曜「愛しの君と」4
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―翌日・大学講義室―
教授「LGBTと呼ばれる人の割合は非常に多く――」
ルビィ「ふわぁ」
ルビィ(結局、昨日は遅くまで遊んじゃったな)
ルビィ(よーちゃん、ご飯屋さんでさらにお酒飲んじゃって今日はお休み)
ルビィ(よくよく考えたら、始めからその気だったのかもしれないけど……)
ルビィ(最近飲酒量が増えてきてるから、ちょっと心配かも) ルビィ(でも昨日は大目に見てあげようかな)
ルビィ(久しぶりにマルちゃんとも仲良しさんで、二人とも楽しそうだったから)
ルビィ(普段、どこかぎすぎす? とした雰囲気があるもん、あの二人)
ルビィ(それが昨日は、純粋に楽しそうだった)
ルビィ(お酒も悪いことばかりじゃないのかな――ルビィは苦手そうだけど)
ルビィ(あと寝顔、可愛かった)
ルビィ(あどけない感じ、まだちょっと子どもっぽい)
ルビィ(子どもらしさが抜けない代表のルビィがいうのも変かもだけど) 教授「理論上ではありますが、例えばこの部屋を見回してみると、その中に数人、そのような指向を持った人がいるのです」
ルビィ(好きな人と一緒に暮らせる)
ルビィ(多少不満に思うことはあっても、とても幸せな生活)
ルビィ(きっとこれ以上の贅沢はないと思う)
ルビィ(でもルビィたち、これからどうなっていくんだろう)
ルビィ(例えずっと一緒にいられても、今の仕組みだと結婚はできない、当然だけど子どもも持てない)
ルビィ(偏見にさらされて、それを隠して生きていかなきゃいけない) ルビィ(いくら昔に比べれば、同性愛者への風当たりは弱くなってるみたい)
ルビィ(でも結局、親や家族の理解や支援は絶対に必要)
ルビィ(だけどルビィのおうちは昔のまま――ううん、それ以上)
ルビィ(絶対に同性愛なんて許してもらえない)
ルビィ(おとーさんかおかーさんが家に都合のいい相手を探してきて、お見合いして、結婚して、後継者を生んで)
ルビィ(それがルビィの求められているもの)
ルビィ(それだけが、ルビィに求められているもの) ルビィ(いくら男の子は嫌だと主張しても、曜ちゃんが好きだと主張しても……)
ルビィ(曜ちゃんはもう三年生)
ルビィ(今の時間は楽しいけど、残された時間が減っていくことを毎日実感させられる)
ルビィ(ずっと一緒にいると誓ってるのに、その方法なんてルビィには分からない)
ルビィ(いつか思いつくかな、道が開けるかな)
ルビィ(そうやって考えている内に、こんなに時間が経っちゃった)
ルビィ(やっぱり無理、不可能なのかな)
ルビィ(どうしても現実的な方向へと頭が向かっちゃう) ルビィ(残された選択肢――やっぱり、駆け落ち?)
ルビィ(後ろ盾もない女の子二人で?)
ルビィ(そんなの無理だよ)
ルビィ(裏側で、人間の汚い部分を肌に感じながら泥をすすって生きるような人生しか送れない)
ルビィ(それなら、お別れしたほうがいいよ)
ルビィ(曜ちゃんならきっと、新しい恋人さんだって見つけられる)
ルビィ(ルビィより綺麗で、ルビィよりしっかりした、素敵な人を)
ルビィ(ルビィも黒澤家の人間として、味気ないけど、世間的に見れば幸せな生活を送れる) ルビィ(けど、そうやって簡単に割り切れないから恋愛なんだよね)
ルビィ(ずっと憧れだった曜ちゃん)
ルビィ(ルビィにはない才能を持っていて、何でもできて、格好良くて)
ルビィ(花丸ちゃんや善子ちゃんと一緒に、素敵だなっていつも話してた)
ルビィ(でもそんな輝いている裏に、弱いよーちゃんがいて)
ルビィ(好きになったのは、それを知った時?)
ルビィ(ぼせーほんのーみたいな感じ?) ルビィ(最初に曜ちゃんに迫られたあのとき)
ルビィ(本人はずいぶん気にしているみたいだけど、懐かしい)
ルビィ(ずいぶん前に話したみたいに、少し怖かったのは本当)
ルビィ(でも嫌な気持ちはなくて、どちらかといえば驚きが強くて)
ルビィ(行為自体も本人が語っているほど、強引でも、無理やりでもなかった)
ルビィ(悪役にはなれないんだよね、結局)
ルビィ(それが曜ちゃんのやさしさ)
ルビィ(臆病、弱さと例える人もいるけど、ルビィはやっぱりやさしさだと思う)
ルビィ(そう思えるから、やっぱりルビィは曜ちゃんのことが好きなのかな) ルビィ(ルビィの大切な恋人さん)
ルビィ(もしお別れしなきゃいけない日が来たら、どんな反応をするのかな)
ルビィ(やっぱり、壊れちゃうのかな)
ルビィ(普段から脆くて、簡単に崩れちゃうあの人じゃ、耐えられないよね)
ルビィ(……嫌だ、そんなの)
ルビィ(ルビィも、曜ちゃんがいない世界で生きていくなんて嫌だ)
ルビィ(でも……)
ルビィ「よーちゃん……」 ―マンション―
ルビィ「ただいまぁ」
ルビィ(返事、ない)
ルビィ「よーちゃん?」
ルビィ(靴はあるし、外出じゃないよね)
ルビィ(まだ寝てるのかな) 曜「すぅ……」
ルビィ「やっぱり……」
ルビィ(もうおやつの時間に近いのに、ずいぶんお寝坊さん)
ルビィ(可哀想な気もするけど、流石に起こしてあげたほうがいいかなぁ)
ルビィ(うーん、でも……)
曜「んっ、るびぃちゃ……」
ルビィ「あっ」 曜「ふわぁ、おそよーそろー」
ルビィ「今起きたの?」
曜「うん、ルビィちゃんを感じたから」
ルビィ「本当は?」
曜「お腹空いて」
ルビィ「ふふっ、タイミングばっちりだね」
曜「ルビィちゃんは美味しそうな匂いがするからね」 ルビィ「匂い?」
曜「なんかこう、温かいミルクみたいな匂い」
ルビィ「初めて言われたよ、そんなこと」
曜「だろうね、これは私にしか感じられないことだから」
曜「恋をしてるとね、その相手に、自分しか分からない特別なものを感じるんだよ」
ルビィ「へぇ……」
曜「ルビィちゃんはない? そういうの」
ルビィ「わかんない――きっといっぱいありすぎるから」
曜「あはは、そっか」 ルビィ「とりあえず、なにか食べる?」
曜「そうだねぇ……」
ルビィ「作ってもいいよ」
曜「いや、そこまでしなくていいや」
曜「ルビィちゃん、お昼は普通に食べたの?」
ルビィ「うん」
曜「じゃあ適当にお菓子でも食べて、夜まで我慢かな」
曜「食事当番私だから、量は食べられるし」 ルビィ「……またカレー」
曜「パパから教わった船乗りカレーだよ、美味しいでしょ」
曜「ルビィちゃんは嫌い?」
ルビィ「好きだけど、美味しいけど、飽きたよぉ」
曜「うーん、じゃあ変えようか」
ルビィ「えっ、いいの!」
曜「うん、今日は普通のカレーに――」
ルビィ「カレーから離れてよぉ」 曜「そこまで言われたら仕方ない、諦めるかぁ」
ルビィ「ほっ」
曜「代わりにルビィちゃんに合わせて、じゃがいもいっぱい買ってきてフライドポテト盛りね」
ルビィ「そ、それがご飯はちょっとやかなぁ」
曜「一緒にハンバーグも作るよ、付け合わせの野菜に、ご飯の代わりにパンも用意して」
ルビィ「あ、それならいいかも!」
曜「でしょ。私もルビィちゃんも好きな物だし」
曜「今日は時間もあるしさ、買い物行って、料理したらちょうどいいぐらいだよ」 ルビィ「いいね、楽しそう!」
ルビィ「二人で好きな物を食べて、満足して」
ルビィ「うんうん、凄くいいよ!」
曜「ついでに映画でも見ようか」
曜「昨日はみんなとワイワイやったから、今日は二人でゆっくり――みたいな感じでさ」
ルビィ「わぁ、流石よーちゃん」
曜「最近迷惑かけっぱなしだから、ここらで挽回しないとだしね」 ルビィ「お買い物、一緒にいこ!」
曜「うんうん、そうしようか」
曜「ちょっと待ってね、準備するから」
ルビィ「うん!」
曜「他に何か食べたい物あるか考えておいて」
曜「今日は普通に料理をしたい気分だからさ」
ルビィ「分かった!」 ―スーパー―
ルビィ「〜♪」
ルビィ(必要な物、大体揃ったかなぁ)
ルビィ(あとなにか――あっ、せっかくだしアイスも買っちゃおうかな)
ルビィ(そろそろ暑くなってくるし、曜ちゃんだって食べたいよね)
ルビィ(箱のアイス? それと昔おねーちゃんと食べたみたいな、二人で分けられるタイプがいいかなぁ) ルビィ「ねえ、曜ちゃん――」
曜「げっ」
ルビィ「うゅ?」
曜「ど、どうしたの」
ルビィ「いや、アイス買いたいけど、曜ちゃんもどうかなって」
曜「あ、ああ、そういうこと」
曜「いいんじゃないかな、私も食べたいし」
ルビィ「だよね!」 ルビィ(でもどうして、動揺してたのかな)
ルビィ(なにか後ろめたいことが――あっ)
ルビィ「ねえ、曜ちゃん」
曜「な、なにかな」
ルビィ「……カゴに入ってる、このビンはなに?」
曜「……お酒です」
ルビィ「やっぱり」
曜「バレてたかぁ」 ルビィ「もー、駄目だよ」
ルビィ「今日は二人でゆっくり過ごすんでしょ」
曜「あはは、安かったからつい……」
ルビィ「それに最近の曜ちゃんは飲み過ぎ。せっかくの美人さんが変になっちゃうよ」
曜「そんな変わんないよ、たぶん」
ルビィ「若いときの意識が後の自分にえいきょ―をするってお姉ちゃんが言ってたよ」
曜「うむむ、ダイヤさんの言葉となると気になる……」
ルビィ「うん、お姉ちゃんが言うなら間違いない」 ルビィ「とりあえず、善子ちゃんの誕生日まで禁酒ね」
曜「あー、もうすぐよーしこーの誕生日か」
ルビィ「うん」
曜「うちでお祝いするんだっけ」
ルビィ「そうだね、一番広いのはルビィ達のおうちだから」
ルビィ「そもそも言いだしたの、昨日の曜ちゃんだよ」
曜「……マジか、あんまり覚えてない」 曜「でもさ、誕生日まであと数週間はあるよ」
曜「流石にそこまで禁酒は辛くない?」
ルビィ「うーん、そうかなぁ」
曜「ほら、付き合いとかもあるしさ」
ルビィ「えー、ならせめておうちでは飲まないようにしよーよ」
曜「……確かに、そうだね」
曜「家で飲んだら、ルビィちゃんに迷惑かけちゃうし」
ルビィ「そうそう」 曜「分かった、家では飲まないようにするよ」
ルビィ「代わりに外でたくさん飲むのも駄目だからね」
曜「ギクッ」
ルビィ「よーちゃん」
曜「あはは、冗談だって」
ルビィ「本当に?」
曜「大丈夫、信じてよ」 曜「でもよーしこー飲ませる用のお酒買っておかないとね」
ルビィ「善子ちゃん、お酒飲むかなぁ」
曜「興味あるみたいなことは言ってたらしいよ」
ルビィ「そうなの?」
曜「梨子ちゃん経由だからたぶん間違いないね」
ルビィ「あー、なるほどぉ」
曜「実際ハマりそうなタイプだしね。酔ったら面倒くさそうだけど」
ルビィ(……そこはみんなのきょーつー認識なんだ) 曜「でも何がいいかなぁ」
曜「最近見つけたぶどうジュースみたいに甘い赤ワインとかか」
曜「悪魔の血とか適当いえば喜んで飲むでしょ、あの子」
ルビィ「そ、それはどうかなぁ」
曜「いやー、楽しみ」
曜「一度後輩を潰してみたかったんだよね」
ルビィ「あ、あはは」
ルビィ(本当にあるはらさんになってる……) 曜「まあそれは今度でいいから――アイスが溶ける前に会計済ませて帰ろうか」
曜「早く帰ってご飯にしないと、曜ちゃんのお腹の虫が悲鳴を上げそうだよ」
ルビィ「だね」
曜「あっ、でもグラタンの材料も買って帰ろうかな」
ルビィ「グラタン?」
曜「今日は対ダイヤさん専用メニューにしようかと」
ルビィ「あはは、どうしてそーなるの」
曜「ほら、ダイヤさんを倒せ! 的な?」
ルビィ「お姉ちゃん、可哀想だよぉ」
曜「まあまあ、実際は単純に私が食べたいだけだし」 ルビィ「よーちゃんは子どもっぽいね」
曜「ルビィちゃんに言われたくないよ〜」
ルビィ「ルビィはよーちゃんより大人だよ」
ルビィ「朝も起きれるし、講義にもちゃんと出席してるもん」
曜「いやいや、むしろいい子ちゃん過ぎて中高校生っぽい」
曜「私の方が、模範的な文系大学生してるから大人だよっ」
ルビィ「うわぁ、謎のドヤ顔」 曜「あっ、でもルビィちゃんも大人な部分もあるよね」
ルビィ「えっ、本当!?」
曜「うん、ベッドの上とか」
ルビィ「あー、セクハラだ」
曜「いやー、禁酒のせいで他の欲が強くなって」
ルビィ「そーゆーこと言ってると、もう付き合ってあげないよ」
曜「そ、それは困る、ごめんごめん」
ルビィ「ほらほら、変なこと言ってないで早くいこ」
ルビィ「時間は、いくらでもあるわけじゃないんだから」
曜「はーい」 ―数日後・カフェ―
ルビィ「――それでね、そのゾンビに曜ちゃん珍しく怯えてて」
花丸「ふんふん」
ルビィ「ルビィは珍しく平気だったのに、曜ちゃんは本当に怖かったみたいで」
ルビィ「ブルブル震えながら抱きついてきて、可愛かったんだぁ」
花丸「本当に珍しいね、怖がる曜ちゃん」
ルビィ「だよね〜」
花丸「うーん、ちょっと見てみたいかも」 花丸「でも妬けちゃうなぁ」
花丸「相変わらず、ラブラブみたいで」
ルビィ「ふふん」
花丸「はぁ、マルも恋人ほしいよ……」
ルビィ「全然そーゆー話はないの?」
花丸「うん」
ルビィ「マルちゃん可愛いのに、意外」
花丸「恋愛小説とかたくさん読んで憧れてはいるんだけどなぁ」 ルビィ「あれかな、本の登場人物のせいで、理想が高くなってるとか」
花丸「うーん、それはあるかも」
花丸「あとすごく可愛い子が身近にいるから、あんまり普通の人に魅力を感じないのかなぁ」
ルビィ「可愛い子?」
花丸「それはもちろん――ルビィちゃんずら!」
ルビィ「ピギッ」
花丸「二十歳超えて衰えない可愛らしさ――未来ずら〜」
ルビィ「ちょっと、恥ずかしいよぉ」 花丸「実際、ルビィちゃんだったら恋人でも全然OKなのに」
ルビィ「そ、そう?」
花丸「うん、大歓迎」
ルビィ「て、照れるな」
花丸「いっそ曜ちゃんと別れて、マルと付き合う?」
ルビィ「それは駄目だよぉ」
花丸「うぅ、こんな素敵な子を彼女に持つ曜ちゃんが憎い……」
ルビィ「あはは」 花丸「けどさ、そもそもマルの場合、女子高で今も女子大の文芸学部だし、そもそも出会うきっかけがね」
ルビィ「そっか、そうだよね」
花丸「周りには凄い積極的な子もいるけど、人見知りだし、そんな性格じゃないし……」
ルビィ「うーん、別に無理しなくてもいいんじゃないかな」
ルビィ「ゆっくりの方が、マルちゃんっぽいよ」
花丸「むむむ、恋人持ちの余裕……」
ルビィ「そんなんじゃないよー」 花丸「でも確かに、焦るのはマルらしくないよね」
ルビィ「うんうん」
花丸「正直今は恋人より、本とか食べ物の方が興味あるもん」
ルビィ「今もワッフル、二皿も食べてたもんね」
花丸「えへへ、美味しそうだったからつい」
ルビィ「食べてる時の幸せそうなマルちゃん、ルビィは好きだよ」
花丸「東京は食べ物の誘惑が強すぎて困るずら〜」 ルビィ「分かるよ。ルビィもいつも誘惑に負けそうになるもん」
花丸「ルビィちゃんはどうやって誘惑に抗うの?」
花丸「マルはいつも流されて食べちゃうけど
ルビィ「うーん、どうやって……」
ルビィ「だいたい、曜ちゃんのことを考えて抑えるかな」
花丸「曜ちゃんの?」
ルビィ「例えば、一人で食べたら曜ちゃんが可哀想だなとか、早く帰ってあげないと寂しがるかなとか考えるかも」
ルビィ「その分一緒にいるときは、誘惑に流されてる気もしちゃうけど」 花丸「むぅ、やっぱり恋人なのかな」
ルビィ「結局そうなるのかな」
花丸「恋人、しかもずっと一緒にいるような相手」
花丸「はぁ、マルには無理ずら……」
ルビィ「そ、そんなことないよ」
花丸「でもイメージできないずら……」
ルビィ「そもそも、ルビィだってずっと一緒にいられるかは……」
花丸「……将来のこと?」
ルビィ「……うん」 ルビィ「最近ね、ずっと悩んでるの」
ルビィ「ルビィと曜ちゃんは、どうなるか」
ルビィ「いつまでこんな生活を続けられるか」
ルビィ「いくら考えても、明るい未来が想像できなくて」
花丸「……ルビィちゃん」
ルビィ「ねえ、マルちゃんはどうしたらいいと思う?」
ルビィ「どうするのが、一番幸せになれるのかな」 花丸「マルは、早く諦めた方がいいと思う」
ルビィ「マルちゃん……」
花丸「長引けば長引くほど、後に引きずるよ」
花丸「だから、早めに別れて、違う道を歩むのがいいんじゃないかな」
ルビィ「でも曜ちゃん、ルビィがいないと……」
花丸「そこはほら、マルも一緒に方法を考えてあげるから」
ルビィ「…………」 ??「どうしたのかな、暗い顔して」
ルビィ「へっ」
千歌「そんな顔をしてたら、美少女が台無しだよ」
花丸「千歌ちゃん?」
千歌「うん、そうだよ!」
ルビィ「わぁ、久しぶりだね」
千歌「うむ」 花丸「どうしたの、こんなところで」
千歌「一人で散歩してたら、カフェの中に二人を見かけてさ」
千歌「せっかくだから一緒にお茶させてくれないかな〜って思ったんだけど――お邪魔だった?」
ルビィ「ううん、そんなことないよ――ねっ、マルちゃん」
花丸「うん、もちろん」
千歌「そりゃ助かるよ」
千歌「お礼に先輩として、ここは千歌が奢ってあげるのだ!」
花丸「わぁ、いいの!」 千歌「うんうん、もちろん」
千歌「私だってバイトしてるから、お茶代ぐらい余裕だよ」
花丸「よかったね、ルビィちゃん」
ルビィ「う、うん」
ルビィ(流石幼馴染、発想がおんなじ)
ルビィ(でも言わなくていいのかな、既に片付けられたワッフル×3が存在したこと)
ルビィ(合わせたら、結構な金額になるけど……) 千歌「ルビィちゃん、曜ちゃんとは上手くやってるかね」
ルビィ「あっ、うん」
千歌「はーよかった。心配だったんだよね」
花丸「そうなの?」
千歌「曜ちゃん、あんまり自分の話したがらないからさ」
花丸「へぇ」
ルビィ「そーなんだ」 千歌「まあ酔ってるとポロポロ惚気話するけどさ」
ルビィ「惚気話ってそんな……」
千歌「まあこんな可愛い子と一緒に住んでたら仕方ないよね」
花丸「うんうん、分かるよ」
花丸「マルも酔ってなくても、よくルビィちゃんの自慢話するもん」
ルビィ「千歌ちゃん、よく曜ちゃんとお酒飲んでるの?」
千歌「うん、私はそんななんだけど、梨子ちゃんはお酒好きでよーちゃんと一緒に楽しんでることが多いかな」
千歌「なんかね、げーじゅつかはお酒が好きなんだって」 ルビィ(梨子ちゃんとお酒)
ルビィ(ワインとか、おしゃれなカクテルとか、似合うかも)
ルビィ(それに曜ちゃんと梨子ちゃん、二人で並んでお酒を飲んでると絵になる気も)
千歌「私を差し置いて二人だけで飲むこともあるらしいよ」
千歌「まったく酷い話だよね、プンプン」
ルビィ(仲間はずれな感じで気持ちは分かるけど、無理に飲ませないよう気を使っているのかな)
ルビィ(でも日ごろよくお酒を飲んでる友達、もしかして梨子ちゃんなんじゃ……) 千歌「二人もお酒を飲める年齢になったら、三人で飲みに行こうよ」
千歌「あんな酒飲みたちは無視して三人で、楽しく飲もう」
千歌「他のAqoursメンバーも、上級生組は強そうだし、善子ちゃんはどーせ梨子ちゃんと同じタイプだし」
ルビィ「いいね、平和そう」
花丸「賛成ずら〜」
千歌「よーし、決まり」
千歌「両手に華の未来が決定したのだ!」
花丸「未来ずら〜」
ルビィ「花丸ちゃん、今日はそれ好きだねぇ」 千歌「よーし、千歌ちゃんはご機嫌だから遠慮なくデザートとか頼んでいいよ」
千歌「何個でも遠慮なく頼んじゃえ!」
花丸「えっ、それじゃあこのケーキ食べてもいい?」
千歌「うんうん、もちろん」
ルビィ「あ、あの、千歌ちゃ――」
花丸「あとこのワッフルも」
千歌「ドンと来い!」
ルビィ「…………」
ルビィ(楽しそうだし、まあいっか) ―――
――
―
ルビィ「ただいまぁ」
ルビィ(千歌ちゃんに捕まってたら、遅くなっちゃったな)
ルビィ(久しぶりだから、お互いに積もる話もあって楽しかったけど)
ルビィ(曜ちゃんのお返事無いけど、拗ねちゃった?)
ルビィ(それとも、前みたいに寝てるのかな) ルビィ「よーちゃん、寝てるの?」
ルビィ「よーちゃん?」
ルビィ(あれ、もしかしてお出かけ中?)
ルビィ(そういえば、靴もなかったかも)
ルビィ(けど食事当番の日なのに、ご飯作った様子もない)
ルビィ(お買い物にしては、いつも使ってるエコバックも置きっぱなし)
ルビィ(やっぱり、拗ねちゃった説かなぁ) ルビィ(ひとまずラインで連絡して、謝って)
ルビィ(ご飯、作っておいてあげようかな)
ルビィ(そしたら機嫌直してくれるかもだし)
ルビィ(とりあえずお買い物に行って――でもその間に帰ってきたら嫌だな)
ルビィ「れーぞーこの中……からっぽ」
ルビィ(書き置き、すればいいかなぁ)
ルビィ(ちゃんと読んでくれるか心配だけど――あれ) ルビィ「机の上に、紙?」
ルビィ(もしかして、曜ちゃんの書き置き?)
ルビィ(ルビィと同じこと考えていたのかな。えへへ、そっくりさんだ)
ルビィ(けど友達と飲みにいってるとか、そんな内容だったら嫌だな)
ルビィ(でも今日は千歌ちゃんはルビィたちと一緒だったし、大丈夫かな)
ルビィ(でもそれなら、どんな内容――)
ルビィ「えっ」
『しばらく旅に出ます。探さないでください』 いよいよクライマックスか
同棲系は安定して面白いな 【数日後】
善子「――その教授さ、酷いと思わない?」
理亞「そうかしら」
花丸「えー、それは善子ちゃんが悪いずら」
善子「いやいや、そんなことないわよね、ルビィ」
ルビィ「えっ、ああ、うん」 ルビィ(曜ちゃん……)
ルビィ(あの後、帰ってくる気配どころか、一度の連絡すらない)
ルビィ(こっちからの連絡もつかない)
ルビィ(電話でない、メールも帰ってこない、メッセージ送っても既読付かない)
ルビィ(単純な気まぐれ?)
ルビィ(でも曜ちゃん、ルビィと一緒に暮らし始めてから、一人で長期間遠くへ行こうとはしなかった)
ルビィ(いつも一緒、のはずだったのに)
ルビィ(どうしたんだろう、急に) 理亞「ねえ、なにかあったの?」
ルビィ「えっ」
理亞「ルビィ、さっきから様子がおかしい」
ルビィ「そ、そうかな」
花丸「うん、だってずっと上の空だよ」
花丸「普段、善子ちゃんの戯言に一番付き合ってあげてるはずのルビィちゃんなのに」
善子「ちょ、戯言とかいうな!」 善子「でも実際、何かあったの?」
善子「様子が変なのは確かよね」
ルビィ「た、たいしたことじゃないんだけど……」
花丸「それなら話してみてよ」
花丸「少しは助けになれるはずだもん」
花丸「人に言えないような類、じゃないよね」
ルビィ「……うん」 ルビィ「あ、あのね」
花丸「うん」
ルビィ「曜ちゃんがね、旅に出るって書き置きを残して、いなくなっちゃったの」
善子「曜さんが?」
花丸「ほ、本当に!?」
ルビィ「うん」
善子「でも旅ぐらい、してもおかしくないんじゃない」
花丸「そ、そうだよね。時間のある大学生なんだし」
ルビィ「でもね、全く連絡がつかなくて、消息も不明で……」 花丸「つまり、行方不明?」
ルビィ「ま、まだ数日だから分からないけど……」
善子「書き置きがあった時点で、事件とかではなさそうだけど」
理亞「連絡がつかないのは気になるわね」
花丸「曜ちゃん、一人旅とか好きなタイプじゃないよね」
ルビィ「うん、こんな行動は初めてだから……」
花丸「心配だね……」 理亞「あんまり長引いたら、警察とか行った方がいいんじゃない」
ルビィ「でも、そこまでしちゃうのも……」
善子「まあ、そうよね」
善子「普通に旅だったり、他の事情があった場合は困るかもしれない」
花丸「事情って……」
善子「色々あるかもしれないでしょ」
理亞「それは、そうかも」 善子「ひとまず私たちの方でもちょっと探してみましょう」
善子「知り合いに聞いたりして、ルビィ一人より効率はいいでしょ」
理亞「うん、それがいい」
花丸「そ、そうだよね。マルたちも曜ちゃんが心配だし」
ルビィ「……ありがと、みんな」
善子「今日は一度解散にしましょう」
善子「早速伝手を当たってみるわ」
ルビィ「分かった」 善子「あとで報告するから、ルビィは帰って休みなさい」
花丸「そうだよ、ずっと心配してて疲れちゃっただろうし」
理亞「うん」
ルビィ「……」
花丸「マルも頑張るから――ルビィちゃん、元気出してね」
理亞「深刻に考え過ぎちゃ駄目」
善子「きっとあの適当な人のことだから、ひょっこり戻ってくるわよ」
ルビィ「……そう、だよね」 ―帰り道―
ルビィ(せっかく集まれたのに、悪いことしちゃったかな)
ルビィ(なにも言わないで、ルビィだけ帰った方がよかったかな……)
ルビィ(みんな、やさしかったな)
ルビィ(まだ心配するような段階じゃない)
ルビィ(ルビィが、勝手に深刻に考えてるだけかもしれないのに) 善子『他の事情が――』
ルビィ(他の、事情)
ルビィ(連絡が取れない、旅を言い訳にした事情)
ルビィ(それがあるとしたら、きっとルビィに関係していること)
ルビィ(一緒に居たくなくなった、離れたくなった、そんな理由かもしれない)
ルビィ(深く、普通の恋人より深く愛し合って、必要とし合っている関係だと思ってた)
ルビィ(でも、特別な関係だと思っていたのはルビィだけで)
ルビィ(もう、飽きられちゃったとか) ルビィ(曜ちゃん、人気者だから、もっと素敵な人を見つけて)
ルビィ(ルビィより綺麗で、やさしくて、気が合う、そんな人)
ルビィ(それかルビィのこと、嫌いになっちゃって)
ルビィ(それで、いらなくなって)
ルビィ(捨てられ、ちゃったのかな)
ルビィ(ずっと想い合ってるはずだったのに)
ルビィ(いつの間にか、好きなのはルビィだけになって――)
ルビィ(やだな、そんなの)
ルビィ(ルビィは、曜ちゃんが大好きなのに) ルビィ(声、聴きたいよ)
ルビィ(いつもみたいに我儘を言ってほしいよ)
ルビィ(子どもみたいに甘えて、依存して)
ルビィ(好きだよって、甘い声で囁いてくれて)
ルビィ(抱きしめて、身体を重ねて、愛し合って)
ルビィ(それだけで、ルビィはいいのに)
ルビィ(そんな曜ちゃんがいてくれるだけで、幸せなのに)
ルビィ(どうして、どうして――) ??「ルビィちゃん」
ルビィ「えっ」
ルビィ(もしかして、よーちゃ――)
千歌「やあ」
ルビィ「……千歌ちゃん」
千歌「おっと、露骨にがっかりした顔をされると流石にショックかな」
ルビィ「……ごめんなさい」 千歌「元気、なさそうだね」
ルビィ「うん……」
千歌「まあ、仕方ないよね」
千歌「事情は聞いてるよ」
ルビィ「……もう、誰から連絡行ったんだ」
千
歌「うん、まあ、そうかな」
ルビィ「わざわざ、励ましにきてくれたの?」
千歌「うん、ルビィちゃん達の家に行こうとは思ってた」
千歌「そしたらちょうど見かけたから、声をかけたの」
ルビィ「……ありがと」 ルビィ「ねえ、千歌ちゃん」
千歌「うん」
ルビィ「ルビィは、どうすればいいのかな」
千歌「……どう?」
ルビィ「確信はあるんだ」
ルビィ「普通に旅に出る、それが嘘だってことは」
千歌「うん」
千歌「私がルビィちゃんの立場でも、同じことを考えるよ」 ルビィ「でもね、もしそれが嘘だとしたら」
ルビィ「その場合に、想像できることが、全部ネガティブなことで」
ルビィ「明るい話が、想像できなくて」
千歌「うん」
ルビィ「なにか、しちゃったのかな」
ルビィ「嫌われるようなこと」
ルビィ「ルビィの傍から、離れたくなるようなこと」
千歌「そんなことは、ないと思うよ」
ルビィ「でも――」 千歌「私はね、曜ちゃんの今回の行動が、なんとなく分かるんだ」
ルビィ「曜ちゃんの、行動が」
ルビィ「それは、どんな」
千歌「詳しい話は知らない、ちゃんと聞いたわけじゃないから」
千歌「それにね、知っていても言えない内容かもしれない」
千歌「でもね、私に言えることは一つだけ」
千歌「曜ちゃんを信じてあげて」
千歌「ルビィちゃんは、それができる子だと思うから」 ルビィ「曜ちゃんを、信じる」
千歌「知ってるよ、二人が他の人が思っているよりずっと、深い関係なこと」
ルビィ「!」
千歌「私は小さい頃からずっと一緒にいた幼馴染だから、気づいちゃうんだよ」
千歌「どんなに変わっても、隠しても、よーちゃんはよーちゃん」
千歌「身体を動かすのが大好きで、海やプールが大好きで、お父さんが大好きで、千歌やAqoursのみんなが大好きで――ルビィちゃんを、一番大好きな」
千歌「そんな彼女を、世界で二番目に曜ちゃんのことを理解してる、はずだから」
ルビィ「ちか、ちゃん」 千歌「ルビィちゃん、思い出して」
千歌「一緒に積み上げてきた時間、その間に存在した感情」
千歌「そんな簡単に崩れるものじゃないはずだよ」
ルビィ「それは……」
千歌「曜ちゃんは誰よりもルビィちゃんを愛して、信頼してる」
千歌「ルビィちゃんも、そうだよね」
ルビィ「うん」
千歌「だったら、待っていてあげよう」
千歌「曜ちゃんを信じて、戻ってくるのを」 ―七月十二日―
『うえぇぇん、うえぇぇん』
ルビィ(泣き声、小さい頃のルビィの)
ルビィ(ここは、夢?)
『どうしてあなたは、ダイヤみたいにできないの』
『そんな騒ぎを起こして――男の子が少しちょっかいを出してきただけで』
『スクールアイドルなんて遊びをしている暇があったら――』
『大学? お前の立場で本当に必要なのか』
『同性愛者とかさ、あり得ないよね〜』
『全く、こんなことでは嫁の貰い手も――』
ルビィ(悪夢、かな) >>78訂正
ルビィ「曜ちゃんを、信じる」
千歌「知ってるよ、二人が他の人が思っているよりずっと、深い関係なこと」
ルビィ「!」
千歌「私は小さい頃からずっと一緒にいた幼馴染だから、気づいちゃうんだよ」
千歌「どんなに変わっても、隠しても、よーちゃんはよーちゃん」
千歌「身体を動かすのが大好きで、海やプールが大好きで、お父さんが大好きで、千歌やAqoursのみんなが大好きで――ルビィちゃんを、一番大好きな」
千歌「私は世界で二番目に、曜ちゃんのことを理解してる、はずだから」
ルビィ「ちか、ちゃん」 >>80の続き
『ルビィちゃん』
ルビィ(よー、ちゃん)
『……本当に可愛いね、ルビィちゃん』
『こらっ、この小悪魔ちゃん』
『私は、ルビィちゃんだよ。ルビィちゃんが、一番なの』
『曜ちゃんはうさぎさんだから、寂しいと死んじゃうであります』
『うーん、この子を独占できて私は幸せだなぁ』
ルビィ(……あったかい)
ルビィ(ルビィの冷たい心を、曜ちゃんが温めてくれる)
『じゃあさ、これからはこんな風に写真撮ろうよ』
『大切な人と過ごす輝いた時間を記録しないなんて、勿体ない――』 パシャリ
ルビィ「……よー、ちゃん」
曜「へへっ、久しぶりに一枚」
曜「可愛い寝顔、いただきであります!」
ルビィ「……夢?」
曜「あっ、起こしちゃったかな」
曜「ごめんね、可愛かったからついさ」
曜「衝動が抑えられなかったんだよね」 ルビィ「よー、ちゃん?」
曜「ただいま。ちょっと帰るの遅くなっちゃった」
ルビィ「……本物?」
曜「うん、そりゃそうでしょ」
曜「そもそも、家の鍵を持ってるの、私とルビィちゃんだけだし」
ルビィ「でも、いなくなって」
曜「あはは、連絡も入れずにごめんね」
曜「帰る時ぐらいは――と思ったんだけど、サプライズ的なのもいいかなと」 曜「いやー、何とか間に合ってよかったよ」
曜「よーしこーの誕生日、出る前は余裕だと思っていたんだけど――」
ルビィ「馬鹿!」
曜「うわっ」
バタン
曜「ちょ、久々だからって積極的すぎ――」
ルビィ「そんなんじゃないもん!」
ルビィ「ばかばかばか、曜ちゃんの馬鹿!」
ルビィ「心配したんだよ、あんな風に出て行って、連絡もつかなくて!」
曜「…………」 ルビィ「それに、寂しかった」
ルビィ「曜ちゃんが居なくなって、一人になって」
ルビィ「何にもわかんなくて、どうしようもなくて」
ルビィ「ただ、待つことしかできなくて」
ルビィ「すごく……寂しかったんだよ……」
曜「……そうだよね」
曜「ごめんね、辛い想いをさせて」
曜「でもね、どうしてもやらなきゃいけないことがあったの」
ルビィ「やらなきゃ、いけないこと?」 曜「話してきたんだ、私たちの関係」
曜「ダイヤさんや、私の両親」
曜「あと、Aqoursのみんなにも」
ルビィ「えっ……」
曜「ごめんね、勝手に」
曜「本当は相談するべきだったと思う」
曜「けど、巻き込みたくなかった」
曜「辛い思いをする、その可能性が高いことだから」 ルビィ「でも、そんなの」
ルビィ「そんなことをしたら、ルビィたちは、もう一緒には」
曜「確かに、そうかもしれない」
曜「私もさ、ずっとそんな風に思ってた」
曜「誰も受け入れてくれない、認めてくれないって」
曜「でもね、気づいたんだ」
曜「それじゃ駄目だって」
曜「誤解されて、落ち込んで、嫌な想像ばかりして」
曜「恐れから全てを隠そうとして」
曜「それじゃあ、駄目なんだよ」
曜「いつか限界が来る、真っ暗な未来図しか描けない」
ルビィ「よー、ちゃん」 曜「信じてみようと思ったんだ、大切な人たちを」
曜「まずはAqoursのみんなやお父さん、お母さん――」
曜「信じられる――ううん、信じなきゃいけない人たちを」
曜「改善はしていても普通とは違う、受け入れてもらえない」
曜「そんな風に考えて、希望から遠ざかっていたのは私たち自身」
曜「自分たちから踏み出さなきゃ、未来は変えられない」
ルビィ「でも……」 曜「大丈夫だよ。世界は人が考えるよりやさしくて、安らかだから」
曜「ルビィちゃんのご両親みたいに、受け入れるのは難しい人はいる」
曜「差別は絶対になくならないし、嫌悪感を抱かれることだってある」
曜「それは、確かかもしれない」
曜「でもね、みんながそうじゃないんだ」
曜「受け入れて、心の底から祝福してくれる人だってたくさんいる」
曜「実際、私はこうして帰ってきた」
曜「帰ってこれたのは、みんなが味方になってくれたから」
ルビィ「それじゃあ……」 曜「最初はね、反対もされたよ」
曜「私のお父さんなんて泣いてたよ。ダイヤさんも複雑そうにしてて」
曜「けどね、ちゃんと正直に、誠実に想いをぶつけたら分かってくれた」
曜「理解して、祝福してくれた」
ルビィ「お姉ちゃん……」
曜「まあ、梨子ちゃんは『応援するわ!』って即答してくれたけど」
ルビィ「ふふっ、梨子ちゃんらしいね」
曜「だよね」
千歌「千歌ちゃんも、なにが今さらなんて感じで、さも当然のように祝ってくれて」
曜「それが凄くありがたくて、嬉しかった」 曜「そんな感じで、数はそんなに多くないけど、心強い味方ができた」
曜「これできっと、少しだけ未来へ進めたはず」
ルビィ「……曜ちゃん」
曜「うん」
ルビィ「ありがとう」
曜「……寂しい思いをさせていたにお礼を言われると、少し変な気分だね」
ルビィ「でも、嬉しかったから」
曜「……そっか」 曜「ねえ、ルビィちゃん」
ルビィ「うん」
曜「一つだけ、お願いをきいてもらってもいいかな」
ルビィ「お願い?」
曜「私たちの関係を強くするために、必要なことがあるの」
曜「ルビィちゃん、なんで私がこの大学を選んだか知ってる?」
ルビィ「なんで?」
曜「重要なことなんだよ」
ルビィ「……それは、一緒に住むのに都合がいい場所にあって、お互いに必要なことを学べるから?」
曜「そうだね、もちろんそれもある」
曜「でも他に選択肢もある中で、あえて選んだ理由は――これ」 ルビィ「同性、パートナーシップ制度?」
曜「うん、そうだよ」
曜「この地域にはね、日本では珍しい仕組みがある」
曜「自治体が、同性の恋人をパートナーとして認定してくれる制度が」
ルビィ「パートナー……も、もしかして」
曜「正確には、夫婦になれるわけじゃないけどさ」
曜「事実婚とか、今どき結構あるし」
曜「申請できるのは二十歳超えてからだし、まだ婚約みたいな感じになるけど――」
曜「ルビィちゃん」
曜「私と、結婚してください」 ―七月十三日・マンション―
千歌「結婚おめでとー!」
曜「ちょっと千歌ちゃん、今日は善子ちゃんの誕生日だよ」
梨子「曜ちゃん、善子ちゃんには悪いけどそれどころじゃないわよ」
理亞「でも、ビックリした」
理亞「まさか渡辺曜とルビィが付き合っていたなんて」
果南「それどころか結婚だもんね、驚きだよ」 千歌「私、二人が付き合ってるのは前から知ってたよ〜」
果南「へぇ、いつから?」
千歌「函館のお姉ちゃんたちに贈るライブの後、ルビィちゃんに頼まれて部屋を変わってあげたんだよね」
千歌「元々、私と曜ちゃんで同部屋だったから」
千歌「でもさ、よく考えたら荷物とか置きっぱなしでしょ」
千歌「それで取りに行ったら、中から艶めかしい声が……」
鞠莉「ワォ」
善子「生々しいわね」
曜「ま、マジか」
ルビィ「うぅ」
ルビィ(あの時、久しぶりだったうえに、吊り橋効果みたいな感じで激しかったから……) 梨子「ち、千歌ちゃん。詳細について詳しく」
千歌「駄目だよ、流石にそれはマズい」
梨子「そ、そこを何とか」
千歌「うーん、まあ本人たちの許可があれば――」
曜「いやいや、絶対駄目だからね」
千歌「だって」
梨子「……そう」
曜「ちょっと、本気でガッカリしないでよ……」 ダイヤ「うぅ、ルビィが、私の可愛いルビィが、結婚……」
鞠莉「あらら、泣き出してる」
果南「さっきまで、ずっと笑顔で祝福してたのにね」
鞠莉「きっと複雑な感情が心の中で渦巻いているのよ」
花丸「ダイヤさん、気持ちは分かるずら……」
ダイヤ「あぁ、ルビィ……」
果南「大変だねぇ、お姉ちゃんも」 善子「はぁ、私の誕生日、すっかり取られちゃったわね」
ルビィ「ごめんね、タイミング悪くて」
善子「いいわよ、別に」
善子「曜さん、頑張って私の誕生日に帰ってきてくれたんだもの」
善子「それに、誕生日に大切な人たちが幸せになれるなんて、最高のことじゃない」
ルビィ「……やっぱり、善子ちゃんは善い子ちゃんだね」
善子「今日は素直に受け取っておくわ」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています