ことり「…………行ってくるね」

理事長「向こうでも体に気をつけるのよ、ことり」

ことり「――――うん」

青く澄んだ空を見上げる事なく、ことりは俯きながら空港の入り口へと向かう。

ことり「――――――」

重い足取りに鞭を打つかのように、自らに言い聞かせるのは、己が下した留学という決断の正当性だ。

子供の頃から抱いていた夢はファッションデザイナーであり、決してアイドルではない。
描く将来のビジョンはファッションデザイナーとして活躍する自分の姿であって、アイドルとしてステージに立つ自分の姿ではない。

その描いていたビジョンの中に、自分のデザインした服を穂乃果達に着てもらうという理想図はあったけれど。

ことり「うっ、ぐ………………」

堪えるつもりの涙が、止めどなく溢れ、だらしなく頬を伝った。

ことり「流す資格なんて……ないのに」

最終的に別れの決断をしたのは紛れもなく自分で、留学の相談に切り出せなかったのも自分のせいだ。タイミング的に切り出せなかったのではなく、切り出しにくい状況下に甘んじて先延ばしにした末路がこれだ。

逃げて、逃げて、また逃げて、挙句親友のせいにして……仲違いした状況からも目を背けて。
そんな卑怯で臆病な自分に、流していい涙など一滴足りともありはしなかった。

「ごめん、ね。穂乃果ちゃん……みんな」

伝えるべきだった言葉を漏らして、ついに旅立つことりの背に声をかける者は――。
誰一人として現れたりはしてくれなかった。



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