彼方「彼方誕編集」
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9、遥
0、侑
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全て彼方との組み合わせ 彼方「ただの」
彼方「ただの夢だよ……っ」
遥「お姉ちゃんは知らないから!」
彼方「っ……」
遥「あんなの、夢じゃないよ……」
遥「はっきり、覚えてるんだよ?」
遥「お姉ちゃんが侑さんと付き合って、私よりもそっちを優先していくようになっちゃったり」
遥「お姉ちゃんがだんだんと様子がおかしくなって」
遥「しずくちゃんには私がいなきゃダメなの。なんて言いながら……どんどん、壊れていって」
遥「それで、それで……最後には虹ヶ咲の校舎内で二人で自殺しちゃうの」
遥「冷たくなったお姉ちゃんの手、固くなったお姉ちゃんの身体」
遥「二度と開かない目と口」
遥「全部はっきり覚えてる! 今も、この手に感じるの……」
遥「怖い」
遥「怖いよ……嫌だよ……お姉ちゃん……っ……」
遥「私を置いていかないでよっ!」
遥「お願い……」
遥「お願いだから……」
遥「私を一人にしないで……」 エマ編は遥ちゃんも癒される内容だからなんとかそこまで耐えてくれ 放課後の校門前
この時間の校内では最も人の目がある場所で、号泣する遥ちゃん
縋りつかれる、私。
彼方「遥ちゃん……」
人目なんて気にしていない
遥ちゃんはそんな余裕なんてない
だって、一度は止めようとして
でも、私と一緒に続けていくと決めたスクールアイドルをこんなにもあっさり辞めちゃうんだから
遥「やだ……」
彼方「大丈夫だから」
彼方「遥ちゃんを置いてどこかに行くなんて絶対にありえないよ〜」
彼方「信じて?」
彼方「ね?」
遥ちゃんを抱きしめて、頭を撫でてあげる
周りの人たちが「修羅場」とか「禁断」とか
何か色々言ってるけれど……気にしてられない。
そんなことで恥じらって遥ちゃんを突き離したりしたら……本当に終わっちゃう気がして。 遥「約束だからね……」
彼方「うん」
遥「腕組んでていい?」
彼方「仕方がないなぁ……」
遥「今日一緒に寝てくれる?」
彼方「いいよ〜」
遥「明日も、明後日も……ずっと一緒にいてくれる?」
彼方「う〜ん……バイトがあるんだけど……」
遥「なら私も一緒にバイトする!」
遥「それが駄目なら、ずっと見てる」
遥ちゃんは全部本気
私が駄目だって言わないとバイトをするだろうし
それならそれでどこかから私を見つめてる 怖いけど、でも、本気
今日の夜また違う夢を見たら、この態度は変わるのかな
きっと……悪化しちゃう
彼方「……見てて良いよ」
スクールアイドル、やめた方が良いかな……
それで、バイトの時間早くして
遥ちゃんが遅くならないように……でも……
遥「お姉ちゃんとずっと一緒にいる」
彼方「も〜甘えん坊だなぁ」
遥「……嫌?」
彼方「そんなことないよ〜」
彼方「彼方ちゃんだって、遥ちゃんがいつか離れていっちゃうんじゃないかってドキドキだったからねぇ」
恋人が出来たり、
進学したり
結婚したり
何かがあっていつかは別れていくものだから
でもまさか、こんなことになるなんて思わなかった 遥「どこにもいかないよ」
遥「私、お姉ちゃんとずっと一緒にいる」
遥「……お姉ちゃんも、東雲に来てくれたらよかったのに」
遥「そうしたら、こんな不安になることもなかったのに」
違うかな
そう零した遥ちゃんはもっと強く私の腕にしがみ付いて来る
絶対に離さない
絶対に離れない
そんな意思を感じる遥ちゃんの力
遥「私がもっと勉強頑張って、虹ヶ咲に入学したらよかったんだよね」
遥「奨学金貰えるくらい」
彼方「そんなこと気にしなくていいのに〜」
遥「ううん。私が一緒に居たいの……居たかったの」
遥「だって……」
遥「今日一日……連絡が遅いだけで、電話に出てくれないだけで」
遥「死にそうなくらい、不安になって怖くて……気が気じゃなかった」
遥「転入はもう遅いから……私、就職も進学も。お姉ちゃんと一緒の場所にするね」
遥「二度と……間違えたりしないよ」 心中のときといい、壊れかけの人間の書き方がすごいすき
更新楽しみです 彼方「間違えてないよ……」
彼方「真剣に悩んで、相談して、考えて……それで決めたことなのに」
彼方「間違えたなんて、言っちゃだめだよ……」
遥「ううん、それだけ悩んでも間違えることだってあるんだよ」
遥「……お姉ちゃんのことが大事なら、死ぬ気で勉強してでも虹ヶ咲学園を選ぶべきだった」
遥「私は、逃げちゃったんだ」
過去を悔やみ、自分を憎み、
恨み言のように遥ちゃんは言葉を噛みしめる
そんな必要なんてないのに
そんなはずがないのに……なのに。
彼方「遥ちゃんのことを悪く言うのは、遥ちゃん自身だとしても許さないよ〜」
遥「………」
遥「じゃぁ……お姉ちゃんは私が傍に居ない方が良かったんだ」
遥「その方が嬉しいんだ……」
彼方「ち、ちがっ」
遥「やっぱり……私を置いていくつもりなんだ」
彼方「違うよっ……違うから」
彼方「ね……? 本当に、違うから……」 遥「だったらどうして、悪く言うのは許さないなんて言うの?」
遥「どっちの方が一緒にいられるのか考えたら」
遥「前の私が間違ってたのは明白だよね……」
遥「なのに、それを咎めちゃいけないって言うってことは」
遥「お姉ちゃんは一緒に居たい私が間違ってて、一緒にいられなくなった私が正しいって思ってるってことだよね?」
彼方「痛っ……」
遥ちゃんの腕を組む力が強くなって
組み敷かれているかのような感覚に、痛みが走る
足は止まって、俯きがちな遥ちゃんの見えない口から聞こえる声
怖い……
この遥ちゃんは、怖い
彼方「痛い……痛いよ、遥ちゃん……」
遥「私は、もっと痛かったよ」
遥「お姉ちゃんと会えない時間、話せない時間」
遥「連絡を返してくれるまでの時間、電話に出てくれるまでの時間」
彼方「痛っ……痛いってば……」
遥「ずっと……死にそうなくらい辛かったって、言ったよね?」
遥「その痛さは、腕を掴まれる程度じゃすまなかったよ……?」 遥「それなのに……お姉ちゃんは」
遥「痛いって……振り払うの?」
彼方「っ……」
彼方「振り払うわけ……ないよ〜……」
遥「なら、前の私は間違ってたよね?」
遥「今の私が正しいよね?」
遥「ねぇ……そうだよね?」
下から覗く遥ちゃんの瞳
心の奥底まで見ぬことしているそれは恐ろしくて
どうしても口が震えちゃって……声が出ない
すぐに答えなきゃいけないのに
はっきりしておかないといけないのに
あんなに悩んで、考えて
自分から東雲学院にすると言った遥ちゃんの笑顔を……否定したくないのに
否定しなければいけない逼迫感に湧きたつ心が、
タイムリミットのように細められる遥ちゃんの目を直視させてくれない
彼方「う……うん……」
遥「………」
遥「えへへっ、そうだよね」 遥ちゃんは怖い笑顔を浮かべながら、
握りつぶそうとしているみたいな力を緩めていって
そうして――
遥「しずくさんと一緒にいなかったっていうのは、嘘じゃないよね?」
彼方「え?」
遥「………」
遥「バイト先に、男の人いないよね?」
彼方「普通に居るけど……大丈夫」
彼方「誰にもそんな気ないよ〜」
遥「そうだと良いね」
遥ちゃんは少し冷たく言い返してくる
なんだか、変な感じ
距離は遠くなっていないのに
ちょっぴり離れちゃったかのような……
彼方「わた――」
遥「絶対に、離さないからね」
その笑顔は……目を閉じてもずっと、私を見てる感じがした 遥「あ、そうだ……」
遥「お姉ちゃん、スマホ出して」
彼方「えっと……何するの?」
遥「しずくさん達と何かやり取りしてないか確認しておきたくて」
彼方「してないよ!?」
彼方「練習の件でやり取りはしてるけど、でも、そんな……」
遥「なら、出してくれるよね?」
それなら大丈夫なんて遥ちゃんは言わない
ただ、それがあたりまえだと思っているかのように笑顔で、私に手を出してくる
スマホを出してって
今すぐ、渡してって
彼方「……信じてよ」
遥「えー?」
遥「信じてるから、お姉ちゃんが学校に行くのを止めてないんだよ?」
遥「疑ってたら、お姉ちゃんを学校とかバイトに行かせるわけないよ」
遥「も〜何言ってるんだか〜」 彼方「遥ちゃん、それは……」
遥ちゃんは、笑顔
それがどれだけのことかなんて、まるで思ってない
冗談のような口ぶりで、本気
内包している狂気が……今にも爆発しそうな感じがする
彼方「私を、家に閉じ込めるってこと?」
遥「閉じ込めるんじゃないよ」
遥「守るんだよ」
遥「だって、車が走ってて、人が歩いてて、どこかでは工事が行われてて」
遥「お姉ちゃんがいなくなっちゃう可能性が無限にある」
遥「そんな場所にお姉ちゃんを出しておくことが怖くて不安」
遥「だから……守っておこうかなって考えもあるんだ」
照れくさそうに笑う遥ちゃん
でも、その言葉は……
遥「けど、お姉ちゃんは外に出たい理由があって出るべき理由があって」
遥「だから、出ててもいいかなって思ってる」
遥「……なのに、お姉ちゃんが隠し事するなら」
遥「私に嘘をつくなら」
遥「もう……ずっと家にいて貰わなくちゃいけなくなっちゃう」
遥「それは、私もお姉ちゃんも幸せになれない。よね?」 彼方「………」
私を監禁しなくて済むようにしたいから……なんて、想いの込められた悲しそうな笑顔
おかしい
遥ちゃんが言っていることは普通じゃない
だけど、それを指摘したらダメな気がする
間違いなく幸せになれない
私を監禁して、それで守れるかもしれないけれど
でも首輪のついた私は、きっと遥ちゃんの好きな私じゃない
だから、遥ちゃんでさえも幸せにならない
彼方「そうだねぇ……幸せになんて、なれないと思う」
遥「だから、スマホ出して」
彼方「………」
彼方「……分かった。良いよ〜好きなだけ見て」
ポケットから出して、そのまま遥ちゃんに渡す
暗証番号は言うまでもなく解除されちゃったのは……もう言っても仕方がない 遥ちゃんは一通り操作をして、
普通のメールや、アプリのメッセージ、電話の履歴
何もかもを全部漁る遥ちゃん
そのまま自分の鞄の中に私のスマホをしまい込む
彼方「あっ……えぇっと……返しては、くれないの〜?」
遥「私が傍にいるのに、必要なの?」
彼方「あ〜……うん、要らないかもね〜」
彼方「充電して貰えれば、うん……」
遥「だよね」
遥「……学校も学年も違うから、無いとダメだけど」
遥「双子だったら、こんなの要らなかったのかな?」
彼方「どうかな〜……」
遥「以心伝心、第六感で感じ取れちゃったりするのかなぁ」
遥「えへへっ、私とお姉ちゃんも感覚共有みたいなの。出来たらよかったのにねっ」
彼方「そ、そうだねぇ……」
楽しそうに話す遥ちゃんは今までのようで……数秒前の不気味さとの違いに悪寒が走る ――――――
―――
彼方「えっと、遥ちゃん……どういうつもりなのかな……」
その夜、
もうそろそろ寝ようかと言うときに、遥ちゃんはとんでもないものを取り出してきて
私は思わず……不満を口にしちゃって。
遥「だって、何があるか分からないから」
彼方「家の中だよ?」
遥「うん」
彼方「安全、だよね?」
遥「寝てる間に電話したりメールしたりメッセージ送ったりするかもしれないから」
彼方「……そっか」
遥「お姉ちゃんからしないって信じてるけど……向こうから来たら優しいお姉ちゃんは反応しちゃうだろうから」
遥「そのための保険だよ」
遥ちゃんは凄く可愛い笑顔を浮かべながら、
私と遥ちゃんの右足と左足をそれぞれ一つの玩具……だと思いたい手錠で繋いで
それを右手と左手にも同じようにつける
トイレはどうするのかなんて言っても……一緒に行けばいいというだけで。
遥「起こしていいからね? もし万が一漏らしちゃっても……お姉ちゃんのなら別に濡れてもいいから気にしないよ」
彼方「それは気にして……」
遥「海水浴だって、ある意味海洋生物の糞尿に塗れてるものだし」
遥「お姉ちゃんを殺される不快感に比べたら、なんでもないよ」 彼方「そっかぁ……」
彼方「わかった」
彼方「……じゃぁ、遥ちゃんのこと抱きしめて寝て良い?」
遥「良いよっ」
遥「息苦しくない程度なら、ぎゅーってして良いからね〜」
彼方「えへへ〜やったぁ〜」
嬉しそうな遥ちゃんの頭を撫でて
そうっと……優しく抱きしめてあげる
二段ベッドの下
一人分の小さなスペースに二人の身体
多少の窮屈さはあるけど、抱きしめてればそれもだいぶ緩和されて
遥「お姉ちゃんの匂いがする」
彼方「彼方ちゃんのベッドだからねぇ」
遥「良い夢見れそうな気がする……」
彼方「うん……見られるようにお姉ちゃんが包み込んでいてあげるよ〜」
本当に。
本当にお願いだから……いい夢を見させてあげてください。
そう、祈りながら遥ちゃんをもうちょっとだけ強く抱きしめる
私ならいくらでも悪夢を見させてくれてもいいから……だから、遥ちゃんはいい夢が見られますように
どうか、お願いします…… 暫くして、遥ちゃんの寝息が聞こえるようになってきて……一息
ゆっくりと力を抜いて、息苦しさを出来るだけ軽減していく
今のところはうなされてる様子もなくて、すやすや。
手と足に感じる拘束感がなければ普通なのに……
彼方「……そのまま、言い夢見てね」
それで遥ちゃんが戻ってくれるとは思えない
眠ってから起きるまでのほんの数時間
それが、遥ちゃんにとっての何日間だったのかまでは分からないけれど
世界が分からなくなるくらいには強烈で、リアリティがあったんだと思う。
今いる世界が " もしも心中する世界だったら " 遥ちゃんの怖い思考回路の原因はそれ一つ
いや、私が侑ちゃん達にうつつを抜かしちゃうかもしれないって言うのもあるみたいだけど
大半はそれに限られてる
このままいけば……私は。
彼方「スクールアイドル、やめるべきか相談しようと思ったのになぁ……」
取られちゃったスマホ
充電してるよ〜という光は遠くに見える
彼方「明日、かな……」
遥ちゃんのためなら、スクールアイドルを止めてもいい
それで遥ちゃんが安心できるなら
これ以上、壊れずにいてくれるのなら……楽しいことの一つや二つ。私は止められる
彼方「だから大丈夫だよ〜……心配なんて、しなくていいからねぇ……」
だって私は、遥ちゃんが宇宙一……大好きなんだから だから、遥ちゃんが信じてくれていないことが辛い
遥ちゃんは信じてるからこそなんて言うけれど
もっと信じて欲しい
侑ちゃん達に靡いたりなんてしないって
しずくちゃんと心中なんてしないって
遥ちゃんを悲しませるようないなくなり方なんて絶対にしないって
私にとっての一番は遥ちゃんなんだって
彼方「……っ」
手枷足枷、スマホのチェックと没収
ひっきりなしの連絡
そこまでしなくていいって……
でも、
遥ちゃんがそうしないとダメなんだって言うなら、受け入れよう
今日みたいな反応は駄目だよね
怖がったり迷ったり躊躇ったり
その一つ一つが遥ちゃんを不安にさせちゃうんだよね
彼方「………」
私が我慢していれば
私が頑張っていれば……それで、良いんだよね?
