ことり「プレシャスハート・オン・ザ・チョコレート for UMI」
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さてさて今年もこのシーズンがやってきました。
年が明けて、しばらく慌ただしい時期が続いて、
色々片付いてホッと一息ついたらあら不思議。
すぐ目の前にその日は待っているから、もう準備をしなくちゃいけないの。
それでは始まりますよ〜。
ことりのバレンタインクッキングのお時間です。
手間暇かけて、工夫を凝らして、大切な思いを込めながら。
今年も精一杯頑張っちゃいます。
ことり「ハッピーバレンタイン、海未ちゃん!」 ☆ ことりのバレンタインクッキング〜 ☆
チャラランランラッラッラッ♪ チャラランランラッラッラッ♪ チャラランランランランランランランラン♪ ラッラッラッ♪
卵三つを卵黄と卵白に分けます。
この分ける作業、地味に難しいよねぇ〜。
もし途中で卵黄が割れちゃっても、別の料理に使えば大丈夫だよ。
分けた卵黄三つ分に、グラニュー糖40gを入れて混ぜ合わせます。
真っ黄色の卵黄に真っ白なグラニュー糖をまぶしていくときのグラデーションが綺麗だよねぇ。
パシャリ。インスタ映え。
今度海未ちゃんに見せよーっと。
……あ、砂糖じゃなくてグラニュー糖を使うのはちゃんと理由があるんだよ?
砂糖に比べてグラニュー糖を使うと、仕上がりのときに水分が少ないサックリした感じになるの。
あとは砂糖と比べて甘さが抑えられるから、「砂糖の甘さ」じゃない「お菓子の甘さ」がよりはっきりすると思うんだぁ。
そんな話を前に海未ちゃんにしたら、ことりは物知りですねって褒められちゃった。
何だか嬉しいねっ。
卵黄とグラニュー糖を混ぜ合わせるとき、耳を澄ませると、最初だけシャリシャリって音がするのが何だか可愛い。
シャリシャリ、シャリシャリ……
シャリシャリ、シャリシャリ……
すぐにグラニュー糖は溶けるから、あっという間に消えゆく音色。
だけど、私はこのとき、とても静かな心で調理に向き合えるんです。 卵黄とグラニュー糖が十分混ざり合ったら、さっき溶かしたチョコレートのボウルに入れます。
今度は茶色と黄色のグラデーション♪
だけど混ぜ合わせたら、あっという間に卵黄の色は茶色に覆われて無くなっちゃう。
思わず作業の手が止まる。
ことり「卵黄の中に残っていた小鳥の心は、こうやって強い色に覆われちゃうのかな」
小鳥に芽生えた不安定で弱い心。
例えば、悲しみ、怒り、妬み、恐れ……そんな強い思いにすぐ溶けてしまう、ひそやかな思い。
恐怖。本当の気持ちを伝えられない恐怖。
嫉妬。足踏みする隙を突く誰かへの嫉妬。
憤怒。醜い思いを抱く自分に向けた憤怒。
悲嘆。そのあとに残るもの。
少し手を止めてしんみりタイム。
だけど、ふと気が付く。
卵黄が混ざったチョコレートは、さっきよりも少しだけ淡い色になってる気がしました。
ことり「……あはっ♪」 ―――
海未「どうぞ、ことり」
ことり「ありがとっ。わ! 今年はゴディバだ! 随分奮発したんだね」
海未「いえいえ。私はことりのように器用ではないので、毎年市販のもので申し訳ないくらいです」
ことり「そう言えば、日本のゴディバがバレンタインについて何か言ってなかった?」
海未「あー、ですね。まあでもこれは問題ありませんよ」
ことり「うん。義理とかじゃないもんね」
海未「そういうことです」 ☆ ことりのバレンタインクッキング〜 ☆
チャラランランラッラッラッ♪ チャラランランラッラッラッ♪ チャラランランランランランランランラン♪ ラッラッラッ♪
ことり「次はメレンゲ作りです!」
別のボウルに分けた卵白三つ分をハンドミキサーでよぅく混ぜます。
最初はそっと優しく、次第に勢いよく、サラサラになるまでじっくりと。
卵白が泡立ってサラリとしてきたら、グラニュー糖40gを二回に分けて投入します。
サラサラ〜 ウィィィ〜〜〜ン
もう一度サラサラ〜 ウィィィィィ〜〜〜〜〜ン
よぅく混ぜ合わせたら……
あーっという間に、ふんわり真っ白なメレンゲのできあがり!
メレンゲが完成したらチョコレートと混ぜ合わせるよ。
今度は白と黒(?)の対極なコントラストが綺麗で、またまたパシャリ、インスタ映え。
海未ちゃんはさっきの写真とどっちが好きっていうかな?
あ、メレンゲは二回か三回に分けて投入するといいよ。
大体さっくり混ざり合ったら、ココアパウダー30gと薄力粉75gをふるいにかけながら投入しまぁす。
ふるいを勢いに任せて振り回したら粉が舞っちゃうから、優しく、トントントン。
作業の一つ一つに思いやりの気持ちを込めるのが大事なポイントだよ。
ホントだよ? ココアパウダーと薄力粉を投入したら、改めてよく混ぜ合わせます。
これまでは液体を混ぜてる感覚だったけど、この辺りから少し固まってくるかなぁ。
ことり「料理に込めた思いが少しずつ形になっていくみたい……だねっ」
粉っぽさがなくなるまで混ぜ合わせたら、丸い型の中に生地を流し入れます。
もちろんクッキングシートも忘れずに。
もし忘れたら、焼いたあと型を外すとき大変だよ?
型に生地を流し入れたら、180℃のオーブンで30分〜40分くらい焼きましょう。
待ち時間にホッと一息入れながら、もう使わない器具の片付けをしておこうね。
これまで頑張ってくれた調理器具たちにも感謝の気持ちを忘れずに!
たまにオーブンの中を覗くと、生地がふっくらしてくるのが見えてくるよ。
段々大きくなってくる生地の様子を眺めてるだけで楽しくなってきちゃう。
ことり「早く届けたいなぁ……♪」 ―――
ことり「じゃあお返しだね。はい、どうぞ」
海未「ありがとうございます。今年も手作り……ですよね?」
ことり「うん」
海未「……わっ! 凄いです、とても綺麗なチョコケーキです! ツヤツヤのピカピカじゃないですか」
ことり「今年はザッハトルテにしてみました!」
海未「また随分と手間がかかりそうなものを」
ことり「そんなことないよ。お菓子作りは大体これくらいが普通だから」
海未「当人に言われると何も言い返せませんけど……本当、ありがとうございます」
ことり「どういたしまして♪」 ☆ ことりのバレンタインクッキング〜 ☆
チャラランランラッラッラッ♪ チャラランランラッラッラッ♪ チャラランランランランランランランラン♪ ラッラッラッ♪
ことり「オーブンで焼き上がった生地を取り出します!」
さあ仕上がりはどうかなぁ……。
んん〜!
香ばしくて良い匂い♪
焼き上がった生地は少しドーム型に膨らんでいて、表面がひび割れた感じになってるの。
まるで荒廃した大地、みたいな……上手く例えられてるかな?
その部分を均すため、上の表面部分だけを薄く削るように切り取ります。
切り取った端の部分は……うふふっ♪
料理人だけの特権なのです。
表面を均して、背の低い円柱みたいになったら、半分の厚みになるよう横方向にスライスします。
この作業が結構難しくて、中々綺麗に二等分にできないんだけど……。
ことり「でも海未ちゃんの為に頑張る!」 苦労した結果上半分と下半分を綺麗に切り離すことに成功しました!
料理に込めた思いの力の勝利……!
生地を切り分けたら、片方の生地にアプリコットジャムを塗ります。
ジャムの量は好みでいいと思うよ。
ザッハトルテって、最初は斬新なお菓子だったんじゃないかな。
チョコの甘さとあんずの甘酸っぱさっていう全く違うものを組み合わせちゃうんだもん。
でも実際食べてみると、濃厚なチョコケーキにジャムの酸味がアクセントになって癖になっちゃうよね!
中にはラズベリーとかを使う方法もあるみたいだから、今度試してみよっと。
ザッハトルテらしさを出すため、あと海未ちゃんの好みを考えて甘さだけが主張しすぎないように、ジャムは少し多めに塗ってみたよ。
ジャムの層が完成したら、改めて生地の上半分と下半分を重ねます。
これで、チョコ生地、アプリコットジャム、チョコ生地、の三重構造のできあがり。
ことり「さあ、あとは最後の仕上げだよ!」 ―――
海未「毎年、嬉しいながらも申し訳なく感じてしまうんです」
ことり「なにが?」
海未「こうも手間をかけてバレンタインに備えてくれるので……」
ことり「海未ちゃんだってとっても素敵なものを選んでくれるよ」
海未「とはいえこちらが贈るのは市販のものですから、手間のかかり方が段違いです」
ことり「んー」
海未「私はことりのように手作りのものを贈れないとわかっているのに、どうして見合わぬほどの手間をかけてくれるのですか?」
ことり「…………見合わないからこそ、かな?」
海未「え?」
ことり「うふふっ」 ☆ ことりのバレンタインクッキング〜 ☆
チャラランランラッラッラッ♪ チャラランランラッラッラッ♪ チャラランランランランランランランラン♪ ラッラッラッ♪
ことり「最後はグラッサージュ用の溶かしたチョコを用意しまぁす」
グラッサージュは糖衣を着せるって意味で、お菓子作りだとゼリー状やアメ状のもので艶出しするための工夫っていうか……うーん……。
デコボコしているチョコ生地に、溶かしたチョコをかけてコーティングしたら、表面がツヤツヤのキラキラになると思わない?
つまりそういうことです!
グラッサージュには単にチョコを溶かしたものをかけてもいいんだけど……。
私はここでひと工夫。
まずはお鍋に生クリーム150ml、水30ml、グラニュー糖30gを入れて火にかけます。
温まって混ざり合ったら、チョコレート150gを投入。
もちろん50%と70%のハイブリッド!
弱火で混ぜつつチョコが溶けるのを待ってから、最後にバターを10g投入して溶かします。
火から上げて30℃くらいまで冷ましたら、表面コーティング用、グラッサージュチョコレートの完成です!
後は、これを生地にかけて、表面を綺麗に均して整えて、グラッサージュが固まるのを待つだけ……。 ……ホントはね。
さっき言った通り、グラッサージュはただチョコを溶かすだけでも大丈夫なの。
それをわざわざ一手間加えたのは……。
もちろん、味は美味しくなると思うよ。
生クリームとバターが加わることで、なめらかになって濃厚さが増すと思うし。
ほら、風味も抜群だし!
ただ、そういう調理上の理由は全部後付け。
本当は、最後の一工程まで手間暇を惜しみたくなかったから。
手間暇かけると、その分作業の総量が増える。
気を付けなきゃいけないことも増える。
だからその分、調理の最中に込めることができる思いの分量も増えていく。
ことり「……美味しくなりますように」
ことり「……喜んでもらえますように」
ことり「……少しでも多く私の気持ちが込められますように」
ことり「……少しでいいから、伝わりますように」
そんな風に、思えるから。 ―――
ことり「海未ちゃん、美味しかった?」
海未「とても美味しいザッハトルテでした」
ことり「喜んでもらえたかな」
海未「もちろんです! こんなに素敵なバレンタインチョコを貰えるなんて、私は幸せ者ですね」
ことり「ホントにそう思う?」
海未「ええ」
ことり「……そっか……えへへ……」
海未「や、ちょっと照れないでくださいよ、こっちまで照れ臭いじゃないですか」
ことり「だってぇ〜えへへへぇ〜」 ……こうして手間暇かけただけ、思いを込められる気がするの。
こうして手間暇かけただけ、強い思いを届けられる気がするの。
これは、私の独りよがりな我が儘なんだ。
普段は自分の気持ちがどこへ行ってしまうのか、不安でしょうがなくなってしまう。
これは本当の気持ち?
私は心からそう思ってる?
そのうちバラバラの散り散りになって、消えてしまうものなんじゃないのかな。
不安定で弱い心は、明確な強い感情にすぐ掻き乱されてしまう。
この気持ちのせいで、恐れたり、妬んだり、怒ったり、悲しんだり……嫌な感情で上書きされそうになる。
だけど、この日だけはハッキリ言えるの。
私の思いはちゃんとここにあるって。
ほら、見て?
今年のチョコはピカピカ輝いて、とても綺麗でしょ?
ことり(……これが、私の気持ちだよ)
そう、自信を持って言えるから。 手間暇かけた分だけ、思いをたくさん詰め込むことができる。
一生懸命頑張ったから綺麗に出来上がったんだよ。
思いやりの気持ちをたくさん込めたから美味しくなったんだよ。
立派な市販のものにも負けないよ。
海未ちゃんにだって負けないよ。
……なんて。
全部全部、勝手に自分で言い張ってるだけ。
自分勝手な自己満足。
でもね、気持ちは本物だよ?
海未ちゃんに大切な思いよ届けって、それだけを考えて頑張ったの。
だから、いいよね?
ことり(私は海未ちゃんのことを思ってるよ)
ことり(誰よりも、海未ちゃんよりも、強いって言えるくらい……)
今日だけはそう思っても……いいよね? きっと誰にもわからない。
貴女にだってわからない。
だけどそれでも構わない。
大事な部分をちょっとだけ、
それと、少しの甘ささえ伝われば。
私の気持ちをチョコレートに添えて、貴女に……
☆ ことりのバレンタインクッキング〜 ☆
さぁて、今年の出来栄えはどうだったかなぁ。
自己評価でいいなら……う〜ん……100点満点!
バレンタインだし、ちょっとくらい甘い採点でもいいでしょ?
……なんちゃって。
これにてことりのバレンタインクッキングは終了です。
また来年、頑張ろうね。
チャン♪ チャン♪ 海未「今年も大変楽しませていただきました」
ことり「お粗末様でぇす」
海未「チョコを通じてことりの思いが伝わってくるようでした」
ことり「……」
海未「……?」
ことり「それ、ホント?」
海未「はい?」
ことり「や、えっと……ただのお礼とかじゃなくて……ちゃんとわかって言ってるのかなぁっていうかぁ、」
海未「はい」
ことり「……」
海未「……」
ことり「…………えへへへへへぇ〜!」
海未「だ、だからあからさまに照れないでくださいよっ! 伝染してしまいます!」
ことり「だぁってぇぇぇ〜」
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