それが彼の足音だと気付くのには、そう時間はかかりませんでした。

    『ズルリ、ゴキキ。』

彼の動きに合わせるかのように、音は聞こえてきましたからね。

いえ、しかし。何かを引き摺っているような、あるいは杖でもついているような。

そんな音が、果たして普通に歩いていて起こるでしょうか。

 『ズルリ、コキ。 ズルリ、ゴキキ。』

そんな疑問もまた、彼とすれ違う時には氷解したのです。