大丈夫、遥ちゃんのためなら頑張れるっ
だから……泣いちゃだめだよ。
彼方ちゃん。 ――――――
―――
幸いにも、お漏らしをするなんて悲劇もなく目を覚ました私
遥ちゃんも大丈夫だったみたいで
抱き合うようにしていた体の密着感から生まれた暑さに滲んだ汗の細やかな不快感だけが感じられる
遥「……あれ」
辺りを見渡す遥ちゃん
何かを探して……手錠をしてるのを忘れちゃってたのか
そのまま力強く引っ張られて――
彼方「わぁっ!?」
遥「あっ……」
遥ちゃんを押し倒しちゃった私を遥ちゃんは見つめて、はっとする
二人の手を繋ぐ手錠、足を繋ぐ手錠
私の後ろに見える、二段目の裏側
寝ぼけ眼ははっきりとして……悲しそうにしぼむ
遥「そっか……また夢だったんだ」
彼方「今度はどんな夢を見たの?」
遥「年末に、エマさんが泊まりに来るの」
遥「ほんの数日だけど……一緒に暮らして」
遥「本当の姉妹みたいに楽しくて……それで……」
遥「それからエマさんと仲良くなって……それで……それでね……」
遥「エマさんは向こうに帰っても……年末には会いに来てくれる……そんな、ありふれた夢」 年末には、エマちゃんが会いに来てくれると言った
年末に数日暮らした後の年末
つまりは少なくとも一年後
彼方「遥ちゃん……それ、その夢……」
彼方「何年間、その夢を見てたの?」
遥「えっと……どう、だろ」
遥「5年……くらいだったかな……」
遥「えへへ……お姉ちゃんは死なないし、どこにもいかないし」
遥「幸せ……だったのになぁ……」
遥ちゃんは突然、涙をためて、流して
遥「戻りたいよ……」
彼方「……いい夢だったんだねぇ」
戻りたい、帰りたい
寝なければよかった
そう零す遥ちゃんは……本当に、辛そうで
遥「もうやだ……」
遥「お姉ちゃんがいなくなっちゃうかもしれない世界なんて……やだよぉ……」
手錠で繋がっているせいで離れてあげることも出来なくて
ただ、傍にいてあげることしか出来ない 彼方「行かないよ……」
彼方「どこにも行ったりなんてしないよ」
彼方「大丈夫……私の一番は、遥ちゃんだから」
遥ちゃんに負担がないように気を付けながら
ゆっくりと体を降ろして、小さく震える体を抱きしめてあげる
私がいつか死ぬのなんて、
世界的には些細なことだし、それこそ当たり前のことだけど
でも、それは " きっと大丈夫 " なんていう
ある意味、現実逃避的なものによって私たちの頭の中から外れている
それが、遥ちゃんにはない
私としずくちゃんが心中する夢を見て、それを体感して
身に染みたリアリティに……均衡を崩されちゃったから
だから、無事に卒業してなおも平穏無事に数年を生きられた夢は
遥ちゃんにとってはこれ以上ないほどに幸せな夢だったと思う。 彼方「大丈夫、大丈夫だからね〜……」
遥「うぅ……」
彼方「遥ちゃん……」
口でなんて言ったって、遥ちゃんは信じ切れない
私達なら無視することもできるような
もしかしたら。
そんな細やかな可能性が恐ろしくて……どうにもならない
遥「お姉ちゃん……」
遥「どこにもいかないで」
遥「このままずっと、一緒にいて……」
彼方「うん、いるよ……」
遥「学校にも行かないで」
彼方「それは……」
欠席や成績の低迷は奨学金に響く
だから……
彼方「奨学金、ダメになるわけにはいかないよ……」
遥「……じゃぁ、鍵は渡さない」
彼方「これから大変になっちゃうよ?」
遥「お姉ちゃんが傍にいてくれるなら……海に沈められたって良いよ」
彼方「怖いこと言うなぁ……」 彼方「なら、せめて欠席の連絡させて……ね?」
彼方「色々問題はあるけど」
彼方「ちゃんと連絡したら……まだ、取り返しはつくから」
彼方「それくらいなら、良いでしょ〜?」
奨学金のことを言っても
遥ちゃんが私を放してくれないのなら……もう駄目。
遥ちゃんは放っておけない
ここで置いていったら……ダメになっちゃう
だから……仕方がない
遥「学校の連絡だけだからね?」
彼方「同好会に連絡しちゃダメかな〜?」
彼方「みんなにも連絡しないと、心配してきちゃうよ〜?」
遥「……」
遥「……連絡は、私がする」
彼方「はいはい」
彼方「じゃぁ、これ外して〜」
遥「ダメ……このまま」
彼方「お風呂に入ったりしたいんだけどなぁ」
遥「今度から、裸で寝ないとだね」
彼方「そういうことじゃないかな〜……」
結局、手錠はお風呂に入るときだけしか外して貰えなかった なんだかんだずっと幸せなお話が続いてただけにつらいな…
先が気になる 幸せな9本の後、最後に重いお話は少し辛いけど面白い 彼方「遥ちゃん、やっぱり足のくらい外さない?」
遥「だめ」
彼方「お料理だって作りにくいし、トイレだって……」
手だけならともかく
足も手錠で繋がっているせいで、その時だけ部屋の外にいてなんて言えない
一人がしている間、
もう一人は目の前で立って見下ろしてるなんて酷い光景
遥ちゃんは別にそんなこと気にしないって言うけど
私は気にするんだよねぇ……
彼方「……お母さんに見つかったら大変な事になっちゃうよ〜?」
遥「お母さんに見られないようにしたらいいだけだよ」
それはそうなんだけどね〜……
もしも万が一、急遽忘れ物とかで帰ってきたりしたら
見られることを避けることはできない
それ、ちゃんと分ってるのかなぁ? 彼方「お見舞いに行って良いですか? だって〜」
遥「ダメだよ」
彼方「……だよねぇ」
朝の欠席連絡への侑ちゃんからの返事
誰か一人でもお見舞いに……なんてグループのメッセージに載っていて
すでに私を含めてみんなが確認したマークがついていた
欠席理由は体調不良
学校を休む理由つまりは、同好会を休む理由だから。
風邪か、熱か、それともまた別の何かか。
遥「風邪うつしたら悪いから、来ないでって」
彼方「……それでも来ちゃったら、追い返す?」
遥「うん、もちろん……」
遥「あ、でも……」
遥「エマさんなら、別に良いよ」
彼方「そう連絡していい?」
遥「ダメ」 今の時点でこれってかすみと愛さんの見たらもう死んじゃうんだぜ >>658
二人ともこれからも一緒って感じだし、ほの甘いからこそダメージはでかいかもしれん エマちゃんとの夢は幸せだった
だから、エマちゃんなら私と一緒にいても良いって思ってる
エマちゃんと私が一緒にいた夢でなら私は死ぬことなく、遥ちゃんの傍を離れなかったから
それと同じような流れにしようとしてる
でも、それを故意に発生させても運命的な流れとはいえない
偶然じゃないといけない
でも
彼方「エマちゃんは私が連れてきたんだよね?」
彼方「だったら、私が連絡してもいいんじゃないかな〜?」
遥「ううん、今のお姉ちゃんは駄目」
遥「お姉ちゃんは、事情を知ってるから」
遥「ダメ」
彼方「そっか」
彼方「難しいねぇ……」 彼方「………」
彼方「……そうだ」
彼方「もう一つ、みんなに連絡したいことがあるんだけど、良いかなぁ?」
遥「なに?」
彼方「スクールアイドル、やめようかなって」
本当は遥ちゃんに聞かせないようにしようと思ってたけれど
こんな状態じゃ相談もままならないし
遥ちゃんは、私がいきなり何かをすると疑いだしちゃう傾向にあるから
遥「なんで?」
遥「お姉ちゃん……スクールアイドルやりたいんじゃなかったの?」
意外にも、遥ちゃんは即断せずに困った顔
辞めて欲しいって思ってると思ってたのに
彼方「遥ちゃん、すっごく心配してるから〜」
彼方「どうせ、もう半年もなく卒業するし……やめてもいいかなぁ〜って」
遥「……ごめんね」
彼方「遥ちゃんが謝ることじゃないよ〜」
遥「ううん」
遥「お姉ちゃんが辞めてくれるのが嬉しいって思っちゃってるから……ごめんねって……」 彼方「……良いよ」
辛くて苦しい
けれど、遥ちゃん自身にもどうにもならない不安
私が死んじゃうこと
私が傍からいなくなっちゃうこと
その恐怖
遥「ごめんね……」
それを払拭できるのなら
私が楽しめていたことの一つを奪うことになってもいい。
そう考える遥ちゃんと、
それは駄目だと考える遥ちゃんのぶつかり合いで今にも泣きだしそう。
彼方「良いよ〜」
彼方「私にとっての一番は、遥ちゃんだもん……」
本当はやめたくないよ
もっと続けていたいし、ライブだってやりたいよ
でも、私のその我儘が遥ちゃんを苦しめるのだとしたら
そんなことはできない
彼方「学校もバイトも辞められることじゃない」
彼方「けど、部活は……同好会なら……私の人生で必須科目じゃないから。なくてもいい」
彼方「だから、良いんだよ〜……そんな、悲しそうな顔しなくても」 遥「ごめんねお姉ちゃん」
遥「ありがと……」
泣き出しちゃった遥ちゃんの目元を拭ってあげる
隣り合って、肩をくっつけて
腕を絡めながら、手まで握っちゃって
彼方「遥ちゃん、分かってる〜?」
彼方「彼方ちゃんと遥ちゃんは、女の子だし姉妹」
彼方「いつか別々の人と結婚して、別の家に住むようになるんだよ〜?」
結婚できるかどうかは別の話として
いつかそうなるのが、普通
遥「させないから……そんなこと」
彼方「ん……」
肌がびりびりするような遥ちゃんの雰囲気
目を向けると、涙はすっかり引っ込んでいて……瞳の光は影って見える
遥「お姉ちゃんはずっと私のお姉ちゃんだから」
遥「ずっと……私のだから……」
遥「……入れ墨、入れる?」
彼方「え〜……遥ちゃんと温泉行けなくなっちゃうから、ダメ」
遥「そっか、そうだよね……」
遥「えへへっ」 彼方「……遥ちゃんも、スクールアイドル辞めちゃったんでしょ?」
遥「昨日からずっと、考え直してって連絡たくさん来てるけどね」
彼方「考え直してもいいんだよ〜?」
遥「お姉ちゃんより大切な事じゃないから」
遥ちゃんはスクールアイドルになれるのを凄く楽しみにしてた
スクールアイドルとして頑張って、いきなりセンターに選ばれたりだってしてた
それを、
私よりも大切じゃないって理由だけであっさりと切り捨てる
遥「お姉ちゃんがずっと傍にいてくれるって安心できるまでは……必要ないことはやめる」
彼方「安心していいよ〜」
遥「だめ」
遥「最低限、お姉ちゃんが高校卒業するまでは安心できない」
彼方「先は長いなぁ……」
彼方「じゃぁ、まずはその第一歩」
同好会みんなが見るメッセージに、
退部? 退会の連絡を簡潔に書き込んで……
遥「……本当に良いの?」
彼方「いいよ〜……もう、決めたことだから」
ちょっぴり躊躇いながら――送信 ――――――
―――
私の退会連絡に驚いたみんなからの電話、メール、メッセージ
不在着信は瞬く間にたまっていくけれど
風邪という言い訳もあって出るわけにもいかないから、メッセージで返す
正式な届は後日出すこと
ちゃんと考えて決めたことだってこと
理由は……これからのことを考えて
勉強や部活に時間を割く必要があるなんて、それなりの理由
遥「……凄い、引き留めてくるね」
彼方「それはまぁ……」
遥「ねぇ」
彼方「ん?」
遥「どうして……グループじゃなくて個別で送ってくる人がいるのかな?」
彼方「それを聞かれても……」
遥「……個別の方、返さなくていいからね?」
彼方「う、うん……」 勉強や部活に時間を割く必要、って部活はもう辞めるのでは? >>665修正 上から7行目
――――――
―――
私の退会連絡に驚いたみんなからの電話、メール、メッセージ
不在着信は瞬く間にたまっていくけれど
風邪という言い訳もあって出るわけにもいかないから、メッセージで返す
正式な届は後日出すこと
ちゃんと考えて決めたことだってこと
理由は……これからのことを考えて
勉強やバイトに時間を割く必要があるなんて、それなりの理由
遥「……凄い、引き留めてくるね」
彼方「それはまぁ……」
遥「ねぇ」
彼方「ん?」
遥「どうして……グループじゃなくて個別で送ってくる人がいるのかな?」
彼方「それを聞かれても……」
遥「……個別の方、返さなくていいからね?」
彼方「う、うん……」 遥「同好会辞めるなら、もう連絡用のグループ入ってる必要ないよね?」
彼方「ま、待って待って」
彼方「まだみんな混乱してるから連絡たくさんしてくると思う」
彼方「それなのに、私が一方的にこの連絡グループから抜けたり削除したりしたら余計困っちゃうよ〜?」
そうなったら、みんなは何が何でも連絡を取ろうとしてくる
電話も、メールもしてくる
家にだって押しかけてくるかもしれない
そのすべてを突っ撥ねるのなんて、今までの私にはありえないことだ
それでも遥ちゃんは接点を絶たせようとするだろうけど
それが違和感を産んで……余計に拗らせる
彼方「ここはしばらく残しておいて……」
彼方「ほとぼりが冷めてから、削除するって形にしよう……」
彼方「ね?」 遥ちゃんに匹敵しないとしても、
私にとって、同好会のみんなは大切仲間で友達だった
そのみんなと絶交するなんて……正直に言えば、嫌だ
だけど遥ちゃんはそれを望んでいる
望んでいるから、受け入れる
今の遥ちゃんの心は酷く脆い
風が吹けば崩れ去りそうなほどに。
だから。
私の繋がりが遥ちゃんただ一人じゃなければ不安で怖くて、死にそうだという遥ちゃんの為に
私は、断ち切らないといけない
バカみたいだって思われるかもしれないけど
でも、光の消えた遥ちゃんの目なんて見たくない
何をしでかすか分からないほどに歪んだ遥ちゃんなんて、嫌だから。
遥「……分かった」
彼方「ありがと〜」
遥「ううん、ごめんなさい」 自分がおかしいことを言ってるってことも
意味の分からないことを求めてしまっているということも
全部、遥ちゃんは分かっている
分かっているけれど、止められずにいる
だからこその ” ごめんなさい " は、すぐには消えない
彼方「も〜……仕方がないよ」
遥ちゃんは突然、夢を見た
それに脅かされて、魘されて
飛び起きることも、泣き叫ぶこともあった
これは多分、病気だ
精神的な病気
だから、遥ちゃんは悪くない
そして私は
そんな遥ちゃんの傷ついた心が砕けてしまわないように
お願いを受け入れて、叶えて、尽くしてあげる
彼方「二人の時間が増えるんだよ〜?」
彼方「喜んで欲しいな〜」
遥「ありがと……お姉ちゃん……」
彼方「………」
どうしてそんな夢を見るようになっちゃったんだろう
どうして私が奪われる夢ばかりを見るんだろう
もしかして……卒業が近づいてきてるから、なのかな? 自分が固定厨なのが再確認される気がするスレ
一度触れた世界は読み終わったからといって消えるものじゃないんだよな 私が体調不良だって嘘をついたからなのか、
向こうはちゃんと学校に通っているからなのか、
不在着信が溜まることはなくなって、その分のメッセージが蓄積されていく
スマホの画面の上部には何度もポップアップが表示されては上書きされていき
アプリのグループ一覧には、未読何件の数字がカウントされる
彼方「……ほらぁ、凄いことになってる〜」
遥「通知オフにして、サイレントにしちゃおうよ」
彼方「連絡つかなくなったら大変だよ〜?」
遥「お姉ちゃんは体調不良で寝込むから大丈夫」
彼方「便利だねぇ……」
スマホが私の手から遥ちゃんの手へと渡って
少し弄られて、枕元に放置
通知も振動もオフにされたスマホは眠ったように静かだ
彼方「……彼方ちゃんは、遥ちゃんのためならここまでできる」
彼方「遥ちゃんのためなら、もっと先までできる」
彼方「それでも、怖い?」
遥「怖いよ!」 遥「お姉ちゃんが死ぬかもしれないんだよ?」
遥「侑さん達に恋して、私のことなんてだんだん置いて行っちゃうかもしれないんだよ?」
それは、当たり前のことだよ。
数秒後には急病で死ぬことがある
数日後には恋をしてしまうことがある
それは普通の人にとっては笑い話程度のこと。
そんなことはあり得ないよ。なんて、一蹴できてしまう程度に数ある可能性の一つ
遥「嫌だよ! そんなの……お姉ちゃんはずっと私と一緒にいてくれるって言ったのにっ!」
なんて――言っても無駄だ。
遥ちゃんは私の余命宣告を受けたようなものなんだから。
たとえそれの出どころが夢であっても、その鮮明さがリアリティを持たせてしまっている
って……私の頭も、堂々巡りな感じ
彼方「言ったよ〜……覚えてる」
小さい頃から、私と二人きりのことが多かった遥ちゃん
一緒にいてねって、何度も何度も繰り返し確認してくるたびに、私は一緒にいるよ。って答えてた
ずっと一緒、絶対に一緒、何があっても一緒だよって
彼方「大丈夫、覚えてるから……」
彼方「忘れてないからね〜? 一緒にいるなんて……当たり前だよ〜」 遥ちゃんを抱きしめてあげる
抱いてあげると、体の震えが少しだけ収まって……ごめんなさい。って、また謝ってくる
彼方「大丈夫だよ〜」
責めたりしないから
悪い子だなんて思ってないから
それだけ私のことを大切に思ってくれてるんだって……思ってるから。
遥「どうしたら、私と一緒にいてくれる?」
彼方「健やかに育って、幸せに生きてくれたらそれだけで十分だよ〜」
遥「それだけじゃいなくなっちゃう……」
遥「一緒にいて欲しいのっ、ずっと……ずっと一緒が良いのっ」
遥「お姉ちゃんの子供を産めばいい? そうしたら一緒にいてくれる?」
彼方「む、無理かなぁ……」
遥「え……」
彼方「あ、えっと、もちろん。遥ちゃんが無理なんじゃないよ?」
彼方「女の子同士じゃ子供は作れないから、無理なんだよ〜?」
遥「そっか……そうだよね……」
遥「……ファーストキスくらいじゃ、だめだよね?」
遥「私のしょ――」
彼方「えぇっと……一旦落ち着こう? ね?」
子供産めばいい? の時点で結構危ない発言だけど、
これ以上になったら何を言い出すか分かったものじゃない
彼方「そんな契約みたいなことしなくても私はちゃんとここにいるから」 この世界では女の子同士では子供はできないのか、なるほど 遥「今はいてくれるのは分かってる」
遥「でも……ずっととは限らないよね?」
彼方「それはそうなんだけど〜……えっと……う〜ん……」
遥「私はずっと一緒が良いの……いてくれないと嫌なの……」
遥「ねぇ、どうしたらいいの?」
彼方「お、落ち着いてってば〜……」
闇を抱えているというか、
闇に包まれているような瞳の遥ちゃん
私をどうにかするんじゃなくて
周りをどうにかしようなんて考えにはならないようにしたい。
みんなに怪我や、怪我以上のことをされたら本当にお別れしなくちゃいけないし。
彼方「………」
彼方「えっと……」
彼方「じゃぁ、指輪……指輪頂戴?」
彼方「彼方ちゃんが遥ちゃんのものだよ〜って、証明になる指輪を左手の薬指に嵌める」
彼方「そうすれば、少なくとも彼方ちゃんはほかの人に言い寄られることが無くなるよね〜?」
遥「それで問題ないなら、不倫なんて起こらないと思う」
彼方「あはは……」 だから遥ちゃんは最も効果的に思える入れ墨を真っ先に提案してきたのかな
身体にそういう刺青があったら普通の人は避けるだろうし
身体目的の人だとしても気分が萎えるだろうから。
でも、うん
入れ墨はさすがに避けたい
彼方「逆に、遥ちゃんは私がどうだったら安心できるのかな〜?」
彼方「入れ墨とか、監禁以外で」
遥「………」
遥ちゃんはしばらく呆然とする
その目は私を見ているのにまるで視線を感じられない
遥「子供がダメ、入れ墨も保護もダメ……」
遥「それなら」
考えを纏める独り言
小さな口はだんだんと歪さを増していき――
遥「あ、そうだ……」
それは小さな気づきを得て笑う。
遥「……手足が無ければいいんだ」
彼方「え……」
遥「私がいないと何もできなくなっちゃえばいいんだ」
彼方「は、遥ちゃん……?」
遥「お姉ちゃん、切断しよ?」
彼方「む、無理無理無理! それは、それはあり得ないよっ!」 遥ちゃんに依存しないと何もできなくなれば、確かに私は離れない
それは最も安心できることなのかもしれない
でも、だけど……そんなの。
恐ろしい
ううん、悍ましい
あり得ないよ……遥ちゃん……
彼方「一緒にお出かけ出来なくなっちゃう……お料理だってしてあげられなくなっちゃう」
彼方「そんなの、生きてる意味ないよっ!」
遥「っ」
彼方「ぁ……」
つい、怒鳴っちゃった私を見つめる目が揺れる
逃げるように動いた遥ちゃんの手は、手錠のせいで引き合って逃げられない
遥「あ……そ……そう、そう、そうだよ、ね」
遥「何言ってるんだろ、私」
遥「えへへ……ごめん、ごめんなさい……」
遥「お姉ちゃんの手足が無くなっちゃえばいいなんて……」
遥「意味わからないよ……」
彼方「遥ちゃん、少し寝よう?」
彼方「寝れば、少しは頭の中も整理できるはずだよ〜」
遥「……怖い夢見そうだから、寝たくない」
彼方「……なら何も考えないだけでもいいから。少しだけ」
遥「うん……」
彼方「……よしよし」
彼方「怒鳴っちゃってごめんね……」
抱きしめてあげる
少し強く……絶対に離れないよって分かって貰えるように。 ――――――
―――
放課後の時間になって、
また不在着信が溜まっていくのを横目に寝息を立てる遥ちゃんの頭を優しく撫でてあげる
電話も一人からではなく、
同好会のみんなからかかってきてる
誰か特定の一人では、出てくれないだけかもしれないって思ってるのかな
違うよ。
違うんだよ……ごめんね。
彼方「……既読も、つけてないもんね」
連絡用のスマホアプリは通知を切っちゃったから、届いていても気づかない
気付いてるからって返事は出来ない
アプリを起動してみると、未読の件数は驚くほどにたっぷり。
無料スタンプの為に友達登録した企業の未読の方が多いけど。
彼方「見て良い?」
彼方「………」
彼方「やめとくね?」
勝手に見ると、遥ちゃんは怒るかもしれない
どうして、なんで? ってすっごく取り乱す
だから……既読もつけてあげられない
ごめんね、みんな。
心配してるよね……不安だよね
体調不良なのに、退会の連絡をしてから音信不通
何かあったんじゃないかって……
彼方「……心中、かぁ」 遥ちゃんは私としずくちゃんが心中する夢が一番怖かったみたい
それはそうだよね
誰かと恋をして、結婚して
ただ住む場所が違っちゃっただけなのとは全然違う
二度と会えない
顔も見られず、声も聞けず、
何もして貰えないし、何もしてあげられなくなっちゃう
――でも。
でも、もし。
それがしずくちゃんと私じゃなくて。
遥ちゃんと私だったら?
それだったら……遥ちゃんは喜んで受け入れてくれるのかな
女の子同士
血の繋がった姉妹
どうにもならないその強力な縁を無視して深く繋がり合えるかもしれない " 死 " という選択
遥ちゃんが誰かを傷つけることがなく
私がこれ以上何かを犠牲にすることない結末
お母さんやみんなには酷いことをしちゃうかもしれないけれど
遥ちゃんがそれ以上のことをしちゃう前に、いっそ――
彼方「あ……」
それは駄目だって言うかのように、呼び鈴が鳴った 一回、二回
呼び鈴が部屋の中に鳴り響いて、ドアを開けようとするかのような音
侑『彼方さん! 彼方さんっ……いますか!?』
しずく『やっぱり、寝込んでしまっているのでは?』
かすみ『何言ってんのしず子! 電話はともかく、メッセも一切既読つかないんだよ!?』
エマ『彼方ちゃんっ、彼方ちゃん……聞こえる!?』
ドアが開かないからと、叩く音
ドアと扉と壁と……
色んなものを挟んで聞こえてくるみんなの声
誰か一人は来るかと思ってたけれど
まさかの、全員な感じ
心配、させ過ぎちゃったかな……
彼方「遥ちゃん、遥ちゃん」
遥「っ……ゃ……」
彼方「………」
とりあえず揺さぶって、声をかける
出来れば起こしたくないけど
手錠のせいで起きてくれないと困るから……
彼方「起きて、遥ちゃ――」
遥「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
彼方「痛っ!?」 跳び起きた遥ちゃんの手に手錠ごと腕が引っ張られて
足の手錠による不自由さに挟まれて、体が嫌な音を立てる
遥「はっ……はっ……はっ……」
遥「はぁ……」
遥「ぁ……お、お姉ちゃん……」
彼方「骨……折れ……折れるっ」
遥「ご、ごめんねっ……お姉ちゃんっ」
遥ちゃんは慌てて手錠を外してくれたけれど
変に捻った部分は変色こそしてないけれど、ズキズキとした痛みは継続中
遥「また、嫌な夢見ちゃって……」
彼方「あ、あははは……だ、大丈夫……じゃない、かも」
熱を帯びて、腫れてきたようにも感じる
色も……ちょっぴり
遥「あっ、あぁ……氷っ、冷やすやつっ!」
慌ててベッドから飛び降りる遥ちゃん
玄関のドアを叩き壊しそうなほど強く叩いて、叫ぶ同好会のみんな
遥ちゃんが泣きながらリビングに飛び出すのと同時に、
愛「カナちゃん!!」
遥「え……」
玄関のドアが開けられて、一目散になだれ込む私の友達。
せつ菜「あ、あれ……? 遥さん?」
歩夢「彼方さんは大丈夫なの!?」 遥「なん……」
遥「………」
果林「今の悲鳴は……遥ちゃんなの?」
遥「………」
私から見える遥ちゃんの背中
怖い空気を感じる
ダメな、感覚
彼方「わ、私は大丈夫だよ〜」
璃奈「彼方さん?」
遥ちゃんの体の横からひょっこりと顔を覗かせる璃奈ちゃん
目が合って、笑って見せると安堵したように胸を撫で下ろす
どうしよう。
長居は、させちゃだめだ
彼方「実は、体調悪くて……ふらついたときに足と手をやっちゃったんだよねぇ」
ちょっぴりおぞましさを増す私の片手足
それを見せてあげると、かすみちゃんの口から息を引く音がして。
彼方「だから、連絡できなかったんだ〜ごめんね〜」
侑「じゃぁ、悲鳴は……」
彼方「こんな状態で氷を取りに行こうとしたから……」
しずく「なにを、しているんですか……」
そんなの私でも絶叫しますよ。なんて困り顔のしずくちゃん
あぁだめだ……遥ちゃんが、ダメだ エマ「それなら私達も手伝――」
彼方「大丈夫!」
せつ菜「え?」
彼方「大丈夫だから……帰って」
かすみ「何言って――」
彼方「うつすと悪いから……ほんと、近寄らないで欲しいんだ〜」
布団に隠れる、外れた手錠
これを見られたら終わる
今の私には自然に隠す動作が出来るほどの余裕もない
彼方「……お願い」
遥ちゃんが、壊れちゃう前に
我慢できなくなって怒鳴っちゃう前に
お願いだから……
果林「………」
果林「そう、じゃぁ、プリンだけ置いていくわね」
果林「……はい。遥ちゃん」
遥「………」
歩夢「遥ちゃ――」
遥「あ、はいっ」
遥「ありがとうございます」
遥「でもどうやって、鍵を開けたんですか?」 侑「あ、ごめんね」
侑「不安だったから管理人さんに連絡して、マスターキー頼んで開けて貰っちゃったんだ」
侑「渋られたけど、音信不通なのを話したら開けてくれて……」
すぐそこに管理人さんもいたようで
私の様子を見るや、早とちりで良かったよ。と優しく言ってくれる
ちゃんと連絡を返してあげるように、って。注意も含めて。
遥「……なるほど」
遥「ご心配おかけしてすみません」
遥「でも大丈夫ですから」
遥「お姉ちゃんも言ってたようにうつすと申し訳ないので、今日はお引き取りください」
遥「お姉ちゃんの為に、ありがとうございました」
しずく「う、うん……こっちこそ押しかけちゃってごめんなさい」
エマ「彼方ちゃん、退会の話……」
彼方「ごめんねエマちゃん。もう決めたことなんだ〜」
ありがとう
そして、ごめんなさい
でも、そうしないと遥ちゃんが駄目だから。
彼方「ありがとね〜」
せっかく来てくれたみんなを、追い返した 気軽に生えて気軽に孕ませられるこの板の常識って幸せだな この遥ちゃんヤンデレすぎてハッピーエンドは無理だろ… 遥ちゃんはみんなが出ていくと、
すぐに鍵をかけた上で、チェーンも重ね掛けする
普段はお母さんのことも考えて開けていたけれど……
そのせいで、突入されちゃったから。
遥「……お姉ちゃん、プリンだって」
彼方「買ってきてくれたんだね〜」
彼方「なのに追い返しちゃったのは……悪いことしちゃったかなぁ」
遥「………」
遥「お姉ちゃんは私以外にもいて欲しいの?」
彼方「え、えっ……そんなことないよ〜」
目が怖い
瞬きもしないで、睨みつけてるわけでもない
ただただじっと見つめてくるその目は危険な雰囲気がある
プリンをくれたのに、追い返しちゃった罪悪感
それを持つことさえ、遥ちゃんは駄目だっていうのかな……
彼方「恩を仇で……返すっていうか〜」
言葉を選ばないと
少しも好意的な意味がないって言い方じゃないと
遥ちゃんは……。
彼方「プリンのお礼に、お茶くらい出しても良かったかもしれないな〜って」
遥「……じゃぁ、これ捨てればいい?」 彼方「食べ物は粗末にして欲しくないなぁ……」
遥「………」
遥「……でも、プリンをくれた果林さんのこと、少し好きになっちゃうよね?」
遥「美味しかったら、何かお礼しなきゃって考えて会う機会が出来ちゃうよね?」
遥「そしたらまた距離が縮まって、仲良くなっちゃうよね?」
遥「二人で遊ぶ回数が増えるかも」
遥「私を置いて……どこか行っちゃうかも」
なにか、まずい
遥ちゃん、また夢を見てた
きっと、エマちゃんとの夢のような良い物じゃなかったんだ。
そうじゃなかったら、叫ばない
でも、どんな夢を――
彼方「遥ちゃ――」
遥「やめてッ!」
彼方「っ……」
遥「ただのお礼だからなんて嘘つかないでよ……」
遥「お姉ちゃん、そう言ってかすみさんにお弁当まで作るようになった!」
遥「私の為に作ってくれてたのに、侑さんの分が増えた!」
遥「自分がいないとダメだからって、しずくさんを家に連れてきたりもしてたよね……っ!」
遥「このプリンを言い訳にして、果林さんと繋がるつもりなんでしょッ!」 知らない
身に覚えがない
でも、遥ちゃんはそんな私を見てきてしまった。
彼方「そんなことしないよ〜」
彼方「大丈夫……私はずっと遥ちゃんと一緒だから」
他の私が遥ちゃん以外の誰かと一緒になっちゃったんだとしても
今ここにいる私は、遥ちゃんと一緒にいる
彼方「そんな、怖がらなくても平気だよ〜」
彼方「痛っ……」
手錠に繋がれていた部分の一部は痣の色に変わっていて
足が痛くて、うまく立ち上がれない
無事な方にほぼ全部の体重を
なんて……手首も痛めたせいで、使えるのは半身しかないのが辛い。
彼方「………」
彼方「手足痛めちゃったから……遥ちゃんがいてくれないと立ち上がることもできないんだよ〜?」
彼方「だから〜……大丈夫」
遥「……ほんと?」
彼方「ほんと、ほんと……嘘つかないよ〜」
彼方「というより……ついてる、余裕がないかなぁ」
これは多分、病院行かないといけないやつだ
彼方「遥ちゃんには悪いけど、病院いかせて……」
遥「……わかった」
遥「ごめんね。私のせいで」 少し戻った遥ちゃんは、
とても申し訳なさそうに言ってから119にお電話。
私がほぼ半身……右手右足をやっちゃったこと、
大人がいないこと、病院まで行けそうもないから……救急車
整形外科のお医者さん曰く、軽傷
軽傷とはいえ、比較的軽いというだけで
「右手と右足をよく器用に捩じったね」と、最低でも1週間は要安静。
彼方「えっと……入院ですか?」
入院はしなくてもいいけれど、その場合は車椅子があった方が良いというお話。
松葉杖でもいいが、可能なら車椅子と言うのは私の怪我が両手足だから。
しかも……利きの方。
彼方「バイトは……あ、はい……無理ですよね」
遥「………」
ご両親を呼んだ方が良いとも言われて、
断りたかったけれど……自力で帰れそうもないから泣く泣く呼び出し。
お仕事を中抜けしてきてくれたお母さんに怒られつつ
より酷い状態じゃなくて良かった。と安心されて。
松葉杖で良かったのに……
色々と手続きとかして、ちゃんと車椅子をレンタルすることになった。 ――――――
―――
私についていたいっていうお母さんは、
けれど、どうしても戻らなくちゃいけなくて……遥ちゃんと二人きり
遥「……おトイレとか、必要になったら言ってね?」
彼方「松葉杖さえあればなぁ……」
遥「大丈夫、私がいるから」
右手足はギプス固定
一応、取り外しも可能なもので、
お母さん、遥ちゃん、私
みんながそのつけ方と外し方を知ってるから、どうにかなる
けど。
部屋から出歩くのはさすがにどうにもならない
松葉杖があればって言ってみても
実際、利き足利き手が扱えないのは不自由で
バランスだって取りにくい
遥「……学校は、行くんだよね?」
彼方「うん……途中まで送ってくれれば、あとはどうにかするから」
遥「どうしても行かないとダメ?」
彼方「特待生……取り消しになると大変なんだよねぇ……」 遥「……ごめんね」
遥「私が寝ちゃったから……」
彼方「仕方がないよ〜」
彼方「悪夢を見ちゃうのは、遥ちゃんのせいじゃないから」
手錠をさせたのは遥ちゃんだ
それがなければ
そんなことにさえなっていなければ……
彼方「………」
彼方「……仕方が、ないよ」
遥ちゃんを責めても仕方がない
だって、遥ちゃんだって苦しんでるんだから
どうしようもない悪夢に苛まれてるんだから。
彼方「でも、これで……遥ちゃんがいないとダメになっちゃったねぇ」
彼方「……お世話になりま〜す」
遥「もぅ……お姉ちゃんってば」
困りつつも嬉しそうな遥ちゃん。
そこに罪悪感は、ない。 彼方「それで、今度はどんな悪夢だったの?」
遥「かすみさんと一緒になっていく夢」
遥ちゃん曰く
私は卒業の近づく来年の二月
バレンタインデーの日にかすみちゃんに本命のチョコレートを送るらしい
その結果、
相思相愛で付き合い始めて……そして。
やがて遥ちゃんを置いて行ってしまう。らしい。
私がそんなことするはずがないのに。
――ほんとうに、そうかな?
遥「大丈夫だよね?」
遥「お姉ちゃん、いなくなったりしないよね?」
彼方「当然だよ〜」
もしも。
もしも今、誰かに " 大丈夫? " って声をかけられてしまったら
私は駄目な部分を隠し通せないと思う
そうなったら、もう……ダメ。
今の遥ちゃんは怖いって思っちゃってるから。 でも、それでも私にとって遥ちゃんは大切な妹
なにものにも代えられない、世界でただ一人の大切な人
彼方「………」
彼方「ねぇ、遥ちゃん」
遥「なぁに? おトイレ?」
彼方「あはははっ、違うよ〜」
彼方「………コホンッ」
彼方「遥ちゃん、私のこと好き?」
遥「えっ!?」
ビックリする遥ちゃん
顔はすぐに赤くなって、じっと私を見る目はとても愛らしい
普段とは違うけれど
怖くない……純真さのある空気
遥「それは……」
顔を逸らした遥ちゃんの口元が動き、
くっと唇を固く結ぶのが見えて。
遥「………」
遥「好きだよ……大好き」
遥「お姉ちゃんとして、人として、女の子として」
遥「あらゆる意味で、好き」
遥「だから……誰にも渡したくない」 遥「なのに、お姉ちゃん侑さん達と付き合っちゃうんだもん……」
遥「私に向けてくれてた分を、ほかの人に向けちゃうんだもんっ」
遥「私を置いて……しずくさんなんかと死んじゃうんだもんッ!」
遥「……嫌だよ」
遥「どうして?」
遥「妹だから?」
遥「女の子だから?」
遥「それ以外に何かダメなところがあるなら言って?」
遥「治すから」
遥「お姉ちゃん好みになって見せるから」
遥「だから……ほかの人になんて、気を向けないでよっ!」
遥ちゃんはだんだんと昂った感情に涙を零して、
頭を振るたびに、雫が飛ぶ。
二つ結びの髪が乱れる
遥「お姉ちゃん、女の子でも大丈夫だよね?」
遥「だって、かすみさん達と一緒になるんだもん」
遥「じゃぁ、妹を止めたらいい?」
遥「縁切りしてどこかの人の養子になってからなら、私と一緒になってくれる?」
彼方「そんなことしなくたって……大丈夫」
遥「大丈夫じゃ、無いから言ってるのに……」 彼方「そんなに不安?」
遥「怖いよっ」
彼方「信じられない?」
遥「信じてる……けど、でも。胸騒ぎがするの……」
遥「お姉ちゃんが他の誰かと付き合ったりしないとしても」
遥「死んじゃうんじゃないかって、怖いの」
遥ちゃんは体を震わせる
遥ちゃんの手が掴む遥ちゃん自身の腕の部分には、強い皺が寄っていて
見開かれた瞳が、その異常さを強める
本当に怖いんだねぇ
恐ろしくて、不安で……
それ以上に、私のことを想ってくれているんだよね〜?
遥ちゃん。
……遥ちゃん。
彼方「だったら……心中する?」
彼方「遥ちゃんがどうしようもなくて」
彼方「これ以上苦しみたくなくて、信じ切ることができないなら」
こんな遥ちゃんを残しては、いけない
だから
彼方「いっそ……私達で、心中しちゃうっていう手もあるんだよ〜?」 遥「お姉ちゃん……」
彼方「ごめんね」
彼方「遥ちゃんを抱いてあげたいけど、この体じゃ上手く抱いてあげられない」
彼方「一緒に寝てあげられない」
彼方「……今日の夜、また悪夢を見ても」
彼方「私には何もしてあげられない」
話を聞いて、
そんなことはないよって " 嘘をつく " くらいしかできない
それは何もできないのと同じ。
その嘘さえもつけなくなってしまう前に。
彼方「夢の中の彼方ちゃんがどうだろうと、この私はまだ遥ちゃんと一緒にいる」
彼方「遥ちゃんとなら、どこにだって行っても良いって思ってる」
彼方「……この体じゃ、連れていってもらう必要があるけどね〜」
遥「本当に良いの?」
彼方「……いいよ〜」
遥「………」
遥「……っ」 遥「もう少しだけ、頑張ってみる」
遥「もしかしたら、エマさんの時みたいないい夢があるかもしれないから」
遥「だから……あと一日」
遥「それが悪い夢だったら……私、もうきっと我慢できないけど」
彼方「じゃぁ……」
遥「?」
手招きする
出来るのなら自分から近づいてあげたいけど
今の私には出来ないから、遥ちゃんに来てもらう。
そして――おでこに、キス
遥「お、おね……お姉ちゃん!?」
彼方「良い夢を見られるように、おまじない」
彼方「一緒に寝てあげられないから」
彼方「特別だよ〜?」
遥「も〜……」
遥「えへへ……ありがと……」
遥「きっと、お姉ちゃんと一緒の夢が見られると思う」
すっごく嬉しそうな、紅い顔の遥ちゃん。
でも、どれだけかわいい顔をしていても
世界はちっとも、遥ちゃんに優しくしてくれることはなかった 今まで幸せにしてきた分が不幸になって跳ね返ってくるの辛いな楽しみにしてるわ乙 乙です
ついに全部終わりかあ
寂しいけど毎日楽しみで幸せでした 一番脳破壊されてるの>>1だろうな…最後まで頼む(ハッピーエンドで) ――――――
―――
遥「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
彼方「っ」
朝になって、部屋の中には悲鳴が轟く
すぐそばに隣接していた壁を力強く叩く音が聞こえたかと思えば
相手側からは「叩くな!」という怒号が飛んできて
上のベッドが軋み、遥ちゃんの嗚咽が聞こえる
彼方「遥ちゃん」
彼方「……遥ちゃん、彼方ちゃんならここにいるよ〜」
彼方「下におりてごらん? 大丈夫だから〜」
顔を見せてあげられたら良いけど、今は難しい
せめて……と、声だけでも聴かせて傍にいることをアピールしてみる
遥ちゃんがゆっくり動く布擦れの音
視界の片隅に見える梯子に右足が降りてきて
徐々に遥ちゃんの姿が見えてくる
遥「お姉ちゃん……っ」
彼方「ね〜? 彼方ちゃん、ちゃんとここにいるでしょ〜?」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています