長「それとも桜坂さんは、この騒ぎに巻き込まれてなお、自分は特別ではないと━━━そう思ってるのですか」
しずく「で、でも、」
部長「━━━それとも、自分の犯した罪の重さをまだ自覚してないんですか」
しずく「……っ」
部長「桜坂さん。あなたはご自身を支持する人たちの期待に叛いて、狡猾い真似を働いたんですよ?」
しずく「うぅ……」
部長「罪を犯した以上は、相応の罰を受ける。それこそが桜坂さんがこれから取るべき、真摯かつ誠実な態度だと思いませんか?」 しずく「……部長の仰ってることは、よく分かります」
しずく「私は……ファンの皆さんに隠れて、交際を続けてきました」
しずく「秘密を守るため、嘘をつき続けてきました」
しずく「皆さんの『桜坂しずく』像が崩れるのを恐れて、仮面を被って、清純派を気取って、」
しずく「━━━皆さんの理想の桜坂しずくを、演じ続けてきました」
しずく「それが罪だと仰るならば、私は罪を認めます」
しずく「自分の狡さを、卑しさを、愚かさを、白状します」
しずく「白日のもとに晒して、罰を受け入れます」
しずく「でも」
しずく「別れろ、なんて━━━その罰は、あまりにも今の私には重すぎます」
しずく「圧し潰されてしまいます」
しずく「崩れ落ちてしまいます」
しずく「死に沈んでしまいます」
しずく「だから」
しずく「それだけは、許してください」
しずく「私から━━━あの人を、奪わないでください」
しずく「この最愛を、殺さないでください」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています