ダイヤ「最愛のあなたへ」
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ダイヤ「ぅ。ここは……?」
ダイヤ(清潔なベッド。腕から伸びる点滴の器具。どこかから漂う消毒液の匂い……)
ダイヤ(病院。倒れたんですのね、私。確かに今日は暑かったから、熱中症でしょうか)
ダイヤ(ナースコール……呼んだ方がいいんですのよね、これ。気は進みませんが)ポチッ
ダイヤ「……」
パタパタパタ…
看護師「失礼しまーす。あ、目が覚めたんですね。こんにちは。気分はいかがですか?」
ダイヤ「……前より好調なくらいですわ。手厚い治療を施していただいたようで、ありがとうございます」
看護師「いえいえ。親切な方が119番してくださったんですよ。それがなければ、最悪、命はなかったかも」
ダイヤ「そうですか。確かに、親切な方だったのでしょうね」
ダイヤ「私のようなホームレスに救急車を呼んで頂けるなんて」 ダイヤ「……さて、そろそろ降ろしますわね、花丸さん」
ダイヤ「着きましたわ、山小屋に。そして――」
ルビィ「……お姉ちゃん」
ダイヤ「感心しませんわね。病人がこんな時間に外を出歩くなんて。いえ、手間は省けましたが」
ルビィ「何で、こんなことをしたの」
ダイヤ「あなたに生きていて欲しい。そう願うからですわ」
ルビィ「ルビィはそんなこと、お願いしてない」
ダイヤ「ええ、そうです。これは他の誰でもない、私の願い。私が願い、私が成したこと」 ダイヤ「あなたの意思など関係ありませんわ。あなたはただ、生きてくれればいい」
ルビィ「ルビィに、そんなものを背負わせるの。10人の命なんて、そんなものを」
ダイヤ「ええ。あなたが嫌と言っても縛り付けますわ。……いいでしょう? たまには」
ダイヤ「あなたは昔から我が侭ばかりで。習い事も辞めるし、私のプリンやアイスは勝手に食べるし」
ダイヤ「たまにはお姉ちゃんのお願いくらい、聞いてくれてもいいはずですわ」
ルビィ「……っ」
パシィン!!
ルビィ「ルビィは、お姉ちゃんにそんなことして欲しくなかった……!」
ダイヤ「……あなたに叩かれたのは、初めてですわね。――ふふ。大きくなった、本当に」 ダイヤ「でも、まだ足りませんわ。だってあなたはまだ16歳ですもの。若すぎます」
ダイヤ「あなたはこれから、高校を卒業して、あるいは大学へ進んで、素敵な殿方と恋をして、結婚をして」
ダイヤ「子を授かり、幸せな家庭を築いて、いつか孫にも囲まれて。そうやって黒澤の家で生きていくのです」
ダイヤ「――そうでなくては、ならない」
ルビィ「……呪いだよ、そんなの」
ダイヤ「まさしく。10人殺した者の呪いです、そう簡単には解けませんわよ」
ルビィ「そんな呪いはいらないっ!」 ルビィ「ルビィだって、死にたいわけじゃないよ、死にたくなかった本当は!」
ルビィ「でも違うの、そうじゃないの……。ルビィはただ、ただ……っ」
ルビィ「お姉ちゃんやみんなと一緒にいたかっただけなの、それだけだったの……!」
ルビィ「ぅ、ぅぅううう!」
ダイヤ「……」スッ、…
ダイヤ(撫でるために伸ばした腕を、引き留めます。私にもうその資格はない)
ダイヤ(血に濡れた私の腕に今、出来ることは)
ダイヤ「もう、泣いても意味などありませんわ。すべては終わってしまったのだから」
ダイヤ「さあ。儀式を受けてもらいますわ、ルビィ。それが私の、最後の仕事」 ルビィ「嫌だ! 嫌だよ! そんな儀式はいらない、ルビィはそんなことをして生きたいわけじゃないっ!」
ダイヤ(私の腕に、出来ることは)
ダイヤ「あなたに自由意思などない。……無理にでも、受けてもらいますわ」グイッ
ルビィ「ぐっ!? や、め……離し、おね、ちゃ……」
ダイヤ「……」グッ、グググッ
ルビィ「か、――ぁ」ガクッ
ダイヤ(1日に3度も人の首を絞めるなど、そうそう経験できることではありませんわね)
ダイヤ(いえ。1日に3人殺すことと比べれば、そうでもありませんか)
ダイヤ(意識を失ったルビィをおんぶします。大きくなったとはいえ、まだまだ軽い。花丸さんよりも) ダイヤ「……」ギィッ
ダイヤ「……こんばんは、みなさん。おそろいで」
善子「終わったのね」
ダイヤ「ええ。後は最後の仕上げだけですわ。いろいろとご協力、ありがとうございました」
ダイヤ「梨子さんも。差し入れ、もの凄く助かりましたわ」
梨子「……ううん。気にしないで」
果南「……ダイヤ」
ダイヤ「果南さん。腕の治療、ちゃんと受けられましたのね。良かったですわ」
果南「うん。鞠莉のホテルの人に来てもらって……」
果南「……殺して、来たの?」
ダイヤ「もちろん。3人の心臓が、このカバンの中にありますわ」
果南「……」
ダイヤ「そんな顔をなさらないでください。私はこれでも、満足しているのです」 鞠莉「ダイヤ。恨むよ」
ダイヤ「構いませんわ。もう恨まれることしかない人生ですので」
鞠莉「……ファック」
ダイヤ「……さて。では、儀式を始めるとしましょうか」
梨子「手伝うこと、ある?」
ダイヤ「いえ。私が始めたことです、最後まで私の手で……。でも、そうですわね。ルビィをお願いしますわ」
梨子「うん。分かった」
ダイヤ(カバンの中から、用意しておいた魔方陣を取り出します。コピー用紙を貼り合わせて繋げた、人間1人が納まる大きさの魔方陣)
ダイヤ(次に、チェーンで巻いたクーラーボックス。南京錠を開け、鎖を解いて。中にあるのはジップロックに詰められた――7つの心臓)
千歌「ひっ……」 ダイヤ(ボックスの中で氷水に冷やされたこれらを、ひとつひとつ、魔方陣の円周に並べます)
ダイヤ(今日、蒐集した3つも加えて……これで、10)
ダイヤ「……梨子さん。ルビィを、ここへ」
梨子「うん。善子ちゃん、手伝って」
善子「分かったわ」
ダイヤ(梨子さんと善子さんが、ルビィを魔方陣の中心へ。これで準備は整った……)
ダイヤ(これで。本当に、これで……)
ダイヤ「――はじめます」
曜「……」ゴクッ ダイヤ「……我が声に応じよ。汝、地獄を統べし勇猛なる獅子。十つ、心の臓腑を対価に、我が求めに応じよ」 ダイヤ「数多の恐怖を与えし者よ。この血、はらわた、魂を求めるのならば応えよ」 ダイヤ「死にゆく肉塊に命を。死せる土嚢に魂を。――我、汝と契約を結ばん……!」 花丸「ル、ルビィちゃんの身体が、光って……」
果南「なに、これ……」
ダイヤ「……ふぅ。終わった」
ダイヤ「これで、本当の本当に。全部が、終わった。やり遂げましたわ――最後まで」
善子「成功、したの……?」
ダイヤ「ええ。実験の時と同じですわ。あの並べた心臓が黒いススのようになった時。もうルビィの病は治っていることでしょう」
善子「本当に、本当なのよね……!?」
ダイヤ「今度ばかりは、嘘ではありませんわ」
善子「良かった……良かった、ルビィ……!」
ダイヤ「……本当に」
ダイヤ(これでもう、思い残すことはありませんわね。後は……) ダイヤ「さて……」スッ
曜「ダイヤさん、どこへ……?」
ダイヤ「……お花摘み、ですわ。少しホッとしてしまったら、つい」
ダイヤ「この山小屋、水道も通っていませんし、ね?」
曜「あ、ああ。そっか。うん、ごめん」
ダイヤ「ふふ。失礼しますわね」 ダイヤ「――ああ。空が白み始めている。夜が明けますわね……」
千歌「……ダイヤさん。どこへ行くの」
ダイヤ「……千歌さん」
ダイヤ「どこって、先ほど言いました。お花摘みですわ。さすがに恥ずかしいので、見ないで頂けると助かるのですが」ポリポリ
千歌「それ。嘘だよね」
ダイヤ「っ!? ……またクセが出ていましたか。もしかしてみなさんに知られていますか? 私のこのクセ」
千歌「ううん。クセのことは知らない。何のことか分からないよ」
千歌「ただ多分、いなくなるつもりなんだろうな、って」
ダイヤ「……カマをかけられましたか」 ダイヤ「ええ、認めましょう。確かに私は姿を消そうとしていますわ。みなさんの前にはいられませんもの」
ダイヤ「それで、あなたはそれを知ってどうしようと? ただ黒澤ダイヤは勝手に消えてしまった、それで良かったのに」
千歌「そんなの、悲しいよ」
千歌「私はダイヤさんにいなくなって欲しくない」
ダイヤ「私は切裂き魔ですのよ? そんな殺人鬼がそばにいるのは怖くありませんか?」
千歌「ダイヤさんはダイヤさんだよ」
千歌「殺人鬼じゃなくてダイヤさんだよっ! ルビィちゃんのために無理をして、仲間のことをこんなにも想って!」
千歌「それが鬼なわけ、ないじゃん……!」
ダイヤ「ああ――どうしましょうか」
ダイヤ(千歌さんの言葉が胸に響いて。こんな私をまだ黒澤ダイヤと、仲間と呼んで頂いて)
ダイヤ(それが嬉しくて嬉しくて)
ダイヤ「私、泣いてしまいそうですわ……」 千歌「行っちゃ嫌だよ、ダイヤさん。これがお別れなんて悲しいよ……」
ダイヤ「……ありがとうございます。私は本当に幸せです」
ダイヤ「ですが、だからこそ。私はここにはいられない」
千歌「ダイヤさんっ!」
ダイヤ「私が認められないのですわ。10人もの命を奪った私が、のうのうと幸せを享受するなどと」
ダイヤ「到底、許されることではありません。それこそ私の気が狂ってしまう」
ダイヤ「私は罰が欲しいのですわ、千歌さん。幸せはもはや私にとって、劇薬以外の何物でもない」
千歌「じゃあ自首するとか! なにも千歌たちの前からいなくならなくたって!」
ダイヤ「自主、ね。出来ればそうしたいところです。ですが、お分かり? 私が逮捕されるとどうなるか」
千歌「どう、って……」
ダイヤ「Aqoursの評判は地に落ちますわ。切裂き魔の所属していたグループとして、多くの誹謗中傷がみなさんを襲うでしょう」
ダイヤ「地元住民、統廃合先の高校、その他もろもろ……腫れもの扱いで済めば良い方です。差別が始まってもおかしくない」
ダイヤ「そうすると間違いなく飛び火しますわ――旅館、十千万の評判にまで」
千歌「っ!?」 ダイヤ「もちろん十千万だけではありません。鞠莉さんのホテルも、果南さんのダイビングショップも、花丸さんのお寺も」
ダイヤ「善子さんや曜さん、梨子さんの親御さんにだって世間の目はある。無論、黒澤家など言わずもがな」
ダイヤ「生活できなくなりますわよ。あなたのご家族も、みんな。みんな」
千歌「……ダイヤさんは、私を脅してるの?」
ダイヤ「結果的にはそうなってしまいますわ。申し訳ありません」
ダイヤ「ですが、私もそんなことは望んでいません。だからこそ、可能な限り証拠を残さぬよう犯行を重ねたつもりです」
ダイヤ「私は逮捕は怖くない。絞首台へ立てと言うなら喜んで立ちましょう。ですが――みなさんに迷惑をかけることだけが、怖い」
千歌「……酷いよ。酷すぎるよ。そんなの、いくら何でも我が侭だよ……」
ダイヤ「そうですわね。なんと虫の良いことをと、自分でも思いますわ。ですが、それが偽らざる本当の気持ち」 ダイヤ「……さあ、答えを。あなたには自分の家族も、他の仲間をも犠牲にして、私を引き留める覚悟はおあり?」
ダイヤ「力ずくで引き留めることは簡単ですわよ。私にはもう、抵抗する気力も体力も、残ってはいないのだから」
千歌「……っ」
ダイヤ「――ふふ」
ダイヤ「ええ、それでいいのですわ、千歌さん。だって、私もそうしたんですもの」
ダイヤ「他者を犠牲にし。仲間を裏切り。ルビィすら傷つけて。ただただ己が願いのために、こんなことをやらかした」
ダイヤ「でも私には後悔なんて一欠けらもない。あなただって、きっとそう思えますわよ」
ダイヤ「あなたのその選択を、とても喜ばしく思います」
千歌「……」 千歌「ダイヤさんは、これからどうするの?」
ダイヤ「ご安心ください、自分で命を絶ったりはしませんわ。死んで赦される罪などとは、思っていませんもの」
ダイヤ「可能な限りは生きて。でもあえて生きようとはしないで。どこかで野垂れ死にすることが、私にふさわしい最期でしょう」
千歌「……悲しいよ」
ダイヤ「ふふふっ。――そう、まだ私を悼んでくれるのですね。とても幸せです。幸せで、胸が痛い」
ダイヤ「ああ、ですが。あえて自殺する気はありませんが、警察が私を犯人として追っていると判断した時点で、命を絶ちます」
ダイヤ「みなさんのご迷惑にはなりませんわ」
千歌「……それも、脅しだよ。通報するなって言ってるよね」
ダイヤ「ふふっ。こんな私の命など、何の脅しの材料にもなりはしないと思いますが。……あなたにとっては、そうではないのですね」
ダイヤ「好都合と、思っておきましょう。そうでないと。あなたが私を想って頂ければ頂けるほど、苦しいのですわ」
千歌「……」 ダイヤ「では、私はそろそろ行きますわ。これ以上の長話は、みなさんに勘付かれてしまいますもの」
ダイヤ「さようなら、千歌さん。私を新しいAqoursへ導いてくれたあなたには、感謝してもし足りません」
ダイヤ「もはや白々し過ぎて祈ることなど出来ませんが――ええ。あなたの幸せを、心より願っていますわ」
ダイヤ「私が今日まで、みなさんのおかげで幸せであれたように。あなたにも幸あれ――さようなら」スタスタ
千歌「……分からないよ」
千歌「どうすれば良かったのか、千歌には分からないよ。ダイヤさん……」 ・
・
・
ダイヤ「……」グルグル ギュッギュゥッ
ダイヤ「凶器はまとめて紐で縛る。この紐を遠心力で振り回して、このまま――)ヒュンヒュンヒュンヒュン
ダイヤ「――ふっ!」ヒュン!
――ボチャン
ダイヤ(凶器の束を投げ入れると、海面に夜光虫が煌めきます)
ダイヤ(果南さんや鞠莉さんと遅くまで遊んだとき、よく見た光景……その後、お母様に叱られましたっけ) ダイヤ「さて、後は……髪が邪魔ですわね。目立ちますし」
ダイヤ(いつから伸ばし始めたのでしょう。自慢の、長い黒髪)
ダイヤ(誰もが私の髪を、綺麗だと褒めてくださいました。髪は女の命とはよく言ったもので、本当に、大切にしていましたが)
ダイヤ「とすれば尚のこと、ここに供養しなければなりませんわね。私の過去を、今までの誇りを」スッ
ダイヤ(片手で髪を後ろに束ね、残しておいたナイフを当てる。刃を立て、そのまま、真横一文字に――)
ダイヤ「……」パサッ
ダイヤ(掴んだ手に残る髪の束が、指を離すと潮風にさらわれて海へと還る)
ダイヤ(愛する故郷、内浦の海へと。黒澤ダイヤの象徴である黒髪が)
ダイヤ「さようなら、内浦。さようなら、みなさん。さようなら、お母様。さようなら、ルビィ」
ダイヤ「さようなら――黒澤ダイヤ」 ダイヤ「……」
ダイヤ「さあ。どこへ行きましょうか。悲しいことに時間はいくらでもありますわ。どこへでも行ける」
ダイヤ「せっかくですし、秋葉原でも目指しましょうか。東京ならホームレスも生き易いでしょう」
ダイヤ「ああ――陽が昇り始めた。今朝は雲一つない、いい天気で――」グラ、フラフラフラ…
ダイヤ「なんて眩しい陽の光――とても空を見上げては、歩けませんわ――」
――ダイヤ「最愛のあなたへ」――
第二部“愛にすべてを”了 いろいろと感想やご声援、保守くださいましてありがとうございます
ダイヤVS果南はどうしても書いてみたかったシーンなのです
最高に格好いいダイヤさんを書くつもりが、果南ちゃんが強すぎて無理でしたが
ともあれ次の第三部“手をとりあって”が最後になります
もうしばらく、お付き合いください 報いを受けてほしいとも思いつつ
報われて欲しいとも思う
同じじなのに不思議だな >>80
今思えばお前がいてくれればどれだけ良かったか( 乙
ダイヤさん立派といえば立派なんだが殺された人の立場からするとね… ここから一体どうなるのか
とりあえず第二部お疲れ様 5人のダイヤさんや白玉にこれといい最近ダイヤさんの大作多いな 多分ダイヤさんはルビィの病気を治せた時点で報われてるんだよな…
しかし“リバイブ“・ザ・リッパーか
良いネーミングだ ダイヤさんみたいな美人がホームレスなんて、目立つし襲われても仕方ないよな >>548
>>549
>>550
この一行ずつ詠唱する演出たまらん >>577
五人のダイヤさんは知ってるけど、白玉って何か教えて欲しい >>591
多分これ
理亞「私の姉様の方がすごい!姉様はお尻の穴にキュウリが入るのよ!!」ルビィ「!!」 >>593
なんで五人のダイヤさんと同列に扱った・・・・ >>596
|c||^.- ^||やめてくださいましっ!!
ダイヤ「あなたは黙っていなさい!」
ってやつ >>597
あぁ、時空違うダイヤさんが集結するやつか
さんくす ルビーラカンス3枚おろしで何故かこのスレ思い浮かべた ――第三部“手をとりあって”――
?月?日。西木野総合病院
真姫「い、いま目の前にいるのが、沼津の連続切裂き魔……!?」
花陽「まだそうと決まった訳じゃないけど……」
ダイヤ「……」
ダイヤ(さて。どうしましょうか)
ダイヤ(昼間に窓の外を覗いた限り、ここは3階か4階……窓からの逃走は不可能。そもそも人が出られるほど開きませんし)
ダイヤ(ガラス窓を突き破り身投げする? ……場所が悪い。ここは病院、生命維持のプロの巣窟ですわ)
ダイヤ(即死しない限り蘇生させられる。そうなったらもう逃げ場などありませんわ。身投げは最後の手段ですわね)
ダイヤ(病室の出入り口はドアひとつのみ。塞がれてはいませんが、私より真姫さんと花陽さんの方が距離が近い)
ダイヤ(……どうにも、難しいですわ) 真姫「で、どうなのよ。黙ってないで答えなさい。あなたはその黒澤ダイヤで間違いないの?」
ダイヤ(ここで黙秘する意義は薄い……)
ダイヤ「認めましょう。確かに私、本名を黒澤ダイヤと申します。二度と名乗るまいと思っていましたが」
ダイヤ「さすがは小泉花陽さんですわね。今もなお、そのアイドルへの知識と情熱は衰えませんか」
真姫「やっぱりμ'sを知っていたのね」
花陽「熱心なμ'sファンらしいから……。確か、絵里ちゃん推し」
ダイヤ「そこまで知って頂けているとは光栄ですわ。ちなみに私の妹は花陽さん推しです」
ダイヤ「こんな時でなければ、サインや写真撮影などお願いしたいところですが、残念でなりませんわね」
花陽「妹さん……黒澤ルビィさんだね」
花陽「ねえ。妹さんの噂って、本当のことなの……?」
ダイヤ「噂、ね。さて何のことやら。なにぶん、もう何年もホームレスですので世間の噂話など」
ダイヤ「5年ですか? あれからもう、そんなに経ったのですか。長かったような、短いような……」 真姫「あなたの妹のことなんて今はいいわよ。5年前の沼津の連続殺人、あなたが犯人というのは本当なの?」
ダイヤ「私ではない。今そんなことを言っても、信じて頂けないでしょう?」
真姫「……そうね。と言うか、考えてみればそれは私の仕事じゃないし」
真姫「とりあえず通報させてもらうわ。少なくとも失踪した行方不明者、ってことは確かなんでしょ」
ダイヤ(通報は不味いですわ。……強硬手段しかありませんわね)
ダイヤ「……真姫さん」ガリッ…
真姫「? 何よ、爪なんて噛んで――」 ダイヤ「――ぅ、ぁぁあっ!」ベリィッ!
花陽「ひぃ!? な、生爪を、剥がした……!?」
ダイヤ「ぐ、ぐぅ、ぅぅうう……っ!」
真姫「な、何をやっているのよ、あなた!? 無理やり爪を剥がして、傷口から雑菌でも入ったら――」タタタッ
花陽「! ま、真姫ちゃん、近づいちゃ駄目っ!」
ダイヤ「――遅い」
真姫「え――うぐっ!?」ガシッ
ダイヤ「……真姫さん。あなたは聡明でぶっきら棒ですが、それ以上に人がいい」
ダイヤ「目の前に怪我人がいて放っておける人ではありませんわ。その不器用な優しさが、チョロくてツンデレなまきちゃんの魅力――」
ダイヤ「μ'sファンなら、誰だって知っていますわ」
真姫「く、ぅ……!」 花陽「真姫ちゃんを放して!」
ダイヤ「それは出来ませんわね。何のために痛い思いをして爪まで剥がしたとお思いですの?」
ダイヤ「それから、お静かにお願いしますわ。抵抗もなさいませんよう……。念のため言っておきますが、素手でも人は殺せますのよ?」
ダイヤ「例えばこの真姫さんの細い首。ここをホールドした腕で絞め続けますと――」ミシミシッ
真姫「ぅぐっ!? ぅ、か、ぁ……っ」
ダイヤ「ほら。真姫さんのお好きなトマトみたいに真っ赤ですわ。このまま続けると青くなります。強く締めれば骨が折れます。……ご覧になりますか」
花陽「や、やめてっ!」
ダイヤ「……」スッ
真姫「かはっ、ごほごほっ!」 ダイヤ「さて。お察しのとおり私、人を殺すことに躊躇はありません。大人しく言うことを聞いてくだされば幸いですわね」
花陽「……っ」
ダイヤ(嘘です。もう、人なんか殺したくない。誰も殺したくはない)
ダイヤ(まして敬愛するμ'sを手にかけるなんてそんなこと、心が裂けてしまいますわ)
ダイヤ(お願いです、花陽さん。真姫さん。私もう、誰も傷つけたくないのです……っ)
ダイヤ(だから大人しく言うことを聞いて……!)
花陽「……どうしたらいいですか。何をしたら、真姫ちゃんを放してくれますか」
真姫「は、なよ……っ」
ダイヤ「……まずはお静かに。それから、お持ちの携帯電話は床に投げ捨ててください」
花陽「……」ヒョイ カラカラ…
花陽「捨てたよ。次は」 ダイヤ「病院の出口までご案内頂けますか。出来るだけ人に見られないルートで。なお、すれ違う人に助けを求めることは禁じます」
ダイヤ「真姫さんの首は自由にしておきますが……後ろにくっ付かせて頂きますわね。妙なそぶりがあれば、すぐに殺せるよう――」
ダイヤ(それも嘘ですわ。この病室さえ出られれば逃走の難度は大きく下がりますもの。出口のおおよその方向も察せますしね)
ダイヤ(もし不審な動きがあれば、その場で真姫さんを解放し出口へ走る……)
花陽「……分かりました。出口までご案内します。でも、真姫ちゃんの解放を先にして」
ダイヤ「……」ミシッ
真姫「――ぐっ!?」
ダイヤ「あなたに選択肢があるとお思いで?」
花陽「……ついて来てください」 コツ、コツ、コツ、コツ…
花陽「……」
ダイヤ「……」
真姫「……あなた。こんなことをして、ただで済むと思っているの?」
真姫「あなたの身元は割れた。たとえここを逃げても、5年前の事件の重要参考人として警察はあなたの行方を全力で追うわ」
真姫「あなたに未来はない。こんなことをしても無駄なのよ」
ダイヤ「未来、ですか」
ダイヤ「そんなもの、5年も前に悪魔に捧げましたわ」
花陽「……悪魔。やっぱり噂は本当なんだね」
真姫「何なの、さっきから噂って。もしかして5年前の事件と関係が?」
花陽「……たぶん」
ダイヤ「おしゃべりはお控えください。花陽さんは黙って出口まで案内して頂ければ良いのですわ」 花陽「……」
真姫「何よ。聞かれると都合が悪い?」
ダイヤ「いえ。この期に及んでは別段。私が去った後にでも、花陽さんがお話しするのでしょうし」
ダイヤ「……ところで、真姫さん」
真姫「……なに?」
ダイヤ「皆川先生。今もこちらに勤務されていらっしゃいますの?」
真姫「? 何であなたが皆川先生のこと……知り合い?」
ダイヤ「妹の主治医でした」
花陽「!」
ダイヤ「5年前のカルテがまだ残っているようであれば、黒澤ルビィのカルテをご覧になるのも良いかもしれませんわね」
ダイヤ「花陽さんも興味がおありのようですし」
花陽「……何でそれをいま、私たちに話すの?」
ダイヤ「お静かにと――いえ。いいでしょう」 ダイヤ「どうせ知られてしまうことですもの。それなら、最短ルートで調べがつく方が都合が良いでしょう?」
ダイヤ「私の要求を大人しく呑んでくださっているお礼ですわ」
ダイヤ(警察へ通報されるまでの時間を稼げれば……とも思っていますが)
花陽「……着いたよ。出口」
ダイヤ「ありがとうございます」
花陽「真姫ちゃんから離れて」
ダイヤ「申し訳ありません、もうひとつ」
花陽「今度はなにっ!?」
ダイヤ「怒らないでください……大したことではありませんわ」 ダイヤ「1万円を頂けませんか。この格好では見るからに病院の脱走者でしょう? 目立ってしまいますもので」
花陽「……」ゴソゴソ
花陽「はい。1万円です」
ダイヤ「ありがとうございます。――あ。余罪に強盗が付いてしまいましたわね」
花陽「真姫ちゃんから離れて!」
ダイヤ「分かっていますとも」トンッ
花陽「真姫ちゃん、大丈夫……?」
真姫「ご、ごめんなさい花陽。何ともないわ」 ダイヤ「真姫さん。いえ、西木野先生」
真姫「……何よ。私はこれから、院長へ報告したり警察に通報したりで忙しいんだけど。あなたのせいでね」
ダイヤ「――申し訳ありませんでした」ペコッ
真姫「……はぁ?」
ダイヤ「手厚い看護と医療。誠意ある対応。様々な心配り。西木野真姫という立派なお医者様に対し、私は非礼しか働けませんでした」
ダイヤ「心より、謝罪いたしますわ」
真姫「……」
真姫「これ、持って行きなさい」ヒョイ
ダイヤ「おっと。……絆創膏?」
真姫「本当は消毒したいところだけど、消毒液は手元にないわ。それだけでも無いよりマシでしょ」 ダイヤ「……ふふっ」
ダイヤ「重ね重ね、ありがとうございますわ、先生。では、私はこれで」スタスタスタ…
ダイヤ(さて。夜通し、歩けるだけ歩きましょう。警察が私の捜査を始める……出来るだけ、ここから離れなくては)
ダイヤ(しかしもう、いつまでも逃げられるものではありませんわね。そろそろ幕引きなのでしょう)
ダイヤ(ああ――どうして今日まで生きてしまったのか。早々に命を絶っていれば、私が東京にいることもバレなかったのに)
ダイヤ(早く死に場所を探しましょう。なるべく孤独で、無意味な場所を)
ダイヤ(――でも。出来ることならば。死に場所を選ぶ権利が私にもあるのなら)
ダイヤ(潮騒の中で、死にたいですわ。あの愛する故郷に似た――) 【幕間】?月?日。西木野総合病院
真姫「……本当にごめんなさい、花陽。こんなことに巻き込むとは思ってなかったし、まさか私が人質になるなんて」
花陽「ううん。真姫ちゃんが無事でよかったよ」
真姫「あと、1万円よね。私に補填させて」
花陽「い、いいよ、これくらいなら。私もいい大人なんだし」
真姫「駄目よ。大人だからこそ。……私がヘマしなきゃあんなことにならなかったんだもの。私の責任だわ」
花陽「……そんなことない。殺人犯かもしれない人なのに、怪我したら真っ先に近づいて」
花陽「凄く立派なお医者さんだよ。そんな立派な人が友達で、私は嬉しいな」
真姫「……そ、それとお金は別でしょ」クルクル 花陽「じゃあ、今度ご飯に連れてってくれる? お米が美味しいところ」
真姫「あなた1万円分食べる気? あなたなら本当に食べそうだけど……」
花陽「それより真姫ちゃん。5年前のカルテって、私にも見せてもらえる?」
真姫「シークレットデータに決まってるデッショー」
花陽「だよね……」
真姫「まあ、まずはパ――院長へ報告しに行きましょう。……大目玉だから気は進まないけど」
真姫「花陽はさっきの病室で待っていて。携帯だって取りに行かないとでしょ」
・
・
・ 花陽「真姫ちゃん遅いなぁ。やっぱり叱られてるのかな」
真姫「――花陽。お待たせ」
花陽「あ、真姫ちゃん。――と」
真姫パパ「久しぶりだね。小泉さん」
花陽「ま、真姫ちゃんのお父さん!? ご、ごごごごご無沙汰してましゅ! 真姫ちゃんがいつもお世話に!」
真姫「あのねぇ……」
真姫パパ「ははは。相変わらずだね。けれど、畏まらなくていい。娘の10年来の友人相手だ、私の方が頭を下げたいくらいだよ」
真姫パパ「それにもう10年もそんなリアクションをされては、私個人としてもショックだからね……」
花陽「す、すみません……つい緊張してしまって」
真姫パパ「出来るだけ早く慣れてくれると嬉しいよ。10年経って言うことでもないがね」
真姫パパ「……さて。これがその、逃走した患者の爪かな」 真姫パパ「ああ、痛そうだ。若い女性の爪にしてはボロボロだね。苦労が伺えるよ」
花陽「あのぅ。真姫ちゃんのお父さんが、どうしてわざわざ? 院長さんの現場検証が必要だったりするんですか……?」
真姫パパ「いいや。小泉さんにご挨拶をと思ったのと、興味本位だよ。噂のことを私も聞きたくてね」
真姫パパ「当時、黒澤ルビィさんの周囲でいったい何があったのか」
真姫「パ――、ごほん。院長は黒澤ルビィさんのことをご存知なのですか?」
真姫パパ「今はほとんどプライベートだ。いつも通りで構わないよ、真姫」
真姫「と、友達の前でいつも通り呼べるわけないでしょ!?」
花陽「あはは……」
花陽「それで、あの。黒澤ルビィさんのことですけど」 真姫パパ「5年前、皆川先生にかかった患者だ。私も彼女のことが気になってね。よく末永先生と彼女のことを議論したものだよ」
真姫「気になった?」
真姫パパ「娘とは似ても似つかないが、赤毛のスクールアイドルと聞いてつい、ね」
真姫パパ「いや、医者としては個人に肩入れするのは良くないことなのだが」
真姫「黒澤ルビィさんは何の病気でここへ? あるいは怪我?」
真姫パパ「小泉さんの前だ、細かい話は避けるが……端的に言えば終末期患者だった。余命は1年と少しと診断された」
真姫パパ「当時、彼女は高校一年生。ちょうど真姫と小泉さんと星空さんが、μ'sだった頃と同じ年齢だね」
真姫パパ「だから何としても治したいと思ったんだ。……不純な医者だろう?」
真姫「……そんなことないわ」
真姫パパ「ありがとう」
真姫パパ「とにかく、黒澤ルビィさんには打つ手がなかった。ただ死を待つばかりという状況で地元の――静岡のホスピスに入る手続きをしていたはずだ」 真姫パパ「クリスマスの頃だった。サンタの格好で真姫をからかう算段を立てていたから、よく覚えている」
真姫「今そんな話はどうでもいいでしょ!?」
花陽「いつ見ても楽しそうだね、真姫ちゃんの家族は」ニコニコ
真姫「楽しくない!」
真姫パパ「まあ、それはさておき。……そんなある日、彼女は母親に連れられてやって来た」
真姫パパ「病気が治ってしまったので精密検査をお願いしたい、と」
真姫「治ってしまった……?」
花陽「……」 真姫「ま、待ってよ。皆川先生って、あの皆川先生でしょ。ベテランの。あの人とパパが一緒になって、自然治癒するような病気を誤診するなんて」
真姫パパ「ああ。私も目を疑ったよ。だが確かに、彼女の身体から病巣は失われていた」
真姫パパ「綺麗さっぱり。最初から病気なんてなかったかのように」
真姫「……ありえないわよ。そんなこと」
真姫パパ「私もそう思う。だがカルテは残っているよ。興味があるなら調べてみるといい」
花陽「……噂、なんですけど」
真姫パパ「やはり、この不可解な事象と関係があるんだね?」
花陽「ネットでも有名なんです。黒澤ルビィさんがしばらく、体調を崩していた時期があることは」
花陽「かなり重い病気なんじゃないか、って言われてました。本当に、命に関わる病気だったんですね」
真姫パパ「それで。その噂の続きは」 花陽「……黒澤ルビィさんの快復。沼津連続切裂き魔事件の終息。黒澤ダイヤさんの失踪」
花陽「この3つがほとんど同じタイミングなんです」
真姫「? あ、ああ。そうなのね。まぁ後ろ2つは、それはそうでしょうけど。……え、それで?」
花陽「沼津連続切裂き魔事件ってね。被害者は決まって、内臓を抜き取られてたんだって。それも、すべて心臓だけが持ち出されていたって」
花陽「宗教的な目的があったんじゃないか、って言われてる」
真姫「宗教?」
花陽「……ねぇ、真姫ちゃん。真姫ちゃんは彼女に――黒澤ダイヤさんに会ってみて、どう思った? どんな人だと思った?」
真姫「なにそれ。よく分からないけど……」
真姫「まあ、お堅い人間ね。あれは海未以上のカタブツよ。穂乃果なんか一緒にいたら呼吸できなくなるわね、絶対」
花陽「あはは……」
真姫「と言うか、首絞められておいて何だけど、あれは本当に人殺しだったのかしら」 花陽「うん。私も真姫ちゃんと同じ印象、かな。ネットの評判もだいたいそんな感じで、あの真面目な子が人殺しなんてするわけない、っていうのが擁護派の意見」
花陽「……でも私は、彼女が犯人なんだと思う。実際に会ってみて、そう思った」
真姫「それはどうして? あなたさっき、私と同意見って」
花陽「彼女はとても妹想いな人なの。すごく過保護で……えっと、シスコン気味っていうか」
花陽「妹さんのためなら、たとえ殺人さえ厭わない――黒澤ダイヤ=切裂き魔説を唱える人は、みんなそう言うよ」
花陽「そんな黒澤ダイヤさんが起こした切裂き魔事件――ううん。心臓を持ち去るという宗教的行為と、黒澤ルビィさんの快復。この2つに関連性があるんだとしたら」
真姫パパ「……医者としては、信じたくはない話だね」
真姫「ま、待ってよ。もしかして花陽、もの凄くくだらないことを言おうとしてない?」 真姫「それじゃあまるで、よく分からない怪しげな儀式のために心臓を集めて、それで黒澤ルビィさんの病気が実際に治ったみたいな……」
花陽「うん。それが、ネット上でまことしやかに語られる、沼津連続切裂き魔事件の真相――とされる噂話」
真姫「……くだらない。そんなことがあるなら、この世に医者なんていらないわよ」
真姫パパ「しかし事実、黒澤ルビィさんは全快している。その沼津連続切裂き魔事件の終息と、時を同じくして」
真姫「ちょっと。パパはこんな与太話を信じるって言うの?」
真姫パパ「にわかには信じられない。しかし確かに、黒澤ルビィさんの病気は現代の医学で太刀打ち出来るものではなかった」
真姫パパ「情けない話だが、私が保証する。――あれは奇跡や魔法でもない限り、治るものでは決してない」 真姫「……じゃあ、何よ」
真姫「彼女は妹のために10人も殺して、素人が人間の解体なんてやらかして、そのせいで5年も放浪を続けていたって言うの?」
真姫「あんな栄養状態で? あんなボロボロの格好で? あんな寂しそうな目をして?」
真姫「あんな、わざわざ人質にとった相手に頭を下げるような、馬鹿みたいに生真面目な人間が?」
花陽「私はそう思う。そうとしか、思えなくなった」
真姫「……ふん。本当に、面倒な患者ね」ツカツカツカ
真姫パパ「真姫。どこへ?」
真姫「スマホ使うの。病室じゃ、さすがにね」 真姫「花陽。彼女の所属グループ、Aqoursって言ったわね」
花陽「う、うん。どうかしたの?」
真姫「聞き覚えがある。そのAqoursに所属していた人を、1人だけ知ってるわ」
真姫「コンサート会場で会ってね。元9人のスクールアイドルグループで作曲担当で、さらに元音ノ木坂の生徒って聞いて、話が合ってね。連絡先を交換したのよ」
真姫「――桜内梨子。若くして名の知れたピアニストよ」
花陽「! す、すごい。まさか真姫ちゃんが」
真姫パパ「ああ。真姫が……」
「「初対面の相手と連絡先を交換するなんて……!」」
真姫「驚くところがおかしいわよ! 人をコミュ障みたいに言わないで!!」 ――――
――
梨子「……」ガリガリガリガリ
梨子「……」ガリガリガリガリ
〜♪
梨子「ん、……着信?」
梨子「千歌ちゃんか曜ちゃんかな……もう、〆切り近くて忙しいのに」
スマホ『西木野 真姫』〜♪
梨子「ヴェェェ!? ――って、駄目。口調うつった」
梨子「ま、真姫さんからなんて珍しい……えっと。もしもし、桜内です」
真姫『西木野真姫よ。ごめんなさい、夜分に』 真姫『いま、時間ある?』
梨子「あー……。ちょっと手短だと嬉しいですけど、どうしました?」
真姫『悪いわね、たぶん手短には終わらないわ。でも続ける』
真姫『沼津連続切裂き魔事件――覚えてる?』
梨子「!? ……覚えてます。忘れられるわけ、ないです」
真姫『そう。じゃあ、その事件と黒澤姉妹との関係について、あなたは。あなた達Aqoursはどこまで知ってるの?』
梨子「……ネットの噂でも見たんですか。すみません、その件については誰にも何も答えないようにしていますから」
真姫『私は彼女に言ったわ。患者のために最大限の努力をすることが医者の義務だって』
真姫『私はまだ、その義務を果たしてない。彼女は私の患者よ、彼女の心に根深く巣食う病を、治療しなくてはいけないの』
真姫『これはそのための努力なのよ』
梨子「いったい、何を言ってるんですか……?」 真姫『答えなさい。彼女を通報するかどうかは、それで決めるわ』
梨子「通報……? ――っ!?」
梨子「まさか。まさかそこに、……いるんですか。ダイヤさんが……!?」
真姫『……その反応。黒澤ダイヤが切裂き魔に殺害されたわけじゃないことを知っているわね』
真姫『となると失踪の理由も、あなたは知っている。それが噂の通りであることを』
梨子「――い、今すぐそちらにお伺いします、いいですか!? 西木野総合病院ですよね!?」
真姫『ごめんなさい、彼女はもういないわ。逃げられてしまった。それでいいなら来て。通報はしないでおくから』
真姫『……その罪、赦されることではないけれど、それを考えるのは私じゃないわ。私はただの医者だもの』
真姫『あなた達に、彼女の仲間たちに、すべてを任せる』
真姫『分別ある大人としては完全に間違いなんだろうけど。――懐かしいわね。スクールアイドルって、そういうものよ』 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています