【SS】 リリーのアトリエ
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8人か…かしこい人抜いてもあと5人いけそうですね(チラッ) まるで普段は賢くないみたいな言い方はやめるんだ・・・
一旦収束に向かったと見せかけて、更なるピンチで盛り上がる展開おもしろい -ヌマヅタウン東門前
町のあちこちから聞こえていた戦闘の音も今ではすっかり落ち着いています
それでも襲撃規模が不明のまま防衛するしかない現状に、自警団の人達にはまだまだ緊張状態が続く
そんな中、普通のモノよりひと際大きい馬車を待機させている鞠莉ちゃんがいました
絵里「鞠莉っ! 準備はできてる?」タタッ
鞠莉「エリー、こっちはオッケーよ! それと……」チラ
梨子「はぁ、はぁ……ふぃ……」
鞠莉「梨子……」
梨子「え、あっはい!」
そこにいたのはヌマヅタウントップクラスの錬金術士鞠莉ちゃん
絵里ちゃんから一緒に行動するという事は聞いていた梨子ちゃんですが、やはり緊張するものがあります
てっきり作戦について重要な事を話すのだと思い身構える梨子ちゃんに、鞠莉ちゃんはゆっくりと頭を下げるのでした
鞠莉「ありがとう」
梨子「マ、マリーさん!?」
鞠莉「今回の話、ここまでの経緯も聞いたわ。町を守ってくれて、本当にありがとう」
梨子「そ、そんな……私は自分に出来る事をやっていただけで…」
鞠莉「それがとても大きな事で、私にとってなによりありがたい事だったから、お礼はさせて」
梨子「マ……はい。それでも被害はまだ続いています、今は……」
鞠莉「そう、まだ終わっていないわ。これから向かう場所は聞いているわね?」
梨子「ヘーベル湖での浄化作業ですね」
鞠莉「オッケー、じゃあ詳しい説明は移動しながら伝えるから、二人とも乗って!」
絵里「鞠莉、頼んでいたものは用意してある?」
鞠莉「当然バッチリよ!」
梨子「お、お邪魔しますー…」
町で見かける一般的な馬車よりも遥かに大きい高級キャラバン仕様の馬車に乗るのは初めての梨子ちゃん
少し違う緊張感を味わいながら乗り込むと、そこには見知った顔がありました
曜「お、きたきた」
ダイヤ「お待ちしていましたわ」
ルビィ「梨子さーん」
梨子「曜ちゃんにダイヤさん、ルビィちゃんまで……あ、と……」
果南「直接話すのは初めてだね。私は松浦果南、あらためてよろしく」
梨子「桜内梨子です、よろしくお願いします」
馬車にはたくさんの荷物とともにダイヤさん達も乗り込んでいました
果南ちゃんとは一度会ってはいますがどういう人なのかはまだ知りません
絵里「よっと、あれ…曜が来たのね」
曜「絵里ちゃんひさしぶり」
ダイヤ「!?」ドキッ
最後に鞠莉ちゃんも乗り込むと、馭者さんに一言告げる
そして馬車はヌマヅタウンからヘーベル湖に向けて出発しました
鞠莉「今からヘーベル湖だと、到着は朝方ね。それまでに準備をしましょう」
果南「先にこっちじゃない?」ゴソゴソ…
絵里「あ、頼んでおいたものね」キラッ
梨子(なんだろう、新兵器とかそういうのかな?)
普通の食事でした
絵里「あ〜〜やっとまともに食べられるぅ♪」ハムッ
鞠莉「廃鉱ではロクに食べれなかったみたいね」
絵里「調査団の人らとなんとか工夫して凌いでたのよ、もう大変だったわ〜」ムグムグ
梨子(エリー先輩、さっきと雰囲気が違う。フランクなところもあるんだ)
ルビィ「はい、梨子さんもしっかり食べておかないと」
梨子「ありがとうルビィちゃん」
絵里「そういえばどういう人選なの?これ」
曜「さぁ? 私も団長がいくんだとばかり思ってたけど、私に行けって」
鞠莉「町への襲撃がまだ終わったわけではないし、敵の本命が来るかもしれないからね、指揮系統を重視したのよ」
梨子(おそらくヘーベル湖にもモンスターがいる可能性がある。それは盗賊のアジトを襲った……)
果南「それでダイヤはどうして? ってかルビィちゃんも見つかったのに一緒だなんて」
ダイヤ「わたくしが申し出たのです。鞠莉さんからこちらの方にも襲撃が予想されるから人手を貸して欲しいと言われましたので」
鞠莉「次期頭首みずから来るなんてね」
ダイヤ「今の状況に頭首もなにもありません。家のものにも自警団の方々と協力するようには言ってあります」
果南「な〜んか違う目的もまじってない?」クスッ
ダイヤ「そそ、そんな事ありません。それにルビィの事もありますし、すべて終わってからでないと余計な混乱をまねくと思ったのです」
ルビィ「ルビィはまだ捜索届がでていて、行方不明扱いだから…」
鞠莉「事情を説明するにしても確かに今は違うのはわかるけど、いいの?」
ダイヤ「ええ。それにルビィも立派に戦えます、わたくしが保証しますわ」
ルビィ「ぅゅ、がんばルビィ!」
梨子(マリーさんはダイヤさん達とすごく親しい感じなのかな)チラチラ…
曜「鞠莉ちゃん達は幼馴染なんだよ」サッ
梨子「曜ちゃん、そうなんだ」
曜「三人とも同い年でね、昔からよくそろって騒動をおこしてたよ」
梨子「ということは曜ちゃんも?」
曜「うん。鞠莉ちゃん達とは一個下だけど、私もよく遊んでたなー」
梨子「え……曜ちゃんの一個上って、マリーさんとダイヤさんて私の一個上なの!?」
曜「そだよー?」
梨子「マ、マリーさんていつから錬金術始めたのかな……?」
曜「さぁ? 最初は遊びでやってたと思ったらいつのまにか本格的にやってたんだよね」
梨子(それってもうほとんど天性の素質かも……)
曜「で、私の一個下にルビィちゃんや花丸ちゃんに善子ちゃん達がいて、こっちも昔からよく一緒に遊んでたね」
梨子「そうなのね…………ん?」
曜「年が近いから、みんな昔から仲良しなんだよ」
梨子「ちょっとまって、善子ちゃんて、ヨハネさんよね?」
曜「ああ、そういえば錬金術やってた頃はなんかよくわかんないけど堕天使ヨハネを名乗ってたかな」
梨子「と、年下だったのね…ヨハネさん……」
曜「善子ちゃんけっこう大人っぽいからね〜」
梨子ちゃんは善子ちゃんが昔錬金術士をやっていた事を知り、爆弾制作も手伝ってもらいました
そしてその丁寧な技術に見習う部分もあり、すごい人だとも思っていました
梨子(ヌマヅって、錬金術そんなに盛んだったの? みんなすごいな……)
曜「だから、私からも言わせて…」
梨子「ん?」
曜「町と…それからルビィちゃんの事もありがとう」
梨子「曜ちゃん……」
曜ちゃんとルビィちゃんの間にあったただならぬ空気の理由も今なら理解できます
鞠莉「さてと、じゃあエリーと梨子、食事しながらでいいから聞いてちょうだい」
絵里「むぐ………ん」コクッ
梨子「はい」
ヘーベル湖の浄化作戦。することは単純明快ですが、その規模がとても大きい今回の作戦
鞠莉ちゃんは三人の錬金術士がいて初めて可能になる方法を選びました
梨子「三か所からの同時浄化……?」
絵里「エリキシル剤と超純水を元に作った天結晶をマテリアブースターで放出するのよ」
梨子「エ、エリキシル剤に超純水!? そんなものを用意するのにどれくらい……」
鞠莉「もう数は揃えてあるわ、そこは心配ナッシングよ」
梨子「え……」
果南「はいこれ」ゴソゴソ…
果南ちゃんが積んであった荷物の一つをみなの中央に取り出す
そこには錬金術の中でも高難度のレア度を誇るアイテムが大量にありました
梨子ちゃんにとってはエリキシル剤1つ作るのに何日かかるかわからない代物なのに、今では大安売りができそうです
鞠莉「梨子、あなたエリキシル剤と超純水を作った事はある?」
梨子「ないです。作る技量も今の私にはありません」
問題が重要な部分なのでためらうことなく正直に答えます
鞠莉「オッケー、じゃあこの二つのラフ調合は私とエリーでやるわ」
絵里「今からやれば十分間に合うわ」
梨子「こ、ここでやるんですか?」
鞠莉「他にないし、おそらく現地で作ってる余裕なんてないからね」
果南「やっぱり湖周辺にモンスターいるのかな?」
鞠莉「いるでしょうね。湖の水質を完全に変化させるまでは手を出されたくないはずだし」
ダイヤ「果南さん、くれぐれも無茶はしないように」
果南「心配性だな〜ダイヤは」
曜「果南ちゃんの場合、無茶されるとこっちに被害がでちゃうからね〜」ハハ
果南「そうかなー?」
梨子「?」
鞠莉「梨子、この地図を見て」ガサッ
梨子「これはヘーベル湖を上から見た地図ですね」
鞠莉「ええ。とても大きいこの湖を完全に浄化するにはどこから作業をはじめればいいか、わかる?」
梨子「えっと……」
これは鞠莉ちゃんからのテストのようなものだと梨子ちゃんは瞬時に理解します
期待に応えるためにも適当には考えません。自分がやるならと、思考を回転させます
梨子「北のここと、東のここ、あとは南西のこのポイント……かな?」
鞠莉「理由は?」
梨子「同時に浄化するという事は浄化のマテリアエネルギー同士が干渉しないようにする必要があります」
絵里「……………」カチャカチャ
梨子「拡散範囲が円形に広がっていくのなら、もっとも干渉部分を少なく湖すべてをカバーできるのがここだからです」
鞠莉「なるほどね」
鞠莉「エリーもそれでいい?」
絵里「問題ないわ」
梨子「えっと、正解でしたか?」
鞠莉「ん? 正解もなにも、私はよくわかんないから聞いたのよ」
梨子「へ?」
絵里「鞠莉ったら、三か所から同時に浄化するのがいい、でもどこが一番効率いいかなって悩んでたのよ」
梨子「え……?」
鞠莉「一人でできる範囲はわかってたから、三人いればいけるってのはわかるんだけどねぇ」
絵里「まぁでも私にも聞いてたし、答えはほぼ一緒。だから自信持っていいわよ、桜内さん」
梨子「そ、そうなんですか……」
鞠莉「二人が同じ答えなら間違いないわ。これでいきましょう」
鞠莉ちゃんは直感的にあれこれ閃くタイプで、論理的に理詰めしていくのは苦手です
鞠莉「さっすがエリーの後輩ね、見事よ」
梨子「で、でもどうして私なんですか?」
鞠莉「ん、どういう意味?」
梨子「錬金術の技術的な問題なら、私よりヨハネさんのほうがうまくいくと思うんですけど…」
鞠莉「ヨハネ?」
絵里「津島さんでしょ」
鞠莉「ああ、善子か。んーそうねぇ……あの子には無理かなぁ」
絵里「無理でしょうね」
梨子「え……でも」
鞠莉「なんというか、あの子はブレ幅が大きすぎるのよ」
絵里「それにもうやめたって聞いたけど?」
梨子「で、でもモンスターの撃退用に爆弾制作をする時に手伝ってもらって、それもすごくて……」
鞠莉「あの子、素質はすごいもの持ってるのに力の使い方が極端なのよねぇ」
絵里「物を破壊する分野に関しては天才だったわ」
梨子「そ、そうなんですか……」
鞠莉「それに、善子がダメだから梨子を選んだわけじゃないわ」
絵里「ごめんなさいね、鞠莉のやつが気になるっていって、オトノキでのあなたの成績を調べさせてもらったの」
梨子「へ………ええっ!?」
鞠莉「だってオトノキからきたって、またエリーみたいな天才なのかなって思うじゃない?」
絵里「別に私は天才でもなんでもないわよ」
梨子「……………」
鞠莉「で、あなたの書いた論文を見せてもらったの」
絵里「たいしたものね、あれ」
梨子「あれを……先輩達が……」
鞠莉「あれを見て、あなたの見ている想像の世界、空間における認識力が飛びぬけているのはわかったわ」
梨子「マリー……さん」
すでにレベルの差は歴然。ただただ二人に憧れだけを抱いていた梨子ちゃんにその言葉は心に響きました
鞠莉「だから、今回の作戦を成功させるのには、私達三人でなければダメなのよ」
梨子「は、はいっ!」
絵里「浄化の力は強すぎても駄目、弱すぎても駄目な繊細なものだからね」
鞠莉「ってことで梨子にはこれの使い方とエネルギー調整を現地に到着するまでにやってもらうわ」ゴトッ
梨子「えっと……ホース……あ、これがマテリアブースターですか?」
絵里「鞠莉が作った強力なやつね。組み込んだ媒体をマテリアエネルギーとして放出するものよ」
鞠莉「ボーっとしてるとブースターに意識を持っていかれるから、扱いは慎重にね」
梨子「は、はい……」ゴクッ
曜「それで、現地での私達の役目って護衛だよね?」
ダイヤ「そうです。浄化作業中のみなさんは無防備になり、とても危険なのです」
果南「ということは三か所それぞれの場所を護衛するんだね」
ルビィ「えっと、担当箇所は……」
曜「果南ちゃんの担当は鞠莉ちゃんだよね」
果南「んー別に私は誰でもいいけど、まぁ気楽なのは鞠莉かなぁ」
ダイヤ「わ、わたくしは絵里さんを……守らせていただきますわ!」
ルビィ「じゃあルビィも一緒に…」
鞠莉「あールビィには別の役割をお願いしたいの」カシャカシャ
ルビィ「ぅゅ?」
エリキシル剤と超純水の精密配合という超難易度の作業をよそ見しながらこなす鞠莉ちゃん
素材一つとってもその金額は梨子ちゃんのこれまでの生活費を賄えるほどのもの…
横目にそれをわかっている梨子ちゃん一人がハラハラする
絵里ちゃんは慣れているようで、同じように軽やかに作業をこなしていきます
ルビィ「ん、わかりました!ルビィは馬車と馭者さんを守ります」
鞠莉「それと、長時間の作業になるから各ポイントに物資の配達と状況の伝達も頼むわね」
ダイヤ「重要な役目ですよ、ルビィ」
ルビィ「うん。お姉ちゃんに負けないくらいがんばルビィ!」
曜「ってことで、私が梨子ちゃんを護衛するね」
梨子「曜ちゃんなら安心よ。よろしくね」
こうして現地での作業担当が決まりました
鞠莉果南ペア 北のポイント
絵里ダイヤペア 東のポイント
梨子曜ペア 南西ポイント
ルビィ馭者さんペア 走り回る
役割を決めたらそれぞれ揺れる馬車の中で順次休息を取ります
梨子「ふぅ………んっ…」ブブブブ…
鞠莉「ほっ……よっ……はい66個目」カシャカシャ
絵里「く、追いついてきたわね……69個目」カシャカシャ
あまり緊張感のない二人と機器の調整に全神経を集中する梨子ちゃん
結局ヘーベル湖に到着するまで一度も休憩することはありませんでした
続きます そして>>419の修正 絵里ちゃんの軽量→計量 更新おつおつです
ダイヤさんはだいぶ私情入ってそうだけど、それでもそれぞれ良いペアになりそう
いよいよ決戦なのかな?楽しみ かなりの規模の計画だけど犯人はヌマヅタウンにどんな恨みがあるのか…
犯人の目的も梨子ちゃんの活躍も気になりすぎる! -ヘーベル湖 朝方
曜「おー、やっぱりいるねぇ」
果南「だね。でも思っていたよりかは少ないね」
ダイヤ「あれだけ町を襲っておいてこちらにも同じだけいるだなんて、考えたくもありませんわ」サッ
鞠莉「果南、一度このあたりの掃除をしてくれる?」
果南「はいよっ」
曜「あ、私も行く〜!」
果南「曜、ひさしぶりに勝負しよっか?」サッ
曜「おっいいね!」バッ
ダイヤ「二人とも、遊びではありませんのよ!」
絵里「もう一回、集中して」
梨子「はいっ!!」ブブ……キュイィィィィン
現場に到着しましたが、梨子ちゃんの調整は難航していました
鞠莉「どうエリー、いけそう?」
絵里「稼働は問題ないけど、安定性にちょっとかけるわね」
梨子「はぁ……んっ……んん!」キィィィィィン… パシュッ
鞠莉「……………」
ダイヤ「ルビィ、馬車の周辺はわたくし達でカバーしますわよ!」
ルビィ「うん!」
梨子「うぅ……どうして…ある一定の出力までいくとプツっと切れる感じで……」
鞠莉「梨子、稼働時には目を閉じて、指先ではなくお腹の中から吐き出すように」
絵里「まだ心のどこかでオーバー出力になるのを恐れているようだけど、そんなヤワなものじゃないから安心しなさい」
梨子「は、はい……」スッ
カチッ キュイィィィィィィン…
鞠莉「体をブースターに合わせるように、ラインを超えれば負担は一気に軽くなるわ」
梨子「……んん…………は、あ……」キュィィィィィィ……
絵里「………もう少しよ、がんばって」
キュィィィン パシュッ パキィン
梨子「んんん……!」ググ…
鞠莉「梨子、目を開けていいわよ」
梨子「え……?」
絵里「おつかれさま」
梨子ちゃんが手にするマテリアブースターがほのかに光り輝きます
ブースターと梨子ちゃんの魔力が同調したのです
梨子「や、やった……ふぅ」
ドガアァァァァァン!!
梨子「」ビクッ
絵里「あいかわらずうるさいわねー」
鞠莉「爽快でいいじゃな〜い」
突如響く爆音に梨子ちゃんが驚きます
その音は馬車の外、モンスター退治をしている一人によるものでした
果南「そーっれ!」ブンッ ドゴォン!
曜「くあぁぁ、追いつかない!!」ガッ
果南「それもーらいっ」ヒョイ
曜「ぬあぁ!」
そこには、まるで子供がおもちゃの取り合いをするかのようなやり取りが見て取れました
梨子「曜ちゃんと、え、松浦さん!?」
絵里「果南は鞠莉の専属護衛みたいなものだけど、元々は自警団だったのよ」
梨子「あ……曜ちゃんが言っていたすごく強い護衛って……」
鞠莉「ね、バカな戦い方でしょーあれ?」
うふふと笑いながら果南ちゃんの戦い方を見つめる鞠莉ちゃん
梨子ちゃんはそこに二人の間にある絶対的な信頼関係を感じます
鞠莉「以前はおっきな剣だったり斧を振り回してんだけど、いつからかあっちのが楽でいいって」
梨子「楽って、そういう問題ですか?」
果南「ほっ、そーーら!」ブンッ バガァァン!
いつの頃からか、武器を振り回すのも持ち運ぶのも面倒になった果南ちゃんは現地調達でいい事に気が付きます
そう、果南ちゃんが武器として選んだのは……
果南「お、こいつおっきい!」ガッ キャイン!
襲い掛かるモンスターを直接捕まえて、そのまま力まかせにブン投げる
とてもシンプルですが、それを突き詰めた一つの最終形態ともいえる豪快な技
曜「むー、バカ力めぇ」バスッ
果南「嵩張らないし、楽でいいじゃ〜ん」ブンッ ドガアァン
果南ちゃんに捕らえられたモンスターは直後大砲の弾となり、モンスターの群れに撃ち込まれる
ある程度知性や本能で察せるモンスターはこの段階でほぼ逃げ出します
果南「なんだかやる気のある子ばっかりだねぇ」ブンッ ガッ ブンッ!
曜「これはあれかな、やっぱり鞠莉ちゃんが言ってた……」バッ ドスッ
鞠莉「操るというよりも、強制的に活動させられているのか…‥」
絵里「魔力反応はないから、本能部分に直接撃ち込まれているのかもね」
梨子「ほえー……」
ものの数分でモンスターの群れを蹴散らした果南ちゃんと曜ちゃん
初めて見る豪快な戦闘に梨子ちゃんはただ見惚れるしかありませんでした
曜「むぅ、負けたぁ」
果南「はっはっは〜」
鞠莉「ご苦労様。さてと、それじゃ本題にはいりますか」
鞠莉ちゃんが馬車に積まれた荷物から小さな砂時計を取り出す
絵里「桜内さん、これを一つ持っていて」サッ
梨子「これは……浄化開始のタイミングですか?」
鞠莉「そうよ、各ポイントに待機するとお互いに正確なタイミングを計るのが難しいからねっ」
絵里「この砂時計、最後の10秒前になると音がなる仕掛けがしてあるから、より正確にあわせられるわ」
梨子「おーすごい」
鞠莉「そしてこっちも大事なもの、よっ」ゴロゴロ
次に鞠莉ちゃんが取りだしたのはいくつかの小瓶
絵里「私これあんまり好きじゃないのよねぇ」
鞠莉「私だって嫌よ。でもそうも言っていられないでしょ?」
梨子「………?」
それは持続性栄養剤。飲むとしばらく疲れ知らずになり、まったく疲労がたまらなく薬
しかしその効力が切れた時に、副作用としてそれまでごまかしていた疲労が一気にくるというものでもあります
梨子「これ実物を見るのは初めてです」
絵里「効果は数日続くから、必要なのはわかるけど」
鞠莉「一度作業にはいったら途中で回復アイテム使ってる余裕もないからね、梨子も覚悟してね」
梨子「は、はい……」
その他にもいくつかのアイテム、食料を受け取ります
そして馬車は南西のポイントに到着しました
曜「んしょっと、必要な荷物はこれで全部かな?」
梨子「うん、ありがとう」
鞠莉「それじゃ梨子、エリー、今からこの砂時計を動かすわよ」
絵里「ええ」
梨子「はい!」
鞠莉「次に会う時は終わった後だから、みんなでおいしいものでも食べにいきましょ」サッ
絵里「私はひたすら眠りたいわ」サッ
梨子「………よいしょっ」サッ
浄化作戦開始の合図となる砂時計が動き始めます
ここからはのんびりしているわけにもいかないので、馬車は次の目的地に向かって走り出しました
曜「わぁ、湖の色が……」
梨子「ここまで汚染されているなんて…」
生活用水にも使われるほど綺麗な水で満たされたヘーベル湖は、今や毒素のたまり場となっています
梨子ちゃんは指定ポイントの中で自分がやりやすそうな場所を探すと、そこにシートを広げます
曜「天気もいいし、湖がこんなんじゃなかったらいいピクニック日和なのにね」
梨子「終わってからまたゆっくりしたいね」
二人は軽く食事をとりますが、睡眠はとりません
そのあたりの体調は鞠莉ちゃんからもらった回復アイテムで無理やり押し上げ、持続性栄養剤で乗り切ります
そのため作戦開始までの時間、特にする事もなくただ待つしかありません
曜「どれくらいで開始なの?」
梨子「砂時計で見ると、4時間11分後かな」
曜「ふむ、見晴らしもいいから警戒もしやすいし、このままここで待機しておくね」
梨子「今のうちにブースターに慣れておこ」
曜「………………」
梨子「よ……ん………」カチッ ブブ… キュィィィン
曜「……………」
梨子「ん、いい感じっ」キュィィィィィィン
曜「………ねえ梨子ちゃん」
梨子「ん、なにー?」シュィィィン ギュルギュル…
曜「梨子ちゃんは、事件の犯人って誰だと思ってるの?」
梨子「え?」シュイイン…… シュウー
曜「ルビィちゃんが梨子ちゃんの推理がすごいって言ってたからさ、どう見てるのかなって」
梨子「……………犯人か」
梨子「私にはどれだけ考えても絶対にわからないかな」
曜「そうなの?」
梨子「だって犯人は、私の知らない人だと思うから」
曜「ん、どういう事?」
梨子「犯人像は特定できた。だけどそこから考えられる人物に思い当たる人はいない」
曜「それはしょうがないよ、梨子ちゃんまだヌマヅにきてそんなに経ってないし…」
梨子「うん。だから犯人がわかるのは、町の内情に詳しい人…‥」チラッ
曜「ん、私?」
梨子「曜ちゃんでもダイヤさんでも、花丸ちゃんでも。私よりもこの町に昔からいるみんなにしかわからない」
曜「えーでも、私も知ってる人にこんな事する人なんて……」
梨子「花丸ちゃんがね、犯人像にあてはまる人はいるっぽい事を言ってたんだけど」
曜「え、わかったの?」
梨子「でも、絶対にありえない、不可能だって事も言ってたよ」
曜「………………」
梨子「これだけの被害をだした犯人を私は許せないと思ってる。でも後はみんなにまかせる」
曜「………梨子ちゃんのいう、犯人像って?」
梨子「何かの事情で動けない誰か」
曜「…!?」ピクッ
梨子「そして、何かの事情で動けない誰かを狙っているのかもって考えてる」
曜「どうして?」
梨子「これだけ手の込んだ作戦なのに、無差別でもなければ成り行き任せでもない」
曜「それは、絵里ちゃん達は巻き込まないようにしてたって話?」
梨子「実際に誰を巻き込みたくなかったのかはわからないけど、単純に邪魔されたくなかったのもしれないし」
曜「その……誰かを狙うため?」
梨子「どういう方法かはわからないけど、モンスターを動かせても状況の変化にすぐに対応できていない」
曜「ん、それは相手が?」
梨子「私が対応できたのは相手も想定していなかったからだと思うの」
曜「梨子ちゃんの事を知らない町の誰か……」
梨子「ヌマヅって昔から錬金術が身近にあって、錬金術士も自然と生活に溶け込んでいるよね、私の事もすぐ知れ渡っていたし」
曜「そうだね」
梨子「それでも知らない状況っていうと、知らされない立場、知り得ない状況、環境の人物…」
曜「…………」
梨子「可能性としてあるなら、隔離されているか、寝たきりで動けないか…とかね」
曜「…………」
梨子「井戸水の毒にしたって、致死毒ではないあたりやっぱりどこかに余計な犠牲者はだしたくないと考えているのかなと」
曜「でも、犠牲者はでたって聞いたよ?」
梨子「うん。私も甘い事をいうつもりはないよ、犯人は絶対許せない」
曜「じゃあ、犯人が狙っているのが動けない誰かというのは?」
梨子「そっちはモンスターに襲撃させてることから、容易に手がだせない人物から連想したの」
曜「それだとたくさんいる気がするけど?」
梨子「後半のなりふり構ってられない状況に、焦ってたんじゃないかな」
曜「それは、梨子ちゃんがことごとく邪魔したから?」
梨子「最初の計画から後になるにつれて、すごく雑になってるのよ」
梨子(協力者なのかどうかわからないけど、黒澤家の伝令ももしかしたら…)
曜「それはやっぱり、梨子ちゃんの存在を知らなかったっていう事?」
梨子「そうだね。それとあの毒の特性も判断材料にはなるかな」
曜「飲んじゃダメなだけじゃないの?」
梨子「それだけだと体調不良を起こすだけ。体の弱いお年寄りには十分脅威だけど…」
井戸水を侵した毒素は、熱を加えると猛毒に変化するという特性がありました
曜「熱を加える……あ、料理に使うとか?」
梨子「もうムチャクチャな方法だと思うけどね、可能性としてあるならやっぱりそういう事なのかなって」
隔離されている誰か、生きている誰か。接触の可能性は、食事の供給のみ
梨子「そんなのまず成功しないし、作戦としてはお粗末にもほどがあるけど、動かせるのがモンスターのみならって」
曜「………………」
梨子「最終的にそれでも目的が達成できないのなら、湖の水質を完全に猛毒に切り替えて、全員を狙う…」
曜「そ、そんなの!?」
梨子「これが相手側の今継続している作戦のようなものなのかな?」
ここまで話を聞いて、途中から曜ちゃんの表情が険しく変化するのを梨子ちゃんは見ていました
梨子「最初は町全体を狙ったものとして対応していて、そこはまんまと騙されたけど…」
曜「梨子ちゃんは、誰かが誰かを狙って……ただそれだけの理由でここまでの事をおこしたって思うの?」
梨子「私には考えられないかな。犯人じゃないもの」
曜「……………」
梨子「花丸ちゃんへの質問もちゃんとしていればまた変わっていたのかもしれないけど」
曜「………?」
梨子「犯人に心当たりはあるか、じゃなくて、狙われそうな個人はいるかって聞けばよかったよ」
曜「…………」
梨子「ま、その答えはかわりに曜ちゃんから聞かせてもらおうかな」
曜「っ!?」ドキッ
梨子「心当たり、あるみたいだね」
曜「……………………」
梨子「………………」
梨子ちゃんの言葉にあきらかに動揺する曜ちゃん。ここで梨子ちゃんは確信します
梨子「花丸ちゃんも、思い当たる人物しかいないって思ってたのかな」
曜「………それは………」
梨子「……………」
曜「…………」
梨子「言いたくないなら無理に聞かないけど」
曜「え……?」
梨子「私は犯人は許せないと思っているけど、それはみんな同じだと思う。花丸ちゃんも、曜ちゃんだって」
曜「それは……そうだよ」
梨子「でも私は町の事情をすべて知っているわけじゃないから、その判断は全部一方通行」
曜「………」
梨子「町の人達が犯人を見つけてどうするかは、町の人達にまかせるよ」
曜「いいの? それで……」
梨子「幸いうちの子達も無事だったから。もし何かあったんなら私自身が動くけどっ」
曜「………………」
梨子「……っていうのが私のスタンス」
曜「……ん、なるほどね………そっか」
梨子「……………」
曜「わかった、梨子ちゃんには話しておくよ」
梨子「え……」
曜「犯人かもしれない人物……確定じゃないけど、目的がそうなのだとしたら一人しかいないから」
梨子「花丸ちゃんが言ってるのも……」
曜「おそらく同じ人物だよ。私もよくわかってない部分が多いけど、他にいない…」
梨子「……………」
曜「梨子ちゃんは町の中央にある旅館は知ってる?」
梨子「旅館て……あ、酒場と隣接してるところ?」
曜「うん、十千万旅館。この町で一番大きな宿屋さんだね」
梨子「とちまん旅館……」
曜「旅館は女将さんと三人の娘さんが切り盛りしていたんだけど……ちょっと色々あって……」
梨子「ん?」
曜「三姉妹の末っ子、千歌ちゃんっていうんだけど……その……」
梨子「チカ…ちゃん?」
曜「もうずっと寝たまま起きてこないんだ、千歌ちゃん」
梨子「え……病気かなにかなの?」
曜「ううん。原因不明……お医者さんにもわからないって」
梨子「それって……」
曜「鞠莉ちゃんが言うにはね、強力な呪いのようなものだって」
梨子「呪い………」ゴクッ
曜「鞠莉ちゃんは今でも千歌ちゃんの呪いをどうにかしようと、がんばってくれてるけど…」
梨子「マリーさんにも解呪できないような呪いって……」
曜「専門じゃない分野だから難航してるって果南ちゃんが言ってたよ」
梨子「呪いの専門家なんて……」
曜「花丸ちゃんや私が梨子ちゃんの話を聞いて思い浮かんだのはその子だよ」
梨子「チカちゃん? でも……」
曜「そして千歌ちゃんが狙っている……ううん、殺したいって思っているのは、一人の女の子」
梨子「殺……って」
曜「――高坂穂乃果さん。この町を救った事もある英雄的存在の人だよ」
梨子「英雄……?」
曜「千歌ちゃんと穂乃果さんは本当に仲のいい姉妹のようで、いつも一緒だったんだけど……っ!」スッ
シートで座りながら話していた曜ちゃんがサっと立ち上がると遠くを見つめる
梨子「曜ちゃん?」
曜「そのうち来るとは思ってたけど、話の途中でくるなんて」
遠くから向かってくるのはモンスターの群れでした
梨子「な、なんだかすごい数がいるようなんだけど?」
曜「ん…っしょ」ゴトッ
梨子「あれ、曜ちゃんも武器扱うんだ」
曜「私は果南ちゃんみたいな筋肉ヨーソローじゃないよ〜?」ガッ ガンッ
梨子「なにそれ……ってさっきも格闘戦してたから…」ヨーソロー?
曜「周りに誰かいると危ないからね〜」スラッ
自分の荷物からいくつかに分かれた金属の部品を手際よく組み合わせていく曜ちゃん
完成したそれは、長さにして2メートルは越える長物でした
曜「梨子ちゃんはここでじっとしててねっ」
梨子「て、曜ちゃん! あれ、アポステルじゃない!?」
曜「ん?」
梨子ちゃんが指さす方向に魔法生物アポステルの姿がありました
それも複数確認できます
曜「ホントだね〜」
梨子「だ、大丈夫なの? 図鑑で見たけど、あれって強いんでしょ?」
曜「あの群れの中じゃ一番強いっぽね……でも」ザッ
先端に両刃がついた槍、反対側に鉄球がついた武器を軽く振り回す
曜ちゃんにとってそれは脅威でもなんでもありませんでした
曜「アポステルはもう、狩り飽きたよ」
ほのちかの複雑な事情……
続きが気になるヨーソロー -ヘーベル湖 東のポイント
基本梨子ちゃんに焦点を合わせていますが、ちょっと他のペアも覗いてみましょう
絵里「さて、あとは時間まで待機ね」
ダイヤ「………………」
絵里「えーっと……」キョロキョロ
ダイヤ「………………」
絵里「ねぇ、ダイヤ〜?」
ダイヤ「は、はい!?」ドキ
絵里「そんなに離れていたら護衛もしにくくない?」
ダイヤ「大丈夫です。ここでも十分周囲の気配は探れますから」
絵里「そう。そこで十分という事はこっちに来ても大丈夫よね?」
ダイヤ「え…あ、いえ、それは……」
絵里「作戦開始までまだ時間あるし、お茶でも飲んでゆっくりしましょ」カチャッ
ダイヤ「……………むぅ」
絵里「それに、ちょっと話したいこともあるしね」ゴソッ
ダイヤ「お話し……ですか」
絵里「ほら、もうダイヤの分も用意してるんだから」ポンポン
ダイヤ「し、仕方ありませんね……」ポリポリ
ダイヤ「それで、お話しというのは?」
絵里「まま、こちらをどうぞ」スッ
ダイヤ「ありがとうございます…」スッ
絵里「スイートパイでいい?」カサッ
ダイヤ「い、いただきます……」
絵里「これ甘さ控えめでいい感じにできたのよ」
ダイヤ「絵里さんがお作りになったのですか?」
絵里「ここに来るまで、準備も早くできて時間があったからね」
ダイヤ「ほんとうに手際が良いというか、はやいですね…では…」ハムッ
絵里「どうかしら?」
ダイヤ「……とても、おいしいですわ」モムモム…
絵里「そう、良かった」ニヘッ
ダイヤ「……っ」ドキッ
絵里「後ろがこんなんじゃなければもう少し風情もあったのにね」
ダイヤ「あの綺麗なヘーベル湖がこうも変わるなんて……」
絵里「まったく手の込んだ事をするものよね」ズズ…
ダイヤ「許されるものではありませんわ」
絵里「で、話というのはその許されない奴についてなんだけど…」
ダイヤ「今回の犯人について……ですか?」
絵里「あなたは心当たりはないの?」
ダイヤ「どうしてわたくしに?」
絵里「ある程度の流れは聞いたけど、話の中で明確に動かされたのがあなただけだから、かな?」
ダイヤ「……………」
絵里「家の中にも協力者がいるかもしれない……」
ダイヤ「……………」
絵里「次期頭首としての立場からなのかは不明。妹のルビィは都合よく利用するに留まっている」
ダイヤ「……………」
絵里「それが敵の作戦のために必要なのかどうかがわからないから、ここから先はおまかせ」
ダイヤ「……………」
絵里「あなたは、身内に犯人がいると思う?」
ダイヤ「いいえ、思いませんわ」
絵里「…………」
絵里「協力者がいないという事は、何を意味するかわかっている?」
ダイヤ「…………ええ」
絵里「モンスターを操るのとはまた違う意味を持つ」
ダイヤ「トロイヤの丸薬……ですわね」
絵里「そう。錬金術士のみが作る事のできる薬。人の意思を奪い、操る魔薬」
ダイヤ「敵に協力しているのか、または敵自身がそうなのかはわかりませんが、間違いなく言える事は…」
絵里「敵は、錬金術士ね………」
-ヘーベル湖 北のポイント
一方こちらは果南鞠莉ペア
鞠莉「それじゃ後は頼んだわよ」
ルビィ「うん、鞠莉ちゃんも果南ちゃんも気をつけて!」サッ
果南「ありがと、ルビィも無茶するんじゃないよ」
ルビィ「さぁ次は南西ポイントに向かって、爆進すルビィ〜!!」ドドドド…!!
鞠莉「色々あったようだけど、元気でなによりね」
果南「あんなに荒ぶるルビィは初めて見るよ」
鞠莉「元々ダイヤの後ろで隠れがちだけど、あの子だって黒澤の血を引いているもの」
果南「血は争えないってことかな〜」
鞠莉「よっと、これで準備おっけーっと」ドン
果南「開始時間は?」
鞠莉「後1時間30分ほどね」
果南「そっか。それじゃサクっと行ってこようかな」
鞠莉「何か持って行く?」
果南「あーじゃあ飲み物だけ」
鞠莉「果南のその余裕と落ち着きは羨ましいわ」
果南「私は私にしか出来ないことに必死なだけだよ」
鞠莉「可能性は低いけど、もしも例の素材を見つけられたら……」
果南「わかってる。最優先でしょ?」
鞠莉「お願い。あの子を救うためにどうしても必要だから……」
鞠莉ちゃんをその場に残し、果南ちゃんは北に向かって走り出します
目的は元盗賊団のアジトである資源採掘場に巣くうモンスターの殲滅と井戸の完全破壊
モンスターの群れはほぼ湖に移動していると思われますが念のためにと、鞠莉ちゃんが計画したものです
湖の北のポイントを自分達のペアにしたのもこのためでした
果南ちゃんの脚なら北のアジトに向かって戻ってくるまで、1時間もあれば十分であると判断しての計画です
鞠莉ちゃん自身は戦闘はからっきしなので、自衛のアイテムを使い安全を確保します
鞠莉「はいはいっと、じゃ、よろしくね〜」パッパッ
ウネウネ… パサパサ… ガタゴトガタゴト……
鞠莉ちゃんが放ったのは「生きてるナワ」「生きてるホウキ」「生きてる台車」
錬金術で作り出した疑似生命体に、モンスターの好む香料を染み込ませた布をくくりつける
それを囮として野に放ち、拠点の安全を確保する方法です
さらに念のためにと鞠莉ちゃんは自作のオリジナル調合で作り上げた、フェーリング陣・シャイニーも使います
包み込んだものをどこか知らない場所へ飛ばしちゃうフェーリング陣を改良したものです
鞠莉「それじゃ、時間まで寝よっと」バッ パサッ
頭上に広げたフェーリング陣・シャイニーが鞠莉ちゃんを包むと、鞠莉ちゃんの姿がパっと、瞬時に消えます
いつもどこに飛んでいるんだろうと長年謎だったフェーリング陣の仕組みを改良し、いつもこれで隠れます
隠れるというか、どこか知らない場所へ飛んで行ってます
そこがどこなのか、どうやって戻ってくるのか……それは鞠莉ちゃんにしかわからないのです
――――
梨子「…………ぅぅぅぅ」フルフル…
曜「そういう問題もどうにかするもんだと思ってたけど……」
梨子「ないよぅ…どうしよう……」キョロキョロ
曜「私あっち向いてるから、もうそのへんでやっちゃおう」
梨子「ひーん………」
梨子ちゃんはおトイレ問題で悩んでいました
そうこうしているうちに作戦開始の時間がくるのでした
乙
|c||^.-^|| まさかのダイエリ!天に昇る気持ちですわー♡ -ヘーベル湖浄化作戦開始から5時間経過
曜「ほっ、はっ、っと!」バキ ドカ ゲシッ
規模こそ収まってきましたがモンスターの襲撃は続く…
曜ちゃんは動けない梨子ちゃんにモンスターが寄り付かないように、早めに処理にでます
曜「っと、こんなもんかな。はー…ちょっと休憩しよ」ドサッ
梨子「………………」キュィィィィィィン
曜「ほんとに動けないんだねー。大変だなぁ」
開始と同時に意識をすべてブースターに集中し、安定させた後はひたすら維持することに集中
周囲からはただじっとして動かない人にしか見えないですが、事情を知る曜ちゃんは邪魔しないように離れて見守ります
梨子「……………」キュィィィィィン
梨子(どれくらい時間たったかな……)
ブースターと同調している梨子ちゃんの視界に映るのは眼下の水面のみです
集中しているためか、後方で暴れる曜ちゃんも吹き抜ける風も今は感じません
時間の経過もわからず、いつ終わるとも知れない浄化作業にひたすら意識を向ける
梨子(今で……全体の何割くらいかな……ん、少しならいけそうかな…)チラッ
同調にも慣れてきた梨子ちゃんは少しなら視線を動かしても大丈夫だと思い、周囲の様子を確認します
湖は梨子ちゃんを中心に浄化の光が放射されていて、範囲にして半径50メートルほどが浄化に成功していました
しかし汚染濃度の高い中心部から押し寄せる毒素を押し退けてすすむ浄化の光は、意識が途切れるとすぐに四散してしまいます
梨子(まだ対岸の光は見えない……まだまだかかりそうかな……んっ)シュィィィイン
確実に進んでいる事を確認した梨子ちゃんはもう一度目を閉じ、作業に集中しようとします
そこへ……
ユラ……
梨子(……………ん?)チラッ
梨子ちゃんの正面、10メートルほどの水面に陽炎のようにゆらめくものが見えます
それは白く、とても薄いロウソクの炎のようにその場にゆっくりと漂っていました
梨子(……………な、なに?)
いつからそこに在るのか、気づいていないあいだに流れてきたのか
梨子ちゃんはそれらの可能性をすべて否定しました
それは、今そこに現れたのです
梨子(これは………本で見た事ある……確か……)ジ…
ゆらめく白い炎の正体に意識が向けられた時、手にしたブースターが小さく震えるのを感じる
梨子(いけない……今は浄化作業に集中しないと……余計な事は考えちゃダメ……)グッ キュィイィン
『そうか、キミが色々と邪魔してくれた錬金術士さんなんやね』
梨子「」ドキッ
突然脳裏に響く声に、梨子ちゃんの意識が激しく動揺します
危うく手にしたブースターを落としそうになるのを堪え、今一度意識を集中します
梨子(今の……でも、これ……)グッ
『邪魔なのはあの子達だけだと思ってたのに、大誤算やわ』
梨子(自分の精神体だけを飛ばして、遠く離れた場所を視ることができる薬……でも、意識に語り掛けてくるこれは…!?)
『ん、そう。湖の浄化してるんやね……』
梨子(見えてる……やっぱり……)
『ほんと……イライラするなぁ。せっかく準備したのになぁ……』
梨子(そしてこの感じ……間違いない……今私を見ている相手が、犯人だ!)グッ
『キミはどこまで事情を知ってるん? それとも何も知らないで手を貸してるんかな?』
梨子(なにを……)ググッ… シュィィン……
『って語り掛ける余裕もなさそうやね。じゃあいいわ……今回はどうせキミらの勝ちやし』
梨子(く………待って、あなたは……!?)
『でも覚えとき……。穂乃果ちゃんは絶対に取り戻して見せる。団長さんにもそうゆっといて』
梨子(穂乃果……高坂穂乃果!? 取り戻すって……く、ぅぅ……)
『じゃーね、せいぜい浄化がんばってな…………』
梨子(待って……あなたは………ダ……) コチャン…
リコチャン… リコチャン……!
曜「梨子ちゃん!!」ガッ
梨子「!!?」
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