愛「鬼殺隊?」
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暗い、暗い森の中でうずくまる。執拗に追いかけてくるナニカから隠れるために。
さっきまで走って逃げたためにきれる息を必死に殺す。
愛(何だったの、アレ…)
気がついたら日の暮れようとする森の中にいたアタシは、そこでようやく出会えた人影に安堵して、不用心にも声をかけてしまった。しかし、それが間違いだった。
振り返った男の姿は異形そのものだった。真っ赤な目にむき出しになったとがった牙、あげく頭には角まで生えていた。その姿に暗い森の情景も合わさり、りなりーの家で一緒にやったホラーゲームを思い出し、アタシの脳内に不吉な結末が浮かび、気が付いたら逃げ出していた。
愛(確か愛さん、りなりーと別れて、ウチに帰る途中で…)
意味も状況も分からない。ただ、逃げる後ろから尋常ではない速度で追いかけてきた男に対する恐怖心だけがあった。 愛「…ところで、しのぶさんの言ってた担当も柱のお仕事なの?」
その後少し無言で見つめ合っちゃったんだけど、さすがに照れ臭くなって、手を離して義勇に違う話題を振る。
義勇「ああ」
愛「へぇ、いつからあるの?」
義勇「昨日からだな」
愛「そっか、じゃあ今日も頑張ってきたんだね」
義勇「…それほどでもない」
ちょっと目線をそらす義勇。
ん?
愛「でも、そっか。それなら今日も早く寝ないとね。大分話し込んじゃったし」
義勇「ああ。風呂を沸かしてくる」
愛「え、いいよ。アタシが…」
言う間もなく義勇はサッサといってしまった。
まだ何か隠してるな?
愛「さて、と。アタシは布団でも敷いてこようかな」
でも、今日はもう満足だ。これ以上は踏み込まないでおこう。 続き来てた。この辺の距離感の取り方がコミュ強の愛さんっぽいね それから数日経つけれど、アタシたちは特に何事もなく毎日を過ごしていた。
義勇は毎日変わらず朝早くに出かけて、アタシが仕事先から帰ってくるころには家に帰ってる。
これまではいたりいなかったりしていた分晩御飯の献立を考えるのは楽だ。
愛「ただいま〜。あれ?」
玄関に見覚えのない履物が。お客さん?
抱えてた食材を台所に置いて居間に行くといない。
自分のお部屋かな?
愛「ぎゆーさん?あれ、たんじろーくんじゃん!おひさ!」
炭治郎「あ!愛さん、お久しぶりです!お邪魔してます。これ、お土産です!」
部屋着に着替えてお部屋に行くと、部屋の前に炭治郎くんがいた。
義勇の部屋の前で正座している。
愛「ご丁寧にどうも…入んないの?」
ちらりとふすまを開けると義勇は中にいるみたいだけど。
炭治郎「いえ、義勇さんにお話しがあって入らせていただいたんですけど、帰れと言われてしまって」
愛「ええっ!?義勇さんひどいな」
よく見ると、炭治郎くんは足にギプスを付けていて、松葉杖も脇に置いている。
そんな状態で来てくれた炭治郎くんを、放ったらかしにするなんて。
虫の居所でも悪いのかな。だとしたら粘る作戦は逆効果じゃない? 愛「もうそろそろ日も暮れるし、今日は帰ったら?」
炭治郎「ですが、まだ義勇さんと話せていないので」
愛「うーん、廊下で話すのもなんだしさ、とりあえず居間に行かない?お茶入れるよ?」
炭治郎「いえ!俺はここで結構ですから!」
愛「いやいや、アタシが気にするんだって」
炭治郎「おかまいなく!」
頑固だなぁ!?
愛「えーと、ほら、ぎゆーさんへの要件もアタシが後で伝えられるかもだしさ。とにかく、ね?」
炭治郎「え、うーん。わかりました」
やっと譲歩してくれた。
まぁ、みたことないけど、義勇が本当に怒ってて閉じこもっちゃったんならとりあえず離さないとね。
それに、何があったのか話を聞かないことにはどちらにも協力できないし。 続きがきてた。炭治郎くんが松葉杖ついてるから錆兎の話をするときか。今回は愛さんとも話してるけどどうなるかな 愛「さてと、まずは義勇さんに何の用事があったか聞かせてもらおうかな」
お茶をどちらが入れるかで少し揉めたので居間にたどり着くまで少しかかった。
炭治郎「はい。足が治ったら義勇さんに稽古をつけていただこうと思いまして、ですが話の途中で…」
愛「帰れっていわれちゃったんだ。怒らせちゃったの?」
炭治郎「はい…怒ってる匂いがしました」
匂い?
愛「ふーん。ほかに心当たりはないの?何か言っちゃったとか」
炭治郎「いえ…でも、義勇さんは俺が水の呼吸を極めなかったことを怒ってると言っていました」
愛「水の呼吸?」
炭治郎「俺と義勇さんが師匠から教わった呼吸法です。ほかにも炎や雷、風の呼吸なんかがあって、鬼殺隊は呼吸法を使って鬼と戦うんです」
武道や茶道なんかの流派みたいなものか。
そういえば義勇は水柱なんていわれてるし、水の流派の免許皆伝したようなものなのかもしれない。
愛「なるほどね。弟弟子のたんじろー君が他の流派に取られると思って怒っちゃたんだね」
義勇は炭治郎くんのこと凄く気に入ってるみたいだし。
でも炭治郎くんは命がけで鬼と戦ってるんだし、ちょっと他の流派に浮気するくらい許してあげてもいいんじゃないかなとは思う。
炭治郎「いえ、そういうことではないと言っていました」
愛「あ、そうなんだ。そうだよね」
炭治郎「ただ、俺が水柱にならなければならなかったと言っていました。あとは、水柱が不在だとか。水柱は義勇さんなのに…」
愛「ぎゆーさん…」
ここまで聞いて、ようやくアタシは義勇の怒っている理由が分かった。
自分が柱にふさわしくないと思っている義勇は、錆兎っていう人が着くべきだった(と義勇が思ってる)その地位を炭治郎くんに継いでほしかったんだ。 炭治郎「俺、義勇さんの言っていることがよく分からなくて。それで意味を聞こうと思って部屋の前で待ってたんです。もしかして、愛さんは知ってますか?」
愛「…知ってるよ」
炭治郎「!じゃあ…」
愛「でも、義勇さんが言ってないことをアタシからは教えられない。たんじろーくんが自分で聞かないとね」
炭治郎「…わかりました」
愛「でも、その協力はできるだけしてあげる」
炭治郎「!ありがとうございます!」
あの日、うなずきはしたものの結局義勇はまだ自分を責めている目をしていた。
アタシがこれから側でゆっくり励ましていこうと思っていたけれど、もし義勇が自分から炭治郎くんにも話すなら。
義勇が自分を許せるようになるための助けになってくれるかもしれない。
愛「さて、話もついたし、ごはんにしよっか。炭治郎くんも食べてく?」
炭治郎「え、ですが…」
愛「ぎゆーさんから話聞くなら、食卓は一緒な方がいいっしょ?いっしょだけに!」
炭治郎「じゃあ、お願いします!」
スルーされた。
ああ、久しぶりにあの娘が恋しい。 炭治郎くんはスルーというか駄洒落に気が付いてないなw 映画の2020年の興行収入世界1位だそうでおめでとう保守 義勇「…宮下」
愛「あ、ぎゆーさん!聞いて!たんじろーくんすっごいご飯炊くの上手いんだよ!アタシ感動しちゃった!」
炭治郎「俺、実家が炭焼きで。だから、火加減は得意なんですよ」
愛「へ〜。あ、ぎゆーさんの分もご飯よそうね?座って待ってて」
義勇は何か言いたげにこっちを見ていたけど、一度嘆息すると大人しく席に着いた。
愛「はい、どーぞ」
義勇「ああ」
そこからは楽しい夕食の時間だ。
義勇はほとんど自分から話題を振るなんてことはしないから、いつもアタシが言うことに相槌をうってもらうのが毎度おなじみの我が家の食卓の光景。なんだけど。
炭治郎「あ!このぬか漬け凄いおいしいです!」
愛「でしょでしょ!宮下家伝統の味なんだ〜!」
炭治郎「へ〜、今度作り方教えてください!」
愛「ふっふっふ〜、いいよ〜!あのね、ぬか床からこだわってて〜」
今日はいつもよりずっと賑やかだ。
いつものも、それはそれでいいんだよ?なんというか味があるっていうか。
でも、やっぱり賑やかなのもいいよね!…義勇さん一言もしゃべってないけど。 きてた。炭治郎くんの反応や義勇さんずっと無言なのすごくそれっぽい。楽しそうだけどもう決戦までそれほど間がないか 義勇「…炭治郎。禰豆子はどうした」
あ、しゃべった。
炭治郎「!今は鱗滝さんのところで預かってもらっています」
義勇「…そうか」
でも、それだけいうと、また黙々とごはんを食べ始めてしまう。
炭治郎「あの!」
義勇「…それを食べたら帰れ。明日も訓練があるのだろう」
愛「あ、それなんだけどさ。たんじろーくん今日泊まっていきなよ」
あ、二人ともびっくりしてる。
そして、義勇さんだけ何言ってるんだお前みたいな顔で固まった。
炭治郎「でも、さすがに急なお話ですし、ご迷惑じゃ…」
愛「いや、アタシたちはいいよ。ね、ぎゆーさん」
見るからに嫌だ、という顔をしている。
でも、今回はそれを察していない振りで笑顔で無視した。
心が痛まないことはないけれど、炭治郎くんをきっかけに義勇にはいつか過去を乗り越えてほしい。
アタシは剣士じゃないから、本当の意味で義勇の苦しみを分かってあげられないから。
せめて乗り越えられなくても、自分を許せるように頑張れるようになってほしいから。
愛「それに、足折れてる人を暗い中一人で帰すのは…ね?」
義勇「…今日だけだぞ」
あ、折れた。
炭治郎「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」
愛「うんうん!どんどん甘えちゃって!」
それからも炭治郎くんは毎日来て、アタシの勧めで2日に一回はウチに泊まるようになった。
最初の方は不機嫌になってた義勇だったけど、炭治郎くんは来る度に義勇に話しかけ続けるから、途中からは、え?なんでまた来たの?いつまで来るの?という戸惑いの表情になっていった。 愛さんと炭治郎くんはすごく相性良さそう。戸惑ってる義勇さんの表情めちゃくちゃ目に浮かぶな 義勇「宮下…」
愛「ん?どーしたの?」
今日は炭治郎くんのいない夕飯だ。
珍しく義勇から話しかけてくれたけど、なんだかその表情は疲れている。
義勇「どういうつもりだ」
愛「どういうって?」
義勇「とぼけるな。炭治郎のことだ。何をたくらんでいる」
あー、さすがにアタシが炭治郎くんに手を貸していることに気づいたか。
いや、あからさま過ぎたし、とっくに気づいていて我慢の限界がきたのかもしれない。
愛「たくらんでるっていうか…。ほら、夕飯は賑やかな方がいいじゃん」
義勇「それだけではないだろう」
じーっとこっちを見つめる義勇。
うーん、ここらが潮時かな。 愛「ぎゆーさんだけのけものみたいになっちゃてたのは、ゴメン。実はさ、たんじろー君が最初に来た日に相談されたんだよ。ぎゆーさん、たんじろー君に水柱がいないってだけ言って、帰れって言ったんでしょ?」
義勇「…ああ。話したのか?」
愛「話してないよ」
義勇「…そうか」
愛「でもさぎゆーさん、たんじろー君に柱になってほしかったって言ったんだよね?そんな一目置いてる炭治郎くんくらいにはさ。話してあげてもいいんじゃない?」
ここ何日かでずいぶん仲良くなったけれど、すごく優しい人だってわかった。
どんな経緯で鬼殺隊士になったのか、鬼になってしまった妹の禰豆子ちゃんを連れていることからこれまでにとてもつらいことがあったんじゃないかと想像できる。
でも、そんなことを微塵も感じさせない温かさを持っている。
話したって、きっと義勇が傷つく結果にはならないはずだ。
愛「大丈夫だよ。たんじろー君なら。たった一人の弟弟子なんでしょ?」
義勇「…俺は、宮下だから話したんだ」
そういってもらえるのは嬉しいけれど、アタシもいつかぎゆーさんに自分を許せるようになってほしいんだ。けれど、流石に急すぎたかな。
ずっと一人で苦しんできたんだもんね。
アタシに話したのだって相当な覚悟だったのかもしれない。
愛「そっか…わかっ…」
義勇「だが、宮下がそう言うなら…考えておこう」
愛「!ぎゆーさん…!うんっ!ありがとう!」
義勇「…」
それからは黙々と二人でごはんを食べた。
考えておくなんて言い方だったけれど、義勇にとって良い方に転がってくれたらいいな、なんて思いながら。 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています