凛「この一球に……命を懸ける!」
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凛(はっきり言って私は、小さい頃野球に興味なんて無かった)
凛(始まりは……小学校の夏休みのあの日、たまたま押し入れで見つけた一本のVHS)
凛『甲子園決勝大会 音ノ木坂高校対浦の星女学院……?』
凛(なんの気無しにビデオデッキに入れて、暇つぶしのつもりで見始めて)
凛(……試合が終わるその瞬間まで、目が離せなかった)
実況『空振りィィッ! 四番松浦、その場に崩れ落ちましたッ! 凄い、凄すぎるぞ豪腕桜内ッ! 9回裏の連続三振ーッ! キャッチャー星空がマスクを取って駆けつけ……』
実況『おっと……どうしたことでしょうか桜内。肩を抑えて……』
凛(そこで、テープは終わっていた。後でママに聞いた話だと、それはママが高校球児だった時の映像で。音ノ木坂が最強と呼ばれた、その時代を納めたものだったらしい)
凛『音ノ木坂高校……!』
凛(特に目標も無かった凛の人生に、その日一つの目標が生まれたんだ)
凛(ママのように、音ノ木坂高校で甲子園に出たい。って) 8年後
凛(……)
凛(凛は、今立っている。あの憧れの音ノ木坂高校野球部の部室前に)
凛(ここまで長かった……通ってた中学に野球部が無かったり、音ノ木坂が定員割れなのにE判定だったり)
凛(けど! 今日その全ては報われるにゃ! 今日から凛の伝説が始まるんだ!)
凛「すぅー……はぁー……」
凛「入部届オーケー! 体育のジャージオーケー! お腹も若干しか空いてない! ヨシ!」
凛(最終確認をして、高鳴る鼓動を押さえながらドアをノックする)
凛(どうぞ、という声に凛はゆっくりとドアを開けて――) 絵里「……」
希「ようこそー! よく来てくれたね野球部に!」
凛「は、はいっ!」
凛(優しそうな先輩……と、何か凄いこっちを睨んでる金髪の先輩?)
凛(というかいいの金髪……ここ野球部だよね? 漫画とかでよくある、不良に乗っ取られてるあれかにゃ?)
絵里「……貴女一人? 友達とかは一緒に来てない?」
凛「え、あっ、はい! 凛一人です! 友達は誘ったんですが米料理研究会に入るって断られちゃいましたにゃ!」
絵里「そう……参ったわね」
希「あー、もう絵里ち。そんな不愛想にしたら新人さん不安になっちゃうやん」 希「えっと、凛ちゃん? でいいんかな。ウチは三年の東條希で、あっちは部長の絢瀬絵里。ごめんねこんな感じで、気にしないでね」
凛「は、はい! 星空凛です! 一年生ですにゃ!」
希「にゃ? あはは、元気のいい子やね。先に入った子とは真逆やん」
絵里「……全員揃ったら、練習前にもう一度自己紹介してもらうから。ジャージに着替えて待ってて」
凛「はい!」
凛(答えて、部室の奥に移動して……もう一人、人間がいることに気付いた)
凛(赤い髪の女の子が、ロッカー横の安っぽいベンチに座り部長にも負けない仏頂面で野球マガジンを読んでる)
凛(確か自己紹介の時に見た気がする。同じ一年生の……)
凛「西木野真姫ちゃん……だったっけ。真姫ちゃんも野球部に入ったんだね、これからよろしくにゃー!」
真姫「わたし、仮入部だから」 凛(こっちを一瞥もせず、突き放すように言われて。そこで会話は終わった)
凛「そ、そうなんだ……仮入部なんだねー」
凛(何とか会話を繋げようとしても、真姫ちゃんはもう此方の声に応えることはなかった)
凛「……かよちーん、助けてー」
凛(幼馴染の小泉花陽に助けを求めてみても、彼女はここにはいない)
凛(今頃米料理研究会で、全国の米を利き米出来る期待のホープとしてドリアでも作っていることだろう)
凛「……っと」
凛(ジャージに着替えて、とりあえず空いていた真姫ちゃんの横に座る)
真姫「……」
凛(こっちのことは微塵も気にしていないようで、身じろぎ一つしない。さながら凛は空気のようにゃ) 絵里「……よし、皆揃ったわね。グラウンドに移動するわよ」
凛(あの後、次々集まってきた先輩達と雑談をすることで何とか時間を潰していたところ、眉間に皺を寄せながら絵里先輩がそう宣言した)
凛(皆……? 凛達を入れても7人しかいないような……)
絵里「結局新入部員は二人……まぁしょうがないわよね。私だって、こんな状態なら入りたくなんて……」
希「だからあかんって! そんなん言ってたらせっかくの新入部員二人もいなくなっちゃうやん!」
凛(何事かぶつぶつ言っている絵里先輩の後を希先輩が追う)
穂乃果「絵里ちゃんは相変わらずだなぁ。ほら、凛ちゃんと真姫ちゃんも行こ?」
凛「はい! 穂乃果先輩!」
穂乃果「穂乃果でいいよ、先輩ってかたっ苦しいし」
凛(二年生の高坂穂乃果先輩は、そう言ってにこにこと笑う。良い先輩が多そうで良かった)
凛(相変わらずの真姫ちゃんを引き摺るようにして、凛達はグラウンドへと向かった) 凛(グラウンドに着くと、まず真姫ちゃんと共に部員たちの前に立たされる。要するに、正式な自己紹介をしろとのことだった)
凛「北西中学出身、一年生星空凛です! ポジションはピッチャーです!」
凛(ぱちぱちと拍手の音が聞こえる。何度見ても凛達の目の前には5人の先輩しかいない。他の先輩は遅れているのかな)
穂乃果「北西って確か野球部無かったよね?」
凛「はい、だからずっと一人で自主トレしたり陸上部やサッカー部の練習に混ざってましたにゃ!」
絵里「嘘でしょ? 二人しかいない上に片方は未経験……?」
穂乃果「け、けど未経験でピッチャーやりたいってあんな堂々と言えるのは凄いことだよ! 胆力があると思うよ、うん!」
希「それ褒めてるんか……?」
凛「今は未経験ですが、この高校で努力して……甲子園に行きたいと思っています! よろしくお願いします!」
凛(途端に、ざわめきが止んだ) 絵里「甲子園……?」
穂乃果「いやー、あはは……それはー」
凛「?」
「ぷっ……」
「あははははははっ! ははっあははっ!」
凛(静まり切った場を切り裂くように、突然笑い声が響いた)
凛(笑い声の正体は凛の隣にいる少女……真姫ちゃんだった。クールだった顔がおかしそうに歪み、心底面白そうに笑っている)
凛「な、何笑ってるにゃ!? 甲子園は高校球児の夢でしょ!?」
真姫「いやいや……あはは、それ音ノ木坂の現状知って言ってるの?」
凛「にゃ……?」 真姫「甲子園常連、常勝無敗の音ノ木坂伝説はどこへやら。今や弱小最低の下り坂なんて呼ばれてるのよ、ここ?」
凛「へ……?」
絵里「ッ……悔しいけれど、真姫の指摘は事実よ。私達は練習試合すら勝ったことが無いの」
希「そもそも人数足りないから、練習試合組んでくれるとこも滅多にないけどね」
凛「ええ……?」
穂乃果「で、でも真姫ちゃんが入ってくれたんだから! きっと練習試合くらいは勝てるよ!」
絵里「そうね。あの西木野真姫が入ってくれたんだから……一回くらいは、私の引退までに」
凛(『あの』西木野真姫……? 真姫ちゃん有名人、なの?)
真姫「……あのね、言っておくけど私まともに部活動する気なんてないわよ?」 希「はぁ!? なっ! 何言うてるんよ真姫ちゃん、野球やりにここ入ったんじゃないの!?」
真姫「……私、もうスカウトに声かけられてて。卒業後はほぼプロ入り内定してるのよね」
真姫「それに家に帰れば専門のプロトレーナーが数人ついてるのよ?」
真姫「こんな設備も碌にない……狭いグラウンドに、ショボい先輩と練習するより家の方が何倍も効率がいいわけ」
凛「じゃ、じゃあ何で野球部に……!」
真姫「野球部に入っておいた方がプロ入りの際に都合がいいのよね。いくら下位ドラフトとはいえ、何にもないところから湧いたら変でしょ?」
真姫「球団としても『たまたま過去の強豪を見に来たスカウトが、惚れこんでドラフトにかけた』って形にしたいわけ」
凛「……凛達は踏み台ってこと?」 真姫「踏み台なんて言い方してほしくないわね。それじゃ立派すぎるもの」
真姫「そうね……たまたま歩いていた道の脇に生えてた雑草! その程度じゃない?」
真姫「強豪にいかずにここ選んだのも、練習に出なくても済みそうだからだしね」
凛「……ッ!」
真姫「というわけで、誠心中出身西木野真姫。ポジションはショート。練習は出ないけど、試合なら肩慣らしに出てあげてもいいわよ?」
真姫「ああ、入部を断ってもいいわよ。ここの評価が更に下がるだけだけど……嫉妬に狂った無能、天才の入部を拒否なんて記事が出たりね」
絵里「こ、の……!」
希「お、抑えて絵里ち! 確かに腹は立つけど、あの西木野真姫が入ってくれるなんて奇跡に近いことやん!」
希「試合には出てくれるって言ってるし! な、抑えて! お願いやから!」
絵里「けど……けど、こんな奴に頼って試合に勝ったって……!」 真姫「どっちでもいいわよ? まだ他の高校への編入も間に合うし……」
真姫「とにかく私は帰らせてもらうわね。トレーナーが待ってるのよ」
凛「……待つにゃ」
真姫「……何よ、未経験?」
凛(気付けば、呼び止めていた)
凛(音ノ木坂が弱小だったことは驚いたし、甲子園の夢を笑われたのも腹が立ったけど……)
凛(先輩達の思いを、この野球部を踏みにじったことがただただ許せなかった)
凛「凛と一打席勝負してよ。そっちが負けたら今言ったこと、全部撤回して先輩達に謝って」
真姫「勝負?しょうぶ……一打席勝負? 私と、未経験のピッチャー志望が?」 真姫「驚いたわね……侮辱に近いわよ、こんなの。勝負を挑んでくるなんて」
絵里「凛……気持ちは分かるけど、無理よ。勝てるわけが……」
凛「……真姫ちゃんがどれだけ凄いのかは知らないけど、凛は絶対に勝つよ?」
真姫「知らない? ああ、未経験だから仕方ないわね。気軽に話しかけてくるし変だと思ったのよ」
真姫「凛が勝ったら私が謝る。私が勝ったら凛は何してくれるの?」
凛「凛が負けたら何でも言うこと聞いてやるにゃ! 目でピーナッツ噛んだり、野生のちんすこう捕まえるでも何でも!」
真姫「あ、そう。じゃあ私が勝ったら全裸逆立ちで神田の街を一周してもらうわね」
凛「全然問題ないよ! その条件で勝負してやるにゃ!」
穂乃果「あぁ……」 真姫「バット借りるわね……用具置き場はどっち? 案内して、そこのモブっぽい先輩」
「は、はい……モブって……」
穂乃果「り、凛ちゃん! とんでもない約束しちゃったね!」
希「今からでも遅くないからごめんなさいしよ!? 流石に無理やんこれは!」
凛「ふ、二人とも何でそんなに慌ててるんですか……? 凛だってピッチングの練習はしてたにゃ!」
絵里「そういう問題じゃないのよ、なんで西木野真姫を知らないのよ……」
絵里「昨年の中学ベストナイン。ショートに入っているのが西木野真姫よ」
凛「へ……?」
凛(ベストナイン、って……確かそのポジションで最も優れた選手の……) 希「ウチ、作申中の天王寺からホームラン打ったの今でも覚えてるで」
穂乃果「打っても守ってもプロ顔負けの逸材なんだよ、真姫ちゃんは!」
凛「え、ええ……!?」
凛(そ、そんなヤバい選手だったの真姫ちゃん!? 打ち取れるか分からなくなってきた……)
凛(完全に思い上がったイキり噛ませだと思ってたのに……!)
絵里「うちの高校の惨状も知らなかったみたいだし……本当に野球好きなの?」
凛「あの……凛の家、ママ、お母さんが野球関係禁止してて」
凛「この高校に入るにも、友達と一緒に説得してようやくだったんですにゃ。自分もここの野球部だったのに嫌がるなって怒って、ようやく……」
絵里「そう……お母さんもここの出身なのね」 希「親子で同じ高校の野球部なんて、何かかっこいいなあ」
凛「だから凛は、ママと同じようにここで甲子園に!」
希「まあ、全裸で神田を歩いて警察に逮捕されんかったら一緒に野球やろうね……」
凛「……」
真姫「あら? 逃げずに待ってるとはいい度胸ね」
凛「そっちこそ! って、バットはどうしたの? なんで手ぶらで戻ってきたにゃ?」
真姫「ちゃんとバットは持ってるわよ、あっちのモブっぽい先輩が」
「何で二年も下の子に、こんな……こんな……」
絵里「大丈夫よ球拾。貴女には球拾って立派な名前があるじゃない、モブなんかじゃないわ」
「部長……うう……」 凛(さて、と……)
凛(マウンドの土を踏みしめる。途端に、足の先から脳のてっぺんまで)
凛(びりびりと痺れるような快感が凛の身体に走った。その気持ちよさに、思わず笑みが零れる)
真姫「何よ、恐怖でおかしくなったの? 今謝るのなら、半裸で許してあげるわよ」
凛「冗談。そっちも謝る準備しておくにゃ」
真姫「……下の毛を処理する時間くらいはあげるわね」
凛「生えてないにゃ」
真姫「ッ!?」
絵里「〜〜ッ!」
希「キャッチャーはウチや。大丈夫やで凛ちゃん、落ち着いていこうな」
凛「は、はい!」 凛(最初の一球……初めての一球は決めていた)
凛(あの甲子園のテープを見た時から、マウンドに初めて立った一球はこれにしようと……)
希「ここよ」外角高め
凛「ん」フルフル
希「……ここ?」内角高めボール一個外し
凛「……」フルフル
凛(希ちゃんの示すコースに首を振っていく)
凛(そして、最後に残る場所。希ちゃんが恐る恐る示したその場所に)
凛「……!」コクリ
凛(凛は大きく首を振って応えた) 絵里「嘘、でしょ……?」
凛(絵里ちゃんの声が聞こえる。それは凛が首を縦に振ったコースのことか、下の毛のことか)
凛(片足を高くあげ、凛は)
凛(思い切り、腕を振りぬいた)
真姫「――っ」
凛(指を離れた白球は真っ直ぐに、構えられた、ミット目掛けて飛んでいく)
凛(真姫ちゃんはバットを振らなかった。何処か呆然としたようにただただ、ボールの行く末を目で追っている)
バンッ!
凛(バンッ、と。球がミットに収まる気持ちのいい音が響いて)
凛(瞬間――身をよじるほどに途方も無い快感が、身を振るわせた。マウンドに立った瞬間のそれとは比べ物にならない快感……!) 真姫「ふざけてるの……?」
凛「ふにゃあ……」
真姫「ふざけてるのね!?」
凛「ち、違うよっ! た、ただ凛は……気持ち良すぎてっ!」
凛「キャッチャーに向かってボール投げたの、初めてだったからっ!」
真姫「はじ、めて? だからあんな、あんなボールを……?」
真姫「あんなど真ん中の、ストレートを! この私に!」
凛(凛が投げたボール……ど真ん中目掛けてのストレート。小細工の無い、文字通り直球勝負の一球)
凛(あの甲子園の桜内投手の三振三球。決め球のど真ん中ストレートを空振りさせているのを見て、凛もああなりたいと思った)
凛(け、けど本当に気持ちいい……! ストライク取るのってこんなに、気持ちいいんだ……!) 希「タイム!」
凛(まだ何かきいきい言っている真姫ちゃんを無視して、希ちゃんがこっちに駆けてくる)
凛(キャッチャーマスクを外したその顔には、明らかな焦りの色があった)
希「な、なんなん今の球……?」
凛「凛の必殺ストレート! えへへ、真姫ちゃん全然バット振れてなかったにゃ」
凛「やっぱり凛の投球、強打者にも通用するんだなーって……」
希「何言うてるんよ、あんな遅い球! 呆れて振らんかっただけやん!」
凛「にゃ……?」
凛(この人は何を言っているんだろう。凛のボールが遅い? 凛のストレートが……遅い?)
希「変化球とか無いん? あれじゃバッピしか務まらんよ!」 凛「バッピ……バッティングピッチャー!?」
凛「嘘でしょ!? 凛のストレートそんなに遅いの!? 小学校から鍛え続けてきたのに!?」
希「フォームもガタガタやし今まで何してきたんよ!? お母さん野球部やったんやろ!?」
希「見てもらわんかったん自分のフォーム!? 経験者やったら一発でおかしいって気付くレベルやん!」
凛「そんな……」
凛(ママは、凛が野球をやることを――いや、野球そのものに余り良い感情を持っていない)
凛(練習だってママに見られないようにやっていたのに、投球フォームを見てくれなんて言えるわけ……)
希「……今から矯正してる時間はない。とにかく、今はほとんど手投げの状態なんよ」
希「腰を使って、全身で投げるように切り替えないと肩や肘を壊すリスクも大きくなる」
凛「腰で……?」 希「と、とにかくそういう感じでお願い。勝つのは無理にしても、ある程度まともに勝負したいやろ?」
凛(全身で投げる……野球を知ってから8年間、凛の練習はほとんど手投げだったから……)
凛(完全なる素人状態……!?)
真姫「どうしたのよ、早く投げて。日が暮れるわよ?」
凛「わ、分かってるにゃ!」
凛(全身、全身……腰を使ってくいっと……)
凛(こ、こんな感じ……?)グイッ
ヒョロロロ
真姫「……」
希「ボール……しかもキャッチャーから一メートルも離れたヒョロヒョロ球」
希「これは……」 真姫「……アホらし。このまま立っててもフォアボールで終わりそうね」
凛「ば、馬鹿にするにゃー! こうして、こう……っ!」クッ
ヒュッ
希「おっ……」
凛(やった! さっきのひょんひょろよりかなり速いにゃ!)
凛(とはいえ……)
希「ば、バッターに着く前にワンバンしてどうするんよ!?」
凛「し、しかも手投げより遅い……全身で投げてる筈なのに何でにゃ!」
真姫「あのね、野球ってのは積み重ねなのよ……付け焼刃の技術でどうにかなるわけないじゃない」 凛「凛だって……ずっと、練習してきたのに……」
真姫「あのねぇ……」
真姫「実らない努力は、『無 駄』って言うのよ! どれだけ苦労したとか、どれだけ頑張ったとか関係ないの」
真姫「才能無い奴が間違った練習方法で八年やって『頑張った』『精一杯やった』? そんなので慰めてくれるのはママくらいよ」
真姫「さっさと投げなさい? あんたが八年かけた……的外れのひょろひょろ球!」
凛「凛……は……」
凛「――ッあああああああっ!」グッ
シュンッ
真姫「はいまたボールゥ! ボールスリー! あははははっ、ははははははっっ!!」
希「……」
絵里「……ねえ、穂乃果?」 穂乃果「うん……酷いよね、本当の事でもあんな風に言うなんて」
絵里「そこじゃないわよ。希は気付いてるみたいだけど……」
絵里「同じピッチャーの球拾はどう? 気付いた?」
「ええ……あの子、投げるたびに……」
絵里「そう。あの子、投げるたびに球のスピードが上がってる。もう最初の手投げ球を超えてるわ」
絵里「それにコントロールも。少しずつミットに近付いて行ってる」
「けど、あれじゃ間に合いませんね。次のボールが外れれば、そこで終わりです」
絵里「……そうね。きっと負けたら、心が折れる。惜しいわ、鍛えればきっと良いピッチングをしたでしょうに」
絵里「それにしても、星空って……何か聞いた覚えがあるのよね……」 凛「凛は……凛は……」
凛(凛はただ、皆と野球がしたくて。音ノ木坂で甲子園に行きたくて)
凛(ママに気付かれないようにこっそり練習して、ずっとずっと頑張って)
凛(けどその結果が、あんなつまらないボールで)
凛(凛は……野球が……)
希「……凛ちゃん!」
凛「希ちゃん……凛は……」
希「ええから! ずっと野球したかったんやろ!」
希「ボール投げただけであんなに嬉しそうな顔する子、見たことないもん! 色々言っちゃってごめん!」
希「もう何も気にしなくていい! 全身とか腰とかどうだっていい!」
希「凛ちゃんの投げたいように投げて! 何処に投げたって、ウチが受け止めるから!」 真姫「あー……何々? そういうのあんまり好きじゃないのよね」
真姫「漫画の読みすぎじゃない? それに凛も野球に、自分に期待しすぎよ」
真姫「別にいいじゃない、才能無い同士傷舐め合って野球やっていけば」
凛「……」
凛(投げたいように、凛の投げたいように……?)
凛(凛の投げたいボールって何? 凛はどんな球を投げたいの?)
凛(凛が投げたいのは……)
凛「ふぅ……」
凛「やめよ……考えるの。凛は難しいこと考えると頭が破裂しそうになるんだ」
真姫「見ればわかるわ、そんな顔してる」 凛(凛が投げたい球なんて。そんなの最初から決まってる)
凛(肩の力が抜けているのが自分でもわかった。ほとんど無意識に、身体は投球の体制に入っていた)
凛(片足を上げて。思いっきり大地を踏みしめて)
凛(指先を転がったボールは、真っ直ぐに真っ直ぐに)
凛(真ん中に構えられたミットに向かって進んでいく)
真姫「バカの一つ覚えみたいに真ん中を……」
真姫「投げてんじゃないわよ!」
凛(短く持ったバットを、真姫ちゃんはコンパクトに振りぬいた)
凛(対戦相手ながら、憎い相手ながら――惚れ惚れするほどの理想的なフォルム)
凛(風を切るようなスイングスピードで、ボールを狙ったバットが――) バンッ!
真姫「……あ?」
凛(そのまま、空を切った) 真姫「……? 遅すぎて、先に振りぬいちゃったのかしら」
希「……自分騙すのはいいけど、冷や汗止められてないで。振り遅れさん」
真姫「……振り遅れ? 私が……あんな球に?」
凛(ボールがミットに吸い込まれる、二度目の音。自然と鼓動が早くなっていることに気付いた)
凛(興奮の中で、何処か冷静になっている自分がいた)
凛(一度目のストライクは謂わば虚をついた一撃、不意打ちのようなものでしかなかった)
凛「真姫ちゃんからストライクを……奪えたにゃ」
凛(二度目は……完全に振り遅れていた。自分の力で、自分の力だけで真姫ちゃんからストライクを取った)
凛(ツーストライクスリーボール、フルカウント。泣いても笑っても、この勝負は後一球で終わり)
凛(冷めやらぬ興奮も、事態を冷静に鑑みる自分も。その全てがこう言っていた)
凛(終わりたくない、まだ戦いたい) 凛(けれど……どう足掻いても勝負は終わる)
凛(もっと野球をしたい、もっとボールを投げたい!)
凛(確かに凛には才能が無いかもしれない、努力は無駄だったかもしれない)
凛(だったらこれから死に物狂いで練習して……努力を無駄になんかさせない)
凛(小学生の私に胸を張って、野球をしていると言いたいんだ!)
凛「行くよ……最後の一球!」
凛(全裸逆立ちなんてして、高校を退学になったら野球が出来なくなる……)
凛(勝ちたい!)
ヒュオッ
真姫「また真ん中……そう何度も何度も!」
真姫「空振りなんかしてやらないんだから!」 穂乃果「ああ! 振り遅れてない!」
絵里「星空……ゾラ……」
絵里「……お母さんがこの野球部にいた」
絵里「……まさか」
真姫「完全に捉えた……真芯! 長打コースに……!」
絵里「まさか、あの伝説のバッテリーの……サクゾラコンビの娘……?」
凛(当たるな……当たるなッ!)
凛(……気付かれるな!)
真姫「っらああああああああッ!」
キュルルルッ
真姫「!?」 希「うおっ!?」
ボスッ……
真姫「フォークボール、ですって……?」
凛「……て、手元で曲がった?」
凛「なんで……?」
希「なんでって、縫い目に開いた指掛けたからやろ……?」
凛「え……無我夢中すぎて覚えてないにゃ……」
真姫「負けた……の? こんな、ストレート投げるつもりでフォーク投げるような素人に……?」
凛「……」
凛「よく分からないけど……勝ったにゃーっ!」 希「凄いな凛ちゃん、よくフォークボールなんて投げられたなぁ」
穂乃果「うわーっ! 凄いよ、凄いよ! あの真姫ちゃんに勝っちゃうなんて!」
凛「いや、本当に無我夢中で……」
凛(けど、何で凛は勝負の最後に『気付かれるな』なんて思ったんだろう)
凛(……凛はフォークの投げ方を知ってた? 知っててあの球を投げた?)
凛(いや、気のせいにゃ。きっと気のせい、だよね)
真姫「負け……私が、負け?」
ザッ
真姫「……」
凛「真姫ちゃん、約束覚えてるよね?」 真姫「……私は負けてない」
凛「負けたにゃ。三振したもん」
真姫「負けてないわよ! 一打席は油断もあったから、三打席なら負けなかった!」
真姫「それに体調も悪かったし、喉も乾いていたし、それに、それに……!」
真姫「……」
真姫「……私が、悪かったわ。全部撤回する、凛の努力をバカにしたことも謝る」
「私にバット持たせたのは?」
真姫「……?」
「そこは悪びれないんだね……」 真姫「……私、部活を辞めるわ」
真姫「あんなに酷いこと言って、調子に乗って負けたんだから。みっともなくて……涙が出るわ」
絵里「……真姫」
真姫「凛、頑張りなさいよ。貴女は多分、自分で思ってるより強いから」
凛「……待つにゃ」
凛「勝手に辞めるなんて許さないよ。真姫ちゃんは甲子園に行く為に絶対必要なんだから」
真姫「甲子園、って。本気で……言ってるに決まってるわよね」
凛「確かに真姫ちゃんは恥ずかしい奴だにゃ。未経験者に負けるし、短く持った割に空振りだし、噛ませ犬みたいだし」
真姫「……」
凛「だけど、実力は本物だと思う。凛、正直怖かったもん」
凛「だからこそ、味方に欲しい。それに……単純に、真姫ちゃんと野球したいにゃ」
真姫「凛……」 真姫「いいの、皆も……?」
穂乃果「そりゃ言われた時はムカッと来たけど、謝ってくれたしね」
希「真姫ちゃんほどの実力があれば、ウチは大歓迎やん?」
絵里「……そういうこと。才能の無い頼りない先輩かもしれないけど、皆、貴女と野球がしたいと思えるくらいには野球が好きなのよ」
真姫「……ごめん、なさい」
真姫「ごめんなさい、ごめんなさい……」ボロボロ
凛「大丈夫だよ、真姫ちゃん。泣かないで……」
凛「凛も、真姫ちゃんが全裸逆立ちで神田を一周したら許してあげるから」
真姫「……え?」
凛「下の毛くらいは処理させてあげるにゃ」 翌日
凛「眠いにゃー……結局あの後みっちりフォーム直しさせられたし、身体が痛いよ」
凛パパ「おはよう、凛。お前の学校凄い生徒がいるんだなあ」
凛「にゃ?」
凛パパ「ほら、この新聞記事」
バサッ
『元誠心中学名ショート、深夜のストリーキングで補導。泣きながら星空と叫び続ける』
『球界からは呆れ声。スカウトも指名拒否を決定「たまげたなぁ……これはNです」』
凛「……」
凛「こいつぁ面白くなってきたにゃ」 めちゃめちゃ面白い 龍狩りの人の野球SSを思い出すな 凛(何はともあれ真姫ちゃんも仲間になったし、凛はフォークボールを投げられるし)
凛(本当に甲子園行けそうな気がしてきたにゃ)
凛ママ「凛、ちょっといい?」
凛「どしたの? 朝ごはんはパンじゃなくて白飯がいいにゃ」
凛ママ「そうじゃなくて。あんた本当に野球部に入ったの?」
凛「……入ったけど」
凛ママ「悪いこと言わないから早いとこ辞めなさい。花陽ちゃんと同じ部活入ったらいいじゃない」
凛「凛が米料理研究会に入って何するって言うのさ」
凛ママ「いつの間にそんな部活が……米料理はともかく、あんまり野球にのめり込まない方がいいわよ」
凛ママ「後悔する時が来るかもしれないから」
凛「……? 後悔なんてするわけないじゃん、凛は野球やりたいんだもん」 凛ママ「……そう。それなら、いいけど」
凛ママ「一つだけ約束して。絶対無茶や無理はしないって」
凛「だ、大丈夫だよ。無茶も無理もしない! ママは心配し過ぎにゃ」
凛パパ「そうだぞハニー。凛ももう高校生なんだから、そこまで心配することもないだろう」
凛ママ「貴方は黙ってて。後二度とハニーって呼ばないで」
凛ママ「虫唾が走る」
凛パパ「……」
凛「パパとママはいつも仲がいいなぁ」
凛(部活入った初日に無茶も道理も通り越したなんて知ったら、ママ卒倒しちゃうかも)
凛(実際無茶苦茶だったよね……よく勝てたよ本当に) 凛ママ「……凛、貴女確かピッチャーやりたいって言ってたわよね?」
凛「う、うん。その予定だけど……」
凛ママ「朝ごはんの前に庭に出なさい。フォーム見てあげるから」
凛「……へ?」
凛「い、いいの? ママ、野球嫌いなんじゃ……」
凛ママ「嫌いよ。けど、娘が変なフォームで癖つけて、身体壊す方が嫌なの」
凛ママ「貴女がこっそりやってる自主練も、今までは遊びの延長くらいに思ってたけど……」
凛(バレてたんだ……)
凛ママ「本格的にやるんなら、きっちりと『壊れない身体』を作りなさい。いい?」
凛「分かったにゃ……」 凛(一人この世の終わりのように絶望し項垂れているパパを置いて、ママと一緒に庭に出る)
凛(うちの庭はパパの稼ぎに比例して狭いけど、投球の真似事をするには十分な広さがある)
凛ママ「さ、やってみなさい」
凛(手渡されたタオルを掌に巻きつけて、足元の土を固める)
凛「ふぅ……」
凛(昨日フォーム矯正をされたからある程度は出来るようになっている筈だけど、いざ母親の前で……甲子園優勝捕手の前で披露すると考えると)
凛(……怯えても仕方ないにゃ。息を整え、凛は片足を大きく上げた)
凛「ふっ!」
凛(腰を捻り、全身で押し出すように……!)
バサッ!
凛「ど、どうにゃ……?」 凛ママ「何それ……全ッ然駄目! そんな投げ方してたら肩か肘壊すわよ!?」
凛「えっ、そんなに駄目なの?」
凛ママ「ああ、もう……いや、これは何も見せなかった私の責任でもあるのか」
凛ママ「一個一個治していくから、とりあえずもう一回お願い」
凛「う、うん」
凛(何がそんなに駄目なんだろう……とにかくもう一回だ)
凛(片足を大きくあげて……)
凛ママ「はい、まずそこ」
凛「にゃっ!?」
凛ママ「足はもっと大きくあげて。ピッチングには必要な要素が三つあるのよ」 凛ママ「まずは投手自身の筋力……これは当たり前よね」
凛ママ「厳密には足腰とか腕の筋肉のしなりとか色々あるけど……とりあえずは筋トレをやっておけば問題ないわ」
凛ママ「あんたはサッカー部や陸上部に混じってた分、上半身はまだまだだけど足腰はしっかりしてるわ。そこは合格」
凛「走り込みだけはガッツリさせられたからね……何回吐いたか分からないくらい」
凛ママ「次に位置エネルギー。分かる?」
凛「馬鹿にしないでよ! そのくらい凛でも知ってるにゃ!」
凛「高いところから低いところにいくと何かすごい速い!」ドヤァ
凛ママ「……ま、まあそういうことよ。この位置エネルギーってのは、足を高く上げることで稼ぎやすいの」
凛ママ「難しい理論言ったって分からないだろうから、足をなるべく高くあげて思いっきり踏み込むと速い球が投げれるって」
凛ママ「そう考えてくれたらいいわ」 凛ママ「そして最後に並進エネルギー!」
凛「科学の授業はもうやめようよ……読者が離れるよ」
凛ママ「いーや2レスほどやる」
凛ママ「これは……簡単に言うと助走よ」
凛「助走? けど槍投げじゃあるまいし、ピッチャーで助走なんかつけたら……」
凛ママ「普通に反則よね。これは助走の代わりになる力、って理解してくれたらいいわ」
凛ママ「凛のフォームの話に戻るけど、これじゃ並進エネルギーは伝わり辛いわね」
凛「何でさ?」
凛ママ「片足をあげて……ここ!」パンッ
凛「ひゃっ! お尻叩かないで!」
凛ママ「お尻が横向いてるのよね。足を上げる際はもっと身体を捻って……」
凛ママ「お尻がキャッチャー側になるべく向くイメージで、足首と相談しながら限界を探ればいいわ」 凛ママ「ここでしっかりと『溜め』を作る」
凛「にゃー……!」
凛ママ「その『溜め』を逃がさないように、なるべくタイミングを遅く……遅く……!」
凛ママ「インパクトの瞬間に、解き放つ!」
凛「にゃ!」
ビシュゥン
凛「ッ……!?」
凛(な、なんか今……凄く自然に、力の移動が出来たような)
凛(腕が鞭のようにしなったっていうか、全く無駄を出さずに指先に力を伝えられたような気がする!)
凛ママ「そう、これがピッチングの基本。筋力×位置エネルギー×並進エネルギーを上手に利用できた結果よ」 凛「はぁー……ピッチャーって科学が出来なきゃ駄目だったんだね」
凛ママ「そういうことじゃ……いや、まあそういうことになるのかしら」
凛ママ「変化球も回転の向きや風の抵抗を考える必要があるし……」
凛「変化球なら、凛はフォークボールを投げられるにゃ」
凛ママ「フォーク? あんたいつの間にそんなもん覚えたの?」
凛「覚えてないよ? 昨日無我夢中で投げたら、何だか曲がったにゃ」
凛ママ「……!」
凛「ママ?」
凛ママ「なんでもないわ……すぐにご飯作るから先に今に戻ってて」
凛「? はーい、白飯と納豆がいいにゃ」
凛ママ「……知らないボールを投げられた? まさか、私の時と同じ……?」
凛ママ「気にしすぎ、よね……?」 学校 放課後
凛「かよちん、先輩に花陽様って呼ばれてたけど何があったんだろ」
真姫「何であんたの幼馴染、教室で米俵担いでたの? 力士か何か?」
凛「力士は真姫ちゃんの方にゃ。何全裸逆立ちで捕まってるのさ」
真姫「そっちがやれって言ったんでしょ!? パパが警察と懇意にしてなかったらヤバかったわよ、本当」
凛「真姫ちゃん補導した警官、給料半分になった上今日付けで沖縄の孤島署に転勤になったらしいね」
真姫「そこまでは知らないわよ……便宜図ったんでしょ勝手に」
真姫「それより、グラウンドに行ったら早速勝負よ。勝ち逃げなんて許さないんだから」
凛「真姫ちゃんは負けず嫌いだにゃー。分かったよ、先輩が良いって言ったらね」 .
絵里「勝負? 駄目に決まってるでしょ」
真姫「何でよ!?」
絵里「そもそも真姫が一悶着起こしたせいで、私達まともに自己紹介も出来てないのよ!?」
希「そうやん。これから野球やってく仲間だっていうのに」
真姫「それは、そうだけど……」
絵里「凛だってまだ自分の投球フォームを探り探りやってる状態だし、勝負はきちんと凛が基礎を覚えてからよ」
凛「あー! 酷いにゃ、凛は今日ちゃんとママに教えてもらって……」
絵里「! と、とにかく今日は先輩達の自己紹介! その後は普通に練習! いいわね!?」
真姫「分かったわよぉ……」 凛(それにしても……今日も5人しかいない気がするんだけど)
絵里「まずは私。部長の絢瀬絵里、三年生。ポジションはサードよ」
希「ウチは副部長の東條希、同じく三年生やん。ポジションはキャッチャー……って二人とも知ってるやんな」
「わ、私は三年生の球拾(たま ひろい)。あの名門剛掌中学でエースピッチャーをやってたの! ほ、本当だよ?!」
「あーしは三年の藻部永(もぶ えい)。フライ取れないから、球来ないライトやってんの。受けるっしょ?」
穂乃果「そして私、唯一の二年生高坂穂乃果! ファーストだよっ!」
絵里「以上5人よ、貴女達入れて7人ね。これで野球部全員」
凛「ちょ……嘘でしょ……」ポロポロ
絵里「何泣いてるのよ! 泣きたいのはこっちよ、新入生せめて四人入らないか期待してたのに!」
真姫「いや……凛の気持ち分かるわ。野球って9人でやるものなのよ……?」 凛「三角ベースじゃんこんなの! 三角ベース部に名前変えるにゃ!」
真姫「そうよ! 練習試合とか甲子園予選とかどうすんのよ!?」
穂乃果「それなら大丈夫だよ! 私の友達に兼部してもらってるから、その子達に出てもらうんだ」
凛「ち、ちなみにその友達の部活は……」
穂乃果「弓道部と、裁縫クラブだよ!」
凛(弓道って……裁縫に至っては文化部にゃ!?)
絵里「後はクラスの暇な人とか集めて参加してもらってるわね」
凛「クラスの暇な人……」
真姫「試合の日を見据えて鍛えてきた高校球児に、クラスの暇な人を……?」
凛「あは、あははははっ! ぎゃははははははっ! 終わりにゃ! 甲子園終わりにゃ!」
真姫「狂わないで凛! 凛が全部三振にとって、私が全打席ホームラン打てば勝てるからっ!」 絵里「大丈夫よ、アイシールド21だってクラスの暇な人レベルのレギュラーいたじゃない。佐竹とか山岡とか」
凛「いたけど! 確かにいたけどあいつら活躍してるとこ見たことないにゃ!?」
穂乃果「こればっかりは諦めてよ、私達だってどうすることも出来ないんだよ……」
凛「せ、せめて助っ人二人に野球部の練習に参加してもらうとか、クラスの暇な人に部に入ってもらうとか……」
穂乃果「む、無理だよ! 試合ですら土下座する勢いで頼んで渋々出てもらってるんだよ!?」
希「よく試合出てくれる隣のクラスの子も、前に誘ったけど『バイトあるから無理にこ』とか何とかで入ってくれんかったし」
凛「改めてとんでもないところに入っちゃったにゃ……」
真姫「今時パワプロでも無いわよこんな展開……流石は弱小の下り坂」
絵里「はいはい! ぼやくのはそこまで! 練習を始めるわよ!」
絵里「真姫はノックお願い! 凛は姿鏡使ってフォームチェック! さ、皆ポジションについて!」 真姫「ちょ、何で私がノッカーなのよ! こういうのって顧問がやるものじゃないの!?」
絵里「顧問のピーターソン先生はお爺ちゃんよ、バット振れるわけないじゃない」
絵里「それに私達、狙ったとこにボール打てないし」
真姫「ああ、もう! 三年間何してきたのよ!」
真姫「仕方ないわね……まずはピッチャー行くわよ!」ガオンッ
「え、速っ……おごっ!」ドボゴォ
希「うわあああっ! 球拾がゲロ吐いたぁ!」
穂乃果「内臓潰れてない!? 大丈夫!?」
ワーワー
凛(……あの先輩、本当にエースピッチャーだったの? 単純なピッチャー返しだったような……)
凛(まあいいや。ママに教えてもらったフォーム練習しよう。片足を高く上げて……) 凛(身体を捻って、お尻をキャッチャー側に……そのまま溜めて溜めて)
凛(……投げる!)
ブオンッ
凛(手に巻いたタオルが風を孕んで、凛の目の前を凪いでいく。抵抗感が強い)
凛(濡れタオルとかにした方がいいのかな。それとももっとシャープに……)
絵里「……昨日とは全然違う。ママに教えてもらった、って言ってたけど」
絵里「たった一日でああも変わるものなの……? やっぱり教えたのはホシゾラ……」
「やばいよ、球ちゃん泣いてるじゃん」
穂乃果「真姫ちゃん謝って!」
真姫「な、何で私が……ごめんなさい、あれくらいなら取れると思って軽く打ったのにこうなるとは思いませんでした」
希「すすり泣きが号泣になったで」
穂乃果「けど謝ったから問題ないよ! 仲良くしなよ、二人とも」
真姫「穂乃果はサイコパスか何かなの?」 絵里「上達したわね、普通にピッチング出来てるじゃない」
凛「そう? なんか……動きは合ってる筈なんだけどしっくりこないんだよね」
絵里「それでも上手くなったじゃない。昨日のひょろひょろは何だったの、ってくらい」
凛「えへへ……ママの教え方が上手かったからだよ」
絵里「……ね、ねえ。凛のお母さんの名前って、何?」
凛「凛のママ? 星空 真凛(マリン)だけど……それがどうしたにゃ?」
絵里「ホシゾラマリン……や、やっぱり!」
絵里「お母さん、高校時代に桜内由梨子(ユリコ)って人とバッテリー組んでなかった!?」
凛「よく知ってるね。ママと桜内選手の甲子園優勝を決めた最後の一投、一度しか見てないけど今でも覚えてるにゃ」
絵里「凛……貴女!」ガシッ
凛「にゃあっ!?」 絵里「本当に……本当に!」ギュッ
凛「うぎゃっ!?」
凛「や、やめるにゃ! 凛よくそういう風に見られるけど、ソッチの気はないの!」
絵里「私だって無いわよ! けど……もう、嬉しくて嬉しくて」
絵里「あのサクゾラコンビの娘が、音ノ木坂に入学してくれるなんて……」
凛「さ、さくぞら?」
凛(少女漫画のタイトルみたいな単語にゃ……)
絵里「娘なのに知らないの……って、教えてもらえなかったって言ってたわよね」
絵里「豪腕ピッチャー桜内と、天才キャッチャー星空。高校球児で知らない者はない最強コンビよ」
凛「に、二十×年も前の話なのに未だに語り継がれてるの?」
絵里「その程度には、彼女達の残した伝説は凄まじかったってこと」 凛(ママ、そんなに凄い選手だったんだ……けど、じゃあなんで)
凛(ママはプロ野球に行かずに、普通に働いてるんだろう?)
凛(プロでも桜内選手なんて聞いたこともないし。高校で二人とも野球を辞めちゃったのかな)
絵里「私にとっても憧れの存在で……だから、下り坂と呼ばれても音ノ木坂を選んだんだけど」
絵里「そっか……もう、野球は嫌いになっちゃったのね。仕方ないことだけど……少し悲しいわ」
凛「? ま、まあママはママだし凛は凛だから! 凛は野球を嫌いになったりしないよ!」
絵里「分かってるわよ。期待してるわよ、大型ルーキー」
絵里「……い、一応聞いておいてほしいんだけど。お母さんに私達のコーチとか頼めたりしない?」
凛「聞くのはいいけど……多分無理だと思うよ? フォーム見てくれたのも、怪我させないために仕方なくだったし」
絵里「そう……」シュン >>64
全部三振取ってって
りんちゃんのこと認めるの早っ 凛「とにかく今はフォームを安定させて……っと!」ビュンッ
凛「早くエースピッチャーとして活躍出来るようになるにゃ!」ビュッ
絵里「大丈夫よ、あの人の娘ならすぐに上手くなるわ」
凛「……ママを褒めてくれるのは嬉しいけど」
凛「なんだかなぁ……」ドビュッ
凛(実際問題、どうなんだろ。凛はすぐにでも前線に立てるピッチャーになるのかな)
「げほ……今度こそ受け止めてやるわよ。バッチこぉーい!」
「あ……また速、無理……げおぼっ!」ボグォン
穂乃果「またゲロ吐きながら泣いちゃったじゃん! 真姫ちゃん謝って!」
真姫「なんであの速度でゲロ吐くほどダメージ喰らうのよ!? 小学生でも取れるわよ!?」
凛「……あの人よりは凛の方がまともに投手出来そうだけどにゃ」 絵里「あの子、剛掌中学でエースやってた割には弱いのよね」
絵里「ストレート110キロしかないし、変化球もカーブしか投げられないし」
凛「110キロのストレートって、ストレートって呼んでいいの?」
絵里「さぁ……」
絵里「気になるなら投げ合いでもしてみる? フォームも……これなら修正の必要は無さそうだし」
凛「んー……いいにゃ」
絵里「あら。てっきり喜び勇んでノッてくると思ったのに」
凛「球は投げたいけど、凛に基礎が足りてないのは昨日の一件で十分分かったしね」
凛「今はしっかり鍛え直したいにゃ。正直このフォームもしっくりこないし」
絵里「そ。ならいいけど……」 凛「えっと……春の甲子園、だっけ? それに出るんだよね? それまでに直したいし」
絵里「えっ、出ないわよ?」
凛「えっ?」
絵里「えっ」
凛「甲子園だよね?」
絵里「甲子園ね」
凛「出ないの?」
絵里「出ないわね」
凛「甲子園って誰でも出られるものじゃないの?」
絵里「ああ、そこがまず認識違いしてるのね。春の甲子園と夏の甲子園は別物なのよ」 絵里「有名な夏の甲子園は全国の高校が出られるわ」
絵里「春の甲子園はね、選抜なのよ。審査員が決めた高校しか出られないの」
凛「ええっ!? うちは選ばれてないにゃ!?」
絵里「選ばれる基準は、大会でどれだけ結果を残せたかよ?」
絵里「練習試合にも勝ったことがないうちが選ばれるわけないじゃない」
凛「えっ、えっ? じゃあ試合は……甲子園までお預けなの?」
絵里「もし夏までに練習試合が一件も無かったらそうなるわね……」
凛「あー、なんにゃ。練習試合を申し込んだり申し込まれたりしたらいいんだ」
凛「延々基礎練して人生が終わると思ったにゃ」
絵里「ただ……音ノ木坂よ?」
絵里「練習試合を断られる確率9割以上、申し込まれるのは天文学的確率……ましてや甲子園に向けて鍛えてる今は尚更」 凛「……い、今って申し込まれてたりとかは」
絵里「しないわね」
凛「結局駄目にゃ!?」
絵里「一応知ってる高校に申し入れたりはしてみるけれど……期待はしないで」
凛「うう……あ、そうだっ! 真姫ちゃんにゃ!」
真姫「十二回も腹にピッチャー返しをぶつけてごめんなさ……ヴェ? 呼んだ?」
「うぉぉう……おぉぉんうぅ……あぉう」
希「傷は浅いから大丈夫やん、意識をしっかり持って! 内臓に傷がついてるとまずいから、エタノール飲ませて消毒するやん」
「ごぉ……ぼぉが! げほっ、おぉぼっあっ……」ビタビタ
凛「真姫ちゃんの知り合いで、音ノ木坂と練習試合組んでくれそうなところに入った子っていない?」 真姫「いや……私、友達いないんだけど」
凛「だから知り合いって言ったにゃ」
凛「真姫ちゃんに友達いなさそうなんて、昨日の発言のアレさで分かってるよ」
真姫「アレさって何よ!? 知り合い……って言われても」
真姫「そりゃ、同じ中学ベストナインの何人かは義理で連絡先交換したけど。強豪校に行った子ばかりよ」
真姫「人類最弱の音ノ木坂と試合してくれるところなんて……うーん」
凛「連絡するだけ連絡してみてほしいにゃ……」
凛「このままじゃ凛は、姿見を見ながら投手の真似をする妖怪になっちゃうよ」
絵里「い、いや……あんまり強いところは駄目よ? 前にたまたま受けてくれた中堅校と試合して」
絵里「0-97で負けたこと今でもトラウマなのよ」
凛「バスケのスコアみたいになってるにゃ……」 真姫「ちょっと待って……うーん。向こうも部活中だろうから繋がるか分からないけど」
真姫「一応連絡取ってみるわね……携帯、使っていいかしら」
絵里「事情が事情だし仕方ないわね」
真姫「何でやってもらってる側が偉そうなのよ……はぁ」
真姫「まずは……無理そうなところから潰しましょ。静岡の浦の星……取れたら連休使って向かうことになるわね」プルルル
『も、もしもし?』
真姫「あ、ルビィ? 私だけど」
『えっと……どちら様ですか? 番号が、と、登録されてなくて』
真姫「ちゃんと交換したわよね!? 何さらっと電話帳から私の番号消してるのよ!?」
『ピギィ!? うゆ……ごめんなしゃい』
真姫「西木野真姫よ! ショートの! 一緒にベストナイン入ったでしょ!?」
『あ? ……はぁー、チッ』プツッ
ツー……ツー……
真姫「……」
凛「いやいやいやいや」 凛「えっ、何今の? えっ?」
凛「途中まで凄い大人しくて可愛らしい子なのかな、ってイメージだったのに」
凛「何で最後あんな吐き捨てられたタンカスみたいな対応されたの?」
真姫「……いや、なんというか」
真姫「私、ベストナインの会場で『この中で一番強いのは私、他の雑魚と比べてほしくないわ』って言っちゃって」
真姫「そこから少し嫌われてるのよね」
凛「無理じゃん」
凛「いや、そこからよく練習試合申し込めると思ったね?」
真姫「だって事実だから……」
凛「そういうとこだと凛は思うよ。とりあえず謝ってみたら? 話はそれからだよ」
真姫「分かったわよ、リダイヤル……」プルルル
『何? ルビィ忙しいんだけど』
真姫「ご、ごめんなさい。今までの発言全部謝るから、話だけでも聞いてくれない?」 『……まぁいいけど。何かあった?』
真姫「練習試合を申し込みたくて……」
『真姫ちゃんの行った高校って、音ノ木坂高校だったよね……?』
真姫「そ、そうだけど……」
『他のところならともかく、音ノ木坂は無理だと思うよ。昔の因縁もあるし、仮にルビィが話を通しても……』
『実力差がありすぎて、調整にもならないというか……二軍すら出してくれるか』
真姫「そうよね……時間取らせて悪かったわ」
『別にいいよ、まだ練習始まってないし。じゃあね』
ツー……ツー……
真姫「まぁ無理だとは思ってたけど……やっぱり無理ね」
凛「そもそも静岡は遠すぎるにゃ。もっと近場でないの?」
真姫「今のが一番近場だったのよ! 全国から選ばれてるんだから仕方ないでしょ!」 絵里「ま、待って!? 浦の星女学院が近場って、これから何処に電話かける気なのよ!?」
真姫「えっと……桜坂しずくの福岡劇場学院でしょ、ゴリラブス子の仙台の打振五輪羅高校(ダブルゴリラ)、津島善子が親に無理矢理入れられた和歌山の聖ミヒャエル大学付属」
真姫「鹿角理亞の函館聖泉女子高等学院は北海道だから無理として、後はえーと……あの子何処に行ったんだっけ」
絵里「ぜ、全部甲子園常連校じゃない!?」
凛「そんなに凄いところにゃ?」
絵里「打振五輪羅なんてホームラン女王の松浦果南がいるのよ!? 王長嶋松井清原に松浦が並ぶって言われてる『現代の水ゴリラ』松浦果南が!」
凛(し、知らねぇ……過去にもいたの水ゴリラ……?)
真姫「だから強豪校だって言ったじゃない!」
絵里「そもそも博多とか北海道とか! そんなとこに行けるほど部費無いわよ!」 真姫「何処にいけるくらいならあるのよ、部費」
絵里「二万円ならあるわ。電車に乗って東京内ならどこでもいけるわよ」
真姫「少なすぎる……家で飼ってるペットのお小遣いより少ないじゃない……」
凛(えっ……)
凛(凛……真姫ちゃんと友達になるの辞めようかな……)
真姫「けど東京内……東京内……」
真姫「UTXに行った知り合いはいないし、ううん」
絵里「さらっと去年の東京代表に練習試合申し込もうとした?」
真姫「……虹ヶ咲? そうだ、虹ヶ咲に行ってる子がいたわ」
絵里「虹ヶ咲って、あの西東京の? 名前は聞いたことあるけどうちと同じ弱小よね?」
絵里「真姫の知り合いにも、あんなとこに行ってる子はいるのね」
※このSSでは国際展示場は西東京にあります。コミケの最寄り駅は田無 真姫「天王寺璃奈って子なんだけど、知ってる?」
絵里「知ってるも何も……ベストナインだし、中学全日本のエースじゃない!」
希「天王寺!? ウチ、りなりーのファンなんよ! 虹ヶ咲に行ってたなんて知らんかった」
絵里「あら、球拾は大丈夫なの?」
希「なんか目が見えないって言いだしたから部室に戻って休ましてるよ」
絵里「そう……それより虹ヶ咲よ。あそこなら天王寺さんがいてもいい勝負になるんじゃないかしら」
凛「真姫ちゃん早く電話するにゃー!」
真姫「はいはい……」プルルル
『もしもしー?』
真姫「ああ、璃奈? 久しぶりね」
『えっと、誰? 登録されてないから分からない』
真姫「何で皆私の番号登録してないのよ。ちゃんと交換したわよね?」 『冗談だよ。真姫ちゃんから掛けてくるなんて璃奈ちゃんボード『びっくり』』
真姫「それ電話だと伝わんないわよ……」
『ところで何の用? 今からミーティングなんだけど』
真姫「忙しいところごめんなさい。実は虹ヶ咲に練習試合を申し込みたくて……」
『練習試合?』
『ね、ねえそれ本当? 本当に虹ヶ咲と練習試合してくれるの?』
真姫「え、ええ……こっちも所詮音ノ木坂だから、頭下げてでもしてほしいくらいよ」
『う〜……』
真姫「……?」
『璃奈ちゃんボード『やったー』! 皆、練習試合の相手見付かったよ!』
ヨウヤクカスミンノデバンデスカァ ホントウナノ?ヤッター! ワーワー コレデハイブガ……
真姫「な、何だかよく分からないけど……受けてくれるのね?」 『勿論! 璃奈ちゃんボード『負けないよ』』
真姫「ちょっと待ってね……皆、練習試合オーケーみたい」
絵里「本当!? 良かったわね凛、試合が出来るわよ」
凛「うわー! 初めての試合にゃ! 凛ばっちり試合まで練習するよ!」
真姫「ごめんごめん……それで、試合の日程なんだけど、明日の土日じゃ早すぎるし」
真姫「来週にでも……」
『明日で』
真姫「ヴェ?」
『明日、虹ヶ咲に来てね! 璃奈ちゃんボード『待ってる』』
『さー皆、迎え撃つために練習しなきゃ! 歩夢ちゃんはまずこの岩を素手で……』プツゥ
真姫「もしもし!? もしもーし!? 嘘でしょ!?」
希「どうしたん、そんなに焦って。日程はいつになったんよ」 真姫「に、日程……」
凛「そうにゃ、来週なら急ピッチで練習しなきゃならないし」
絵里「理事長に掛け合って夜中まで練習させてもらう? 試合近いって言うと甘いのよね。あの人」
穂乃果「海未ちゃんとことりちゃんにもスケジュール空けてもらわなきゃいけないしね!」
希「ウチもにこっち連れてこなきゃいけないし。バイトと被ったら交代要員いなくてキツいんよね」
絵里「で、日程は? 来週なの? 再来週なの?」
真姫「……明日」
絵里「ん……?」
真姫「明日! 明日虹ヶ咲に来いって、言ってたの!」
凛「……」
穂乃果「……」
希「明日……?」 絵里「いや無理……とは言ってられないわよね」
希「練習試合を申し込んですっぽかすのはスゴイシツレイに当たるからな……!」
絵里「穂乃果! 今すぐ弓道部室と裁縫部の部室に行ってスケジュール確認してきて!」
穂乃果「う、うんっ!」
絵里「希は矢澤さんに今すぐ電話! バイト中で出なかったら直接スーパーまで見に行って!」
希「了解やんっ!!」
絵里「凛はモブAとキャッチボール! 硬球に慣れて! 今すぐ!」
凛「わ、分かったにゃ!」
「あいあーい」
絵里「球拾は部室よね……肝心な時に! 真姫、一先ずはありがとう、久々に試合が出来るわ!」
真姫「べ、別に……いいわよお礼なんて。照れるじゃない」
絵里「ありがとうついでに、一年生の教室に残ってる子で暇そうな子に片っ端から声かけて!」
絵里「一人でも多く交代要員が欲しいの! お願い!」
真姫「ヴェェ!? 無理よ、絶対無理!」 絵里「言ってる場合じゃないのよ! 急いで!」
真姫「う、うう……連れてこれなくても知らないわよ!」ダッ
絵里「とんでもないことになったわね……」
凛「ちなみに……人数揃わなかったらどうなるにゃ?」
絵里「決まってるじゃない!」
絵里「三角ベースにしてくれって土下座するわ!」
凛「やっぱり三角ベース部にゃ! やっぱりここ三角ベース部にゃあ!」
絵里「それが受け入れられなかったら……不戦敗よ」
凛「……」
凛(お願い……神様、生まれて初めて貴方に祈ります)
凛(せめて九人……! せめて九人集まりますように……!) 部員いないし穂乃果ちゃんに次いで希ちゃんもサイコパスだし過去ここまで崖っぷちな部活SSがあっただろうか ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています