「亜麻色の、長い髪を、風が優しく包む」

ーーー突然彼女が歌い出したそれは、半世紀前に発表され、最近でも有名な歌手がカバーをし、今も広く親しまれる歌謡曲の一節だ

ーーー彼女は歌を続けた

「乙女は、胸に白い、花束を」

ーーーこの歌は、恋の歌だ。まだ初恋も知らなかった少女が、運命の人と出会い、恋を覚え、女性へと成長していく過程を歌った歌だ

ーーー彼女の歌声は、セイレーンのそれだ。聴くものを惑わし、誘惑させてしまう、魔性の歌声だ。聴いてしまえば最後、彼女の虜になってしまう

「羽のように、丘を下り、優しい彼の許へ」

ーーー私はふと、背けた目線を彼女の顔に戻してしまった

ーーーその微笑みは、聖母のように慈愛に満ちた、暖かい輝きを持った笑みだ。けど、今の私には、それは妖しく輝いて見えた